JP3576391B2 - X線ラインセンサ - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、検査対象物、例えば精密電子部品の接合部を透過したX線により得られるX線透光画像に基づいて接合部の接合状態などの検査を行うのに使用されるX線ラインセンサに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
この種の用途に用いられるX線検査装置は、図12に示すように、対象物2における接合状態などを検査すべき箇所に、X線管などのX線源1からX線3を照射して、その対象物2を透過したX線3をX線−蛍光変換部4で蛍光7に変換し、さらに、蛍光7を光電変換部8で電荷、つまり電気信号に変換して画像化する構成になっている。光電変換部8としては主としてCCDエリアセンサが用いられており、X線−蛍光変換部4としては、ガラス基板上にX線蛍光物質を塗布したものが一般に用いられている。
【0003】
図13は、X線−蛍光変換部4におけるガラス基板上に塗着したX線蛍光物質9の断面形状を示し、円形で示してるのはX線蛍光物質9の粒子9aである。X線3を照射することによりX線蛍光物質9から発生する蛍光7は、隣接する粒子9a間でのクロストークにより、互いの蛍光7が干渉し合って像がぼけたり、像の細かい部分が消失したりして、分解能の低下を引き起こす。この分解能の低下は、X線−蛍光変換部4の感度を上げることを目的としてX線蛍光物質9の膜厚を大きくすればするほど顕著にあらわれる。また、このようなX線検査装置では、センサ感度を上げることを目的としてX線−蛍光変換部4と光電変換部8との間に増幅器を設ける場合があるが、この増幅器自体が高分解能でないため、増幅器による分解能の低下が発生する。
【0004】
そこで、高感度、且つ高分解能なX線検査装置を得るために、図14に示すように、X線蛍光物質9を柱状構造に成膜したX線−蛍光変換部4が多く使用されている。このX線−蛍光変換部4は、基板10の表面に凸状部11が光電変換部8の画素に対応させた格子状の配置で形成され、この基板10の凹凸面となった表面にX線蛍光物質9を蒸着などの成膜手段により堆積させることにより、画素に対応した柱状構造を有するX線蛍光物質9が得られる。
【0005】
この柱状構造のX線蛍光物質9は、同一水平面上において隣接する凸状部11と凹状部12とに各々対応する箇所が時間的なずれをもって形成されるから、X線蛍光物質9における凸状部11と凹状部12とに各々対応する箇所の間には光学的な界面を有する。したがって、図14のX線−蛍光変換部4のX線蛍光物質9は、厚みを大きく形成して高感度を得られるようにしても、光の拡散が少ないことから分解能の低下を招かないものとなる。ここで、X線−蛍光変換部4のX線蛍光物質9の凹凸は、CCDエリアセンサからなる光電変換部8の画素に対応して形成しているので、これが検査装置自体の分解能となる。現在実用化されている分解野は25μm程度である。
【0006】
従来、画像の細かい部分を検査するために、上記の25μm以下の分解能を必要とする場合には、マイクロフォーカスX線管を用いて画像を拡大して検査している。これを、X線による画像拡大の説明図である図16(a),(b)を参照しながら説明すると、X線管1a,1bから放射状に発射されるX線3は、直進性が非常に強いため、X線管1a,1bと対象物2との距離L1を固定して、対象物2とX線−蛍光変換部4との距離L2を長く設定すると、X線−蛍光変換部4上の画像は大きなサイズとなる、つまり拡大画像となる。ところが、このとき問題となるのは、X線管1a,1bの焦点サイズによる像のぼけである。(a)の焦点サイズの大きなX線管1aおよび(b)は焦点サイズの小さなX線管1bからそれぞれ発射して検査対象物2の同一点を通ったX線3は、X線−蛍光変換部4上のΔu1,Δu2の各範囲に存在することになり、焦点サイズに大小に応じてサイズ分だけ画像がぼける。したがって、画像を良好に拡大するためには、(b)のような焦点サイズの小さいマイクロフォーカスX線管1bを使用して、画像をぼけが大きくならないように拡大する必要がある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上記のX線−蛍光変換部4では、高感度を得るために、図14に示すX線蛍光物質9の膜厚Dを100 〜500 μm程度に設定する必要があるが、このX線蛍光物質9を100 〜500 μmの膜厚に成膜するには、その成膜工程を順に示した図15(a)〜(d)のように、成膜工程を複数回繰り返しながら薄膜を重ねるように形成する必要がある。そのため、X線蛍光物質9を所定の膜厚Dに形成する成膜工程に時間がかかり過ぎ、生産性が悪いという問題がある。
【0008】
また、従来では、25μm以下の分解能が必要な精密検査を行う場合、上述のようにマイクロフォーカスX線管を用いているが、このマイクロフォーカスX線管は500 万円〜2000万円程度の非常に高価なものであり、これが設備費の増大の要因になっている。さらに、10μm 以下の画面分解能を必要する場合には、対象物2とX線−蛍光変換部4とをその距離L2が可及的に小さくなるよう近接させている。これにより、図16に示した画像ボケΔu1,Δu2がほぼゼロとなり、焦点サイズとは無関係に精密検査が可能となる。しかしながら、その場合には、図17に示すように、X線3が対象物2を透過する際に発生する散乱X線3aがX線−蛍光変換部4に入射することにより、画面分解能の低下を引き起こす。
【0009】
そこで、本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたもので、X線を高効率で蛍光に変換して高いセンサ感度を得られるとともに高分解能を有するX線ラインセンサを提供することを目的としている。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、第1の発明は、対象物を透過したX線を蛍光に変換するX線−蛍光変換部と、前記蛍光を電荷に変換して画像信号を得る撮像部とを備えたX線ラインセンサにおいて、前記撮像部は、複数の撮像素子が前記X線の入射方向に対向して直線状に配置されてなり、前記X線−蛍光変換部は、所定の溝幅の溝部が一定間隔で平行に形成された基板の表面に、X線を蛍光に変換するX線蛍光物質が所定の膜厚に成膜して形成されているとともに、前記X線蛍光物質の成膜方向が前記撮像素子の配列方向および前記X線の入射方向に対し共に直交するよう配置して前記撮像部に対設されている。
【0011】
このX線ラインセンサは、X線蛍光物質が基板における溝部を有する凹凸面上に成膜されるから、溝部上のX線蛍光物質と溝部以外の箇所のX線蛍光物質との間に光学的な界面を有する。したがって、X線−蛍光変換部は、厚みを大きく形成しても、クロストークによる分解能の低下を防止できる。また、撮像部が撮像素子を直線状に配置した構成になっているので、高い分解能を得ることを目的としてX線−蛍光変換部を検査対象物に接近して配置しても、撮像素子の配置方向以外の散乱X線の影響を除外できる。これらにより、このX線ラインセンサは高い分解能を得ることがてきる。
【0012】
また、X線蛍光物質におけるX線の入射方向の厚みは、基板の厚みそのものであって、基板の形状によって任意の大きな値に設定してX線を高い変換効率で蛍光に変換できる。しかも、X線−蛍光変換部の作製に際してのX線蛍光物質の基板に対する成膜方向は、X線の入射方向の厚みに対し垂直な方向であり、X線蛍光物質の成膜による膜厚は、少なくとも撮像素子のサイズと基板の凹凸の深さとの和の値を有する小さな値でよく、僅かな成膜時間で形成することができる。
【0013】
上記発明において、対象物を透過したX線のうちの撮像素子に対向するもの以外を遮断するX線遮蔽部材を、前記対象物とX線−蛍光変換部との間に配置し、前記撮像素子に対し垂直な方向の蛍光を集光して前記撮像素子に対し垂直に入射させる光学系からなる蛍光集光部を、前記X線−蛍光変換部と撮像部との間に配置した構成とすることが好ましい。
【0014】
これにより、X線遮蔽部材が、X線−蛍光変換部に入射させるX線を撮像素子の形状に対応するよう規制するので、撮像素子の配置方向に対し同一面上の直交方向への画像信号のクロストークを防止でき、分解能を低下を防げる。また、X線−蛍光変換部が撮像素子のサイズよりも大きな形状であっても、撮像素子に入射しない方向に向かう蛍光を蛍光集光部が集光して撮像素子に集光させるので、センサ感度が向上する。
【0015】
上記構成における光学系の蛍光集光部に代えて、光ファイバーからなる蛍光集光部を用いることもできる。これにより、光学系の蛍光集光部を用いる場合と同様に、撮像素子に入射しない方向に向かう蛍光を集光して撮像素子に集光させることができ、センサ感度が向上する。
【0016】
第2の発明は、対象物を透過したX線を蛍光に変換するX線−蛍光変換部と、前記蛍光を電荷に変換して画像信号を得る撮像部とを備えたX線ラインセンサにおいて、前記撮像部は、複数の撮像素子が直線状に配置されてなり、前記X線−蛍光変換部は、X線を蛍光に変換するX線蛍光物質と、蛍光を反射する蛍光反射物質とがそれぞれ所定の膜厚で交互に成膜されてなるとともに、前記X線蛍光物質と前記蛍光反射物質の膜厚が、前記撮像素子の配列方向の幅の1/5〜1/6であり、前記X線蛍光物質と前記蛍光反射物質の成膜方向が前記撮像素子の配列方向に対し平行で、且つ前記X線の入射方向に対し直交するよう配置して前記撮像部に対設されている。
【0017】
このX線ラインセンサは、X線の入射方向に沿ったX線蛍光物質の厚みは、成膜方向の膜厚ではなく、成膜を行う領域の一辺のサイズであり、入射X線を高効率で蛍光に変換できる大きな値に設定しても、X線蛍光物質の成膜方向の膜厚は小さいので、成膜に時間を要しない。しかも、X線−蛍光変換部の構造上から、実際に必要なサイズの数倍の大きさの領域を用いてX線蛍光物質による薄膜と蛍光反射物質による薄膜とを交互に形成し、これを切断して分割することにより、複数個のX線−蛍光変換部を同時に得ることも可能であり、その場合には1個当たりの作製時間を大幅に短縮することができる。また、X線蛍光物質の各薄膜でそれぞれ発生した蛍光は、両側の蛍光反射物質の薄膜により互いに干渉することなく撮像素子に入射されるので、高い画面分解能とセンサ感度を得ることができる。さらに、蛍光反射物質による薄膜の膜厚を撮像素子のサイズより小さくできるので、その場合には、X線−蛍光変換部を撮像素子に配列方向に対し位置合わせすることなく配置できる利点がある。
【0018】
上記発明における蛍光反射物質に代えて、X線を透過させることなく吸収するX線吸収物質を用いた構成とすることもできる。これにより、蛍光に変換できないX線をX線吸収物質が吸収するので、不要な散乱X線などを減少させて撮像部に到達するのを阻止できるので、撮像部のX線によるダメージを減少させることができる。
【0019】
第3の発明は、対象物を透過したX線を蛍光に変換するX線−蛍光変換部と、前記蛍光を電荷に変換して画像信号を得る撮像部とを備えたX線ラインセンサにおいて、前記撮像部は、複数の撮像素子が直線状に配置されてなり、前記X線−蛍光変換部は、両面が粗面である薄膜を複数層に重ねて形成されてなるとともに、その成膜方向が前記撮像素子の配列方向に対し平行で、且つ前記X線の入射方向に対し直交するよう配置して前記撮像部に対設されている。
【0020】
このX線ラインセンサは、各X線蛍光物質の薄膜が、それらの両面が粗面であることによって光学的な界面を有しているため、クロストークによる分解能の低下を防止でき、高い画面分解能を得られる。また、X線−蛍光変換部におけるX線の入射方向に沿ったX線蛍光物質の厚みは、成膜方向の膜厚ではなく、成膜を行う領域の一辺のサイズであり、この一辺のサイズは、入射X線を高い変換効率で蛍光に変換可能な大きな値に設定しても、各X線蛍光物質による薄膜の膜厚はそれぞれ小さいので、成膜に時間を要しない。
【0021】
上記の各発明において、X線−蛍光物質における撮像素子との対向面を除く面に蛍光反射膜を形成した構成とすることが好ましい。これにより、X線蛍光物質に発生した蛍光のうちの撮像素子以外の方向へ進む蛍光を、蛍光反射部で反射させて最終的に撮像素子へ向けて入射させることができるから、X線蛍光物質で発生した蛍光を無駄なく撮像素子に入射させて極めて感度の高いX線ラインセンサを得ることが可能となる。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好ましい実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0023】
〔第1の実施の形態〕
図1は本発明の第1の実施の形態に係るX線ラインセンサの要部の斜視図であり、X線−蛍光変換部13と撮像部14との位置関係を示している。また、図2(a),(b)はX線−蛍光変換部13の作製過程を示す斜視図である。X線−蛍光変換部13は、図2(a)に示すように、基板17の表面に、分解能に相当する溝幅eの溝部18と、この溝部18間に位置するレール部19とを、交互で且つ互いに平行な配置で形成され、この基板17における溝部18とレール部19とを有する凹凸面上に、図2(b)に実線で示すように、X線3が照射されると蛍光7を発するX線蛍光物質9が、蒸着またはスパッタリングなどの成膜手段により所定の膜厚dに形成されて構成されている。
【0024】
上記基板17としては、溝部18およびレール部19を微細ピッチで加工して高分解能化を達成するために、シリコン基板やガラス基板などの微細加工可能なものが適している。また、X線蛍光物質9としては、ヨウ化セシウム CsI(TI),CSI (Na) やガドリウム加工物〔GdS Tb)などの物質が用いられる。このX線−蛍光変換部13は、基板17における溝部18とレール部19とによる凹凸面上にX線蛍光物質9を成膜しているので、その基板17の凹凸に従った界面を有するX線蛍光物質9の層が形成される。この界面で互いに区画されている個々のX線蛍光物質9をX線蛍光物質エレメントと称することができる。
【0025】
撮像部14は、光電変換を行う複数の撮像素子20を直線状に配列した構成を有し、例えば、CCDラインセンサなどが用いられる。ここで、撮像素子20のサイズがこのラインセンサ自体の分解能に相当し、上記基板17の溝部18は撮像素子20のサイズに相当する溝幅eに形成されている。
【0026】
この撮像部14にX線−蛍光変換部13を組み合わせる場合、図2(b)の実線で示すように、基板17の溝部18およびレール部19上に所定の膜厚dのX線蛍光物質9を形成したX線−蛍光変換部13を、同図に2点鎖線で示すように、90°回動させて倒置した配置としたのちに、図1に示すように撮像部14に対向配置する。この配置としたことにより、X線−蛍光変換部13のX線蛍光物質9の成膜方向Uは、撮像部14の撮像素子20の配列方向Vおよび撮像部14へのX線3の入射方向Wに対して共に垂直な方向となる。このとき、X線−蛍光変換部13の溝部18とレール部19とによる凹凸の幅は各撮像素子20の幅と対応しており、X線−蛍光変換部13の凹凸を各撮像素子20に1対1に対応するよう配置してある。これにより、X線−蛍光変換部13で発生した蛍光を各撮像素子20で電気信号に変換することができる。すなわち、このX線ラインセンサでは、撮影対象物を透過してきたX線3が、X線−蛍光変換部13におけるX線蛍光物質9の凹凸のサイズに相当する分解能の光画像に変換されたのちに、そのままの分解能で撮像部14により画像信号に変換される。
【0027】
ところで、X線−蛍光変換部13において入射X線3を高効率で蛍光7に変換するためには、X線3の入射方向Wに沿ったX線蛍光物質9の厚みHが重要な要素となり、この厚みHが大きいほどX線3の吸収率が高くなって蛍光7の発光強度が強くなる。この実施形態のX線−蛍光変換部13におけるX線蛍光物質9の厚みHは、基板17の厚みHそのものであって、基板17の形状によって任意の値に設定できるものである。X線蛍光物質9の成膜方向Uは上記厚みHに垂直な方向であり、そのX線蛍光物質9の成膜による膜厚dは、少なくとも撮像素子20のサイズと基板17の凹凸の深さとの和の値に設定すればよく、例えば20〜30μm程度あればよい。したがって、僅かな成膜時間で所要の厚みHを有するX線蛍光物質9を形成することができる。これに対し従来の装置では、X線3の入射方向に沿ったX線蛍光物質9の厚みを成膜により形成しているので、膜厚が100 〜500 μm程度の成膜を行う必要があった。
【0028】
また、この実施の形態では、撮像部14は複数の撮像素子20を一列に配列した構成になっている。したがって、10μm以下の画面分解能を得ることを目的として対象物2とX線−蛍光変換部13とを可及的に近接させた場合に、X線3が対象物を通過する際に発生する散乱X線3aがX線−蛍光変換部13に入射しても、図3に示すように、撮像部14の撮像素子20への影響がなくなる。
【0029】
なお、上記実施の形態において、基板17の凹凸の幅を撮像部14の分解能のサイズよりも小さく形成するのが可能な場合には、基板17をその凹凸の幅が撮像部14の分解能のサイズに対し1/5程度になるよう設定して形成する。この基板17にX線蛍光物質9を成膜して形成したX線−蛍光変換部13は、その凹凸が撮像部14の撮像素子20に1対1に対応するよう配置する必要がなく、X線−蛍光変換部13の蛍光7が撮像素子20に入射するよう対向させて配置するだけでよい。
【0030】
〔第2の実施の形態〕
図4は本発明の第2の実施の形態に係るX線ラインセンサの要部の斜視図を示す。X線−蛍光変換部21は、X線3を蛍光7に変換するX線蛍光物質9による薄膜と、蛍光7を反射する蛍光反射物質22とによる薄膜とを交互に形成した構成になっている。X線蛍光物質9と蛍光反射物質22とによる各々の薄膜の膜厚f,gは、撮像素子20のサイズjよりも小さく、好ましくは1/5〜1/6程度に設定する。これにより、このX線−蛍光変換部21は、撮像部14に対設するに際してX線蛍光物質9と撮像素子20との位置合わせをする必要がなく、成膜方向kが撮像素子20の配列方向vに対し平行になるように配置するだけでよい。
【0031】
このX線ラインセンサは、第1の実施の形態と同様に、X線3の入射方向Wに沿ったX線蛍光物質9の厚みHは、成膜方向kの膜厚fではなく、成膜を行う領域の一辺のサイズであり、入射X線3を高効率で蛍光7に変換できる値に任意に設定することが可能である。また、X線蛍光物質9の各薄膜でそれぞれ発生した蛍光7は、両側の蛍光反射物質22の薄膜により互いに干渉することなく撮像素子20に入射されるので、高い画面分解能を得ることができる。
【0032】
なお、この実施の形態のX線ラインセンサにおけるX線−蛍光変換部21の作製に際しては、実際に必要なサイズの数倍の大きさの領域を用いてX線蛍光物質9による薄膜と蛍光反射物質22による薄膜とを交互に形成し、これを切断して分割することにより、複数個のX線−蛍光変換部21を同時に得ることが可能であるから、1個当たりの作製時間を短縮することができる。
【0033】
また、図4の構成において、蛍光反射物質22による薄膜に代えて、X線を吸収するX線吸収材の薄膜を形成してもよい。このような構成としたX線−蛍光変換部は、蛍光に変換できないX線をX線吸収材が吸収するので、不要な散乱X線3aなどを減少させて撮像部14に到達するのを阻止できるから、撮像部14のX線によるダメージを減少させることができる。
【0034】
〔第3の実施の形態〕
図5は本発明の第3の実施の形態に係るX線ラインセンサの要部の斜視図を示す。このX線ラインセンサのX線−蛍光変換部23は、X線3を蛍光7に変換するX線蛍光物質9による薄膜のみを複数層に重ねるように形成した構成になっている。図6はX線蛍光物質9の薄膜内においてX線3を変換して発生した蛍光7の光学説明図で、このX線蛍光物質9の薄膜は、その1枚の膜厚fにおける両側表面が粗面部9bに形成されて、内部9cに比較して光の透過率が低い状態になっている。このようなX線蛍光物質9の薄膜を重ねて形成していることにより、各X線蛍光物質9の薄膜の各間に粗面部9bによる光学的な界面をもつX線−蛍光変換部23となる。このX線−蛍光変換部23は、各薄膜の積層方向kが撮像素子20の配列方向vと平行になるよう配置される。
【0035】
このX線−蛍光変換部23は、各X線蛍光物質9の薄膜の各間に粗面部9bによる光学的な界面をもつこと、および各X線蛍光物質9の薄膜の膜厚fが、図5から明らかなように、撮像素子20のサイズよりも小さく設定されていることとにより、このX線ラインセンサにより得られる画像信号は撮像素子20のサイズに相当する高い画面分解能をもつ。
【0036】
また、この実施の形態のX線−蛍光変換部23においても、X線3の入射方向Wに沿ったX線蛍光物質9の厚みHは、成膜方向kの膜厚fではなく、成膜を行う領域の一辺のサイズであり、この一辺のサイズは、入射X線3を高い変換効率で蛍光7に変換できる任意の値に設定することが可能である。したがって、この実施の形態のX線ラインセンサにおいても、高分解能の画像を得られるだけでなく、X線3の蛍光7への変換効率を高くすることができる。
【0037】
〔第4の実施の形態〕
図7(a)は本発明の第4の実施の形態に係るX線ラインセンサにおけるX線−蛍光変換部24の斜視図、同図(b)は(a)のA−A線断面図をそれぞれ示す。このX線−蛍光変換部24は、第1の実施の形態で示したX線−蛍光変換部13と同一構成における2面に、アルミニウムなどの金属の膜を蒸着またはスパッタリングなどにより成膜することにより、蛍光反射部27が形成されている。
【0038】
この蛍光反射部27は、撮像部14との対向面を除く5面の全てに形成してもよい。また、第2および第3の実施の形態で示したX線−蛍光変換部21,23と同一構成の各6面のうちの撮像部14との対向面を除く面に蛍光反射部27を形成した構成としてもよい。
【0039】
このX線−蛍光反射部27は、X線3の照射によりX線蛍光物質9に発生した蛍光7のうちの撮像素子20以外の方向へ進む蛍光7を、蛍光反射部27で反射させて最終的に撮像素子20へ向けて入射させる。そのため、X線蛍光物質9で発生した蛍光7を無駄なく撮像素子20に入射させることができので、極めてセンサ感度の高いX線ラインセンサを得ることが可能となる。
【0040】
〔第5の実施の形態〕
図8は本発明の第5の実施の形態に係るX線ラインセンサを示す斜視図、図9は図8のB−B線断面図である。このX線ラインセンサは、第1の実施の形態で示したと同一のX線−蛍光変換部13および撮像部14の他に、X線遮蔽部材28と蛍光集光部29とを備えている。X線遮蔽部材28は、撮像部14の全ての撮像素子20を包含できる形状を有するX線通過孔30が板状体に穿孔されており、X線通過孔30が各撮像素子20に対応するよう位置決めして設置されている。蛍光集光部29は、X線−蛍光変換部13からの蛍光7を各撮像素子20に対し上方から垂直に入射するように集光する光学素子である。
【0041】
つぎに、このX線ラインセンサの作用について説明する。対象物2を透過したX線3のうちのX線遮蔽部材28のX線通過孔30を通過したもののみがX線−蛍光変換部13に照射され、それ以外のX線3はX線遮蔽部材28で遮蔽されてX線−蛍光変換部13への照射を阻止される。したがって、X線−蛍光変換部13のX線蛍光物質9には、全ての撮像素子20に対向する平面上の面積に対応する箇所にのみX線3が照射される。この照射されたX線3はX線−蛍光変換部13によって蛍光7に変換されるが、この蛍光7の進む方向は定まっておらず、あらゆる方向に進む。通常は、発生した蛍光7のうちの撮像素子20に入射したものだけが画像信号に変換されるが、その変換される蛍光7はX線−蛍光変換部13で発生した蛍光7の一部であり、その他の蛍光7はセンサ感度に寄与することなく消失してしまう。先の第4の実施の形態で示した蛍光反射部27を有するX線−蛍光変換部24は、蛍光7が撮像素子20に入射せずに消失するのを防止できるものであるが、蛍光7の消失を完全に防止できない。この点について、以下に説明する。
【0042】
図10は、X線−蛍光変換部13と撮像素子20との位置関係をX線源1から見た概略平面図である。基板17に形成されたX線蛍光物質9の層は、基板17の溝部18とレール部19とからなる凹凸形状がそのまま反映した形状になっている。これに対して撮像素子20は直線状に配置されているため、X線源1側から見てX線蛍光物質9が撮像素子20上を完全にカバーするためには、撮像素子20の膜厚dが少なくとも撮像素子20のサイズと基板17の溝部18の深さの和に設定されている必要がある。したがって、基板17のレール部19上に成膜されたX線蛍光物質9の先端部分は撮像素子20に対しはみ出した状態で対向することになり、このX線蛍光物質9の部分から発光する蛍光7はセンサ感度に寄与できないことになる。そこで、図9に示すように、蛍光集光部29は、撮像素子20に入射しない方向に向かう蛍光7を集光して撮像素子20に集光させることにより、センサ感度を向上させる。
【0043】
一方、X線遮蔽部材28は、X線−蛍光変換部13に入射させるX線3を撮像素子20の形状に対応するよう規制することにより、撮像素子20の配置方向vに対し直交方向への画像信号のクロストークを防止して、分解能の低下を防止するよう機能する。これらにより、このX線ラインセンサは、X線−蛍光変換部13から発光した蛍光7を効率よく電気信号に変換することができるから、高感度となる。なお、この実施の形態において、第4の実施の形態で示したX線−蛍光変換部24を用いれば、センサ感度をさらに向上させることができる。
【0044】
〔第6の実施の形態〕
図11は本発明の第6の実施の形態に係るX線ラインセンサを示す縦断面図である。このX線ラインセンサは、第5の実施の形態のX線ラインセンサにおける光学系からなる蛍光集光部29に代えて、光ファイバー32からなる蛍光集光部31を用いてX線−蛍光変換部13からの蛍光7を撮像素子20上に結像させるようにしたものである。このX線ラインセンサにおいても、X線−蛍光変換部13から発光した蛍光7を効率よく電気信号に変換することができるから、高感度となる。
【0045】
【発明の効果】
以上のように本発明のX線ラインセンサによれば、X線蛍光物質が光学的な界面を有する形状に形成されたX線−蛍光変換部を備えているので、高感度を得ることを目的としてX線蛍光物質の厚みを大きく形成しながらもクロストークによる分解能の低下を防止できる。また、X線蛍光物質におけるX線の入射方向の厚みを、成膜方向とは異なる方向に設定するようにしたので、X線を高い変換効率で蛍光に変換できる構成としながらも、X線蛍光物質を僅かな成膜時間で形成することができる。撮像部が撮像素子を直線状に配置した構成になっているので、高い分解能を得ることを目的としてX線−蛍光変換部を検査対象物に接近して配置しても、撮像素子の配置方向以外の散乱X線の影響を除外できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るX線ラインセンサを示す要部の斜視図。
【図2】(a),(b)は同上ラインセンサにおけるX線−蛍光変換部の作製過程を工程順に示す斜視図。
【図3】同上ラインセンサの光学説明図。
【図4】本発明の第2の実施の形態に係るX線ラインセンサを示す要部の斜視図。
【図5】本発明の第3の実施の形態に係るX線ラインセンサを示す要部の斜視図。
【図6】同上ラインセンサの光学説明図。
【図7】(a)は本発明の第4の実施の形態に係るX線ラインセンサにおけるX線−蛍光変換部の斜視部、(b)は(a)のA−A線断面部。
【図8】本発明の第5の実施の形態に係るX線ラインセンサを示す斜視図。
【図9】図8のB−B線断面図。
【図10】同上ラインセンサにおけるX線−蛍光変換部と撮像素子との位置関係を示す平面図。
【図11】本発明の第6の実施の形態に係るX線ラインセンサの縦断面図。
【図12】本発明の対象となるX線検査装置の全体構成を示すブロック構成図。
【図13】X線蛍光物質内での分解能の低下の発生を示す光学説明図。
【図14】従来のX線検査装置におけるX線−蛍光変換部の斜視図。
【図15】(a)〜(d)は同上X線−蛍光変換部の作製過程を工程順に示した縦断面図。
【図16】X線画像の拡大の光学説明図。
【図17】従来のX線検査装置の光学説明図。
【符号の説明】
2 対象物
3 X線
7 蛍光
9 X線蛍光物質
13 X線−蛍光変換部
14 撮像部
17 基板
18 溝部
20 撮像素子
21 X線−蛍光変換部
22 蛍光反射物質
24 X線−蛍光変換部
27 蛍光反射部
28 X線遮蔽部材
29,31 蛍光集光部
32 光ファイバ−
u 成膜方向
v 配列方向
w 入射方向
e 溝幅

Claims (7)

  1. 対象物を透過したX線を蛍光に変換するX線−蛍光変換部と、前記蛍光を電荷に変換して画像信号を得る撮像部とを備えたX線ラインセンサにおいて、
    前記撮像部は、複数の撮像素子が前記X線の入射方向に対向して直線状に配置されてなり、
    前記X線−蛍光変換部は、所定の溝幅の溝部が一定間隔で平行に形成された基板の表面に、X線を蛍光に変換するX線蛍光物質が所定の膜厚に成膜して形成されているとともに、前記X線蛍光物質の成膜方向が前記撮像素子の配列方向および前記X線の入射方向に対し共に直交するよう配置して前記撮像部に対設されていることを特徴とするX線ラインセンサ。
  2. 対象物を透過したX線のうちの撮像素子に対向するもの以外を遮断するX線遮蔽部材を、前記対象物とX線−蛍光変換部との間に配置し、前記撮像素子に対し垂直な方向の蛍光を集光して前記撮像素子に対し垂直に入射させる光学系からなる蛍光集光部を、前記X線−蛍光変換部と撮像部との間に配置した請求項1に記載のX線ラインセンサ。
  3. 光学系の蛍光集光部に代えて、光ファイバーからなる蛍光集光部を用いた請求項2に記載のX線ラインセンサ。
  4. 対象物を透過したX線を蛍光に変換するX線−蛍光変換部と、前記蛍光を電荷に変換して画像信号を得る撮像部とを備えたX線ラインセンサにおいて、
    前記撮像部は、複数の撮像素子が直線状に配置されてなり、
    前記X線−蛍光変換部は、X線を蛍光に変換するX線蛍光物質と、蛍光を反射する蛍光反射物質とがそれぞれ所定の膜厚で交互に成膜されてなるとともに、前記X線蛍光物質と前記蛍光反射物質の膜厚が、前記撮像素子の配列方向の幅の1/5〜1/6であり、前記X線蛍光物質と前記蛍光反射物質の成膜方向が前記撮像素子の配列方向に対し平行で、且つ前記X線の入射方向に対し直交するよう配置して前記撮像部に対設されていることを特徴とするX線ラインセンサ。
  5. 蛍光反射物質に代えて、X線を透過させることなく吸収するX線吸収物質を用いた請求項4に記載のX線ラインセンサ。
  6. 対象物を透過したX線を蛍光に変換するX線−蛍光変換部と、前記蛍光を電荷に変換して画像信号を得る撮像部とを備えたX線ラインセンサにおいて、
    前記撮像部は、複数の撮像素子が直線状に配置されてなり、
    前記X線−蛍光変換部は、両面が粗面である薄膜を複数層に重ねて形成されてなるとともに、その成膜方向が前記撮像素子の配列方向に対し平行で、且つ前記X線の入射方向に対し直交するよう配置して前記撮像部に対設されていることを特徴とするX線ラインセンサ。
  7. X線−蛍光変換部における撮像素子との対向面を除く面に蛍光反射膜が形成されている請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のX線ラインセンサ。
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