JP3549854B2 - 断熱容器 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、断熱容器及びその製造方法に係わり、特に薄肉で保形性に優れ、所望の部位に断熱性、強度を備えた断熱容器及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
発泡剤含む層構造を有するパルプモールド成形体に関する従来技術としては、例えば、特開平10−96200号公報に記載のものが知られている。この技術では、発泡剤を含む湿潤状態のパルプモールド成形体を所定のクリアランスを有する乾燥型内に配置し、該発泡剤の発泡により該クリアランスを充填させるようにしたものである。
【0003】
しかしながら、この成形体は、表面の平滑性が改善されたものではあるが、熱膨張性マイクロカプセル型の発泡剤を含有するパルプスラリーから成形して得られる緩衝材であるため、印刷適性を有しておらず、また表面は、表面強度(引っ掻き強度)が小さく、紙粉等が発生しやすく、樹脂フィルム層を密着させ得る程の平滑性は有していない。このため、飲食品用の容器、特に、インスタントカップ麺等の容器のように熱湯を注いで使用する容器等には不向きである。
【0004】
紙製の断熱容器に関する他の従来技術として、実用新案登録第3065471号の容器が知られている。この技術の容器は、容器本体の外側にリブを有する外装材を嵌合し、該リブと容器本体との隙間によって容器に断熱性を付与したものである。
【0005】
しかしながら、この容器は、該隙間によって断熱性を付与しているが、容器本体と外装容器との接着箇所が限られるため、これらの一体性が十分に得られず、保形性に劣るものであった。特に、熱湯を注いで使用すると熱湯の熱や重さで紙製の容器本体自体が変形し易くなるため、容器本体自体を肉厚で強固なものとせざるを得ず、その分重量も増えてしまい、この種の容器には不向きであった。
【0006】
一方、断熱容器においては、容器の形状等に応じて必要な部位に断熱性、強度を付与することが望まれていた。
【0007】
従って、本発明の目的は、薄肉で保形性に優れ、所定の部位に断熱性、強度を備えた断熱容器及びその製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明は、パルプを主体として抄造された内パルプ層及び外パルプ層を備えているとともに該内パルプ層及び該外パルプ層の間に発泡剤層を備えている断熱容器であって、前記発泡剤層の発泡剤の発泡倍率に応じて全層厚み及び全層密度が異なる部位を胴部に有しており、前記全層厚み及び全層密度が前記胴部の上下方向において異なる断熱容器を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0009】
また、本発明は、パルプを主体として抄造された内パルプ層及び外パルプ層を備えているとともに該内パルプ層及び該外パルプ層の間に発泡剤層を備えている断熱容器の製造方法であって、前記内パルプ層及び前記外パルプ層を個別に抄造し、該内パルプ層の外表面を発泡剤で被覆した後に、該発泡剤が該内パルプ層と該外パルプ層との間に位置するように該外パルプ層及び内パルプ層を重ね合わせて乾燥し、前記発泡剤を発泡させる断熱容器の製造方法を提供することにより、前記目的を達成したものである。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。図1は、本発明の断熱容器の一実施形態によるインスタントカップ麺用の断熱容器を示したものである。同図において、符号1は断熱容器を示している。
【0011】
図1に示すように、断熱容器1は、パルプを主体として抄造された内パルプ層2及び外パルプ層3を備えているとともに、内パルプ層2及び外パルプ層3の間に発泡剤層4を備えている。断熱容器1は、発泡剤層4の発泡剤の発泡倍率に応じて全層厚み(以下、厚みという場合には、いずれも乾燥後の厚みをいい、後述の実施例の測定方法で測定された値をいう。)及び全層密度が異なる部位を胴部10に有しており、該全層厚み及び全層密度が該胴部の上下方向において異なっている。
【0012】
断熱容器1は、段差10a,10bを境としてその胴部10の全層厚み及び全層密度が異なっており、胴部10の下方進むにつれて全層厚みが厚くなるとともに全層密度が低くなっている。段差10aは、お湯の注入目安を示すもの(入れ目線)であり、段差10bは、空の状態の当該断熱容器を積み重ねる際の段差(スタック用段差)である。このように、開口部に近い部分では発泡剤を高密度化させて強度を高め、また、把持部となる胴部10の中央部分から底部にかけては発泡剤を低密度化させて高い断熱性を付与できるようになっている。胴部10の全層厚みの変化に伴う段差10a,10bは、内パルプ層3に形成されている。このように胴部10の全層厚みの変化に伴う段差10a,10bを前記内パルプ層3に形成することで、容器1の外表面11となる外パルプ層3の表面をフラットに形成することができ、良好な印刷適性が得られるようになしてある。
【0013】
内パルプ層2及び外パルプ層3の密度は、表面平滑性、表面強度、圧縮強度、防水性、保形性、スタック時の紙粉発生防止の点、内容物を充填したり、断熱容器を重ねた際のクッション性の点において、0.2〜1.5g/cm3であることが好ましく、0.4〜1.0g/cm3であることがより好ましい。
断熱容器1は、圧縮強度、スタック強度、把持強度等の保形性能を主に外パルプ層3に持たせる点において、外パルプ層3の密度が内パルプ層2の密度よりも高くなしてあることが好ましい。
【0014】
断熱容器1は、薄肉の容器にする観点から、特に、断熱性を必要とする部位における全層厚み(例えば、図1における厚みT2)が0.8〜5mmであることが好ましく、1.3〜5mmであることがより好ましく、1.6〜4mmであることが最も好ましい。また、抄紙時の安定性、保形性、薄肉軽量で圧縮強度を持たせる、抄紙又は乾燥時間の短縮等の点から、内パルプ層の厚みが0.2〜1mmであることが好ましく、0.4〜1mmであることがより好ましく、0.5〜1mmであることが最も好ましい。また、内パルプ層と同様の点において、外パルプ層の厚みが、0.2〜1mmであることが好ましく、0.4〜1mmであることがより好ましく、0.5〜1mmであることが最も好ましい。
【0015】
断熱容器1において、内パルプ層2における、少なくとも断熱容器1の内面になる部分の表面平滑性は、後述する樹脂フィルムとの密着性、樹脂フィルムのピンホール発生防止等の点において、下記実施例の方法で測定された中心線平均粗さRa及び最大高さRmaxにおいて、Raが1〜20μm(JIS B 0601に準拠して測定された値。以下同じ。)、Rmaxが100μm以下(JIS B0601に準拠して測定された値。以下同じ。)であることが好ましく、Raが2〜10μm、Rmaxが80μm以下であることがより好ましい。
【0016】
断熱容器1において、外パルプ層3における、少なくとも断熱容器1の外面となる部分の表面平滑性は、印刷適性を良好にする等の点において、下記実施例の方法で測定された中心線平均粗さRa及び最大高さRmaxにおいて、Raが1〜8μm、Rmaxが60μm以下であることが好ましく、Raが2〜6μm、Rmaxが50μm以下であることが好ましい。これに対し、外パルプ層3における発泡剤層4と接する部分は、外パルプ層3と発泡剤層4との接触面積を大きくして両者の接合強度を高める観点から、抄造時におけるネットの目を粗くして抄造し、表面を比較的粗く仕上げることが好ましい。
【0017】
内パルプ層2及び外パルプ層3は、パルプを主体として抄造されたものであり、パルプ繊維のみからなるものでもよく、また、パルプ繊維に、タルクやカオリナイト等の無機物、ガラス繊維やカーボン繊維等の無機繊維、ポリオレフィン等の熱可塑性合成樹脂の粉末又は繊維、非木材又は植物質繊維、多糖類等の他の成分を含有させることもできる。これら他の成分の配合量は、パルプ繊維及び該他の成分の合計量に対して1〜70重量%、特に5〜50重量%であることが好ましい。また、内パルプ層2及び外パルプ層3には、その抄造時において適宜添加された繊維の分散剤、成形助剤、着色顔料、着色助剤等を含んでいても良い。
【0018】
発泡剤層4は、発泡剤を主体として形成することが好ましく、発泡剤のみからなるものがさらに好ましい。
発泡剤層を発泡剤のみで形成する場合には、特に容器の軽量化を図ることができるほか、スタック用の段差を精度良く形成することができる。また、乾燥時において、湿潤状態の内パルプ層が雄型側に集中的に配設されることとなり、発泡した発泡剤によって湿潤状態の内パルプ層を雄型に押圧させて乾燥できるので、乾燥効率を高めることができる。さらに、発泡剤層が蒸気の通気路の役目を果たすため、内パルプ層の乾燥ムラが少なく、短時間で効率よく乾燥することができる。
【0019】
発泡剤層に用いられる発泡剤としては、マイクロカプセル型発泡剤、発泡性樹脂、炭酸水素ナトリウム等の無機系発泡剤等の発泡剤が好ましく用いられ、これらの中でも、発泡倍率を高くでき、取り扱い性に優れる等の点において、マイクロカプセル型発泡剤が好ましく、特に、内容物がブタン、ペンタン等で、外皮が塩化ビニリデン、アクリロニトリル等のものが好ましく用いられる。
【0020】
また発泡剤層には、パルプ繊維、タルクやカオリナイト等の無機物、ガラス繊維やカーボン繊維等の無機繊維、ポリオレフィン等の熱可塑性合成樹脂の粉末又は繊維、非木材又は植物質繊維、多糖類等の他の成分を含有していてもよい。
また、発泡剤に上記他の成分を含有させる場合には発泡剤がこれらの成分に絡み合うことで少ない発泡剤で断熱性を得ることができるとともに、各成分の特性を持たせることができる。特に、パルプ繊維を含有させた場合には、圧縮強度、把持強度に優れた低コストのものとすることができる。これら他の成分の配合量は、発泡剤層の密度が高くなり、断熱性を低下させたり、容器重さを増大させなたりしないように適宜設定する。
【0021】
発泡剤層は、強度的には容器の胴部及び底部に隙間なく形成されていることが好ましいが、容器の内面に、例えば後述のような真空成形(スキンパック)によって樹脂フィルムを配する場合における通気性(樹脂フィルムの吸引性)の点からは、胴部及び底部に部分的に形成されていることが好ましい。
発泡剤層の密度及び分布は、容器強度、断熱性、樹脂フィルムを真空成形で配する際の通気性を考慮して適宜調整することができる。
【0022】
断熱容器1は、前記発泡剤層4が内・外パルプ層2,3の間に形成されており、所定の断熱性能を有するものである。具体的には、下記実施例の方法により測定された温度差の値が20〜40℃、表面温度が50〜65℃であることが好ましく、温度差の値が25〜35℃、表面温度が55〜60℃であることがより好ましい。
【0023】
断熱容器1は、その開口部12の周縁に発泡剤層4を介さずに内パルプ層2及び外パルプ層3が接合されたフランジ部23を備えている。このように、発泡剤層4を介さず内パルプ層2及び外パルプ層3を接合することで、フランジ部23を薄肉で強固にできるとともに、その後の加工を容易に行えるようになしてある。また、フランジ部23に発泡剤が存在しないので、発泡剤を誤咽する心配もない。
【0024】
断熱容器1は、前記内パルプ層2の内面及びフランジ部23の接合端部を覆う樹脂フィルム層5を備えている。樹脂フィルム層5は、容器に耐水性(防漏性)、ガスバリア性等を付与するためのものである。従って、樹脂フィルム層5に用いられる樹脂フィルムは、その機能を付与できるものであれば、特にその材質、厚さ等に制限はないが、例えば、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂、ナイロン等のポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル等のポリビニル系樹脂、ポリスチレン等のスチレン系樹脂等の熱可塑性樹脂が用いられ、これらの中でもフィルム製造コスト、成形性等の点においてポリオレフィン系樹脂が特に好ましく用いられる。また、樹脂フィルム層5は単層・多層のいずれの層構造を有するものであってもよい。
【0025】
断熱容器1は、フランジ部23の裏面までが樹脂フィルム層5で覆われている。これにより、内・外パルプ層2,3の接合端であるフランジ23の接合端部からの浸水を防ぐことができるほか、該接合端部からの容器の損傷を防ぐことができるようになっている。また、容器1に口を付けた際のフランジ23の口当たりが良好にできるようになっている。
【0026】
断熱容器1においては、内・外パルプ層2,3と発泡剤層4とは、内パルプ層2と発泡剤層4との境界においてはパルプと発泡剤とが混在する混合層が形成され、該混合層によって両者が強固に一体化されており、外パルプ層3と発泡剤層4の境界では発泡剤の融着により一体化されている。内パルプ層2と発泡剤層4とが強固に一体化されることによって、熱湯などを注ぎ入れた場合にも高い断熱性及び保形性が得られるようになっている。
【0027】
本実施形態の断熱容器1は、内・外パルプ層2,3の間に発泡剤層4が形成されて一体化されているため、薄型で、断熱性に優れるほか、機械的強度(圧縮強度)に優れている。
【0028】
また、断熱容器1は、表面が平滑であり、内表面及び外表面に接合部等がないため、印刷適性が良好であるほか、樹脂フィルムの密着性も良好である。
【0029】
さらに、発泡剤の発泡倍率に応じて前記全層厚み及び全層密度が該胴部の上下方向において異なり、断熱性をあまり必要としないフランジ23近傍では発泡倍率を抑えて強度を高くしてあり、断熱性を必要とする胴部中央から底部までにかけては発泡倍率を高くして断熱性を高くしてあり、必要な箇所に断熱性・強度を有する優れた容器である。
【0030】
またさらに、内パルプ層2と発泡剤層4との境界においてはパルプと発泡剤とが混在する混合層が形成され、該混合層によって両者が強固に一体化されており、外パルプ層3と発泡剤層4の境界では発泡剤の融着により一体化されているので、内パルプ層2、外パルプ層3及び発泡剤層4が強固に一体化され、熱湯などを注ぎ入れた場合にも高い断熱性及び保形性が得られるとともに、把持等によって容器が変形を受けても、各層が剥離し難い優れた容器である。
【0031】
加えて、雄型のクリアランスを変化させて発泡剤の発泡倍率を制御することにより、入れ目線、スタック用段差等の機能形状や、文字やロゴ等の加飾形状を容易且つ自由に付与することができる容器である。
【0032】
次に、本発明の断熱容器の製造方法を、その好ましい実施形態として、上述の断熱容器1の製造方法に基づき、図面を参照しながら説明する。
【0033】
断熱容器1の製造方法においては、先ず、内パルプ層及び外パルプ層を個別に抄造する。各パルプ層は、雄型と雌型とからなる一組の製造型を用いて抄造することができる。雄型には、例えば、下側に凸でその外面に所望形状を有するとともに該外面に通じる気液流通路を内部に有する抄紙部と、該抄紙部を被覆する所定の目開き及び線径を有する樹脂製のネットとを備えたものを用いる。
【0034】
この抄紙の際に用いられる雄型の抄紙部は、耐熱・耐食性のゴム等の弾性体で形成されている。このように弾性体で形成された抄紙部を備えた型を用いることで、複雑な表面形状や、深い絞り部分を有する成形体を成形することができる。一方、雌型には、該雄型の抄紙部に対応した内面形状を有する凹状の金属製の型を用いる。また、脱水の他、乾燥も行える点から雌型には加熱手段を備えたものを用いる。
【0035】
内パルプ層2及び外パルプ層3は、例えば、図2(a)及び(c)に示すように、各パルプ層に対応するスラリーを湛えた、プールP3内に雄型30を、プールP2内に雄型20を浸漬した後、前記気液流通路(図示せず)を通じて該スラリーを吸引し、前記ネット(図示せず)でパルプ繊維を抄紙することによって、各雄型のネットの外表面に湿潤状態で抄造される。
【0036】
各パルプ層の形成に用いられるスラリーは、パルプ繊維と水のみからなるものが好ましく用いられる。また、パルプ繊維と水に加えてタルクやカオリナイト等の無機物、ガラス繊維やカーボン繊維等の無機繊維、ポリオレフィン等の熱可塑性合成樹脂の粉末又は繊維、非木材又は植物質繊維、多糖類等の成分を含有していてもよい。これらの成分の配合量は、パルプ繊維及び該成分の合計量に対して1〜70重量%、特に5〜50重量%であることが好ましい。また、スラリーには、パルプ繊維の分散剤、成形助剤、着色料、着色助剤等を適宜添加することができる。また、前記スラリーには、サイズ剤、顔料、定着剤等を適宜添加することができる。特に、サイズ剤を添加することにより、所定の含水率まで乾燥させた外パルプ層と、湿潤状態の内パルプ層とを一体化させる場合に、外パルプ層に内パルプ層の水分を吸収させることを防止することができ、外パルプ層の外表面にしみ等の外観不良が発生することを防止することができる。
【0037】
外パルプ層3は、発泡剤を効率よく発泡させて発泡剤層4を形成できる観点から、内パルプ層と重ね合わせる前に予め乾燥させて高密度化させる。具体的には、所定時間の抄紙後、雄型30をスラリーから引き上げ、図2(b)に示すように、雄型30に対応する金属製の雌型31に突き合わせる。雌型31は、外パルプ層3の外表面に後を残さないように、内面に排気孔を有していないものを用いることが好ましいが、乾燥時間の短縮を望む場合には排気孔を有するものを用いることもできる。
【0038】
そして、雄型30の抄紙部で湿潤状態の外パルプ層3を押圧して脱水を行い、さらに雌型31をその加熱手段(図示せず)で加熱し、外パルプ層3を乾燥して高密度化させる。外パルプ層3の脱水・乾燥時には、雄型30の前記気液通路を通じて外パルプ層3の水分(水及び蒸気)を吸引し、外部に排水する。
【0039】
外パルプ層3の脱水・乾燥時における押圧力は、脱水効率を高めて高密度化を図る観点から、0.2〜3MPaであることが好ましく、0.3〜1.5MPaであることがより好ましい。また、外パルプ層3の乾燥時における金型温度(雌型31の温度)は、乾燥による焦げ防止、乾燥効率等の点において、150〜230℃であることが好ましく、170〜220℃であることがより好ましい。外パルプ層3の脱水・乾燥後、外パルプ層3を雄型30から雌型31に受け渡す。受け渡し完了後は、雄型30は退避させる。
【0040】
上述のように外パルプ層3を高密度化等する一方で、内パルプ層2の外表面を発泡剤で被覆する。発泡剤による被覆は、例えば、図2(d)に示すように、発泡剤を含む液(発泡剤の分散液又は溶解液)を湛えたプールPに内パルプ層2を抄紙した雄型20を浸漬して該液を内パルプ層2の外表面に含浸させることによって行うことができる。
【0041】
発泡剤を被覆する前の内パルプ層2の含水率は、発泡剤とパルプ繊維とが絡み合って混合層が形成されやすくできる点から90〜60%であることが好ましく、85〜70%であることがより好ましい。
【0042】
このように抄造後の湿潤状態の内パルプ層2の外表面に発泡剤を含む液を含浸させることで、内パルプ層の外表面のパルプ繊維に発泡剤が絡み合うように付着する。そして、その後に発泡剤を発泡させたときに両者が混在した混合層が形成され、該混合層によって内パルプ層2と発泡剤層4とが強固に一体化される。内パルプ層2の外表面に発泡剤を付着させる際には、必要に応じて雄型20の気液流通路を通じて負圧吸引することもでき、これによりパルプ繊維と発泡剤との絡み具合を調整することもできる。
【0043】
発泡剤には、加熱発泡によるパルプ層のパルプ繊維の焦げ等を抑える等の点から、発泡温度が100〜190℃のものが好ましく、110〜160℃のものがより好ましい。このような発泡温度や、水又はスラリーへの分散性等を備えた発泡剤としては、マイクロカプセル型発泡剤、発泡性樹脂等が挙げられ、これらの中でも特に発泡倍率、取り扱い性等の点でマイクロカプセル型発泡剤が好ましく用いられる。マイクロカプセル型発泡剤には、例えば、内容物がブタン、ペンタン等で、外皮が塩化ビニリデン、アクリロニトリル等のマイクロカプセル型発泡剤等が好ましく用いられる。
【0044】
発泡剤の量は、発泡剤層を前記所定の密度、厚みにする点、製造コストの点等から、断熱容器の全重量に対する配合割合が、1〜20重量%であることが好ましく、3〜10重量%であることがより好ましい。
【0045】
次に、発泡剤層が内パルプ層2と外パルプ層3との間に位置するように内パルプ層2及び外パルプ層3を重ね合わせる。すなわち、図2(e)に示すように、雌型31内に配置された脱水・乾燥後の外パルプ層3の上方より、発泡剤を含浸させた内パルプ層2を重ね合わせる。この際、内パルプ層2は雄型20からは脱型せず、雄型20をそのまま雌型31に突き合わせる。そして、雄型20の抄紙部で湿潤状態の内パルプ層2を押圧して脱水を行いつつ内パルプ層2及び外パルプ層3を密着させる。その後、雄型21内の気液流通路を通じて圧縮空気をパージし、内パルプ層2を雄型20から雌型31に受け渡す。内パルプ層3を受け渡した後、雄型20は退避させる。
【0046】
次に、図2(f)に示すように、前記断熱容器1の段差10a,10bを境とする全層厚み変化に対応する所定のクリアランスCを有する金属製の雄型21を配置して雌型31と突き合わせて押圧する。このようなクリアランスCを有している金型を用いることで、テーパーの小さい深い形状の容器を成形する場合にも、内パルプ層への接触を抑えて挿入することができ、乾燥後に得られる容器の内面を平滑にすることができる。雄型21は、雄型20と同様に気液流通路(図示せず)を備えており、また、加熱手段(図示せず)を備えているものである。
そして、雄型21及び雌型31をそれぞれの加熱手段で加熱し、内パルプ層2に含浸させた発泡剤を発泡させて発泡剤層4を低密度化させるとともに、内パルプ層2と外パルプ層3とを一体化させる。
【0047】
また、乾燥時における押圧力によりフランジ部を接合して一体化する。フランジ部の接合には、接着強度を高める点において、接着剤を用いることが好ましく、特に食品容器としてデンプン等の接着剤を用いることが好ましい。
【0048】
乾燥時には、雄型21の気液流通路を通じて内パルプ層2の水分を水蒸気として外部に排出する。
【0049】
乾燥時の金型温度(雄型21及び雌型31の温度)は、発泡開始温度以上にし、且つ各パルプ層2,3に焦げが生じないようにすると共に、乾燥効率を高く維持する観点から、110〜230℃であることが好ましく、130〜180℃であることがより好ましい。
【0050】
発泡剤が所定の発泡倍率まで発泡し、内パルプ層2が所定の含水率まで乾燥されたところで加熱・乾燥を終了する。そして、雄・雌型21,31を開いて形成された断熱容器(半製品)を脱型する。
【0051】
次に、内パルプ層2の内面及び前記フランジ部23の接合端部を覆うように前記樹脂フィルム層5を形成する。樹脂フィルム層5の形成は、真空成形等の常法により行うことができる。真空成形による場合には、例えば、図3(a)に示すように、前記外パルプ層3の脱水・乾燥工程で使用した雌31(図2参照)とほぼ同寸法で真空吸引路60を及びバンドヒーター61を備えた真空成形型6を用い、該型6内に半製品の断熱容器をセットし、更に該容器の開口部を塞ぐように樹脂フィルム50をセットする。そして、樹脂フィルム50にその上方からヒーター70を備えたプラグ7を当接させて樹脂フィルム50を軟化させて型内に押し込む一方で、容器の通気性を利用して真空吸引路60を通じて容器内を真空引きし、内パルプ層3の内面に樹脂フィルム50を密着させる。
【0052】
また、図3(b)に示すように、真空成形型6におけるフランジ23下面に対向する部位62とフランジ23との間に所定のクリアランスを設けるとともに、該部位62にも真空吸引路60の吸引口を設けておくことで、樹脂フィルム層5をフランジ23の下面に至るまで密着させることができ、これにより、フランジ23の接合端部を樹脂フィルム50で確実に覆うことができるようになる。
【0053】
このように、本実施形態の断熱容器1の製造方法によれば、薄肉で保形性、断熱性能に優れた断熱容器を好適に製造することができる。
【0054】
本発明は、前記実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、変更が可能である。
例えば、前記実施形態の断熱容器1におけるように、カップ状の容器である場合には、発泡剤の発泡倍率に応じて全層厚み及び全密度が異なる部位を胴部(把持部)に形成することが好ましいが、発泡剤の発泡倍率に応じて全層厚み及び全密度が異なる部位は、容器の形状に応じて適宜設定することができ、例えば、容器の形状が皿状の容器である場合には、胴部及び底部等の他の部位に形成することができる。また、胴部にスタック用の段差を形成することが好ましいが、スタック用の段差は必要に応じて省略することもできる。
【0055】
本発明の断熱容器は、前記フランジを備えた容器の他、どんぶり状の容器、ボトル状の容器、皿状の容器、トレー容器等の各種形状の容器に適用できることはいうまでもない。また、本発明の断熱容器は、断熱性を有しており、表面に結露等が生じにくいため、冷涼な飲食品の容器としても用いることできることはいうまでもない。
【0056】
また、本発明の断熱容器は、上記実施形態の断熱容器1におけるように、フランジ部は平坦に形成することが好ましいが、平坦なフランジ部を形成した後、図4に示すように、フランジ部23に丸みを持たせることもできる。このようにフランジ部23に丸みを持たせることによって、断熱容器1に蓋材8を接着して封止する形態とした場合に、蓋材8の摘みしろを取りやすくできるほか、フランジ23の接合端部において樹脂フィルム層5と蓋材6が離れているので、当該蓋材8を剥がして開封する際に樹脂フィルム層5の剥離を防ぐことができる。
【0057】
本発明の断熱容器の製造方法は、前記製造方法において説明したように、予め外パルプ層3を乾燥させて高密度化させた後に内パルプ層2と重ね合わせて合体させることが好ましいが、外パルプ層3を予め乾燥させずに内パルプ層と重ね合わせ、その後両者を乾燥させることもできる。
【0058】
また、内パルプ層の外表面を発泡剤で被覆する方法は、上述のように発泡剤を含有する液に内パルプ層の外表面を浸漬して該液を内パルプ層の外表面に含浸させることによって行うことが好ましいが、該液をスプレー塗布などして被覆させることもできる。
【0059】
【実施例】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。
図1に示す形態の断熱容器で、下記寸法形状を有するものを下記のように作製した。
【0060】
<容器寸法形状>
高さH:110mm
開口部内径φ1:88mm
底部外径φ2:70mm
胴部上部厚みT1:0.8mm
胴部中央部厚みT2:1.5mm
胴部下部厚みT3:2.0mm
底部厚みT4:1.0mm
フランジ厚みT5:1.0mm
【0061】
<内パルプ層・外パルプ層の抄紙>
断熱容器の各内外パルプ層に対応したシリコーンゴム製の抄紙部及び該抄紙部を覆うナイロン製のネット(50メッシュ、線径100μm)を備えた雄型を、下記組成のスラリー中に浸漬させ、各パルプ層を形成した。
外パルプ層用スラリー;
パルプスラリー:(パルプ繊維(バージンパルプ:模造古紙=3:7(重量比)、パルプスラリー濃度0.5重量%)
サイズ剤(対パルプ重量比2%)
内パルプ層用スラリー;
パルプスラリー:(パルプ繊維(バージンパルプ:模造古紙=3:7(重量比)、パルプスラリー濃度0.5重量%)
サイズ剤(対パルプ重量比2%)
【0062】
<外パルプ層の脱水・乾燥条件>
外パルプ層を前記雄型に対応する雌型との間に配置し、下記条件で押圧下に脱水・乾燥した。
金型温度:160℃
押圧力:0.4MPa(180秒間)
【0063】
<内パルプ層の外表面の発泡剤による被覆>
内パルプ層を下記組成の発泡剤含有液に浸漬し、当該内パルプ層の胴部外表面に発泡剤を含浸させた。
発泡剤含有液;
発泡剤(松本油性製薬社製〔松本マイクロスフェア−F82〕:発泡温度160〜170℃)を1重量%(対成形体全重量に対する重量比5%)含有する水
【0064】
<加熱・乾燥条件>
内・外パルプ層を重ね合わせた後に、下記金型温度・押圧下で乾燥させ、発泡剤を発泡させるとともに両パルプ層を一体化させた。
金型温度:160℃
押圧荷重:11760N(60秒)
フランジ部押圧力:1.5MPa
【0065】
<樹脂フィルム層の形成>
下記の樹脂フィルムを内層が内パルプ層に接するように配置して下記の成形条件で積層した。
樹脂フィルム;
外層/内層=高密度ポリエチレン/低密度ポリエチレン
樹脂フィルム層厚み:150μm
成形条件;
真空成形機:PLAVAC−FE36PHS、三和興業(株)製
フィルム加熱方式:赤外線ヒーター(ヒーターと樹脂フィルムの間隔110mm)
フィルム加熱温度:250℃(成形機表示温度)
フィルム加熱時間:35秒
プラグ寸法:直径60mm×長さ110mm
プラグ材質:アルミニウム(表面にテフロン加工)
プラグ温度:115℃(プラグ実表面温度)
真空成形用金型:口部孔径φ88mm、底部径φ70mm、高さ110mm
真空成形用金型温度:115℃(金型内側実表面温度)
成形時間:15秒
【0066】
〔各層の厚み及び総厚みの測定〕
成形体より一部断片を切り出し、工具顕微鏡により各層の厚みを測定した。
【0067】
〔各層の密度の測定〕
前記の厚み及び切り出した断片の面積並びにその重量、成形体の全体重量、発泡剤重量に基づいて、発泡剤層と内パルプ層の密度を算定した。
【0068】
〔断熱特性の評価〕
断熱容器1に95〜100℃の熱湯を注ぎ入れ、3分後における容器内のお湯の温度、及び容器外表面の温度を接触式温度計により計測し、お湯の温度と容器外表面の温度との温度差を求めた。
【0069】
〔内面の平滑性の測定〕
表面粗さの測定にはサーフコム120A〔(株)東京精密社製〕を用い、測定条件は、カットオフ:2.5mm、測定長さ:10.00mm、フィルタ:2CR、測定倍率:500、傾斜補正:直線、極性:標準とした。
【0070】
このようにして作製された断熱容器は、全層厚みが0.8〜5mmで、薄肉で軽量なものであり、また、断熱性も良好で、熱湯を注いでも容器を直接把持でき、その際にも保形性が保たれるものであった。また、表面の平滑性が高く、中心線平均粗さRaが1〜20μm、最大高さRmaxが100μm以下であり、樹脂フィルムの密着性も良好でピンホールもなく、外表面の印刷適性も良好であった。
【0071】
【発明の効果】
本発明の断熱容器は、薄肉で保形性に優れ、所定の部位に断熱性、強度を備えたものである。また、本発明の断熱容器の製造方法は、前記効果を奏する断熱容器を好適に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の断熱容器の一実施形態を示した概略半断面図である。
【図2】本発明の断熱容器の製造工程の一部を示す概略図であり、(a)は、外パルプ層の抄紙工程を示す図、(b)は外パルプ層の脱水・乾燥工程を示す図、(c)は内パルプ層の抄紙工程を示す図、(d)は内パルプ層の外表面を発泡剤で被覆している工程を示す図、(e)は内パルプ層と外パルプ層の重ね合わせ工程を示す図、(f)は乾燥工程を示す図である。
【図3】本発明の断熱容器の製造方法における樹脂フィルム層の形成工程を示す概略図であり(a)は、真空成形機に容器をセットした状態を示す概略断面図であり、(b)は(a)のフランジ部における樹脂フィルムの密着状態を示す拡大断面図である。
【図4】本発明の断熱容器におけるフランジ部の別の形態を示す要部概略断面図である。
【符号の説明】
1 断熱容器
2 内パルプ層
3 外パルプ層
4 発泡剤層
5 樹脂フィルム層
10 胴部
Claims (8)
- パルプを主体として抄造された内パルプ層及び外パルプ層を備えているとともに該内パルプ層及び該外パルプ層の間に発泡剤層を備えている断熱容器であって、前記発泡剤層の発泡剤の発泡倍率に応じて全層厚み及び全層密度が異なる部位を胴部に有しており、前記全層厚み及び全層密度が前記胴部の上下方向において異なる断熱容器。
- 前記外パルプ層の密度が前記内パルプ層の密度よりも高くなしてある請求項1記載の断熱容器。
- 前記全層厚みの変化に伴う段差が前記内パルプ層に形成されている請求項1記載の断熱容器。
- 開口部の周縁に前記発泡剤層を介さずに前記内パルプ層及び前記外パルプ層接合されたフランジ部を備えている請求項1記載の断熱容器。
- 前記内パルプ層の内面及び前記フランジ部の接合端部を覆う樹脂フィルム層を備えている請求項1記載の断熱容器。
- パルプを主体として抄造された内パルプ層及び外パルプ層を備えているとともに該内パルプ層及び該外パルプ層の間に発泡剤層を備えている断熱容器の製造方法であって、前記内パルプ層及び前記外パルプ層を個別に抄造し、該内パルプ層の外表面を発泡剤で被覆した後に、該発泡剤が該内パルプ層と外パルプ層との間に位置するように該外パルプ層及び内パルプ層を重ね合わせて乾燥し、前記発泡剤を発泡させる断熱容器の製造方法。
- 前記発泡剤層の外側に該外パルプ層を重ね合わせる前に、予め該外パルプ層を乾燥して高密度化させる請求項6記載の断熱容器の製造方法。
- 前記発泡剤を発泡させるに際し、前記内パルプ層内に該内パルプ層の内面との間に所定のクリアランスを有する金型を配設しておき、該クリアランスを充填するように、前記発泡剤を発泡させる請求項7記載の断熱容器の製造方法。
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