JP3574003B2 - 鋼管矢板及び鋼管矢板の連結構造 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、継手構造に特徴を有する鋼管矢板及び鋼管矢板同士の連結構造に係るもので、特に大規模な鋼管矢板基礎に有効な鋼管矢板及び鋼管矢板の連結構造に関する。
【0002】
【従来の技術】
今日、鋼管矢板基礎は、橋梁基礎のひとつとして欠くことの出来ないものとなっている。この鋼管矢板基礎は、例えば図15に示すように、隣接する鋼管矢板50の継手部材同士を互いに嵌合連結しながら、複数本の鋼管矢板50を、円形、小判形、矩形などの閉鎖形状になるように地盤中に打設し、その閉鎖形状の内部空間に頂版コンクリート51を施工して構築される。
【0003】
従来、鋼管矢板基礎の継手部材としては、図16に示すように、P−P型が一般的に使用されている。このP−P型継手部材は、鋼管矢板本管52より小径の円形鋼管53に、管軸方向に沿ってスリット53aを設けたものであって、鋼管矢板本管52の外面に取り付けられる。
そして、施工にあたっては、隣合う鋼管矢板50について、スリット53aを介して互いの円形鋼管53を嵌合させながら地盤中に打設した後、その円形鋼管53内の土砂を掘削、排土し、当該円形鋼管53内面の洗浄を行った後に、その空間内にモルタル54を充填して鋼管矢板50同士を連結するものである。
【0004】
一般に、P−P型継手部材に用いる円形鋼管53には、外径が165.2mm 、板厚が11mm(もしくは9mm )で、内外面に突起などの凹凸がないものが使用されている。一方、充填するモルタル54には、圧縮強度 200kgf/cm2 程度のものが使用されている。
ここで、鋼管矢板基礎に水平方向の外力が作用した場合、継手部に上下方向のせん断力が作用する。このせん断力が継手部のせん断耐力より大きくなると、継手部のずれ変形が急増し、鋼管矢板基礎全体の曲げ剛性の低下の度合いも大きくなる。
【0005】
基礎全体の曲げ剛性を増加させるための方策としては、継手部のせん断耐力を向上したり、鋼管矢板50の本数を増やすことなどが考えられる。しかし、大きな外力が作用するような大規模橋梁基礎において基礎全体の曲げ剛性を増加させる場合に、鋼管矢板50の本数を増やす方法を採用すると、基礎の規模が過大になるため、不経済な基礎となる。そのため、基礎の規模が過大にならない範囲で、曲げ剛性を増加させるためには、大きなせん断耐力を有する継手部材を用いる必要があった。
【0006】
また、P−P型継手部材のせん断耐力は、円形鋼管53表面とモルタル54との粘着力および摩擦力からなる付着強度に依存している。しかし、従来のP−P型継手部材ではこの付着は容易に切れるため、鋼管矢板基礎で経済的な大規模橋梁基礎を建設するためには、従来よりも大きなせん断耐力を有する継手部材が要求されていた。ちなみに、従来のP−P型継手部材のせん断耐力は、単位継手部材長当たり25〜35tf/m 程度であった。
【0007】
上記継手のせん断耐力を向上させる方策としては、例えば文献1(片山他:鋼管矢板基礎工法における最近の研究開発、基礎工、1993年11月)や文献2(片山他:鋼管矢板基礎における高耐力継手の実験的研究、土木学会第49回年次学術講演会、1994年9 月)に記載されている対策がある。
これらの文献に記載されている第1の対策は、P−P型継手部材の円形鋼管53の内面に多数の突起を設けるものであって、その突起の効果によって円形鋼管53とモルタル54との付着強度を増加させるものである。ちなみに、内面に突起を設けた円形鋼管53として外径が165.2mm 、板厚が9mm のもの、モルタル54として圧縮強度が240kgf/cm2のものを対象に実験を行った結果、単位継手部材長当たり105tf /m のせん断耐力であり、大幅にせん断耐力が増加することを確認した。
【0008】
また、上記文献に記載されている第2の対策は、P−P型継手部材の円形鋼管53の径を大きくするものであって、径を大きくすることで円形鋼管53とモルタル54との付着面積を増加させて継手のせん断耐力を向上させるものである。ちなみに、鋼管53として外径が216.3mm 、板厚が11mmのもの(突起などの凹凸はない)、モルタル54として圧縮強度が240kgf/cm2のものを対象に実験を行った結果、単位継手部材長当たり44tf/m のせん断耐力であり、せん断耐力が増加している。
【0009】
そして、上述の2つの対策を組み合わせることによって、せん断耐力をさらに向上させることは容易に類推できる。本発明者らがこの2つの対策の効果を室内実験で確認したところ、上述の2つの方策を組み合わせることによって、大きなせん断耐力が得られた。その一実施例を図17に示す。この例は、鋼管板厚を12mm、鋼管の材料降伏強度を2400kgf/cm2 、モルタル54(充填材)の圧縮強度を200kgf/cm2とし、内面突起付き鋼管53の外径のみをパラメータとして継手部材のせん断耐力を評価したものである。実験ケースは、鋼管外径が165.2mm 、216.3mm 、241.8mm 、318.5mm 、355.6mm 、406.4mm の9ケースである。内面に突起を設けた鋼管を用いるとともに、従来のP−P型継手部材の鋼管に比べて鋼管径を大きくすることによって、大きなせん断耐力が得られることが確認できた。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
ここで、円形鋼管53とモルタル54との付着切れの状況を調査したところ、嵌合により連結した2個の円形鋼管53における、鋼管矢板本管52への取付け部からスリット位置まで円周方向に延びる2つの円弧53b、53cのうち円弧長が長い側53bの内面が対向する嵌合部分55で取り囲まれた空間B、つまりスリット53aを介して他方の円形鋼管53内に互いに嵌合した嵌合部分55で囲まれる空間(以下、嵌合空間Bと呼ぶ場合がある)での付着切れで最大耐力が決まっていた(図18参照)。したがって、上記室内実験で確認した大きなせん断耐力を発揮させるためには、この嵌合空間Bにおいて、円形鋼管53の内面の突起とモルタル54とが噛み合うところまで隙間無く、所定の強度をもったモルタル54を確実に充填させることが最も重要であるとの知見を得た。
【0011】
すなわち、上記2つの対策を採用して現場にて大きなせん断耐力を得るためには、上記嵌合空間Bにおいて、円形鋼管53内面に対し隙間無くモルタル54を付着させる必要がある。
しかしながら、実際の現場において鋼管矢板50を打設する場合、地盤の硬さの違いなどの影響によって、矢板先端部が垂直に打ち込まれず、打設済みの隣接する先行の鋼管矢板50から離れるような方向に、打設中の鋼管矢板50の先端が進む場合がある。このとき、円形鋼管53同士を嵌合させながら打設するため、鋼管矢板50の位置が大きくずれることはないものの、嵌合連結するスリット付きの円形鋼管53同士が互いに離れる方向に引っ張られることで、スリット53aが開くように円形鋼管53にねじれ等の変形が発生する。すると、図19に示すように、当該各円形鋼管53における、鋼管矢板本管52への取付け部からスリット53a位置まで円周方向に延びる2つの円弧のうち円弧長が長い側53bが広がって、当該円弧長側の嵌合部分55間に形成される嵌合空間Bが、鋼管矢板50が垂直に打設された場合に比べて狭くなる。この傾向は、円形鋼管53の板厚が同じ場合、その径が大きい程、つまり、上記第2の対策に基づき継手のせん断耐力を向上させるために円形鋼管53の径を大きくするほど顕著になる。
【0012】
そして、上記嵌合空間Bが過度に狭くなると、当該嵌合空間B内に、洗浄用の水ジェットを噴出するためのパイプやモルタル等の充填材を注入するためのパイプを所定の深度まで沈設させることが困難となる。すると、その嵌合空間Bを形成する円形鋼管53の嵌合部分55内面における突起面や突起間の凹部に付着した土砂を十分に除去できなかったり、上記嵌合部分55の内面の突起とモルタル54とが十分に噛み合うところまで隙間無く、この嵌合空間Bに、所定の強度をもったモルタル54を確実に充填させることが出来なくなる。
【0013】
すなわち、上述のようなせん断耐力を大きくする2つの対策を組み合わせて或いは単独で使用して大きなせん断耐力を得ようとしても、実際の現場においては、最大耐力を決定する上記嵌合部分55について、鋼管53内面の突起とモルタル54とが噛み合うところまで隙間無く、所定の強度をもったモルタル54を確実に充填させることを確実に実現することができず、前述の室内実験で確認したような大きなせん断強度を、実際の現場で安定して確保することができない。
【0014】
つまり、実験で確認したような大きなせん断耐力を、現場にて継手部に対し確実に発揮させることができないという問題がある。
本発明は、このような点に着目してなされたもので、P−P型継手部材の円形鋼管同士を嵌合により連結した際に嵌合空間が過度に狭くなることを防止して、現場においても確実に予定した所望のせん断耐力を継手部に対し確保できる鋼管矢板、及び、大規模な鋼管矢板基礎に好適な鋼管矢板の連結構造を提供することを課題としている。
【0015】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、鋼管矢板本管の外面に対し、その鋼管矢板本管と軸を平行にして継手部材を構成する円形鋼管が取り付けられ、その円形鋼管には、軸方向に延びるスリットが形成されている鋼管矢板において、
上記円形鋼管の内面に凹凸を設けると共に、その円形鋼管における上記鋼管矢板本管への取付け部からスリット位置まで円周方向に延びる2つの円弧のうちの円弧長が長い側の当該円形鋼管部分に対し、その内面から鋼管矢板本管側に突出するように間隔保持材を取り付け、その間隔保持部材の突出量は、水ジェット噴出用及び充填材注入用のパイプの径よりも大きく且つ隣接する鋼管矢板の上記円形鋼管同士が前記スリットを介して互いに嵌合された際に当該嵌合される2つの円形鋼管の内面で囲まれる嵌合空間内に納まる量であり、且つ当該間隔保持部材は、嵌合空間が過度に狭くなることを防止するだけの剛性を有する鋼製であることを特徴とする鋼管矢板を提供するものである。
【0016】
次に、請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した構成に対し、上記間隔保持材には、複数の貫通孔が設けられていることを特徴とするものである。
【0017】
次に、請求項3に記載した発明は、鋼管矢板本管の外面に対し、その鋼管矢板本管と軸を平行にして継手部材を構成する円形鋼管が取り付けられ、その円形鋼管には、軸方向に延びるスリットが形成されている鋼管矢板の連結構造であって、
隣接する鋼管矢板の少なくとも一方が請求項1又は請求項2のいずれかに記載の鋼管矢板であり、隣接する鋼管矢板の上記円形鋼管同士が上記スリットを介して互いに嵌合されてなると共に当該円形鋼管内に充填材が充填されてなることを特徴とする鋼管矢板の連結構造を提供するものである。
【0018】
次に、請求項4に記載した発明は、鋼管矢板本管の外面に対し、その鋼管矢板本管と軸を平行にして継手部材を構成する円形鋼管が取り付けられ、その円形鋼管には、軸方向に延びるスリットが形成されている鋼管矢板の連結構造であって、上記円形鋼管の内面に凹凸を設けると共に、隣接する鋼管矢板の上記円形鋼管同士が前記スリットを介して互いに嵌合されてなり、該嵌合される2つの円形鋼管の内面で囲まれる嵌合空間内には、軸を上下に向けた間隔保持材が打設され、その間隔保持材は、嵌合空間が過度に狭くなることを防止するだけの剛性を有する鋼製であり、且つ隣接する鋼管矢板本管の対向する方向の寸法が、水ジェット噴出用及び充填材注入用のパイプの径よりも大きく、当該打設された間隔保持材によって上記嵌合空間内に上記水ジェット噴出用及び充填材注入用のパイプを沈設可能な空間を確保することを特徴とする鋼管矢板の連結構造を提供するものである。
【0019】
本発明によれば、間隔保持材によって、嵌合する2つの円形鋼管における互いの嵌合部分の間に間隔保持材が介挿され、当該間隔保持材によって、嵌合空間が過度に狭くなることが防止される。この結果、継手部における最大せん断耐力に影響のある嵌合空間内の洗浄が確実に行えると共に、当該空間内に隙間無くモルタルなどの充填材を確実に充填することが可能となる。
【0020】
また、請求項1〜請求項3の発明にあっては、上記円形鋼管の嵌合部分内面から間隔保持材が突出した状態となるので、当該間隔保持材の存在によっても、嵌合空間における付着強度が向上する。特に、請求項2にあっては、貫通孔の存在によって間隔保持材と充填材との付着強度が大きい。
また、請求項4の発明にあっては、上記嵌合する円形鋼管の両嵌合部分内面と打設した間隔保持材とは必ずしも接触している必要はない。
【0021】
また、間隔保持材を設けると、当該間隔保持材によって嵌合空間を分断することになるが、請求項2に記載のように間隔保持材に貫通孔を設けてあると、当該貫通孔を通じて分断された空間が連通する。なお、間隔保持材が管軸方向に沿って断続的に設けられている場合には、分断された空間は貫通孔が無くても連通しているため、必ずしも貫通孔を設ける必要はないが、円形鋼管内への間隔保持材の取り付けが面倒となる。また、貫通孔の開口形状は何ら限定されない。
【0022】
このとき、間隔保持材として鋼管を利用すると、洗浄用のパイプや充填材注入用のパイプを嵌合空間内に沈設する際のガイドとして間隔保持材を利用できる。
【0023】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。まず、本実施形態の鋼管矢板Aを説明すると、図1に示すように、鋼管矢板本管1の外面に、鋼管矢板本管1よりも小径の円形鋼管2がフレア溶接で取り付けられている。この円形鋼管2には、管軸方向に沿って嵌合用のスリット2aが設けられている。なお、図1では、継手部材である円形鋼管2を1つしか図示していないが、反対側にも存在する。
【0024】
上記円形鋼管2の内面には、図2に示すような、複数個のチェッカー状の突起4が全面に渡って設けられることで、当該内面に凹凸が形成されて、円形鋼管2とモルタル(充填材)との付着強度の向上が図られる。
また、上記円形鋼管2における鋼管矢板本管1への取付け部5とスリット2aとの間に形成される2つの円弧2b、2cのうち円弧長が長い側2bの円弧内面に対し、間隔保持材を構成するアングル3が溶接で取り付けられる。
【0025】
このアングル3は、図3に示すように、隣接する鋼管矢板Aの円形鋼管2同士を嵌合連結した際に、他方の円形鋼管2内にスリット2aを介して嵌合する嵌合部分6の内面から鋼管矢板本管1側に突出するように配置されて、管軸方向に延在している。このアングル3の嵌合部分6からの突出量は、上記対向する円形鋼管2の嵌合部分6で囲まれた嵌合空間B内に収まる大きさであるとともに、水ジェット噴出用および充填材注入用のパイプの径よりも大きいものとする。
【0026】
そして、従来と同様に、各鋼管矢板Aについて、上記図3に示すように、スリット2aを介して、その円形鋼管2を、隣接する鋼管矢板Aの円形鋼管2に嵌合させながら鋼管矢板Aを地盤中に打設し、続けて、継手部における内部空間内の土砂を掘削、排土、洗浄した後、その空間内にモルタルを充填して鋼管矢板A同士を連結する。これを目的とする閉鎖形状の位置に沿って実施する。さらに、構築した閉鎖形状の内部空間に頂版コンクリートを施工して鋼管矢板基礎とする。
【0027】
上記鋼管矢板Aを使用する際に、当該矢板Aを打設する地盤の硬さなどに不同があって、打設した鋼管矢板Aが若干斜めに打設されて継手部材である円形鋼管2にねじれなどの変形が発生する場合がある。この結果として、隣接する矢板Aにおける嵌合連結させる円形鋼管2(継手部材)が互いに離れる方向に変位してしまうと、円形鋼管2のスリット2aが開くように、当該円形鋼管2における鋼管矢板本管1への取付け部からスリット2a位置まで円周方向に延びる2つの円弧2b、2cのうちの円弧長が長い側2bが変形、特に、嵌合する円形鋼管2における互いの嵌合部分6が過度に変形して、当該対をなす嵌合部分6の対向距離が小さくなる。つまり、当該対向する嵌合部分6で囲まれる嵌合空間Bが平面視で潰れるように狭くなってしまう。
【0028】
しかし、本実施形態では、一方の嵌合部分6の内面から鋼管矢板本管1側に、つまり対向する嵌合部分6に向けてアングル3(間隔保持材)が突設しているため、他方の嵌合部分6内面が当該アングル3の突出方向先端部に当接すると、それ以上、両嵌合部分6の対向距離が狭まることが防止される。つまり、本実施形態の鋼管矢板Aを使用すると、対向する嵌合部分6で囲まれる嵌合空間Bが過度に狭くなることが確実に防止される。
【0029】
このため、その嵌合空間B内に対し、確実に所定の深度まで洗浄用のパイプを沈設できる。つまり、上記円形鋼管2の嵌合部分6内面全面に水ジェットを噴出できて、当該嵌合部分6内面の付着した土砂、特に凹部や凸部に付着した土砂が確実に除去される。
さらに、上記洗浄の後に、嵌合空間B内に所定深度までモルタルを注入するパイプを沈設でき、確実に所定深さまでモルタルを確実に充填できる。しかも、嵌合部分6内面は上述のように確実且つ十分に洗浄されているので、当該嵌合部分6内面の凹凸にモルタルが隙間無く噛み合うところまでモルタルが付着する。
【0030】
このように、継手部のせん断最大耐力を決定する嵌合空間Bに、モルタルが確実に充填され、しかも確実に嵌合部分6の内面全面にモルタルが付着する。
このように、本発明に基づく鋼管矢板Aを使用することで、大径の円形鋼管2を使用し且つ当該円形鋼管2内面に凹凸を設けることによる室内実験で確認したせん断耐力と同程度の大きなせん断耐力を、地盤に不同などがある現場においても確実に得ることができる。すなわち、上記のような継手部構造を持った鋼管矢板Aを使用すると、現場において、継手部に対し、充填されたモルタルとの付着強度が確実に向上させることができると共に、鋼管矢板Aの継手部のせん断耐力を、従来のP−P型継手部材に比べて、確実に、著しく向上させることができる。
【0031】
その結果、鋼管矢板基礎全体の曲げ剛性を、従来に比べて大きく増加させることができるため、以前は適用が困難であった大規模橋梁基礎にも、鋼管矢板基礎の適用が可能となる。
ここで、上記実施形態では、間隔保持材として上記のようなアングル3を例示したが、これに限定されない。例えば、図4に示すような帯板11であっても良い。また、図5に示すようなT形の板材12であっても良い。また、ここに示していない形状のものであっても上記機能を有するものであれば良い。
【0032】
また、上記実施形態では、間隔保持材を、管軸方向に沿って延在するアングル3などで構成する場合を例に説明しているが、管軸方向に沿って所定間隔を開けて複数の間隔保持材を断続的に取り付けてもよい。
また、嵌合部分6への間隔保持材の取り付けは、溶接に限定されない。例えば、円形鋼管2の長手方向端部に対して間隔保持材の端部をクランプ材で止める等によって嵌合部分6内面から間隔保持材が突出するように当該間隔保持材を嵌合部分6に取り付けても良い。
【0033】
また、図3では、アングル3を、嵌合する2つ円形鋼管2のうちの一方のみに配置しているが、これに限定されるものではなく、図6に示すように嵌合させる両方の円形鋼管2にそれぞれ配置しても良い。
また、間隔保持材の設置個所は、2箇所に限定されず、1箇所又は3箇所以上であっても良い。また、円形鋼管2の内面に設ける突起4の形態もチェッカー状の形態に限定されるものではなく、例えば、展開図である図7に示すような、複数個のスパイラル状のものや、展開図である図8に示すような管軸方向に垂直な複数個のリング状に近い模様を形成するようにしても良い。
【0034】
また、充填材としてモルタルを例示しているが、充填材はモルタルに限定されるものではなく、例えば、コンクリートなどであっても所定の圧縮強度が発揮されるものであれば良い。
また、上記実施形態では、円形鋼管2内面に凹凸を設けた場合を例に説明しているが、円形鋼管2内面に凹凸を形成しなくても良い。但し、本発明は、土砂が付きやすい凹凸を設けた場合に一番有効に効果が発揮される。
【0035】
次に、第2実施形態を図面を参照しつつ説明する。なお、上記第1実施形態と同様な部材には、同一の符号を付して説明する。
本実施形態の鋼管矢板Aの基本構造は、上記第1実施形態と同様であるが、図9に示すように、間隔保持材として小径の鋼管(以下、パイプ体7と呼ぶ)を使用した点が異なる。なお、パイプ体7は円形に限定されず図10のような角形等であっても良い。
【0036】
上記パイプ体7の外径は、上記嵌合空間Bに収まる大きさであるとともに、その内径は、水ジェット噴出用および充填材注入用のパイプの径よりも大きいものとする。
他の構成や作用・効果等は、上記第1実施形態と同様である。
ここで、図9では、パイプ体7を、嵌合する円形鋼管2の一方のみに配置しているが、これに限定されるものではなく、図11に示すように両方の円形鋼管2内面に配置しても良い。また、図示していないものの、一方の円形鋼管2内面に複数個のパイプ体7を配置しても良い。ただし、経済性などを考慮すると一方の円形鋼管2のみに1つのパイプ体7を配置するのが最も望ましい。
【0037】
また、パイプ体7内には、必ずしもモルタルを充填する必要はないが、パイプ体7内にモルタルを充填することで、パイプ体7の変形を防止する効果が期待でき、パイプ体7の変形に伴うモルタルと円形鋼管内面との付着強度の低下を防止できる。
次に、第3の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、上記第2実施形態と同様な部材には、同一の符号を付して説明する。
【0038】
本実施形態の鋼管矢板Aの基本構成は、上記第2の実施形態と同様な構成であるが、図12に示すように、パイプ体7に複数個の貫通孔8を設けた点のみが異なる。
第2の実施形態では、嵌合空間Bにモルタルを充填するのに、パイプ体7の中と外とで少なくとも2回に分けて実施する必要があるが、本実施形態にあっては、円形鋼管2における嵌合部分6の内面の突起4及び突起4間の凹部に付着した土砂を除去し、嵌合部分6の内面を洗浄するための水ジェットを噴出するためのパイプ、またはモルタルなどの充填材を注入するためのパイプを、上記パイプ体7の中に挿入し、このパイプ体7の中から例えば充填材を注入するだけで、パイプ体7の外の嵌合空間B部分にも充填材が充填できる。これにより、洗浄作業、充填材注入作業が各1回で済む。すなわち、施工効率が格段に向上することになる。このとき、図12のように、パイプ体7を嵌合部分6中央部に取り付けることが好ましい。
【0039】
また、パイプ体7がモルタル充填用パイプ等を下方に誘導する案内路を兼ねることとなる。
他の作用・効果は、上記各実施形態と同様である。
ここで、上記パイプ体7に設ける貫通孔8は、円形鋼管2の嵌合部分6内面の洗浄を、内面全面に渡って行えるように、パイプ体7の全面に渡って設けるのが良い。
【0040】
なお、上記本実施形態では、間隔保持材としてパイプ体7を例に説明しているが、第1実施例のようなアングル3等であっても良い。この場合であっても、アングル3等によって嵌合空間Bが分断されるが、貫通孔8を介して分断された空間が連通し、例えば、一方の空間に対してモルタルを注入することで他方の空間にもモルタルを充填することができる。
【0041】
また、貫通孔8は、丸孔に限定されず、長孔や、スリット状の孔等、その開口形状に限定はない。要は、モルタルなどが流出しやすければよい。
また、複数個の貫通孔8を設ける代わりに、図13に示すようにパイプ体7を円形鋼管2の管軸方向に沿って複数段に分割して配置したものでも良い。但し、一体のパイプ体7で構成した方が円形鋼管2への取付けが楽である。
【0042】
次に、第4実施形態について図面を参照しつつ説明する。本実施形態は、間隔保持材を円形鋼管2内面に取り付け無い場合の例である。図14に示すように、先行して打設した鋼管矢板Aの円形鋼管2内における嵌合空間B内に対して、間隔保持材としての小径鋼管9を打設した後に、次の鋼管矢板A′を打設して、当該矢板A′の円形鋼管2′を、上記先行矢板Aの円形鋼管2にスリット2aを介して嵌合連結したものである。
【0043】
本実施形態では、後行の矢板A′を打設する際に、小径鋼管9がセパレータとして働いて、対向する嵌合部分6で形成される嵌合空間Bが過度に狭くなることが防止される。
他の構成や作用・効果は上記実施形態と同様である。
なお、本実施形態では、別に小径鋼管9の打設作業があるものの、円形鋼管2内面に対して小径鋼管9を溶接する作業が不要となる。また、嵌合する一方の円形鋼管2にだけ間隔保持材を設けた場合には、間隔保持材を設けた矢板Aと、間隔保持材を設けない矢板Aとを交互に打設するように、矢板Aの種類を2種類用意して、交互に打設する必要があるが、本実施形態では、1種類の鋼管矢板Aを連続して打設すればよい。
【0044】
また、図14では、先行して打設した円形鋼管2内面(嵌合部内面)に接するように小径鋼管9が打設したようになっているが、当該嵌合部分6から所定距離だけ離して打設しても良い。すなわち、打設する間隔保持材の径や厚さは、小さくても良い。
また、上記説明では、打設する間隔保持材として小径鋼管9で例示しているが、アングル等の板状のものであっても良い。もっとも、打ち込みを考慮すると鋼管の方が良い。また、打設する間隔保持材は、杭体などであっても良い。また、1の嵌合空間Bに打設する間隔保持材も2以上であってもよい。
【0045】
また、上記説明では、先行して打設した一方の鋼管矢板Aの円形鋼管2内に間隔保持材を打設する場合を例に説明しているが、隣接する両鋼管矢板A′を打設する前に、予め各継手位置における嵌合空間Bを形成する予定の位置に小径鋼管9を打設しておいてから、嵌合連結する隣接する両鋼管矢板A、A′をそれぞれ打設するように施工しても良い。
【0046】
この場合には、先行して打設した小径鋼管9が、各鋼管矢板Aを打設する際の目印としての役割も持つ。
【0047】
【発明の効果】
以上説明してきたように、本発明を採用すると、鋼管矢板の継手部のせん断耐力の最大耐力を決定する嵌合空間に対し確実に所定の面積が確保できて、当該嵌合空間に確実にモルタル等の充填材を充填でき、且つ、当該嵌合空間を囲む円形鋼管の嵌合部分内面全面に十分に充填材を付着させることができるので、現場において、鋼管矢板の継手部に所定以上のせん断耐力を安定して持たせることができる。
【0048】
したがって、大きなせん断耐力を得ようとして円形鋼管内面に凹凸を設けた場合に、嵌合部分内面の土砂を確実に除去できるため、現場において、確実に大きなせん断耐力を得ることができる。
また、大きなせん断耐力を得ようとして円形鋼管を大径化しても、上記嵌合空間が過度に狭くなることが防止されるので、円形鋼管の大径化によるせん断耐力向上の効果を確実に得ることができる。
【0049】
このように、本発明を採用すると、継手部のせん断耐力を向上させる方法である、円形鋼管の内面に凹凸を設ける方法と、鋼管径を大きくする方法とを、単独若しくは組み合わせて使用しても、確実にせん断耐力を向上させることが可能となる。
間隔保持材に貫通孔を設けておくと、当該間隔保持材を設けても充填材の充填や洗浄の施工が効率的にできるという効果がある。
【0050】
請求項3若しくは請求項4に記載の鋼管矢板の連結構造を採用することで、鋼管矢板基礎全体の曲げ剛性を、従来に比べて大きく増加させることができるため、以前は適用が困難であった大規模橋梁基礎へも、鋼管矢板基礎の適用が可能になるという効果がある。
【0051】
このとき、請求項4に係る発明を採用すると、間隔保持材を円形鋼管内面に取り付ける作業を不要にできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に基づく第1実施形態に係る鋼管矢板を示す図であり、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図2】本発明に基づく第1実施形態に係る円形鋼管内面に形成する凹凸模様の例を示す図である。
【図3】本発明に基づく第1実施形態に係る間隔保持材を示す平面図である。
【図4】本発明に基づく第1実施形態に係る間隔保持材の別の例を示す平面図である。
【図5】本発明に基づく第1実施形態に係る間隔保持材の別の例を示す平面図である。
【図6】本発明に基づく第1実施形態に係る間隔保持材の別の取付け例を示す平面図である。
【図7】本発明に基づく第1実施形態に係る円形鋼管内面に形成する凹凸模様の別の例を示す図である。
【図8】本発明に基づく第1実施形態に係る円形鋼管内面に形成する凹凸模様の別の例を示す図である。
【図9】本発明に基づく第2実施形態に係る鋼管矢板を示す平面図である。
【図10】本発明に基づく第2実施形態に係る間隔保持材の別の例を示す平面図である。
【図11】本発明に基づく第2実施形態に係る間隔保持材の別の取付け例を示す平面図である。
【図12】本発明に基づく第3実施形態に係る鋼管矢板を示す図であり、(a)は平面図、(b)はそのX−X矢視図である。
【図13】本発明に基づく第3実施形態に係る鋼管矢板を示す別の図であり、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図14】本発明に基づく第4実施形態に係る鋼管矢板を説明する平面図である。
【図15】鋼管矢板基礎の例を示す図である。
【図16】従来の鋼管矢板の連結を示す図である。
【図17】鋼管外径とせん断耐力の関係を示す図である。
【図18】継手部における最大耐力を決定する部分を説明するための図である。
【図19】従来の問題点を説明するための図である。
【符号の説明】
A 鋼管矢板
B 篏合空間
1 鋼管矢板本管
2 円形鋼管
2a スリット
2b 長い側の円弧
2c 短い側の円弧
3 アングル(間隔保持材)
4 突起
6 篏合部分
7 パイプ体
8 貫通孔
9 小径鋼管
11 帯板(間隔保持材)
12 板材(間隔保持材)
Claims (4)
- 鋼管矢板本管の外面に対し、その鋼管矢板本管と軸を平行にして継手部材を構成する円形鋼管が取り付けられ、その円形鋼管には、軸方向に延びるスリットが形成されている鋼管矢板において、
上記円形鋼管の内面に凹凸を設けると共に、その円形鋼管における上記鋼管矢板本管への取付け部からスリット位置まで円周方向に延びる2つの円弧のうちの円弧長が長い側の当該円形鋼管部分に対し、その内面から鋼管矢板本管側に突出するように間隔保持材を取り付け、その間隔保持部材の突出量は、水ジェット噴出用及び充填材注入用のパイプの径よりも大きく且つ隣接する鋼管矢板の上記円形鋼管同士が前記スリットを介して互いに嵌合された際に当該嵌合される2つの円形鋼管の内面で囲まれる嵌合空間内に納まる量であり、且つ当該間隔保持部材は、嵌合空間が過度に狭くなることを防止するだけの剛性を有する鋼製であることを特徴とする鋼管矢板。 - 上記間隔保持材には、複数の貫通孔が設けられていることを特徴とする請求項1に記載した鋼管矢板。
- 鋼管矢板本管の外面に対し、その鋼管矢板本管と軸を平行にして継手部材を構成する円形鋼管が取り付けられ、その円形鋼管には、軸方向に延びるスリットが形成されている鋼管矢板の連結構造であって、隣接する鋼管矢板の少なくとも一方が請求項1又は請求項2のいずれかに記載の鋼管矢板であり、隣接する鋼管矢板の上記円形鋼管同士が上記スリットを介して互いに嵌合されてなると共に当該円形鋼管内に充填材が充填されてなることを特徴とする鋼管矢板の連結構造。
- 鋼管矢板本管の外面に対し、その鋼管矢板本管と軸を平行にして継手部材を構成する円形鋼管が取り付けられ、その円形鋼管には、軸方向に延びるスリットが形成されている鋼管矢板の連結構造であって、上記円形鋼管の内面に凹凸を設けると共に、隣接する鋼管矢板の上記円形鋼管同士が前記スリットを介して互いに嵌合されてなり、該嵌合される2つの円形鋼管の内面で囲まれる嵌合空間内には、軸を上下に向けた間隔保持材が打設され、その間隔保持材は、嵌合空間が過度に狭くなることを防止するだけの剛性を有する鋼製であり、且つ隣接する鋼管矢板本管の対向する方向の寸法が、水ジェット噴出用及び充填材注入用のパイプの径よりも大きく、当該打設された間隔保持材によって上記嵌合空間内に上記水ジェット噴出用及び充填材注入用のパイプを沈設可能な空間を確保することを特徴とする鋼管矢板の連結構造。
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