JP3565439B2 - 動力伝達装置の油圧リターダ装置 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、例えばホイール式建設機械、農業機械、自動車等に用いるに好適な動力伝達装置の油圧リターダ装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
動力伝達装置は、機械式動力伝達経路だけの構造が普通であるが、本出願による先の提案(特開平3−56754号公報)のような機械式動力伝達経路と油圧式動力伝達経路との組み合わせ構造もある。これは、一方のクラッチの係合で原動力を外部へ伝達する機械式動力伝達経路と、前記原動力で油圧ポンプを回しその圧油を切替弁で切り換えて油圧モータを停止又は回転させ、その回転に基づく駆動力を他方のクラッチの係合で外部へ伝達する油圧式動力伝達経路とを備え、両クラッチを同時又は交互に開放しまた係合することで機械式動力伝達経路と油圧式動力伝達経路とを切り換えて変速制御する構造となっている。このような機械油圧式の動力伝達装置は両クラッチを個別制御できる利点があり、またこれを例えば車両の変速機として用いると、高速走行時は動力伝達効率が良い機械式動力伝達経路を使用でき、他方低速走行時は前後進の切替え効率が良く、かつ、無段変速できる油圧式動力伝達経路を使用できる等の利点がある。
【0003】
他方、リターダは例えば車速を連続的に減少し又は制限するための補助ブレーキであり、排気式や電磁式がある。油圧リターダ装置としては先に本出願人が提案した技術(特開平3−273968号公報)がある。これは、油圧ポンプとリリーフ弁との間のドレン回路に、リターダ駆動信号を入力したときに該ドレン回路を閉じる開閉弁を設けた構造である。従ってリターダ駆動信号を得て開閉弁が閉じると、リターダ制動としてのリリーフ油圧が発生する。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで近時、油圧アクチュエータの負荷圧に係わりなく、油圧アクチュエータの操作弁(以下、切換弁とする)の開口面積に応じた流量だけを可変容量形油圧ポンプ(以下、単に油圧ポンプとする)で吐出させるCLSS式油圧回路(クローズドセンタ・ロード・センシング・システム)がその微操作性や省エネ性から脚光を浴びている。ところがかかるCLSS式油圧回路を備えた動力伝達装置において、仮に上記従来の油圧リターダ装置と同じような開閉弁を設けても、次の理由でリターダ制動が得られない。
【0005】
先ずCLSS式油圧回路を簡単に説明する。切換弁の流量Qiは、その前後差圧ΔPi〔=ポンプ側圧Pp−負荷圧Pi〕が一定であれば、その負荷圧Piの大きさに係わらずその開口面積Aiに比例する。そこでCLSS式油圧回路は、ポンプ吐出圧Ppと切換弁の負荷圧Pi(以下、LS圧という)とを入力し(以下、この入力路をLS回路という)、これらの差圧ΔPLS〔=Pp−Pi〕(以下、LS差圧という)が一定となるように、ポンプ吐出量Qpを制御する弁(以下、LS弁という)を備えている。このLS弁は、LS差圧ΔPLSが基準差圧ΔPsより小さいときはポンプ吐出量Qpを増やし、逆にLS差圧ΔPLSが基準差圧ΔPsより大きいときはポンプ吐出量Qpを減らす信号をサーボ機構へ出力する弁である。具体的にはLS弁は、切換弁の開口面積Aiが広がると、LS差圧ΔPLSが小さくなるため、ポンプ吐出量Qpを増やし、逆に切換弁の開口面積Aiが狭くなると、LS差圧ΔPLSが大きくなるため、ポンプ吐出量Qpを減らすように作用する。尚、CLSS式油圧回路での切換弁はクローズドセンタ式が用いられる。これは、仮にCLSS式油圧回路の切換弁がオープンセンタ式とすると、その中立位置時、LS弁へのポンプ吐出圧Ppが油タンク圧となるためLS差圧ΔPLSを検出できず、このため、上記CLSSの機能を達成できなくなるためである。
【0006】
即ち、かかるCLSS式油圧回路を備えた動力伝達装置において、仮に従来の油圧リターダ装置と同じように開閉弁を設けても、この開閉弁を閉じるとリリーフ油圧は得られるものの、該開閉弁を油が流れないため、CLSSの機能に基づき、油圧ポンプの押しのけ容積が最小になってしまい、このため油圧ポンプのポンプ吸収トルクが低下し、リターダ制動力を得られなくなる。
【0007】
本発明は、上記従来技術の問題点に着目し、CLSS式油圧回路を備えた動力伝達装置の最適油圧リターダ装置を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記第1目的を達成するため、本発明の動力伝達装置の油圧リターダ装置は、油圧アクチュエータへの油を断続する切換弁の前後圧を入力し、これら前後差圧が一定となるように油圧ポンプの吐出量を制御する制御弁(前記LS弁であり、以下、この制御弁をLS弁とする)を設けた油圧回路を備えてなる動力伝達装置において、前記制御弁への前後圧の入力回路間に、リターダ駆動信号を入力したとき前記入力回路間を連通させる開閉弁(以下、リターダ弁とする)を設けたことを特徴としている。
【0009】
【作用】
本発明によれば、上記目的を達成するため、リターダ弁(前記開閉弁、以下同じ)は、リターダ駆動信号を入力したとき、LS弁(前記制御弁、以下同じ)のポンプ圧入力側とLS圧入力側との間を連通させる。この結果、LS差圧ΔPLSが小さくなり、ポンプ吐出量Qpが増え、これにより、ポンプ吸収トルクが増大し、リターダ制動トルクを吸収できるようになる。
【0010】
【実施例】
以下図面を参照して実施例を説明する。図1は実施例なる動力伝達装置とその油圧リターダ装置とを備えたホイール式建設機械の変速機の図である。エンジン100の駆動力Poは変速機200を介して外部の車軸300へ伝達される。変速機200は変速レバー10、クラッチ油圧回路20、機械式動力伝達部30、油圧式動力伝達部40、マイコン等でなる制御部50及びリターダスイッチ60等から構成される機械油圧式の動力伝達装置である。
【0011】
変速レバー10はR(後進)、N(中立)、F1(前進1速)、F2(前進2速)及びF3(前進3速)の5位置を備え、オペレータの操作で選択される。選択位置は図示しない位置検出器で検出され制御部50へ出力される。
【0012】
クラッチ油圧回路20は、エンジン100で駆動された油圧ポンプ22によって油タンク21から吸い出した油を切換弁23a、23b、23cを介してクラッチA、B、Cへ送る。各切換弁23a、23b、23cは各クラッチA、B、Cに対応して付設され、制御部50からの変速制御信号S1a、S1b、S1cを入力して切り換わることにより、各クラッチA、B、Cの油の給排を行う。尚、各切換弁23a、23b、23cは、各制御信号S1a、S1b、S1cの大きさにより供油油圧(即ち、クラッチ係合油圧)を無段階に調整でき、かつ、各クラッチA、B、Cへの給油時に各クラッチA、B、Cが油で満たされた時、そのフィリング信号S2a、S2b、S2cを制御部50へフィードバックし、その後、各クラッチ油圧を漸増させるフィリング時検出器付き比例電磁式モジュレーションバルブである。
【0013】
機械式動力伝達部30は、クラッチB(又はC)の係合により駆動力Poを外部なる車軸300へ伝達する2つの機械式動力伝達経路を備えている。詳しくは、2つの遊星歯車機構31c、31bが備えられ、クラッチCが係合すると、遊星歯車機構31cのリングギヤが固定されてF3走行が達成され、他方クラッチBが係合すると、遊星歯車機構31bのリングギヤが固定されてF2走行が達成される。
【0014】
油圧式動力伝達部40は次の通りである。先ず本例の全体油圧回路を説明する。全体油圧回路は、本油圧式動力伝達部40用油圧回路の他、作業機用油圧回路400や回路全体の最高油圧を規定するリリーフ弁500等から構成される。作業機用油圧回路400はブーム、アーム、バケット等の各油圧シリンダ及び旋回油圧モータ等のアクチュエータ、各アクチュエータの切換弁(いわゆる操作弁)、各切換弁に対応する圧力補償弁並びに複数個シャトル弁等とこれらの油路等で構成されている。尚、全体油圧回路は、TVC(トルク・バリアブル・コントロール)で制御された可変容量形油圧ポンプ41に対するCLSS式の油圧回路となっている。
【0015】
TVCを説明する。油圧ポンプ41のサーボ装置41aは、電磁ソレノイド、LS弁及びサーボ機構をこの順で並べて構成されている。制御部50は、スロットル開度検出器51で検出されたエンジン燃料噴射量信号S3と、回転検出器52で検出されたエンジン回転数信号S4とを入力してエンジントルクTeを算出する。また制御部50は、油圧検出器53で検出された回路油圧信号S5を入力し、前記エンジントルクTeに対し油圧ポンプ41のポンプ吸収トルクTpが最適マッチングするように〔Te≒Tp〕、即ち、ポンプ吐出量Qpmとポンプ吐出油圧Ppとの積が一定となるように〔Qpm×Pp=一定〕、ポンプ吐出量可変制御信号S6(以下、TVC信号S6という)を前記電磁ソレノイドへ出力する。
【0016】
本例のCLSS式油圧回路を詳しく説明する。CLSS式油圧回路の基本形は前述の通りであるが、通常の油圧回路は、本例のように、アクチュエータが(従ってその切換弁も)多数装着されている。そこで各LS回路の合流点毎にシャトル弁44を設け、これにより、LS弁へのLS圧として各LS回路中の最大負荷圧Pmax が入力される。LS弁はLS差圧ΔPLS〔=Pp−PLS(PLS=Pmax )〕が一定となるように、油圧ポンプ41の吐出量Qpnを制御する。このポンプ吐出量Qpnは、各切換弁の要求流量Qiの総和であるが、TVC信号S6によるポンプ吸収トルクを越えることはない。また各切換弁には圧力補償弁45がそれぞれ設けられ、各切換弁の固有の前後差圧ΔPiと係わりなく、総ての切換弁に見かけの前記LS差圧ΔPLSを与えており、これにより各切換弁の流量Qiを負荷圧Piや差圧ΔPiに係わらず、さらに他の切換弁の影響されることなく、各開口面積Aiに比例したものとしている。尚、各圧力補償弁の設定値を予め調整しておくことにより、各切換弁の流量Qiに優先度を与えるのが普通である。
【0017】
TVCとCLSSとの関係を簡単に説明する。エンジン100がエンストしない程度のポンプ吸収トルクが維持されるように、油圧ポンプ41の吐出量Qpmを、ポンプ吐出油圧Ppが高くなれば少なくし、逆にポンプ吐出油圧Ppが低くなれば多くするのがポンプユニットで制御され、ポンプ吸収トルクを指定する信号がTVC信号S6である。そしてこのTVC信号S6によるポンプ吸収トルク(即ち、リターダ量)を上限として、各油圧アクチュエータの負荷圧Piに係わりなく、各切換弁の開口面積Aiに応じて各アクチュエータへその要求流量Qiの総和を流すのがCLSS式の油圧回路である。リターダ時はアクチュエータ負荷圧はポンプのリリーフ圧となるので、TVC信号がポンプ吐出量に比例する。尚、予め説明すれば、TVC信号S6を大きくすると、ポンプ吸収トルクが減る構造が普通であるため、後述する図6(a)及び図7(a)もこれに従って記載されている。
【0018】
かかる全体油圧回路において、油圧式動力伝達部40は、エンジン100の駆動力Poで油圧ポンプ41を回しその圧油を切換弁なる走行弁43で切り換えることにより油圧モータ42を停止又は回転させ、その回転に基づく駆動力PmをクラッチAを係合させることより外部へ伝達する油圧式動力伝達経路を備えている。勿論、この油圧回路もCLSS式となっており、走行弁43はクローズドセンタ式である。クラッチAの油の給排や増圧は切換弁23aで行われる。走行弁43は前進位置F、中立位置N及び後進位置Rを備えている。尚、46はオーバラン時の異常圧やキャビテーションの発生を阻止するための吸込弁付きリリーフ弁であり、後述するように、油圧式動力伝達経路での走行時(即ち、F1走行時)でのリターダ制動中の制動力の吸収も司る。47は吸込弁付きリリーフ弁46における吸い込み時、強制的に吸込させるための背圧弁である。44は走行弁43に対するCLSS用の前記シャトル弁である。45は走行弁43に対するCLSS用の前記圧力補償弁である。油圧モータ42はサーボ機構42aを備え、制御器50からのサーボ駆動信号S9に応じてその押しのけ容積が変化する可変容量形モータである。
【0019】
制御部50は、変速レバー10から選択位置信号R、N、F1〜F3を入力すると、本ホイール式建設機械を次の通り停止又は走行させる。変速レバー10がN位置であると(停車時)、走行弁43へも切換弁23へも信号は出力されず、走行弁43も切換弁23もN位置となり、油圧モータ42は停止し、クラッチA、B、Cも開放されて停車する。変速レバー10がR位置であると(R走行時)、走行弁43へ信号S8が出力され、これをR位置とし油圧モータ42を後進方向へ回転させる。また切換弁23aへ信号S1aが出力されクラッチAが係合する。これにより後進する。変速レバー10がF1位置であると(F1走行時)、走行弁43へ信号S7が出力され、これF位置とし、油圧モータ42を前進方向へ回転させる。また切換弁23aへ信号S1aが出力されクラッチAが係合する。これによりF1走行する。変速レバー10がF2位置であり、かつ車速がある一定以上のF2走行設定値である時、走行弁43へ信号は出力されず、これをN位置とし、油圧モータ42を停止させ、F2走行させる。尚、車速がF2走行設定値以下の時は上記F2走行となる。他方、切換弁23bへ信号S1bが出力されクラッチBが係合する。これによりF2走行する。変速レバー10がF3位置であり、かつ車速がある一定以上のF3走行設定値である時、走行弁43へ信号は出力されず、これをN位置とし、油圧モータ42を停止させる。他方、切換弁23cへ信号S1cが出力されクラッチCが係合する。これによりF3走行する。尚、車速がF3走行設定値以下の時は上記F2走行となり、さらに車速がF2走行設定値以下の時は上記F1走行となる。
【0020】
尚、本例の制御部50は、スロットル開度検出器51により検出されたエンジン燃料噴射量S3の大きさに応じた信号S7、S8を走行弁43へ出力でき、これにより、走行弁43の開口面積を自在に調整でき、上記CLSSの機能により、F1走行及びR1走行の走行速度を自在に制御できる。
【0021】
リターダスイッチ60はこれをON位置とすると、この信号が制御器50へ出力され、制御器50からリターダ弁48へリターダ駆動信号S10が出力される。リターダ弁48は、LS弁のポンプ圧入力側411とLS圧入力側412との間に備えられ、前記リターダ駆動信号S10を入力したとき、ポンプ圧入力側411とLS圧入力側412との間を連通させる。この結果、LS差圧ΔPLSが小さくなり、ポンプ吐出量Qpが増える。しかしポンプ吐出量Qpが増えても流れて行く箇所がないため、ポンプ圧力が上昇し、リリーフ圧力に達する。通常リターダ弁をONすると、ポンプ圧力がリリーフ圧力になってしまうと考えてよい。TVC信号S6はポンプ吐出量×ポンプ圧力の最大値を制御する信号であり、ポンプ圧力がここでリリーフ圧になってしまうことから。TVCの指令がポンプの吐出量と比例することになる。但し、上述の通り、本例では、TVC信号S6が大きいとき吸収トルクは小さくなる。これにより、TVCで指定したポンプ吸収トルクが発生し、このトルクがリターダ制動トルクとなる。但し、リターダ制動時に変速レバー10を操作してF3走行からF2走行へ、F3走行からF1走行へ、又は、F2走行からF1走行へシフトダウンさせると、制御器50はこれら変速信号を入力し、リターダスイッチ60をOFF位置に切り換えるまでの間、下記実施例に示すように、予め記憶した手順に従って前記リターダ駆動信号S10の出力を、F3走行からF2走行へのシフトダウン時は一時停止させ、また、F2走行からF1走行へのシフトダウン時は完全停止させ、さらに切換弁23bへの信号S1b、油圧モータ42へのサーボ駆動信号S9、TVC信号S6及び走行弁43への信号S7等を調整しつつ出力する。詳しくは、次の実施例の通りである。
【0022】
リターダ弁48は、制御部50からリターダ駆動信号S10を入力しさえすれば、何時でもリターダ制動させることができる。ところでかかるリターダ制動は、例えば長い降坂時での連続制動には好適であり、このような場合はシフトダウンも伴うことが多い。本例の変速機200では、F3走行からF2走行への機械式動力伝達経路間のシフトダウンと、F3走行からF1走行への又はF2走行からF1走行への機械式動力伝達経路から油圧式動力伝達経路へのシフトダウンとがある。
【0023】
第1実施例として、図2、図4を参照し、F3走行からF2走行への(即ち、機械式動力伝達経路から機械式動力伝達経路への)リターダ制動時のシフトダウン方法を述べる。また比較例を図5を参照して述べる。図2のフローチャートを、図4を参照しつつ順を追って説明する。ちなみにリターダ制動はアクセルOFFで、かつリターダスイッチ60がONの時に実施する。尚、リターダスイッチ60以外にフートブレーキ等から信号を入力してもよく、従ってこのようなフートブレーキ等もリターダスイッチとしてもよい。
【0024】
図2に示す通り、F3走行時、リターダ制動させるときは〔工程(1)〕、エンジン回転を下げると共に、リターダスイッチ60をON位置にする。これにより、制御部50からリターダ弁48へリターダ駆動信号S10が出力される〔工程(2)〕。詳しくは次の通りである。リターダ弁48はリターダ駆動信号S10を入力すると、通常位置(閉位置a)からリターダ走行位置(連通位置b)へ切り換わる。リターダ弁48が連通位置bになると、ポンプ吐出圧PpとLS圧PLSとが等しくなり、LS差圧ΔPLSがなくなる〔ΔPLS=Pp−PLS=0〕。この結果、上記LS機能によってポンプ油圧は最大側へと変化する。この結果、油圧ポンプ41の吸収トルクが大きくなり、路面及びエンジンからの駆動力はF3走行用機械式動力伝達経路を経て油圧ポンプ41へ伝達され、ここで吸収されてリターダ制動する。こうしてF3走行時におけるリターダ走行が達成される。尚、このとき制御部50は、車速、速度段、サービスブレーキの踏み込み量等も別途入力しており、これらを予め記憶してある設定値と比較し、エンジンのエンスト防止に定めたTVC信号S6の範囲を越えた値のTVC信号S6を生成することにより、上記リターダ制動をより効果的なものとしている。
【0025】
次に、上記リターダ走行時、F2走行へシフトダウンするときは〔工程(31)〕、クラッチCの圧油を任意値まで減圧すると共に、クラッチBへの給油を開始する〔工程(4)〕。詳しくは次の通りである。図4bのt1時、切換弁23cへの信号S1cを小さくしてクラッチCの保持圧Pcを下げる。尚、この減圧は、後述する工程(6)でのクラッチCの開放応答性を良くするためである。また、切換弁23bへ信号S1bを送りクラッチBへの給油を開始する。
【0026】
次に、クラッチBがフィリング状態になった時〔工程(5)〕、クラッチCの圧油をドレンし、リターダ制動を停止させる〔工程(6)〕。詳しくは次の通りである。クラッチBがフィリング状態になると、切換弁23bから制御部50へフィリング完了信号S2が出力される。制御部50はこの信号S2を入力すると、切換弁23cへの信号S1cを停止し、クラッチCの圧油をドレンさせる〔図4bのt2〕。また制御器50はリターダ弁48への信号S10を停止する(但し、リターダスイッチ60はON位置のままである)〔図4aのt2〕。このようにすると、リターダ弁48は連通位置bから閉位置aへ切り換わり、油圧ポンプ41は作業機用の油圧回路400への供給流量Qpnのみを吐出するようになる。但し実際は、走行中に作業機を作動させないのが普通であり、この場合、図4dのt2に示すように、LS機能により油圧ポンプ41の吐出量Qpnは最小まで下がり、かつ、図4cのt2に示すように、吐出油圧Ppも低圧となる。もっとも上記LS機能やリターダ弁を用いなくても、このときTVC制御信号6を大きくして油圧ポンプ41の吐出流量Qpmを低下させてもよい。かかる結果、油圧ポンプ41はリターダ制動力を吸収トルクしなくなり、その分、クラッチBに余計な負荷を与えることもなくなる。即ち、切り換えショックが低減する。
【0027】
尚、このように油圧ポンプ41がリターダ制動力を吸収しなくなるため、上記工程(6)では、図4bのt2にように、クラッチBの初期圧を通常走行時(即ち、リターダ非制動時)のシフトダウン中の初期圧よりも高めるのがよい。この初期圧設定は、切換弁23bへのS1bを高めに出力することで達成される。即ち、漸増圧を、破線L1から実線L2へ移行させることにより、エンジンブレーキによる制動トルクが得られるようになり、この結果、図4eに示すように、制動トルクは破線L3から実線L4へと変化し、制動トルク変動をさらに抑制することができる。
【0028】
次に、クラッチBが係合したら〔工程(7)〕、リターダ制動させる〔工程(8)〕。詳しくは次の通りである。図4bのt3に示すように、切換弁23bのモジュレーション機能によってクラッチBの油圧の漸増が終了し、クラッチBが係合したら、図4aのt3に示すように、制御部50はリターダ弁48へリターダ駆動信号S10を再出力する。これにより、リターダ弁48は上記工程(2)と同様に作動し、F2走行時のリターダ走行を開始する。
【0029】
尚、上記工程(8)でのポンプ容量を、図4dのt3〜t4に示すように、図4cのポンプ吐出圧Ppの増加に倣って漸増するように、TVC制御信号S6で漸増させると、図4eに示すように、制動トルクの変動が少なくなる。
【0030】
上記シフトダウン制御の効果を比較例(図5)を参照して説明する。図5a〜図5eの実線は比較例を示し、破線は上記第1実施例の図4a〜図4eにそれぞれである。図4a及び図4bに示すように、第1実施例ではクラッチBのフィリング時t2〜係合時t3の間にリターダ弁48によるリターダ制動を停止させたが、比較例ではクラッチBのフィリング時t2〜係合後の所定時t4の間にリターダ弁48によるリターダ制動を停止させた。比較例のようにすると、図5eに示すように、制動トルクの変動が激しく、リターダ制動トルクを得られないばかりか、変速ショックやこれに伴うクラッチ発熱及び制動力変化等が生じ、該動力伝達装置の寿命を短くしたり、オペレータに疲労感を与えるようになる。
【0031】
尚、他の比較例として図示しないがリターダ弁48による制動を行ったままF3走行からF2走行へシフトダウンさせると、制動力は得られるが、エンジンへの見かけ上の逆負荷が増大するため、クラッチBの負荷が著しく増大するため、変速ショックの発生は元より、クラッチ寿命も短くなる等の弊害が生ずる。但し、リターダ弁48がONのままでもTVC信号を大きく(即ち、ポンプ吸収トルクを小さく)する場合は、上記制御例と同様となる。
【0032】
第2実施例は、図3、図6に示すとおり、F2走行からF1走行への(即ち、機械式動力伝達経路から油圧式動力伝達経路への)リターダ制動時のシフトダウン方法である。また比較例を図7を参照して述べる。尚、F2走行中のリターダ制動方法は、第1実施例のF3走行中のリターダ制動方法である工程1〜工程2と同様であるのでその説明を省略する。図3のフローチャートを、図6を参照しつつ順を追って説明する。
【0033】
即ち、F2走行中でのリターダ走行時、F1走行へシフトダウンするときは〔工程(32)〕、走行弁43を全開する〔工程(9)〕。詳しくは次の通りである。F2走行中でのリターダ走行時の油圧ポンプ41は、図6aの範囲Hに示すように(また第1実施例の工程(1)での尚書きで示したように)、その範囲H内で、車速、速度段、サービスブレーキの踏み込み量等に応じて最適リターダ走行が得られるようにTVC信号S6が生成され、油圧ポンプ41の吐出量制御がなされている。ここで、制御部50がシフトダウン信号入力すると、図6bのt5に示すように、先ず走行弁43へ信号S7を最大にして出力する。走行弁43はこの最大信号S7を入力すると、中立位置Nから前進位置Fの最大開口位置へと切り替わる。そしてLS機能により、油圧ポンプ41から該走行弁43の該開口面積に応じた大流量の油が流れ油圧モータ42の回転を、図6cのt5に示すように、漸増させる。このように油圧モータ41の回転を予め高めておくと、F1走行での油圧モータ42によるリターダ制動への移行を円滑に行える。尚、油圧モータ42の押しのけ容積は、図6gに示すように、予め信号S9によって小さい側の位置としてある。油圧モータの可変信号S9も、TVC信号S6と同様、信号S9が小さいと油圧モータ42の押しのけ容積を大きくし、他方信号S9が大きいと油圧モータ42の押しのけ容積を小さくする。
【0034】
次に、油圧モータ42の回転速度が予め設定した回転速度になったとき又は一定時間を経過したとき〔工程(10)〕、クラッチBへの圧油を任意値まで降下させると共に、クラッチAへの給油を開始させる〔工程(11)〕。詳しくは次の通りである。油圧モータ42の回転速度Nmの検出は、その出力軸に回転センサを設けて制御部50へ出力するが、本例では、制御部50に、図6cに示すように、一定時間T1を予め記憶して制御している。この一定時間T1が経過したとき、図6eのt6に示すように、切換弁23bへの信号S1bを小さくしてクラッチBの保持圧Pbを下げる。このようにすると、次のクラッチBの開放の応答性が良くなる。また、切換弁23aへ信号S1aを送り、クラッチAへの給油を開始する。
【0035】
次に、クラッチAがフィリング状態になった時〔工程(12)〕、クラッチAの油圧を漸増させ、リターダ制動を停止させ、走行弁43の漸減を開始する〔工程(13)〕。詳しくは次の通りである。図6eのt7に示すように、クラッチAがフィリング状態になると、切換弁23aから制御部50へフィリング完了信号S2が出力される。以降は切換弁23aのモジュレーション機能によりクラッチAの油圧は任意な値で漸増する。制御部50はこの信号S2を入力すると、図6fのt7に示すように、リターダ弁48へのリターダ駆動信号S10の出力を停止してリターダ弁48を連通位置bのから閉位置aへと切り換える。また図6bのt7に示すように、走行弁43への信号S7の漸減を開始し、中立位置Nへ移行させる。尚、この信号S7の漸減によって油圧モータ42の回路内でのキャビテーションの発生が阻止される。また本実施例では中立位置Nへ移行させたが、中立位置Nに近い開口量までの移行でもよい。
【0036】
上記工程(13)により油圧リターダ制動の方式は変化する。即ち、前者F2走行時での油圧リターダ制動は、第1実施例での油圧リターダと同様、リターダ弁48による油圧ポンプ41のポンプ吸収トルクに基づく油圧リターダ制動である。これに対し、後者F1走行時での油圧リターダ制動は、油圧モータ42のモータ吸収トルクに基づく油圧リターダ制動である。即ち、油圧モータ42の押しのけ容積と吸込弁付きリリーフ46によるリリーフ油圧とによるモータ吸収トルクに基づく油圧リターダ制動である。
【0037】
尚、上記工程(13)での油圧モータ42の押しのけ容積は、図6gのt7に示すように(また上記工程(9)の尚書きのように)、予め小さくしてあるが、これを放置せず、車速、速度段、サービスブレーキの踏み込み量等に応じて予め可変制御しておくのがよい。油圧ポンプ41については、F1走行が油圧駆動であるため、図6aに示すように、TVC信号S6を予め小さくしておき、これにより該油圧ポンプ41の吸収可能トルクを予め大きくしておくのがよい。
【0038】
次に、クラッチAが係合したら〔工程(14)〕、クラッチBの圧油をドレンさせ〔工程(15)〕、次に、エンジン100の回転を増加させる〔工程(16)〕。詳しくは次の通りである。クラッチAが係合したとき、切換弁23bへの信号S1bを切りクラッチBの圧油をドレンさせる。尚、図6eのt8に示すように、この前後関係は厳格に規定する必要はなく、クラッチAが係合時前後でクラッチBの圧油をドレンさせてもよい。さらに尚、クラッチAの油圧は切換弁23aにより増圧させる。以降は、F1走行でのリターダ走行であるから、走行も可能なように、図6hに示すように、アクセルペダルの踏角を調整し、エンジン100の回転速度(即ち、エンジン出力)を調整することになる。
【0039】
上記シフトダウン制御の効果を比較例(図7)を参照して説明する。図7a〜図7iの実線は比較例を示し、破線は第2実施例の図6a〜図6iにそれぞれ対応する。図7fに示すように、リターダ弁48のOFF時は、第2実施例ではフィリング時t7としたが、比較例ではクラッチBへの圧油を任意値まで降下させた時t6とした。また図7gに示すように、油圧モータ42の容量制御は、第2実施例ではリターダ弁48のOFF後に制御したが、比較例ではリターダ弁48のON時のままとした。比較例のようにすると、図7iに示すように、制動トルクの変動が激しく、リターダ制動トルクを得られないばかりか、変速ショックやこれに伴うクラッチ発熱及び制動力変化等が生じ、該動力伝達装置の寿命を短くしたり、オペレータに疲労感を与えるようになる。
【0040】
他の実施例を項目列記する。
(1)上記実施例における油圧リターダ装置は、実施例本体がCLSS回路であるため、上記実施例の通り特別に「リターダ弁48」を構成したが、第1実施例及び第2実施例の動力伝達装置の油圧リターダ変速方法における機械式動力伝達経路での油圧リターダ装置は、例えば従来技術に基づく油圧リターダ等の他のリターダ装置であってもよい。
【0041】
(2)上記第1実施例における油圧リターダ変速方法は、機械式動力伝達経路だけで構成された動力伝達装置へも当然に適用される。
【0042】
(3)上記第2実施例はF2からF1へのシフトダウン例であるが、F3からF1へのシフトダウンも同様である。
【0043】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係わる動力伝達装置の油圧リターダ装置によれば、CLSS式油圧回路を備えた動力伝達装置に対してもリターダ制動を付与することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】動力伝達装置及びその油圧リターダ装置の回路図である。
【図2】第1実施例のフローチャートである。
【図3】第2実施例のフローチャートである。
【図4】第1実施例のタイムチャートであり、(a)はリターダ弁の開閉時期、(b)はクラッチ油圧の変更時期、(c)はポンプ油圧の変化、(d)はポンプ容量の変更時期、(e)は制動トルクの変化を示す。
【図5】第1実施例の比較例のタイムチャートであり、(a)はリターダ弁の開閉時期、(b)はクラッチ油圧の変更時期、(c)はポンプ油圧の変化、(d)はポンプ容量の変更時期、(e)は制動トルクの変化を示す。
【図6】第2実施例のタイムチャートであり、(a)はTVC制御時期、(b)は走行弁の開閉時期、(c)はモータ回転の変化、(d)はモータ出口油圧の変化、(e)はクラッチ油圧の変更時期、(f)はリターダ弁の開閉時期、(g)はモータ容量の変更時期、(h)はエンジンの回転、(i)は制動トルクの変化を示す。
【図7】第2実施例の比較例のタイムチャートであり、(a)はTVC制御時期、(b)は走行弁の開閉時期、(c)はモータ回転の変化、(d)はモータ出口油圧の変化、(e)はクラッチ油圧の変更時期、(f)はリターダ弁の開閉時期、(g)はモータ容量の変更時期、(h)はエンジンの回転、(i)は制動トルクの変化を示す。
【符号の説明】
10…変速レバー、20…クラッチ油圧回路、30…機械式動力伝達部、40…油圧式動力伝達部、41…油圧ポンプ、42…油圧モータ、43…走行弁、44…シャトル弁、45…圧力補償弁、46…吸込弁付きリリーフ弁、48…リターダ弁、50…制御部、60…リターダスイッチ、100…エンジン、200…変速機、300…車軸、400…作業器用油圧回路、500…リリーフ弁、S10…リターダ駆動信号、S6…TVC信号、S7…信号、S9…信号。
Claims (1)
- 油圧アクチュエータへの油を断続する切換弁の前後圧を入力し、これら前後差圧が一定となるように油圧ポンプの吐出量を制御する制御弁を設けた油圧回路を備えてなる動力伝達装置において、前記制御弁への前後圧の入力回路間に、リターダ駆動信号を入力したとき前記入力回路間を連通させる開閉弁を設けたことを特徴とする動力伝達装置の油圧リターダ装置。
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