JP3563371B2 - 固体高分子型燃料電池用電極構造体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、固体高分子型燃料電池に用いられる電極構造体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
石油資源が枯渇化する一方、化石燃料の消費による地球温暖化等の環境問題が深刻化しており、二酸化炭素の発生を伴わないクリーンな電動機用電力源として燃料電池が注目されて広範に開発されると共に、一部では実用化され始めている。前記燃料電池を自動車等に搭載する場合には、高電圧と大電流とが得やすいことから、高分子電解質膜を用いる固体高分子型燃料電池が好適に用いられる。
【0003】
前記固体高分子型燃料電池に用いる電極構造体として、白金等の触媒がカーボンブラック等の触媒担体に担持されイオン導伝性高分子バインダーにより一体化されることにより形成されている一対の電極触媒層を備え、両電極触媒層の間にイオン導伝可能な高分子電解質膜を挟持すると共に、各電極触媒層の上に、拡散層を積層したものが知られている。前記電極構造体は、さらに各電極触媒層の上に、ガス通路を兼ねたセパレータを積層することにより、固体高分子型燃料電池を構成する。
【0004】
前記固体高分子型燃料電池では、一方の電極触媒層を燃料極として前記拡散層を介して水素、メタノール等の還元性ガスを導入すると共に、他方の電極触媒層を酸素極として前記拡散層を介して空気、酸素等の酸化性ガスを導入する。このようにすると、燃料極側では、前記電極触媒層に含まれる触媒の作用により、前記還元性ガスからプロトンが生成し、前記プロトンは前記高分子電解質膜を介して、前記酸素極側の電極触媒層に移動する。そして、前記プロトンは、前記酸素極側の電極触媒層で、前記電極触媒層に含まれる触媒の作用により、該酸素極に導入される前記酸化性ガスと反応して水を生成する。従って、前記燃料極と酸素極とを導線により接続することにより電流を取り出すことができる。
【0005】
従来、前記電極構造体では、前記高分子電解質膜としてパーフルオロアルキレンスルホン酸高分子化合物(例えば、デュポン社製ナフィオン(商品名))が広く利用されている。前記パーフルオロアルキレンスルホン酸高分子化合物は、スルホン化されていることにより優れたプロトン導伝性を備えると共に、フッ素樹脂としての耐薬品性とを併せ備えているが、非常に高価であるとの問題がある。
【0006】
そこで、パーフルオロアルキレンスルホン酸高分子化合物に代わる廉価なイオン導伝性材料を用いて、固体高分子型燃料電池用電極構造体を構成することが検討されている。
【0007】
前記廉価なイオン導伝性材料として、例えば、ポリエーテルケトンやポリベンゾイミダゾールをスルホン化したものがある。しかし、前記イオン導伝性材料はいずれもイオン導電性、機械的強度に劣るという問題がある。
【0008】
一方、米国特許第5403675号明細書には、前記廉価なイオン導伝性材料として、剛直ポリフェニレンをスルホン化したものが提案されている。前記明細書記載の剛直ポリフェニレンのスルホン化物は、フェニレン連鎖を備える芳香族化合物を重合して得られるポリマーを主成分として、該ポリマーをスルホン化したものであり、イオン導電性に優れている。
【0009】
しかしながら、前記剛直ポリフェニレンのスルホン化物は、スルホン酸基の導入量を制御することが難しく、スルホン酸基の含有量が過剰になると、靱性が低減し、該剛直ポリフェニレンのスルホン化物を高分子電解質膜として電極構造体を構成したときに該高分子電解質膜が割れやすくなるという不都合がある。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、かかる不都合を解消して、靱性に優れた高分子電解質膜を備え製造容易であると共に、優れた発電性能を備える固体高分子型燃料電池用電極構造体を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
かかる目的を達成するために、本発明の固体高分子型燃料電池用電極構造体は、触媒としての白金粒子を担持させた炭素粒子を含む一対の電極触媒層と、両電極触媒層に挟持された高分子電解質膜とを備える固体高分子型燃料電池用電極構造体において、前記高分子電解質膜は一般式(1)で表される第1の繰返し単位と、一般式(2)で表される第2の繰返し単位との共重合体のスルホン化物からなり、前記電極触媒層は0.01〜0.8mg/cm2の範囲の白金を含有すると共に、前記炭素粒子の平均径が10〜100nmの範囲にあることを特徴とする。
【0012】
【化3】
【0013】
前記高分子電解質膜を構成するスルホン化物は、一般式(1)で表される第1の繰返し単位と、一般式(2)で表される第2の繰返し単位との共重合体をスルホン化して得られる。尚、本明細書において、前記電子吸引性基とは、−CO−、−CONH−、−(CF2)p−(pは1〜10の整数)、−C(CF3)2−、−COO−、−SO−、−SO2−等のハメット置換基常数がフェニル基のメタ位では0.06以上、フェニル基のパラ位では0.01以上の値となる2価の基をいう。また、本明細書において、前記電子供与性基とは、−O−、−S−、−CH=CH−、−C≡C−等の2価の基をいう。
【0014】
ここで、前記スルホン化は、電子吸引性基が結合していないベンゼン環、換言すれば電子供与性基のみが結合しているベンゼン環に対して起きる。従って、一般式(1)で表される第1の繰返し単位と、一般式(2)で表される第2の繰返し単位との共重合体をスルホン化すると、第1の繰返し単位の主鎖となるベンゼン環と、第2の繰返し単位の各ベンゼン環にはスルホン酸基が導入されず、第1の繰返し単位の側鎖のベンゼン環にスルホン酸基が導入されることになる。そこで、前記共重合体では、第1の繰返し単位と第2の繰返し単位とのモル比を調整することにより、導入されるスルホン酸基の量を制御して、イオン導伝性と靱性とに優れた高分子電解質膜を得ることができる。
【0015】
前記第1の繰返し単位に用いるモノマーとして、具体的には、次式(3)で示される2,5−ジクロロ−4’−(4−フェノキシフェノキシ)ベンゾフェノン等を挙げることができる。
【0016】
【化4】
【0017】
また、前記第1の繰返し単位に用いるモノマーとして、具体的には、次式(4)で示される2,2−ビス〔4−{4−(4−クロロベンゾイル)フェノキシ}フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパン、次式(5)で示される2,2−ビス〔4−{4−(4−クロロベンゾイル)フェノキシ}フェニル〕スルホン等を挙げることができる。
【0018】
【化5】
【0019】
本発明の電極構造体は、前記共重合体のスルホン化物を前記高分子電解質膜とすることにより、容易に製造することができると共に、優れた発電性能を得ることができる。そして、本発明の電極構造体は、前記高分子電解質膜を挟持する電極触媒層が、触媒として0.01〜0.8mg/cm2の範囲の白金を含有すると共に、前記白金の触媒担体となる炭素粒子の平均径が10〜100nmの範囲にあることにより、さらに優れた発電性能を得ることができる。
【0020】
前記白金の含有量が0.01mg/cm2未満では十分な発電性能が得られないことがあり、0.8mg/cm2を超えると前記白金が負触媒として作用し、前記高分子電解質膜を構成する共重合体の劣化が促進されることがある。
【0021】
また、前記炭素粒子の平均径が10nm未満では前記白金の分散性が低減し、100nmを超えると活性化過電圧が大きくなって、共に十分な発電性能が得られないことがある。
【0022】
本発明の電極構造体において、前記高分子電解質膜を構成する共重合体は、導入されるスルホン酸基の量を制御して、イオン導伝性と靱性とを好ましい範囲とするために、前記第1の繰返し単位10〜80モル%と、前記第2の繰返し単位90〜20モル%とからなることが好ましい。前記第1の繰返し単位が10モル%未満で、前記第2の繰返し単位が90モル%を超えると、前記共重合体に導入されるスルホン酸基の量が少なく、十分なイオン導伝性が得られないことがある。また、前記第1の繰返し単位が80モル%を超え、前記第2の繰返し単位が20モル%未満であると、前記共重合体に導入されるスルホン酸基の量が多くなり、十分な靱性が得られないことがある。
【0023】
また、本発明の電極構造体において、前記高分子電解質膜を構成する共重合体のスルホン化物は、イオン導伝性と靱性とを好ましい範囲とするために、スルホン酸基を0.5〜3.0ミリグラム当量/gの範囲で含有することが好ましい。前記共重合体が含有するスルホン酸基の量が0.5ミリグラム当量/g未満では十分なイオン導伝性が得られないことがあり、3.0ミリグラム当量/gを超えると十分な靱性が得られないことがある。
【0024】
本発明の電極構造体は、一方の面に酸化性ガスを供給すると共に、他方の面に還元性ガスを供給することにより発電する固体高分子型燃料電池を構成することができる。
【0025】
【発明の実施の形態】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。図1は本実施形態の電極構造体の構成を示す説明的断面図であり、図2は本実施形態の電極構造体の発電性能を示すグラフである。
【0026】
本実施形態の電極構造体は、図1示のように、一対の電極触媒層1,1と、両電極触媒層1,1に挟持された高分子電解質膜2と、各電極触媒層1,1の上に積層された拡散層3,3とからなる。
【0027】
本実施形態では、前記電極構造体を次のようにして製造した。
【0028】
まず、次式(3)で示される2,5−ジクロロ−4’−(4−フェノキシフェノキシ)ベンゾフェノンと、次式(4)で示される2,2−ビス〔4−{4−(4−クロロベンゾイル)フェノキシ}フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンとを、50:50の重合比で重合させて次式(6)の共重合体を得た。
【0029】
【化6】
【0030】
前記共重合体は、ポリマー分子量がポリスチレン換算重量平均分子量で、1万〜100万の範囲にあることが好ましい。前記ポリマー分子量が1万未満では高分子電解質膜として好適な機械的強度が得られないことがあり、100万を超えると後述のように成膜のために溶媒に溶解する際に溶解性が低くなったり、溶液の粘度が高くなり、取り扱いが難しくなる。
【0031】
次に、前記共重合体に濃硫酸を加えてスルホン化し、イオン交換容量が2.1meq/gのスルホン化物を得た。次に、前記共重合体のスルホン化物を、N−メチルピロリドンに溶解して高分子電解質溶液とし、該高分子電解質溶液からキャスト法により乾燥膜厚50μmの高分子電解質膜2を作成した。
【0032】
次に、平均径50nmのカーボンブラック(ファーネスブラック)に白金粒子を、カーボンブラック:白金=1:1の重量比で担持させ、触媒粒子を作成した。次に、イオン導伝性バインダーとしてのパーフルオロアルキレンスルホン酸高分子化合物(デュポン社製ナフィオン(商品名))溶液に、前記触媒粒子を、イオン導伝性バインダー:触媒粒子=8:5の重量比で均一に分散させ、触媒ペーストを調製した。
【0033】
次に、カーボンブラックとポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粒子とを、カーボンブラック:PTFE粒子=4:6の重量比で混合し、得られた混合物をエチレングリコールに均一に分散させたスラリーをカーボンペーパーの片面に塗布、乾燥させて下地層とし、該下地層とカーボンペーパーとからなる拡散層3を2つ作成した。
【0034】
次に、各拡散層3上に、前記触媒ペーストを、白金含有量が0.5mg/cm2となるようにスクリーン印刷し、乾燥させることにより電極触媒層1とし、電極触媒層1と拡散層3とからなる一対の電極を作成した。前記乾燥は、60℃で10分間の乾燥を行ったのち、120℃で60分間の減圧乾燥を行った。
【0035】
次に、高分子電解質膜2を前記電極の電極触媒層1側で挟持し、ホットプレスを行って図1示の電極構造体を得た。前記ホットプレスは、80℃、5MPaで2分間の一次ホットプレスの後、160℃、4MPaで1分間の二次ホットプレスを行った。
【0036】
本実施形態で用いた高分子電解質膜2は、優れた靱性を示し、前記一対の電極で挟持し、ホットプレスする作業を容易に行うことができた。
【0037】
また、本実施形態で得られた電極構造体は、拡散層3,3の上にさらにガス通路を兼ねるセパレータを積層することにより、固体高分子型燃料電池を構成することができる。
【0038】
次に、本実施形態で得られた電極構造体(実施例1)を単セルとして、発電性能を試験した。発電性能の試験は、一方の拡散層3の側を酸素極として空気を供給すると共に、他方の拡散層3の側を燃料極として純水素を供給して発電を行い、電流密度1A/cm2で200時間発電した後、電流密度1A/cm2でのセル電位を測定することにより行った。発電条件は、温度85℃、燃料極側の相対湿度40%、酸素極側の相対湿度75%とした。
【0039】
この結果、実施例1の電極構造体の前記セル電位は0.62Vであった。結果を図2に示す。
【0040】
次に、他の実施形態として、前記式(4)で示される2,2−ビス〔4−{4−(4−クロロベンゾイル)フェノキシ}フェニル〕−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロプロパンを、次式(5)で示される2,2−ビス〔4−{4−(4−クロロベンゾイル)フェノキシ}フェニル〕スルホンに替えた以外は、前記実施形態と全く同一にして、図1示の電極構造体を製造し、該電極構造体(実施例2)を単セルとして、前記実施形態と全く同一にして、発電性能を試験した。この結果、実施例2の電極構造体の前記セル電位は0.63Vであった。結果を図2に示す。
【0041】
【化7】
【0042】
次に、比較のために、次式(7)で示されるポリエーテルエーテルケトンからなる高分子電解質膜2を用いた以外は、前記実施形態と全く同一にして、図1示の電極構造体を製造し、該電極構造体(比較例1)を単セルとして、前記実施形態と全く同一にして、発電性能を試験した。この結果、比較例1の電極構造体の前記セル電位は0.52Vであった。結果を図2に示す。
【0043】
【化8】
【0044】
また、さらに比較のために、ポリベンゾイミダゾールからなる高分子電解質膜2を用いた以外は、前記実施形態と全く同一にして、図1示の電極構造体を製造し、該電極構造体(比較例2)を単セルとして、前記実施形態と全く同一にして、発電性能を試験した。この結果、比較例2の電極構造体の前記セル電位は0.52Vであった。結果を図2に示す。
【0045】
図2から、本実施形態の電極構造体は、ポリエーテルエーテルケトンからなる高分子電解質膜2を用いた電極構造体(比較例1)またはポリベンゾイミダゾールからなる高分子電解質膜2を用いた電極構造体(比較例2)に比較して、格段に優れた発電性能を備えていることが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の電極構造体の構成を示す説明的断面図。
【図2】本発明の電極構造体の発電性能を示すグラフ。
【符号の説明】
1…電極触媒層、 2…高分子電解質膜。
Claims (4)
- 前記共重合体は、前記第1の繰返し単位10〜80モル%と、前記第2の繰返し単位90〜20モル%とからなることを特徴とする請求項1記載の固体高分子型燃料電池用電極構造体。
- 前記共重合体のスルホン化物は、スルホン酸基を0.5〜3.0ミリグラム当量/gの範囲で含有することを特徴とする請求項1または請求項2記載の固体高分子型燃料電池用電極構造体。
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