JP3569734B2 - 蛍光x線分析装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、分析しようとする成分からの蛍光X線の強度と、内標準元素からの蛍光X線やバックグラウンドの強度との比を用いる広義の内標準法を導入した蛍光X線分析装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、蛍光X線分析において、共存元素による吸収、励起の影響を補正するため、分析しようとする成分からの蛍光X線(分析線)の強度と、試料に所定量添加した内標準元素からの蛍光X線やバックグラウンド(内標準線)の強度との比を用いる内標準法があり、検量線法に導入されている。具体的には、標準試料を用いて、分析線と内標準線との測定強度比と、分析成分の含有率との相関関係である検量線を求めておき、分析対象の試料についての測定強度比に検量線を適用して、分析成分の含有率を算出する。
【0003】
ここで、検量線法には、いわゆるセミファンダメンタルパラメータ法(以下、SFP法という)が含まれる。SFP法では、組成を仮定した複数の試料から発生すべき蛍光X線の理論強度を計算し、その理論強度に基づいて蛍光X線の吸収および励起に関する理論マトリックス補正係数を計算しておき、その理論マトリックス補正係数を用いて補正した検量線を用いる。標準試料を用いてマトリックス補正係数を実験的に求める通常の検量線法については、種々の内標準線を用いる内標準法が導入されているが、SFP法については、X線管の特性X線の散乱線を用いる内標準法のみが導入されている(特許第3059403号の請求項1等参照)。
【0004】
一方、検量線法に対比されるものとして、ファンダメンタルパラメータ法(以下、FP法という)がある。FP法は、蛍光X線の測定強度に基づく理論強度スケールへの換算強度と、試料における各成分の含有率(試料の組成)を仮定して計算した蛍光X線の理論強度を対応する成分ごとに対比し、両強度が合致するように、仮定した各成分の含有率を逐次近似的に修正計算して、各成分の含有率を算出するもので、やはり、共存元素による吸収、励起の影響を補正できる。したがって、FP法に内標準法を導入する必要はないと考えられてきた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、前述したX線管の特性X線の散乱線を用いる内標準法を導入したSFP法においては、分析線と散乱線との間の波長に吸収端をもつ元素が試料に含まれている場合には、その元素の理論マトリックス補正係数が大きくなりすぎたり、試料が薄い場合には、厚さの影響が出たりするので、試料によっては十分正確な分析ができない。
【0006】
また、前述したように、FP法では、試料の全成分の含有率から各蛍光X線の理論強度を計算するため、例えば、鉱物粉末試料において、分析したいFe2O3 等の重元素成分の含有率に、鉱物効果や粒度効果により誤差の出やすいSi O2 、Al2O3 、Mg O等の軽元素成分の含有率が影響するので、やはり試料によっては十分正確な分析ができない。
【0007】
本発明は前記従来の問題に鑑みてなされたもので、蛍光X線分析装置において、内標準法の導入を拡大し、組成範囲の広い試料について十分正確な分析ができる装置を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するために、請求項1の蛍光X線分析装置は、試料に1次X線を照射するX線管と、試料から発生する2次X線の強度を測定する検出手段と、その検出手段で測定した蛍光X線の測定強度に基づく理論強度スケールへの換算強度と、試料における各成分の含有率を仮定して計算した蛍光X線の理論強度を対応する成分ごとに対比し、両強度が合致するように、前記仮定した各成分の含有率を逐次近似的に修正計算して、前記各成分の含有率を算出する算出手段とを備えている。すなわち、FP法で分析を行う蛍光X線分析装置である。ここで、算出手段が、指定された成分については、その成分からの蛍光X線の測定強度と試料に所定量添加されている内標準元素からの蛍光X線の測定強度との測定強度比に基づく理論強度スケールへの換算強度比と、前記指定された成分からの蛍光X線の理論強度と前記内標準元素からの蛍光X線の理論強度との理論強度比が合致するか否か対比する。
【0009】
請求項1の装置では、指定された成分については内標準元素からの蛍光X線を内標準線とする内標準法を導入したFP法で分析を行うので、鉱物粉末試料等において、指定した分析したい重元素成分の含有率に、鉱物効果や粒度効果による軽元素成分の含有率の誤差が影響しにくいという内標準法の作用が生じる。しかも、分析成分以外の重元素成分の含有率の変化により、分析成分についての強度比が変化しても、その変化も含めて適切に理論計算できるというFP法の作用も維持される。したがって、組成範囲の広い試料について十分正確な分析ができる。
【0010】
請求項2の蛍光X線分析装置も、算出手段等を備えてFP法で分析を行う。ここで、算出手段が、指定された成分については、その成分からの蛍光X線の測定強度とその蛍光X線のバックグラウンドの測定強度との測定強度比に基づく理論強度スケールへの換算強度比と、前記指定された成分からの蛍光X線の理論強度とその蛍光X線のバックグラウンドの理論強度との理論強度比が合致するか否か対比する。
【0011】
請求項2の装置では、指定された成分についてはその成分からの蛍光X線のバックグラウンドを内標準線とする内標準法を導入したFP法で分析を行うので、用いる内標準線の種類は異なるものの、前記請求項1の装置と同様の作用効果が得られる。また、例えば岩石中のSr 等の分析において、従来の技術で述べたバックグラウンドやX線管の特性X線の散乱線を内標準線とする内標準法を導入した通常の検量線法と異なり、試料の組成が大きく変化しても理論計算により適切に対応できる。したがって、やはり、組成範囲の広い試料について十分正確な分析ができる。
【0012】
請求項3の蛍光X線分析装置も、算出手段等を備えてFP法で分析を行う。ここで、算出手段が、指定された成分については、その成分からの蛍光X線の測定強度と前記X線管の特性X線の散乱線の測定強度との測定強度比に基づく理論強度スケールへの換算強度比と、前記指定された成分からの蛍光X線の理論強度と前記X線管の特性X線の散乱線の理論強度との理論強度比が合致するか否か対比する。
【0013】
請求項3の装置では、指定された成分についてはX線管の特性X線の散乱線を内標準線とする内標準法を導入したFP法で分析を行うので、用いる内標準線の種類は異なるものの、前記請求項2の装置と同様の作用効果が得られる。
【0014】
請求項4の蛍光X線分析装置は、試料に1次X線を照射するX線管と、試料から発生する2次X線の強度を測定する検出手段と、試料における指定された成分については、前記検出手段で測定した前記指定された成分からの蛍光X線の測定強度と試料に所定量添加されている内標準元素からの蛍光X線の測定強度との測定強度比に、あらかじめ標準試料を用いて求められた測定強度比と前記指定された成分の含有率との相関関係である検量線を適用し、前記指定された成分の含有率を算出する算出手段とを備えている。すなわち、指定された成分については内標準元素からの蛍光X線を内標準線とする内標準法を導入した検量線法で分析を行う蛍光X線分析装置である。ここで、組成を仮定した複数の試料について前記指定された成分からの蛍光X線の理論強度と前記内標準元素からの蛍光X線の理論強度との理論強度比が計算され、その理論強度比に基づいて蛍光X線の吸収および励起に関して前記指定された成分を被補正成分とする理論マトリックス補正係数があらかじめ計算され、その理論マトリックス補正係数により前記検量線が補正されている。すなわち、検量線法に含まれるSFP法で分析を行う。
【0015】
請求項4の装置では、指定された成分については内標準元素からの蛍光X線を内標準線とする内標準法を導入したSFP法で分析を行うので、検量線法を用いるものの、理論マトリックス補正係数によりFP法と同様の作用も生じ、前記請求項1の装置と同様の作用効果が得られる。
【0016】
請求項5の蛍光X線分析装置は、算出手段等を備えて、指定された成分についてはその成分からの蛍光X線のバックグラウンドを内標準線とする内標準法を導入した検量線法で分析を行う。ここで、組成を仮定した複数の試料について前記指定された成分からの蛍光X線の理論強度とその蛍光X線のバックグラウンドの理論強度との理論強度比が計算され、その理論強度比に基づいて蛍光X線の吸収および励起に関して前記指定された成分を被補正成分とする理論マトリックス補正係数があらかじめ計算され、その理論マトリックス補正係数により前記検量線が補正されている。すなわち、やはり、検量線法に含まれるSFP法で分析を行う。
【0017】
請求項5の装置では、指定された成分についてはその成分からの蛍光X線のバックグラウンドを内標準線とする内標準法を導入したSFP法で分析を行うので、従来の技術で述べたX線管の特性X線の散乱線を用いる内標準法を導入したSFP法と異なり、分析線と散乱線との間の波長に吸収端をもつ元素が試料に含まれている場合にも、その元素の理論マトリックス補正係数が大きくなりすぎることがなく、試料が薄い場合にも、厚さの影響が出にくい。したがって、組成範囲の広い試料について十分正確な分析ができる。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の第1実施形態の装置について、図1にしたがって説明する。まず、この装置の構成について説明する。この装置は、試料13が載置される試料台8と、試料13に1次X線2を照射するX線管1と、試料13から発生する蛍光X線等の2次X線4の強度を測定する検出手段10とを備えている。検出手段10は、試料13から発生する2次X線4を分光する分光素子5と、分光素子5で分光された2次X線6の強度を測定する検出器7とを含む。また、この装置は、検出手段10で測定した蛍光X線4の測定強度に基づく理論強度スケールへの換算強度と、試料13における各成分の含有率を仮定して計算した蛍光X線の理論強度を対応する成分ごとに対比し、両強度が合致するように、前記仮定した各成分の含有率を逐次近似的に修正計算して、前記各成分の含有率を算出する算出手段16を備えている。すなわち、第1実施形態の装置は、FP法で分析を行う蛍光X線分析装置である。
【0019】
ここで、この装置の算出手段16は、指定された成分については、その成分からの蛍光X線4の測定強度と試料13に所定量添加されている内標準元素からの蛍光X線4の測定強度との測定強度比に基づく理論強度スケールへの換算強度比と、前記指定された成分からの蛍光X線の理論強度と前記内標準元素からの蛍光X線の理論強度との理論強度比が合致するか否か対比する。
【0020】
次に、第1実施形態の装置の動作について、酸化物粉末Co2O3 の形でCo が所定量添加された鉄鉱石を試料13とし、成分Fe について内標準元素をCo とする内標準法を適用するよう指定して分析する場合を例にとり、説明する。まず、試料台8に載置した試料13に1次X線2を照射して、試料13の各成分(元素)から発生する蛍光X線4の強度を測定する。この測定強度に基づいて、算出手段16が、FP法により、例えば以下の手順で各成分の含有率を算出する。
【0021】
(ステップ1)
各測定強度に基づく換算強度を求める。すなわち、各成分について、測定強度を装置感度係数を用いて理論強度スケールに換算する。装置感度係数は、この装置または同型の装置で標準試料3を測定して求め、算出手段16に記憶させておくが、その際、指定されたFe については、次式(1)により求める。
【0022】
【数1】
【0023】
そのようにして求めた装置感度係数AFe,BFe,CFeを用いた式(1)の右辺に、Fe からの蛍光X線Fe −Kβ1線の測定強度と内標準元素Co からの蛍光X線Co −Kα線の測定強度との測定強度比を代入することにより、その測定強度比を理論強度スケールに換算した換算強度比を求める。他の成分については、従来と同様に内標準法を適用しない通常のFP法で分析するので、内標準線の強度との比をとらずに該当成分からの蛍光X線(分析線)の強度をそのまま用いる式により装置感度係数を求め、その式に分析線の測定強度を代入することにより、その測定強度を理論強度スケールに換算した換算強度を求める。
【0024】
(ステップ2)
各成分についての換算強度とその成分の純物質からの蛍光X線の理論強度との強度比から、各成分の含有率の初期値を仮定する。
【0025】
(ステップ3)
そのように仮定した組成から、各蛍光X線(内標準線も含む)の理論強度を計算する。指定されたFe については、内標準線の理論強度との理論強度比も計算する。
【0026】
(ステップ4)
指定されたFe については、ステップ1で求めた換算強度比とステップ3で計算した理論強度比から、次式(2)により含有率の更新を行う。他の成分については、ステップ1で求めた換算強度とステップ3で計算した理論強度とから、同様に含有率の更新を行う。なお、内標準元素Co については、既知の所定量添加されているので、含有率は固定値とする。
【0027】
【数2】
【0028】
(ステップ5)
各成分について、n回目の含有率とn+1回目の含有率を比較し、すべての成分の含有率の変化が所定値以下になったときに収束とする。収束していないときには、ステップ3以降の手順を繰り返す。
【0029】
すなわち、ステップ1で求めた換算強度と、ステップ2で各成分の含有率を仮定してステップ3で計算した蛍光X線の理論強度を、ステップ4、5で対応する成分ごとに対比し、ステップ3〜5を繰り返すことで、両強度が合致するように、仮定した各成分の含有率を逐次近似的に修正計算して、各成分の含有率を算出する。ここで、指定されたFe については、分析線Fe −Kβ1線の換算強度と理論強度に代えて、ステップ1で求めた換算強度比と、ステップ3で計算した理論強度比を、ステップ4、5で対比し、ステップ3〜5の繰り返しでは、両強度比が合致するように、仮定したFe の含有率を逐次近似的に修正計算する。
【0030】
以上のような構成、動作の第1実施形態の装置による作用効果を説明するため、表1のような3つの組成の鉄鉱石を仮定し、計算した各理論強度を表2に示す。
【0031】
【表1】
【0032】
【表2】
【0033】
前述したように、FP法では、試料の全成分の含有率から各蛍光X線の理論強度を計算するため、例えば、鉱物粉末試料において、分析したいFe2O3 等の重元素成分の含有率に、鉱物効果や粒度効果により誤差の出やすいSi O2 、Al2O3 、Mg O等の軽元素成分の含有率が影響する。これに対し、表1、2で、試料1−1と1−2とは、軽元素成分Si O2 、Mg Oのみにおいて含有率を変えたものであるが、その変化は、Fe についての理論強度には影響しているものの、Fe についての理論強度比にはほとんど影響していない。これは、ある鉄鉱石を試料としてその成分Fe2O3 についてFP法で分析する場合に、仮に軽元素成分Si O2 、Mg Oの含有率に鉱物効果や粒度効果により10%程度の誤差が出るとしても、第1実施形態の装置のように、分析したい重元素成分Fe2O3 についてCo −Kα線を内標準線とする内標準法を適用すれば、算出されるFe2O3 の含有率にはほとんど影響しないということを示している。
【0034】
一方、Ti O2 のような重元素成分の含有率には鉱物効果や粒度効果による誤差は出にくいものの、表1、2で、試料1−1からTi O2 の含有率を10%増加させた試料1−3では、Fe についての理論強度比が大きくなっている。これは、分析成分以外の重元素成分の含有率の変化により、分析成分についての強度比が実際に変化する場合に、第1実施形態の装置のようにFP法によれば、従来の内標準法を導入した通常の検量線法と異なり、本来的に、その変化も含めて適切に理論計算できるということを示している。したがって、第1実施形態の装置によれば、組成範囲の広い試料13について十分正確な分析ができる。
【0035】
次に、本発明の第2実施形態の装置の構成について説明する。この装置も、前記第1実施形態の装置と同様に、試料台8、X線管1、検出手段10および算出手段26を備え、FP法で分析を行う蛍光X線分析装置である。ここで、第2実施形態の装置の算出手段26は、指定された成分については、その成分からの蛍光X線4の測定強度とその蛍光X線4のバックグラウンドの測定強度との測定強度比に基づく理論強度スケールへの換算強度比と、前記指定された成分からの蛍光X線の理論強度とその蛍光X線のバックグラウンドの理論強度との理論強度比が合致するか否か対比する。
【0036】
すなわち、動作でいえば、前記第1実施形態の装置では、試料13に所定量添加されている内標準元素からの蛍光X線4を内標準線としたが、第2実施形態の装置では、指定された成分からの蛍光X線4のバックグラウンドを内標準線とする点のみが異なる。例えば、岩石を試料13とし成分Sr について内標準法を適用するよう指定して分析する場合、分析線Sr −Kα線に対し、Sr −Kα線のバックグラウンドを内標準線とする。したがって、第2実施形態の装置では、試料13に内標準元素を所定量添加しておく必要はない。
【0037】
第2実施形態の装置では、指定された成分についてはその成分からの蛍光X線のバックグラウンドを内標準線とする内標準法を導入したFP法で分析を行うので、用いる内標準線の種類は異なるものの、前記第1実施形態の装置と同様の作用効果が得られる。また、例えば岩石である試料13中のSr 等の分析において、従来の技術で述べたバックグラウンドやX線管の特性X線の散乱線を内標準線とする内標準法を導入した通常の検量線法と異なり、試料13の組成が大きく変化しても理論計算により適切に対応できる。したがって、やはり、組成範囲の広い試料13について十分正確な分析ができる。
【0038】
次に、本発明の第3実施形態の装置の構成について説明する。この装置も、前記第1実施形態の装置と同様に、試料台8、X線管1、検出手段10および算出手段36を備え、FP法で分析を行う蛍光X線分析装置である。ここで、第3実施形態の装置の算出手段36は、指定された成分については、その成分からの蛍光X線4の測定強度と前記X線管1の特性X線の散乱線4の測定強度との測定強度比に基づく理論強度スケールへの換算強度比と、前記指定された成分からの蛍光X線の理論強度と前記X線管1の特性X線の散乱線の理論強度との理論強度比が合致するか否か対比する。
【0039】
すなわち、動作でいえば、前記第1実施形態の装置では、試料13に所定量添加されている内標準元素からの蛍光X線4を内標準線としたが、第3実施形態の装置では、X線管1の特性X線の散乱線4を内標準線とする点のみが異なる。例えば、岩石を試料13とし成分Sr について内標準法を適用するよう指定し、X線管1にRh 管球を用いて分析する場合、分析線Sr −Kα線に対し、X線管1の特性X線Rh −Kα線のコンプトン散乱線を内標準線とする。したがって、第3実施形態の装置でも、前記第2実施形態の装置と同様に、試料13に内標準元素を所定量添加しておく必要はない。
【0040】
第3実施形態の装置では、指定された成分についてはX線管1の特性X線の散乱線を内標準線とする内標準法を導入したFP法で分析を行うので、用いる内標準線の種類は異なるものの、前記第2実施形態の装置と同様の作用効果が得られる。
【0041】
次に、本発明の第4実施形態の装置について、図1にしたがって説明する。まず、この装置の構成について説明する。この装置は、前記第1実施形態の装置と同様に、試料台8、X線管1および検出手段10を備えている。そして、試料13における指定された成分については、検出手段10で測定した前記指定された成分からの蛍光X線4の測定強度と試料13に所定量添加されている内標準元素からの蛍光X線4の測定強度との測定強度比に、検量線を適用し、前記指定された成分の含有率を算出する算出手段46を備えている。この検量線は、あらかじめ標準試料3を用いて検量線定数を算出して求められたもので、測定強度比と前記指定された成分の含有率との相関関係であり、算出手段46に記憶されている。すなわち、第4実施形態の装置は、指定された成分については内標準元素からの蛍光X線を内標準線とする内標準法を導入した検量線法で分析を行う蛍光X線分析装置である。
【0042】
ここで、この装置の算出手段46では、前記検量線が、前記指定された成分を被補正成分とする理論マトリックス補正係数により、補正されている。この理論マトリックス補正係数は、現実の標準試料を用いずに、前記指定された成分からの蛍光X線の理論強度と前記内標準元素からの蛍光X線の理論強度との理論強度比を用いてあらかじめ求められたものである。すなわち、第4実施形態の装置は、検量線法に含まれるSFP法で分析を行う。
【0043】
次に、この装置の算出手段46に記憶させておく前記検量線(理論マトリックス補正係数を含む)の求め方について説明する。なお、この求め方は、内標準線としてX線管の特性X線のコンプトン散乱線を用いる前記特許第3059403号の発明における求め方と比較すると、用いる内標準線の種類が異なる。
【0044】
蛍光X線分析において、一般には、試料13に、主成分たる金属元素や共存元素が、一形態の酸化物としてのみ含まれる場合には、酸化物として取扱いその含有率を分析し、元素単体としてのみ含まれる場合には、元素単体として取扱いその含有率を分析する。本実施形態においては、Fe O,Fe2O3 等異なる形態で鉄(Fe )を含む鉄鉱石を試料13として簡単に取り扱うために、主要成分を鉄単体と仮定して鉄の含有率を分析する。具体的には、試料13を、鉄単体である主要成分と、共存成分のうちの加補正成分すなわち二酸化珪素、酸化カルシウム等と、共存成分のうちベース成分として指定する残分すなわち酸素とからなるものと仮定する。
【0045】
ここで、主要成分とは、指定された成分であって、蛍光X線と内標準線との強度比による検量線を求めるものをいい、加補正成分とは、蛍光X線による検量線を求めるものをいい、その含有率の分析値は主要成分の分析値の補正に用いられる。また、主要成分は、試料13において、必ずしも1つとは限らず、例えば、本実施形態においては、酸化マンガンを加補正成分として取り扱うが、蛍光X線と内標準線との強度比による検量線を求めて主要成分として取り扱う方が、全体として正確な分析ができるのであれば、鉄以外に酸化マンガンをも主要成分としてもよい。
【0046】
さて、算出手段46において、鉄についての検量線(次式(3))と鉄からみた共存元素iを含む加補正成分についての検量線(次式(4))の繰り返し計算により、試料13における鉄の含有率WFeおよび加補正成分の含有率Wi が求められる。なお、式(4)にいう共存元素jは、元素iからみた共存元素jであり、鉄も含まれる。
【0047】
【数3】
【0048】
【数4】
【0049】
ここで、式(3)は、内標準元素が所定量添加される試料について鉄と酸素のみからなる組成を基準とした検量線(以下、後述する仮想検量線と区別するため、基準検量線という。)を表す式であり、右辺の第1かっこ内の式は、その基準検量線による未補正の鉄の含有率を示し、基準検量線定数a,b,cを含んでいる。第2かっこ内の式は、鉄の蛍光X線4の吸収および励起に関する補正項であり、内標準元素が所定量添加される試料について鉄と酸素のみからなる組成を基準として補正する、共存元素jの鉄に対するマトリックス補正係数αj を含んでいる。従来の通常の検量線法では、標準試料3を測定して、基準検量線定数a,b,cとマトリックス補正係数αj のいずれも実験的に求めていた。SFP法を用いる本実施形態では、マトリックス補正係数αj を、現実の標準試料3を用いずに、標準試料を仮定して理論的に求め、理論マトリッス補正係数として算出手段46に記憶させておく。なお、式(3)において、簡単のため、αFej と表記すべきところをαj と、aFe,bFe,cFeをa,b,cと、添字Feを略して表記している。
【0050】
本実施形態では、試料13である鉄鉱石として代表的な組成を有して鉄の含有率がWFem であって、内標準元素コバルト(Co )が所定量添加された第1仮想試料を仮定し、その仮定した組成に基づいて、第1仮想試料中の鉄から発生する蛍光X線の理論強度と、第1仮想試料中のコバルトから発生する蛍光X線の理論強度とを計算し、両強度の比を算出して第1仮想強度比T1IFeとする。この理論強度の計算は、従来より、FP法において行われているものである。また、第1仮想試料と比較し、鉄の含有率が一定量ΔWFeだけ多く、酸素の含有率がその分ΔWFeだけ少なく、その他の含有率は変わらない第2仮想試料を仮定し、その仮定した組成に基づいて、同様に第2仮想強度比T2IFeを算出する。そして、第1および第2仮想強度比T1IFe,T2IFeと、第1および第2仮想試料における鉄の含有率WFem ,WFem +ΔWFeとの相関関係を、直線である仮想検量線として、次式(5)の形で求める。この仮想検量線は、代表的な組成を基準とするものである。なお、添字T は仮想に基づく数値であることを意味する。
【0051】
【数5】
【0052】
さらに、第1仮想試料と比較し、1つの加補正成分たとえば二酸化珪素の含有率が一定量ΔWSiだけ多く、酸素の含有率がΔWSiだけ少なく、その他の含有率は変わらない第3仮想試料を仮定し、その仮定した組成に基づいて、前記と同様に第3仮想強度比T3IFeを算出し、その第3仮想強度比T3IFeに前記仮想検量線すなわち式(5)を適用して、第3仮想試料における鉄の含有率 TXFeを求める。第3仮想試料の鉄の含有率は、第1仮想試料と同じ含有率で仮定しており、第3仮想試料は、加補正成分において二酸化珪素のみΔWSiだけ多いことから、珪素の鉄に対する仮想補正係数 TαSiを次式(6)から求める。このとき、WFe=WFem である。
【0053】
【数6】
【0054】
同様にして、加補正成分ごとに、第3仮想試料を仮定し、代表的な組成を基準として補正する、鉄に対する仮想補正係数 Tαj を、次式(7)から求める。
【0055】
【数7】
【0056】
なお、第3仮想試料における共存元素jを含む加補正成分の含有率Wj は、第1仮想試料すなわち代表的な組成における同成分の含有率Wjmとは、次式(8)の関係にある。
【0057】
【数8】
【0058】
この式(8)を式(7)に代入すると、次式(9)のように変形できる。
【0059】
【数9】
【0060】
ここで、式(9)の TXFeと第1かっこの積に注目し、式(7)と比較してみると、 TXFeは、ある試料についての、代表的な組成を基準とする仮想検量線による未補正の鉄の含有率であり、第1かっこ内の式は、その試料が、代表的な組成よりも共存元素jを含む加補正成分の含有率がWjmだけ少ない、すなわち加補正成分を含まないものであり、それに応じた補正を加えることを意味している。つまり、この TXFeと第1かっこの積は、鉄と酸素のみからなる試料の補正後の鉄の含有率を表し、さらに換言すると、次式(10)に示すように、加補正成分も含み得る試料13についての、鉄と酸素のみからなる組成を基準とする基準検量線による未補正の鉄の含有率XFeである。
【0061】
【数10】
【0062】
したがって、このXFeは、次式(11)に示すように、式(3)の右辺の第1かっこ内の式と同一である。
【0063】
【数11】
【0064】
また、式(9)と式(3)とはどちらも補正後の鉄の含有率WFeを表すから、式(9)は、次式(12)のように置くことによって、次式(13)のように変形できる。
【0065】
【数12】
【0066】
【数13】
【0067】
すなわち、式(12)を用いて、鉄とコバルトの蛍光X線6の強度比による検量線を用いて分析する場合において、代表的な組成を基準として補正する仮想補正係数 Tαj および代表的な組成における加補正成分の含有率Wjmから、鉄および酸素のみからなる組成を基準として補正するマトリックス補正係数αj が求められ、理論マトリックス補正係数として算出手段46に記憶される。なお、加補正成分についての検量線すなわち式(4)における補正係数αijには、従来のSFP法と同様に、公知の理論値が用いられる。また、前述したように、式(3)における基準検量線定数a,b,cは、従来の通常の検量線法と同様に実験的に求められる。式(4)における検量線定数ai ,bi ,ci も、同様に実験的に求められる。
【0068】
したがって、鉄についての基準検量線(式(3))と加補正成分についての検量線(式(4))が求められ、それぞれ指定された成分である鉄についての検量線およびその他の成分についての検量線として、算出手段46に記憶される。
【0069】
次に、第4実施形態の装置の動作について、酸化物粉末Co2O3 の形でCo が所定量添加された鉄鉱石を試料13とし、成分Fe について内標準元素をCo とする内標準法を適用するよう指定して分析する場合を例にとり、説明する。まず、試料台8に載置した試料13に1次X線2を照射して、試料13の各成分(元素)から発生する蛍光X線4の強度を測定する。この測定強度に基づいて、算出手段46が、内標準法を導入したSFP法により各成分の含有率を算出する。
【0070】
具体的には、指定された成分Fe については、検出手段10で測定した分析線Fe −Kβ1 線の測定強度と内標準線Co −Kα線の測定強度との測定強度比に、式(3)の検量線を適用し、他の成分については、従来のSFP法と同様に、検出手段10で測定した各分析線の測定強度に、式(4)の検量線を適用し、全式を連立させて、Fe の含有率を算出する。
【0071】
第4実施形態の装置では、指定された成分については内標準元素からの蛍光X線を内標準線とする内標準法を導入したSFP法で分析を行うので、検量線法を用いるものの、理論マトリックス補正係数によりFP法と同様の作用も生じ、前記第1実施形態の装置と同様の作用効果が得られる。
【0072】
次に、本発明の第5実施形態の装置の構成について説明する。この装置も、前記第4実施形態の装置と同様に、試料台8、X線管1および検出手段10を備えている。そして、試料13における指定された成分については、検出手段10で測定した前記指定された成分からの蛍光X線4の測定強度とその蛍光X線4のバックグラウンドの測定強度との測定強度比に、検量線を適用し、前記指定された成分の含有率を算出する算出手段56を備えている。この検量線は、あらかじめ標準試料3を用いて検量線定数を算出して求められたもので、測定強度比と前記指定された成分の含有率との相関関係であり、算出手段56に記憶されている。すなわち、第5実施形態の装置は、指定された成分についてはその成分からの蛍光X線のバックグラウンドを内標準線とする内標準法を導入した検量線法で分析を行う蛍光X線分析装置である。
【0073】
ここで、この装置の算出手段56では、前記検量線が、前記指定された成分を被補正成分とする理論マトリックス補正係数により、補正されている。すなわち、やはり、検量線法に含まれるSFP法で分析を行う。理論マトリックス補正係数は、現実の標準試料を用いずにあらかじめ求められるが、第5実施形態の装置で用いられるのは、前記指定された成分からの蛍光X線の理論強度とその蛍光X線のバックグラウンドの理論強度との理論強度比を用いて求められたものである。
【0074】
第5実施形態の装置の算出手段56に記憶させておく前記検量線(理論マトリックス補正係数を含む)は、前述した第4実施形態の装置での求め方における内標準線を、内標準元素からの蛍光X線4から、指定された成分からの蛍光X線4のバックグラウンドに置き換えることにより、求めることができる。
【0075】
したがって、動作でいえば、前記第4実施形態の装置では、試料13に所定量添加されている内標準元素からの蛍光X線4を内標準線としたが、第5実施形態の装置では、指定された成分からの蛍光X線4のバックグラウンドを内標準線とする点のみが異なる。例えば、岩石を試料13とし成分Sr について内標準法を適用するよう指定して分析する場合、分析線Sr −Kα線に対し、Sr −Kα線のバックグラウンドを内標準線とする。したがって、第5実施形態の装置では、試料13に内標準元素を所定量添加しておく必要はない。
【0076】
第5実施形態の装置では、指定された成分についてはその成分からの蛍光X線のバックグラウンドを内標準線とする内標準法を導入したSFP法で分析を行うので、従来の技術で述べたX線管の特性X線の散乱線を用いる内標準法を導入したSFP法と異なり、まず、分析線と散乱線との間の波長に吸収端をもつ元素が試料に含まれている場合にも、その元素の理論マトリックス補正係数が大きくなりすぎて誤差が大きくなることがない。例えば、岩石を試料13とし成分Sr について分析する場合の、Sr に対する加補正成分の理論マトリックス補正係数において、第5実施形態の装置で用いる、Sr −Kα線とそのバックグラウンドとの測定強度比に適用する検量線を補正するもの(式(3)のαj )を、内標準法を導入しない通常のSFP法で用いる、Sr −Kα線の測定強度に適用する検量線を補正するもの(式(4)のαijに相当)と比較すると、表3のようになる。なお、Si O2 をベース成分としている。
【0077】
【表3】
【0078】
すなわち、第5実施形態の装置では、分析する成分Sr に対する加補正成分の理論マトリックス補正係数は、いずれも十分に小さいので、加補正成分の分析誤差の、Sr の分析に対する影響も十分に小さい。
【0079】
また、第5実施形態の装置では、試料が薄い場合にも、厚さの影響が出にくい。したがって、組成範囲の広い試料について十分正確な分析ができる。
【0080】
【発明の効果】
以上詳細に説明したように、内標準法の導入を拡大したFP法やSFP法で分析を行う本発明の蛍光X線分析装置によれば、組成範囲の広い試料について十分正確な分析ができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1ないし第5実施形態の蛍光X線分析装置を示す概略図である。
【符号の説明】
1…X線管、2…1次X線、3…標準試料、4…試料から発生する2次X線、10…検出手段、13…試料、16,26,36,46,56…算出手段。
Claims (5)
- 試料に1次X線を照射するX線管と、
試料から発生する2次X線の強度を測定する検出手段と、
その検出手段で測定した蛍光X線の測定強度に基づく理論強度スケールへの換算強度と、試料における各成分の含有率を仮定して計算した蛍光X線の理論強度を対応する成分ごとに対比し、両強度が合致するように、前記仮定した各成分の含有率を逐次近似的に修正計算して、前記各成分の含有率を算出する算出手段とを備えた蛍光X線分析装置において、
前記算出手段が、指定された成分については、その成分からの蛍光X線の測定強度と試料に所定量添加されている内標準元素からの蛍光X線の測定強度との測定強度比に基づく理論強度スケールへの換算強度比と、前記指定された成分からの蛍光X線の理論強度と前記内標準元素からの蛍光X線の理論強度との理論強度比が合致するか否か対比することを特徴とする蛍光X線分析装置。 - 試料に1次X線を照射するX線管と、
試料から発生する2次X線の強度を測定する検出手段と、
その検出手段で測定した蛍光X線の測定強度に基づく理論強度スケールへの換算強度と、試料における各成分の含有率を仮定して計算した蛍光X線の理論強度を対応する成分ごとに対比し、両強度が合致するように、前記仮定した各成分の含有率を逐次近似的に修正計算して、前記各成分の含有率を算出する算出手段とを備えた蛍光X線分析装置において、
前記算出手段が、指定された成分については、その成分からの蛍光X線の測定強度とその蛍光X線のバックグラウンドの測定強度との測定強度比に基づく理論強度スケールへの換算強度比と、前記指定された成分からの蛍光X線の理論強度とその蛍光X線のバックグラウンドの理論強度との理論強度比が合致するか否か対比することを特徴とする蛍光X線分析装置。 - 試料に1次X線を照射するX線管と、
試料から発生する2次X線の強度を測定する検出手段と、
その検出手段で測定した蛍光X線の測定強度に基づく理論強度スケールへの換算強度と、試料における各成分の含有率を仮定して計算した蛍光X線の理論強度を対応する成分ごとに対比し、両強度が合致するように、前記仮定した各成分の含有率を逐次近似的に修正計算して、前記各成分の含有率を算出する算出手段とを備えた蛍光X線分析装置において、
前記算出手段が、指定された成分については、その成分からの蛍光X線の測定強度と前記X線管の特性X線の散乱線の測定強度との測定強度比に基づく理論強度スケールへの換算強度比と、前記指定された成分からの蛍光X線の理論強度と前記X線管の特性X線の散乱線の理論強度との理論強度比が合致するか否か対比することを特徴とする蛍光X線分析装置。 - 試料に1次X線を照射するX線管と、
試料から発生する2次X線の強度を測定する検出手段と、
試料における指定された成分については、前記検出手段で測定した前記指定された成分からの蛍光X線の測定強度と試料に所定量添加されている内標準元素からの蛍光X線の測定強度との測定強度比に、あらかじめ標準試料を用いて求められた測定強度比と前記指定された成分の含有率との相関関係である検量線を適用し、前記指定された成分の含有率を算出する算出手段とを備えた蛍光X線分析装置において、
組成を仮定した複数の試料について前記指定された成分からの蛍光X線の理論強度と前記内標準元素からの蛍光X線の理論強度との理論強度比が計算され、その理論強度比に基づいて蛍光X線の吸収および励起に関して前記指定された成分を被補正成分とする理論マトリックス補正係数があらかじめ計算され、その理論マトリックス補正係数により前記検量線が補正されていることを特徴とする蛍光X線分析装置。 - 試料に1次X線を照射するX線管と、
試料から発生する2次X線の強度を測定する検出手段と、
試料における指定された成分については、前記検出手段で測定した前記指定された成分からの蛍光X線の測定強度とその蛍光X線のバックグラウンドの測定強度との測定強度比に、あらかじめ標準試料を用いて求められた測定強度比と前記指定された成分の含有率との相関関係である検量線を適用し、前記指定された成分の含有率を算出する算出手段とを備えた蛍光X線分析装置において、
組成を仮定した複数の試料について前記指定された成分からの蛍光X線の理論強度とその蛍光X線のバックグラウンドの理論強度との理論強度比が計算され、その理論強度比に基づいて蛍光X線の吸収および励起に関して前記指定された成分を被補正成分とする理論マトリックス補正係数があらかじめ計算され、その理論マトリックス補正係数により前記検量線が補正されていることを特徴とする蛍光X線分析装置。
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