JP3556587B2 - ヘテロ接合バイポーラトランジスタ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はヘテロ接合バイポーラトランジスタに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ヘテロ接合バイポーラトランジスタ(以下、HBTと略記する)は、そのエミッタ層にべース層よりもバンドギャップの大きな半導体材料を用いることにより、べース層に高濃度に不純物をドーピングしても、べース層からエミッタ層への正孔あるいは電子の漏れを抑制できるため、ホモ接合バイポーラトランジスタに比べて高速動作が可能になるという特徴を有する。
【0003】
図5に従来構造のnpn型HBTの例を示す。図において、1は半絶縁性InP基板であり、2は半絶縁性InP基板1の上に形成されたn+−InPサブコレクタ層であり、3はn+−InPサブコレクタ層2の上に形成されたn−InGaAsコレクタ層であり、4はn−InGaAsコレクタ層3の上に形成されたp+−InGaAsべース層であり、11はp+−InGaAsべース層4の上に形成されたn−InPエミッタ層であり、6はn−InPエミッタ層11の上に形成されたn+−InPキャップ層であり、7はn+−InPキャップ層6の上に形成されたn+−InGaAsキャップ層であり、8はn+−InPサブコレクタ層2の上に形成されたコレクタ電極であり、9はp+−InGaAsべース層4の上に形成されたべース電極であり、10はn+−InGaAsキャップ層7の上に形成されたエミッタ電極である。
【0004】
一般に、HBTは、シリコン・バイポーラトランジスタと同様に、コレクタ電流を高注入することによって初めて、その特徴である超高速動作が可能となる。よって、図5に示した従来構造のnpn型HBTでは、コレクタ電流を高注入した状態を前提として、各層のドーピング濃度や層厚の最適化が図られている。エミッタ層11は、コレクタ電流を電流密度1×105A/cm2程度まで高注入してもエミッタ層11の寄生抵抗が無視できるように、図5に示すようにn型にドーピングされ、その不純物濃度は通常3×1017cm−3から8×1017cm−3程度である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
HBTは高コレクタ電流で動作させて初めて、そのHBTの最高動作速度が得られるが、応用回路の種類によっては、消費電力が小さいことが要求されることがしばしばある。そのような場合、最高速度が得られるコレクタ電流よりもかなり小さい電流で動作させることを余儀なくされるが、コレクタ電流を小さくするとエミッタ充電時間が増大することにより動作速度が低下し、所望の動作速度が得られなくなるという問題がある。
【0006】
本発明は上記の問題に鑑みなされたものであり、本発明が解決しようとする課題は、コレクタ電流が小さい領域で、良好な動作速度が得られるヘテロ接合バイポーラトランジスタを提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するために、本発明は、請求項1に記載のように、
半導体基板上に作製されたヘテロ接合バイポーラトランジスタにおいて、エミッタ層に意図的な不純物ドーピングをしていない層が含まれ、前記意図的な不純物ドーピングをしていない層の厚さが30nm以上80nm以下であり、エミッタ抵抗とエミッタ容量で決定されるエミッタ充電時間が短く、低コレクタ電流領域において高い電流利得カットオフ周波数が得られることを特徴とするヘテロ接合バイポーラトランジスタを構成する。
【0009】
また、本発明は、請求項2に記載のように、
半導体基板上に作製されたヘテロ接合バイポーラトランジスタにおいて、エミッタ層に意図的な不純物ドーピングをしていない層が含まれ、前記意図的な不純物ドーピングをしていない層の厚さが30nm以上80nm以下であり、不純物濃度が3×1013cm-3以上9×1015cm-3以下であり、エミッタ抵抗とエミッタ容量で決定されるエミッタ充電時間が短く、低コレクタ電流領域において高い電流利得カットオフ周波数が得られることを特徴とするヘテロ接合バイポーラトランジスタを構成する。
【0012】
【発明の実施の形態】
低コレクタ電流領域では全遅延時間に占めるエミッタ充電時間の割合が大きく、これが動作速度を律速している。よって、エミッタ容量を小さくできれば、低コレクタ電流領域での高周波特性は改善する。
【0013】
本発明の実施の形態においては、エミッタ容量を小さくする手段として、エミッタ層に意図的な不純物ドーピングをしない(i型の)層を設けることを特徴とする。このようなi型の層でエミッタ層を構成すれば、エミッタ層がベース層と接する部位において、エミッタ空乏層が広がり、その結果として、エミッタ容量が低下する。意図的な不純物ドーピングをしない場合においても、不純物濃度は零とはならないが、エミッタ厚が十分厚ければ、不純物濃度が低下すれば、空乏層幅は不純物濃度の1/2乗に反比例して広がっていく。このようにして、エミッタ容量を低下させることができるのであるが、一方、エミッタ層をi型に変えると、多数キャリア(npn型の場合は電子)が枯渇するためエミッタ層の寄生抵抗が増大し、コレクタ電流を高くしたときの動作速度が低下するという問題が生じる。しかしながら、本発明に係るHBTは低いコレクタ電流で用いることを前提としているため、実際に動作させる低コレクタ電流領域では、エミッタ抵抗の増大により動作速度が低下するという問題は起きない。
【0014】
本発明の一実施の形態におけるHBTの断面図を図1に示す。図において、1は半絶縁性InP基板であり、2は半絶縁性InP基板1の上に形成されたn+−InPサブコレクタ層であり、3はn+−InPサブコレクタ層2の上に形成されたn−InGaAsコレクタ層であり、4はn−InGaAsコレクタ層3の上に形成されたp+−InGaAsべース層であり、5はp+−InGaAsべース層4の上に意図的な不純物ドーピングをせずに形成されたi−InPエミッタ層であり、6はn−InPエミッタ層11の上に形成されたn+−InPキャップ層であり、7はn+−InPキャップ層6の上に形成されたn+−InGaAsキャップ層であり、8はn+−InPサブコレクタ層2の上に形成されたコレクタ電極であり、9はp+−InGaAsべース層4の上に形成されたべース電極であり、10はn+−InGaAsキャップ層7の上に形成されたエミッタ電極である。
【0015】
図1に示した構造は、半絶縁性InP基板1上にn+−InPサブコレクタ層2からn+−InGaAsキャップ層7までを、MOVPE法やMBE法等によりエピタキシャル成長した後、エッチング工程によるメサ形成、および蒸着リフトオフ工程による、エミッタ電極10、べース電極9およびコレクタ電極8の形成により作製される。この作製工程は、エミッタ層の作製条件を除けば、図5に示す従来構造のHBTの作製工程と全く同じである。エミッタ層の作製条件の違いによって、図1に示した本発明の構成においてはi−InPエミッタ層5が形成されるのに対して、図5に示す従来の構成においてはn−InPエミッタ層11が形成される。
【0016】
図1に示す本発明に係るHBT(i型エミッタHBT)と、図5に示す従来型のHBT(n型エミツタHBT)の電流利得カットオフ周波数fTの計算機シミュレーション結果を図2に示す。図2において、各HBTの電流利得カットオフ周波数fTとコレクタ電流との関係が、エミッタ厚をパラメータとして、示されている。この計算機シミュレーションにおいて、エミッタの面積はともに6μm2とし、n型エミッタのドーピング濃度は標準的な値である3×1017cm−3を用いた。また、意図的に不純物をドーピングしない場合でも、実際のi型エミッタは、残留不純物(通常、濃度9×1015cm−3以下)により非常に薄いn型となる。本計算では、i型エミッタ層の不純物濃度としては、実測値にもとづき2×1015cm−3という値を用いた。
【0017】
図2を見ると従来型のn型エミッタHBTでは、エミッタ厚を30nmから120nmまで変化させても動作速度の目安となるfTの値がほとんど変化しないことが分かる。これは、エミッタ厚を厚くしても、ドーピング濃度で決まる空乏層厚以上には、エミッタ空乏層は広がらないためである。これに対し、本発明の構造であるi型エミッタHBTでは、エミッタ厚を厚くすると低コレクタ電流側ではfTが改善していること(高くなること)が分かる。これは、i型エミッタでは、不純物濃度が十分に低いため、この不純物濃度で決まる空乏層幅は30nmというエミッタ厚に比べて十分厚くなるため、エミッタ層を厚くしていくと、その分だけ空乏層が広がり、その結果として、エミッタ容量が低下したためである。
【0018】
ただし、i型エミッタ層の厚さを厚くしていくと、抵抗が増大していくため、高コレクタ電流領域でのfTは低下する。なお、この計算では、前述のようにi型エミッタの不純物濃度は2×1015cm−3を仮定しているが、5×1015cm−3以下であれば図2と一致した結果となり、さらに不純物濃度を増加させていっても9×10−15cm−3以下であれば図2とほぼ同じ結果が得られる。
【0019】
図3に実際に試作した本実施の形態におけるi型エミッタHBTと、従来構造のn型エミッタHBTとのfTの測定結果を示す。図3を見ると、図2に示した計算結果と同様の傾向が得られていることがわかる。コレクタ電流が0.5mA以下では、120nm厚のi型エミッタが最も特性が良くなっている。しかし、それ以上コレクタ電流を増加させると、エミッタ抵抗の増大により特性が延びなくなっている。一方、70nm厚のi型エミッタでは、かなり高いコレクタ電流まで良好な特性が得られている。このことから、実際に回路に応用する際には、コレクタ電流の設計値に合わせて、最適なi型エミッタの厚さを選択すれば良いことが分かる。より大きなコレクタ電流を流すためには、エミッタ層厚は30nmから80nmが好ましい。
【0020】
本実施の形態ではエミッタ層がi−InPエミッタ層5の一層のみにより構成されている例を示したが、図4に示すように、エミッタ層がn−InPエミッタ層11とi−InPエミッタ層5の二層構造になっていても、同様に空乏層を広げる効果があり、同様の特性改善効果が得られる。
【0021】
なお、本発明の特徴はエミッタ層のドーピングについてのみであり、その他の層を変更しても同様な効果が得られることはいうまでもない。例えば、n−InGaAsコレクタ層3をi−InGaAsコレクタ層やn−InPコレクタ層、i−InPコレクタ層に変更したり、n+−InPサブコレクタ層2をn+−InGaAsサブコレクタ層に変更したり、あるいはn+−InPキャップ層7が無い層構成にするなど、本発明の趣旨を損なわない範囲で層の構成を変更しても良い。また、本実施の形態ではInP/InGaAsでエミッタ/べースが構成されるHBTを例に示したが、本発明は、InAlAs/InGaAsやInGaP/GaAs、AlGaAs/GaAs、AlGaN/GaN、Si/SiGeなど半導体材料が異なるHBTにも適用可能である。
【0022】
また、これまでnpn型のHBTを例にして説明してきたが、本発明は、当然pnp型のHBTにも適用可能である。
【0023】
以上説明したことから明らかなように、本発明によるヘテロ接合バイポーラトランジスタは、低コレクタ電流で高速に動作するため、低消費電力回路用HBTとして有望である。また、エミッタ層に意図的にドーピングしないことにより、比較的制御が難しい低濃度の不純物ドーピングの必要も無くなり、結晶成長も簡略化され、特性のばらつきも減少する。さらに、結晶の品質も良くなるため、信頼性を確保するという面でも有利である。
【0024】
【発明の効果】
本発明の実施により、コレクタ電流が小さい領域で、良好な動作速度が得られるヘテロ接合バイポーラトランジスタを提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施の形態におけるHBTの断面図である。
【図2】図1に示す本発明の一実施の形態におけるHBTと、図5に示す従来構造のHBTの、計算機シミュレーションによる電流利得カットオフ周波数fTの比較のグラフである。
【図3】実際に試作した図1に示す本発明の一実施の形態におけるHBTと、図5に示す従来構造のHBTの電流利得カットオフ周波数fTの測定結果のグラフである。
【図4】本発明に係るHBTの断面図であり、エミッタ層が二層構造になっている例である。
【図5】従来構造のHBTの断面図である。
【符号の説明】
1…半絶縁性InP基板、2…n+−InPサブコレクタ層、3…n−InGaAsコレクタ層、4…p+−InGaAsべース層、5…i−InPエミッタ層、6…n+−InPキャップ層、7…n+−InGaAsキャップ層、8…コレクタ電極、9…べース電極、10…エミッタ電極、11…n−InPエミッタ層。
Claims (2)
- 半導体基板上に作製されたヘテロ接合バイポーラトランジスタにおいて、エミッタ層に意図的な不純物ドーピングをしていない層が含まれ、前記意図的な不純物ドーピングをしていない層の厚さが30nm以上80nm以下であり、エミッタ抵抗とエミッタ容量で決定されるエミッタ充電時間が短く、低コレクタ電流領域において高い電流利得カットオフ周波数が得られることを特徴とするヘテロ接合バイポーラトランジスタ。
- 半導体基板上に作製されたヘテロ接合バイポーラトランジスタにおいて、エミッタ層に意図的な不純物ドーピングをしていない層が含まれ、前記意図的な不純物ドーピングをしていない層の厚さが30nm以上80nm以下であり、不純物濃度が3×1013cm-3以上9×1015cm-3以下であり、エミッタ抵抗とエミッタ容量で決定されるエミッタ充電時間が短く、低コレクタ電流領域において高い電流利得カットオフ周波数が得られることを特徴とするヘテロ接合バイポーラトランジスタ。
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