JP3577722B2 - 人工融合酵素 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、人工融合酵素およびその製造方法、その人工融合酵素遺伝子、その人工融合酵素遺伝子を含むプラスミドおよび酵母内発現プラスミド、その人工融合酵素遺伝子が導入された酵母菌株に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
チトクロムP−450 は、微生物から哺乳動物にいたるまで、広く生物界に存在するヘム蛋白質であり、広範囲の脂溶性化合物を基質として、1原子酸素添加反応を触媒する。チトクロムP−450 の示すこうした広範囲な基質特異性は、チトクロムP−450 の分子多様性に起因する。すなわち、チトクロムP−450 には、多数の分子種が存在し、各々は基質特異性の幅が広く、しかも重複しており、広範囲の脂溶性化合物を基質とすることができる。しかしながら、多数のチトクロムP−450 に電子を供給する系路は共通であり、肝ミクロソームでは主として、フラビンアデニンモノヌクレオチドとフラビンモノヌクレオチドを分子内に補酵素として含有するNADPH−チトクロム P−450還元酵素がNADPH からの電子を基質を結合したチトクロムP−450 へ供給する。
一般的に肝ミクロソームにおけるNADPH−チトクロム P−450還元酵素量は充分とはいえず、NADPH−チトクロム P−450還元酵素からチトクロム P−450への電子伝達が1原子酸素添加反応の律速になるため、チトクロム P−450分子あたりの活性が低い。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、チトクロムP−450 を利用して、有用物質の酸化反応プロセス、または産業廃水中の有害物質の酸化的除去等へ実用的応用する場合、さらにチトクロムP−450 の有する1原子酸素添加反応における活性を高める必要があった。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の状況を鑑み、よりすぐれた1原子酸素添加活性を有するチトクロムP450を見い出すべく、鋭意検討を重ねた結果、ヒト肝臓由来のある種のチトクロムP450分子種をコードする塩基配列を有する遺伝子と酵母NADPH−チトクロムP450還元酵素をコードする塩基配列を有する遺伝子を接続することにより、単一の遺伝子とし、ある種のチトクロムP450の有する1原子酵素添加活性およびNADPH−チトクロムP450還元酵素の有するNADPH からの還元力供給能を同一分子内に有する人工融合酵素をコードする人工融合酵素遺伝子を構築し、この遺伝子に係る酵母内発現ベクター、さらに該酵母内発現ベクター導入酵母菌株を得て、そして酵母菌株に人工融合酵素を生産させることに成功した。生産された人工融合酵素は、単一分子内に電子伝達と基質の酸化の両機能を有しており、すぐれた性質を有する人工的な新酵素であることを確認し、本発明を完成した。
すなわち、本発明はN末端側にヒト肝チトクロムP450 3A4をコードするアミノ酸配列を有し、かつC末端側に酵母NADPH−チトクロムP450還元酵素をコードするアミノ酸配列を有する人工融合酵素およびその製造方法、その人工融合酵素遺伝子、その人工融合酵素遺伝子を含むプラスミドおよび酵母内発現プラスミド、その人工融合酵素遺伝子が導入された酵母菌株を提供するものである。
【0005】
本発明において用いられるヒト肝チトクロムP450 3A4をコードする塩基配列を有する遺伝子は、たとえば、市販のヒト肝由来のcDNAライブラリーからPCR 法等の通常の方法を用いて単離することができる。
【0006】
本発明において用いられる酵母NADPH−チトクロムP450還元酵素をコードする塩基配列を有する遺伝子は、たとえば特開昭62−19085号公報に記載される方法等により単離することができる。
【0007】
上記のヒト肝チトクロムP450 3A4をコードするヒト肝チトクロムP450 3A4をコードする塩基配列を有する遺伝子と酵母NADPH−チトクロムP450還元酵素をコードする塩基配列を有する遺伝子を通常の遺伝子操作方法により接続し、単一の遺伝子とし、ヒト肝チトクロムP450 3A4の有する1原子酵素添加活性および酵母NADPH−チトクロムP450還元酵素の有するNADPH からの還元力供給能を同一分子内に有する人工融合酵素をコードする人工融合酵素遺伝子を構築する。
【0008】
酵母内で発現させるためのプロモーターとしては、通常の酵母発現系において用いられるプロモーターであれば特に制限されるものではないが、たとえば酵母アルコール脱水素酵素遺伝子のプロモーター(以下、ADH プロモーターと記す。)、グリセルアルデヒド−3リン酸脱水素酵素 (以下、GAPDH プロモーターと記す。) 、フォスフォグリセリン酸キナーゼ (以下、PGK プロモーターと記す。) 等をあげることができる。なお、ADH プロモーターは、たとえば酵母ADH1プロモーターおよび同ターミネーターを保持する酵母発現ベクターpAAH5 〔Washington Research Fundation から入手可能、Ammerer ら、Method in Enzymology、101 part (p.192−201)〕から通常の遺伝子操作方法により調製することができる。酵母ADH1プロモーターは、Washington Research Fundation の米国特許出願第299,733 に含まれており、米国において、工業的、商業目的で使用する場合は、権利者からの権利許諾を必要とする。
【0009】
上記の酵母内で発現させるためのプロモーターおよび前記の人工融合酵素遺伝子を含む酵母内発現プラスミドは通常の遺伝子組み換え方法を用いて構築することができる。たとえば、前記の人工融合酵素遺伝子を特開平2−211880号公報等に記載されるADH プロモーターとターミネーターを保有する酵母発現ベクターpAAH5NのHind III部位に挿入することにより構築する方法等をあげることができる。こうして得られた酵母内発現プラスミドを、たとえばアルカリ金属(LiCl)を用いる方法、プロトプラスト法等の通常の方法によって酵母菌株に導入する。
【0010】
このようにして得られた酵母内発現プラスミド導入酵母菌株を培養することにより、本発明人工融合酵素を製造することができる。なお、培養は、通常の培養方法により行うことができる。
【0011】
本発明において用いられる酵母菌株としては、たとえばサッカロミセス・セレビシェー (Saccharomyces cerevisiae) 等があげることができる。好ましくはサッカロミセス・セレビシェーAH22株 (ATCC38626)、サッカロミセス・セレビシェーSHY 3株、サッカロミセス・セレビシェーNA87−11A株等をあげられる。
【0012】
このようにして製造された本発明人工融合酵素は、培養菌体から通常の方法により抽出・精製することができる。たとえば、菌体をザイモリアーゼ等の溶菌酵素で処理し、スフェロプラスト化した後、これを超音波処理、フレンチプレス、ガラスビーズを用いる機械的方法で破砕し、ミクロソーム画分を調製する。これからDEAE− セルロースカラムクロマトグラフィー等のイオン交換カラムクロマトグラフィーや酵母NADPH−チトクロムP450還元酵素部分の特性を使用した2’,5’−ADPセファロース4Bカラムクロマトグラフィー等の通常の方法により精製することができる。
【0013】
以下、実施例についてさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例になんら限定されるものではない。
【0014】
実施例1 ヒト肝チトクロムP450 3A4遺伝子の取得および酵母内発現プラスミドの構築
ヒト肝由来のcDNAライブラリー (Clontech社) から図1に示したプライマーを用いて約0.6kbと約0.9kbの2つの断片を増幅した。得られた約0.6kbの断片は、SacIで切断してpUC118ベクターにサブクローン化した。その後、EcoRI で切断、平滑化し、XbaIリンカーを導入したものに、XbaI、SacIで切断した0.9kb断片を組み込み、2つの断片を連結させた。このプラスミドをSphIで切断後、平滑化し、XbaIリンカーを導入したものからXbaI断片を切り出し、pUCANXのXbaI部位に挿入した。これをNotIで切り出し、同様にNotI処理したpAAH5N、及びpAHRR に挿入し、比較試験に用いるヒト肝チトクロムP450 3A4酵母内発現プラスミドp3A4、及び酵母NADPH−チトクロムP450還元酵素との同時発現プラスミドp3A4R を作製した (図2参照) 。
【0015】
実施例2 人工融合酵素遺伝子を含む酵母内発現プラスミドの構築
図3にしたがってプラスミドを構築した。プラスミドp3A4を鋳型とし、図1に示したプライマーを用いてXbaI−XhoI 断片を得た。また、プラスミドpBFCR1 (特願平4−209226) から得た約2.1kb のXhoI−HindIII断片を市販のベクターBlue Script(+)のXhoI、HindIII 部位に挿入した後、制限酵素XhoIおよびXbaIで同時消化し、断片を得た。これら両断片を同時に、ベクターpUCAN のXbaI部位に挿入することにより得られたプラスミドを制限酵素NotIにより消化して約5.6kbの断片を得た。この断片とベクターpAAH5N (特開平2−211880) から得た約10.5kbのNotI断片を連結することにより目的とする酵母内発現プラスミドpF3A4 を得た。該人工融合酵素は1156アミノ酸残基から成り、その構造はN末端からヒト肝チトクロムP450 3A4をコードする全アミノ酸配列(503残基) 、リンカーに由来する配列 (Ala−Arg−Ala)、酵母NADPH−チトクロムP450還元酵素N末端42番目からC末端と続いている。
【0016】
実施例3 酵母内発現プラスミドpF3A4 の酵母内への導入
1.0mlのYPD 培地 (1%酵母エキス、2%ポリペプトン、2%グルコース)にサッカロミセス・セレビシェー AH22株を植菌し、30℃で18時間振盪した後、遠心分離 (5000×g、10分間)により集菌した。得られた菌体を1.0mlの0.2M LiCl溶液に懸濁した後、再度遠心分離 (5000×g、10分間)し、得られたペレットに20μlの1M LiCl 溶液、30μlの70%ポリエチレングリコール4000 (和光純薬工業社)溶液、約1.0μgの実施例1および2において得られた各種の酵母内発現プラスミドをおのおの単独で含む10μlの溶液を添加した。これを十分に混合した後、30℃で1時間インキュベートし、さらに140 μlの滅菌水を加えて撹拌した。この溶液をSD合成培地プレート〔2.0%グルコース、0.67%窒素源アミノ酸不含(Nitrogen base w/o amino acids, Difco製) 、20μg/mlヒスチジン2.0%寒天〕上に蒔き、30℃で3日間インキュベートし、上記の酵母内発現プラスミドを保有する形質転換酵母菌株を選択した。このようにして、酵母内でヒト肝チトクロムP450 3A4を発現させる各種の酵母菌体を作製した。
【0017】
実施例4 酵母内で発現した人工融合酵素の定量
人工融合酵素を発現した酵母の培養液(SD合成培地、菌体濃度1.5×10菌体/ml) 200mlを集菌し、10mlの100mM リン酸カリウム緩衝液 (pH7.0)に懸濁した後、遠心分離 (5000×g、10分間)した。得られたペレットを新たに2.0mlの100mM リン酸カリウム緩衝液 (pH7.0)に懸濁し、2本のキュベットに1.0mlずつ分注した。サンプル側のキュベットに一酸化炭素を吹き込んだ後、両キュベット内にジチオナイト5−10mgを添加し、撹拌したち400−500nm の差スペクトルを測定し、人工融合酵素濃度を算出した。菌体あたりの人工融合酵素の発現量は約1.5×10分子であった。
【0018】
実施例5 酵母ミクロソーム画分の調製
実施例3によって作製された各種の酵母菌体おのおのの培養液(SD合成培地、菌体濃度約1.0×10菌体/ml)3.81を集菌し、該菌体を400ml の緩衝液A(10mM Tris−HCl(pH7.5), 2M ソルビトール, 0.1mM DTT, 0.2mM EDTA)に懸濁した後、160mg のザイモリエイス 100,000(Zymolyase 100T;生化学工業社))を加え、30℃で60分間インキュベートした。遠心分離 (5000×g、10分間)して得られたスフェロプラストを100ml の緩衝液Aに懸濁した後、再び遠心分離 (5000×g、10分間)した。同じ遠心分離操作をもう一度繰り返してスフェロプラストの洗浄を行った後、スフェロプラストを200ml の緩衝液 (10mM Tris−HCl (pH 7.5),0.65M ソルビトール, 0.1mM DTT) に懸濁し、該懸濁液を超音波破砕 (50w,5分間)した。遠心分離 (10,000×g、20分間)して得られた上清をさらに超遠心分離 (125,000 ×g、70分間)して、沈澱を回収した。該沈澱に0.1M のリン酸カリウム緩衝液 (pH7.4) を10ml添加し、懸濁することにより、ミクロソーム画分を得た。
【0019】
実施例6 各種の酵母内発現プラスミドを保有する形質転換酵母菌株(生菌体)におけるテストステロン水酸化活性の測定
実施例3によって作製された各種の酵母菌体(人工融合酵素発現菌株、ヒト肝チトクロムP450 3A4と酵母NADPH−チトクロムP450還元酵素との同時発現菌株、およびコントロール菌株の3種)おのおのの培養液 (SD合成培地、菌体濃度約2.0×10菌体/ml)2mlにテストステロンを終濃度0.05mMになるように添加し、30℃で15時間インキュベートした後、該反応液に4mlのジクロロメタンを加え、よく撹拌した後、遠心分離(5000 ×g、10分間)した。分離した層からジクロロメタン層を回収し、該回収物をHPLCにより分析した。以下に分析条件を示す。
1.カラム:μBondapak C18 (φ4x300mm 、ウォーターズ社)
2.溶出条件:アセトニトリル20%−70%水溶液
直線濃度勾配/25分
3.流 速:1.5ml/min
4.検 出:254nm における吸光度
その結果、人工融合酵素発現菌株およびヒト肝チトクロムP450 3A4と酵母NADPH−チトクロムP450還元酵素との同時発現菌株においてテストステロン水酸化物が検出された。また、人工融合酵素分子あたりの活性は、ヒト肝チトクロムP450 3A4と酵母NADPH−チトクロムP450還元酵素との同時発現菌株におけるヒト肝チトクロムP450 3A4分子当たりの活性の約30倍であることが判明した。
一方、公知の各種の人工融合酵素、たとえばラット肝チトクロムP450c とラットNADPH−チトクロムP450還元酵素との人工融合酵素 (DNA, Vol. 6, p31−39, 1987)、ウシ副腎P45017αと酵母NADPH−チトクロムP450還元酵素との人工融合酵素 (DNA Cell. Biol., Vol.9, p27−36, 1990) の酵母内発現において、これらの人工融合酵素分子当たりの活性は、それぞれのチトクロムP450とNADPH−チトクロム還元酵素との同時発現菌株におけるチトクロムP450分子当たりの活性の約3倍程度であった。
【0020】
【発明の効果】
本発明の人工融合酵素遺伝子が導入された酵母菌株は、ヒト肝チトクロムP450 3A4の有する1原子酸素添加反応における活性を著しく高め、有用物質の酸化反応プロセスまたは産業廃水中の有害物質の酸化的除去等へ実用的応用を可能にした。
【図面の簡単な説明】
【図1】ヒト肝チトクロムP450 3A4遺伝子クローニング用プライマーを示す図である。
【図2】ヒト肝チトクロムP450 3A4酵母内発現プラスミドp3A4、及び酵母NADPH−チトクロムP450還元酵素との同時発現プラスミドp3A4R の構築方法を示す図である。
【図3】人工融合酵素遺伝子を含む酵母内発現プラスミドpF3A4 の構築方法を示す図である。

Claims (6)

  1. 単一分子内に電子伝達と基質の酸化との両機能を有した人工的な酵素であって、
    (a)基質の酸化機能としてN末端側に、1原子酸素添加活性を付与するためのヒト肝チトクロムP450 3A4をコードする全アミノ酸配列、
    (b)電子伝達機能としてC末端側に、NADPHから前項(a)記載のヒト肝チトクロムP450 3A4への還元力供給能を付与するための酵母NADPH−チトクロムP450還元酵素のN末端42番目からC末端までのアミノ酸配列、及び、
    (c)前項(a)記載の1原子酸素添加活性を付与するためのアミノ酸配列と前項(b)記載の還元力供給能を付与するためのアミノ酸配列との結合部位に存在するリンカー由来の配列、
    を有することを特徴とする人工融合酵素。
  2. リンカー由来の配列が、 Ala-Arg-Ala であることを特徴とする請求項1記載の人工融合酵素。
  3. 請求項1又は2記載の人工融合酵素のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有することを特徴とする人工融合酵素遺伝子。
  4. 請求項記載の人工融合酵素遺伝子を含有することを特徴とするプラスミド。
  5. 酵母内で発現させるためのプロモーターおよび請求項記載の人工融合酵素遺伝子を含有することを特徴とする酵母内発現プラスミド。
  6. 請求項記載の人工融合酵素遺伝子が導入されてなることを特徴とする酵母菌株。
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