JP3569760B2 - 磁気共鳴装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、磁気共鳴装置に関し、特に、拡散計測のために発生させる傾斜磁場に基づく磁場不均一を抑制することを特徴とする磁気共鳴装置及びその方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
拡散計測とは、分子のブラウン運動などのランダムな運動を計測することである。磁気共鳴装置で通常観測している空間分解能の条件では生体中の分子のランダムな運動には、分子拡散以外にも毛細血管内の血流や細胞外液の流動によって生じる分子の運動が加味される。このため、生体中での分子のランダムな運動は、見かけ上の拡散とも呼ばれている。
【0003】
現在広く使用されている拡散計測方法はステッジュスカル及びタナー(Stejskal−Tanner)のパルスシーケンス(Journal of Chemical Physics誌、42号、288−292頁、1965年発行)を基礎としたものである。この方法は拡散による影響を測定するために、高周波磁場による核スピンの励起後、互いに補償しあう傾斜磁場を2回印加し、信号を取得するものである。ここで「互いに補償する」という意味は、もし分子が移動していなければ最初の傾斜磁場印加によって生じる核スピンの位相回転を次の傾斜磁場印加によって相殺するということである。拡散があると互いに補償しあう傾斜磁場を印加したとしても位相回転を完全に相殺することはできず、傾斜磁場の印加強度・時間に応じた割合で信号強度が減衰する。この二つの傾斜磁場は拡散傾斜磁場と呼ばれている。理想的な場合、信号強度の減衰は、拡散係数を指数とする指数関数で表される。このような信号をグラフで表した場合、横軸は傾斜磁場が信号強度の減衰率に与える影響を数値化したもので、傾斜磁場因子と呼ばれている。拡散強調画像はある一定の傾斜磁場因子を設定したときに得られる画像で、拡散係数の高い箇所が暗く強調された画像である。また、傾斜磁場因子を変化させて複数回の測定を行い、その信号強度の減衰率から拡散係数を求めることが可能である。この方法は、ラジオロジイ(Radiology)誌、168号、497−505頁、1988年発行に報告されている。拡散計測では拡散という分子の微小な運動を計測するために、生体の呼吸や拍動といった体動が画質の極端な劣化を引き起こすという問題があった。さらに、拡散係数を測定するためには、傾斜磁場因子を変化させて複数の画像を計測しなければならず、計測時間が長いという問題があった。これらの問題を解決するために、高速撮像方法と組み合わせた方法が提案されている(Radiology誌、177号、407−414頁、1990年発行)。この方法は、エコープラナー法(Echo Planar Imaging)という高速撮像方法と組み合わせたもので、計測時間を極端に短縮することが可能となり、体動による画質の劣化も低減することができる。この方法では強力な傾斜磁場を高速にスイッチングする振動リードアウト傾斜磁場を用いることで、データを高速に取得している。
【0004】
しかし、この方法では高強度の拡散傾斜磁場と高強度の振動リードアウト傾斜磁場の相乗作用による渦電流が発生し、磁場均一度が低下するという問題が生じた。ここでいう磁場均一度とは、静磁場発生用磁石の発生する静磁場と傾斜磁場の印加によって生じる渦電流が作り出す磁場とを加えた磁場の均一度を指す。通常、静磁場の均一度は、装置特性や装置の温度、対象物体の磁化率などに依存し、温度変化や対象物体の移動などが無い限り、時間的な変動はない。これに対し、渦電流による磁場の均一度は測定方法などによって変動する。磁場均一度の低下は、信号強度の低下を招き、拡散強調画像および拡散係数の測定精度を低下させる。この渦電流を低減する方法として、アクティブシールド傾斜磁場装置を用いる方法や振動傾斜磁場の波形をサイン波にする方法、拡散傾斜磁場の波形をサイン波にする方法(マグネチック・リゾネンス・イン・メディスン(Magnetic Resonance in Medicine)誌、20号、89−99頁、1991年発行)などが提案されているが、まだ十分な効果を上げていない。
【0005】
また、生体中に含まれる各代謝物質の拡散係数を測定する方法として、拡散スペクトロスコピックイメージングが提案されている。この方法では、通常の拡散計測よりもさらに測定時間がかかることから、測定時間の短縮のためにエコープラナー法と組み合わせた方法が提案されている(特開平7−184875)。この場合にも、上記渦電流の影響から磁場均一度が低下するという問題がある。拡散スペクトロスコピックイメージングでは、空間分解能が通常撮像よりも低いためにボクセル内での磁場均一度がより低下しやすくなる。それに伴い、信号強度の低下およびスペクトルピークの線幅の拡大による各代謝物の分離精度の低下を引き起こす。このため、拡散強調画像および拡散係数の測定精度が通常の撮像方法と比較して、より低下しやすくなる。
【0006】
なお、装置固有および対象物体の挿入に伴う静磁場不均一の補正方法は、例えばマグネチック・リゾネンス・イン・メディスン誌、18号、335−347頁、1991年発行に報告されている。また、測定対象領域に対して局所的に静磁場均一度を向上する方法は、例えば、特開平8−595に報告されている。この方法では、測定領域に対して傾斜磁場のオフセット磁場や静磁場均一度補正用のシムコイルに供給する電流値を変化させている。これらは静磁場不均一を低減するための方法で、上記のように拡散傾斜磁場等の印加に起因する磁場不均一を低減するものではなかった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上記従来技術では、印加する傾斜磁場によって生じる磁場不均一に起因して信号強度が低下してしまい、拡散係数や拡散強調画像を高精度に測定することは困難である。
【0008】
本発明の課題は、印加する傾斜磁場によって生じる磁場不均一の影響を低減し、拡散係数および拡散強調画像の高精度な測定を可能とする測定装置及びその方法を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明は、静磁場、傾斜磁場および高周波磁場の各磁場発生手段と、各磁場の印加を制御する制御手段を有し、対象物体中の分子の拡散を観察するために、拡散により信号減衰を生じせしめるための拡散傾斜磁場を印加する測定装置において、前記制御手段は前記拡散傾斜磁場に応じてオフセット磁場を前記傾斜磁場発生手段によって発生させることを特徴とするものである。
【0010】
また、本発明は、静磁場、傾斜磁場および高周波磁場の各磁場発生手段と、各磁場の印加を制御する制御手段を有し、対象物体中の分子の拡散を観察するために、拡散により信号減衰を生じせしめるための拡散傾斜磁場と、前記信号減衰の空間分布を得るための傾斜磁場とを印加する測定装置において、前記制御手段は前記拡散傾斜磁場に応じてオフセット磁場を前記傾斜磁場発生手段によって発生させることを特徴とするものである。
【0011】
通常、各傾斜磁場、特に拡散傾斜磁場の影響により装置の筐体などに渦電流が生じ、磁場均一度が低下するが、上記本発明のようにオフセット磁場を発生させることによって拡散傾斜磁場などによる渦電流を抑えることができ、磁場均一度の低下が回避できる。
【0012】
上記本発明において、前記拡散傾斜磁場の印加強度、印加時間、印加タイミングの少なくとも一つに応じてオフセット磁場を前記傾斜磁場発生手段によって発生させることが好ましい。
【0013】
さらに、本発明において、前記拡散傾斜磁場の印加方向に応じてその同じ印加方向でのオフセット磁場を前記傾斜磁場発生手段によって発生させることが好ましい。
【0014】
さらに、本発明において、前記傾斜磁場発生手段は、オフセット磁場を、信号取得時間にのみ付加してもよい。
【0015】
さらに、本発明において、前記拡散傾斜磁場の印加強度、印加時間、印加タイミングの少なくとも一つと前記傾斜磁場発生手段が発生するオフセット磁場との関係を前記制御手段に記憶し、前記関係を用いてオフセット磁場を設定することが好ましい。
【0016】
また、本発明は、静磁場、傾斜磁場および高周波磁場の各磁場発生手段と、磁場均一度補正用のシムコイルと、前記シムコイルの駆動手段と、各磁場の印加を制御する制御手段を有し、対象物体中の分子の拡散を観察するために、拡散により信号減衰を生じせしめるための拡散傾斜磁場を印加する測定装置において、前記制御手段は、静磁場不均一補正のために設定した電流値に、前記拡散傾斜磁場の印加強度、印加時間、印加タイミングの少なくとも一つに応じて定められた電流値を付加して再設定し、前記シムコイルの駆動手段により前記シムコイルに電流を供給することを特徴とするものである
さらに、本発明は、静磁場、傾斜磁場および高周波磁場の各磁場発生手段と、磁場均一度補正用のシムコイルと、前記シムコイルの駆動手段と、各磁場の印加を制御する制御手段を有し、対象物体中の分子の拡散を観察するために、拡散により信号減衰を生じせしめるための拡散傾斜磁場を印加する測定装置において、前記制御手段は、前記拡散傾斜磁場の印加に応じて、オフセット磁場を前記傾斜磁場発生手段によって発生させるとともに、静磁場不均一補正のために設定した前記シムコイルに供給する電流値に、前記拡散傾斜磁場の印加強度、印加時間、印加タイミングの少なくとも一つに応じて定められた電流値を付加して再設定し、前記シムコイル駆動手段により前記シムコイルに電流を供給することを特徴とするものである。
【0017】
すなわち、傾斜磁場発生手段の発生するオフセット磁場およびシムコイルに流す電流値を求めるために、予め各傾斜磁場の印加強度、印加時間、印加タイミングなどのパラメータと、設定するオフセット磁場およびシムコイルに流す電流値との関係を測定し、計算機に記憶しておく。本測定の際には、傾斜磁場の設定値と記憶しておいた関係とから、オフセット磁場およびシムコイルに流す電流値の設定値を算出する手段を有する。
【0018】
また、本発明は、高周波磁場、これによる対象物体中の分子信号を操作する傾斜磁場、及び対象物体中の分子の拡散を観察するために、拡散により信号減衰を生じせしめるための拡散傾斜磁場を印加するパルスシーケンスを用いる磁気共鳴測定方法において、前記拡散傾斜磁場の印加強度、印加時間、印加タイミングの少なくとも一つに応じてこのパルスシーケンスにオフセット磁場を付加する方法である。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【0020】
図2は本発明にかかる磁気共鳴装置の概略構成図である。図2において、1は静磁場H0を発生する磁石、2は対象物体、3は高周波磁場の発生と対象物体2から生じる磁気共鳴信号の検出のためのコイル、4、5、6はそれぞれX方向、Y方向およびZ方向の傾斜磁場を発生させるための傾斜磁場発生コイルである。7は上記各傾斜磁場発生コイル4、5、6に電流を供給するためのシムコイル駆動装置である。8は、静磁場均一度補正用のシムコイル、9は上記シムコイルに電流を供給するためのシムコイル駆動装置である。10は各磁場の発生タイミングおよび強度の制御と測定されたデータの演算を行うための計算機、11は計算機10での演算結果を表示するためのディスプレイである。
【0021】
次に本装置の動作の概要を説明する。対象物体2の核スピンを励起する高周波磁場H1は、シンセサイザ12により発生させた高周波を変調装置13で波形整形、電力増幅し、コイル3に電流を供給することにより発生させる。シムコイル駆動装置7から電流を供給された傾斜磁場発生コイル4、5、6は傾斜磁場を発生し、対象物体2からの磁気共鳴信号を変調する。該変調信号はコイル3により受信され、増幅器14で増幅、検波装置15で検波された後、計算機10に入力される。計算機10は演算後、演算結果をディスプレイ11で表現する。なお、計算機10は予めプログラムされたタイミング、強度で各装置が動作するように制御を行う。このプログラムの内、特に高周波磁場、傾斜磁場、信号受信のタイミングや強度を記述したものはシーケンスと呼ばれている。静磁場H0は、対象物体2の影響でわずかに変化する。これを補正するために、シムコイル駆動装置9から電流をシムコイル8に供給する。供給する電流値は計算機10により静磁場均一度を向上するように計算され、制御される。なお、傾斜磁場発生コイル4、5、6に一定の電流を供給することで、1次の傾斜を持った磁場不均一の補正に用いられる。
【0022】
次に、図3に本発明にかかる拡散計測のシーケンスの一例を示す。励起高周波磁場パルス21を印加し、対象物体に磁気共鳴現象を誘起する。高周波磁場パルス印加と同時にスライス傾斜磁場24を印加し、Z方向のスライスを選択する。反転高周波磁場パルス22を印加することで磁化を反転し、エコー23を発生させる。発生したエコー23はAD変換器でサンプリングされ、データとして格納される。また、AD変換器によるサンプリングと同時にX方向にリードアウト傾斜磁場25を印加し、X方向の位置情報をデータに付与する。また、Y方向の位置情報をデータに付与するために位相エンコード傾斜磁場26を印加し、繰り返し計測毎にその強度を変化させる。拡散の情報を付与するために励起高周波磁場パルス21と反転高周波磁場パルス22との間、および反転高周波磁場パルス22とエコー23との間に互いに補償する二つの拡散傾斜磁場27を印加する。該拡散傾斜磁場は、傾斜磁場発生コイル4から発生するX方向の傾斜磁場、傾斜磁場発生コイル5から発生するY方向の傾斜磁場、および傾斜磁場発生コイル6から発生するZ方向の傾斜磁場の合成または単独として与えられる。この二つの拡散傾斜磁場を強度の時間積分が等しくなるように調整する。このとき、もし拡散運動がなければ、第1番目の拡散傾斜磁場でディフェーズされた磁化の位相は、第2番目の拡散傾斜磁場で完全にリフェーズされ、拡散傾斜磁場が印加されない場合と比較して信号強度は減衰しない。しかし、拡散があれば完全にリフェーズできなくなるために、その激しさに応じた割合で信号強度が減衰する。理想的な状況では、この減衰は次の指数関数で表される。
【0023】
【数1】
Figure 0003569760
【0024】
ただし、Dは拡散係数、S0は傾斜磁場因子が0のときの信号強度、S(b)は傾斜磁場因子がbのときの信号強度である。なお、傾斜磁場因子b [s/m2]は拡散傾斜磁場の印加強度と印加時間によって決まる値で、次式で計算される。
【0025】
【数2】
Figure 0003569760
【0026】
ここで、Teはエコー時間[s]、γは磁気回転比[Hz/T]、G(τ)は時刻τでの傾斜磁場印加強度[T/m]である。拡散強調画像を測定する場合には、ある特定の傾斜磁場因子bを設定して画像を撮像する。また、拡散係数を測定する場合には、傾斜磁場因子bを変化させて少なくとも2回計測を行い、(数1)を用いてフィッティングを行う。
【0027】
測定時間を短縮し、生体の拍動や呼吸などの体動の影響を低減するためにエコープラナー法と組み合わせた方法が提案されている。図4にシーケンスの概略図を示す。リードアウト傾斜磁場24は振動傾斜磁場となり、位相エンコード傾斜磁場25は振動傾斜磁場のスイッチングと共に印加される。これにより、1回または数回の繰り返し計測で画像を作成することができる。拡散の情報を付与するための拡散傾斜磁場27は上記と同様に印加される。
【0028】
このとき、印加した傾斜磁場の影響により装置の筐体などに渦電流が生じ、磁場均一度が低下する。特に拡散傾斜磁場27とリードアウト傾斜磁場24は高強度で印加されるために強い影響を与える。また、拡散係数を測定するときには拡散傾斜磁場27の強度を変化させるため、その影響が変化する。例えば、拡散傾斜磁場27の印加強度を高くすると、磁場均一度が著しく低下し、信号強度が低くなる。このため、強い拡散強調画像は本来よりも低い値を示すようになる。また、得られた拡散係数は本来の値よりも高い値を示す。
【0029】
本発明では、傾斜磁場印加に伴う磁場均一度の低下を抑制するために、傾斜磁場コイル4、5、6およびシムコイル8に供給する電流を、印加する傾斜磁場に応じて変化させる。特に拡散傾斜磁場27に応じて供給する電流を変化させ、拡散強調画像および拡散係数の測定精度を向上させる。図1に本発明にかかるシーケンスの一例を示す。動作は上記シーケンスと同様であるが、拡散傾斜磁場の印加強度に応じて傾斜磁場のオフセット磁場を変化させている様子を概略的に示している。このオフセット磁場は、磁場均一度を最大にするように計算、制御される。なお、計算、制御の方法については、装置固有および対象物体を磁場内に挿入したときに生じる静磁場不均一を低減するための公知の技術を使用することができる。この技術は、例えば特開平8−595に報告されている。この方法では、予め傾斜磁場コイル4、5、6やシムコイル8に供給する電流と磁場分布との関係を測定し、その関係を計算機10に記憶しておく。そして、本測定の際、画像の位相差などから磁場不均一を求め、予め記憶しておいた関係を用いて磁場不均一を最小にするように、各コイルに供給する電流値を求めている。
【0030】
静磁場不均一と傾斜磁場印加による磁場不均一の両方を低減するために、次のような操作を行ってもよい。まず、拡散傾斜磁場を印加しない状態で静磁場不均一を最小にするオフセット磁場を計算する。次に印加する拡散傾斜磁場に応じたオフセット磁場を計算する。二つのオフセット磁場を加算して、その和をオフセット磁場として設定し、発生させる。
【0031】
図1では傾斜磁場コイル4、5、6に供給する電流を変化させて傾斜磁場のオフセット磁場を変化させているが、シムコイル8に供給する電流を変化させることで、空間的に2次以上の磁場不均一成分も補正することができ、さらに磁場均一度を向上することが可能である。ただし、装置構成上、シムコイルおよびシムコイル駆動装置は静磁場不均一補正を目的として設計されているために、急激な変動に対して安定するまでに時間を要する。このため、急激な変化が必要な場合には、傾斜磁場のオフセット磁場のみを変化させるか、シムコイル駆動装置の出力電流平滑化用ローパスフィルタの積分時定数を短縮することで安定した結果を得ることが可能となる。
【0032】
た、磁場均一度が低下する方向は主として拡散傾斜磁場27とリードアウト傾斜磁場24の方向であるため、その方向(図1ではX方向)のオフセット磁場のみを調整しても良い。また、図1では定常的なオフセット磁場で調整を行っているが、図5に示すように信号取得時間でのみ、オフセット磁場を調整しても良い。
【0033】
なお、磁場均一度の低下を引き起こす渦電流は主として装置筐体に生じるもので、対象物体2への依存性は低い。このため、予め拡散傾斜磁場強度とオフセット磁場との関係を求めて計算機10に記憶しておき、本測定の際に、記憶した関係を用いてオフセット磁場を設定しても良い。すなわち、本測定の際に磁場分布を測定してオフセット磁場を調整する手間を省略することが可能である。また、オフセット磁場は拡散傾斜磁場の印加強度だけではなく、その印加時間、印加タイミング、波形や、リードアウト傾斜磁場の印加強度、印加時間、印加タイミング、振動周期、波形や、スライス傾斜磁場と位相エンコード傾斜磁場の印加強度、印加時間、印加タイミングなど多くのパラメータに依存している。これら全部もしくは一部を用いてオフセット磁場を計算しても良い。
【0034】
なお、図1、図5ともにエコープラナー法を応用したシーケンスを元にオフセットを調整した概略図を書いているが、元となるシーケンスはこの方法に限らない。例えば、図3のシーケンスを元にしても良い。
【0035】
図6に測定結果の一例を示す。本発明の効果を確認するため、図5に示したシーケンスを用い、位相エンコード傾斜磁場26を印加せずにエコー23を測定し、オフセット調整をしない場合と比較した。(1)は、オフセットを調整しない場合、(2)は本発明によりオフセットを調整した場合を示している。各画像は次のようにして作成した。エコー23の一連のエコーを各エコーに分割し、それをフーリエ変換してX方向の投影像を作成した後、位相を計算した。横軸はX方向、縦軸はエコー番号をとった。白黒の縞は信号の位相を2値化して表現しており、白は0から180度、黒は0から−180度を示している。中心部分の縞模様は対象物体
のある領域、その周辺は雑音の領域である。(1)より縞模様の間隔がエコー番号が増加するにつれ狭くなっていること、すなわち位相の回転が増加していることが判る。これは磁場均一度が低く、その影響で後ろのエコーほどピークがずれ、位相が回転してしまっていることを示している。これに対し、(2)では(1)と比較して後ろのエコーでもほとんど位相の回転が見られず磁場均一度が高いことが判る。
【0036】
次に、本発明を拡散スペクトロスコピックイメージングに適用したシーケンスを図7に示す。励起高周波磁場パルス21を印加し、対象物体2に磁気共鳴現象を誘起する。高周波磁場パルス印加と同時にスライス傾斜磁場24を印加し、Z方向のスライスを選択する。反転高周波磁場パルス22を印加することで磁化を反転し、エコー23を発生させる。発生したエコー23はAD変換器によるサンプリングにて、データとして格納させる。また、AD変換器によるサンプリングと同時にX方向にリードアウト傾斜磁場25を印加し、化学シフト情報とX方向の位置情報をデータに付与する。また、Y方向の位置情報をデータに付与するために位相エンコード傾斜磁場26を印加し、繰り返し計測毎にその強度を変化させる。拡散の情報を付与するために励起高周波磁場パルス21と反転高周波磁場パルス22との間、および反転高周波磁場パルス22とエコー23との間に互いに補償する二つの拡散傾斜磁場27を印加する。拡散傾斜磁場27の印加強度および印加時間に応じて傾斜磁場オフセットを調整する。これにより、傾斜磁場印加による磁場不均一を抑制する。
【0037】
傾斜磁場オフセットの調整、およびシムコイルの利用などは、上記方法をそのまま利用することが可能である。また、図7ではエコープラナー法を応用した拡散スペクトロスコピックイメージングを元に書いてあるが、元になるシーケンスはこれに限らない。
【0038】
図8に測定結果の一例を示す。本発明の効果を確認するため、オフセット調整をしない場合と比較した。(1)はオフセット調整をしない場合、(2)はオフセット調整をした場合を示している。横軸は化学シフト、縦軸は信号強度、3本のグラフは典型的な3個所の画素における水とNーアセチルアラニンのスペクトルを表している。オフセット調整によりグラフのピークが揃ったこと、すなわち磁場均一度が向上したことが判る。特にスペクトロスコピックイメージングでは磁場均一度は重要である。例えば、通常のイメージングに比較して空間分解能が低いために1画素内での磁場不均一が大きくなり信号強度が減衰しやすくなること、ピークの線幅が広くなり代謝物の分離が困難になること、など磁場均一度の持つ意味は大きい。本発明により、磁場不均一による信号強度の低下やスペクトル分離能の低下を抑制可能となり、精度の高い拡散強調画像および拡散係数を測定することができる。
【0039】
【発明の効果】
以上の説明で明らかのように、本発明によれば、印加する傾斜磁場によって生じる磁場不均一の影響を抑制し、拡散強調画像および拡散係数の測定精度を向上することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかる基本的シーケンスの一例を示す図である。
【図2】本発明の適用装置の一例である磁気共鳴装置の装置構成を示す図である。
【図3】拡散計測に用いられる基本的シーケンスの一例を示す図である。
【図4】拡散計測に用いられるエコープラナー法を応用したシーケンスの一例を示す図である。
【図5】本発明にかかる基本的シーケンスの他の一例を示す図である。
【図6】本発明による測定結果の一例を示す図である。
【図7】本発明にかかる拡散スペクトロスコピックイメージングのシーケンスの一例を示す図である。
【図8】本発明にかかる拡散スペクトロスコピックイメージングによる測定結果の一例を示す図である。
【符号の説明】
1 静磁場発生用磁石
2 対象物体
3 高周波磁場発生および信号検出用コイル
4、5、6 傾斜磁場発生用コイル
7 コイル駆動装置
8 シムコイル
9 シムコイル駆動装置
10 計算機
11 ディスプレイ
12 シンセサイザ
13 変調装置
14 増幅器
15 検波装置
21 励起高周波磁場パルス
22 反転高周波磁場パルス
23 エコー
24 スライス傾斜磁場
25 リードアウト傾斜磁場
26 位相エンコード傾斜磁場
27 拡散傾斜磁場

Claims (2)

  1. 静磁場、傾斜磁場および高周波磁場の各磁場発生手段と、各磁場の印加を制御する制御手段を有し、対象物体中の分子の拡散を観察するために、拡散により信号減衰を生じせしめるための拡散傾斜磁場を印加する磁気共鳴装置において、前記制御手段は、前記拡散傾斜磁場の印加強度、印加時間、印加タイミングに応じてオフセット磁場を前記傾斜磁場発生手段によって発生させ、渦電流に伴う磁場不均一を補正することを特徴とする磁気共鳴装置。
  2. 静磁場、傾斜磁場および高周波磁場の各磁場発生手段と、磁場均一度補正用のシムコイルと、前記シムコイルの駆動手段と、各磁場の印加を制御する制御手段を有し、対象物体中の分子の拡散を観察するために、拡散により信号減衰を生じせしめるための拡散傾斜磁場を印加する磁気共鳴装置において、前記制御手段は、前記拡散傾斜磁場の印加強度、印加時間、印加タイミングに応じて、オフセット磁場を前記傾斜磁場発生手段によって発生させるとともに、静磁場不均一補正のために設定した前記シムコイルに供給する電流値に、前記拡散傾斜磁場の印加に応じて定められた電流値を付加して再設定し、前記シムコイル駆動手段により前記シムコイルに電流を供給し、渦電流に伴う磁場不均一を補正することを特徴とする磁気共鳴装置。
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