JP3554395B2 - 圧電材料 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、圧電歪みを利用した圧電アクチュエーター、圧電ブザー等の材料として好適な圧電材料に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ジルコン酸チタン酸鉛は、圧電性が大きく、高温まで使用することができ、第三成分を置換し、添加することによって、種々の特性に富んだ磁器が得られるという利点を有する。特に、ジルコニア、チタンの一部をマグネシウムとニオブによって置換した、PbTiO3 ─PbZrO3 ─Pb(Mg1/3 Nb2/3 )O3 の組成を有する三成分系圧電磁器は、比較的大きな圧電定数を有する。
【0003】
近年、精密機械、光学機器等の分野において、精密な位置制御を行う必要性が高まっており、圧電歪みを利用した変位駆動素子が開発されている。このような用途に対しては、素子の変位量を大きくするために、高い圧電定数を有する磁器組成物が要求されている。しかし、こうした観点から見ると、PbTiO3 ─PbZrO3 ─Pb(Mg1/3 Nb2/3 )O3 の組成を有する三成分系圧電磁器の圧電定数d3 1 は−225pm/Vであり、未だ十分ではない。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、前述した三成分系圧電磁器において、更にその圧電定数d3 1 を向上させることである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、PbTiO3 ─PbZrO3 ─Pb(Mg1/3 Nb2/3 )O3 の組成を有する圧電材料において、このNbの一部をタンタルで置換することによって、この圧電材料の比誘電率が向上し、圧電定数が顕著に向上することを見いだし、本発明に到達するに至った。
【0006】
即ち、本発明に係る圧電材料は、aPb{Mg1/3 (Nb1−X Tax )2/3 }O3 −bPbTiO3 −cPbZrO3 (ただし、a,b,cはモル%であり、a+b+c=100である。)で表される組成を有する磁器からなり、ここでa,b,cおよびXが、下記(1)〜(4)の式を満足することを特徴とする。
15≦a≦45・・・・・(1)
32≦b≦45・・・・・(2)
10≦c≦50・・・・・(3)
0.1≦X≦0.9・・・(4)
【0007】
即ち、この際、ニオブに対するタンタルの置換割合Xが0.1未満であると、タンタルを置換したことによる効果が顕著ではなかった。また、Xが0.9を越えると、圧電材料のキュリー点が低くなった。
【0008】
また、Xを増加させると、圧電材料の圧電定数が一層向上する傾向があり、特にXを0.3以上とすることが有効であった。また、Xを0.8以下とすることによって、圧電材料のキュリー点が一層高くなることも確認した。この場合には、前記の各パラメーターの値が、下記の各式を満足するようにすることが、一層好ましい。
25≦a≦43・・・・・(5)
35≦b≦43・・・・・(6)
14≦c≦40・・・・・(7)
0.3≦X≦0.8・・・(8)
【0009】
更に、上記の観点から、Xを0.4以上とすることが有効であり、かつXが0.6近辺で圧電定数がもっとも向上した。しかし、これが0.7を越えると、キュリー点の減少が大きくなる傾向があった。従って、この場合には、前記の各パラメーターの値が、下記の各式を満足するようにすることが、一層好ましい。
30≦a≦42・・・・・(9)
37≦b≦40・・・・・(10)
18≦c≦33・・・・・(11)
0.4≦X≦0.6・・・(12)
【0010】
また、組成中のPbの10原子%以下を、ストロンチウム、カルシウムおよびバリウムからなる群より選ばれた一種以上の金属元素によって置換することによって、その圧電定数を一層向上させることができる。この置換割合を3原子%以上とすると、この効果が特に顕著であり、この観点からは更に4原子%以上とすることが好ましい。ただし、この置換割合が8原子%を越えると、圧電材料のキュリー温度が低下する傾向があるので、これを8原子%以下とすることが好ましく、7原子%以下とすることが一層好ましい。
【0011】
【実施例】
本発明の圧電材料を製造する製造方法は、特に制限されない。しかし、好適な製造方法においては、各金属元素の化合物、好ましくは酸化物、水酸化物、炭酸塩を、本発明の組成の範囲内となるように配合し、ボールミル等の中で混合する。得られた混合粉を、大気中で900℃〜1100℃の温度で仮焼し、仮焼体を得る。この仮焼体を、ボールミル等の粉砕装置内に入れ、粉砕し、得られた粉末をプレス成形し、成形体を製造する。ここの成形体を、1200℃〜1300℃の温度で焼成し、焼結体を得る。得られた焼結体を加工し、所定寸法、所定形状の試料を製造し、この試料上に電極を形成し、圧電材料の分極処理を行う。しかし、他の製造方法によって、本発明の組成範囲内の圧電材料を製造することも可能である。
【0012】
(実験1)
PbO、MgO、Nb2 O5 、Ta2 O5 、TiO2 、ZrO2 の各原料の粉末を、表1に示す各組成となるように配合し、ボールミル中に投入し、24時間混合を行った。得られた混合粉を、大気中で1000℃で約2時間の間仮焼し、仮焼体を得た。この仮焼体をボールミル中に入れ、48時間、粉砕を行った。こうして得られた粉末を、約400kg/cm2 の圧力を加えて成形し、直径20mm、厚さ5mmの成形体を製造した。ここの成形体を、1200℃〜1300℃の温度で約2時間焼成し、焼結体を得た。
【0013】
得られた焼結体を加工し、縦12mm、横3mm、厚さ1mmの平板を得、この縦12mm、横3mmの平面上に銀電極を設け、80℃のシリコンオイル中で2kV/mmの直流電圧をこの平板に印加することによって、圧電材料の分極処理を行った。各試料について、圧電材料の組成と、横方向圧電定数d3 1 およびキュリー点を示す。表1の試料1〜17においては、a、b、cが本発明の範囲内である場合に、タンタルの置換量を種々変化させ、これによる特性の違いを示す。
【0014】
【表1】
【0015】
試料1と2、試料3と4、試料5と6、7、試料8と9、10、試料12と13、試料14と15、試料16と17とを比較すると、いずれもタンタルでニオブの一部を置換することによって、圧電定数が向上することがわかる。また、試料11からわかるように、Xが1.0となると、圧電定数が却って低下し、キュリー点も極度に低下している。
【0016】
(実験2)
実験1と同様にして、表2に示す各組成を有する各試料を製造し、横方向圧電定数d3 1 およびキュリー点を測定した。この結果を表2に示す。
【0017】
【表2】
【0018】
表2の試料18と19とを比較すると、Xが0.6である方が一層横方向圧電定数が向上している。試料20と21とを比較すると、bが32未満となると、横方向圧電定数が顕著に低下することがわかる。試料22についても同様である。試料23〜26では横方向圧電定数、キュリー点共に好適であるが、試料27においては、Xを1.0とすることにより、横方向圧電定数が顕著に低下し、キュリー点も低下している。
【0019】
試料28と試料29とを比較するとわかるように、aが45を越えると、キュリー点が顕著に低下した。また、試料30においては、aが45を越えたことによってキュリー点か顕著に低下する共に、Xが減少した分だけ横方向圧電定数にも低下が見られた。試料31においては、aを55に増加させ、かつcを10未満としたが、特にキュリー点が大幅に低下した。試料32、33では、横方向圧電定数、キュリー点共に良好であった。
【0020】
(実験3)
実験1と同様にして、表3に示す各組成を有する各試料を製造し、横方向圧電定数d3 1 およびキュリー点を測定した。この結果を表3に示す。ただし、本実験においては、表3においては、a、b、cを一定値に固定し、タンタルによる置換割合Xを、0から1.0まで順次変化させた。これらのa、b、cの値は、前述の実験結果等から見て、ほぼ最適値であると考えられる。また、この実験結果について、図1にXと横方向圧電定数との関係をグラフとして示す。
【0021】
【表3】
【0022】
これらの結果からわかるように、Xを0.1以上とすることによって圧電材料の横方向圧電定数が顕著に向上し、更にXを0.3〜0.8、更には0.4〜0.7とすると、更に横方向圧電定数が向上した。ただし、Xが0.7を越えると、特に、キュリー点が低下するので、Xは0.6以下とすることが更に好ましい。また、Xが1.0となり、即ち、ニオブのすべてをタンタルによって置換すると、横方向圧電定数が低下するだけでなく、キュリー点が170℃未満の領域まで低下した。
【0023】
(実験4)
実験1と同様にして、表4に示す各組成を有する各試料を製造し、横方向圧電定数d3 1 およびキュリー点を測定した。この結果を表4に示す。ただし、本実験においては、更に原料粉末として、SrCO3 粉末を加え、Pbの5原子%がSrによって置換されるように配合した。
【0024】
【表4】
【0025】
表4からわかるように、本発明に従い、a、b、cを上記の範囲内とし、特にタンタルの置換割合Xを0.1〜0.9とすることによって、横方向圧電定数、キュリー点共に良好な値とできる。
【0026】
(実験5)
実験4と同様にして、表5に示す各組成を有する各試料を製造し、横方向圧電定数d3 1 およびキュリー点を測定した。この結果を表5に示す。ただし、本実験においては、更に原料粉末として、CaCO3 粉末を加え、Pbの5原子%がCaによって置換されるように配合した。
【0027】
【表5】
【0028】
表5からわかるように、本発明に従い、a、b、cを上記の範囲内とし、特にタンタルの置換割合Xを0.1〜0.9とすることによって、横方向圧電定数、キュリー点共に良好な値とできる。
【0029】
(実験6)
実験4と同様にして、表6に示す各組成を有する各試料を製造し、横方向圧電定数d3 1 およびキュリー点を測定した。この結果を表6に示す。ただし、本実験においては、更に原料粉末としてBaCO3 粉末を加え、Pbの5原子%がBaによって置換されるように配合した。
【0030】
【表6】
【0031】
表6からわかるように、本発明に従い、a、b、cを上記の範囲内とし、特にタンタルの置換割合Xを0.1〜0.9とすることによって、横方向圧電定数、キュリー点共に良好な値とできる。
【0032】
(実験7)
原料粉末として、上記の各実験においては酸化物粉末を使用したが、この代わりに各金属元素の炭酸塩または水酸化物を使用した場合にも、製造した各試料の横方向圧電定数およびキュリー点について、上記とほぼ同等の値が得られた。
【0033】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明の圧電材料によれば、PbTiO3 ─PbZrO3 ─Pb(Mg1/3 Nb2/3 )O3 の組成を有する三成分系圧電磁器のニオブの一部をタンタルで置換することによって、圧電定数が顕著に向上した。
【図面の簡単な説明】
【図1】PbTiO3 ─PbZrO3 ─Pb(Mg1/3 Nb2/3 )O3 の組成を有する三成分系圧電磁器において、その組成中のニオブのタンタルによる置換割合Xと、圧電材料の横方向圧電定数d3 1 との関係を示すグラフである。
Claims (6)
- aPb{Mg1/3 (Nb1−X Tax )2/3 }O3 −bPbTiO3 −cPbZrO3 (ただし、a,b,cはモル%であり、a+b+c=100である。)で表される組成を有する磁器からなる圧電材料であって、前記のa,b,cおよびXが下記(1)〜(4)の式を満足する圧電材料。
15≦a≦45・・・・・(1)
32≦b≦45・・・・・(2)
10≦c≦50・・・・・(3)
0.1≦X≦0.9・・・(4) - 前記のa,b,cおよびXが下記(5)〜(8)の式を満足することを特徴とする、請求項1記載の圧電材料。
25≦a≦43・・・・・(5)
35≦b≦43・・・・・(6)
14≦c≦40・・・・・(7)
0.3≦X≦0.8・・・(8) - 前記のa,b,cおよびXが下記(9)〜(12)の式を満足することを特徴とする、請求項2記載の圧電材料。
30≦a≦42・・・・・(9)
37≦b≦40・・・・・(10)
18≦c≦33・・・・・(11)
0.4≦X≦0.6・・・(12) - 前記組成中のPbの10原子%以下が、ストロンチウム、カルシウムおよびバリウムからなる群より選ばれた一種以上の金属元素によって置換されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一つの請求項に記載の圧電材料。
- 前記組成中のPbの3〜8原子%が前記金属元素によって置換されていることを特徴とする、請求項4記載の圧電材料。
- 前記組成中のPbの5〜7原子%が前記金属元素によって置換されていることを特徴とする、請求項5記載の圧電材料。
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