JP3563937B2 - 高耐食性炭化物分散材料 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、機械加工が容易で耐摩耗性に優れ、かつ耐食性に優れた、工具材料として好適な高耐食性炭化物分散材料に関するものである。
【0002】
【従来の技術および発明が解決しようとする課題】
従来、樹脂押出機用カッター刃等の工具材料は腐蝕環境で激しい摩耗を受けるため、優れた耐食性と耐摩耗性とを有することが要求されており、最近ではこの要求が益々厳しくなっている。
良好な耐食性と高い強度を有する材料として、マルテンサイト系ステンレス鋼や折出硬化型ステンレス鋼等が知られており、各種腐食環境下で使用される高強度部材等に利用されている。そこで、この材料を上記用途に使用することが考えられるが、上記ステンレス鋼は、耐食性においては満足する性質を有しているものの、耐摩耗性においては十分な特性を有しておらず、上記用途には最適なものとはいえない。
【0003】
一方、特に耐摩耗性に優れ、かつ耐食性も良好な材料として高耐食超硬合金やサーメットが知られている。しかし、これら材料は非常に高硬度であるため機械加工が殆ど不可能であり、同じく上記用途には最適なものとはいえない。
また、本発明者らは、先に、工具用材料として最適な炭化物分散鋼を提案している(特開平6−207246号)。この鋼は、時効処理前に機械加工が可能であり、しかも時効処理後においては十分な硬さ、耐摩耗性を発揮する。ここで、機械加工可能で、かつ耐摩耗用高耐食材料として望まれる機械的性質の一例を示せば、時効処理前のロックウェルCスケール硬さ(HRC)が52以下で、時効処理後の硬さがHRC58以上で、3点曲げ抗折力が120kgf/mm2以上である。
ところが、上記炭化物分散鋼は、機械加工性や耐摩耗性では上記条件をほぼ満たすものの耐食性は十分ではなく、上記したような腐蝕環境での使用には不向きである。
すなわち、現状では、機械加工性、耐摩耗性、耐食性の全てにおいて良好な特性を有し、よって工具材料に最適な材料は開発されるには至っていない。
【0004】
本発明は、上記事情を背景としてなされたものであり、最適な組成を有する高強度ステンレス鋼に、適量の炭化物を分散させる事により、機械加工が可能で、かつ硬さが所定のレベルにあって優れた耐摩耗性を有し、さらに耐食性に優れた材料を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため本発明の高耐食性炭化物分散材料は、TiおよびMoの炭化物をマトリックスに分散させた炭化物分散材料において、重量比で、炭化物として、Ti;18.3〜21%,Mo;2.8〜6.6%,C;4.7〜7%を含有し、マトリックスとして、Cr;7.5〜10%,Ni;4.5〜6.5%,Co;1.5〜4.5%と、0.6〜1%のAl,TiまたはNbの1種以上とを含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなることを特徴とする。
【0006】
【発明の実施の形態】
本願発明の材料は、前述した樹脂押出機のカッター刃のように、腐蝕環境で使用される工具材料に最適であるが、用途がこれに限定されるものではなく、機械加工性、耐摩耗性、耐食性が要求される種々の用途に適用することができる。
また、本願発明の炭化物分散鋼の製造方法は、特に限定されないが、一般には、炭化物粒子とマトリックス粒子とを混合して焼結する方法により製造することができる。該炭化物粒子には、最終的に鋼に分散する炭化物と同一のものを用いる他に、焼結中の反応を予測して、炭化物または金属粒子として添加するものであってもよい。例えば、金属粒子として添加されたMoは、炭素と反応してMo2Cになり、またTiとの複合炭化物を生成する。これは、MoがCとの親和性が強く、焼結の際に、TiとMoとの固溶体炭化物を形成するためMo2C粒子を添加する場合と同様の炭化物形態が得られるからである。この結果、Ti炭化物とMo炭化物とがマトリックスに分散するが、これらの複合炭化物が混在してマトリックス中に分散しているものであってもよい。すなわち、本願発明では、これら炭化物の成分の総和が上記で規定されている。
【0007】
このようにして得られた炭化物分散材料は、耐食性に優れているとともに、時効処理前において 機械加工できる程度の硬度であり、所望の形状に容易に機械加工することができる。なお、本発明では、機械加工の方法等は特に限定されるものではなく、必要に応じた機械加工を行うことができる。そして、その後、時効硬化処理をすることにより十分に硬度が増し、所望の機械的性質が得られる。さらに、マトリックス中に分散した適当な炭化物により、機械加工性を損なうことなく耐摩耗性が向上する。
なお、上記時効処理では、例えば、800〜900℃に加熱する溶体化処理を行った後、450〜550℃で時効させて冷却する工程を経る。
すなわち、本願発明の材料により機械加工が容易で、耐摩耗性に優れ、さらに耐食性に優れた新規材料が得られる。
次に、本願発明における成分の限定理由をその作用とともに説明する。なお、各成分における含有量は、いずれも分散材料全体における重量%を示している。
【0008】
[炭化物]
Ti;18.3〜21%
Tiは、硬質の炭化物として、球状で、かつ非常に高い硬さを有するTiCを生成する。なお、炭化物を構成するTi量が、18.3%未満であると炭化物量が少なすぎて十分な硬度が得られず、時効硬化後の硬さも目標のHRC58に達するのが困難になる。一方、Ti量が21%を越えると、時効硬化前の硬度が高すぎて、HRC52以下という目標値を超えて機械加工が困難になるため上記範囲とする。なお、同様の理由で下限を19%とするのが望ましい。
【0009】
Mo;2.8〜6.6%
ステンレス系組成のマトリックスに上記したTiCだけを分散させた場合、TiCとマトリックスとのぬれ性が悪く、ポアが残留し易い。そこで、MoをそのままやMo2C等の炭化物や化合物の形で添加することにより、Tiとの間で固溶体炭化物が形成されてぬれ性が改善され、ポアが殆ど残留しない正常な合金が得られる。炭化物を構成するMoが2.8%未満であると、ぬれ性の改善が不十分である。ぬれ性が悪いと、拡散速度が小さくなるため、TiとMoとの固溶体炭化物が十分に形成されず、それぞれ単独で微細なTi炭化物やMo炭化物を生成して、それらが素地中に混在する。このため硬さが必要以上に高くなり、時効前の機械加工が困難になる。したがって、Moの含有量を上記範囲とする。
なお、同様の理由で、下限を4%、上限を5%とするのが望ましい。
【0010】
C;4.7〜7%
Cは、TiおよびMoの炭化物生成に必要な量が含有される。なお、下限を5%、上限を6%とするのが望ましい。
【0011】
[マトリックス]
Cr;7.5〜10%
Crは、耐食性を向上させるために含有させる。ただし、7.5%未満では、十分な耐食性を得ることができず、また、10%を越えて含有させると、δ−フェライトの生成が増加する。このδ−フェライトは、材料の脆化の一原因になると考えられており、その生成の増加は、結果として材料の靭性を低下させるため10%を上限とする。上記理由によりCr含有量を7.5〜10%に限定する。なお、同様の理由で、下限を8.75%、上限を9.45%とするのが望ましい。
【0012】
Ni;4.5〜6.5%
Niは耐食性向上を補佐するとともに、靭性を向上させる。これら作用を得るためには4.5%以上含有させることが必要である。一方、多くのNiを含有させると、マルテンサイト変態点が低下するので、この低下を抑えるために、Ni含有量を6.5%以下とする必要があり、以上の理由によりNi含有量を4.5〜6.5%とする。なお、同様の理由で、下限を5.5%、上限を6.1%とするのが望ましい。
【0013】
Co;1.5〜4.5%
Coは、マトリックスの強さを高め、本系合金のように比較的脆性材料に属する材料の靭性の指標である抗折力を向上させる作用があり、このため1.5%以上含有させる必要があるが、その効果は4.5%を越えると、もはや飽和し、いたずらに添加量を増加させるだけになるので、Co含有量は1.5〜4.5%とする。
なお、同様の理由で、下限を2%、上限を4%とするのが望ましい。
【0014】
Al,Ti,Nbの1種以上;各々0.6〜1.0%
これら成分は、時効硬化性を顕著にするために、1種以上を添加する。ただし、それぞれ下限未満の添加では効果がなく、また上限を越えると時効硬化後の靭性が低下するので上記範囲とした。なお、同様の理由でそれぞれ下限を0.65%、上限を0.75%とするのが望ましい。また、これら成分の総量の上限としては、時効硬化程度が飽和し始めるという観点から、2.1%を、その上限とするのが望ましい。
なお、上記元素以外には、不可避的な不純物が含有されており、例えば炭化物で規定した炭素量以外にもマトリックス中には不純物として炭素が含有されている。
【0015】
【実施例】
表1に示す配合比(重量%)で、TiC粉末(粒径1〜2μm)、Mo2C粉(約3μm)、Cr粉(10μm以下)、Ni粉(3〜7μm)、Co粉(約1.5μm)、Fe粉(4〜6μm)、Al粉(約10μm)の各原料粉末を配合し、2−プロパノールを溶媒として湿式ボールミルで24時間の混合を行った。この混合粉末を15mm(厚)×30mm(幅)×150mm(長さ)の空間を有するゴムモールドに充填・封止し、1500kgf/cm2の圧力でCiP成形した。このCiP体を真空下において、1360℃×5時間で加熱して、真空焼結を行った。次いで、得られた焼結体(供試体)に850℃×4時間の溶体化処理を施し、さらに500℃×6時間の時効処理を行った。
上記供試材は、焼結後にロックウェルCスケール硬さを測定し、さらに時効処理後にもロックウェルCスケール硬さを測定すると共に3点曲げ抗折試験を行った。さらに、65%沸騰硝酸による腐食試験を行った。その結果を表2に示す。
【0016】
【表1】
【0017】
【表2】
【0018】
表2から明らかなように、本発明材は、焼結後の硬さがいずれもHRC52以下であり、機械加工が可能な硬さとなっている。そして、時効処理後の硬さは、HRC580以上となっており、十分な硬さが得られている。また、3点曲げ抗折試験においても、高い数値を有しており、良好な機械的性質を有している。さらに、腐食試験の効果も十分優れた耐食性を有している。
これに対して、本発明の範囲を外れる比較材は、No.7,8で、焼結後の硬さは、機械加工ができる程度であるが、時効処理によっても、ほとんど硬化せず硬化が不十分である。また、比較材No.9では、いずれの機械的性質も十分であるが、耐食性が著しく悪い。さらに、比較材No.10は、耐食性および硬さについては十分であるものの靭性が不十分である。
【0019】
【発明の効果】
以上のように、本発明材によれば、重量比で、炭化物として、Ti;18.3〜21%,Mo;2.8〜6.6%,C;4.7〜7%を含有し、マトリックスとして、Cr;7.5〜10%,Ni;4.5〜6.5%,Co;1.5〜4.5%と、0.6〜1%のAl,TiまたはNbの1種以上とを含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなるので、高耐食で耐摩耗性に優れ、しかも、機械加工が容易な特性を示す材料が得られ、耐久性に優れた工具用材料等として使用することができる。
Claims (1)
- TiおよびMoの炭化物をマトリックスに分散させた炭化物分散材料において、重量比で、炭化物として、Ti;18.3〜21%,Mo;2.8〜6.6%,C;4.7〜7%を含有し、マトリックスとして、Cr;7.5〜10%,Ni;4.5〜6.5%,Co;1.5〜4.5%と、0.6〜1%のAl,TiまたはNbの1種以上とを含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなることを特徴とする高耐食性炭化物分散材料。
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