JP3575989B2 - 画像動き補正装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、撮像装置の手振れ補正を行う画像動き補正装置に関し、特に撮像光学系の焦点距離に係わらず安定な手振れ補正を行うものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、民生用ビデオカメラ(以下、ビデオムービー又は撮像装置という)の小型化、軽量化、光学ズームの高倍率化が進み、その使い勝手が格段に向上した。このため、一般使用者にとってビデオムービーはごく普通の機器の一つとなっている。しかしその反面、小型化、軽量化、光学ズームの高倍率化は、撮影に習熟していないビデオムービーの使用者にとっては、撮影時に手振れが生じると、画面が安定しなくなるという原因になっていた。よって、このようなトラブルを少なくするため、画像動き補正装置を搭載するビデオムービーが多く開発され、既に商品化されている。
【0003】
撮像装置の画像動き補正装置としては、例えば特開平5−66450号公報では、変倍光学群又は焦点調節群を有する結像光学系に対して、その光軸を偏芯又は傾動させる補正光学機構を設けたものが提案がなされている。この補正光学機構では、図16に示すような第1〜第4のレンズ群211〜214からなる結像光学系において、その一部のレンズを例えば図17に示すようなスライド軸215,216を介して光軸に垂直な上下左右方向に移動可能にする機構が組み込まれている。そしてコイルとマグネットによる電磁アクチェータを駆動することにより、結像光学系の光軸を偏芯させたり、傾動させている。
【0004】
このような従来例の構成では、撮影時の手振れに応じて電磁アクチェータを駆動し、スライド軸215,216をガイドとしてスライド部分を移動させる。こうすると、撮像装置の手振れによる画像の乱れを補正することができる。更に上記の補正光学機構では、結像光学系の振れ角変位θ、補正光学系の変位量dL、及び像移動量(変位量)dIMの関係が説明されている。これによると、撮像光学系の焦点距離をfとし、撮影倍率をβとすると、結像光学系が前側主点を中心にθ[rad] の角度振れを生じたときの像移動量をdIMとすると、dIMは次の(1)式のようになる。
dIM=f(1+β)・θ ・・・(1)
一方、補正光学系の変位量dLに対する像の変位量dIMの比を偏芯敏感度Sdと呼ぶと、dIMは次の(2)式で表現できる。
dIM=Sd・dL ・・・(2)
そして偏芯敏感度Sdは焦点距離fと撮影倍率βの関数なので、Sdを次の(3)式で表現する。
Sd=Sd(f,β) ・・・(3)
(1)式〜(3)式を用いて振れ角変位θを表すと、次の(4)式のようになる。
θ={Sd(f,β)・dL}/{f・(1+β)} ・・・(4)
【0005】
(4)式において、ズーミング又はフォーカシングにより「f」、「(1+β)」、「Sd(f,β)」の値は変化する。一般にズーミングによるSd(f,β)の変化は、焦点距離fの変化率より小さいため、振れ補正範囲がテレ端(望遠端)よりワイド端(広角端)で大きくなる。
【0006】
そのために、補正光学系のレンズの移動量が一定でも、結像光学系の焦点距離に応じて振れ補正可能角度が変わる。例えば望遠側に対し、広角側の方が振れ補正可能角度が大きくなる。また焦点距離により像振れ補正範囲を制限し、広角側での補正範囲が大きくなりすぎないようにしたり、振れ補正範囲が収差の大きな部分までも含まないような工夫がなされている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記従来例においては以下のような問題点が存在する。即ち、撮影時の手振れによる撮像装置の振れ角は、撮像光学系の焦点距離によらないため、振れ補正に必要な補正角度も撮像光学系の焦点距離に関わらず、その必要補正角度はほぼ一定となる。そこで、撮像光学系の焦点距離に応じて振れ補正可能角度が変わるということは、撮像光学系の広角端から望遠端までのすべてのズーム倍率範囲内で同等程度の補正角度を保とうとした場合、振れ補正用レンズ移動量を焦点距離に応じて変化させる必要があり、その移動量は広角端ほど小さくしなければならない。言い換えれば、広角端ではレンズを小さな振幅で移動させることが必要となる。
【0008】
広角端近傍ではレンズ移動量が望遠端に比べ小さくなるため、上記の例のようにレンズ移動をスライド軸上で行う場合、スライド軸と軸受との摺動負荷や、アクチェータに電力を供給するための配線による配線負荷の影響を受けやすくなる。このような負荷の影響の増大は、機構部の動作特性を悪化させる方向に働く。よって上記の例のような構成においては、機構部の動作特性の悪化から、焦点距離が短い広角端近傍で振れ補正性能が劣化する恐れがあった。
【0009】
本発明は、このような従来の問題点に鑑みてなされたものであって、振れ補正のためのレンズ移動量が撮像光学系の焦点距離に依存し、且つその焦点距離が短いほどレンズ移動量が小さくなるような振れ補正光学系を有する振れ補正装置において、レンズ移動量が小さい場合でも、精度よく振れ補正を行うことができる画像動き補正装置を実現することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
このような課題を解決するために本願の請求項1の発明は、手振れ及びその他の振動による撮像装置の動きを検出する動き検出手段と、前記撮像装置に設けられ、少なくとも変倍部又は焦点調節部を含む複数のレンズ群を有し、被写体を撮像面に結像する撮像光学系と、前記撮像光学系の焦点距離を検出する焦点距離検出手段と、撮像装置の動きに起因して発生する撮影画像の動きを補正するため、前記撮像光学系において前記変倍部に対し撮像面側に配置された補正光学系を、光軸と直交する面内で移動することにより撮像光の光軸を制御する動き補正手段と、前記動き検出手段の出力に基づき前記動き補正手段に対して制御信号を発生する制御信号発生手段と、を具備し、前記制御信号発生手段は、前記動き検出手段の出力に含まれる低周波成分を除去する高域通過フィルタ処理を有し、前記焦点距離検出手段で検出された焦点距離に基づき、前記高域通過フィルタ処理のカットオフ周波数を変えることで前記制御信号発生手段の応答特性を変化させることを特徴とするものである。
【0011】
本願の請求項2の発明は、請求項1の画像動き補正装置において、前記制御信号発生手段は、前記焦点距離が長いほど前記高域通過フィルタ処理のカットオフ周波数を高く設定し、前記焦点距離が短いほど前記高域通過フィルタ処理のカットオフ周波数を低く設定することを特徴とするものである。
【0012】
本願の請求項3の発明は、手振れ及びその他の振動による撮像装置の動きを検出する動き検出手段と、前記撮像装置に設けられ、少なくとも変倍部又は焦点調節部を含む複数のレンズ群を有し、被写体を撮像面に結像する撮像光学系と、前記撮像光学系の焦点距離を検出する焦点距離検出手段と、撮像装置の動きに起因して発生する撮影画像の動きを補正するため、前記撮像光学系において前記変倍部に対し撮像面側に配置された補正光学系を、光軸と直交する面内で移動することにより撮像光の光軸を制御する動き補正手段と、前記動き検出手段の出力に基づき前記動き補正手段に対して制御信号を発生する制御信号発生手段と、を具備し、前記制御信号発生手段は、前記動き検出手段の出力に含まれる高周波成分を除去する低域通過フィルタ処理を有し、前記焦点距離検出手段で検出された焦点距離に基づき、前記低域通過フィルタ処理のカットオフ周波数を変えることで前記制御信号発生手段の応答特性を変化させることを特徴とするものである。
【0013】
本願の請求項4の発明は、請求項3の画像動き補正装置において、前記制御信号発生手段は、前記焦点距離が長いほど前記低域通過フィルタ処理のカットオフ周波数を高く設定し、前記焦点距離が短いほど前記低域通過フィルタ処理のカットオフ周波数を低く設定することを特徴とするものである。
【0014】
本願の請求項5の発明は、手振れ及びその他の振動による撮像装置の動きを検出する動き検出手段と、前記撮像装置に設けられ、少なくとも変倍部又は焦点調節部を含む複数のレンズ群を有し、被写体を撮像面に結像する撮像光学系と、前記撮像光学系の焦点距離を検出する焦点距離検出手段と、撮像装置の動きに起因して発生する撮影画像の動きを補正するため、前記撮像光学系において前記変倍部に対し撮像面側に配置された補正光学系を、光軸と直交する面内で移動することにより撮像光の光軸を制御する動き補正手段と、前記動き検出手段の出力に基づき前記動き補正手段に対して制御信号を発生する制御信号発生手段と、を具備し、前記制御信号発生手段は、前記動き検出手段の出力に積分処理を施す積分手段を有し、前記焦点距離に基づき前記積分手段の時定数を変えることで前記制御信号発生手段の応答特性を変化させることを特徴とするものである。
【0015】
本願の請求項6の発明は、請求項5の画像動き補正装置において、前記制御信号発生手段は、前記焦点距離が短いほど前記積分処理の時定数を小さく設定し、前記焦点距離が長いほど前記積分処理の時定数を大きく設定することを特徴とするものである。
【0016】
本願の請求項7の発明は、手振れ及びその他の振動による撮像装置の動きを検出する動き検出手段と、前記撮像装置に設けられ、少なくとも変倍部又は焦点調節部を含む複数のレンズ群を有し、被写体を撮像面に結像する撮像光学系と、前記撮像光学系の焦点距離を検出する焦点距離検出手段と、撮像装置の動きに起因して発生する撮影画像の動きを補正するため、前記撮像光学系において前記変倍部に対し撮像面側に配置された補正光学系を、光軸と直交する面内で移動することにより撮像光の光軸を制御する動き補正手段と、前記動き検出手段の出力に基づき前記動き補正手段に対して制御信号を発生する制御信号発生手段と、を具備し、前記制御信号発生手段は、前記動き検出手段の出力の位相遅れを補償する位相補償フィルタ処理を有し、前記焦点距離検出手段で検出された焦点距離に基づき、前記位相補償フィルタ処理の位相特性を変えることで前記制御信号発生手段の応答特性を変化させることを特徴とするものである。
【0017】
本願の請求項8の発明は、請求項7記載の画像動き補正装置において、前記制御信号発生手段は、前記焦点距離が短いほど前記位相補償フィルタ処理により位相を進ませる周波数域を低く設定することを特徴とするものである。
【0023】
本願の請求項9の発明は、請求項1〜8のいずれか一項記載の画像動き補正装置において、前記動き検出手段は、前記撮像装置自体の角速度を検出する角速度センサであることを特徴とするものである。
【0024】
本願の請求項10の発明は、請求項1〜8のいずれか一項記載の画像動き補正装置において、前記動き検出手段は、撮影画像から画像の動きベクトルを検出する動きベクトル検出手段であることを特徴とするものである。
【0025】
本願の請求項11の発明は、請求項1〜8のいずれか一項記載の画像動き補正装置において、前記制御信号発生手段は、所定のプログラムにより一連の信号処理を実行するマイクロコンピュータであることを特徴とするものである。
【0026】
【発明の実施の形態】
(実施の形態1)
本発明の実施の形態1における画像動き補正装置について図面を参照しつつ説明する。図1は本実施の形態の画像動き補正装置の全体構成を示すブロック図である。同図において撮像光学系1は、4つのレンズ群L1,L2,L3,L4からなる撮像光学系であり、レンズ群L2が光軸方向に移動することで変倍動作(ズーミング)を行い、レンズ群L4が光軸方向に移動することで合焦動作(フォーカシング)を行う。またレンズ群L3は、レンズ群L2よりも像面側に配置された2つのレンズ群L31、L32からなる。補正光学系であるレンズ群L32が、光軸に直交する面内で移動することで、光軸を偏芯させ、画像の動きを補正する働きをする。なお、本実施の形態1における補正光学系は、図16に示した従来例の構成と同様に、補正光学系のレンズ移動量が一定でも、撮像光学系1の焦点距離に応じて振れ補正角度が変化するものとする。
【0027】
L32レンズ群駆動制御手段2は、振れ補正用レンズであるレンズ群L32を駆動及び制御する制御手段であり、撮像光学系1の光軸に直交する平面内で、レンズ群L32を上下左右に移動させる。移動量検出手段3はレンズ群L32の実際の移動量を検出する検出手段であり、L32レンズ群駆動制御手段2と共にレンズ群L32を駆動制御するための帰還制御ループを形成している。このようにレンズ群L32とL32レンズ群駆動制御手段2とは、撮像光の光軸を制御する動き補正手段を構成している。
【0028】
撮像光学系駆動制御手段4は、撮像光学系1中のレンズ群L2、L4を駆動制御し、ズーミング及び合焦動作を行うと共に、撮像光学系1の焦点距離情報を出力する焦点距離検出手段の機能も有している。A/D変換手段5は、撮像光学系駆動制御手段4から出力される撮像光学系1の焦点距離情報をデジタル信号に変換し、マイクロコンピュータ15に与える変換手段である。
【0029】
固体撮像素子6は、撮像光学系1を介して入射する映像を電気信号に変換する撮像素子である。アナログ信号処理手段7は、固体撮像素子6により得られた映像信号に対し、ガンマ処理等のアナログ信号処理を施す処理手段である。A/D変換手段8は、アナログ信号処理手段7から出力されたアナログの映像信号をデジタルの映像信号に変換する変換手段である。デジタル信号処理手段9は、A/D変換手段8によりデジタル信号に変換された映像信号に対して、ノイズ除去や輪郭強調等のデジタル信号処理を施す信号処理手段である。
【0030】
角速度センサ10は、撮像光学系1を含む撮像装置自体の動きを検出するためのセンサであり、撮像装置が静止している状態での出力を基準に、撮像装置の動きの方向により正負両方向の角速度信号を出力する。角速度センサ10は、ヨーイング及びピッチングの2方向の動きを検出するセンサであり、2組設けられている。図1では1方向分のみを図示する。このように角速度センサ10は、手振れ及びその他の振動による撮像装置の動きを検出する動き検出手段の機能を有している。
【0031】
HPF11は角速度センサ10の出力に含まれる不要帯域成分中の直流ドリフト成分を除去する高域通過フィルタである。LPF12は角速度センサ10の出力に含まれる不要帯域成分中のセンサの共振周波数成分や、ノイズ成分を除去する低域通過フィルタである。アンプ13は、角速度センサ10の出力の信号レベルの調整を行う回路である。A/D変換手段14はアンプ13の出力信号をデジタル信号に変換する変換手段であり、その出力はマイクロコンピュータ15に与えられる。
【0032】
マイクロコンピュ−タ15は、A/D変換手段14を介して取り込んだ角速度センサ10の出力信号に対し、フィルタリング、積分処理、位相補償、ゲイン調整、クリップ処理等を施し、動き補正に必要なレンズ群L32の駆動制御量(以下、制御信号という)を求める制御信号発生手段である。この制御信号はD/A変換手段16を介してL32レンズ群駆動制御手段2に出力される。L32レンズ群駆動制御手段2は制御信号に基づきレンズ群L32を駆動することで、画像の動きを補正する。固体撮像素子駆動制御手段17は固体撮像素子6を駆動及び制御するための制御手段である。
【0033】
図2は、レンズ群L32を撮像光学系1内で光軸に直交する方向に駆動制御する振れ補正光学機構の一例を示した斜視図である。本図において、レンズ群21は、振れ補正用レンズとして動作するレンズ群L32である。主軸22、23は、レンズ群21を含む可動部分を夫々ピッチ方向及びヨー方向に移動させるためのスライド軸である。回り止め24は、レンズ群21の片方をピッチ方向に摺動自在に保持すると共に、レンズ群21の回転を防止する軸である。マグネット25はヨーク27と共に磁気回路を構成し、コイル29に対して磁束を与え、ピッチ方向に電磁力を与える作用をする。同様に、マグネット26はヨーク28と共に磁気回路を構成し、コイル30に対して磁束を与え、ヨー方向に電磁力を与える作用をする。マグネット25,26、ヨーク27,28、コイル29,30は、可動部を駆動する電磁アクチェータを構成している。
【0034】
PSD31、32は投光ビームの位置を検出する半導体位置検出素子である。LED33、34は光りビームをPSDに投光する赤外発光ダイオードである。PSD31とLED33は、可動部のピッチ方向の位置検出を行い、図1の移動量検出手段3の機能を有している。同様にPSD32とLED34は、可動部のヨー方向の位置検出をする移動量検出手段の機能を有している。
【0035】
以上のように構成された画像動き補正装置の動作について説明する。図3はマイクロコンピュータ15に格納された処理プログラムのフローチャートである。図示しない手振れ補正スイッチをオンにすると、図3に示した一連の処理が開始される。なお、1回の処理ループはマイクロコンピュータ15に内蔵されたタイマーにより一定周期で割り込みがかけられ、その割り込み毎、例えば1msec毎にループ処理が実行されるものとする。
【0036】
まず手振れ補正スイッチがオンになると、ステップ101においてフィルタリング、積分処理、位相補償、ゲイン調整、クリップ処理で用いる設定値を初期値に設定する。尚、マイクロコンピュータ15のフィルタリングとは、低域遮断処理(以下、HPF処理という)と、高域遮断処理(以下、LPF処理という)を意味し、その伝達関数が撮像光学系1の焦点距離に応じて設定されることが図1のHPF11とLPF12の機能と異なる。即ち、ステップ101では、HPF処理とLPF処理に対して夫々のカットオフ周波数を初期値に設定し、積分定数、位相補償帯域、ゲイン、クリップ値を初期値に設定する。
【0037】
タイマーによる割り込みがかかると、まずステップ102により角速度センサ10の出力、つまり撮像装置の動きを角速度としてマイクロコンピュータ15が取り込む。この際、A/D変換手段14が角速度センサ10の出力をデジタル信号に変換する周期は、マイクロコンピュータ15の1回の処理周期に同期させる。続いてステップ103においては、撮像光学系駆動制御手段4により撮像光学系1の焦点距離を検出する。ステップ104では、ステップ103で検出された焦点距離に応じてステップ105で用いるHPF処理のカットオフ周波数を決定する。
【0038】
ステップ105では、角速度センサ10の出力に対してHPF処理により帯域制限を行う。本ステップのHPF処理は、角速度センサ10の出力に含まれる温度ドリフトのような低周波の不要信号成分を除去するものである。このHPF処理における伝達関数は、(1−Z−1)/(1−a・Z−1)で表される1次フィルタの特性を有している。ステップ101又はステップ104で設定されたカットオフ周波数に応じて、このフィルタ係数a(0<a<1)を変更し、フィルタの通過帯域(カットオフ周波数)を変える。
【0039】
ステップ106では、ステップ105による低域除去後の角速度センサ10の出力に対し、LPF処理により帯域制限を行う。本ステップのLPF処理は、角速度センサ10の出力に含まれる高周波ノイズのような不要信号成分を除去するものである。このLPF処理における伝達関数は、(1+Z−1)/(1−b・Z−1)で表される1次フィルタの特性を有している。ステップ101で設定されたカットオフ周波数に応じて、このフィルタ係数b(0<b<1)を変更し、フィルタの通過帯域(カットオフ周波数)を変える。
【0040】
ステップ107では、ステップ106によるフィルタリング後の角速度センサ10の出力に対して積分処理を行い、角速度から角度を求める。本ステップの処理における伝達関数は、1/(1−K・Z−1)の特性を有するものとする。尚、Kは積分定数であり、0<K<1とする。この積分定数Kの値を変更することで、積分処理の時定数を操作することができる。
【0041】
ステップ108では、ステップ107を経た信号の位相特性を改善する。この処理は、角速度センサ10の出力に対して、HPF11、LPF12、ステップ105及びステップ106による各種フィルタリング処理による信号の位相変化を新たに調整するためのものである。ここでの位相補償は、伝達関数が(c−d・Z−1)/(e−g・Z−1)の特性を用いたものであり、係数c、d、e、gを変更することで、位相補償帯域を変更できる。
【0042】
ステップ109では、ステップ107で角速度センサ10の出力から求められた撮像装置の動きの角度情報に対してゲイン調整を行う。ステップ110では、マイクロコンピュータ15からL32レンズ群駆動制御手段2に送られる制御信号が、レンズ群L32による動き補正範囲を超える補正量を指示することがないようにクリップ処理を行う。クリップ処理後のデータはD/A変換手段16によりアナログ信号に変換され、L32レンズ群駆動制御手段2に出力される。
【0043】
以上のような信号処理において、角速度センサによる角速度検出とレンズ群L32の駆動制御等の一連の動作は、水平及び垂直の両方向に対してなされるが、水平及び垂直両方向ともその内容は同一である。
【0044】
前述したように撮影時の手振れによる撮像装置の振れ角は、撮像光学系1の焦点距離には依存しない。よって振れ補正時の補正角度は撮像光学系1の焦点距離に関係せず、その必要補正角度はほぼ一定となる。しかし、振れ補正用レンズ(レンズ群L32)のレンズ移動量に対する振れ補正可能角度が焦点距離に応じて変わるため、撮像光学系1の広角端から望遠端までのすべてのズーム倍率範囲内で同等程度の補正角度を保とうとした場合、振れ補正用レンズ(L32)の移動量を、撮像光学系の焦点距離に応じて変化させる必要がある。その移動量は広角端ほど小さくしなければならない。つまり撮像光学系1の焦点距離が望遠端で、ある一定の補正角度を確保するためのレンズ群L32の移動量をDtとすると、撮像光学系1を広角側に移動した場合、同じ補正角度を得るために必要なレンズ群L32の移動量はDtよりも小さくなる。この場合のレンズ群L32を移動させる機構部は、スライド軸と軸受けとの摩擦、及び電磁アクチェータのコイル等の配線の負荷の影響が大きくなり、制御特性が劣化する。具体的には周波数特性上で、負荷による機構部の位相遅れが顕著となる。これにより手振れ抑圧性能が劣化する。
【0045】
図4及び図5は、図2に示した構成でスライド機構による可動部の移動振幅を変えて周波数特性(閉ループ特性)を測定した例である。図4は移動振幅を±1mm程度とし、図5は移動振幅を0.1mm程度として測定したものである。移動振幅が小さい場合、図5に示されるように10Hzで約10°程度の位相遅れが発生することが判る。
【0046】
そこで、撮像光学系1の焦点距離が短く、レンズ群L32の移動量が小さい場合に現れる機構部の位相遅れを補償するために、マイクロコンピュータ15は信号処理に際して発生する位相遅れ要因を減じ、系全体での位相特性を改善する。このような機構部で発生する位相遅れ分を補償するための措置として、角速度センサ10の出力に対し、HPF処理のカットオフ周波数を焦点距離に応じて変更するのである。このことについて以下に詳細を説明する。
【0047】
マイクロコンピュータ15は、その内部に撮像光学系1の焦点距離とHPF処理のカットオフ周波数の関係を規定する関係式又はテーブルを有している。この関係式又はテ−ブルにより焦点距離から最適なHPF処理のカットオフ周波数を決定する。そして初期値に設定されていたHPF処理のカットオフ周波数の設定値を、新たに決定された値に変更する。この場合に焦点距離が短いほど、機構部で発生する位相遅れ分が大きくなるため、機構部の位相遅れを解消するようにHPF処理のカットオフ周波数を変更する。例えば手振れの補正の場合、補正すべき振れの周波数はせいぜい20Hz以下であるため、20Hz以下での位相進み分が増大するようにHPF処理のカットオフ周波数を変更する。マイクロコンピュータ15には、設定されたカットオフ周波数とフィルタ係数aとの関係を規定する関係式又はテーブルが設けられているので、この関係式又はテーブルに則り、カットオフ周波数からフィルタ係数aを決定し、角速度センサ10の出力に対し帯域制限を行う。
【0048】
図6は、図3に示したステップ104におけるカットオフ周波数決定方法の一例を示す説明図である。同図に示した例では、焦点距離の最小値(最広角側:fmin)から、予め決定しておいた焦点距離f1までは、ステップ105のHPF処理のカットオフ周波数をfch2にし、焦点距離f2から焦点距離の最大値(最望遠側:fmax)まではカットオフ周波数をfch1にし、f1からf2まではカットオフ周波数を連続的に変化させるようにしたものである。
【0049】
このように撮像光学系1の焦点距離に合わせてステップ105のHPF処理のカットオフ周波数を変更することで、機構部の負荷の影響がもとで増大する系全体の位相遅れを低減し、動き補正特性を改善することができる。
【0050】
なお、図6においてf1=fmin 、f2=fmax とする方法や、f1=f2 としてカットオフ周波数を2値に限定する方法や、多段階でカットオフ周波数を変更する方法も考えられる。また図7に示すように非線形にカットオフ周波数を変更する例も考えられる。
【0051】
以上のように本実施の形態1では、角速度センサ10の出力に含まれる低周波成分を除去するHPF処理を設け、撮像光学系1の焦点距離に応じてこのHPF処理のカットオフ周波数を変えることで、レンズ群L32の移動量が小さい場合の位相遅れを低減することができる。こうして動き補正特性を改善し、焦点距離によらず良好な手振れ補正を実現することができた。
【0052】
(実施の形態2)
次に本発明の実施の形態2における画像動き補正装置について説明する。本実施の形態の画像動き補正装置は、実施の形態1に対してマイクロコンピュータ15内での一部の処理内容のみが異なるものである。このため画像動き補正装置の動作として、マイクロコンピュータ15に格納された処理プログラムについて図8を用いて説明する。尚、実施の形態1と同様の処理内容部分に関しては図1と同一のステップ番号を付し、それらのステップの動作説明は省略する。
【0053】
図8において、マイクロコンピュータ15内蔵のタイマーによる割り込み毎に、ループ処理が実行されるものとする。ステップ204では、ステップ103における焦点距離の検出結果に基づき、ステップ106の低域通過フィルタ処理(LPF処理)で用いるカットオフ周波数を決める。ステップ106では、ステップ204において決められたカットオフ周波数のLPF処理に基づいて、角速度センサ10の出力に対して帯域制限を行う。
【0054】
ここでステップ204を中心とする動作を詳細に説明する。マイクロコンピュータ15は、その内部に撮像光学系1の焦点距離とカットオフ周波数との関係を規定する関係式又はテ−ブルを有している。この関係式又はテ−ブルを用いて、撮像光学系1の焦点距離から最適なカットオフ周波数を決定する。そして、ステップ101で初期値に設定されていたカットオフ周波数の設定値を、本ステップで決定された値に変更する。この場合、焦点距離が短いほど機構部で発生する位相遅れ分が大きくなるため、LPF処理による位相変化が機構部の位相遅れを解消するようにカットオフ周波数を変更する。例えば手振れの補正の場合、補正すべき振れの周波数はせいぜい20Hz以下であるため、20Hz以下での位相遅れ分が低減するようにLPF処理のカットオフ周波数を変更する。ステップ106では、設定されたカットオフ周波数とフィルタ係数bとの関係を規定する関係式又はテーブルを用いて、カットオフ周波数からbを決定し、帯域制限を行う。
【0055】
図9は、図8に示したステップ204におけるカットオフ周波数決定方法の一例を示す説明図である。同図に示した例では、焦点距離の最小値(最広角側:fmin)から、予め決定しておいた焦点距離f1までは、ステップ106のLPF処理のカットオフ周波数をfcl1にし、焦点距離f2から焦点距離の最大値(最望遠側:fmax)までは、カットオフ周波数をfcl2にし、f1からf2まではカットオフ周波数を連続的に変化させるようにしたものである。このように撮像光学系1の焦点距離に合わせてLPF処理のカットオフ周波数を変更することで、レンズ群L32の移動量が小さい場合の位相遅れを低減し、動き補正特性を改善することができる。
【0056】
尚、図9においてf1=fmin 、f2=fmax とする方法や、f1=f2 としてカットオフ周波数を2値に限定する方法や、多段階でカットオフ周波数を変更する方法も考えられる。また図7と同様に非線形にカットオフ周波数を変更する例も考えられる。
【0057】
以上のように、本実施の形態では、マイクロコンピュータ15が、角速度センサ10の出力に含まれる高周波成分を除去する低域通過フィルタ(LPF)処理の機能を有し、撮像光学系1の焦点距離に応じてこのLPF処理のカットオフ周波数を変えることで、レンズ群L32の移動量が小さい場合に生じる位相遅れを低減することができる。こうして動き補正特性を改善し、焦点距離によらず良好な手振れ補正を実現することができる。
【0058】
(実施の形態3)
次に本発明の実施の形態3における画像動き補正装置について説明する。本実施の形態の画像動き補正装置は、実施の形態1又は2に対してマイクロコンピュータ15内での一部の処理内容のみが異なるものである。このため画像動き補正装置の動作として、マイクロコンピュータ15に格納された処理プログラムについて図10を用いて説明する。なお、実施の形態1又は2と同様の処理に関しては図1と同一のステップ番号を付し、それらのステップの動作説明は省略する。
【0059】
図10は、マイクロコンピュータ15に格納された処理プログラムのフローチャートの一例である。図10に示した処理もマイクロコンピュータ15内蔵のタイマーによる割り込み毎に、ループ処理が実行されるものとする。ステップ304では、ステップ103における焦点距離の検出結果に基づきステップ107の積分処理(積分フィルタ)の積分定数Kを決定する。ステップ107では、ステップ304において決められた積分定数Kにより積分処理を行う。
【0060】
ステップ304での処理を中心に、以下にその詳細を説明する。マイクロコンピュータ15は、その内部に撮像光学系1の焦点距離と積分定数Kとの関係を規定する関係式又はテ−ブルを有している。この関係式又はテ−ブルを用いて撮像光学系1の焦点距離から積分定数Kを決定する。そしてステップ101で初期値に設定されていた積分定数Kの設定値を、本ステップで決定された値に変更する。この場合、焦点距離が短いほど機構部で発生する位相遅れ分が大きくなるため、積分処理による位相変化が機構部の位相遅れを補償するように積分定数を変更する。例えば手振れの補正の場合、補正すべき振れの周波数はせいぜい20Hz以下であるため、20Hz以下での位相遅れ分が低減するように積分処理の積分定数(時定数)を変更する。
【0061】
図11は、図10に示したステップ304における積分定数Kの決定方法の一例を示す説明図である。同図に示した例では、焦点距離の最小値(最広角側:fmin)から予め決定しておいた焦点距離f1までは、ステップ107の積分処理の積分定数をK2にし、焦点距離f2から焦点距離の最大値(最望遠側:fmax)までは積分定数をK1にし、f1からf2までは積分定数を連続的に変化させるようにしたものである。
【0062】
このように撮像光学系1の焦点距離に合わせて、積分処理において用いる積分定数を変更することで、レンズ群L32の移動量が小さい場合に生じる位相遅れを低減し、動き補正特性を改善することができる。尚、図11においてf1=fmin 、f2=fmax とする方法や、f1=f2 として積分定数を2値に限定する方法も考えられる。また図7のように、非線形に積分定数を変更する例も考えられる。
【0063】
以上のように本実施の形態では、マイクロコンピュータ15は、角速度センサ10の出力を積分し、角速度を角度に変換する積分手段を有し、撮像光学系1の焦点距離に応じて積分手段の積分定数を変えることで、積分処理の時定数を変化させる。そして、レンズ群L32の移動量が小さい場合に生じる機構部の負荷の影響がもとで増大する系全体での位相遅れを低減する。こうして、動き補正特性を改善し、焦点距離によらず良好な手振れ補正を実現することができる。
【0064】
(実施の形態4)
次に本発明の実施の形態4における画像動き補正装置について説明する。本実施の形態の画像動き補正装置は、実施の形態1〜3に対してマイクロコンピュータ15内での一部の処理内容のみが異なるものである。このため画像動き補正装置の動作として、マイクロコンピュータ15に格納された処理プログラムについて図12を用いて説明する。なお、実施の形態1〜3と同様の処理に関しては図1と同一のステップ番号を付し、それらのステップの動作説明は省略する。
【0065】
図12は、マイクロコンピュータ15に格納された処理プログラムのフローチャートの一例である。図12に示した処理もマイクロコンピュータ15内蔵のタイマーによる割り込み毎に、ループ処理が実行されるものとする。ステップ404では、ステップ103における焦点距離の検出結果に基づき、ステップ108の位相補償処理での補償帯域を決定する。ステップ108では、ステップ404の決定に基づき、ステップ105のHPF処理、ステップ106のLPF処理、ステップ107の積分処理を経た角速度センサ10の出力に対し、位相補償フィルタにより位相特性の改善を行う。
【0066】
ステップ404での処理を中心に、以下にその詳細を説明する。マイクロコンピュータ15は、その内部に撮像光学系1の焦点距離と位相補償帯域の関係を規定する関係式又はテ−ブルを有している。そこでこの関係式又はテ−ブルにより、焦点距離から位相補償帯域を決定し、ステップ101で初期値に設定されていた位相補償帯域の設定値を、本ステップで決定された値に変更する。この場合、焦点距離が短いほど機構部で発生する位相遅れ分が大きくなるため、位相補償処理による位相変化が機構部の位相遅れを補償するように補償帯域を変更する。例えば図5に示したように、焦点距離が短く、可動部の移動振幅が小さい場合には、1Hz程度のごく低い周波数域から位相遅れが発生する。これに対して、図4に示すように、焦点距離が長く、可動部の移動振幅が大きい場合には、位相遅れが発生する周波数域は10Hzを越えた帯域となる。そこで、焦点距離が短い場合には、焦点距離が長い場合に比べて、より低い周波数域での位相特性の改善を図るように、位相補償帯域を低い周波数域に設定する。
【0067】
図13に位相補償フィルタの周波数特性例を示す。図13に示した位相補償フィルタの伝達関数は、例えば(0.08−0.047 ・Z-1)/(0.038 −0.045 ・Z-1)で表せるものであり、図13では、この伝達関数のゲイン特性を上段に、位相特性を下段に、横軸を周波数としてあらわしている。図13に示すように、このような位相補償フィルタでは、約8Hzで30°程度位相を進ませることができる。設定された補償帯域とフィルタ係数c、d、e、gとの関係を規定する関係式又はテーブルを有し、ステップ108ではこの関係式又はテーブルに則り、補償帯域からc、d、e、gを決定する。そして、角速度センサ10の出力に対して位相補償を行う。
【0068】
以上のように本実施の形態では、マイクロコンピュータ15は、ステップ105のHPF処理、ステップ106のLPF処理、ステップ107の積分処理を経た角速度センサ10の出力に対し、位相補償を行う手段を有している。そして撮像光学系1の焦点距離に応じて位相補償フィルタの補償帯域を変えることで、レンズ群L32の移動量が小さい場合に生じる位相遅れを低減する。こうして、動き補正特性を改善し、焦点距離によらず良好な手振れ補正を実現することができる。
【0069】
(実施の形態5)
次に本発明の実施の形態5における画像動き補正装置について説明する。図14は本実施の形態における画像動き補正装置の全体構成を示すブロック図である。本実施の形態における画像動き補正装置の構成は、基本的には実施の形態1と同様であり、図14に示すようにA/D変換手段18及びマイクロコンピュータ15内での処理内容のみが異なるだけであり、その他のブロックの構成の説明は省略する。A/D変換手段18は、角速度センサ10の出力をデジタル信号に変換するための手段であり、その変換周期はマイクロコンピュータ15の指令により可変に制御される。
【0070】
本実施の形態の画像動き補正装置の動作として、マイクロコンピュータ15に格納された処理プログラムを図15を用いて説明する。尚図15において、これまでの実施の形態と同様の処理内容部分に関しては、同一のステップ番号を付して説明は省略する。ここでの処理もマイクロコンピュータ15内蔵のタイマーによる割り込み毎にループ処理が実行されるものとする。
【0071】
ステップ511では、ステップ103における焦点距離の検出結果に基づき、処理フローの実行周期を変化させる。具体的には例えばマイクロコンピュータ15に内蔵されたタイマーによる割り込み周期を変え、処理ループの処理周期を可変とする。ステップ512では、ステップ511で処理フローの実行周期が変更された場合に、その後段の各ステップで実行される各種処理に最適な設定を行う。
【0072】
ステップ511で処理を中心に、以下にその詳細を説明する。マイクロコンピュータ15は、その内部に撮像光学系1の焦点距離と処理フローの実行周期との関係を規定する関係式又はテ−ブルを有している。この関係式又はテ−ブルを用いて、撮像光学系1の焦点距離から最適な処理フローの実行周期を決定する。そしてこの後、この新たに決定された処理フローの実行周期で、図15に示した各処理を実行させる。そしてこれに併せて、A/D変換手段18にも指令を送り、A/D変換手段18によるA/D変換周期も変更する。具体的には、焦点距離が短いほど処理フローの実行周期を速めるものとする。
【0073】
このように処理フローの実行周期を速めることは、信号処理におけるサンプリング周波数を上げることとなり、このことによりサンプリングにより生じる無駄時間、即ちサンプリング周期(処理フローの実行周期)が低減できることとなる。よって、制御系全体の遅延時間を低減できるため、焦点距離が短いほど機構部で発生する位相遅れによる影響を緩和することができる。
【0074】
ステップ512では、処理フローの実行周期の変更が生じても、ステップ105のHPF処理、ステップ106のLPF処理、ステップ107の積分処理、ステップ108の位相補償処理で用いる各種フィルタの周波数特性が大きく変化しないように各フィルタの係数を求め、これを後段の各ステップで使用する。このことで、処理フローの実行周期が変わっても、制御系全体の特性を維持できる。
【0075】
以上のように本実施の形態では、マイクロコンピュータ15は、振れ補正用レンズ(L32)を駆動制御するための制御信号を算出する処理フローの実行周期を、撮像光学系1の焦点距離に応じて変えるようにしている。こうすることで、レンズ群L32の移動量が小さい場合に生じる位相遅れを低減する。こうして動き補正特性を改善し、焦点距離によらず良好な手振れ補正を実現することができる。
【0076】
なお、上記の全ての実施の形態のうち、2つ以上を組み合わせて用いることは容易であり、その場合に組み合わせることでより、レンズ群L32の移動量が小さい場合に生じる位相遅れを効果的に低減することができる。こうして動き補正特性を改善し、焦点距離によらず、良好な手振れ補正を実現することができる。
【0077】
また、上記全ての実施の形態において、振れを補正するためにレンズ群L32を光軸に直交する方向に移動させることで、光軸を偏芯させるようにした。しかしこれに限るものではなく、例えば二枚の硝子板を蛇腹のようなもので接合し、その内部に高屈折率の液体を封入した可変頂角プリズムを用いてもよい。また”ビデオカメラの画振れ防止技術の開発”テレビジョン学会技術報告Vol.11,No.28,pp19 〜24(1987)に開示されているように、撮像光学系1及び固体撮像素子6等を、撮像装置の筺体に対し回動自在に支持及び駆動することで、動きを補正する構成でもよい。更に動き補正のためのレンズ群を、ある回動中心で回転駆動する構成としてもよい。これらいずれ場合も、本願発明は有効である。なぜならば、可変頂角プリズムの場合、内部に封入した液体の粘性抵抗の影響により、微小振幅動作時には図2に示したスライド機構と同様に位相特性の遅れが生じるからである。また、撮像光学系1及び固体撮像素子6等を撮像装置の筺体に回動自在に支持及び駆動することで動きを補正する構成や、動き補正のためのレンズ群の移動を、ある回動中心で回転駆動する方式においても、回動軸と軸受け間の摩擦や配線の負荷により同様の現象が生じるためである。
【0078】
また、上記全ての実施の形態において、レンズ群L32をスライド軸を介して上下左右に移動可能な機構に組み込む構成としたが、これに限るものではない。例えばレンズ群L32を保持枠を介して板ばね状のもので支持する構成も考えられ、この場合も、配線の負荷等の影響により微小振幅動作時には、図2に示したスライド機構と同様に位相特性の遅れが生じるので、本願発明の方法は有効となる。
【0079】
また、上記全ての実施の形態において、撮像光学系1は図1及び図14に示したような4つのレンズ群L1、L2、L3、L4からなる構成に限るものではない。振れ補正のためのレンズ移動量が、撮像光学系の焦点距離に依存し、且つその焦点距離が短いほどレンズ移動量が小さくなるような振れ補正光学系を有する撮像光学系ならば、本願発明が有効であることは言うまでもない。
【0080】
また、上記全ての実施の形態において、撮像装置の動きを検出する手段として、角速度センサを例に説明したが、これに限るものではない。例えば撮影画像のフィールド間又はフレーム間のパターンマッチングにより画像の動きベクトルを検出する方式を、角速度センサの代わりに用いても何ら差し支えはない。
【0081】
また、上記全ての実施の形態において、マイクロコンピュータによるプログラム処理による例を示したが、これに限るものではない。マイクロコンピュータによるプログラム処理を、電子回路等のハードウェアにより実現することが可能であることは言うまでもない。
【0082】
また、上記実施の形態1〜4において、マイクロコンピュータ15内で行う各種フィルタリング処理のうち、HPF処理及びLPF処理を夫々図1のHPF11、LPF12と一つにまとめる構成も可能であることは言うまでもない。
【0083】
また、上記全ての実施の形態において、マイクロコンピュータ15内での処理に用いる各種フィルタ(HPF、LPF、積分フィルタ、位相補償フィルタ)に関しては、具体例としてその伝達関数を例示したが、マイクロコンピュータ15内での処理に用いる各種フィルタ(HPF、LPF、積分フィルタ、位相補償フィルタ)の伝達関数はこれらに限られるものではない。同様の効果を奏する異なる伝達関数で表記されるフィルタを用いても、本願発明が有効であることは言うまでもない。
【0084】
また、上記全ての実施の形態において、マイクロコンピュータ15内での処理に用いるHPF、LPFは1次フィルタとしたが、これに限るものではない。2次以上の高次のフィルタ構成も考えられ、その場合も本願発明が有効であることは言うまでもない。
【0085】
また、上記全ての実施の形態においては、撮像装置の固体撮像素子数に関しては特に言及しなかったが、単板式撮像装置、2板式撮像装置、3板式撮像装置のいずれの撮像装置においても本発明が有効であることは明らかである。また、固体撮像素子ではなく、撮像管を用いた撮像装置においても同様に本発明が有効であることは明らかである。
【0086】
【発明の効果】
請求項1,2記載の発明によれば、制御信号発生手段が、動き検出手段の出力に含まれる低周波成分を除去する高域通過フィルタ処理を有しているので、撮像光学系の焦点距離に基づき高域通過フィルタ処理のカットオフ周波数を変えることで、制御信号発生手段の応答特性を変化させることができる。このため、動き補正手段の駆動量が小さい場合でも、負荷の影響による制御特性劣化を緩和できるという効果が得られる。
【0087】
また請求項3,4記載の発明によれば、制御信号発生手段が、動き検出手段の出力に含まれる高周波成分を除去する低域通過フィルタ処理を有しているので、撮像光学系の焦点距離に基づき低域通過フィルタ処理のカットオフ周波数を変えることで、制御信号発生手段の応答特性を変化させることができる。このため、動き補正手段の駆動量が小さい場合でも、負荷の影響による制御特性劣化を緩和できるという効果が得られる。
【0088】
また請求項5,6記載の発明によれば、制御信号発生手段が、動き検出手段の出力を積分する積分処理を有しているので、撮像光学系の焦点距離に基づき積分処理の時定数を変えることで、制御信号発生手段の応答特性を変化させることができる。このため、動き補正手段の駆動量が小さい場合でも、負荷の影響による制御特性劣化を緩和できるという効果が得られる。
【0089】
また請求項7,8記載の発明によれば、制御信号発生手段が、動き検出手段の出力の位相遅れを補償する位相補償フィルタ処理を有しているので、撮像光学系の焦点距離に基づき位相補償フィルタ処理の位相特性を変えることで、制御信号発生手段の応答特性を変化させることができる。このため、動き補正手段の駆動量が小さい場合でも、負荷の影響による制御特性劣化を緩和できるという効果が得られる。
【0091】
以上のように本願の請求項1〜11の発明によれば、動き補正手段の駆動量が小さい場合でも、負荷の影響による制御特性劣化を緩和でき、撮像光学系の焦点距離によらず良好な手振れ補正を実現できるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態1における画像動き補正装置の構成図である。
【図2】各実施の形態の画像動き補正装置に用いられる振れ補正光学機構の斜視図である。
【図3】実施の形態1の画像動き補正装置において、マイクロコンピュータでの処理内容を示すフローチャートである。
【図4】実施の形態1の画像動き補正装置において、振れ補正光学機構の周波数特性(その1)を示す説明図である。
【図5】実施の形態1の画像動き補正装置において、振れ補正光学機構の周波数特性(その2)を示す説明図である。
【図6】実施の形態1の画像動き補正装置において、HPF処理のカットオフ周波数決定方法の一例(その1)を示す説明図である。
【図7】実施の形態1の画像動き補正装置において、HPF処理のカットオフ周波数決定方法の一例(その2)を示す説明図である。
【図8】本発明の実施の形態2の画像動き補正装置において、マイクロコンピュータでの処理内容を示すフローチャートである。
【図9】実施の形態2の画像動き補正装置において、LPF処理のカットオフ周波数決定方法の一例を示す説明図である。
【図10】本発明の実施の形態3の画像動き補正装置において、マイクロコンピュータでの処理内容を示すフローチャートである。
【図11】実施の形態3の画像動き補正装置において、積分処理の積分定数Kの決定方法の一例を示す説明図である。
【図12】本発明の実施の形態4の画像動き補正装置において、マイクロコンピュータでの処理内容を示すフローチャートである。
【図13】実施の形態4の画像動き補正装置において、位相補償フィルタの周波数特性を示す説明図である。
【図14】本発明の実施の形態5における画像動き補正装置の構成図である。
【図15】実施の形態5の画像動き補正装置において、マイクロコンピュータでの処理内容を示すフローチャートである。
【図16】撮像装置における撮像光学系のレンズ構成図である。
【図17】従来例における振れ補正光学機構の斜視図である。
【符号の説明】
1 撮像光学系
2 L32レンズ群駆動制御手段
3 移動量検出手段
4 撮像光学系駆動制御手段
5,8,14,18 A/D変換手段
6 固体撮像素子
7 アナログ信号処理手段
9 デジタル信号処理手段
10 角速度センサ
11 ハイパスフィルタ(HPF)
12 ローパスフィルタ(LPF)
13 アンプ
15 マイクロコンピュータ
16 D/A変換手段
17 固体撮像素子駆動制御手段
25,26 マグネット
27,28 ヨーク
29,30 コイル
31,32 PSD
33,34 LED
L1,L2,L3,L4 レンズ群
Claims (11)
- 手振れ及びその他の振動による撮像装置の動きを検出する動き検出手段と、
前記撮像装置に設けられ、少なくとも変倍部又は焦点調節部を含む複数のレンズ群を有し、被写体を撮像面に結像する撮像光学系と、
前記撮像光学系の焦点距離を検出する焦点距離検出手段と、
撮像装置の動きに起因して発生する撮影画像の動きを補正するため、前記撮像光学系において前記変倍部に対し撮像面側に配置された補正光学系を、光軸と直交する面内で移動することにより撮像光の光軸を制御する動き補正手段と、
前記動き検出手段の出力に基づき前記動き補正手段に対して制御信号を発生する制御信号発生手段と、を具備し、
前記制御信号発生手段は、
前記動き検出手段の出力に含まれる低周波成分を除去する高域通過フィルタ処理を有し、前記焦点距離検出手段で検出された焦点距離に基づき、前記高域通過フィルタ処理のカットオフ周波数を変えることで前記制御信号発生手段の応答特性を変化させることを特徴とする画像動き補正装置。 - 前記制御信号発生手段は、
前記焦点距離が長いほど前記高域通過フィルタ処理のカットオフ周波数を高く設定し、前記焦点距離が短いほど前記高域通過フィルタ処理のカットオフ周波数を低く設定することを特徴とする請求項1記載の画像動き補正装置。 - 手振れ及びその他の振動による撮像装置の動きを検出する動き検出手段と、
前記撮像装置に設けられ、少なくとも変倍部又は焦点調節部を含む複数のレンズ群を有し、被写体を撮像面に結像する撮像光学系と、
前記撮像光学系の焦点距離を検出する焦点距離検出手段と、
撮像装置の動きに起因して発生する撮影画像の動きを補正するため、前記撮像光学系において前記変倍部に対し撮像面側に配置された補正光学系を、光軸と直交する面内で移動することにより撮像光の光軸を制御する動き補正手段と、
前記動き検出手段の出力に基づき前記動き補正手段に対して制御信号を発生する制御信号発生手段と、を具備し、
前記制御信号発生手段は、
前記動き検出手段の出力に含まれる高周波成分を除去する低域通過フィルタ処理を有し、前記焦点距離検出手段で検出された焦点距離に基づき、前記低域通過フィルタ処理のカットオフ周波数を変えることで前記制御信号発生手段の応答特性を変化させることを特徴とする画像動き補正装置。 - 前記制御信号発生手段は、
前記焦点距離が長いほど前記低域通過フィルタ処理のカットオフ周波数を低く設定し、前記焦点距離が短いほど前記低域通過フィルタ処理のカットオフ周波数を高く設定することを特徴とする請求項3記載の画像動き補正装置。 - 手振れ及びその他の振動による撮像装置の動きを検出する動き検出手段と、
前記撮像装置に設けられ、少なくとも変倍部又は焦点調節部を含む複数のレンズ群を有し、被写体を撮像面に結像する撮像光学系と、
前記撮像光学系の焦点距離を検出する焦点距離検出手段と、
撮像装置の動きに起因して発生する撮影画像の動きを補正するため、前記撮像光学系において前記変倍部に対し撮像面側に配置された補正光学系を、光軸と直交する面内で移動することにより撮像光の光軸を制御する動き補正手段と、
前記動き検出手段の出力に基づき前記動き補正手段に対して制御信号を発生する制御信号発生手段と、を具備し、
前記制御信号発生手段は、
前記動き検出手段の出力に積分処理を施す積分手段を有し、前記焦点距離に基づき前記積分手段の時定数を変えることで前記制御信号発生手段の応答特性を変化させることを特徴とする画像動き補正装置。 - 前記制御信号発生手段は、
前記焦点距離が短いほど前記積分手段の時定数を小さく設定し、前記焦点距離が長いほど前記積分手段の時定数を大きく設定することを特徴とする請求項5記載の画像動き補正装置。 - 手振れ及びその他の振動による撮像装置の動きを検出する動き検出手段と、
前記撮像装置に設けられ、少なくとも変倍部又は焦点調節部を含む複数のレンズ群を有し、被写体を撮像面に結像する撮像光学系と、
前記撮像光学系の焦点距離を検出する焦点距離検出手段と、
撮像装置の動きに起因して発生する撮影画像の動きを補正するため、前記撮像光学系において前記変倍部に対し撮像面側に配置された補正光学系を、光軸と直交する面内で移動することにより撮像光の光軸を制御する動き補正手段と、
前記動き検出手段の出力に基づき前記動き補正手段に対して制御信号を発生する制御信号発生手段と、を具備し、
前記制御信号発生手段は、
前記動き検出手段の出力の位相遅れを補償する位相補償フィルタ処理を有し、前記焦点距離検出手段で検出された焦点距離に基づき、前記位相補償フィルタ処理の位相特性を変えることで前記制御信号発生手段の応答特性を変化させることを特徴とする画像動き補正装置。 - 前記制御信号発生手段は、
前記焦点距離が短いほど前記位相補償フィルタ処理により位相を進ませる周波数域を低く設定することを特徴とする請求項7記載の画像動き補正装置。 - 前記動き検出手段は、
前記撮像装置自体の角速度を検出する角速度センサであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項記載の画像動き補正装置。 - 前記動き検出手段は、
撮影画像から画像の動きベクトルを検出する動きベクトル検出手段であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項記載の画像動き補正装置。 - 前記制御信号発生手段は、
所定のプログラムにより一連の信号処理を実行するマイクロコンピュータであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項記載の画像動き補正装置。
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