JP3561141B2 - 線膨張係数の測定方法 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、セラミックスやガラス等の絶縁体材料の線膨張係数を測定するための測定方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、線膨張係数測定法としては、押棒式やTMA(Thermo−Mechanical Analyzer)、レーザー干渉法、さらに静電容量法等が知られている。しかしながら、上記測定方法は、測定装置が複雑、高価になる欠点がある。
【0003】
そこで、最近、小林、佐藤等による” Improved cavity resonance method for nondestructive measurement of complex permittivity ofdielectric plate” (CPEM Digest,pp.147〜148,1988)や、加屋野, 榊原, 小林らによる ”空洞共振器法による誘電体平板材料の複素誘電率の温度特性の自動測定”(信学技法、MW91〜75、pp.117〜124、Sep.1991)において、誘電体基板の誘電定数の温度特性測定法に関する研究の中で、金属製の円筒空洞共振器における共振周波数の温度変化から円筒空洞共振器を構成する金属の線膨張係数を測定することが提案されている。この方法は測定装置が簡単でかつ絶対測定が可能であり、金属材料の新たな線膨張係数の測定方法として注目されている。
【0004】
さらに、最近では、超電導体を用いた素子の開発に伴い、室温から数10Kまでの低温領域における絶縁体材料、より具体的には回路基板や誘電体共振器材料の線膨張係数を評価する方法が望まれている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記文献に開示された方法によれば、金属材料の線膨張係数を測定することは可能であっても、セラミックス、ガラス、有機材料などの絶縁体材料の線膨張係数を測定することはできないものであった。
【0006】
また、一般の測定方法あるいは測定器によって、室温から数10Kまでの線膨張係数を測定するためには、岡路による「低温領域での変位測定技術」(計測技術、91年4月)においても述べられているように、装置構成上、特別の工夫が必要であった。
【0007】
従って、本発明の目的は、簡単な装置構成でセラミックスやガラス等の絶縁体材料の線膨張係数を高精度に測定でき、しかも室温から数10Kまでの温度領域で測定可能な測定方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記の課題に対して検討を重ねた結果、セラミックス等の絶縁体材料で作製した中空体内壁に導体膜を形成するとともに、該中空体の両端面を2つの導体板で挟持した空洞共振器を形成し、この空洞共振器の共振周波数の温度に対する変化を測定することにより、中空体を構成するセラミックス等の絶縁体材料の膨張係数を算出できることを見いだしたものである。
【0009】
即ち、本発明の線膨張係数の測定方法は、絶縁体材料で作製され、内壁に導体膜が被着形成された中空体の両端面を導体板で挟持して空洞共振器を構成し、該共振器における共振周波数の温度に対する変化を測定し、その共振周波数の変化から前記中空体の寸法変化を求め、その寸法変化から前記絶縁体材料の線膨張係数を算出することを特徴とするものである。
【0010】
特に、前記空洞共振器の2種類のモードの共振周波数の温度に対する変化を測定し、その共振周波数の変化から、前記中空円筒の内径の寸法変化を計算し、該内径の寸法変化から、前記中空円筒を構成する絶縁体材料の線膨張係数を算出すること、さらには、前記1対の導体板に、マイクロ波励振及び検波用のループアンテナが設けられていることが望ましい。
【0011】
【発明の実施の形態】
まず、本発明の線膨張係数の測定方法とその原理について説明する。
一般に、電磁場の空洞共振器の共振周波数は、空洞共振器の寸法と空洞共振器内の物質の誘電率だけに依存するが、本発明によれば、空洞共振器内を真空にした場合や、誘電率の温度変化が極めて小さい空気等の気体で満たした場合には、共振周波数の温度に対する変化が、空洞共振器の熱膨張による寸法変化のみに依存することを利用し、共振周波数の温度に対する変化を測定することにより、共振器を構成する絶縁体材料の線膨張係数を算出するものである。
【0012】
図1は、本発明の測定方法における測定システムの全体構成の一実施例を示すブロック図である。図1によれば、シンセサイズドスイーパー1から出力されたマイクロ波信号は、2つに分割され、一方は基準用としてネットワークアナライザ2に入力される。他方は、線膨張係数測定用の空洞共振器3に入力され、透過した信号がネットワークアナライザ2に入力されるように構成される。
【0013】
線膨張係数測定用の空洞共振器3は、図2に示すように、セラミックス等の絶縁体材料で作製した中空円筒体あるいは中空方形体からなる中空体4の内壁に導体膜5を形成し、中空体4の両端面を導体板6、7で挟持してなる。
【0014】
また、この空洞共振器3を、市販の高温槽やクライオスタット(低温発生装置)内に設置することによって共振器3を所定の温度に設定できる。そして、上記の構成に基づき、所定の温度に設定された空洞共振器3は、共振器3の一対の導体板6、7に設けられた一対のループアンテナ9を経由してネットワークアナライザー2に接続されており、共振器3のその温度における共振周波数を測定できるように構成されている。なお、共振器3内の空洞部8は、真空あるいは大気等の誘電率が1に近い気体が封入されるが、取り扱い及び装置の簡略化の点から大気であることがよい。
【0015】
また、本発明によれば、図2に示すように、上記一対の導体板6、7に、ループアンテナ9を設けることが望ましい。このループアンテナ9は、空洞部8の電磁場を励振及び検波するためのものである。また、ループアンテナ9は、セミリジッドケーブル10と接続され、セミリジッドケーブル10の一方は、シンセサイズドスイーパー1と接続され他方はネットワークアナライザ2と接続される。
【0016】
本発明によれば、上記の測定装置を用い、空洞共振器3の共振周波数f0 の温度に対する変化が、中空体4を構成するセラミックス等の絶縁体材料の温度変化に伴う寸法変化だけに依存することを利用して線膨張係数を算出する。
【0017】
具体的な測定方法として、まず、単一モードの共振周波数の温度変化より、線膨張係数を算出する場合について述べる。
一般に、円筒空洞共振器のTEnml モードの共振周波数f0 は下記数1の式(1)で与えられる。ただし、nは円筒の回転方向における電磁界の変化の数、mは円筒の径方向における電磁界の変化の数、lは円筒の軸方向における電磁界の変化の数であり、式(1)中、cは光速、j’ nmはJn ’(x)=0のm番目の解、Jn ’(x)はN次のベッセル関数の微分である。Dは共振器の内径、Hは共振器の高さである。
【0018】
【数1】
【0019】
ここで、内径Dと高さHとの比S=D/Hは温度によらず一定であると仮定すると、式(1)から共振器の内径Dが下記数2の式(2)で与えられる。
【0020】
【数2】
【0021】
さらに、基準温度(室温)での共振器の内径D、共振周波数f0 をD0 、f00とすると、熱膨張による寸法変化ΔD=D−D0 をD0 で除した値であるΔD/D0 は下記数3の式(3)で与えられる。
【0022】
【数3】
【0023】
実際には、f00と温度Tにおけるf0(T)を測定し、上記式(3)によりΔD/D0 を温度の関数として求める。線膨張係数はΔD/D0 −温度データの回帰曲線を温度で微分して求める。
【0024】
さらに、高精度な測定結果を求めるためには、2種類のモードの共振周波数の温度に対する変化を測定することが、中空体4の両端面と2つの導体板6、7の接触状態の変化による線膨張係数の測定誤差の発生を抑制する上で望ましい。
【0025】
そこで、2種類のモード、特にTE011 モードと、TE012 モードの共振周波数の温度に対する変化の測定に基づく線膨張係数の算出方法について述べる。
【0026】
TE011 、TE012 モードの共振周波数をそれぞれf1 、f2 とすると,数1から次の数4中の式(4)、式(5)が与えられる。
【0027】
【数4】
【0028】
ただし、J’ 01は、J0 ’(x)=0の1番目の解、J0 ’(x)は0次のベッセル関数の微分である。従って、数4中の式(4)、式(5)から、共振器における円柱体の内径D、高さHは、次の数5中の式(6)(7)で与えられる。
【0029】
【数5】
【0030】
さらに基準温度(室温)における円柱体の内径D、高さH、共振周波数f1 、f2 をD0 、H0 、f01、f02とすると、温度変化に伴う熱膨張による内径寸法変化ΔD=D−D0 をD0 で除した値であるΔD/D0 、および高さ寸法変化ΔH=H−H0 をH0 で除した値であるΔH/H0 は下記数6の式(8)、式(9)によって与えられる。
【0031】
【数6】
【0032】
つまり、基準温度における共振周波数f01、f02と、温度Tにおける共振周波数f1(T)、f2(T)を測定し、前記式(8)(9)によりΔD/D0 とΔH/H0 を温度の関数として求める。このうち、ΔH/H0 には、中空体4の両端面と2つの導体板6,7の接触状態の変化による誤差が含まれている可能性がある。
【0033】
従って、正確な線膨張係数は、ΔD/D0 −温度データの回帰曲線を温度で微分することによって求めることができる。
【0034】
【実施例】
上記の測定方法に基づき具体的にAl2 O3 セラミックスの線熱膨張係数を2種類のモードを用いた方法によって測定した。
純度99.5%Al2 O3 セラミックスを被測定試料として、本発明に基づき共振周波数の温度に対する変化の測定を測定し、熱膨張係数を算出した。測定にあたり先ず中空体を作製した。中空体のサイズは、空洞共振器の共振周波数を比較的測定しやすい10〜20GHzとするため、内径D0 =30mm、高さH0 =26mm(いずれも25℃における寸法)の円筒体とした。さらに、この円筒体の内面に銀ペーストを塗布し、650℃で焼成した。焼結した銀の厚さは20〜30μmであった。そして、この円筒体の上下端面を、純銅からなる厚さ2mmの金属板で挟持して空洞共振器を構成した。なお、金属板の一部には、図1に示したように、マイクロ波を励起,検波するためのループアンテナを挿入する2〜3mm径の結合口を設けた。
【0035】
上記の構成からなる空洞共振器をクライオスタット(低温発生装置)に挿入して、10K(ケルビン)まで冷却し、その後、温度上昇させながら、各温度におけるTE011 モードの共振周波数f1 とTE012 モードの共振周波数f2 を随時測定した。なお、測定では、空洞共振器を組み直して2回の測定(first,second)を行い、その結果を図3に示した。
【0036】
最後に到達した293K(ケルビン)を基準温度とし、293Kでの共振周波数f1 とf2 をf01とf02とした。次に、式(8)(9)により、ΔD/D0 、ΔH/H0 を計算し、その結果を図4に示した。このうち、円筒体の両端面と導体板の接触状態の変化による誤差が含まれにくいΔD/D0 −温度のデータの回帰曲線を温度の4次関数として求め、このΔD/D0 −温度の回帰曲線を温度で微分することにより、線膨張係数を温度の関数として求めた。その結果を図5に示した。また、図5には文献値(reference)も示した。
【0037】
図5中の文献値(reference)の、線膨張係数は「Guy K White, Ronald B Roberts: ”Thermal expansion of reference material: tungsten and α−Al2O3 ”, High Temperature−High Pressure, Vol.15, pp.321−328 (1983)」によるものであって、図5の結果から明らかなように、本発明による算出値は、文献値と良く一致している。また、共振器を組み直して2回の繰り返し測定を行っても高い再現性が確認された。
【0038】
以上の結果より、本発明の測定装置を用いた熱膨張係数の測定精度として、文献値との差に基づけば、0.1〜0.2ppm/K程度が期待されることがわかった。
【0039】
【発明の効果】
以上詳述した通り、本発明の線膨張係数の測定方法及び測定装置によれば、従来は複雑で高価な測定装置が必要であった室温から数10Kにおける絶縁体材料の線膨張係数の測定を簡単な装置構成で且つ高精度に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明における線膨張係数の測定システムの全体構成を説明するためのブロック図である。
【図2】本発明における線膨張係数測定用の共振器構造を示す図である。
【図3】本発明の実施例における空洞共振器の共振周波数f1 、f2 の測定結果を示す図である。
【図4】本発明に実施例における円筒体の内径Dと高さHの寸法変化の算出結果を示す図である。
【図5】本発明に実施例における円筒体の線熱膨張係数の算出結果を示す図である。
【符号の説明】
1 シンセサイズドスイーパー
2 ネットワークアナライザー 3 共振器
4 中空体
5 導体膜
6,7 導体板 8 空洞部
9 ループアンテナ
10 セミリジッドケーブル
【発明の属する技術分野】
本発明は、セラミックスやガラス等の絶縁体材料の線膨張係数を測定するための測定方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、線膨張係数測定法としては、押棒式やTMA(Thermo−Mechanical Analyzer)、レーザー干渉法、さらに静電容量法等が知られている。しかしながら、上記測定方法は、測定装置が複雑、高価になる欠点がある。
【0003】
そこで、最近、小林、佐藤等による” Improved cavity resonance method for nondestructive measurement of complex permittivity ofdielectric plate” (CPEM Digest,pp.147〜148,1988)や、加屋野, 榊原, 小林らによる ”空洞共振器法による誘電体平板材料の複素誘電率の温度特性の自動測定”(信学技法、MW91〜75、pp.117〜124、Sep.1991)において、誘電体基板の誘電定数の温度特性測定法に関する研究の中で、金属製の円筒空洞共振器における共振周波数の温度変化から円筒空洞共振器を構成する金属の線膨張係数を測定することが提案されている。この方法は測定装置が簡単でかつ絶対測定が可能であり、金属材料の新たな線膨張係数の測定方法として注目されている。
【0004】
さらに、最近では、超電導体を用いた素子の開発に伴い、室温から数10Kまでの低温領域における絶縁体材料、より具体的には回路基板や誘電体共振器材料の線膨張係数を評価する方法が望まれている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記文献に開示された方法によれば、金属材料の線膨張係数を測定することは可能であっても、セラミックス、ガラス、有機材料などの絶縁体材料の線膨張係数を測定することはできないものであった。
【0006】
また、一般の測定方法あるいは測定器によって、室温から数10Kまでの線膨張係数を測定するためには、岡路による「低温領域での変位測定技術」(計測技術、91年4月)においても述べられているように、装置構成上、特別の工夫が必要であった。
【0007】
従って、本発明の目的は、簡単な装置構成でセラミックスやガラス等の絶縁体材料の線膨張係数を高精度に測定でき、しかも室温から数10Kまでの温度領域で測定可能な測定方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上記の課題に対して検討を重ねた結果、セラミックス等の絶縁体材料で作製した中空体内壁に導体膜を形成するとともに、該中空体の両端面を2つの導体板で挟持した空洞共振器を形成し、この空洞共振器の共振周波数の温度に対する変化を測定することにより、中空体を構成するセラミックス等の絶縁体材料の膨張係数を算出できることを見いだしたものである。
【0009】
即ち、本発明の線膨張係数の測定方法は、絶縁体材料で作製され、内壁に導体膜が被着形成された中空体の両端面を導体板で挟持して空洞共振器を構成し、該共振器における共振周波数の温度に対する変化を測定し、その共振周波数の変化から前記中空体の寸法変化を求め、その寸法変化から前記絶縁体材料の線膨張係数を算出することを特徴とするものである。
【0010】
特に、前記空洞共振器の2種類のモードの共振周波数の温度に対する変化を測定し、その共振周波数の変化から、前記中空円筒の内径の寸法変化を計算し、該内径の寸法変化から、前記中空円筒を構成する絶縁体材料の線膨張係数を算出すること、さらには、前記1対の導体板に、マイクロ波励振及び検波用のループアンテナが設けられていることが望ましい。
【0011】
【発明の実施の形態】
まず、本発明の線膨張係数の測定方法とその原理について説明する。
一般に、電磁場の空洞共振器の共振周波数は、空洞共振器の寸法と空洞共振器内の物質の誘電率だけに依存するが、本発明によれば、空洞共振器内を真空にした場合や、誘電率の温度変化が極めて小さい空気等の気体で満たした場合には、共振周波数の温度に対する変化が、空洞共振器の熱膨張による寸法変化のみに依存することを利用し、共振周波数の温度に対する変化を測定することにより、共振器を構成する絶縁体材料の線膨張係数を算出するものである。
【0012】
図1は、本発明の測定方法における測定システムの全体構成の一実施例を示すブロック図である。図1によれば、シンセサイズドスイーパー1から出力されたマイクロ波信号は、2つに分割され、一方は基準用としてネットワークアナライザ2に入力される。他方は、線膨張係数測定用の空洞共振器3に入力され、透過した信号がネットワークアナライザ2に入力されるように構成される。
【0013】
線膨張係数測定用の空洞共振器3は、図2に示すように、セラミックス等の絶縁体材料で作製した中空円筒体あるいは中空方形体からなる中空体4の内壁に導体膜5を形成し、中空体4の両端面を導体板6、7で挟持してなる。
【0014】
また、この空洞共振器3を、市販の高温槽やクライオスタット(低温発生装置)内に設置することによって共振器3を所定の温度に設定できる。そして、上記の構成に基づき、所定の温度に設定された空洞共振器3は、共振器3の一対の導体板6、7に設けられた一対のループアンテナ9を経由してネットワークアナライザー2に接続されており、共振器3のその温度における共振周波数を測定できるように構成されている。なお、共振器3内の空洞部8は、真空あるいは大気等の誘電率が1に近い気体が封入されるが、取り扱い及び装置の簡略化の点から大気であることがよい。
【0015】
また、本発明によれば、図2に示すように、上記一対の導体板6、7に、ループアンテナ9を設けることが望ましい。このループアンテナ9は、空洞部8の電磁場を励振及び検波するためのものである。また、ループアンテナ9は、セミリジッドケーブル10と接続され、セミリジッドケーブル10の一方は、シンセサイズドスイーパー1と接続され他方はネットワークアナライザ2と接続される。
【0016】
本発明によれば、上記の測定装置を用い、空洞共振器3の共振周波数f0 の温度に対する変化が、中空体4を構成するセラミックス等の絶縁体材料の温度変化に伴う寸法変化だけに依存することを利用して線膨張係数を算出する。
【0017】
具体的な測定方法として、まず、単一モードの共振周波数の温度変化より、線膨張係数を算出する場合について述べる。
一般に、円筒空洞共振器のTEnml モードの共振周波数f0 は下記数1の式(1)で与えられる。ただし、nは円筒の回転方向における電磁界の変化の数、mは円筒の径方向における電磁界の変化の数、lは円筒の軸方向における電磁界の変化の数であり、式(1)中、cは光速、j’ nmはJn ’(x)=0のm番目の解、Jn ’(x)はN次のベッセル関数の微分である。Dは共振器の内径、Hは共振器の高さである。
【0018】
【数1】
【0019】
ここで、内径Dと高さHとの比S=D/Hは温度によらず一定であると仮定すると、式(1)から共振器の内径Dが下記数2の式(2)で与えられる。
【0020】
【数2】
【0021】
さらに、基準温度(室温)での共振器の内径D、共振周波数f0 をD0 、f00とすると、熱膨張による寸法変化ΔD=D−D0 をD0 で除した値であるΔD/D0 は下記数3の式(3)で与えられる。
【0022】
【数3】
【0023】
実際には、f00と温度Tにおけるf0(T)を測定し、上記式(3)によりΔD/D0 を温度の関数として求める。線膨張係数はΔD/D0 −温度データの回帰曲線を温度で微分して求める。
【0024】
さらに、高精度な測定結果を求めるためには、2種類のモードの共振周波数の温度に対する変化を測定することが、中空体4の両端面と2つの導体板6、7の接触状態の変化による線膨張係数の測定誤差の発生を抑制する上で望ましい。
【0025】
そこで、2種類のモード、特にTE011 モードと、TE012 モードの共振周波数の温度に対する変化の測定に基づく線膨張係数の算出方法について述べる。
【0026】
TE011 、TE012 モードの共振周波数をそれぞれf1 、f2 とすると,数1から次の数4中の式(4)、式(5)が与えられる。
【0027】
【数4】
【0028】
ただし、J’ 01は、J0 ’(x)=0の1番目の解、J0 ’(x)は0次のベッセル関数の微分である。従って、数4中の式(4)、式(5)から、共振器における円柱体の内径D、高さHは、次の数5中の式(6)(7)で与えられる。
【0029】
【数5】
【0030】
さらに基準温度(室温)における円柱体の内径D、高さH、共振周波数f1 、f2 をD0 、H0 、f01、f02とすると、温度変化に伴う熱膨張による内径寸法変化ΔD=D−D0 をD0 で除した値であるΔD/D0 、および高さ寸法変化ΔH=H−H0 をH0 で除した値であるΔH/H0 は下記数6の式(8)、式(9)によって与えられる。
【0031】
【数6】
【0032】
つまり、基準温度における共振周波数f01、f02と、温度Tにおける共振周波数f1(T)、f2(T)を測定し、前記式(8)(9)によりΔD/D0 とΔH/H0 を温度の関数として求める。このうち、ΔH/H0 には、中空体4の両端面と2つの導体板6,7の接触状態の変化による誤差が含まれている可能性がある。
【0033】
従って、正確な線膨張係数は、ΔD/D0 −温度データの回帰曲線を温度で微分することによって求めることができる。
【0034】
【実施例】
上記の測定方法に基づき具体的にAl2 O3 セラミックスの線熱膨張係数を2種類のモードを用いた方法によって測定した。
純度99.5%Al2 O3 セラミックスを被測定試料として、本発明に基づき共振周波数の温度に対する変化の測定を測定し、熱膨張係数を算出した。測定にあたり先ず中空体を作製した。中空体のサイズは、空洞共振器の共振周波数を比較的測定しやすい10〜20GHzとするため、内径D0 =30mm、高さH0 =26mm(いずれも25℃における寸法)の円筒体とした。さらに、この円筒体の内面に銀ペーストを塗布し、650℃で焼成した。焼結した銀の厚さは20〜30μmであった。そして、この円筒体の上下端面を、純銅からなる厚さ2mmの金属板で挟持して空洞共振器を構成した。なお、金属板の一部には、図1に示したように、マイクロ波を励起,検波するためのループアンテナを挿入する2〜3mm径の結合口を設けた。
【0035】
上記の構成からなる空洞共振器をクライオスタット(低温発生装置)に挿入して、10K(ケルビン)まで冷却し、その後、温度上昇させながら、各温度におけるTE011 モードの共振周波数f1 とTE012 モードの共振周波数f2 を随時測定した。なお、測定では、空洞共振器を組み直して2回の測定(first,second)を行い、その結果を図3に示した。
【0036】
最後に到達した293K(ケルビン)を基準温度とし、293Kでの共振周波数f1 とf2 をf01とf02とした。次に、式(8)(9)により、ΔD/D0 、ΔH/H0 を計算し、その結果を図4に示した。このうち、円筒体の両端面と導体板の接触状態の変化による誤差が含まれにくいΔD/D0 −温度のデータの回帰曲線を温度の4次関数として求め、このΔD/D0 −温度の回帰曲線を温度で微分することにより、線膨張係数を温度の関数として求めた。その結果を図5に示した。また、図5には文献値(reference)も示した。
【0037】
図5中の文献値(reference)の、線膨張係数は「Guy K White, Ronald B Roberts: ”Thermal expansion of reference material: tungsten and α−Al2O3 ”, High Temperature−High Pressure, Vol.15, pp.321−328 (1983)」によるものであって、図5の結果から明らかなように、本発明による算出値は、文献値と良く一致している。また、共振器を組み直して2回の繰り返し測定を行っても高い再現性が確認された。
【0038】
以上の結果より、本発明の測定装置を用いた熱膨張係数の測定精度として、文献値との差に基づけば、0.1〜0.2ppm/K程度が期待されることがわかった。
【0039】
【発明の効果】
以上詳述した通り、本発明の線膨張係数の測定方法及び測定装置によれば、従来は複雑で高価な測定装置が必要であった室温から数10Kにおける絶縁体材料の線膨張係数の測定を簡単な装置構成で且つ高精度に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明における線膨張係数の測定システムの全体構成を説明するためのブロック図である。
【図2】本発明における線膨張係数測定用の共振器構造を示す図である。
【図3】本発明の実施例における空洞共振器の共振周波数f1 、f2 の測定結果を示す図である。
【図4】本発明に実施例における円筒体の内径Dと高さHの寸法変化の算出結果を示す図である。
【図5】本発明に実施例における円筒体の線熱膨張係数の算出結果を示す図である。
【符号の説明】
1 シンセサイズドスイーパー
2 ネットワークアナライザー 3 共振器
4 中空体
5 導体膜
6,7 導体板 8 空洞部
9 ループアンテナ
10 セミリジッドケーブル
Claims (3)
- 絶縁体材料からなる被測定試料で作製され、内壁に導体膜が被着形成された中空体の両端面を導体板で挟持して空洞共振器を構成し、該共振器における共振周波数の温度に対する変化を測定し、その共振周波数の変化から前記中空体の寸法変化を求め、該寸法変化から線膨張係数を算出することを特徴とする線膨張係数の測定方法。
- 前記空洞共振器の2種類のモードの共振周波数の温度に対する変化を測定し、その共振周波数の変化から、前記中空円筒の内径の寸法変化を計算し、該内径の寸法変化から、前記中空円筒を構成する絶縁体材料の線膨張係数を算出することを特徴とする請求項1記載の線膨張係数の測定方法。
- 前記一対の導体板に、ループアンテナが設けられていることを特徴とする請求項1記載の線膨張係数の測定方法。
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JPH11281599A JPH11281599A (ja) | 1999-10-15 |
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