JP3556492B2 - Ni基自溶性合金皮膜の補修装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ボイラ伝熱管用炭素鋼、合金鋼の鋼管(STB、STBA)等よりなる母材上に形成したNi基自溶性合金皮膜を補修する場合に、既存のNi基自溶性合金皮膜を予熱した後、該皮膜上にNi基自溶性合金の溶射皮膜を積層するNi基自溶性合金皮膜の補修装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
Ni基自溶性合金は、ボイラ伝熱管用炭素鋼、合金鋼の鋼管(STB、STBA)等の耐熱、耐摩耗性を必要とする表面に、しばしば高温耐摩耗性材料よりなる自溶性合金の溶射施工が行われている。しかし、高温で、かつ摩耗性の雰囲気で用いられるNi基自溶性合金皮膜も長時間使用すると摩耗を受け、徐々に減肉される。このため、母材にNi基自溶性合金を溶射施工して形成した耐熱、耐摩耗性皮膜の補修方法として、まず、減肉し損傷したNi基自溶性合金皮膜をブラスト処理、あるいはグラインダー処理等で、母材が露出する程度にまでNi基自溶性合金皮膜を除去し、下地処理、および金属を溶かして微粒となしたものを吹き付けて皮膜を形成するガス粉末式溶射法等の火炎溶射法により、Ni基自溶性合金皮膜を形成した後、さらに上記溶射皮膜の溶融処理を行うことにより、Ni基自溶性合金皮膜の補修を行っていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、Ni基自溶性合金被膜は、常温でビッカース硬度Hvが700〜900と高く、非常に硬いため、この皮膜を母材が露出するところまで減肉し除去するには、多大の労力と時間を要していた。これに加えて、高温耐摩耗性材料として用いられるNi基自溶性合金の皮膜設計は、皮膜の膜厚には限界があるため、高温耐摩耗性については、母材の厚さと皮膜の厚さを合計することにより算出していた。この皮膜設計を考慮すると、上記皮膜を減肉する場合において母材に深い傷や大きな凹凸を与えると、母材と皮膜との合計厚さで計算された高温耐摩耗性の寿命を著しく縮めることになるという問題があった。
また、上記皮膜上にブラスト処理(下地処理)を施し、ガス粉末式溶射法によりNi基自溶性合金皮膜を形成した後、溶融処理を行う方法や、直接、ガス粉末式溶射法でNi基自溶性合金を形成し、その後、溶融処理を施す方法も考えられた。しかし、減肉するNi基自溶性合金皮膜のHvが700〜900と極めて硬いため、上記Ni基自溶性合金の溶射方法では、溶射施工中における皮膜層の剥離が生じ、溶射施工の効率が著しく低下するという問題があった。
また、Ni基自溶性合金のガス粉末式溶射後に、皮膜の溶融処理を行っても、旧皮膜層と新皮膜層との密着性の低下により、高温耐摩耗性皮膜として使用する場合には、熱サイクルにより生じる熱衝撃によって剥離が生じることがあって、Ni基自溶性合金皮膜の溶射による補修施工には種々の問題があった。
【0004】
本発明の目的は、上記従来技術における問題点を解消するものであって、母材の表面に形成したNi基自溶性合金皮膜を補修する場合において、ガス粉末式溶射等の火炎溶射法により溶射施工中におけるNi基自溶性合金被膜の剥離を確実に防止し、旧皮膜層と新皮膜層との密着性の良いNi基自溶性合金の溶射皮膜を効率良く、かつ安価に形成する補修装置を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記本発明の目的を達成するために、本発明は特許請求の範囲に記載のような構成とするものである。すなわち、
請求項1に記載のように、鋼管の表面にNi基自溶性合金を溶射施工して形成した既存の耐熱、耐摩耗性皮膜を補修する装置において、上記既存の耐熱、耐摩耗性皮膜上にNi基自溶性合金の溶射用粉末を溶射する溶射装置と、該溶射装置に取り付けられた非接触型温度計と、該非接触型温度計で検出した既存の耐熱、耐摩耗性皮膜の加熱温度および溶射した耐熱、耐摩耗性皮膜の温度を制御する制御装置を備えたことを特徴とするNi基自溶性合金皮膜の補修装置とするものである。
また、請求項2に記載のように、請求項1において、上記温度の制御装置は、上記加熱温度が600℃〜1000℃の温度範囲外となった時、もしくは溶射直後の皮膜の温度が融点以上となった時に、溶射用粉末の送給を停止する制御装置としたNi基自溶性合金皮膜の補修装置とするものである。
また、本発明は、補修する既存の皮膜の加熱温度は、該既存の皮膜の硬さがビッカース硬度Hvで600以下となる温度(図1からほぼ500℃以上)に加熱するNi基自溶性合金皮膜の補修処理とするものである。
本発明は、請求項1ないし請求項2に記載のように、Ni基自溶性合金皮膜の補修施工を実施する装置であって、補修する既存のNi基自溶性合金皮膜の加熱温度範囲を調整する非接触型の温度検出制御手段と、上記既存のNi基自溶性合金皮膜の加熱温度が600℃〜1000℃の範囲外となった時、またはNi基自溶性合金の溶射粉末の溶射直後の温度が、該Ni基自溶性合金の融点以上となった時に、上記Ni基自溶性合金の溶射粉末の供給を停止する制御装置を備えたNi基自溶性合金皮膜の補修装置とするものである。
また、本発明は、鋼管等の母材上に形成されているNi基自溶性合金皮膜に加熱処理(500〜1000℃の温度範囲もしくはHvで600以下となる温度)を施し、この予熱した皮膜の上に、ガス粉末式溶射法等の火炎溶射法によりNi基自溶性合金を溶射して皮膜層を形成すると同時に、この皮膜層に溶融処理を施すことにより、従来技術における問題点である溶射施工中、あるいは高温耐摩耗性雰囲気中の熱サイクル(熱衝撃)による剥離現象を確実に防止することができる効果がある。
また、本発明は、鋼管等の母材上の既存のNi基自溶性合金皮膜を所定の温度範囲に加熱する装置は、例えばガスバーナで加熱を行い、次に、上記加熱処理を施した既存のNi基自溶性合金皮膜上に、例えば、ガス粉末式溶射法等の火炎溶射法により、Ni基自溶性合金皮膜を約1mm程度の合計膜厚に積層した溶射皮膜を形成する。この時の温度管理は、ガス粉末式溶射法等の火炎溶射装置に非接触型の温度計を設置して温度を検出し、設定の温度領域外となった時、もしくは溶射直後が融点以上になった場合には、温度センサが感知して、溶射粉末供給用のバルブを閉に作動させ、溶射用のNi基自溶性合金の供給を自動的に停止できる手段を備えているので、溶射施工を自動的に管理することができ、また母材が複雑な形状をしている場合においても、溶射施工を自動的に管理できる効果がある。
本発明のNi基自溶性合金皮膜の補修処理において、Ni基溶射合金は多層構造に積層するものであって、その積層数はμm単位の合計膜厚で管理するため、Ni基溶射合金皮膜の積層数については特に限定するものではなく、JISH8303−1994において規定されている、4.品質、4.1外観、4.2皮膜断面の組織、4.3溶射材料の化学成分および配合比、4.4皮膜厚さ、4.5皮膜の引張強さ、4.6皮膜硬さ、4.7密着性の規定に基づくものである。
Ni基自溶性合金の溶射皮膜の硬度(Hv)と温度との関係を図1に示す。図において、Ni基自溶性合金は約500℃でHvはほぼ600以下となり、800℃では Hvはほぼ100以下であり、室温ではHvは約800以上を示す。本発明者らによる知見によれば、Ni基自溶性合金は、常温における溶射では皮膜硬度が高いため溶射粒子はうまく積層されないが、図1および表1に示すように、約500〜1000℃付近ではうまく積層されるものと考えられる。さらに、より好ましい加熱温度範囲は600〜1000℃付近である。
また、上限の温度が融点を超えると溶射皮膜の積層は不可能となるため、溶射直後の温度はNi基自溶性合金の融点以下となることが必要である。
表1に、既存の溶射皮膜の加熱温度と施工中の剥離の有無、および皮膜積層後の耐熱衝撃性を示す。
【0006】
【表1】
【0007】
本発明のNi基自溶性合金の溶射皮膜および溶射材料は、JIS H 8303−1994において規定されているとおり、溶射材料の化学成分および配合比(5.3項)の概要は、次の表2、表3に示されるとおりであり、SFNi1〜5、SFCo1〜2、SFWC1〜4に示される組成範囲のものが好ましく用いられる。
【0008】
【表2】
【0009】
【表3】
【0010】
【発明の実施の形態】
〈実施の形態1〉
本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。図2は本実施の形態1におけるガス粉末式溶射法によるNi基自溶性合金の溶射皮膜の補修方法を示す模式図である。
母材として、径45mm×長さ500mmのボイラチューブ(STB340)3の全面に、Ni基自溶性合金からなる既存のNi基自溶性合金皮膜1が
約0.5mmの膜厚に形成されている試験片を用い、該既存のNi基自溶性合金皮膜1を加熱せずに常温の場合と、約200℃、約400℃、約600℃、約800℃および約1000℃にそれぞれ加熱した場合について、該既存のNi基自溶性合金皮膜1の上に、補修後のNi基自溶性合金皮膜2を、ガス粉末式溶射法によりNi基自溶性合金を約1mm(合計膜厚約1.5mm)積層し補修した。なお、積層膜厚は任意に決められるものであり、μm単位で、1000〜5000μm(1〜5mm)以上の範囲においても可能である。
既存のNi基自溶性合金皮膜の加熱温度と、溶射施工中の剥離の有無および補修後のNi基自溶性合金皮膜の耐熱衝撃性を、表1に示す。なお、表中の溶射施工中の剥離の項の○印は「剥離無し」、△印は「少し剥離有り」、×印は「剥離有り」を示し、耐熱衝撃性の項の○印は耐熱衝撃性が「良好」、×印は「不可」を示す。表1から明らかなように、既存のNi基自溶性合金皮膜の加熱温度を、約500〜1000℃とすると、溶射施工中の剥離は全く無く、かつ耐熱衝撃性も良好であった。耐熱衝撃性は、表1に示すそれぞれの加熱温度に設定した炉内で約20分間加熱保持し、その後、炉から取り出し空冷(自然放冷)して皮膜の破損(剥離)状況から良否を判断した。
なお、試料No.4、5、6の加熱温度が600〜1000℃で溶射したNi基自溶性合金皮膜の断面組織を、顕微鏡断面組織試験(JIS H8665の6.溶射材料の分析試験による)により調査した結果、未溶融組織、ピンホール、気孔、割れ、その他、使用上の有害な欠陥は見当らず、品質の良好な積層構造が得られた。
【0011】
〈実施の形態2〉
図3に、本実施の形態2におけるガス粉末式溶射法によるNi基自溶性合金の溶射皮膜の補修方法を示す。本実施の形態2においては、溶射装置4に非接触型の温度計9を取付け、さらに溶射装置4の進行方向に対して、500℃〜1000℃の加熱温度範囲外となった場合、あるいは溶射直後の温度が融点以上となった場合に、溶射用の自溶性合金粉末の供給を自動的に停止できる手段を備えるものである。これにより、既存のNi基自溶性合金皮膜の加熱温度の調整、溶射する自溶性合金皮膜の温度の調整、および自溶性合金皮膜の溶融処理温度の調整等、Ni基自溶性合金皮膜の溶射施工を自動的に制御し管理できることが判った。なお、Ni基自溶性合金皮膜の顕微鏡組織は、実施の形態1と同様の品質の良好な積層構造が得られた。
【0012】
〈実施の形態3〉
図4に、本実施の形態3におけるガス粉末式溶射法によるNi基自溶性合金の溶射皮膜の補修方法を示す。溶射装置4の進行方向の手前に非接触型温度計9を取付け、既存のNi基自溶性合金皮膜の加熱温度の調整、および溶射する自溶性合金皮膜の温度の調整等を行う方法である。本実施の形態は、作業者が手動で、容易に加熱温度や溶射施工を管理できるようにしたものであって、複雑な形状をした母材に対するNi基自溶性合金の溶射皮膜の補修に好適に用いられる。なお、Ni基自溶性合金皮膜の顕微鏡組織は、実施の形態1と同様の品質の良好な積層構造が得られた。
以上の実施の形態では、火炎溶射法の中のガス粉末式溶射法について述べたが、ガス溶線式あるいは電気溶線式の火炎溶射法であっても、同様の効果が得られることを確認している。
【0013】
【発明の効果】
本発明のNi基自溶性合金の溶射皮膜の補修方法によれぱ、既存の皮膜を除去する必要がなく、既存の皮膜を約500〜1000℃の温度範囲に加熱するだけで、Ni基自溶性合金皮膜を溶射施工することができ、溶射施工時における剥離や、高温耐摩耗性の雰囲気での熱サイクルによる耐熱衝撃性が良好であって、 Ni基自溶性合金の溶射皮膜の剥離を防ぐことが可能となり、そのうえNi基自溶性合金の溶射皮膜の補修を安価に実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のNi基自溶性合金溶射皮膜の硬度と温度の関係を示すグラフ。
【図2】本発明の実施の形態1で例示したガス粉末式溶射法によるNi基自溶性合金の溶射皮膜の補修方法を示す模式図。
【図3】本発明の実施の形態2で例示したガス粉末式溶射法によるNi基自溶性合金の溶射皮膜の補修方法を示す模式図。
【図4】本発明の実施の形態3で例示したガス粉末式溶射法によるNi基自溶性合金の溶射皮膜の補修方法を示す模式図。
【符号の説明】
1…既存のNi基自溶性合金皮膜
2…補修後のNi基自溶性合金皮膜
3…ボイラチューブ(STB340)
4…溶射装置
5…粉末供給ホース
6…燃焼ガス供給ホース
7…エアー供給ホース
8…溶射制御装置
9…非接触型温度計
10…ノズル
11…溶射装置の進行方向
Claims (2)
- 鋼管の表面にNi基自溶性合金を溶射施工して形成した既存の耐熱、耐摩耗性皮膜を補修する装置において、上記既存の耐熱、耐摩耗性皮膜上にNi基自溶性合金の溶射用粉末を溶射する溶射装置と、該溶射装置に取り付けられた非接触型温度計と、該非接触型温度計で検出した既存の耐熱、耐摩耗性皮膜の加熱温度および溶射した耐熱、耐摩耗性皮膜の温度を制御する制御装置を備えたことを特徴とするNi基自溶性合金皮膜の補修装置。
- 請求項1において、上記温度の制御装置は、上記加熱温度が600℃〜1000℃の温度範囲外となった時、もしくは溶射直後の皮膜の温度が融点以上となった時に、溶射用粉末の送給を停止する制御装置としたことを特徴とするNi基自溶性合金皮膜の補修装置。
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