JP3560637B2 - ステンレス鋼の転炉吹錬方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、鋼中に含まれるCr(金属クローム)の酸化を抑制しながらステンレス鋼の脱炭を行う転炉吹錬方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
一般に、転炉において精錬のための熱源を確保することは重要な技術であり、殊にステンレス鋼を精錬する場合においては、鋼中Crの酸化を抑制しつつ脱炭するためには極めて重要なことである。このため、従来はランスの酸素ノズルを改良して酸素ジェットの2次燃焼を利用することが行われている。すなわち、鋼中に3%程度含有しているC(カーボン)を1次燃焼(C→CO)および2次燃焼(CO→CO2 )させる際に、この2次燃焼時の発熱量が大きいことを利用して、2次燃焼の割合を大きくするために、たとえば酸素ノズルの形状を大きく広げるなどの工夫を凝らすことが行われている。
【0003】
一方、転炉に装入する溶銑の比率を上昇させ、スクラップ装入比率を下げることによって溶鋼温度を確保する方法も行われている。すなわち、Crは温度が低くなるほど酸化されやすい性質を有する点から、電気炉より転炉に装入する溶銑の比率を上昇させ、一方、冷材であるスクラップ鋼の比率を低下させて熱補償する方法である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
前者の酸素ノズルを改良する方法は、2次燃焼が発生する部位の転炉炉内側壁の耐火物が高温によって溶損される速度が大きくなるために、経済性の面で欠点がある。一方、後者の方法では、装入スクラップ比率が下がるために、製鋼の配合原価の面でコスト増となり、これもまた経済性に問題がある。さらにこの方法では、ステンレス鋼精錬の場合は、スクラップ装入比率を上げればCr酸化量が大きくなるという欠点がある。
【0005】
図8に、スクラップ装入比率とCr酸化量の関係が実測範囲A1に対する平均値として表される線L1によって示されるが、18Cr鋼を例として、転炉Crロス(%)、すなわち、吹錬開始時の鋼中Cr含有量(重量%比)と吹錬終了時(終点)の同含有量との差(ΔCr)についてみると、スクラップ装入比率(%)(スクラップ装入量が溶銑重量とスクラップ装入量との和に対する百分率)が10%と14%とでは、14%の方が0.5%多くなる結果が示されるように、スクラップ装入比率を上げるとΔCrが増えて、Cr酸化量が大きくなり、製品品質の低下をもたらすことになって好ましくない。なお、図8は、スクラップ装入比率を減らすと、冷材であるスクラップの減少によって、吹錬温度が高くなりCrが酸化されにくくなってΔCrが小さくなることを意味している。
【0006】
以上説明した従来の両例の他に、転炉における熱補償を行わせる手段としては、Si源、C源を使用しての粉体吹込みあるいは添加の方法があるが、Si酸化熱による熱補償は、たとえばFeSiの投入がトータルスラグ量の増加になり、転炉炉体耐火物の溶損を著しく進行させるため好ましくなく、一方、C酸化熱によって熱補償する場合は、耐火物の溶損はないが、冷材溶解のためのコストが高くなる経済面の不利がある。
【0007】
本発明の目的は、スクラップ装入比率を下げることなく、鋼中Crの酸化を抑制しながら高能率、低生産コストを図って脱炭精錬を実現し得るステンレス鋼の転炉吹錬方法を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、ステンレス鋼の脱炭を行う転炉吹錬方法において、コークスあるいは土壌黒鉛などの炭材を、吹錬前でかつスクラップ装入前に添加することによって、Cr酸化の熱源をC酸化に置換することを特徴とするステンレス鋼の転炉吹錬方法である。
【0009】
また本発明は、炭材の添加量が1チャージについて溶鋼1Ton当たり14ないし20Kgであることを特徴とする。
【0010】
また本発明は、溶銑中にCが3%含まれているときに、転炉の吹錬前Cを4.4ないし5.0%の範囲に調整するとともに、転炉吹止めCを0.2%以上に調整することを特徴とする。
【0011】
【作用】
本発明に従えば、転炉吹錬において熱補償する手段として、C酸化熱による添加を採用し、その場合、吹錬前で、かつスクラップ装入前に炭材を添加することによって、2次燃焼を利用せず、スクラップ装入率を下げないで溶鋼温度を高くさせてCrの酸化を抑制することができる。さらに本発明によれば転炉吹止めC、すなわち転炉の吹錬終了時のCを上昇させることによって、吹錬終了後に行う真空脱ガス処理の操作が安定して行われ、製鋼歩留りは良くなる。
【0012】
【実施例】
図1は、本発明の実施例に係る転炉の概略図である。図示の転炉は、頂部に開口する炉口部を有する炉体1と、炉口部から挿入し炉体1内に垂下されるランス2と、炭材5たとえばコークスCの粉体を炉口部から炉体1内に投下するための樋状のシュート3と、廃ガス中のダストを捕集する集塵装置4とを備える。溶銑およびスクラップの主原料と、コークスが装入される際は、ランス2が上がっており、コークス投入の際はクレーン7などによってシュート3を傾けて一挙に投入する。主原料およびコークスを装入した後、ランス2から純酸素6を高速で吹込み、約3%の鋼中C含有率〔%C〕から0.2%以上、たとえば0.2〜0.3%に脱炭する。なお、図示しないが炉体1内には底部から不活性ガスであるN2 またはArを羽口から吹込んで、低C域でのCr酸化を抑えるようにしている。
【0013】
図2には転炉の操業概況のタイムチャートが示される。このチャートにおいて、(1)は操業内容、(2)は操業時間をそれぞれ示す。先ず、前工程の電気炉において溶解された溶銑が転炉の炉体1内に注銑される。注銑が終わるとシュート3からコークスの粉体が一度に装入される。したがってコークス粉体は集塵装置4には吸出されることなく炉体1内の溶銑中に混じることができる。
【0014】
コークスの装入が終わり、注銑開始から10分経過した時点で、ランス2のO2ノズルからO2が吹出されて吹錬が開始される。この時点では溶銑中にCrが19%含まれている。吹錬開始後10分経過した時点でスクラップが装入される。炉体1内では溶銑およびスクラップ鋼中に含まれる約3%の〔%C〕がO2と反応して0.20〜0.30%の粗脱炭が行われる。吹錬開始後30分経過した時点でO2 の吹出しを止めて吹錬終了(転炉吹止め)となり、その後、分析サンプリングが行われ、吹錬終了から20分経過した時点で微調整が成されて、さらに10分経過した時点において転炉から出鋼され、次の真空脱ガス装置(VOD)に移送される。吹錬が終了した時点における溶銑中のCrは1%減少して18%になっている。なお、転炉内に装入する炭材としては、コークスに限らず中国産、韓国産の天然物である土壌黒鉛も使用可能である。
【0015】
このように転炉において吹錬を行った場合に、炭材を吹錬前でかつスクラップ装入前に投入することによって、Cr酸化ロスが低減し、かつ、製鋼歩留りが向上するのであって、図3および図4には、スクラップ鋼投入比率を変えたときの、本実施例と極少量の炭材を用いた比較例との間のCrロス量と製鋼歩留りとの違いが示される。この図3,4は鋼種としてULCN鋼(極低C,N鋼)を用いた場合が示されるが、図3,4より明らかなように、転炉でのCr酸化ロス(ΔCr%)は、白抜き丸印および実線グラフL2,L4で示される本実施例の方が、黒丸印および破線グラフL3,L5で示される比較例に対して、約0.8%小さくなっており、また歩留り(%)については同じように約2%高くなっている。
【0016】
なお、製鋼歩留りとは、溶銑(たとえば80Ton)とスクラップ鋼(たとえば10Ton)との和W1(たとえば90Ton)から、吹錬後の鋼損失(鉄ロス分、Mg,Cr,酸化物など)を差引いた製鋼W2(たとえば81Ton)が得られたとすると、製鋼歩留り(この場合はLD歩留りである)はW2/W1×100≒90%と規定される。
【0017】
次に図5には、装入コークス原単位(溶鋼1Ton当たりのコークス装入量Kg)の変化に対するC歩留り(%)が示される。この図によって明らかなようにC歩留りは、装入コークス原単位が14〜20Kg/Tの範囲W1内が最良であることが判る。ここでC歩留り(%)とは、
【0018】
【数1】
【0019】
であり、上記式の右辺分子についてはコークスから押込まれたC純分を意味していて、したがってC歩留り(%)が高いことは脱窒率が良くなることを意味している。ところで装入コークス原単位が14〜20%Kg/Tとは、溶鋼中に重量比1.4〜2.0%のコークスが装入されることであって、電気炉の溶銑中には通常3%の〔%C〕が含まれているため、転炉での吹錬前Cは4.4(=3.0+1.4)〜5.0(=3.0+2.0)%の範囲になるようにコークス装入量を決定するのが好ましい。
【0020】
一方、図6には、転炉における吹錬前に炭材を投入した本実施例(白抜き丸印が存在する帯域A3で示される)と炭材を投入しない比較例(黒丸印が存在する帯域A4で示される)とにおける転炉吹止めC(終点C)%と終点温度(吹錬終了時温度)との比較結果が示される。この図6から、終点C%が少ないほど終点温度が高くなることが、また、同じ終点C%でも本実施例の方が終点温度が高くなることが判る。すなわち、終点C%が少ないということはCがO2 と多く反応しているからに他ならなく、その結果、燃焼によって温度が高くなる訳である。
【0021】
本実施例では、吹錬前に炭材を入れることによって、同じ1850℃の目標温度にするのに、すなわち、転炉吹錬よりも後の連続鋳造工程における鋳造のための凝固温度から逆算して必要な温度にするのに、終点C(%)を比較例の0.20よりも高い0.27位に高くすることができる。このように終点C(%)を高くし得ることは、転炉の直後における真空脱ガス装置(VOD)での操業を安定して行えることを意味している。すなわち吹錬前にコークスなどの炭材を適量投入することによって同じ目標温度1850℃にするのに吹止めCを高くし得ることになり、実質的に溶鋼中のO2 ガスの量を少なくすることが可能となるのである。
【0022】
図7に溶鋼中に含まれる炭素〔C〕と酸素〔O〕の関係線図が示されるように、溶鋼中のO2 ガス量が少なければ逆にCが多くなる条件からすれば、吹止めCを0.27%以上と高くすることによって、鋼中のO2 を減少させ溶鋼温度を確保し、製鋼歩留りを向上することができる。
【0023】
【発明の効果】
以上述べたように本発明によれば、転炉での吹錬前でかつスクラップ装入前にC源としての炭材を添加することによって、スクラップ装入比率を下げることなく転炉吹止めCを高めることが可能で、その結果、溶鋼温度を確保することができ、また、1チャージ当たりの溶鋼量を減らすことなくCr酸化量の低減および製鋼歩留りの向上によるコストの低下が図れる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明方法の実施例に係る転炉の概略図である。
【図2】本発明方法の実施に係る転炉操業概況のタイムチャートである。
【図3】スクラップ装入比率を変えたときの本発明実施例と比較例とにおけるCrロス量の変化を示す線図である。
【図4】図3と同じく製鋼歩留りの変化を示す線図である。
【図5】転炉における装入コークス原単位とC歩留りとの関係を表す線図である。
【図6】本実施例と比較例とにおける転炉吹止めC%と終点温度との関係線図である。
【図7】溶鋼中に含まれる炭素と酸素の関係線図である。
【図8】従来の転炉におけるスクラップ装入比率とCr酸化量との関係線図である。
【符号の説明】
1 転炉炉体
2 ランス
3 シュート
4 集塵装置
Claims (3)
- ステンレス鋼の脱炭を行う転炉吹錬方法において、コークスあるいは土壌黒鉛などの炭材を、吹錬前でかつスクラップ装入前に添加することによって、Cr酸化の熱源をC酸化に置換することを特徴とするステンレス鋼の転炉吹錬方法。
- 炭材の添加量が1チャージについて溶鋼1Ton当たり14ないし20Kgであることを特徴とする請求項1記載のステンレス鋼の転炉吹錬方法。
- 溶銑中にCが3%含まれているときに、転炉の吹錬前Cを4.4ないし5.0%の範囲に調整するとともに、転炉吹止めCを0.2%以上に調整することを特徴とする請求項1記載のステンレス鋼の転炉吹錬方法。
Priority Applications (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP10023394A JP3560637B2 (ja) | 1994-05-13 | 1994-05-13 | ステンレス鋼の転炉吹錬方法 |
Applications Claiming Priority (1)
Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
---|---|---|---|
JP10023394A JP3560637B2 (ja) | 1994-05-13 | 1994-05-13 | ステンレス鋼の転炉吹錬方法 |
Publications (2)
Publication Number | Publication Date |
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JPH07310111A JPH07310111A (ja) | 1995-11-28 |
JP3560637B2 true JP3560637B2 (ja) | 2004-09-02 |
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ID=14268560
Family Applications (1)
Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
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JP10023394A Expired - Lifetime JP3560637B2 (ja) | 1994-05-13 | 1994-05-13 | ステンレス鋼の転炉吹錬方法 |
Country Status (1)
Country | Link |
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Families Citing this family (1)
Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
---|---|---|---|---|
JP4702097B2 (ja) * | 2006-02-24 | 2011-06-15 | Jfeスチール株式会社 | 含クロム溶銑用保持炉の操業方法 |
-
1994
- 1994-05-13 JP JP10023394A patent/JP3560637B2/ja not_active Expired - Lifetime
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Publication number | Publication date |
---|---|
JPH07310111A (ja) | 1995-11-28 |
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