JP3554396B2 - 圧電材料 - Google Patents
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- Compositions Of Oxide Ceramics (AREA)
Description
【産業上の利用分野】
本発明は、圧電歪みを利用した圧電アクチュエーター、圧電ブザー等の材料として好適な圧電材料に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ジルコン酸チタン酸鉛は、圧電性が大きく、高温まで使用することができ、第三成分を置換し、添加することによって、種々の特性に富んだ磁器が得られるという利点を有する。特に、ジルコニア、チタンの一部をマグネシウムとニオブによって置換した、PbTiO3 ─PbZrO3 ─Pb(Mg1/3 Nb2/3 )O3 の組成を有する三成分系圧電磁器は、比較的大きな圧電定数を有する。
【0003】
近年、精密機械、光学機器等の分野において、精密な位置制御を行う必要性が高まっており、圧電歪みを利用した変位駆動素子が開発されている。このような用途に対しては、素子の変位量を大きくするために、高い圧電定数を有する磁器組成物が要求されている。しかし、こうした観点から見ると、PbTiO3 ─PbZrO3 ─Pb(Mg1/3 Nb2/3 )O3 の組成を有する三成分系圧電磁器の圧電定数d3 1 は−225pm/Vであり、未だ十分ではない。
【0004】
また、特開平3−40964号公報においては、この三成分系の磁器においてPb(Mg1/3 Nb2/3 )0.225 (Ni1/3 Ta2/3 )0.15Ti0.375 Zr0.25O3 で表される組成の磁器において、横方向圧電定数d3 1 =−307.9pm/Vという優れた特性を実現できたことが記載されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、特開平3−40964号公報における上記組成の磁器は、キュリー点が177℃と低いものであった。このように圧電材料のキュリー点が低いと、変位駆動用素子としての使用を考えると、変位駆動素子の使用温度の限界が低いことを意味している。即ち、圧電材料のキュリー点が低いと、次のような支障が生ずることとなる。通常、焼成後の圧電磁器は圧電性を示さないので、直流電圧下での圧電磁器を分極処理(Poling)することが必要である。しかし、圧電磁器を分極処理した後に、この圧電磁器の使用温度が、キュリー点以上の温度になると、圧電磁器は再び圧電性を示さなくなるので、再び分極処理することが必要となる。このため、こうしたPb(Mg1/3 Nb2/3 )O3 ─Pb(Ni1/3 Ta2/3 )O3 −PbTiO3 −PbZrO3 系圧電磁器は、高い圧電特性を持っているのにも係わらず、使用される用途が低温の用途に限定されることとなる。
【0006】
本発明の課題は、圧電定数が高く、キュリー点をも高く保持できるような圧電材料を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、Pb(Mg1/3 Nb2/3 )O3 ─Pb(Ni1/3 Ta2/3 )O3 −PbTiO3 −PbZrO3 系磁器において、更にマグネシウムの一部をニッケルによって置換し、同時にニオブの一部をタンタルによって置換することによって、圧電磁器の圧電定数およびキュリー点を共に向上させうることを見いだし、本発明に到達するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、aPb〔(Mg1−X Nix )1/3 (Nb1−Y TaY )2/3 〕O3 −bPbTiO3 −cPbZrO3 (a,b,cはモル%であり、a+b+c=100である)で表される組成を有する磁器からなる圧電材料であって、a、b、c、XおよびYが下記(1)〜(5)の各式を満足する圧電材料に係るものである。
15≦a≦45・・・・・(1)
32≦b≦45・・・・・(2)
10≦c≦50・・・・・(3)
0.1≦X、Y≦0.9・・・(4)
Y−X≧0.05・・・(5)
【0009】
ここで、Y−X≧0.05とすることにより、圧電材料のキュリー点が向上するのと共に、特に大きな圧電定数を持つ磁器組成物が得られた。
【0010】
ここで、X、Yが大きくなると、一般にキュリー点が低下し、圧電定数が向上する傾向があった。しかし、X、Yが0.3〜0.9の範囲内で圧電定数が更に大きくなり、0.4〜0.8の範囲内で圧電定数が一層大きくなった。また、X、Yが0.9を越えるとキュリー温度が大きく低下した。更に、このキュリー温度の観点からは、X、Yが0.8以下であることが好ましく、0.6以下とするとキュリー温度の値も、実際上高い領域となる。
【0011】
これらの観点から、a、b、c、XおよびYが、下記(6)〜(9)の各式を満足することが更に好ましい。
25≦a≦43・・・・・(6)
35≦b≦43・・・・・(7)
14≦c≦40・・・・・(8)
0.3≦X、Y≦0.8・・(9)
【0012】
更に、a、b、c、XおよびYが下記(10)〜(13)の各式を満足することが好ましい。
30≦a≦42・・・・(10)
37≦b≦40・・・・(11)
18≦c≦33・・・・(12)
0.4≦X、Y≦0.6・・(13)
【0013】
また、XとYとの差は0.05以上とするが、圧電定数を増加させるためには、これを0.1以上とすることが更に好ましい。またこの差は、0.4以下とすることが、キュリー温度の低下を防止するという観点から、一層好ましい。
【0014】
また、組成中のPbの10原子%以下を、ストロンチウム、カルシウムおよびバリウムからなる群より選ばれた一種以上の金属元素によって置換することによって、その圧電定数を一層向上させることができる。この置換割合を3原子%以上とすると、この効果が特に顕著であり、この観点からは更に4原子%以上とすることが好ましい。ただし、この置換割合が8原子%を越えると、圧電材料のキュリー温度が低下する傾向があるので、これを8原子%以下とすることが好ましく、7原子%以下とすることが一層好ましい。
【0015】
【実施例】
本発明の圧電材料を製造する製造方法は、特に制限されない。しかし、好適な製造方法においては、各金属元素の化合物、好ましくは酸化物、水酸化物、炭酸塩を、本発明の組成の範囲内となるように配合し、ボールミル等の中で混合する。得られた混合粉を、大気中で900℃〜1100℃の温度で仮焼し、仮焼体を得る。この仮焼体を、ボールミル等の粉砕装置内に入れ、粉砕し、得られた粉末をプレス成形し、成形体を製造する。ここの成形体を、1200℃〜1300℃の温度で焼成し、焼結体を得る。得られた焼結体を加工し、所定寸法、所定形状の試料を製造し、この試料上に電極を形成し、圧電材料の分極処理を行う。しかし、他の製造方法によって、本発明の組成範囲内の圧電材料を製造することも可能である。
【0016】
(実験1)
PbO、MgO、NiO、Nb2 O5 、Ta2 O5 、TiO2 、ZrO2 の各原料の粉末を、表1に示す各組成となるように配合し、ボールミル中に投入し、24時間混合を行った。得られた混合粉を、大気中で1000℃で約2時間の間仮焼し、仮焼体を得た。この仮焼体をボールミル中に入れ、48時間の粉砕を行った。こうして得られた粉末を、約400kg/cm2 の圧力を加えて成形し、直径20mm、厚さ5mmの成形体を製造した。ここの成形体を、1200℃〜1300℃の温度で約2時間焼成し、焼結体を得た。
【0017】
得られた焼結体を加工し、縦12mm、横3mm、厚さ1mmの平板を得、この縦12mm、横3mmの平面上に銀電極を設け、80℃のシリコンオイル中で2kV/mmの直流電圧をこの平板に印加することによって、圧電材料の分極処理を行った。各試料について、圧電材料の組成と、横方向圧電定数d3 1 (表中には、pm/Vを単位とした絶対値を示す。)およびキュリー点を示す。表1の試料1〜18においては、a、b、c、X、Yをそれぞれ適宜変更したときの、各特性値の違いを示す。
【0018】
【表1】
【0019】
試料2、3、4を比較すると、Xが0である、即ち、ニッケルが存在しない試料3においては、圧電定数が顕著に低下していた。試料5においては、bが本発明外であるが、圧電定数が低く、キュリー温度も低い。試料6、7、8を比較すると、XとYとが等しい試料6においては、圧電定数が顕著に低くなっているが、試料7、8では、a、b、cが試料6と同様であるのにも係わらず、圧電定数がいずれも300pm/Vを越えており、顕著に向上していた。試料9、10、11、12を比較すると、Yが1.0、即ち、ニオブが存在しない試料9においては、キュリー温度が顕著に低下しており、実用上問題がある。試料10、11では、圧電定数、キュリー温度共に向上している。試料12でもニオブが存在していないが、圧電定数、キュリー温度共に顕著に低下していた。
【0020】
試料13では、やはり圧電定数が増大している。試料14、15、16においては、aが50よりも大きいが、いずれもキュリー温度が顕著に低下していた。ほぼこれと類似した組成であっても、本発明内の試料17、18においては、圧電定数、キュリー温度共に顕著に増大していた。
【0021】
(実験2)
実験1と同様にして各試料を作成し、各試料についてそれぞれ横方向圧電定数(pm/V)とキュリー温度(℃)とを測定した。ただし、a、b、c、XおよびYは、表2に示すように変更した。この測定結果を表2に示す。ここで、表2の試料19〜32においては、a,b,cの値は、本発明の範囲内の適当な値を選択し、この場合においてX、Yの値を種々変更してみた。
【0022】
【表2】
【0023】
試料19と20とを比較すると、YがXよりも大きい試料19の方が、キュリー温度、圧電定数共に高くなっていた。試料21と22とを比較すると、試料21の方が、タンタルの置換割合Yを増加させたことによって、圧電定数が顕著に増大していた。試料23と24とを比較すると、YがXよりも大きい試料23の方が圧電定数、キュリー温度共に大きく向上していた。試料27と28とを比較すると、本発明の試料27の方がキュリー温度が向上していた。試料29と30とを比較すると、試料30の方は、キュリー温度が150℃未満の領域まで低下していた。試料31と32とを比較すると、試料32の方は、キュリー温度が150℃未満の領域まで低下していた。
【0024】
(実験3)
実験1と同様にして各試料を作成し、各試料についてそれぞれ横方向圧電定数(pm/V)とキュリー温度(℃)とを測定した。ただし、a、b、c、XおよびYは、表3に示すように変更した。この測定結果を表3に示す。ここで、表3の試料33〜44においては、Xの値を0.2に固定し、Yの値を0.4に固定して、a、bおよびcの値を種々変更してみた。
【0025】
【表3】
【0026】
試料35、36、37を比較すると、試料35、36ではbが32未満であるが、試料37に比べて圧電定数が顕著に低下していた。試料38と39とを比較すると、やはりbが32未満である試料39の方が、圧電定数が顕著に低下していた。試料40〜44を比較すると、試料41ではaが45を越えているが、本発明の試料40、43、44と比較して、キュリー温度が大きく低下していた。試料42では、aが45を越え、かつcが10未満であるが、圧電定数、キュリー温度共に顕著に低下していた。
【0027】
(実験4)
実験1と同様にして各試料を作成し、各試料についてそれぞれ横方向圧電定数(pm/V)とキュリー温度(℃)とを測定した。ただし、a、b、c、XおよびYは、表4に示すように変更した。ここで、表4の試料45〜55においては、a、b、cの値を、いずれもほぼ最適値に固定し、Xの値を0.1に固定し、Yの値を、0.0〜1.0の間で変更してみた。この測定結果を表4に示す。また、図1には、Yの値と、各試料の圧電定数およびキュリー温度の値とをグラフとして示した。ただし、図1において、圧電定数の単位(pm/V)およびキュリー温度の単位(℃)を省略した数値として、圧電定数およびキュリー温度の値を縦軸に示すことにした。
【0028】
【表4】
【0029】
Yが0.2以上、0.9以下の範囲で、もっとも圧電定数が大きく向上し、300pm/V以上に達し、しかもキュリー温度が166℃以上に達した。試料45においては圧電定数が低く、試料55においては圧電定数およびキュリー温度のいずれも大きく低下していた。ここで、Yが0.1の場合、即ち、X=Yの場合にも、圧電定数に低下が見られた。更に、Y=0.3〜0.8の範囲内で、圧電定数を320pm/V以上とすることができ、0.4〜0.7の範囲内で、圧電定数を340pm/Vにもすることができた。ただし、キュリー温度を190℃以上とするためには、Yを0.6以下とすることが必要であった。
【0030】
(実験5)
実験4と同様にして、表5に示す各組成を有する各試料を製造し、横方向圧電定数d3 1 およびキュリー点を測定した。この結果を表5に示す。ただし、本実験においては、更に原料粉末として、CaCO3 粉末を、Pbの5原子%がCaで置換されるように配合した。
【0031】
【表5】
【0032】
表5からわかるように、本発明に従い、a、b、cを上記の範囲内とし、ニッケルによるマグネシウムの置換割合Xおよびタンタルによるニオブの置換割合Yを本発明の範囲内とすることによって、横方向圧電定数、キュリー点共に良好な値とできた。
【0033】
(実験6)
実験4と同様にして、表6に示す各組成を有する各試料を製造し、横方向圧電定数d3 1 およびキュリー点を測定した。この結果を表6に示す。ただし、本実験においては、更に原料粉末として、SrCO3 粉末を、Pbの5原子%がSrで置換されるように配合した。
【0034】
【表6】
【0035】
表6からわかるように、本発明に従い、a、b、cを上記の範囲内とし、ニッケルによるマグネシウムの置換割合Xおよびタンタルによるニオブの置換割合Yを本発明の範囲内とすることによって、横方向圧電定数、キュリー点共に良好な値とできた。
【0036】
(実験7)
実験4と同様にして、表7に示す各組成を有する各試料を製造し、横方向圧電定数d3 1 およびキュリー点を測定した。この結果を表7に示す。ただし、本実験においては、更に原料粉末として、BaCO3 粉末を、Pbの5原子%がBaで置換されるように配合した。
【0037】
【表7】
【0038】
表7からわかるように、本発明に従い、a、b、cを上記の範囲内とし、ニッケルによるマグネシウムの置換割合Xおよびタンタルによるニオブの置換割合Yを本発明の範囲内とすることによって、横方向圧電定数、キュリー点共に良好な値とできた。
【0039】
(実験8)
なお、原料粉末として、上記の各実験においては酸化物粉末を使用したが、この代わりに各金属元素の炭酸塩または水酸化物を使用した場合にも,、製造した各試料の横方向圧電定数およびキュリー点について、上記とほぼ同等の値が得られた。
【0040】
【発明の効果】以上述べたように、本発明の圧電材料は、高い圧電定数とキュリー点とを備えている。
【図面の簡単な説明】
【図1】a、b、cの値を本発明内の所定値に固定し、Xの値を0.1に固定し、Yの値を、0.0〜1.0の間で変更したときの、Yの値と、各試料の圧電定数およびキュリー温度の値との関係を示すグラフである。
Claims (6)
- aPb〔(Mg1−X Nix )1/3 (Nb1−Y TaY )2/3 〕O3 −−bPbTiO3 −cPbZrO3 (a,b,cはモル%であり、a+b+c=100である)で表される組成を有する磁器からなる圧電材料であって、前記のa、b、c、XおよびYが下記(1)〜(5)の各式を満足する圧電材料。
15≦a≦45・・・・・(1)
32≦b≦45・・・・・(2)
10≦c≦50・・・・・(3)
0.1≦X、Y≦0.9・・・(4)
Y−X≧0.05・・・(5) - 前記のa、b、c、XおよびYが下記(6)〜(9)の各式を満足することを特徴とする、請求項1記載の圧電材料。
25≦a≦43・・・・・(6)
35≦b≦43・・・・・(7)
14≦c≦40・・・・・(8)
0.3≦X、Y≦0.8・・(9) - 前記のa、b、c、XおよびYが下記(10)〜(13)の各式を満足することを特徴とする、請求項2記載の圧電材料。
30≦a≦42・・・・(10)
37≦b≦40・・・・(11)
18≦c≦33・・・・(12)
0.4≦X、Y≦0.6・・(13) - 前記組成中のPbの10原子%以下が、ストロンチウム、カルシウムおよびバリウムからなる群より選ばれた一種以上の金属元素によって置換されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一つの請求項に記載の圧電材料。
- 前記組成中のPbの3〜8原子%が前記金属元素によって置換されていることを特徴とする、請求項4記載の圧電材料。
- 前記組成中のPbの5〜7原子%が前記金属元素によって置換されていることを特徴とする、請求項5記載の圧電材料。
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