JP3574288B2 - インフレーションフィルムの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、インフレーションフィルムの製造方法に関するものである。さらに詳しくは、空冷インフレーション成形法を用いて、プロピレン系重合体であって透明性の優れたフィルムを安定性よく高速に製造することを可能とした、インフレーションフィルムの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、インフレーション法によって製造されるフィルムは包装用や農業用等幅広く用いられてきた。なかでも、ラップフィルムやストレッチフィルムといった食品包装用フィルム、プロテクトフィルム、マスキングフィルム等の分野において、それまで汎用されてきたポリ塩化ビニルに代えてポリオレフィンにより、空冷インフレーション法でフィルムが近年製造されるようになってきた。ここで、上記空冷インフレーション法において空冷に通常、使用される冷却用空気は、温度が20℃〜50℃、樹脂の吐出量1kg/hあたりの吹き付け量10m3/h〜20m3/h程度であるのが一般的である。
【0003】
そして、原料としては、柔軟性や耐熱性を求められることから、プロピレン系の軟質樹脂が適している。しかしながら、プロピレン系重合体は結晶化速度が遅いために高透明のフィルムを得ることが困難であること、メルトテンションが低いためにインフレーションバブルを安定させることが難しい。さらに、プロピレン系重合体は、加工速度の増加に伴って伸長粘度の低下する、いわゆる“テンションシンニング”を起こすことが知られている。こうした性質はバブルをインフレーションする際に偏肉やバブルの振動を助長するため、安定性低下の原因となる。
【0004】
こうしたことからこれまでも、インフレーションバブルの安定化のために外部冷却用空気の吹出し口を2段にする方法(特開平5−169529号公報)や内部冷却を行う方法が行われてきた。また、透明性を向上させるためにダイスの出口付近のみを加熱する方法(特開平8−39666号公報)も提案されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
以上の方法を用いれば、線状低密度ポリエチレンや高圧法低密度ポリエチレンを透明性よく高速で成膜することが可能である。しかしながら、プロピレン系重合体では、結晶サイズが大きくなり易いため、依然、空冷インフレーション法によって透明性の高いフィルムを得ることは極めて困難であった。
【0006】
また、冷却をより急激にする手段として、インフレーションバブルの膨張比を大きくして急激にチューブの厚みを小さくし、空気冷却の冷却効率を急激に上昇させることが有効な方法として考えられる。しかし、プロピレン系重合体は、結晶化速度が小さいためにメルトテンションが低く、さらに上記の“テンションシンニング”性を示すことから、膨張率を高く保持して成膜を安定させることは困難であった。
【0007】
一方、プロピレン系重合体のインフレーション成形法としては、押出し形成したバブルに冷却水を接触させて瞬時に冷却固化させる方法である水冷インフレーション法が広く利用されている。ところが水冷法は、冷却水に接触させるまで溶融状態を維持するためにかかる箇所までは空気による徐冷がほとんど行われず、等温状態に近い条件でフィルムの流れ方向(以下MD方向と略す)およびフィルムの幅方向(以下TDと略す)に延展するためにバブルが不安定になり易く、高速成膜できない。さらに、薄いフィルムや軟質なフィルムでは、冷却水の重量に由来してフィルムにシワが発生し易いという問題もあった。
【0008】
以上の背景にあって本発明は、プロピレン系重合体からなる透明性に優れたフィルムを空冷インフレーション法によって安定かつ高速に製造する方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記欠点の無いプロピレン系フィルムの製造方法を鋭意検討した結果、特定の条件で急激な空気冷却を行うことにより、上記の課題が解決し得ることを見出し本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、プロピレン系重合体を空冷インフレーション法によりフィルムに成形する方法において、環状ダイスから押出されたプロピレン系重合体の円筒状溶融物の外表面側に−30〜5℃の冷却用空気を吹き付け、膨張比3〜10でフィルムに引き取ることを特徴とするインフレーションフィルムの製造方法である。
【0011】
空冷インフレーション法で透明性に優れたプロピレン系フィルムを製造することが困難な主要原因は、徐冷されて成長した球晶による光散乱である。したがって、結晶化度を抑制すること、球晶サイズを抑制することにより、透明性が向上することとなる。そのためには、バブルの融点付近での冷却を急激にする必要がある。一方、空冷インフレーション法によるフィルム製造に際して冷却をより急激にする手段として、インフレーションバブルの膨張比を大きくして急激にチューブの厚みを小さくし、空気冷却の冷却効率を急激に上昇させることが有効である。しかし、プロピレン系重合体が、結晶化速度が小さいためにメルトテンションが低いことや、前記”テンションシンニング”性を示すことから、膨張率を高く保持して成膜を安定させるためには、さらに、冷却用空気の温度を−30〜5℃に低下させることが必要である。本発明は、以上の知見により完成されたものであり、かかる要件の組み合わせにより、空冷インフレーション法によりプロピレン系重合体を用いて、透明性に優れたフィルムを安定的に製造することが可能になる。
【0012】
本発明においてプロピレン系重合体とは、プロピレンの単独重合体あるいはプロピレンと共重合可能な他の単量体との共重合体である。共重合可能な他の単量体としては、エチレンや1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ペンテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン等の炭素数4〜12のα−オレフィン及びジビニルベンゼン、1,4ーシクロヘキサジエン、ジシクロペンタジエン、シクロオクタジエン、エチリデンノルボルネン等のジエン類などが挙げあげられ、このうちエチレンであるのが好適である。
【0013】
これらプロピレン系重合体の製造方法は特に限定されるものではなく、一般的には、いわゆるチタン含有固体状遷移金属部分と有機成分とを組み合わせて用いるチグラー・ナッタ触媒、特に遷移金属成分がチタン、マグネシウムおよびハロゲンを必須成分とし、電子供与性化合物を任意成分とする固体成分または三塩化チタンとし、有機金属成分が有機アルミニウム化合物する触媒を用いて、スラリー重合、気相重合、バルク重合、溶液重合などまたはこれらを組み合わせた重合法で、一段または多段で重合させることによって得ることができる。また、これらのプロピレン系重合体は、ランダム重合体でもブロック共重合体でもよいが、好ましいものはランダム共重合体である。なおこれらのプロピレン系重合体は、2種以上のものを用いてもよい。
【0014】
上記のプロピレン系重合体は、示差走査熱量計によって測定した融解熱が50J/g以下、さらに好ましくは30J/g以下のものが好適である。その場合、球晶サイズを可視光線の波長以下にすることが可能になり、プロピレン系重合体の結晶部と非晶部の屈折率の違いがより小さくなり透明性が最も良好になり易い。また、こうした融解熱を有するプロピレン系重合体を他のプロピレン系重合体と混合して用いる場合には、このものは50重量%以上含んでいるのが好ましい。
【0015】
さらに、プロピレン系重合体は、MIおよび共重合可能な他の単量体の含量に関して、下記の諸条件を満足するものであることが好ましい。
【0016】
i)MI
本発明のプロピレン系重合体の230℃で測定されたMIは、好ましくは0.01〜50g/10分、より好ましくは0.1〜30g/10分、さらに好ましくは1〜20g/10分である。MIが上記範囲にあるときに、特に表面あれ等がなくフィルム外観に優れ、フィルム強度にも優れたものが得られる。
【0017】
ii)共重合可能な他の単量体の含量
本発明のプロピレン系重合体が、プロピレンと共重合可能な他の単量体との共重合体である場合の、他の単量体の含量は、好ましくは40重量%以下、より好ましくは30重量%以下である。かかる他の単量体の含量の範囲において、部分的な伸長等のフィルム巻出し時のトラブルが特に少ないものが得られる。
【0018】
本発明において上記プロピレン系重合体は、押出機等により溶融混練されて環状ダイスに供給され、当該ダイスより環状に押出される。この時の樹脂温度は高すぎても低すぎても、透明性の高いフィルムを安定して成膜することが難しくなる傾向がある。その観点から溶融樹脂温度は、ダイス出口の位置で、その樹脂の示差走査熱量計により測定した融点に対して20〜150℃高い温度が特に好適である。上記温度より低い場合には、スティックスリップ等の原因によりフィルム表面荒れが生じ易くなり表面付近の透明性が低下する傾向がある。また、上記範囲を外れて樹脂温度が高い場合には、メルトテンションが低く、安定した成膜を行うことが難しくなる傾向がある。なお、上記溶融樹脂温度は、プロピレン系重合体として2種以上を混合して用いる場合は、融点が高いものの融点に対して設定すればよい。
【0019】
そうして本発明では、上記の押出されたプロピレン系重合体の円筒状溶融物のフィルムへの引き取りを、その外表面側に−30〜5℃の冷却用空気を吹き付け、膨張比3〜10で実施する。その際、円筒状溶融物の膨張は、該円筒状溶融物の内部に空気を送り込んでその空気圧で膨らませる公知のインフレーション法の方法が制限なく採用される。上記の如く大きい膨張比で円筒状溶融物を引き取るには、環状ダイからの押出し及び引き取り方向を上向きで行うのが一般的である。
【0020】
膨張比が上記範囲を下回るときには、急激な薄膜化が起こらないために透明性が低下し易い上、成膜したフィルムがMD方向に配向して強度の低下を招き易い。一方、膨張比が上記範囲を超える場合には、膨張の偏芯によるバブルの傾きが生じ易く、高速で安定して成膜するのが困難であるばかりでなく、製造したフィルムのTD方向の厚み誤差が大きくなって、フィルムの品質が劣ることになり易い。なお、本発明で述べるMD方向とは、プロピレン系重合体が環状ダイスから押出される方向である。また、フィルムの面方向について、MD方向と垂直な方向をTD方向と呼ぶ。
【0021】
成膜を安定させるためには、従来の空冷インフレーション法に比較して冷却効率が高いことが不可欠である。我々がさまざまな検討を行った結果、上記の如く膨張させる円筒状溶融物の外表面側に吹き付ける冷却用空気の温度を−30〜5℃、より好ましくは0〜5℃に制御することが大変有効であることが分かった。上記温度が上記を超える場合、バブルの厚い部分と薄い部分の温度差が十分得られなくなるため、成膜の安定性、とりわけ高速時の成膜安定性が劣る。また、バブルの膨張比を3倍以上取ることが困難となって、透明性や機械物性のMD/TDバランスのよいフィルムとなりにくい。一方、−30℃より低い空気を大量に安定して得ることは技術的に困難である。
【0022】
本発明では、上記温度の冷却用空気の吹き付けにより、バブルのβ領域を急激に冷却する。ここで、バブルのβ領域とは、押出された円筒状溶融物がバブル内の内部圧力によって横方向に急激に拡張し始める点から結晶化が起こる位置であるフロストラインまでの領域である。本発明では、こうしてバブルのβ領域を急激に冷却することにより、プロピレン系重合体は、見かけ上“テンションシックニング”となり、膨張率を高く保持して成膜を安定させることができるようになる。具体的な吹き付け位置は、押出位置からフロストラインまでの間で適宜設定すればよいが、上記β領域をより良好に冷却する意味で、押出位置からフロストラインまでの間における押出位置側の4/5以内、好ましくは7/10以内にするのが好ましい。冷却効果を高めるためには複数箇所、特に、押出し位置近傍とそれ以上の複数箇所でもうけるのが良好である。
【0023】
また、吹き付ける量は、十分に冷却可能で、且つ風速によりバブルが振動しない風量が好ましく、樹脂の吐出量1kg/hあたり総量で、5〜50m3/h、好ましく10〜20m3/hであることがより好ましい。
【0024】
また、本発明において、こうした冷却用空気の吹き付けは、前記温度の空気を、引き取られる円筒状溶融物の外側に設けられた冷却環より噴出させることにより行うのが一般的である。冷却用空気の冷却は、例えば通常のコンプレッサーの熱交換により実施することができる。また、円筒状溶融物の外表面と冷却環の空気吹き出し口間隔は、5〜50mmであることが好ましい。
【0025】
さらに、ドラフト比は5〜200であることが好ましい。ドラフト比がこの範囲にある時、MD/TDのバランスが良好なフィルムを安定に成膜することができる。
【0026】
本発明の方法により得られるインフレーションフィルムの厚みは、5〜200μmであることが好ましく、7〜100μmであることがより好ましく、10〜50μmであることがさらに好ましい。フィルムが上記範囲にあるとき、精度の良いフィルムを成形することが容易で、透明性も得られ易く、コスト的にも有利である。
【0027】
また、本発明のフィルムは、単層フィルムだけでなく、本発明の目的を阻害しない範囲であれば必要に応じてその少なくとも一方のフィルム表面に他の樹脂層を積層して多層フィルムとして製造しても良い。従って、こうした場合本発明では、上記プロピレン系重合体層を含む多層の円筒状溶融物の外表面側に冷却用空気を吹き付ける態様も含まれる。上記プロピレン系重合体層は、全フィルムの50%以上となるようにするのが好ましい。特に、透明性・透視性といった光学物性をより優れたものとするために、前記積層する樹脂として高圧低密度ポリエチレンやエチレン−α−オレフィンランダム共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アクリル酸エチル、エチレン−メタクリル酸メチル、エチレン−メタクリル酸エチル等に代表されるエチレン系重合体の単独または複数の混合物よりなる樹脂層を積層するのもかまわない。
【0028】
本発明においては、製造されるフィルムにある性質を付与するのに適した添加剤を添加することができる。例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の耐候剤、アンチブロッキング剤、難燃剤、防曇剤、粘着剤、着色剤、艶消し剤、帯電防止剤、酸素や炭酸ガスの吸収剤、ガス吸着剤、鮮度保持剤、酵素、消臭剤、香料等が挙げられる。このほかにも、本発明の特長を損なわない限り、必要に応じて別の成分を添加してよい。
【0029】
【発明の効果】
以上のように、プロピレン系重合体を特定の条件で成膜したインフレーションフィルムは、透明性に優れるばかりでなく、高速成膜が容易であるためにコスト的にも有利である。
【0030】
したがって、本発明の方法により成形されたフィルムは、以上のような優れた性質および品質を生かして、透明性を必要とする用途に最適である。例えば、食品用、医療用を始めとする各種包装フィルムや、トレイ、容器、蓋等ヒートシールを必要とするもの、ラップフィルム、ラップストレッチフィルム、ストレッチフィルム、シュリンクフィルム、ブリスターパックフィルム、スタンドパウチフィルム、集積包装用フィルム、物流包装用フィルム、重包装用フィルム、農業用フィルム、粘着テープ、表面保護フィルム等が挙げられる。
【0031】
【実施例】
以下、本発明をさらに具体的に説明するために実施例を示すが、本発明はこれらの実施例になんら限定されるものではない。
【0032】
(1)測定方法
▲1▼融解熱、融点
セイコー電子工業(株)製DSC200を用い、熱流束示差走査熱量測定法によって、230℃で5分間融解し、降温速度10℃/分で冷却後、昇温速度10℃/分の条件で測定した。
【0033】
▲2▼密度
JIS−K7112に準じて測定した。
【0034】
▲3▼MI
JIS−K7210に準じて測定した。
【0035】
▲4▼膨張比
引き取りロール通過の際のチューブ折径l、ダイス口径Dの時、下式により計算した。
【0036】
膨張比=(2×l)/(π×D)
▲5▼ヘイズ
JIS−K7105に準じて測定した。
【0037】
▲6▼最大引取り速度
引取り速度30m/分から5m/分刻みに増速していき、バブルの変形によりフィルムの最大厚みが最小厚みの3倍を超えた時、直前の速度を最大引取り速度とした。
【0038】
(2)使用した樹脂
【0039】
【表1】
【0040】
実施例1〜9 比較例1〜4
表2に示す樹脂を用いて、ダイ口径100mm,リップクリアランス1.3mmのスパイラル式ダイスを取り付けた上向き空冷インフレーションフィルム製造装置を用いて表2に示す条件でフィルムを製造した。なお、外側冷却環は、プロピレン系重合体の押出し位置近傍と押出位置からフロストラインまでの間の中央付近の2箇所に設置され、この2つの冷却環から総量で表2に示した量の冷却用空気を噴出させた。また、円筒状溶融物の外表面と冷却環の空気吹き出し口間隔は、15mmであった。得られたフィルムの厚みは20μmであった。
【0041】
各製造における最大引取り速度及び得られたフィルムのヘイズを表3に示した。
【0042】
【表2】
【0043】
【表3】
Claims (3)
- プロピレン系重合体を空冷インフレーション法によりフィルムに成形する方法において、環状ダイスから押出されたプロピレン系重合体の円筒状溶融物の外表面側に−30〜5℃の冷却用空気を吹き付け、膨張比3〜10でフィルムに引き取ることを特徴とするインフレーションフィルムの製造方法。
- プロピレン系重合体が、示差走査熱量計によって測定した融解熱が50J/g以下のものである請求項1記載のインフレーションフィルムの製造方法。
- 請求項1又は2の製造方法で得られたストレッチフィルム又はラップフィルム。
Priority Applications (1)
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JP2367797A JP3574288B2 (ja) | 1997-02-06 | 1997-02-06 | インフレーションフィルムの製造方法 |
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JPH10217328A JPH10217328A (ja) | 1998-08-18 |
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JP2367797A Expired - Lifetime JP3574288B2 (ja) | 1997-02-06 | 1997-02-06 | インフレーションフィルムの製造方法 |
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1997
- 1997-02-06 JP JP2367797A patent/JP3574288B2/ja not_active Expired - Lifetime
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