JP3566809B2 - 多結晶シリコン薄膜の製造方法および多結晶シリコン薄膜構造体素子 - Google Patents
多結晶シリコン薄膜の製造方法および多結晶シリコン薄膜構造体素子 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は半導体装置の製造方法に関し、特に多結晶シリコン薄膜を用いた素子、例えば加速度センサ等に用いられる半導体装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
多結晶シリコン薄膜は、各種半導体装置において電極、配線材料、抵抗体、光電変換素子、物理量センサの検知素子等として用いられている。これらの半導体装置において、多結晶シリコン薄膜の応力、さらにその応力分布については、ほとんどの場合考慮されることがなかった。ところが、近年、物理量センサのひとつである容量変化型加速度センサをサーフェスマイクロマシン技術を利用して形成しようとする傾向が高まるにつれ、この膜内での応力が大きな問題となっている。
【0003】
サーフェスマイクロマシン技術を利用して形成する容量変化型加速度センサとは、例えば、半導体基板と、前記半導体基板上に形成されたアンカー部により両端および片端を固定し、基板に対して所定間隔を隔てて配置された両持梁構造の櫛形可動電極部および片持梁構造の櫛形固定電極部とを備えた半導体加速度センサである。この加速度センサは、加速度の作用に伴って可動電極部が変位し、これにより可動電極部と固定電極部との間で生じる電気容量変化に基づいて加速度を検出している。
【0004】
この梁構造の可動電極部および固定電極部を多結晶シリコン薄膜により形成する方法が実現すると、従来の単結晶シリコン基板を異方性エッチングにより加工してメンブレン構造とする方法では不可能な「LSIプロセス中での一貫素子作製」が可能となり、格段に安価なコストによる加速度センサ素子製造を可能とする。
【0005】
しかし、この加速度センサの梁構造の電極、特に両持梁構造の可動電極部を構成する多結晶シリコン薄膜内部に圧縮応力が存在すると梁が座屈してしまい、センサとしての機能に障害が発生する。このため加速度センサ等の可動部を多結晶シリコン薄膜から形成する場合には、用いる多結晶シリコン薄膜が引張応力を有することが望ましい。
【0006】
このような加速度センサ素子において、多結晶シリコン薄膜は、低圧CVD法(LPCVD)、あるいはプラズマを利用したCVD法(PECVD)により酸化シリコン薄膜等、基板に形成された非晶質材料の上に作製される場合が多い。これらの方法により堆積した直後におけるシリコン薄膜の結晶状態は、作製条件によって非晶質、あるいは多結晶となるが、これらの方法で得られるシリコン薄膜の内部応力は結晶状態に関わらず圧縮応力である場合がほとんどである。また、堆積した直後にすでに多結晶化したシリコン薄膜は、その後に熱処理を如何に施したとしても引張応力へと変化させることはできないのが通例である。
【0007】
これに対して、堆積直後には非晶質であるCVDシリコン薄膜を堆積後の熱処理により多結晶化した場合には、膜応力を引張応力とすることが可能である。従って、多結晶シリコン薄膜が引張応力を有する状態とするために、可動電極部および固定電極部の製造方法として、非晶質状態で成膜したものを成膜後の熱処理により多結晶化する方法が採用されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、非晶質状態で成膜してその後の熱処理で多結晶化した場合でも、多結晶シリコン薄膜の膜全体の平均としては引張応力となるが、膜内で応力の分布が発生してしまう。この応力分布は、例えば、シリコン薄膜を堆積するための基板の処理条件、シリコン薄膜の堆積条件、および非晶質膜を熱処理により結晶化する場合には多結晶化のための熱処理条件に依存して発生する。
【0009】
従って、この応力分布を有する多結晶シリコン薄膜を梁の一端のみを固定した片持梁構造とすると、その梁内部の膜厚方向の応力分布を反映した形で梁が反る。膜厚方向において、シリコン薄膜表面側に界面側よりも強い引張応力が存在する場合、梁は上方に反る。逆にシリコン薄膜界面側に表面側よりも強い引張応力が存在する場合、梁は下方に反る。
【0010】
このように多結晶シリコン薄膜内部に応力分布が生じ、梁に著しい反りが生ずると、可動電極部と固定電極部とで、互いの対向面である各櫛形の櫛歯部分での基板平面方向における重なりが噛み合わず、可動電極の変位による容量変化が現れずセンサとして機能しない。
【0011】
さらに、シリコン薄膜の片持梁先端部が下に反った場合、反りの程度が著しいと該先端部が基板表面と接触し、基板が導電性の場合は短絡状態となるだけでなく、可動電極の基板との接触摩擦により変位への制限がもたらされ、加速度に応じた変位を発生できなくなる。この場合も可動電極部としての機能に障害を生じる。
【0012】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、多結晶シリコン薄膜内における引張応力分布を制御して著しい反りのない多結晶シリコン薄膜を得ることを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために本発明では、以下のような特徴を有する。
【0014】
本発明に係る多結晶シリコン薄膜構造体素子の製造方法においては、非晶質シリコン薄膜内に酸素を導入して不均一な酸素濃度分布を持たせた後に、この非晶質シリコン薄膜を多結晶化して多結晶シリコン薄膜を得る。
【0015】
シリコン薄膜内の応力は、酸素濃度に依存して変化することから、不均一な酸素濃度分布を多結晶シリコン薄膜内に持たせることにより、具体的には、シリコン薄膜の膜厚方向における上半分や、下半分などに選択的に酸素を導入することで、多結晶シリコン薄膜内における応力分布を制御することができる。
【0016】
このようにして得られる多結晶シリコン薄膜を用いて、膜における物理量の変化(例えば電気容量変化)を検知する薄膜構造体素子を形成することで、多結晶シリコン薄膜構造体の任意部分の応力を調整することにより、膜全体の応力分布を変化させて、多結晶シリコン薄膜構造体の形状を多結晶シリコン薄膜のヤング率に基づいて制御することが可能となる。よって、物理量検出素子の信頼性を向上することが可能となる。例えば、加速度センサなどにおいて利用される両持梁構造や片持梁構造を有する可動電極や固定電極として本発明の多結晶シリコン薄膜構造体を適用した場合、構造体の反りや歪み抑制することが可能となり、加速度を正確に検出することが容易となる。
【0017】
非晶質シリコン薄膜への酸素の導入は、例えば、非晶質シリコン薄膜成膜後に、イオン注入法などによって非晶質シリコン薄膜へ酸素イオン(O+ )を注入して行うか、あるいはCVD法により非晶質シリコン薄膜を堆積する際に、原料として用いるシラン系ガスのシラン(SiH4 )あるいはジシラン(Si2 H6 )に加え、酸素原子を含むO2 、N2 O等のガスを同時に供給することによって行うことが可能である。
【0018】
また、本発明の形成方法において、多結晶シリコン薄膜応力の酸素濃度への依存性を鑑みると、応力制御のためには、酸素導入領域における酸素濃度を0.01%以上とすることが望ましい。酸素濃度は、例えばイオン注入法で膜内に導入する場合には注入エネルギーおよび注入量などを制御することによって調整でき、またCVDなどにより非晶質シリコン薄膜を形成する際に成膜雰囲気に酸素を導入する方法であれば、雰囲気中への酸素導入タイミングや導入量などを制御することによって酸素導入領域の位置及びその酸素濃度を所望の値とすることが可能である。
【0019】
さらに、本発明において、基板上にこの基板と所定間隔を隔てて形成される梁構造の可動電極、および該可動電極と対向配置された固定電極を有し、可動電極の変位による前記可動電極と前記固定電極との間の電気容量変化を検出する多結晶シリコン薄膜構造体素子において、可動電極として、基板上に所定間隔隔てて形成された非晶質シリコン薄膜を多結晶化して得た多結晶シリコン薄膜を用いる。さらに、この多結晶シリコン薄膜は、その基板と反対側の表面側には0.01%以上の酸素原子濃度を有する酸素導入領域を有する。このような酸素導入領域を多結晶シリコン薄膜に設けることで、一般的な多結晶シリコン薄膜の本来的応力分布を打ち消すことが容易となり、反りが少なく信頼性の高い物理量検出素子を実現できる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、この発明を具体化した実施の形態(以下、実施形態という)を図面に従って説明する。
【0021】
[加速度センサの概略]
図1は、加速度センサ素子を本実施形態の方法によって作製した場合における平面図であり、図2は、図1の素子のA‐A線に沿った断面図、また図3は図1の素子をXで示す方向に眺めた場合の側面図である。
【0022】
図示されるように、シリコンなどの半導体材料よりなる基板11の表面(上面および下面)には、窒化シリコン膜12が形成されている。この窒化シリコン膜12は、その上方に形成される梁が上下に振れた場合などに、基板11と梁とが短絡することを防ぎ、また、基板11の梁形成領域の直下付近にMOSトランジスタ回路を形成する場合には回路の保護膜として機能する。
【0023】
基板11の片面側の窒化シリコン膜12上には、酸化シリコン膜からなるアンカー部21a,21bが形成してある。さらに、この上方には、両持梁構造の多結晶シリコン薄膜構造体51aよりなる可動電極60a、片持梁構造の多結晶シリコン薄膜構造体51bよりなる固定電極60bが形成されている。これらの梁構造の可動電極60aおよび固定電極60bの多結晶シリコン薄膜構造体51a,51bは、アンカー部21a,21b上に非晶質シリコン薄膜を形成した後、この非晶質シリコン薄膜内の表面側にO+ イオンを導入し、その後非晶質シリコン薄膜を熱処理によって多結晶化することによって得られている。このため、各電極60a,60bにおいて、多結晶シリコン薄膜構造体51a,51bの上側にはO+ イオン注入後多結晶化して得られた多結晶の酸素導入領域61a,61bが形成されている。また、電極60a,60bは、互いの電極の対向部が櫛形にパターニングされており、2つの電極は、その対向部で各櫛歯部62a,62bが互いにかみ合うように配置されている。
【0024】
半導体加速度センサは以上のような概略構成を有しており、このセンサは、図1の紙面と平行でYに示す方向の成分の加速度が与えられると、加速度の作用に伴って可動電極60aの櫛歯部62aの位置がY方向に変位し、これによって可動電極60aと固定電極60bの各櫛歯部62a,62bとの間で生じる電気容量変化に基づいて加速度を検出する。
【0025】
ここで、本実施形態においては、可動電極60aの断面を示した図2から明らかなように、可動電極60aを構成する多結晶シリコン薄膜構造体51aに加え、構造体51aの上部を構成する酸素導入領域6laがこの領域における引張応力を増加させているため、座屈のない直線的な両持梁構造の可動電極60aが得られている。
【0026】
また、この可動電極60aの櫛歯部62aにおいても、多結晶シリコン薄膜構造体50laの上部に形成された酸素導入領域61aが可動電極60aの上部での引張応力を増加させており、さらに固定電極60bの櫛歯部62bにおいても多結晶シリコン薄膜構造体51bの上部に形成された酸素導入領域61bが固定電極60bの上部での引張応力を増加させている。従って、いずれの電極60a,60bの櫛歯部62a,62bにおいても、各々図3に示されているように、基板11に対して反りのない櫛歯部62a,62bが得られている。
【0027】
[加速度センサの製造方法]
次に、図1〜3に示す加速度センサの本実施形態に係る製造方法の一例について図4を用いて説明する。ここで、図4(a)〜(f)は、本実施形態の加速度センサについて図1中のB−B線に沿った断面を例にとり製造過程を追って示したものである。なお、図1のB−B線に沿った断面図は、固定電極61bの断面図に相当しているが、可動電極60aも図4に示される固定電極61bと同一工程で同時に形成されるものである。
【0028】
まず、図4(a)に示すように、基板11の表面にLPCVD法により窒化シリコン膜12を0.15μmの厚みで形成し、基板11表面の一方の窒化シリコン膜12の面上にPECVD法により犠牲層および図1のアンカー部21a,21bを成す酸化シリコン膜21を2μmの厚みで形成する。
【0029】
この後、図4(b)に示すように、酸化シリコン膜21上に非晶質シリコン膜31をLPCVD法により1μmの厚みで形成する。このとき、非晶質シリコン薄膜31内に意図せず不純物として含まれる酸素濃度は0.004at%であった。
【0030】
次に、図4(c)に示すようにO+ イオンを非晶質シリコン薄膜31の表面側から、例えば50kVのエネルギーでドーズ量5.7×1015cm−2および30kVのエネルギーでドーズ量4.1×1015cm−2注入した。この結果、非晶質シリコン膜の表面側から約0.15μmの深さまでの領域に酸素を最大値で0.16at%含む非晶質酸素導入領域41が形成される。
【0031】
この後に、窒素気流中で1000℃、1時間の熱処理を行い、図4(d)に示すように非晶質シリコン薄膜31およびこの非晶質シリコン薄膜31の一部分でその上半分内に形成されたO+ イオン注入領域、つまり非晶質酸素導入領域41を多結晶化し、多結晶シリコン薄膜51およびこの多結晶シリコン薄膜51の一部分であって上記非晶質酸素導入領域41を多結晶化して得られた多結晶の酸素導入領域61を得る。
【0032】
さらに、多結晶シリコン薄膜51を固定電極および可動電極の形状にパターニングし、RIE(反応性イオンエッチング)により図4(e)に示すように多結晶シリコン薄膜51の不要な部分を除去する。この工程により、各電極のパターンを有する多結晶シリコン薄膜構造体51a,51bが得られ、図4(e)においては、固定電極の多結晶シリコン薄膜構造体51bが形成されている。
【0033】
そして、最後に、再び構造体51a,51bの表面をパターニングして図4(f)に示すように、酸化シリコン膜21のうちアンカー部21bのみを残して他の犠牲層酸化膜部分をウエットエッチングにより除去し、固定電極60bをなす片持梁構造の多結晶シリコン薄膜梁構造体51bを形成した。なお、上述のように、片持梁構造の固定電極60bの形成と同時に、可動電極60aについてもその下層の酸化シリコン膜21が図1などに示すアンカー部21aを除いて除去されて両持梁構造が得られ、また、固定電極60bの櫛歯部62bと対向する領域に櫛歯部62aが形成される。
【0034】
次に、本実施形態に対する比較例として作成した従来の製造方法およびこれによって得られる加速度センサについて図5および図6を用いて説明する。
【0035】
図5は、従来法に従って作製を実施した加速度センサ素子の側面図を示しており、本実施形態に係る図3に対応する。また、図6(a)〜(e)は従来の製造方法による加速度センサの製造工程を順に示した断面図であり、この断面は、実施形態を示した図1中のB−B線に沿った断面に対応する。
【0036】
従来の製造工程では、まず、図6(a)に示すように、基板11の表面にLPCVD法により窒化シリコン膜12を0.15μmの厚みで形成し、さらに該窒化シリコン膜12片面上にPECVD法により犠牲層およびアンカー部21bとなる酸化シリコン膜21を2μmの厚みで形成する。
【0037】
この後、図6(b)に示すように非晶質シリコン膜31をLPCVD法により1μmの厚みで形成し、その後、窒索気流中で1000℃、1時間の熱処理を行って、図6(c)に示すように非晶質シリコン薄膜31を多結晶化して、多結晶シリコン薄膜51を得る。
【0038】
さらにこの多結晶シリコン薄膜51をパターニングし、RIEによりこの薄膜51を所望の電極形状にエッチングして図6(d)に示すように多結晶シリコン薄膜構造体51b’得る。
【0039】
そして、最後に再び表面をパターニングして図6(e)に示すようにアンカ一部2lbのみを残して他の犠牲層酸化膜部分をウェットエッチングにより除去して片持梁構造の多結晶シリコン薄膜梁構造体を形成した。
【0040】
以上説明したように、従来方法による加速度センサの製造方法では、本実施形態における特徴である図4(c)の不均一酸素濃度分布を形成する(酸素導入領域形成)工程がなく、図5,6に示されているように、従来の加速度センサの梁構造体を成す多結晶シリコン薄膜梁構造体には、酸素導入領域がない。
【0041】
従って、多結晶シリコン薄膜構造体51a’,51b’はその膜内で、応力分布が制御されることなく、可動電極60a’および固定電極60b’の各櫛歯部62a’,62b’は、図5,6のように、多結晶シリコン薄膜内部の膜厚方向の応力分布によって反りを生じ、いずれも基板と接触してしまっている。
【0042】
このように従来の製造方法による加速度センサでは、可動電極が加速度を受けても基板との接触摩擦のために変位を生じない。また、例え電極の反りの程度が多少減少して可動電極と基板との接触がなく可動電極が加速度に応じて変位したとしても、可動電極および固定電極の各櫛歯部において、2つの電極の側面方向から見た重なり面積が、可動電極が変位してもあまり大きな差を生じない。従って、従来の製造方法によって得られた素子は加速度センサとして機能しない可能性もあり、信頼性に乏しかった。
【0043】
[多結晶シリコン薄膜内の応力特性]
次に、上述のような従来方法によって作製した多結晶シリコン薄膜内部の応力分布について、その測定結果を図7を用いて説明する。
【0044】
この応力分布は図5,6に示された固定電極の櫛歯梁部の多結晶シリコン薄膜の膜厚をその表面からRIEにより数回にわたって減じ、その時々の固定電極の櫛歯梁部の反りを測定して求めたものである。梁が基板11側に向かって反り、梁先端が基板表面と接触して正確な変位量が測定できない場合には、梁先端部下方の基板を除去してから梁先端部の反り量を求めた。
【0045】
また、この測定とは別に、該多結晶シリコン薄膜全体の平均応力は、図6(c)に示す過程まで作製した試料を抜き取り、該試料を短冊状に切り出して反りを測定し、さらにこの試料の多結晶シリコン薄膜をウエットエッチングにより除去した後に再び反り測定を行い多結晶シリコン薄膜の有無による反り変化量から求めている。
【0046】
上記、2つの測定の結果、従来法によって作製した多結晶シリコン薄膜内部には全体の平均としては約75MPaの引張応力を持っていることが明らかになった。ところが、図7に示されるように、多結晶シリコン薄膜内部では、表面側よりも界面側の応力の方が大きくなる応力分布を有していることが判った。そして、この応力分布の偏りによって、図5、6に示されているように、アンカー部21bから梁の先端までの長さ500μmの間において、梁先端は基板側へ向かって14μm変位している。
【0047】
従って、図7に示すような多結晶シリコン薄膜の本来的な応力分布の偏り対し、この偏りを打ち消すのに必要な応力制御領域、つまり、本実施形態における酸素導入領域を多結晶シリコン薄膜の適正な位置に形成することにより、加速度センサの可動電極および固定電極を成す多結晶シリコン薄膜構造体の反りを防止することが可能となる。
【0048】
[酸素導入濃度と応力との関係]
次に、多結晶シリコン薄膜梁構造体の反りを制御するための酸素導入量の決定法について述べる。
【0049】
まず、多結晶シリコン薄膜中の酸素濃度と応力について図8を用いて説明する。ここで、図8は、非晶質シリコン薄膜にO+ イオンを注入後、1000℃、1時間のアニールにより得た膜厚1μmの多結晶シリコン薄膜のO+ イオン注入量と応力との相関を示している。
【0050】
O+ イオンのイオン注入は、5段階のマルチ注入で実行し、例えば、多結晶シリコン薄膜全体の平均注入O+ イオン濃度を1at%とする場合には、
(i )380kVのエネルギーでドーズ量2.1×1016cm−2
(ii)240kVのエネルギーでドーズ量1.6×1016cm−2
(iii )140kVのエネルギーでドーズ量1.1×1016cm−2
(iv)80kVのエネルギ一でドーズ量7.6×1015cm−2
(v)30kVのエネルギーでドーズ量3.9×1015cm−2
という条件でO+ イオンのイオン注入を行った。
【0051】
また、多結晶シリコン薄膜中の平均注入O+ イオン濃度を0.1at%あるいは0.01at%とする場合には、1at%での各エネルギーにおける上記ドーズ量を各々1桁あるいは2桁低い値で注入した。
【0052】
以上のような注入条件において、所望した各平均注入O+ イオン濃度からのばらつきは、自然酸化膜の形成されているシリコン薄膜最表面から約0.1μmの深さまでの範囲を除いて26%以内である。
【0053】
この図8に示される結果から多結晶シリコン薄膜内部で所望の応力を得るのに必要となる注入O+ イオン量は、本実施形態の場合、多結晶シリコン薄膜中における注入O+ イオン濃度が0.01at%以上必要とすることが好ましいことが明らかになった。
【0054】
次に、本実施形態で示す梁が基板面と平行な多結晶シリコン薄膜構造体を得るために必要なO+ イオン注入エネルギーおよび注入量は、以下の方法で決定される。
【0055】
梁の反り:δと、曲げモーメント:Mとの関係は、次式(1)で示される。
【0056】
【数1】
ここで、E:ヤング率、h:梁厚み、w:梁幅、L:梁長さである。
【0057】
また、面内応力の膜厚方向分布:σx (Z)と、曲げモーメント:Mとの関係は、梁の膜厚方向の中央を原点として、膜厚方向をz軸とすると、次式(2)のようになる。
【0058】
【数2】
(1)式と(2)式を等しいとおくことで、反り量と応力分布との対応を得る。初めに、図7に示される多結晶シリコン薄膜の酸素未注入状態における応力分布がほぼ直線であるとして、その膜厚に対する傾き:αを求めると、この傾きαは、−20(MPa/μm)となる。
【0059】
図7に示されたような応力特性の多結晶シリコン薄膜からなる片持梁構造体の下向きの反りを矯正するためには、表面側に引張応力の強い層を加えればよい。そこで、このような応力分布の上に、図9において斜線部で示したようにO+ イオン注入によって表面引張応力制御層を形成し、この引張応力制御層によって、引張応力をσ1 −σ。だけ増加させることとする。なお、図9において、縦軸はz軸、つまり多結晶シリコン薄膜の膜厚方向を示し、横軸は引張応力を示している。また、図9において、z軸上におけるこの引張応力制御層の下端の位置をdi 、上端の位置をds とすると、−h/2≦di <ds ≦h/2である。
【0060】
応力分布は(3)式で表される。
【0061】
【数3】
これを(2)式に代入した結果を(1)式と等しいとして整理すると、
【数4】
となる。
【0062】
ここで、梁のヤング率Eは160GPaであることが分かっている。また、実施形態においては、梁の厚さhが1μm、梁の長さLが500μmである。よって、梁の反りδを0μmとするためには、これらの値を(4)式に代入して、残った変数のσ1 −σ0 、ds 、di が満たすべき条件に従い引張応力層を形成すればよい。
【0063】
梁の上半分の領域内で引張応力を増加させた層を形成するとして、本実施形態では、di が0.35μm、ds が0.45μmである0.1μmの幅領域にO+ イオン注入層を作るとして計算すると、σ1 −σ0 =42MPaが必要となることがわかる。そこで、この場合には、上記条件[σ1 −σ0 =42MPa]を満たすようにO+ イオン注入条件を決定すればよい。
【0064】
以上のように、応力増加層の位置に応じて注入エネルギーを決定し(なお、本実施形態では30kVおよび50kV)、一方、応力増加量については、図8に示されるように応力の酸素濃度依存性を考慮して必要な注入O+ イオン濃度を決定すればよい(本実施形態では約0.15%と見積もられる)。
【0065】
図10は、本実施形態において、上述の方法により決まった条件に従って非晶質シリコン薄膜中に酸素を注入した場合における膜中での酸素濃度分布を示している。図10に示されているように、非晶質シリコン薄膜の厚さ1μmにおいてその表面から深さ0〜0.2μmの付近、つまり図9で示すdi :0.35μm〜ds :0.45μmの付近に平均で酸素イオン濃度0.15at%の酸素導入領域が形成されている。つまり、非晶質シリコン薄膜に形成する酸素導入領域の酸素濃度および領域の位置を目標通りに制御することができることが可能であることがわかる。
【0066】
図11は、多結晶シリコン薄膜片持梁構造体の長さ500μmあたりに対し、図10に示すごとき条件で作成した本実施形態に係る構造体の反りと、図5,6に示すごとき従来の方法による比較例の構造体の反りを示している。図11に示されるように、本実施形態では梁の反り量が上向き0.4μmとなっており、比較例における下向き14.0μmの反り量に対して格段にその反り量が低減されている。従って、各種加速度センサの構造体として利用できる反り量範囲に制御された多結晶シリコン薄膜が得られることが分かる。
【0067】
以上説明したように、非晶質シリコン薄膜に酸素をイオン注入して不均一な酸素濃度分布を形成した後に熱処理を施して多結晶化することで、得られる多結晶シリコン薄膜内の膜厚方向の応力分布を所望のものに制御できる。
【0068】
すなわち、多結晶シリコン薄膜の下側の引張応力を増加せしめようとする場合には、高エネルギーでの酸素イオン注入により非晶質シリコン薄膜の下側に酸素を多く分布させればよい。逆に、多結晶シリコン薄膜の上側の引張応力を増加せしめようとする場合には、低エネルギーでの酸素イオン注入により非晶質シリコン薄膜の上側に酸素を多く分布させればよい。さらに、反り量を所望の値に制御するためには、イオン注入エネルギーおよびドーズ量の両方を制御すればよい。
【0069】
なお、酸素を非晶質シリコン薄膜に導入する方法はイオン注入に限られるものではない。単に膜厚方向の応力分布制御を必要とするのであれば、非晶質シリコン薄膜の成膜原料(SiH4 あるいはSi2 H6 )に加え、酸素原子を含有する02 、N2 0等の気体をこれら原料に加える方法も採りうる。すなわち、多結晶シリコン薄膜の下側の引張応力を増加せしめようとする場合には、非晶質シリコン薄膜の成膜の初期のみにこれらの酸素を含有するガスを成膜室内に流せばよく、逆に多結晶シリコン薄膜の上側の引張応力を増加せしめようとする場合には、非晶質シリコン薄膜の成膜の終期のみにこれらの酸素を含有するガスを流せばよい。さらに、反り量を所望の値に制御するためには、これらの酸素を含有するガスを加えるタイミングおよび流すガスの量を制御すればよい。
【0070】
なお、以上の説明においては、多結晶シリコン薄膜構造体は、加速度センサの梁構造の電極として用いた場合を例に挙げているが、シリコン薄膜構造体としては梁構造に限定されるものではなく、アンカー部を形成しない状態、すなわちシリコン薄膜の下側面全面が基板と密着した状態にて用いられる各種半導体装置においても、本実施形態を適用することが可能である。すなわち、膜内における応力分布の制御を必要とする素子、例えば各種物理量の変位を検知する素子に適用でき、上述のようにして酸素濃度および酸素導入領域の位置を制御してシリコン膜全体としての応力分布の偏りを調整することによって、信頼性の高い半導体素子を提供することが可能となる。
【0071】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係る多結晶シリコン薄膜構造体素子の製造方法においては、非晶質シリコン薄膜内に酸素を導入して不均一な酸素濃度分布を持たせた後に、この非晶質シリコン薄膜を多結晶化して多結晶シリコン薄膜を得る。シリコン薄膜内の応力が酸素濃度に依存して変化することから、膜内に不均一な酸素濃度分布を与えることにより、非晶質シリコンを堆積後に熱処理することで得られる多結晶シリコン薄膜内における応力分布を所望の分布に制御することができる。
【0072】
従って、このようにして得られる多結晶シリコン薄膜を各種物理量検知素子などに適用することで、多結晶シリコン薄膜構造体の任意部分の応力を変化させて膜全体の応力分布を調整することにより多結晶シリコン薄膜構造体の形状を多結晶シリコン薄膜のヤング率に基づいて制御することが可能となる。
【0073】
また、例えば、0.01%以上の酸素濃度を有する非晶質酸素導入領域を形成した後にこれを多結晶化すれば、膜中に導入された酸素濃度や導入領域の位置などに応じた任意の応力分布を確実に多結晶シリコン薄膜内に与えることができる。
【0074】
さらに、本発明において、基板の上に形成された多結晶シリコン薄膜を梁構造の可動電極として採用した多結晶シリコン構造体素子において、上記多結晶シリコン薄膜が、基板と反対側の表面側に0.01%以上の酸素原子濃度を有する酸素導入領域を有することにより、多結晶シリコン薄膜で発生しやすい応力分布を打ち消すことが容易となり、梁構造の可動電極の反りやゆがみなどの変位を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態に係る加速度センサの平面図である。
【図2】図1の加速度センサのA‐A線に沿った断面図である。
【図3】図1の加速度センサを図1のX方向に向かって眺めた場合の側面図である。
【図4】本発明の実施形態に係る加速度センサの梁構造を有する多結晶シリコン薄膜構造体の製造工程を示す図である。
【図5】比較例として従来の製造方法により形成した場合の加速度センサの側面図である。
【図6】図5の加速度センサの梁構造を有する多結晶シリコン薄膜構造体の製造工程を示す図である。
【図7】図6の製造方法により形成された多結晶シリコン薄膜内部の応力分布を示す図である。
【図8】非晶質シリコン薄膜を熱処理して多結晶化して得られた多結晶シリコン薄膜における結晶化前の酸素イオン注入量と多結晶シリコン薄膜内での応力との関係を表す図である。
【図9】O+ イオン注入による多結晶シリコン薄膜の梁構造体の反り矯正の概念を説明するための図である。
【図10】本実施形態による多結晶シリコン薄膜の片持梁構造体の製造工程でO+ イオン注入により非晶質シリコン薄膜中に形成された酸素濃度分布を示すグラフである。
【図11】本実施形態および従来例に係わる多結晶シリコン薄膜梁構造体の反り量の比較を示す表である。
【符号の説明】
11 基板、12 窒化シリコン膜、21 酸化シリコン膜、21a,21bアンカー部、31 非晶質シリコン薄膜、41 非晶質酸素導入領域、51 多結晶シリコン薄膜、51a,51b 多結晶シリコン薄膜構造体、60a 可動電極、60b 固定電極、61,61a,61b 多結晶酸素導入領域。
Claims (6)
- 基板上にこの基板と所定間隔を隔てて形成される梁構造の可動電極、および該可動電極と対向配置された固定電極を有し、前記可動電極の変位による前記可動電極と前記固定電極との間の電気容量変化を検出する多結晶シリコン薄膜構造体素子の製造方法であって、
前記基板上に酸化シリコン膜を形成し、
前記酸化シリコン膜上に非晶質シリコン薄膜を形成すると共に、前記非晶質シリコン薄膜中の前記酸化シリコン膜との界面の反対側に位置する該非晶質シリコン薄膜の膜厚方向における上半分の領域に選択的に酸素を導入し、
前記上半分の領域の酸素濃度が高い前記非晶質シリコン薄膜を形成後、該非晶質シリコン薄膜を多結晶化して膜厚方向における上半分の領域の酸素濃度が下半分の領域の酸素濃度よりも高い多結晶シリコン薄膜を形成し、
前記多結晶シリコン薄膜をパターニングして前記可動電極及び固定電極を形成し、
前記酸化シリコン膜を前記可動電極の下部領域の一部を含む領域で除去し、前記可動電極を梁構造とすることを特徴とする多結晶シリコン構造体素子の製造方法。 - 基板上にこの基板と所定間隔を隔てて形成される梁構造の可動電極、および該可動電極と対向配置された固定電極を有し、前記可動電極の変位による前記可動電極と前記固定電極との間の電気容量変化を検出する多結晶シリコン薄膜構造体素子の製造方法であって、
前記基板上に酸化シリコン膜を形成し、
前記酸化シリコン膜上に非晶質シリコン薄膜を形成すると共に、前記非晶質シリコン薄膜中の前記酸化シリコン膜との界面側に位置する該非晶質シリコン薄膜の膜厚方向における下半分の領域に選択的に酸素を導入し、
前記下半分の領域の酸素濃度が高い前記非晶質シリコン薄膜を形成後、該非晶質シリコン薄膜を多結晶化して膜厚方向における下半分の領域の酸素濃度が上半分の領域の酸素濃度よりも高い多結晶シリコン薄膜を形成し、
前記多結晶シリコン薄膜をパターニングして前記可動電極及び固定電極を形成し、
前記酸化シリコン膜を前記可動電極の下部領域の一部を含む領域で除去し、前記可動電極を梁構造とすることを特徴とする多結晶シリコン構造体素子の製造方法。 - 請求項1又は請求項2のいずれかに記載の多結晶シリコン構造体素子の製造方法において、
前記多結晶シリコン薄膜の選択的に酸素が導入される領域において、その酸素原子濃度が0.01%となるように、前記非晶質シリコン薄膜の膜厚方向の所定領域に酸素が導入されることを特徴とする多結晶シリコン構造体素子の製造方法。 - 請求項1〜請求項3のいずれか一つに記載の多結晶シリコン構造体素子の製造方法において、
前記非晶質シリコン薄膜への酸素の導入は、該非晶質シリコン薄膜の前記酸化シリコン薄膜との界面の反対側の表面側から酸素原子をイオン注入法によって導入することを特徴とする多結晶シリコン構造体素子の製造方法。 - 請求項1〜請求項3のいずれか一つに記載の多結晶シリコン構造体素子の製造方法において、
前記非晶質シリコン薄膜への酸素の導入は、該非晶質シリコン薄膜の成膜中に、成膜室内に酸素原子を含むガスを導入することで行うことを特徴とする多結晶シリコン構造体素子の製造方法。 - 基板上にこの基板と所定間隔を隔てて形成される梁構造の可動電極、および該可動電極と対向配置された固定電極を有し、前記可動電極の変位による前記可動電極と前記固定電極との間の電気容量変化を検出する多結晶シリコン薄膜構造体素子であって、
前記梁構造の可動電極は、前記基板上に所定間隔隔てて形成された非晶質シリコン薄膜を多結晶化して得た多結晶シリコン薄膜であって、該多結晶シリコン薄膜の前記基板と反 対側の表面側に0.01%以上の酸素原子濃度を有する酸素導入領域を有することを特徴とする多結晶シリコン薄膜構造体素子。
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