JP3557265B2 - アイドラプーリ - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明はアイドラプーリに関し、特に自動車のエンジンのタイミングベルト、及び補機駆動用ベルトに係止されるアイドラプーリに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
アイドラプーリは、自動車のエンジンのタイミングベルトや補機駆動用ベルト等において、ベルトの巻掛け角を増大させ、また、ベルトに適当な張力を与えるために配置される。アイドラプーリとしては、ベルトが接触するプーリ周面を玉軸受の外輪の外径に直接設けたもの(笠型外輪)もあるが、図18に示すように、プーリ周面11a1を有するプーリ本体11と玉軸受12とを嵌合一体化した構成のものが多く使用されている。
【0003】
プーリ本体11は鋼板プレス製のもので、ベルトを掛けるための外径円筒部11a、玉軸受12の外輪12bを嵌合する内径円筒部11bを有する。プーリ周面11a1は、外径円筒部11aの外径に設けられる。玉軸受12は深溝玉軸受で、プーリ本体11の内径円筒部11bに嵌合された外輪12b、固定軸(図示省略)に嵌合される内輪12a、内・外輪12a、12bの軌道面間に組込まれた複数のボール12c、ボール12cを保持する保持器12d、グリースを密封するシール12eを有する。
【0004】
この種のアイドラプーリでは、プーリ本体11がベルトから回転駆動力を受けて回転すると、これに嵌合された玉軸受12の外輪12bがプーリ本体11と一体となって回転する。
【0005】
上記のようなアイドラプーリにおいて、ベルト荷重の荷重中心は玉軸受12の軸受中心線Yと一致し、また、プーリ回転軸心Zは固定軸心Xと一致するように設計するのが通例である。これは、ベルト荷重が玉軸受2に偏荷重として作用し、玉軸受2に好ましくない影響が生じるのを回避するためにそうするもので、従来より踏襲されてきたいわば設計上の基本的事項ともいうべきものである。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上記のようなアイドラプーリを寒冷時に運転すると特異音(笛吹き音)が発生する場合がある。この寒冷時の特異音、いわゆる冷時異音は市場において必ずしも100%発生するわけではなく、気温等に左右され、国内では北海道など限られた地域でのみ発生する。また、自動車のエンジン始動時からごく短時間(長いものでも1分間程度)に発生し、その後は皆無である。冷時異音はこのような複雑な性質を有し、再現するのが困難であったため、その発生原因については、未だ明確には解明されていない。しかも、自動車等に使用されるアイドラプーリは高温、高速で運転されるものであり、その耐久性も重要な特性の一つであるから、耐久性低下につながるような対策手段は採れない。このような理由から、現在、アイドラプーリの冷時異音対策としてこれといって決め手となる有効な手段が提供されていないのが実状である。
【0007】
従来より、冷時異音対策として、低温特性に優れたグリース(寒冷時においても、転動体と内・外輪の軌道面との接触部に油膜がむらなく形成されるもの)を軸受に使用することが検討されている。この対策手段は、寒冷時におけるグリースの潤滑性能を高めることによって、冷時異音の発生を抑制しようとするものであり、かなりの効果が期待できる。しかし、グリースの粘度が低くなるため、高温時の潤滑性能に懸念があり、耐久性低下につながる可能性がある。
【0008】
また、内・外輪の軌道面の曲率半径を大きくしたり、軸受すきまを大きくすることで、冷時異音の発生が抑制されたとの報告もあるが、冷時異音の発生を完全には防止できておらず、また、軌道面の曲率半径や軸受すきまの増大は、プーリ本体の角振れを増幅する結果となり、アイドラプーリとしての機能を害するおそれがある。
【0009】
さらに、プーリ本体のボス部(玉軸受の外輪を嵌合する部分)の外径に吸音効果を有する部材(ゴム状弾性体)を装着した事例(実開平3−41247号)、あるいは、プーリ本体の内径と玉軸受を嵌合するベアリングケースの外径との間に弾性体を介在させた事例もある(実開昭62−91056号)。これらの事例は、弾性体の内部減衰性を利用して、冷時異音の発生要因であると考えられる軸受の自励振動を吸収しようとしたものであるが、冷時においては弾性体の内部減衰性が低下すると考えられるため、冷時異音対策として充分な効果が期待できるかは定かではない。
【0010】
そこで、本発明は、アイドラプーリの耐久性、プーリとしての機能を確保しつつ、コスト面をも考慮に入れ、冷時異音の発生を効果的に抑制又は防止し得る手段を提供しようとするものである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明のアイドラプーリは、ベルトが接触するプーリ周面を有するプーリ本体を玉軸受の外輪の外径に嵌合し、又は、ベルトが接触するプーリ周面を玉軸受の外輪の外径に一体に有する自動車のアイドラプーリにおいて、玉軸受は、内輪と、外輪と、内輪の軌道面と外輪の軌道面との間に組込まれた複数の転動体と、転動体を円周等間隔に保持する保持器と、グリースを密封する一対のシールとを備え、玉軸受の転動体が、相互間で所定の傾きを有する内輪の軌道面および外輪の軌道面とベルト荷重の非負荷領域を含む全ての公転移動領域において接触面圧をもって接触し、かつ、転動体の自転軸がその公転移動に伴って刻々変化するものである。
【0012】
寒冷時には、グリースの基油粘度上昇・稠度低下による軌道面の油膜むら・不均一化が生じやすい。油膜むら・不均一化があると、転動体と軌道面との間の摩擦係数が微小な周期的変化を起こし、これにより転動体に自励振動が生じる。特に、油膜切れ部分が存在すると、その部分で転動体がスティク滑りを起こし、転がり・滑りの状態変化を周期的に繰り返すために、ある一定の振動数で転動体の自励振動の振幅はより大きくなる。しかも、深溝玉軸受においては、ラジアル荷重によって転動体が負荷域から非負荷域に、あるいは、非負荷域から負荷域に移行する瞬間は、その挙動が特に不安定になり(転動体の遅れ進み等)、これが自励振動を一層助長させる。そして、このような自励振動をする転動体と内・外輪の軌道面との接触部分において異音が発生すると思われる。さらに、転動体の自励振動が外輪を介してプーリ本体に伝わり、プーリ本体の固有振動と共振して増幅され、共鳴音となって拡大する場合もある。
【0013】
冷時異音の発生メカニズムは未だ完全には解明されていないが、上記のように、転動体の自励振動が大きな要因になっていると考えられる。このような推論に基づき、いくつかの検証を試みたところ、以下の事象が判明した(表1、表2参照)。
【0014】
(1)軸受B(深溝玉軸受)を組込んだアイドラプーリに比べ、軸受A(複列アンギュラ玉軸受)を組込んだアイドラプーリは冷時異音の発生頻度が低い(表1参照)。
【0015】
(2)低温時の粘度が高いグリースを封入したアイドラプーリは、粘度の低いグリースを封入したアイドラプーリに比べ、冷時異音の発生頻度が高い(表2参照)。
【0016】
【表1】
【0017】
【表2】
【0018】
上記(1)(2)の事象から、転動体の挙動の自由度、冷時における軌道面の油膜形成状態が、冷時異音の発生に大きな影響を及ぼしていることが裏付けられる。
【0019】
本発明は、上記のような推論及び検証結果に基づき、アイドラプーリにおける玉軸受の転動体が、相互間で所定の傾きを有する内輪の軌道面および外輪の軌道面と接触する構成を採用することにより、冷時異音の発生を効果的に抑制又は防止したものである。
【0020】
【作用】
玉軸受の転動体が、相互間で所定の傾きを有する内輪の軌道面および外輪の軌道面と接触する構成とすることにより、転動体が内・外輪の軌道面と所定面圧以上で接触角をもって(溝底をはずれた位置で)接触することにより、転動体はその挙動、特に、軸方向への挙動が抑制されるため、仮に何らの起振要因が作用した場合でも、自励振動を生じにくい。しかも、内輪の軌道面と外輪の軌道面とが所定の傾きを持っているので、転動体と内・外輪の軌道面との接触角は、転動体の周方向位相角によって異なる。このことは、転動体の自転軸が、その公転移動に伴って刻々変化することを意味する。転動体の自転軸が刻々変化することにより、転動体に付着した新しい潤滑剤が軌道面との接触部分に常に供給され、油膜が形成され易くなるので、起振要因となる摩擦係数の周期的変化、転動体のスティック滑りが生じにくい。
【0021】
本発明において、冷時異音の発生が効果的に抑制又は防止されるメカニズムは、このような転動体の挙動抑制機能、油膜形成促進機能の相互作用によるものと考えられる。そして、内・外輪の軌道面の傾き角を管理することにより、周囲環境、運転条件等に応じた最適設定、変更等を極めて容易に行なうことができる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明の実施例を図面に従って説明する。
【0023】
図1〜2は、ベルト中心と玉軸受2の軸受中心線Yとをオフセットさせた実施例に関するものである。ベルト中心と玉軸受2の軸受中心線Yとをオフセットさせることにより、ベルトにより負荷されるラジアル荷重の荷重中心が軸受中心線Yからずれる。この荷重中心のずれにより、玉軸受2にモーメント荷重が作用し、外輪2aが傾く。そして、外輪2aが軸受中心線Yに対して所定量だけ傾くことにより、外輪2aの軌道面と内輪2bの軌道面との間に所定の傾きが生じ、転動体(ボール2c)が内・外輪2a、2bの軌道面と所定面圧以上で接触角をもって(溝底をはずれた位置で)接触しながら転動する。
【0024】
図1に示すアイドラプーリは、自動車の補機駆動ベルト等に使用されるものである。このアイドラプーリは、例えば鋼板プレス製のプーリ本体1と、プーリ本体1の内径に嵌合された玉軸受2とで構成される。プーリ本体1は、円筒部1a、円筒部1aの一端から外径側に延びたフランジ部1b、円筒部1aの他端から内径側に延びた鍔部1cからなる環体である。円筒部1aの内径には、玉軸受2の外輪2aが嵌合され、円筒部1aの外径には、図示されていないベルトが接触するプーリ周面1a1が設けられている。フランジ部1bは、プーリ周面1a1に接触するベルトを案内するために設けられている。プーリ周面1a1にベルトが接触することにより、アイドラとしての役割を果たす。
【0025】
玉軸受2は深溝玉軸受で、プーリ本体1の円筒部1aの内径に嵌合された外輪2a、図示されていない固定軸に嵌合される内輪2b、内・外輪2a、2bの軌道面間に組込まれた複数のボール2c、および、ボール2cを円周等間隔に保持する保持器(図示省略)、グリースを密封する一対のシール(図示省略)で構成される。
【0026】
ベルト中心が接触するプーリ周面1a1の接触位置Zと、玉軸受2の軸受中心線Yとは、軸方向に寸法δだけオフセットされている。
【0027】
図12は、オフセット量δ’{ベルト中心と軸受中心線とのずれ量(荷重負荷時)}と接触角分布との関係、図13および図14は、オフセット量(δ’)と外輪2a、内輪2bの接触面圧との関係を示す(解析結果)。尚、これらの解析結果は玉軸受2として深溝玉軸受を用いた場合のものであり、オフセット量=0の構成が従来のアイドラプーリに該当する。また、これら図における周方向角度(位相角)は、ベルトの接触中央位置(プーリ周面との接触部分における円周方向中央位置)を基準(0°)とし、そこから固定軸回りにとった角度である。
【0028】
まず、図12に示す結果から、オフセット量=0の構成では、転動体(ボール2c)の接触角が全ての周方向角度においてゼロであるのに対し、オフセット量を設けた構成では、転動体が殆ど全ての周方向角度において接触角をもって内・外輪の軌道面と接触する。しかも、転動体の接触角は周方向角度(位相角)によって異なっており、このことは、転動体の自転軸が公転に伴って刻々変化することを示している。
【0029】
つぎに、図13および図14に示す結果から、オフセット量=0の構成では、ベルト荷重の非負荷領域(周方向角度100°〜250°付近)において接触面圧がゼロになるのに対し、オフセットを設けた構成では、転動体が非負荷領域を含む全領域において所定値以上の接触面圧をもって内・外輪の軌道面と接触する。特に、ベルトの接触中央位置からもっとも離れた周方向角度180°の位置において、接触面圧の小ピーク状態が表れるのが特徴的である。この状態は、図12の接触角分布に対応している。
【0030】
以上の解析結果から明らかなように、本実施例のアイドラプーリにおいては、▲1▼全ての転動体が内・外輪の軌道面と所定面圧以上で接触角をもって接触し、▲2▼各転動体の自転軸(接触角)がその公転移動に伴って刻々変化する。
【0031】
尚、上記▲1▼▲2▼は、冷時異音発生防止のための最も好ましい状態を示すもので、必ずしも全ての転動体が上記▲1▼▲2▼の状態に該当する必然性はなく、少なくともベルト荷重の負荷域(周方向角度0°〜100°付近、250°〜360°付近)にある転動体が上記▲1▼▲2▼の状態に該当すれば、かなりの抑制効果が期待できる。上記構成のアイドラプーリについて試験を行なった。その結果を表3、表4、および、図15、図16、図17に示す。
【0032】
まず、表3、表4は、オフセット量δ’(mm)と冷時異音の発生率(%)との関係を示している。表3は玉軸受2にグリースAを封入した場合、表4は玉軸受2にグリースBを封入した場合の試験結果である。運転条件は両者とも同じである。
【0033】
【表3】
【0034】
【表4】
【0035】
表3、表4において、オフセット量δ’=2.0mmで、冷時異音の発生率は激減し、δ’=3.0mm以上ではゼロになっている。
【0036】
つぎに、図15〜図17は、オフセット量δ’(mm)と音響の音圧レベル(dB)との関係を示している。音圧がNdB以上の音響が冷時異音である。図15は玉軸受2にグリースCを封入した場合、図16は玉軸受2にグリースDを封入した場合、図17は玉軸受2にグリースEを封入した場合の試験結果である。運転条件はすべて同じである。
【0037】
図15〜図17において、オフセット量δ’=2.0mm以下では冷時異音の発生が認められたが、2mm〈δ’の領域では、冷時異音の発生が完全に防止されている。
【0038】
以上の試験結果から、オフセット量δ(δ’)を所定以上の値に設定することにより、封入グリースの種類に関係なく、冷時異音の発生を完全に防止できることが明らかになった。
【0039】
図2に示すアイドラプーリは、ベルト3のベルト中心が接触するプーリ周面1r1の接触位置Wと、玉軸受2の軸受中心線Yとが、軸方向に寸法δだけオフセットされるように、エンジンブロック4に装着されている。
【0040】
図3〜図5に示す実施例は、玉軸受2に作用するベルト荷重の荷重中心Wと、玉軸受2の軸受中心線Yとをオフセットさせたものである。荷重中心Wと軸受中心線Yとをオフセットさせることにより、玉軸受2にモーメント荷重が作用し、外輪2aが傾く。そして、外輪2aが軸受中心線Yに対して傾くことにより、外輪2aの軌道面と内輪2bの軌道面との間に傾きが生じ、転動体(ボール2c)が内・外輪2a、2bの軌道面と所定面圧以上で接触角をもって(溝底をはずれた位置で)接触しながら転動する。そのため、図1〜図2に示す実施例と同様の作用効果を奏する。
【0041】
図3に示すアイドラプーリにおいて、プーリ本体1は、円筒部1a、円筒部1aの右端から外径側に延びたフランジ部1bからなる環体である。円筒部1aの内径には、玉軸受2の外輪2aが嵌合され、円筒部1aの外径には、図示されていないベルトが接触するプーリ周面1a1が設けられている。プーリ周面1a1は円錐テーパ面であり、左端側が大径、右端側が小径になっている。
【0042】
ベルトが円錐テーパ状のプーリ周面1a1に接触すると、ベルト荷重の分布は、プーリ周面1a1の大径側(左端側)において大となり、その荷重中心Wが、玉軸受2の軸受中心線Yに対して、大径側(左端側)に寸法δだけずれる。このようにして、荷重中心Wと軸受中心線Yとが軸方向にδだけオフセットされる。図4に示すアイドラプーリは、ベルト3の張力を左右異ならせることにより、ベルト荷重の荷重中心Wと玉軸受2の軸受中心線Yとを、軸方向に寸法δだけオフセットさせたものである。ベルト3の張力を左右異ならせる手段としては、例えば、図4(b)示すように、ベルト3の補強用ワイヤの線径を左右で異ならせる構成、図4(c)示すように、ベルト3の断面高さHを左右で異ならせる構成などが考えられる。
【0043】
図5(a)(b)に示すアイドラプーリは、それぞれ、プーリ本体1と玉軸受2の外輪2aとの締代を左右異ならせることにより、ベルト荷重の荷重中心Wと玉軸受2の軸受中心線とを、軸方向に寸法δだけオフセットさせたものである。これら実施例のプーリ本体1は、玉軸受2を嵌合する内径円筒部1g、ベルトを掛けるための外径円筒部1h、内径円筒部1gと外径円筒部1hとを径方向に連結する連結部1j、内径円筒部1cの右端から内径側に延びた鍔部1kからなる環体である。内径円筒部1gの内径は円筒面である。プーリ周面1h1は、外径円筒部1hの外径に設けられる。
【0044】
図5(a)における玉軸受2の外輪2aの外径は、左端から所定領域が円筒面2a1、右端から所定領域が円錐テーパ面2a2であり、かつ、円筒面2a1と円錐テーパ面2a2とが滑らかに連続している。また、図5(b)における玉軸受2の外輪2aの外径は、左右両端から所定領域がそれぞれ円錐テーパ面2a3、2a4であり、かつ、円錐テーパ面2a3と円錐テーパ面2a4とが円筒面2a5を介して滑らかに連続している。円筒面2a5の中心は、玉軸受2の軸受中心線Yから左端側にずれている。
【0045】
上記のような形状の外輪2の外径を、プーリ本体1の内径円筒部1gの内径に嵌合すると、プーリ本体1と外輪2aとの締代は、左端部側において大となる。そのため、玉軸受2に作用するベルト荷重の分布は、左端部側において大となり、その荷重中心Wが、玉軸受2の軸受中心線Yに対して、左端側に寸法δだけずれる。このようにして、荷重中心Wと軸受中心線Yとが軸方向にδだけオフセットされる。
【0046】
図6〜図11に示す実施例は、プーリ回転軸心Zと固定軸心Xとの間に傾斜角を設けたものである。プーリ回転軸心Zと固定軸心Xとの間に傾斜角を設けることにより、外輪2aの軌道面と内輪2bの軌道面との間に傾きが生じ、転動体(ボール2c)が内・外輪2a、2bの軌道面と所定面圧以上で接触角をもって(溝底をはずれた位置で)接触しながら転動する。
【0047】
図6に示す実施例において、プーリ周面1a1には複数のベルト係止用溝1a2が軸方向等間隔に設けられ、かつ、これらベルト係止用溝1a2が、プーリ周面1a1の軸心Z(プーリ回転軸心になる)と直交する平面に対して所定の傾斜角αをもっている。ベルト荷重が作用していない状態では、プーリ周面1a1の軸心Zは固定軸心Xと一致する。玉軸受2の内輪2bの軌道面の溝底円を含む平面は、固定軸心Xと直交する。そのため、ベルト係止用溝1a2の走行方向と、内輪2bの軌道面の走行方向とは傾斜角αだけ傾斜する。
【0048】
ベルト(正面ベルト)がベルト係止用溝1a2に接触し、固定軸心Xと直交する平面内を走行すると、プーリ本体1およびこれに嵌合された玉軸受2の外輪2aは、ベルトに対するベルト係止溝1a2の傾斜角αを修正する方向に傾く。その結果、プーリ周面1a1の軸心Z(プーリ回転軸心Z)が固定軸心Xに対して傾斜角αだけ傾斜し、外輪2aが軸受中心線Yに対して傾き、外輪2aの軌道面と内輪2bの軌道面との間に斜行状態が生じる。そのため、ボール2cは、内・外輪2a、2bの軌道面と所定面圧以上で接触角をもって(溝底をはずれた位置で)接触しながら転動する。これにより、前述したメカニズムに基づき、冷時異音の発生が防止される。
【0049】
図7に示すアイドラプーリは、玉軸受2の内輪2bの内径に嵌合される固定軸3の剛性を部分的に弱くし、ベルト荷重によって若干のベンディングを起こさせることにより、プーリ回転軸心Z(プーリ周面1t1の軸心)と固定軸心Xとの間に傾斜が生じるようにしたものである。
【0050】
固定軸3のベンディングにより、内輪2bが軸受中心線Yに対して傾き、外輪2aの軌道面と内輪2bの軌道面との間に斜行状態が生じる。そのため、ボール2cは、内・外輪2a、2bの軌道面と所定面圧以上で接触角をもって(溝底をはずれた位置で)接触しながら転動する。これにより、前述したメカニズムに基づき、冷時異音の発生が防止される。
【0051】
図8に示すアイドラプーリは、プーリ本体1のプーリ周面1g1の軸心Z(プーリ回転軸心)と固定軸心Xとの間に傾斜角αを設けたものである。すなわち、玉軸受2の外輪2aの外径の軸心(Z)を固定軸心Xに対して傾斜角αだけ傾斜させ、これを、同じく固定軸心Xに対して傾斜角αだけ傾斜した軸心Z(プーリ回転軸心)を有するプーリ本体1の円筒部1gの内径に嵌合してある。
【0052】
ベルトが、固定軸心Xに対して傾斜角αをもった軸心Z(プーリ回転軸心)を有するプーリ周面1g1に接触し、固定軸心Xと直交する平面内を走行すると、プーリ本体1およびこれに嵌合された玉軸受2の外輪2aは、傾斜角αを修正する方向に傾く。その結果、外輪2aが軸受中心線Yに対して傾き、外輪2aの軌道面と内輪2bの軌道面との間に斜行状態が生じる。そのため、ボール2cは、内・外輪2a、2bの軌道面と所定面圧以上で接触角をもって(溝底をはずれた位置で)接触しながら転動する。これにより、前述したメカニズムに基づき、冷時異音の発生が防止される。
【0053】
図9に示すアイドラプーリも、図8に示す構成と同様に、プーリ本体1のプーリ周面1k1の軸心Z(プーリ回転軸心)と固定軸心Xとの間に傾斜角αを設けたものであるが、傾斜角αをもたせるための具体的構成が異なる。すなわち、この実施例では、固定軸心Xとなる玉軸受2の内輪2bの内径の軸心を、プーリ周面1k1の軸心Zに対して傾斜角αだけ傾斜させてある。
【0054】
内輪2bを固定軸に嵌合すると、プーリ本体1およびこれに嵌合された玉軸受2の外輪2aが固定軸心Xに対して傾斜角αだけ傾斜する。そして、ベルトが固定軸心Xと直交する平面内を走行すると、プーリ本体1および外輪2aが傾斜角αを修正する方向に傾く。その結果、外輪2aが軸受中心線Yに対して傾き、外輪2aの軌道面と内輪2bの軌道面との間に斜行状態が生じる。そのため、図8に示す構成と同様の作用効果を奏する。
【0055】
図10に示すアイドラプーリは、玉軸受2の外輪2aの軌道面2a1(回転側軌道面)の溝底円を含む平面を、固定軸心Xに直交する平面に対して傾斜角αだけ傾斜させたものである。内輪2bの軌道面2b1(固定側軌道面)の溝底円を含む平面は固定軸心Xと直交する。そのため、軌道面2a1(回転側軌道面)の軸心と、軌道面2b1(固定側軌道面)の軸心とは傾斜角αだけ傾斜する。
【0056】
軌道面2a1と軌道面2b1とが傾斜角αだけ傾斜するため、ボール2cは、軌道面2a1、2b1と所定面圧以上で接触角をもって(溝底をはずれた位置で)接触しながら転動する。これにより、前述したメカニズムに基づき、冷時異音の発生が防止される。
【0057】
図11に示す実施例は、アイドラプーリとベルトとの位置関係(レイアウト)により、プーリ回転軸心Zと固定軸心Xとの間に傾斜が生じるようにしたものである。この点、アイドラプーリ自体(固定軸も含めて)が、軸心間の傾斜を生じさせるような構造を有している図6〜図10の実施例とは異なる。
【0058】
この実施例において、ベルト4は、固定軸心Xと直交する平面に対して、傾斜角αだけ傾斜した平面内を走行する。そのため、プーリ本体およびこれに嵌合された玉軸受の外輪が軸受中心線に対して傾斜し、その結果、プーリ回転軸心Zと固定軸心Xとの間に傾斜が生じる。上記のようなベルト4の斜行は、例えば、アイドラプーリ5の両側に位置するプーリ6、7相互間において、プーリ周面のベルト係止用溝(V溝)の溝と山とを1つずらせることに行なうと良い。
【0059】
尚、以上の実施例において、傾斜角αを上限値以下の値に設定することにより、耐久性、プーリ機能確保等の要求との均衡を図ることができると考えられる。また、以上の実施例において、種々の形状のプーリ本体1を例示してあるが、本発明は、プーリ本体の形状は特に問わない。さらに、本発明は、ベルトが接触するプーリ周面を玉軸受の外輪の外径に直接設けたアイドラプーリ、固定軸の外径に固定側軌道面を直接設けたアイドラプーリにも同様に適用可能である。
【0060】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明は、玉軸受の転動体が、相互間で所定の傾きを有する内輪の軌道面および外輪の軌道面と接触する構成を有するので、アイドラプーリとして以下に挙げる特有の効果を奏する。
【0061】
(1)相互間で所定の傾きを有する内・外輪の軌道面と接触角をもって接触することにより、転動体はその挙動を抑制される。しかも、転動体の自転軸が公転移動に伴って変化するので、軌道面に新たな潤滑剤が常時供給され、油膜形成が促進される。このような、転動体の挙動抑制機能、油膜形成促進機能の相互作用によって、冷時異音の発生が効果的に抑制又は防止される。
【0062】
(2)特に、軌道面間の傾き角を所定以上の値に設定することにより、冷時異音の発生を完全に防止できると考えられ(オフセットを設けた構成では、オフセット量を所定以上の値に設定することにより、冷時異音の発生を完全に防止できることが実験により確認されている。)、従来、困難とされていた冷時異音発生の完全防止を実現できることは、きわめて大きな技術意義をもつ。
【0063】
(3)傾き角を管理するだけで、周囲環境、運転条件等に応じた最適設定、変更等を極めて容易に行なうことができる。
【0064】
(4)上記効果は封入グリースの種類を問わず実現できるので、低温グリース等を使用した従来構成のように、高温耐久性の低下につながる心配がない。
【0065】
(5)構造を複雑化させる要因を少ないので、コスト的にも有利である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施例を示す断面図である。
【図2】本発明の実施例を示す断面図である。
【図3】本発明の実施例を示す断面図である。
【図4】本発明の実施例を示す断面図である。
【図5】本発明の実施例を示す断面図である。
【図6】本発明の実施例を示す断面図である。
【図7】本発明の実施例を示す断面図である。
【図8】本発明の実施例を示す断面図である。
【図9】本発明の実施例を示す断面図である。
【図10】本発明の実施例を示す断面図である。
【図11】本発明の実施例を示す断面図である。
【図12】オフセット量と接触角分布との関係を示す図である。
【図13】オフセット量と外輪の接触面圧との関係を示す図である。
【図14】オフセット量と内輪の接触面圧との関係を示す図である。
【図15】オフセット量と音圧レベルとの関係を示す図である。
【図16】オフセット量と音圧レベルとの関係を示す図である。
【図17】オフセット量と音圧レベルとの関係を示す図である。
【図18】従来のアイドラプーリを示す断面図である。
【符号の説明】
1 プーリ本体
2 玉軸受
2a 外輪
2b 内輪
Claims (2)
- ベルトが接触するプーリ周面を有するプーリ本体を玉軸受の外輪の外径に嵌合し、又は、ベルトが接触するプーリ周面を玉軸受の外輪の外径に一体に有する自動車のアイドラプーリにおいて、
上記玉軸受は、内輪と、上記外輪と、内輪の軌道面と外輪の軌道面との間に組込まれた複数の転動体と、転動体を円周等間隔に保持する保持器と、グリースを密封する一対のシールとを備え、
上記玉軸受の転動体が、相互間で所定の傾きを有する内輪の軌道面および外輪の軌道面とベルト荷重の非負荷領域を含む全ての公転移動領域において接触面圧をもって接触し、かつ、上記転動体の自転軸がその公転移動に伴って刻々変化することを特徴とするアイドラプーリ。 - 請求項1のアイドラプーリに用いられる玉軸受。
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