JP3553128B2 - リポマイセス属に属する菌体外多糖高生産株の育種法 - Google Patents

リポマイセス属に属する菌体外多糖高生産株の育種法 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、土壌改良剤等として有用な多糖の生産性の高いリポマイセス属に属する微生物とその選択法、並びにこの微生物を用いた多糖の製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
土壌粒子の団粒形成は、植物の生育にとって重要な因子であり、土壌の団粒化を促進するために土壌改良剤が使用されている。このような土壌改良剤として、堆肥や厩肥が古くから用いられており、近年ではポリアクリル酸塩、ポリアクリルニトリル、ポリアクリルアミド及びポリビニルアルコール等の合成高分子化合物や、アルギン酸、酸化デンプン、キトサン等の天然物由来の多糖類、さらにはこれらの誘導体が用いられるようになっている。
【0003】
しかし、堆肥や厩肥は単位面積当たりの使用量が多く、必要量を確保することが困難であり、また、上記のような合成高分子化合物は、微生物によって分解されにくいために土壌中に長時間残留し、安全性の面から問題が残る。さらに、天然物由来の多糖類は、これらのものに比べて団粒形成作用が弱く、原料となる天然物の入手が天候などによって左右されるという問題があった。
【0004】
これに対し、本発明者らは、子嚢菌に属する土壌酵母の一種であるリポマイセス スタルキー(Lipomyces starkeyi)の生産する菌体外多糖が、土壌の団粒形成に著効を示し、しかも土壌中に長期間残留したりするなど安全性の問題もなく、有効な土壌改良剤として使用できることを見出している(特開平5−311169号公報)。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、リポマイセス属に属する微生物の産生する菌体外多糖を用いた土壌改良剤をさらに実用化するために、この菌体外多糖の生産性の高いリポマイセス属に属する微生物株を育種選択し、その株を用いて菌体外多糖を効率よく製造する方法を提供することを課題とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、リポマイセススタルキーの菌体外多糖の産生と子嚢形成率との間に相関があることを見出し、リポマイセス スタルキー菌体外多糖高生産株を育種することに成功し、本発明に至った。
【0007】
すなわち本願発明は、リポマイセス属に属する微生物から子嚢形成率の低い株を選択することを特徴とする菌体外多糖高生産株の育種法である。本発明の育種法の好ましい態様として、
(a)リポマイセス属に属する微生物の子嚢から単胞子を分離し、
(b)分離した単胞子を発芽生育させて子嚢を形成させ、
(c)子嚢形成率の低い株を選択してその株から単胞子を分離し、
上記(b)及び(c)を繰り返すことによって子嚢形成率の低い株を選択する方法が挙げられる。ここで、リポマイセス属に属する微生物としては、リポマイセス スタルキー等が挙げられる。
【0008】
また本願発明は、実質的に子嚢を形成しないリポマイセス スタルキー AJ14695(FERM P−14276)株を提供する。
さらに本願発明は、前記菌体外多糖高生産株を培養し、培養液中に菌体外多糖を生成蓄積させ、この培養液から多糖を回収することによってリポマイセス属に属する微生物の産生する菌体外多糖を製造する方法を提供する。
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
<1>菌体外多糖高生産株の育種
菌体外多糖を高効率で生産するリポマイセス属に属する微生物は、子嚢形成率を指標とし、子嚢形成率の低い株を選択することにより得られる。菌体外多糖高生産株の選択に用いるリポマイセス属に属する微生物としては、リポマイセス スタルキーが好ましいが、リポマイセス属に属し菌体外多糖を産生するものであれば特に制限されない。このような微生物としては、例えばリポマイセス リポフェラス(Lipomyces lipoferus)(現在はワルトマイセス リポファー(Waltomyces lipofer)として分類されている)、リポマイセス コノネンコアーエ(Lipomyces kononenkoae)、リポマイセス テトラスポルス(Lipomyces tetrasporus)等が挙げられる。これらの微生物は、多くの菌株保存機関に保存されており、また土壌から容易に分離することができるので、容易に入手することができる。以下に、これらの寄託菌株を例示する。
【0011】
リポマイセス スタルキー CBS 1807
リポマイセス スタルキー CBS 1809
リポマイセス スタルキー CBS 2516
リポマイセス スタルキー IFO 10381
リポマイセス コノネンコアーエ CBS 2514
リポマイセス コノネンコアーエ CBS 5608
リポマイセス テトラスポルス CBS 1810
リポマイセス テトラスポルス CBS 2511
リポマイセス テトラスポルス CBS 5910
リポマイセス リポフェラス CBS 944
リポマイセス リポフェラス CBS 5841
リポマイセス リポフェラス CBS 5842
【0012】
リポマイセス スタルキーの産生する菌体外多糖は、マンノース、グルクロン酸、ガラクトース、及びマンノースとグルクロン酸を1:2のモル比で含むトリサッカライドを含み、一方リポマイセス リポフェラスの産生する菌体外多糖は、マンノースとグルクロン酸を含むことが報告されている(M.E.Slodki et al.,J.Gen.Microbiol.(1966,42,381−385))。尚、本発明者らの分析では、リポマイセス スタルキーの産生する菌体外多糖は、マンノース、ガラクトース、グルクロン酸、及び少量のグルコースであり、その構成比は2:2:1:微量となっている(特開平5−311169号公報)。
【0013】
このように、リポマイセス属に属する微生物でも種によって産生する菌体外多糖が異なり、一種の分類法として提唱されている(M.E.Slodki et al., J.Gen.Microbiol.(1966,42,381−385))が、リポマイセス スタルキー以外のリポマイセス属酵母の産生する菌体外多糖を土壌改良剤として有効に利用できることを否定する積極的な根拠はない。また、菌体外多糖を生産する理由として、土壌中という生育にとって厳しい環境の中で、多糖により土壌を団粒化させ、水分、pH、空気量などを維持、調節し、自らが住み易い環境を作り出すためであるという仮説もあり(特開平5−311169号公報)、リポマイセス スタルキー以外のリポマイセス属酵母の産生する菌体外多糖を土壌改良剤として利用できることを支持している。
【0014】
以下に、子嚢形成率を指標として菌体外多糖高生産株を育種する方法の1例を説明する。先ず、リポマイセス属微生物の土壌分離菌あるいは保存菌株等を親株とし、これを培養して子嚢を形成させる。この子嚢から単胞子を分離し、得られた単胞子を平板培地に接種し発芽生育させてコロニーを形成させ、さらに子嚢を形成させて子嚢形成率を調べ、子嚢形成率(全栄養細胞数に対する胞子嚢を形成した栄養細胞数の比)の低い株を選択する。選択された株の子嚢から再び単胞子を分離する。以上の操作を繰り返すことにより、子嚢を殆どあるいは全く形成しなくなった株が得られる。この際、単胞子からコロニーを形成させるには生育のよい培地(例えば後述のYM培地等)を用い、子嚢を形成させるには前記コロニーから子嚢形成性のよい培地(例えば後述のコーン・ミール培地等)に菌体を移して培養するとよい。
【0015】
単胞子の分離は、例えば以下のようにして行うことができる。リポマイセス属に属する微生物をYM培地等の平板培地で前培養(22℃、5日)し、これをコーンミール培地(CM培地)等の平板培地に接種して胞子を形成させる。菌体を、平板培地上に滴下した殺菌水に懸濁し、平板上に懸濁液を広げる。胞子懸濁液が乾いた後に、ミクロマニピュレータシステムを用いて、ガラス針で胞子を単離する。
【0016】
上記のようにして得られる子嚢形成率の低下した株は、実際に菌体外多糖を効率よく生産することを確認しておくことが好ましい。菌体外多糖の生産性は次のようにして調べることができる。単胞子分離を繰り返して得られた株を適当な培地で培養する。培養液を遠心分離し、上清を0.01M酢酸で洗浄し短冊状に切断した濾紙(例えば東洋濾紙 No.50)にスポットし、エチル酢酸:酢酸:ピリジン:水(5:1:5:3 V/V)混合液で3〜5時間展開させる。この濾紙を風乾し、多糖部分(出発点の前後約1cm)を切り取って試験管に入れ、蒸留水1mLを添加する。試験管をタワーミキサーを用いて4〜6時間撹拌し、フィルター(0.45μm)を通して繊維を除去する。濾液100μLを試験管に取り、2.5%フェノール液2mLを添加し、ビューレットで一定の高さから濃硫酸5mLを加える。10分間放置した後、よく混合し、更に30℃で15分冷却し、撹拌せずに490nmで吸光度を測定する。
【0017】
菌体外多糖を高効率で生産するリポマイセス属に属する微生物は、上記のように、子嚢形成率の低い株を継代的に選択する方法の他、リポマイセス属に属する微生物を突然変異処理し、子嚢形成率の低い株を選択することによっても得られる。
【0018】
なお、本発明において菌体外多糖高生産株を育種する際に、子嚢形成率が親株に比べて低下していれば特に低下の程度に制限はないが、後述の算出方法(数1式)により子嚢形成率は5%以下であることが好ましく、実質的に子嚢を形成しなくなったものがさらに好ましい。
【0019】
後記実施例1に示すように、上記のようにして得られたリポマイセス スタルキーの実質的に子嚢を形成しない株、すなわち菌体外多糖高生産株は、リポマイセス スタルキー AJ14695と命名され、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所に、FERM P−14276の受託番号で寄託されている。
【0020】
<2>菌体外多糖の製造法
上記のようにして得られる菌体外多糖高生産株を培養し、培養液中に菌体外多糖を生成蓄積させ、この培養液から多糖を回収することによって、従来の方法よりも効率よく菌体外多糖を製造することができる。本発明の方法においては、リポマイセス属に属する微生物として菌体外多糖高生産株を用いる以外は、従来知られている方法(特開平5−311169号公報等)と同様にして菌体外多糖を製造すればよい。すなわち、菌体外多糖高生産株を適当な培地(例えば後述のCG−T培地等)で培養し、培養液を遠心分離して菌体を除去し、培養上清を濃縮した後イソプロパロールを2倍量加えて多糖の沈殿を生じさせ、遠心分離により沈殿を集めて乾燥させる。
【0021】
【実施例】
以下に、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。尚、本実施例で使用した培地に組成を以下に示す。
【0022】
【表1】
Figure 0003553128
【0023】
尚、コーンミール培地(以後、CM培地という)は、コーンミールを水と混合し、60℃で1時間加熱撹拌し、濾紙で濾過後、寒天及び水を最終量まで加え、115℃で15分オートクレーブした後、脱脂綿で濾過し、さらに115℃で15分オートクレーブすることにより調製される(van der Walt, J. P., and Yarrow, D. ”The yeasts, a taxonomic study” ed. by Kreger−van−Rij, N. J. W. North Holland, Amsterdam, P.71 (1984):)。あるいは、コーンミールを水と混合し、クリーム状にして沸騰直前の状態で1時間加熱し、チーズクロスで濾過後、寒天を溶解し、水を最終量まで加え、115℃で30分オートクレーブしてもよい(「微生物学実験法」講談社 436頁)。また、市販の培地を使用してもよい。
【0024】
【実施例1】菌体外多糖高生産株の育種
(1)単胞子分離株の取得
リポマイセス スタルキーCBS 1807株あるいはIFO 10381株から単胞子分離を行った。
【0025】
YM寒天培地に保存しておいたリポマイセス スタルキーCBS 1807株あるいはIFO 10381株をYM寒天培地で前培養(22℃ 5日)し、これをCM培地に接種して胞子形成(22℃ 21日)させた。尚、IFO 10381株はCBS 1807株から移管された株でありカタログ上は同一株であるが、以下に示すように子嚢形成率は異なっている。
【0026】
YM寒天プレート上に殺菌水を1〜2滴滴下し、ここに胞子形成させたリポマイセス スタルキーCBS 1807株あるいはIFO 10381株の菌体を懸濁した。次に培地を斜めにして懸濁液を帯状に流動させた。以上の操作は無菌的に行った。
【0027】
次に、予めミクロマニピュレータシステム(顕微鏡:OLYMPUS製 IMT−2、ジョイスティクマニピュレータ:ナリシゲ製 MN−151)を設置したアクリルフード内をSS−MACフィルターユニット(MAC−10F型 日本エアテック製)で15分以上通気して無菌的にし、上記の胞子懸濁液が乾いた後に通気しながら同プレートで複数の胞子を、ガラス針を用いて単離した。このガラス針は、硝子管(ナリシゲ製G−1)を火炎上で赤熱、伸長して作成した。
【0028】
(2)継代的単胞子分離
上記のようにして得られたリポマイセス スタルキーCBS1807株及びIFO 10381株の単胞子分離株から胞子を形成させ、再び単胞子分離株を得る手段を繰り返し(以後この操作を「継代的単胞子分離」と呼ぶ)、その結果として子嚢形成能に変化が現れるかを調べた。
【0029】
継代的単胞子分離は次のようにして行った(図1参照)。YM寒天培地を用いて22℃で4日培養した単胞子分離株をCM寒天培地に接種し、22℃で21日培養して胞子形成させた。ここで前記と同様にしてYM寒天培地上で単胞子分離を行い、分離された胞子10個をYM寒天プレート上に接種した。22℃で10日培養して得られたコロニーから3コロニーを無作為に選択し、これらのコロニーから菌体を一白金耳づつ取り、直径約2cmの円状となるように1枚のCM寒天培地に接種し、22℃で21日培養した後、子嚢形成率を下記式により算出した。ここで、栄養細胞と分離した子嚢は、母体となった栄養細胞が存在していたと考えて計数した。
【0030】
尚、子嚢と母細胞の分離を極力避けるために、菌体の懸濁は慎重に行った。
【0031】
【数1】
子嚢形成率 = ( 子嚢を形成した栄養細胞数 / 全栄養細胞数 )×100
【0032】
上記操作を繰り返すことにより、継代的単胞子分離を行った。この際、子嚢形成率のさらに低い菌株(低率株)を作為的に選抜して継代を行う系と、その反対に子嚢形成率のさらに高い菌株(高率株)を作為的に選抜して継代を行う系とに分けて行った。CBS 1807株及びIFO 10381株を親株とした子嚢形成率の変化を図2に示した。
【0033】
継代を繰り返して得られた低率株と高率株および親株を接種菌として、「エタノール培地」(van der Walt, J. P., and Yarrow, D. ”The yeasts, a taxonomic study” ed. by Kreger−van−Rij, N. J. W. North Holland, Amsterdam, P.71(1984))、YM寒天培地、1/10濃度のYM寒天培地と比較対象としたCM培地で、それぞれ22℃で21日培養して子嚢形成率を算出した結果を表2に示す。尚、表2中の系列は、図2中の系列を表す。
【0034】
【表2】
Figure 0003553128
【0035】
図2から明らかなように、CBS 1807株及びIFO 10381株のいずれにおいても低率株を選択的に取得し続けると、子嚢をほとんど作らない菌株が得られた。しかし、高率株を取得し続けた場合には、ある程度の向上はみられるものの、栄養細胞の大部分が子嚢を作る程度にまでは向上しなかった。IFO 10381の由来はCBS 1807であるが、それぞれを親株としてCM培地で子嚢形成させると、両者の子嚢形成率に10%内外の差が見られた。そしてそれぞれから高率株を求めたところ、D系列(CBS 1807)とE系列(IFO 10381)に見られるようにさらに大きな差が生じた(図2)。
【0036】
また、表2に示したように、継代化によって子嚢形成率が極端に低くなった菌株を、エタノール培地、YM培地、及び1/10YM寒天培地に接種しても子嚢形成は認められなかった。一方CM培地で子嚢を良く作る菌株はYM培地、1/10YM培地等でも子嚢を作ることが分かった。しかし、エタノール培地ではどの菌株も子嚢は形成しなかった。
【0037】
リポマイセス スタルキーCBS 1807株を共通の親株とする低率株(A系列10代目)と高率株(D系列14代目)をYM寒天培地に22℃で21日培養した菌体を顕微鏡観察した。その結果、子嚢をほとんど作らない菌株は、高率株に比べて脂肪球は極めて小さく、菌体のサイズもやや小さかった。
【0038】
(3)継代的単胞子分離株の子嚢形成率と菌体外多糖生産量との関連性
継代的単胞子分離に平行して各々の分離株について、菌体外多糖の生産性をプレート上での観察により評価した。YM寒天培地に22℃で4日培養した親株と低率株および高率株の菌体を、3区画に分けた1枚のYM寒天培地およびCM寒天培地の各プレートにそれぞれ1白金耳ずつ接種した。YM寒天培地では接種後22℃で7日培養したコロニーの状態、CM寒天培地では接種後22℃で21日培養したコロニーの状態を観察した結果、一般に、CM培地上で子嚢形成率が高い菌株(CM培地上では多くの栄養細胞が子嚢を形成した結果、コロニーが茶色く観察された)ほどドライなコロニーを形成することがわかり、見掛上菌体外多糖の生成量は少なかった。同様に、YM培地上でも子嚢形成率が低いほど菌体外多糖の生成量が多く観察された。
【0039】
一方、親株(IFO 10381)と低率株(F系列10代目)及び高率株(E系列0代目)を液体培地中にて培養したときの菌体外多糖の生産量を測定した。培養は、500mL容振盪フラスコに100mLのCG−T培地を分注して加熱殺菌した後、YM寒天培地上に28℃で4日間培養して得た菌体を一白金耳量接種し、29.5℃にて200時間、120rpmで振盪することにより行った。
【0040】
培養液を遠心分離し、上清を0.01M酢酸で洗浄し短冊状に切断した濾紙(例えば東洋濾紙 No.50)にスポットし、エチル酢酸:酢酸:ピリジン:水(5:1:5:3 V/V)混合液で3〜5時間展開させた。この濾紙を風乾し、多糖部分(出発点の前後約1cm)を切り取って試験管に入れ、蒸留水1mLを添加した。試験管をタワーミキサーを用いて4〜6時間撹拌し、フィルター(0.45μm)を通して繊維を除去した。濾液100μLを試験管に取り、2.5%フェノール液2mLを添加し、ビューレットで一定の高さから濃硫酸5mLを加えた。10分間放置した後、よく混合し、更に30℃で15分冷却し、撹拌せずに490nmで吸光度を測定した。このようにして測定された菌体外多糖の生産量を表3に示す。
【0041】
【表3】
Figure 0003553128
【0042】
表3に示すように、継代的単胞子分離株の子嚢形成率の低下に伴い、菌体外多糖生産量の向上が認められた。
こうして得られたリポマイセス スタルキーの低率株すなわち菌体外多糖高生産株はリポマイセス スタルキー AJ14695と命名され、通商産業省工業技術院生命工学工業技術研究所に、FERM P−14276の受託番号で寄託されている。
【0043】
【実施例2】菌体外多糖高生産株を用いた菌体外多糖の製造
リポマイセス属酵母の培養液には、菌体外多糖の他に、培地の成分であるMg2+、NH のようなイオン類、培養途中で死滅した菌体から出た中性脂肪やリン脂質などの脂質類、酵素などの可溶性蛋白質、不溶性の酵母細胞破片などが多く含まれている。本実施例では、遠心分離、透析、アルコール沈澱など多糖類の分離精製によく用いられる簡単な操作を利用して、これらの夾雑物を除去し、培養液から菌体外多糖を分離、精製した。
【0044】
(1)菌体外多糖の分離精製
実施例1で得たリポマイセス スタルキー AJ14695株を、本発明者らが開発したCG−T培地(表1)を用いて約140時間振盪培養した(29.5℃、120rpm)。
【0045】
上記で得られた培養液から、次のようにして菌体外多糖を分離精製した。培養液を3000×gで10分遠心分離(HITACHI 20PR−52D Automatic High Speed Refrigerated Centrifuge)し、上清を回収した。菌体を除いた培養液(菌体外多糖を15.8g/L含む)上清1Lに10gのセライト(celite)を添加し、充分に撹拌した後、3000×gで遠心分離を行い、得られた上清をさらに濾紙(東洋濾紙No.2)で吸引濾過した。濾液をフラッシュエバポレータ(TOKYORIKA Thin Film Flash Everporater MF−5)を用いておよそ10倍に濃縮した。
【0046】
濃縮液を、セロファンチューブ30/32(和光純薬工業株式会社)に入れ、流水に対して12時間透析した後、更に脱イオン水と蒸留水に対して各々12時間の透析を行った。透析液をイソプロパノールと1:2(V/V)の割合で混合し、Ca2+を0.0006mol/Lとなるように添加して氷で冷却した後、3000×gで10分間4℃で遠心分離し、沈澱を集めた。
【0047】
沈殿を少量の蒸留水に溶解し、ナス型フラスコに分注し、約40時間凍結乾燥機(YAMATO FreezeDryer M−DC3 5)で凍結乾燥を行った。こうして分離、精製された菌体外多糖の収量は、10.5gであった。
【0048】
(2)菌体外多糖の分析
上記のようにして精製された多糖類を蒸留水に溶解して50mLとした後、この溶液と培養液のK、Mg2+及びNH−Nの濃度を測定し、精製の程度を調べた。K及びMg2+の濃度の測定は、原子吸光・炎光分光光度計を用いて行った。NH−Nの濃度の測定は、市販のキット(Ammonia−Test(藤井・奥田法変法)キット:和光純薬株式会社製)を用いて行った。結果を表4に示す。さらに、精製された多糖類を濃硫酸で加水分解し、Semimicro Kjeldahl法(「京都大学農学部農芸化学科農芸化学実験書」(1967)131〜135頁(産業図書))でタンパク質の含量を調べた結果、0.3%であった。
【0049】
【表4】
Figure 0003553128
【0050】
この結果に示されるように、上記の分離、精製処理において、培養液へのセライトの添加と遠心分離により、培養液中の不溶物が除かれ、さらに透析することによって培地中の塩類、低分子の糖、アミノ酸、色素等を除くことができた。また、イソプロピルアルコールを用いた沈殿法により、残存する可溶性物質及び脂質を除去することができた。
【0051】
【発明の効果】
本発明により、菌体外多糖を高効率で生産するリポマイセス属酵母が得られる。また、本発明により得られる菌体外多糖高生産株を用いることにより、土壌改良剤等として有用な多糖を効率よく製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】継代的単胞子分離の概念図。
【図2】リポマイセス スタルキー CBS 1807株及びIFO 10381株の継代的単胞子分離における子嚢形成率の変化を示す図。

Claims (6)

  1. リポマイセス属に属する微生物から子嚢形成率の低い株を選択することを特徴とするリポマイセス属菌体外多糖高生産株の育種法。
  2. 請求項1において、
    (a)リポマイセス属に属する微生物の子嚢から単胞子を分離し、
    (b)分離した単胞子を発芽生育させて子嚢を形成させ、
    (c)子嚢形成率の低い株を選択してその株から単胞子を分離し、
    上記(b)及び(c)を繰り返すことによって子嚢形成率の低い株を選択することを特徴とする菌体外多糖高生産株の育種法。
  3. リポマイセス属に属する微生物が、リポマイセス スタルキーであることを特徴とする請求項1又は2記載の方法。
  4. 実質的に子嚢を形成しないリポマイセス スタルキー AJ14695(FERM P−14276)株。
  5. リポマイセス属に属する微生物を培養し、培養液中に菌体外多糖を生成蓄積させ、この培養液から多糖を回収することによってリポマイセス属に属する微生物の産生する菌体外多糖類を製造する方法において、
    前記リポマイセスに属する微生物は、請求項1〜3記載の方法により選択された菌体外多糖高生産株であることを特徴とする方法。
  6. 前記菌体外多糖高生産株が、リポマイセス スタルキー AJ14695(FERM P−14276)株であることを特徴とする請求項5記載の方法。
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