JP3562067B2 - シクロアルキルヒドロペルオキシドの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、シクロアルカンを分子状酸素で酸化してシクロアルキルヒドロペルオキシドを高反応速度及び高選択率で製造する方法に関する。シクロアルキルヒドロペルオキシドは、シクロアルカノール及びシクロアルカノンの製造中間体として、また過酸化物として有用な化合物である。
【0002】
【従来の技術】
シクロアルカンの酸化は、工業的にはナフテン酸コバルトのような遷移金属触媒の存在下で行われている。このとき、酸化によってシクロアルカンから生成するシクロアルキルヒドロペルオキシドは反応中に触媒によって分解されるため、その蓄積量は僅かであり、対応するアルコールとケトンが主生成物として得られる。例えば、通常行われるシクロヘキサンの空気酸化では、シクロヘキサン転化率が3〜5%で、シクロヘキサノール及びシクロヘキサノンの合計選択率が70〜80%である。
【0003】
このようなシクロアルカンの酸化では、シクロアルカンの転化率が高くなると、シクロアルカノール及びシクロアルカノンが逐次酸化を容易に受けてこれらの選択率が低下するため、低い転化率で酸化を行わなければならない。このため、シクロアルカンの酸化においては、シクロアルカノールやシクロアルカノンよりも酸化されにくいシクロアルキルヒドロペルオキシドを生成・蓄積させる試みがなされている。
【0004】
シクロアルキルヒドロペルオキシドの生成・蓄積は、遷移金属触媒がペルオキシドの分解を促進することから、通常、遷移金属触媒非存在下でシクロアルカンを酸化することにより行われる。しかしながら、シクロアルカンの無触媒酸化は反応速度が極めて遅く、また反応速度を高めるために高温で酸化を行うとシクロアルキルヒドロペルオキシドの選択率が低下するという問題を有している。
【0005】
このため、シクロアルカンの無触媒酸化においては、酸化反応の速度とシクロアルキルヒドロペルオキシドの選択率の両方を高める方法が種々検討されている。例えば、シクロアルカンを第3級アルコール、水又は緩衝水溶液の存在下で分子状酸素と接触させる方法(特開昭47−30606号公報)、シクロアルカンを第3級アルコールと第3級ヒドロペルオキシドの存在下で分子状酸素と接触させる方法(特開昭47−30607号公報)、シクロヘキサンを芳香族ケトンや強い電子吸引基を有するケトンの存在下で分子状酸素と接触させる方法(USP4602118)が知られている。
しかしながら、これらの方法はいずれも工業的に満足できるものとは言い難く、反応速度や選択率について更に改善が望まれている。また、第3級ヒドロペルオキシドを使用する方法では、第3級ヒドロペルオキシドが高価である上に、反応後に対応する第3級アルコールが多量副生するという問題がある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、シクロアルカンを分子状酸素で酸化して高反応速度及び高選択率でシクロアルキルヒドロペルオキシドを製造することを課題とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明の課題は、シクロアルカンをケトンペルオキシドの存在下に分子状酸素と接触させることを特徴とするシクロアルキルヒドロペルオキシドの製造方法によって達成される。
【0008】
【発明の実施の形態】
シクロアルカンとしては、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロデカン、シクロドデカン、シクロヘキサデカン等の炭素数5〜16のシクロアルカンが用いられる。
【0009】
ケトンペルオキシドは、常法に従って、ケトンと過酸化水素との反応や第2級アルコールの自動酸化などによって容易に合成される化合物である。本発明では、市販品のみならず、このような方法で合成されたケトンペルオキシドも好適に使用することができる。なお、ケトンペルオキシドは、通常、下記のいずれかの構造を有している。
【化1】
(式中、X−C−Yは下記ケトンの炭素骨格を表し、XとYが結合して環を形成していてもよい。nは1〜4の整数を示す。)
【0010】
ケトンペルオキシドの合成に用いられるケトンとしては、例えば一般式(1)で示される非環式モノケトン、一般式(2)で示される非環式ジケトン、一般式(3)又は一般式(4)で示される環式ケトンが挙げられる。
【0011】
【化2】
(式中、R1 、R2 は炭素数1〜12のアルキル基、アルケニル基又はフェニル基を示す。)
【0012】
【化3】
(式中、R3 、R4 は炭素数1〜12のアルキル基を示し、aは0〜10の整数を示す。)
【0013】
【化4】
(式中、bは4〜11の整数を示す)
【0014】
【化5】
(式中、R5 は炭素数1〜12のアルキル基を示し、c、dは0〜10の整数を示し、c+d=3〜10である。)
【0015】
なお、R1 、R2 、R3 、R4 、R5 はそれぞれ異なっていても同一であっても、また直鎖状又は分枝状であっても差し支えなく、更に水酸基、アミノ基又はフェニル基等の置換基を有していてもよい。
【0016】
R1 、R2 のうち、炭素数1〜12のアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、1−メチルエチル基、ブチル基、1−メチルプロピル基、1,1−ジメチルエチル基、2−メチルプロピル基、ペンチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、1,2−ジメチルプロピル基、ヘキシル基、1−メチルペンチル基、オクチル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基等が挙げられる。また、炭素数1〜12のアルケニル基としては、ビニル基、1−プロペニル基、3−ブテニル基、3−ヘキセニル基等が挙げられる。
【0017】
一般式(1)で示される非環式モノケトンのうち、R1 、R2 が炭素数1〜12のアルキル基であるものの代表例としては、アセトン、メチルエチルケトン、2−ペンタノン、3−ペンタノン、3−メチル−2−ブタノン、2−ヘキサノン、3−ヘキサノン、3−メチル−2−ペンタノン、4−メチル−2−ペンタノン、3,3−ジメチル−2−ブタノン、2−ヘプタノン、3−ヘプタノン、4−ヘプタノン、2,4−ジメチル−3−ペンタノン、2−オクタノン、6−メチル−2−ヘプタノン、2−ノナノン、2,6−ジメチル−4−ヘプタノン、2,2,4,4−テトラメチル−3−ヘプタノン、3−デカノン、6−ウンデカノン、2−トリデカノン、7−トリデカノン、2−テトラデカノン等が挙げられる。
また、R1 、R2 が炭素数1〜12のアルケニル基であるものの代表例としては、3−ブテン−2−オン、3−ペンテン−2−オン、5−ヘキセン−2−オン、4−メチル−3−ペンテン−2−オン、6−メチル−5−ヘプテン−2−オン、5−オクテン−2−オン等が挙げられる。
【0018】
水酸基、アミノ基又はフェニル基等の置換基を有する、一般式(1)で示される非環式モノケトンの代表例としては、1−ヒドロキシ−2−プロパノン、3−ヒドロキシ−2−ブタノン、4−アミノ−4−メチル−2−ペンタノン、アセトフェノン、ベンゾフェノン、1−フェニル−2−プロパノン、1−フェニル−1−ブタノン、1−フェニル−3−ブタノン、1−フェニル−3−ペンタノンが挙げられる。
【0019】
一般式(2)で示される非環式ジケトンの代表例としては、R3 、R4 がメチル基である2,3−ブタンジオン、2,4−ペンタンジオン、2,5−ヘキサンジオン等が挙げられる。
【0020】
一般式(3)で示される環式ケトンの代表例としては、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、、シクロオクタノン、シクロデカノン、シクロドデカノン等が挙げられる。
【0021】
一般式(4)で示される環式ケトンの代表例としては、R5 がメチル基である2−メチル−1−シクロヘキサノンや、エチル基である2−エチル−1−シクロペンタノン等が挙げられる。
【0022】
ケトンペルオキシドは単独で使用しても複数で使用しても差し支えなく、また、溶解又は希釈することなくそのままで使用しても、アルコール、ケトン又はシクロアルカン等に任意の割合で溶解又は希釈して使用しても差し支えない。ケトンペルオキシドの使用量はシクロアルカンに対して通常0.01〜10モル%、好ましくは0.05〜5モル%である。
なお、ケトンペルオキシドは反応後にケトンと水に分解されているので、ケトンを回収して過酸化水素と反応させれば容易に再生される。このため、本発明では、ケトンペルオキシドは実質的には消費されず、安価な過酸化水素のみが消費されることになる。
【0023】
分子状酸素としては、純粋の酸素ガスや、窒素、アルゴン等の不活性ガスで希釈された酸素ガス及び空気など、分子状酸素を含有するガスが用いられる。その供給方法は特に制限されず、例えば反応液に該ガスを吹き込む方法や単に反応系を該ガス雰囲気下におく方法によって分子状酸素が供給される。
【0024】
本発明の接触反応は、例えば、ガス導入管、ケトンペルオキシド供給管、試料抜き出し管、還流冷却器及び攪拌装置を備えた耐圧反応器に、所定量のシクロアルカンを入れて加熱昇温した後、分子状酸素含有ガスを供給しながら、ケトンペルオキシドを添加することによって液相で行われる。
このとき、金属イオン等によるシクロアルキルヒドロペルオキシドの分解を抑えるため、反応器内の反応液に接触する部分をガラス製とするか、もしくは反応器内の金属部分を全てテフロンコーティングすることが望ましい。また、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム等のリン酸塩、リン酸モノ(2−エチルヘキシル)、リン酸ジ(2−エチルヘキシル)等のリン酸エステル、又はエチレンジアミン四酢酸塩などを反応液に添加して分解を抑制してもよい。
【0025】
前記接触反応の反応温度は通常80〜200℃、好ましくは110〜180℃、更に好ましくは130〜170℃であり、反応圧は通常大気圧から25kg/cm2 G、好ましくは6〜15kg/cm2 Gである。
なお、この反応においてはシクロアルカンの転化率は通常10モル%を越えない範囲に抑えることが望ましい。転化率が10モル%より高くなると、生成したシクロアルキルヒドロペルオキシドが分解されて副生物が増加し、シクロアルキルヒドロペルオキシドの選択率が低下してくるために好ましくない。
【0026】
以上のようにして得られたシクロアルキルヒドロペルオキシドは、例えばナフテン酸コバルト等の金属塩存在下で分解する方法や第VIII族金属触媒存在下で水素還元する方法により、有用なシクロアルカノールやシクロアルカノンに変換される。
【0027】
【実施例】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。
参考例1
〔メチルエチルケトンペルオキシド(2−ブタノンペルオキシド)の合成〕
35重量%過酸化水素水60.2g(0.62モル)と85重量%リン酸1.0gの混合溶液に、攪拌下、15〜20℃で、メチルエチルケトン43.0g(0.60モル)を添加して20分間ケトンペルオキシドの合成反応を行った。反応終了後、反応液に硫酸ナトリウム10gを加えて有機層を分取し、これを炭酸ナトリウムで中和した。濾過・分離して得られたメチルエチルケトンペルオキシド溶液中の活性酸素量は9.5%であった。なお、活性酸素量はヨウ素滴定法から次式により求めた。
【0028】
【数1】
(式中、Aは滴定に要した0.1Nチオ硫酸ナトリウム溶液の量(ml)、Fは0.1Nチオ硫酸ナトリウム溶液の力価、Wは滴定に用いた試料の量(g)を示す)
【0029】
参考例2
〔ジエチルケトンペルオキシド(3−ペンタノンペルオキシド)の合成〕
メチルエチルケトンに代えてジエチルケトン50.6g(0.59モル)を添加したほかは、参考例1と同様に反応と分析を行った。得られたジエチルケトンペルオキシド溶液中の活性酸素量は8.0%であった。
【0030】
参考例3
〔メチルイソブチルケトンペルオキシド(3−メチル−2−ブタノンペルオキシド)の合成〕
メチルエチルケトンに代えてメチルイソブチルケトン60.2g(0.60モル)を添加したほかは、参考例1と同様に反応と分析を行った。得られたジエチルケトンペルオキシド溶液中の活性酸素量は5.0%であった。
【0031】
参考例4
〔シクロヘキサノンペルオキシドの調製〕
シクロヘキサノンペルオキシド溶液(パーヘキサH:日本油脂製)20g(55重量%溶液、活性酸素量7.14%)にシクロヘキサン60gを添加して、シクロヘキサノンペルオキシドを抽出した。得られたシクロヘキサノンペルオキシドのシクロヘキサン溶液中の活性酸素量は1.4%であった。
【0032】
実施例1
ガス導入管、ケトンペルオキシド供給管、試料抜き出し管、還流冷却器及び攪拌装置を備えた内容積500mlの耐圧ガラスオートクレーブに、シクロヘキサン(以下、Cxと称する)300gとピロリン酸ナトリウム0.03gを仕込み、窒素ガスで10kg/cm2 Gに加圧した後、窒素ガスを流しながら160℃まで昇温した。温度が160℃に到達した時点で窒素ガスを空気(10kg/cm2 G)に切り換えて反応器内を空気で置換した後、攪拌下(800rpm)、参考例1で得られたメチルエチルケトンペルオキシド溶液1.8gを加圧定量ポンプで圧入し、空気(10kg/cm2 G)を60L/hrの流速で供給しながら60分間Cxの酸化反応を行った。
【0033】
得られた酸化反応液中のシクロヘキシルヒドロペルオキシド(以下、CHPと称する)、シクロヘキサノール(以下、アノールと称する)、シクロヘキサノン(以下、アノンと称する)及びカプロラクトン、アジピン酸、オキシカプロン酸等の副生物をガスクロマトグラフィーと中和滴定法により分析したところ、Cx転化率が4.4%で、CHP選択率が59.0%、アノール選択率が21.2%、アノン選択率が11.9%であった。なお、Cx転化率、CHP選択率、アノール選択率及びアノン選択率は次式によりそれぞれ求めた。
【0034】
【数2】
【0035】
【数3】
【0036】
【数4】
【0037】
【数5】
【0038】
実施例2
実施例1において、メチルエチルケトンペルオキシド溶液に代えて参考例2で得られたジエチルケトンペルオキシド溶液2.2gを用いて45分間Cxの酸化反応を行ったほかは、実施例1と同様に反応と分析を行った。
その結果、Cx転化率が3.4%で、CHP選択率が61.4%、アノール選択率が21.9%、アノン選択率が10.8%であった。
【0039】
実施例3
実施例1において、メチルエチルケトンペルオキシド溶液に代えて参考例3で得られたメチルイソブチルケトンペルオキシド溶液3.4gを用いたほかは、実施例1と同様に反応と分析を行った。
その結果、Cx転化率が3.9%で、CHP選択率が57.1%、アノール選択率が20.3%、アノン選択率が15.6%であった。
【0040】
実施例4
実施例1において、メチルエチルケトンペルオキシド溶液に代えて参考例4で得られたシクロヘキサノンペルオキシド溶液20gを用い、Cx使用量を280gに変えたほかは、実施例1と同様に反応と分析を行った。
その結果、Cx転化率が4.6%で、CHP選択率が59.7%、アノール選択率が19.1%、アノン選択率が10.3%であった。
【0041】
比較例1
実施例1において、メチルエチルケトンペルオキシド溶液に代えて60重量%過酸化水素水2.1gを用いて125分間Cxの酸化反応を行ったほかは、実施例1と同様に反応と分析を行った。
その結果、Cx転化率が4.4%で、CHP選択率が53.1%、アノール選択率が18.3%、アノン選択率が14.6%であった。
【0042】
比較例2
実施例1において、メチルエチルケトンペルオキシド溶液を用いることなく、120分間Cxの酸化反応を行ったほかは、実施例1と同様に反応と分析を行った。
その結果、Cx転化率が4.2%で、CHP選択率が61.2%、アノール選択率が15.4%、アノン選択率が9.8%であった。
【0043】
比較例3
実施例1において、メチルエチルケトンペルオキシド溶液に代えてベンゾフェノン1.95gを添加したほかは、実施例1と同様に反応と分析を行った。
その結果、Cx転化率が0.9%で、CHP選択率が74.7%、アノール選択率が9.5%、アノン選択率が10.7%であった。
実施例1〜4及び比較例1〜3の結果を表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
【発明の効果】
本発明のケトンペルオキシドを用いる方法により、シクロアルカンを分子状酸素で酸化してシクロアルキルヒドロペルオキシドを製造する方法において、高い反応速度及び高い選択率でシクロアルキルヒドロペルオキシドを生成させることができる。この結果、得られた酸化反応液中に含まれるシクロアルキルヒドロペルオキシドを公知の方法で分解することによって、高收率でシクロアルカノール及びシクロアルカノンを製造することもできるようになる。また、ケトンペルオキシドが分解されて生成するケトンは過酸化水素と反応させることによりケトンペルオキシドに再生することができるため、本発明により、安価な過酸化水素を用いる、優れたシクロアルキルヒドロペルオキシドの製造プロセスを構成することが可能になる。
Claims (1)
- シクロアルカンをケトンペルオキシドの存在下に分子状酸素と接触させることを特徴とするシクロアルキルヒドロペルオキシドの製造方法。
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