JP3553720B2 - 湿式酸化方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、硫黄分を含むナフサ、ブタン、エタンなどの軽質炭化水素を熱分解して得られるエチレン、プロピレンなどの炭化水素流体中に含まれる硫黄化合物を、アルカリ水溶液により吸収除去する際の排出液、いわゆる廃ソーダを湿式酸化する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
硫黄分を含む炭化水素類を熱分解、接触分解または接触改質等により処理するとき、硫黄分は主として硫化水素に転換される。硫化水素は、例えば分解生成物のその後の精製工程において触媒毒等の有害な作用を及ぼすために除去する必要がある。
工業的な除去法としては、アルカリ水溶液と接触させて吸収除去する方法が一般的に用いられている。アルカリ水溶液を用いた洗浄操作から排出されるアルカリ水溶液廃水は、通常廃ソーダと呼ばれ、吸収した硫化水素による強い悪臭を有し、また化学的酸素要求量(COD)の値も高い。すなわち、単にアルカリ水溶液に吸収させるのみでは、吸収液が環境変化により酸性に変化したとき液中から硫化水素が遊離するなどの問題を生ずる。このため公害防止の見地から、悪臭の除去とCOD値の低減を目的とする除害操作が必要となる。
【0003】
上記アルカリ水溶液廃水の除害操作として従来提案されている方法の中では、水が液相を保持し得る条件において分子状の酸素と接触させて酸化する方法、すなわち湿式酸化法が工業的には好ましい方法と考えられている。この方法は、硫化水素の硫黄原子をより高い酸化状態へ酸化するものであり、その結果、吸収液が酸性に変化しても硫化水素が遊離することはない。
しかしながら、酸化により硫黄原子の酸化状態が高くなると同時に、酸化終了後の廃水のpHは低下する可能性があり、低いpHにおいては酸化反応器の腐食を招く懸念がある。
【0004】
上記の腐食対策のために、従来種々の方法が提案されている。
例えば、特開平4−338285号公報には、廃ソーダ液中に含まれる各種物質を分析し、酸化により生成する硫酸を中和するために必要なアルカリの量を硫化水素や炭酸の1次および2次解離定数を基礎にして計算で求め、その結果に基づいて湿式酸化工程の原液に不足分のアルカリを加える方法が提案されている。
すなわち、同公報が開示する方法は、予め廃ソーダの分析により全アルカリ度、全硫化物、メルカプタン、COD、チオ硫酸塩、全炭酸塩およびpHを測定し、文献等から得られる硫化水素や炭酸の1次および2次解離定数に基づいて、全硫化物の量を硫化物と水硫化物に分離し、また全炭酸塩の量を炭酸塩と重炭酸塩とに分離してそれぞれ算出し、pHから存在する苛性ソーダ量を算出し、湿式酸化反応の過程で消費されるアルカリ度を予想し、必要に応じて適宜不足分のアルカリをアルカリ水溶液廃水に添加する方法を開示している。この方法は、湿式酸化の過程で酸の発生源となり得る水硫化物の量を算出し、発生した酸により被処理廃水を酸性に変化させないための必要最小限のアルカリ量を求めるものである。
しかしながら、アルカリ度の定量および硫化物の定量の基礎として、硫化水素や炭酸の解離定数を用いた計算方法を採用しているため、安全性確認の信頼性はこれらの解離定数の精度に左右されることになる。一般に種々の物質の解離定数として各種の異なる数値が公表されていることはよく知られており、操作の安全性に対する予測が採用する解離定数によって左右されるため、不確実さは避けられない。また、解離定数は温度や圧力の関数でもあるため、これらの点も考慮しなければ確実性はさらに低下する。
特開平7−979号公報に記載された技術も、同様に硫化水素や炭酸の解離定数を用いた計算方法を採用して湿式酸化を行うものであり、上記と同様の問題を有している。
【0005】
更に湿式酸化による廃ソーダの処理においては、上記のような被処理流体の酸性度の上昇による腐食防止を予測することの重要性に加え、CODの除去効率を上げることも重要である。
すなわち、本発明に用いる廃ソーダにおいてアルカリ水溶液中に吸収された硫黄分は、硫化ナトリウムおよび水硫化ナトリウムとして平衡状態で存在するが、無触媒下でこれらの硫黄分を湿式酸化するとき、それぞれ下記のようにチオ硫酸ナトリウムを経て2段階の反応が進行する。
【0006】
【化1】
【0007】
上記の式に示されるように、酸化反応の中間段階であるチオ硫酸ナトリウムの酸化が速やかに進行するためには、反応系にOH−イオンが存在することが必要である。
反応形式は、工業的な実施形態としてバッチ式よりも連続式の方が優れていることは明らかであるが、連続方式を用いる場合には、限られた時間内に反応を進行させることが特に必要であるため、反応速度は大きいほど有利である。従って、廃ソーダの組成が反応を速やかに進行させる上で好適な状態にあるか否かを事前に把握しておくことが重要である。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、主たる酸性物質として硫化水素および二酸化炭素を吸収したアルカリ水溶液廃水の湿式酸化において、酸化操作の安全性および酸化反応の効率的な進行を確保するための簡便な方法を提供することを目的とする。
【0009】
【問題を解決するための手段】
すなわち、本発明の第1は、主たる酸性物質として硫化水素および二酸化炭素を含む炭化水素流体にアルカリ水溶液を接触させ酸性物質を吸収させ、該アルカリ水溶液中のアルカリと硫化水素ないし二酸化炭素とから、硫化物、水硫化物および炭酸化物を生成させてなるアルカリ水溶液廃水を分子状酸素により酸化する湿式酸化方法において、
(イ)アルカリ水溶液廃水中の上記操作により生成した硫化物、水硫化物および炭酸化物を中和滴定によりpHが約9になるまでに要した強酸の当量:A/リットルおよびpHが約4になるまでに要した強酸の当量:B/リットルを求め
(ロ)該AおよびBの値から(2A−B)の値を求め
(ハ−1)該(2A−B)の値が下記式〔 I −1〕の場合には、そのまま分子状酸素により酸化し、
1 . 5>2A−B>0・・・・・・〔 I −1〕
(ハ−2)該(2A−B)の値が下記式〔 I −2〕の場合には、酸を加えて、式〔 I −1〕の関係を満たした後、分子状酸素により酸化し、あるいは
2A−B≧1 . 5・・・・・・〔 I −2〕
(ハ−3)該(2A−B)の値が下記式〔 I −3〕の場合には、アルカリを加えて、式〔 I −1〕の関係を満たした後、分子状酸素により酸化する、
2A−B ≦0
・・・・・・〔 I −3〕
ことを特徴とする湿式酸化方法に関するものである。本発明の第2は、上記本発明の第1において、前記アルカリ水溶液が苛性ソーダ水溶液であることを特徴とする湿式酸化方法に関する。本発明の第3は、上記本発明の第1において、湿式酸化を連続流通式の装置により実施することを特徴とする湿式酸化方法に関する。
【0010】
以下、さらに本発明を説明する。
主たる酸性物質として硫化水素および二酸化炭素を含む炭化水素流体とは、炭化水素からなる液状、気体状またはこれらの混合相からなる流体であり、例えば硫黄分を含むナフサ、ブタン、エタンなどの軽質炭化水素を、エチレン、プロピレンなどのオレフィン製造のために熱分解または接触分解する工程から得られるエチレンなどの非凝縮性オレフィンを含むガスが挙げられる。上記の軽質炭化水素は、硫黄、酸素などを含み、これらの元素は熱分解されることにより硫化水素および二酸化炭素となってエチレンなどの非凝縮性オレフィンガスに混入する。通常、これらのほかに水素ガスやアセチレン等も混入しているが、酸性物質としては、硫化水素および二酸化炭素が主たるものである。
【0011】
このほか、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素の増産またはオクタン価向上などのために石油類を改質する工程から得られる改質ガソリンや C6〜C10留分などの芳香族留分も、硫黄、酸素などを含み、これらの元素は改質操作により硫化水素および二酸化炭素となって炭化水素留分中に混入している。さらにまた、例えばC8芳香族炭化水素の異性化工程から得られる芳香族炭化水素留分も、同様に酸性物質として主として硫化水素および二酸化炭素を含むものであり、本発明の炭化水素流体として例示される。
【0012】
これら各種の炭化水素流体中で好ましいものは、前記ナフサ、ブタン、エタンなどの硫黄分を含む軽質炭化水素をエチレン、プロピレンなどのオレフィン製造のために熱分解または接触分解する工程から得られるエチレンなどの非凝縮性オレフィンを含むガスである。これらに含まれる酸性物質の主なものは、硫化水素と二酸化炭素である。メルカプタンやカルボン酸等の酸性物質は少ない。
エチレンなどのオレフィンガスは、精製の過程でアセチレンなどの高度不飽和炭化水素を除去するため選択的水素添加工程に供されるのであるが、その際にオレフィンガス中に共存する硫化水素は、水素添加触媒の触媒毒になることがある。触媒毒となる硫化水素を除去するためには、スクラバーにおいてオレフィンガスをアルカリ水溶液で洗浄し、硫化水素をアルカリ水溶液中に吸収させる。この際、オレフィンガス中の二酸化炭素などの酸性物質も同時にアルカリ水溶液に吸収除去される。
通常、スクラバーの洗浄液としては、苛性ソーダ、苛性カリ、アンモニアなどのアルカリ、好ましくは苛性ソーダのような強塩基の水溶液が用いられる。なお、スクラバーにおいては、洗浄液が酸性となって硫化水素が遊離することを防止するために、通常、炭化水素流体中の酸性物質の量に比べて洗浄液中のアルカリを過剰にする。
以下、スクラバーにおいて苛性ソーダ水溶液で洗浄することにより得られるアルカリ水溶液廃水を例にとり本発明の湿式酸化を説明する。
【0013】
上記のようにスクラバーにおいて硫化水素や二酸化炭素を吸収したアルカリ水溶液廃水中では、硫黄分は硫化ナトリウムと水硫化ナトリウムとして平衡関係を保持しながら存在し、通常チオ硫酸ナトリウムは実質的に検出されない。また酸性物質として吸収される二酸化炭素は実質上炭酸ナトリウムとして存在し、重炭酸ナトリウムの形では存在しない。
スクラバーからのアルカリ水溶液廃水には、僅かではあるが油状の炭化水素が含まれることがあるため、一般には湿式酸化処理に供する前に抽出分離等の前処理を行う。従って、油状の炭化水素は通常、実質的に湿式酸化に影響を与えない程度まで除去されている。本発明の湿式酸化方法においても、このようなアルカリ水溶液廃水を湿式酸化の対象とする。
【0014】
本発明においては、湿式酸化工程に供する原料のアルカリ水溶液廃水について、あらかじめ強酸の水溶液を中和試薬として常法により中和滴定を行う。
上記の中和滴定において、原料廃水のpHが約9になるまでに要する強酸の当量数(A)と、中和滴定により原料廃水のpHが約4になるまでに要する強酸の当量数(B)とを求める。この際、同一の原料廃水について連続した滴定操作により当量数AおよびBを求めることもできるが、別個の原料廃水を滴定して、AおよびBを別々に求めてもよい。別個に行うときは、試料容量を同一の値に換算して当量数を求める。
【0015】
本発明において、廃ソーダ中に含まれ、中和滴定で測定される成分は、苛性ソーダ(廃ソーダ1リットル当たりaモルとする)、硫化ナトリウム(同bモルとする)、水硫化ナトリウム(同cモルとする)および炭酸ソーダ(同dモルとする)である。これらの各成分を塩酸により中和する場合の反応は、以下の各式で表される。
【0016】
【化2】
【0017】
ここで、pH約9までの中和滴定により求められる酸の当量数(A)は、上記式の第(1)項において表される3種の中和反応により消費される酸の合計である。
また、pH約4までの中和滴定により求められる酸の当量数(B)は、上記式の第(1)項および第(2)項で表される5種の中和反応により消費される酸の合計である。
すなわち、本発明の中和滴定において得られる当量数AおよびBは、各成分の含有量a、b、cおよびdにより以下の通り表される。
A=a+b+d
B=a+2b+c+2d
上の2式から下記式〔II〕が得られる。
2A−B=a−c ・ ・ ・ ・ ・ ・〔II〕
この結果から、2A−Bの値は、廃ソーダ中の苛性ソーダの量(a)と水硫化ナトリウムの量(c)との差を表すことが判る。
【0018】
ここで、アルカリ水溶液廃水の中和滴定の結果から得られる2A−Bの値について考察する。
(i)2A−B=0の場合(a=c)
この場合には、アルカリ水溶液廃水中に苛性ソーダと水硫化ナトリウムとが等モル量で存在する。従って、前記水硫化ナトリウムの酸化反応式から判るように、水硫化ナトリウムの酸化が最終段階まで到達するために必要なOH−イオンが過不足なく存在しており、酸化が硫酸ナトリウムの段階まで進行する。しかしながら、酸化反応の中間段階であるチオ硫酸ナトリウムの酸化を速やかに進行させるためには、OH−イオンはさらに過剰に存在する方が好ましい。
(ii)2A−B<0の場合(a<c)
この場合には、アルカリ水溶液廃水中の苛性ソーダのモル数が水硫化ナトリウムのモル数より少ない。そのため、水硫化ナトリウムの酸化は、酸化反応の条件によって、チオ硫酸ナトリウムの段階で停止するか、更に進行して硫酸ナトリウムまで変化し、その結果酸化被処理水が酸性になり、装置の腐食という問題が生ずることになる。
【0019】
従って、中和滴定法によりpHが約9になるまでに要した強酸の当量数をAとし、またpHが約4になるまでに要した強酸の当量数をBとして、AとBとが式〔I〕:2A−B>0 の関係を満足するアルカリ水溶液廃水を用いて酸化を行う本発明の方法によれば、反応上必要なアルカリ性を確実に維持することができ、また反応効率の点からも有利である。
当量数Aを求める中和滴定は、pHが約9で変色する通常の指示薬を用いて行うことができる。これらの指示薬の具体例としては、pH8.3〜10.0の範囲で変色するフェノールフタレイン、チモールフタレイン等を挙げることができる。
また当量数Bを求める中和滴定は、pHが約4で変色する通常の指示薬を用いて行うことができる。これらの指示薬の具体例としては、pHが3.1〜4.4の範囲で変色するメチルオレンジを挙げることができる。
中和滴定は、上記指示薬を用いる方法のほかに、pHの変化から当量数を求める電動度による方法で行うこともできる。
滴定に用いる強酸としては、硫酸、硝酸、塩酸などが挙げられ、好ましくは塩酸であり、水溶液の形態で用いられる。
また、当量数Bを求める滴定操作の終点付近においては、中和液を煮沸加熱し、中和によって発生する二酸化炭素と硫化水素とを放出させる等の考慮が必要となる。
【0020】
中和滴定は常法に従って行うことができる。例えば、以下の手順により行う。
なお、原料廃水以外の水としては、いずれも脱イオン水を使用した。試薬はいずれも試薬特級である。
(中和滴定手順)
(1)中和滴定装置
300mlのフラスコ、 ビューレット
(2)中和滴定試薬
(a)0.5N塩酸水溶液: 50mlの濃塩酸を1リットルの水に希釈することにより調製し、炭酸ナトリウムにより標定する。
(b)指示薬
フェノールフタレイン: 0.1%溶液
メチルオレンジ: 0.1%溶液
(3)滴定法
300mlフラスコに、適当量(例えば、10ml)の試料を入れ、さらに約50ccの水を加え、3滴のフェノールフタレインを加えた後に0.5N塩酸水溶液で滴定を開始する。フェノールフタレインによるピンク色が消えた点を終点として、それまでの滴定に要した0.5N塩酸水溶液の塩酸の当量数をAとする。次いで、3滴のメチルオレンジを加えて、滴定をさらに継続する。赤色からオレンジ色に変わった点を終点とし、滴定開始から、メチルオレンジ試薬による滴定終了までに要した0.5N塩酸水溶液の塩酸の当量数をBとする。後段の滴定操作の終点付近においては、中和液を適宜に煮沸加熱し、中和によって発生する二酸化炭素と硫化水素とを放出させ、必要の場合はさらに滴定を継続して終点に到達させる。
【0021】
酸化反応の原料廃水について、上記のように中和滴定を行い、式〔II〕:2A−Bにより計算される値が零または負のときは、上式の値が正になるように適宜にアルカリを原料廃水に添加する。AとBとが式〔I〕:2A−B>0の関係を満足するときは、そのまま酸化反応に供する。
添加するアルカリは特に限定されないが、例えば、苛性ソーダ、苛性カリ、アンモニアなどが挙げられ、好ましくは苛性ソーダであり、これらを水溶液の形態で添加する。添加する場所は、原料廃水が湿式酸化反応器に入る前の任意の箇所とすることができる。
本発明においては、AとBとが式〔I〕:2A−B>0の関係を満足する場合に、アルカリをさらに添加することを排除するものではない。しかしながら、2A−Bの値が著しく大きな正の数である場合には、酸化終了後の液を中和して排出しようとするときに中和剤の使用量が過大となる。従って、通常は廃水1リットル当たりの2A−Bの値が1.5を越えないようにすることが好ましい。この場合に、希硫酸などの酸を加えることによって2A−Bの値が1.5を越えないようにすることも可能である。
【0022】
前記スクラバーにおいては、すでに述べたように、通常アルカリの量を炭化水素流体中の酸性物質の量よりも過剰になるように調整するが、そのために酸性物質の含有量が変動する場合に備えて、アルカリ添加量の調整設備が設置されている。従って、スクラバーの洗浄液のアルカリ度を調整する際に、この設備を利用して追加のアルカリも併せて添加することが好ましい。もちろん、前記特開平4−338285号公報に記載されているように、酸化反応器の前に別途に設備を設けて添加することも可能である。
【0023】
本発明の湿式酸化方法においては、酸素または空気などの分子状酸素を含む気体を、高温、高圧下で硫化物の水溶液と接触させることにより、硫化物を酸化して硫酸ナトリウムとする。
反応温度は、150〜350℃、好ましくは150〜230℃の範囲である。ナフサ等の熱分解炉(ナフサクラッカー)から得られるガスにおいては、元来炭化水素類の含有量は少ない。しかしながら、少量であっても洗浄廃水中に炭化水素類が混入すると、酸化反応が不安定になるなどの問題が生ずる。従って、炭化水素類などの酸化可能な有機物は、予め抽出操作などの適宜の除去手段により除去することが好ましい。
ただし、有機物が混入していても実質的に酸化が進行しないように、低温で反応を行うことが好ましい。例えば150〜230℃で行うことが適当であり、好ましくは150〜210℃である。この範囲の温度であれば、硫化ナトリウムは十分に酸化され硫酸ナトリウムになる。
【0024】
酸化の際の圧力は、液相を保持する大きさであればよく、例えば1〜1,000kg/cm2の範囲から任意に選択することができる。
原料のアルカリ廃水と接触させるべき分子状酸素としては、酸素ガス、空気またはこれらの混合ガスが用いられる。
反応形式は特に限定されず、バッチ式の反応器も採用することができるが、好ましくは連続流通式である。従って、原料廃水は連続的に酸化反応器に導入され、また分子状酸素も連続的に反応器に導入される。このような連続流通式の反応形式は、前述のように工業的な実施形態を想定すると、明らかにバッチ式よりも優れている。連続流通式の場合、廃ソーダ液の流量は、例えば0.1〜1,000l/hr の範囲から、また分子状酸素を含むガスは0.001〜1,000Nm3/hr の範囲からそれぞれ選択することができる。
【0025】
酸化反応器の前後には、適宜に原料廃水と処理済み液との熱交換を行う熱交換器を設置することにより、酸化反応から発生する熱を回収することができる。 酸化反応器自体の構造は、特に制限はなく、公知のものを用いることができる。例えば、特公昭55−41158号公報に記載されているように、反応器下部から内筒内部へ酸素含有ガスを導入し、内筒内部を上昇するガス流の流動を利用して内筒の内部から外部(外筒/内筒の間隙)へ液循環させる二重円筒型反応器は、本質的に本発明の方法に適したものであり、熱交換器を設ける必要性が少なく有利である。ただし、二重円筒型反応器による場合においても、適宜に熱交換器を設置することができる。
なお、本発明の湿式酸化においては、特に触媒を使用する必要はなく、無触媒で行うことが好ましい。しかしながら、本発明の効果を発揮する限り、触媒を使用することもできる。
湿式酸化の終了後は、処理済み液をそのまま、または適宜の水により希釈し、もしくは適宜の酸により中和して系外へ排出する。
【0026】
【発明の実施の形態】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、実施例および比較例における中和滴定は、いずれも前記の中和滴定手順に従って行った。
【実施例】
<比較例1>
炭酸ソーダ2.30グラム、苛性ソーダ8.16グラムおよび水硫化ナトリウム11.9グラムを純水で溶解して1リットルとしたモデル廃ソーダ水溶液を調整した。得られた水溶液について中和滴定を行ったところ、フェノールフタレイン指示薬により A=0.226当量/リットル、およびメチルオレンジ指示薬によりB=0.460当量/リットルの値を得た。すなわち、前記式〔II〕:2A−Bは負の値であった。
次いで、上記のモデル廃ソーダ水溶液を、温度180℃、圧力35気圧の空気により1時間湿式酸化を行ったところ、残存S−−イオンは7ppm のレベルまで低下していたが、酸化反応の中間段階であるチオ硫酸ナトリウムが0.7%検出され、湿式酸化が不十分であった。
【0027】
<実施例1>
炭酸ソーダ2.30グラム、苛性ソーダ8.89グラムおよび水硫化ナトリウム11.9グラムを純水で溶解して1リットルとしたモデル廃ソーダ水溶液を調整した。得られた水溶液について中和滴定を行ったところ、フェノールフタレイン指示薬により A=0.244当量/リットル、およびメチルオレンジ指示薬によりB=0.478当量/リットルの値を得た。すなわち、前記式〔II〕:2A−Bは正の値であった。
次いで、上記のモデル廃ソーダ水溶液について、温度180℃、圧力35気圧の空気により1時間湿式酸化を行ったところ、残存S−−イオンおよびチオ硫酸ナトリウムは検出されず、湿式酸化が完全に終了していた。また湿式酸化後の処理済みの反応液のpHは11.9であり、酸による装置の腐食が問題とならないレベルであった。
【0028】
<比較例2>
炭酸ソーダ6.6グラム、苛性ソーダ22.4グラム、水硫化ナトリウム77.6グラムおよび硫化ナトリウム9.1グラムを純水で溶解して1リットルとしたモデル廃ソーダ水溶液を調整した。得られた水溶液について中和滴定を行ったところ、フェノールフタレイン指示薬により A=0.727当量/リットル、およびメチルオレンジ指示薬により B=2.279当量/リットルの値を得た。すなわち、前記式〔II〕:2A−Bは負の値であった。
次いで、上記のモデル廃ソーダ水溶液について、温度180℃、圧力35気圧の空気により1時間湿式酸化を行ったところ、残存S−−イオンは7ppm のレベルまで低下していたが、酸化反応の中間段階であるチオ硫酸ナトリウムが6.4%検出され、湿式酸化の達成度が不十分であった。
【0029】
<実施例2>
(スクラバーによる洗浄)
エチレン製造のためのナフサクラッカーから得られるエチレン、水素、硫化水素および二酸化炭素を主として含むガスを、アルカリ水溶液によりスクラバーで洗浄した。
スクラバーで用いた洗浄液は、苛性ソーダ水溶液である。硫化水素および二酸化炭素を吸収した後のアルカリ水溶液廃水はアルカリ性を示した。メルカプタン類およびチオ硫酸類は実質的に含まれていない。分離が不十分なために同伴された油状の炭化水素類は、別途抽出操作により除去した。
(湿式酸化)
上記スクラバーにおけるソーダ洗浄塔からの洗浄廃液について中和滴定を行った結果、フェノールフタレイン指示薬により A=0.926当量/リットル、およびメチルオレンジ指示薬により B=1.840当量/リットルの値が得られた。すなわち、前記式〔II〕:2A−Bは正の値であった。
この洗浄廃液について実施例1と同様にして湿式酸化を行ったところ、被処理液の残存S−−イオンは6ppm まで低下しており、pHも11.9であり、酸による腐食の心配のないことが確認された。
【0030】
<比較例3>
芳香族炭化水素異性化装置からのC8炭化水素を主とする芳香族留分中の硫黄分を除去するためにソーダ水溶液で洗浄を行い、ソーダ洗浄塔からの洗浄廃液について中和滴定を行った。その結果、フェノールフタレイン指示薬によりA= 0.418当量/リットル、およびメチルオレンジ指示薬により B=0.848当量/リットルの値が得られた。すなわち、前記式〔II〕:2A−Bは負の値であった。
この洗浄廃液について実施例1と同様にして湿式酸化を行ったところ、被処理流体の残存S−−イオンは8ppm のレベルにまで低下していたが、酸化反応の中間段階であるチオ硫酸ナトリウムが検出され、さらにpHも7.9まで低下していた。
なお、洗浄廃液中にわずかに含まれる油状炭化水素は、湿式酸化の前に重質異性化留分による抽出を行って分離除去した。また、別に化学分析を行い、C8芳香族留分に含まれる酸性物質は主として硫化水素と二酸化炭素であることを確認した。
【0031】
【発明の効果】
本発明における特定組成の廃ソーダを用いることによって、安全かつ簡便に、しかも効率よく操業し得る廃ソーダの湿式酸化方法を提供することができる。
前記特開平4−338285号公報等で提案されている解離定数に基づいて計算する方法は、解離定数の不確実さが問題になると共に、現時点では高アルカリ領域における反応解析や分析手段が不十分であるため、一見理論的ではあるが、信頼性に優れた手法とはいい難い。これに対し本発明は、特定の廃水について本発明者らが長年の実機経験に基づいて確立したものであり、簡便である上に極めて確実な方法である。
Claims (1)
- 主たる酸性物質として硫化水素および二酸化炭素を含む炭化水素流体にアルカリ水溶液を接触させ該酸性物質を吸収させ、該アルカリ水溶液中のアルカリと硫化水素ないし二酸化炭素とから、硫化物、水硫化物および炭酸化物を生成させてなるアルカリ水溶液廃水を分子状酸素により酸化する湿式酸化方法において、
(イ)アルカリ水溶液廃水中の上記操作により生成した硫化物、水硫化物および炭酸化物を中和滴定によりpHが約9になるまでに要した強酸の当量:A/リットルおよびpHが約4になるまでに要した強酸の当量:B/リットルを求め
(ロ)該AおよびBの値から(2A−B)の値を求め
(ハ−1)該(2A−B)の値が下記式〔 I −1〕の場合には、そのまま分子状酸素により酸化し、
1 . 5>2A−B>0・・・・・・〔 I −1〕
(ハ−2)該(2A−B)の値が下記式〔 I −2〕の場合には、酸を加えて、式〔 I −1〕の関係を満たした後、分子状酸素により酸化し、あるいは
2A−B≧1 . 5・・・・・・〔 I −2〕
(ハ−3)該(2A−B)の値が下記式〔 I −3〕の場合には、アルカリを加えて、式〔 I −1〕の関係を満たした後、分子状酸素により酸化する、
2A−B≦0 ・・・・・・〔 I −3〕
ことを特徴とする湿式酸化方法。
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