JP3548519B2 - 耐水素脆化特性の優れた高強度鋼 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車用、各種産業機械用や橋梁用に使用されているボルト、ポール・パイルおよび建築、橋梁などのプレストレストコンクリート構造物の補強材として広く使われているPC鋼棒ならびに各種機械部品などの高強度鋼に関わるものであり、特に引張強さが1300MPa以上であり且つ耐水素疲労特性と耐遅れ破壊特性の優れた高強度鋼に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
自動車や各種産業機械の軽量化、高性能化あるいは橋梁の建設費削減のために、高強度ボルトのニーズが高まっている。高強度ボルトは、例えばJIS G 4105で規定されているSCM435やSCM440などの低合金鋼を使い、焼入れ・焼戻し処理によって製造されている。しかし、引張強さが1300MPaを超えると遅れ破壊が発生しやすくなる問題点があった。また、ポール、パイルおよび建築、橋梁等のプレストレストコンクリート構造物の補強材として広く使われているPC鋼材は、通常、JIS G 3536に規定されているPC鋼線およびPC鋼より線、JIS G 3109に規定されているPC鋼棒が使われている。PC鋼線に用いられる材料はJIS G 3502に適合したピアノ線材であり、パテンティング処理をした後、伸線加工することにより製造される。一方、PC鋼棒は、例えば特公平5−41684号公報に記載されているように、C量が0.25〜0.35%の中炭素鋼を用いて焼入れ・焼戻し処理をすることによって製造されている。「プレストレストコンクリート設計施工規準・同解説」(日本建築学会編集、丸善、昭和62年1月25日 第3版発行)の43〜45頁に記載されているように、引張強さが1275MPa(130kgf/mm2)を超えるような高強度PC鋼棒は、PC鋼線に比べて耐遅れ破壊特性(応力腐食破壊)が劣っているという課題があった。
【0003】
一方、本発明者らは、実環境下で生じた実際のボルトやPC鋼棒の破断状況を詳細に解析した結果、遅れ破壊以外に水素疲労による破壊例もかなりの頻度で発生していることが明確になった。即ち、ボルトやPC鋼棒には所定の荷重以外に変動荷重が負荷され、ボルト、PC鋼棒などが腐食すると鋼材中に水素が侵入する。変動荷重がかかり、水素が侵入する環境下では、遅れ破壊以外に水素に起因する疲労破壊の頻度が増加することを見い出した。更に、変動荷重がかかる産業機械用の高強度機械部品では、潤滑油が分解することによって水素が発生し、水素が部品中に侵入し、水素起因の疲労破壊が生じていることが明らかとなった。
【0004】
高強度鋼の耐遅れ破壊特性を向上させる従来の知見として、例えば、特公平5−59967号公報ではP、S含有量を低減することが有効であり、また、特公平5−41684号公報ではSi、Mn含有量を規制するとともに焼入れ処理後、焼戻し工程中で曲げ加工または引き抜き加工を施す技術が提案されている。更に、特開平7−70695号公報、特開平8−60291号公報、特開平11−236617号公報には、合金元素に着目した耐遅れ破壊特性向上技術がそれぞれ提案されている。
【0005】
これらの技術によって、高強度鋼の耐遅れ破壊特性は、ある程度向上するものの、抜本的な解決には至っていない。更に、耐水素疲労特性と耐遅れ破壊特性を両立させる技術は未だに確立されていない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記の如き実状に鑑みなされたものであって、耐水素疲労特性と耐遅れ破壊特性の良好な強度が1300MPa以上の高強度鋼を実現することを目的とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、まず焼入れ・焼戻し処理によって製造した種々の強度レベルの高強度を用いて、水素による疲労破壊を詳細に解析した。ここで、疲労試験は下記の条件で行った。
【0008】
▲1▼まず、高強度鋼の回転曲げ疲労試験(平滑試験片)を行い、107サイクルの疲れ限度を求める。
【0009】
▲2▼電解水素チャージにより種々のレベルの拡散性水素量を含有させた後、疲労試験中に試料から大気中に水素が抜けることを防止するためにCdめっきを施し、次いで回転曲げ疲労試験を行い、疲労破壊までの疲労寿命(繰返し数)と拡散性水素量の関係を求める。ここで、疲労試験の応力は「▲1▼で求めた疲れ限度の0.9倍」の一定にしている。
【0010】
図1に引張強さが1514MPaの場合の疲労寿命と拡散性水素量について解析した一例を示す。横軸の繰返し数で例えば、1.E+04は1×104を表す。試料中に含まれる拡散性水素量が少なくなるほど疲労寿命が長くなり、拡散性水素量がある値以下では繰返し数が107サイクルでも疲労破壊が発生しなくなる。107サイクルで疲労破壊しない水素量の上限を「疲労限界拡散性水素量」と定義する。疲労限界拡散性水素量が高いほど高強度鋼の耐水素疲労破壊特性は良好であり、鋼材の成分、熱処理等の製造条件によって決まる鋼材固有の値である。なお、試料中の拡散性水素量はガスクロマトグラフで容易に測定することができる。
【0011】
また、高強度の耐遅れ破壊特性の評価は、遅れ破壊が発生しない「遅れ破壊限界拡散性水素量」を求めることにより評価した。この方法は、電解水素チャージにより種々のレベルの拡散性水素量を試料に含有させた後、遅れ破壊試験中に試料から大気中に水素が抜けることを防止するためにCdめっきを施し、その後、大気中で所定の荷重を負荷し、遅れ破壊が発生しなくなる拡散性水素量を評価するものである。ここで、遅れ破壊試験片は図2に示すような形状の切欠き付きのものであり、遅れ破壊試験の荷重は最大引張荷重の0.9倍である。図3に拡散性水素量と遅れ破壊に至るまでの破断時間の関係について解析した一例を示す。試料中に含まれる拡散性水素量が少なくなるほど遅れ破壊に至るまでの時間が長くなり、拡散性水素量がある値以下では遅れ破壊が発生しなくなる。6000分(100時間)で遅れ破壊しない水素量の上限を「遅れ破壊限界拡散性水素量」と定義する。遅れ破壊限界拡散性水素量が高いほど鋼材の耐遅れ破壊特性は良好であり、鋼材の成分、熱処理等の製造条件によって決まる鋼材固有の値である。
【0012】
そこで、高強度鋼の疲労限界拡散性水素量および遅れ破壊限界拡散性水素量を増加させる手段、即ち耐水素疲労破壊特性と耐遅れ破壊特性を両立させるべく、種々検討を重ねた。この結果、
A;従来鋼種よりもMn量を低下させMo量を増加させるとともにMoとMnの質量%添加比率(Mo/Mn)を2以上とする。
B;Aに加えてVあるいはMg、もしくは両方を添加する。
ことが疲労および遅れ破壊限界拡散性水素量を大幅に増加させるという全く新たな知見を見出した。
【0013】
以上の検討結果に基づき、鋼材組成を最適に選択すれば、耐水素疲労破壊特性と耐遅れ破壊特性の優れた高強度鋼を実現できるという結論に達し、本発明をなしたものである。
【0014】
本発明は以上の知見に基づいてなされたものであって、その要旨とするところは、次の通りである。
【0015】
(1)質量%で、
C:0.2〜0.6%、
Si:0.01〜2%、
Mn:0.05〜0.6%、
Mo:0.8〜3%、
Al:0.005〜0.1%
を含有し、且つMoとMnの質量%比率(Mo/Mn)が2以上であり、更に
V:0.05〜0.5%、
Mg:0.0002〜0.005%
の1種または2種を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり且つ引張強さが1300MPa以上、疲労限界拡散性水素量が0.7ppm以上、遅れ破壊限界拡散性水素量が0.5ppm以上であることを特徴とする耐水素脆化特性の優れた高強度鋼。
【0018】
(2) 質量%で、
Ni:0.05〜3%、
Cu:0.05〜1%、
Nb:0.005〜0.1%、
Ti:0.002〜0.05%、
B:0.0003〜0.005%
の1種または2種以上を含有することを特徴とする上記(1)記載の耐水素脆化特性の優れた高強度鋼。
【0019】
(3) 質量%で、
Cr:1%以下
を含有することを特徴とする上記(1)または(2)記載の耐水素脆化特性の優れた高強度鋼。
【0022】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の実施の形態について説明する。
【0023】
まず、本発明の対象とする鋼の成分の限定理由について述べる。
【0024】
C:Cは所定の引張強さを得る上で必須の元素であるが、0.2%未満では所要の強度が得られないため、下限を0.2%に限定した。引張強さをより高める点で好ましい下限は、0.3%である。一方、0.6%を超えて添加しても上記の効果が飽和するため、上限を0.6%に制限した。
【0025】
Si:Siは固溶体硬化作用によって引張強さを高める作用がある。0.01%未満では前記作用が発揮できず、一方、2%を超えても添加量に見合う効果が期待できないため、0.01〜2%の範囲に制限した。
【0026】
Mn:Mnは脱酸、脱硫のために必要であるばかりでなく、マルテンサイト組織を得るための焼入性向上に対して有効な元素であるが、0.05%未満では上記の効果が得られず、一方0.6%を超えると疲労および遅れ破壊限界拡散性水素量が低下するため、0.05〜0.6%の範囲に制限した。なお、焼入性と疲労および遅れ破壊限界拡散性水素量を両立させる好ましい範囲は、0.1〜0.4%である。
【0027】
Mo:Moは強い焼戻し軟化抵抗を有し、後述する所定の焼戻し温度条件による熱処理後の引張強さを高めるために有効な元素である。更に、MoとMnの質量%添加比率Mo/Mnが特定の範囲では、耐水素疲労特性と耐遅れ破壊特性が著しく向上する。ここで、Moが0.8%未満では耐水素疲労特性および耐遅れ破壊特性を向上させる効果が少なく、一方、3%を超えて添加しても製造コストの点で添加量に見合う効果を得ることが困難であるため、0.8〜3%に制限した。耐水素疲労特性および耐遅れ破壊特性と製造コストの点で好ましい範囲は、1〜2%である。
【0028】
Mo/Mn:耐水素疲労特性を著しく向上させるためには、MnとMo量は上記に加えて、Mo/Mnの質量%添加比率が2以上であることが必要である。図4に高強度鋼の疲労限界拡散性水素量とMo/Mnの質量%比率の関係について解析した一例を示す。また、図5に遅れ破壊限界拡散性水素量とMo/Mnの質量%比率の関係について解析した一例を示す。引張強さは、いずれも1550MPa前後に調整した高強度鋼の場合である。図4および図5から明らかなように、Mo/Mn比率が2未満では疲労および遅れ破壊限界拡散性水素量の向上効果が少なく、2を超える領域で著しい効果がある。このため、Mo/Mn比率の下限を2に限定した。Mo/Mn比率が3以上で疲労および遅れ破壊限界拡散性水素量を向上させる効果が特に顕著なことから、好ましい下限は3である。Mo/Mn比率の上限は特に限定しないものの、比率が高くなると製造コストが増加するため、製造コストの点で好ましい上限は8である。
【0029】
Al:Alは脱酸および熱処理時においてAlNを形成することによりオーステナイト粒の粗大化を防止する効果とともにNを固定し焼入性および耐遅れ破壊特性の向上に有効な固溶Bを確保する効果も有しているが、0.005%未満ではこれらの効果が発揮されず、0.1%を超えても効果が飽和するため0.005〜0.1%の範囲に限定した。
【0030】
V:Vは焼入れ処理時において炭窒化物を生成することによりオーステナイト粒を微細化させるとともに本発明の目的とする耐水素疲労特性を向上させる効果がある。0.05%未満では前記作用の効果が得られず、一方0.5%を超えても効果が飽和するため0.05〜0.5%に限定した。
【0031】
Mg:MnとMoの添加が前述したような限定範囲では、極微量のMg添加を行うと疲労および遅れ破壊限界拡散性水素量が更に向上することを見出した。図6に疲労限界拡散性水素量とMg添加量および図7に遅れ破壊限界拡散性水素量とMg添加量について解析した一例を示す。ここで、試料の引張強さは1550MPa前後に調整した高強度鋼であり、Mo/Mnの質量%比率は図6では6.8前後、図7では7.2前後の場合である。図6および7から明らかなように、Mg添加量が0.0002%を超えると疲労および遅れ破壊限界拡散性水素量を向上させる効果を発揮する。このため、Mgの下限を0.0002%に制限した。また、0.005%を超えて添加しても効果が飽和するため、上限を0.005%に限定した。
【0032】
以上が本発明の対象とする鋼の基本成分であるが、本発明においては、必要に応じて、
Ni:0.05〜3%
Cu:0.05〜1%
Nb:0.005〜0.1%
Ti:0.002〜0.05%
B:0.0003〜0.005%
の1種または2種以上を含有しても、耐水素疲労特性および耐遅れ破壊特性を損なうことがない。上記の成分の限定理由は下記の通りである。
【0033】
Ni:Niは高強度化に伴って劣化する延性を向上させるとともに熱処理時の焼入性を向上させて引張強さを増加させるために添加されるが、0.05%未満ではその効果が少なく、一方3%を超えても添加量に見合う効果が発揮できないため、0.05〜3%の範囲に制限した。
【0034】
Cu:Cuは焼戻し軟化抵抗を高めるために有効な元素であるが、0.05%未満では効果が発揮できず、1%を超えると熱間加工性が劣化するため、0.05〜1%に制限した。
【0035】
Nb:NbもVと同様に炭窒化物を生成することによりオーステナイト粒を微細化させるために有効な元素である。0.005%未満では上記効果が不十分であり、一方0.1%を超えるとこの効果が飽和するため0.005〜0.1%に制限した。
【0036】
Ti:Tiは脱酸およびTiNを形成することによりオーステナイト粒の粗大化を防止する効果とともにNを固定し耐水素疲労特性の向上に有効な固溶Bを確保する効果を有しているが、0.002%未満ではこれらの効果が発揮されず、0.05%を超えても効果が飽和するため0.002〜0.05%の範囲に限定した。
【0037】
B:Bは、耐水素疲労特性を向上させる効果があり、更にオーステナイト粒界に偏析することにより焼入性を著しく高める効果も有しているが、Bが0.0003%未満では前記の効果が発揮されず、0.005%を超えても効果が飽和するため0.0003〜0.005%に制限した。
【0038】
また、本発明は更に質量%で、Cr:1%以下を含有させることができる。Crは焼入性の向上に有効な元素であるが、一方で疲労限界拡散性水素量を低下させる作用がある。焼入性の向上のために添加する場合は、Crが1%を超えると疲労限界拡散性水素量の低下が著しいため、上限を1%に限定した。なお、好ましい上限は0.8%であり、更に好ましい上限は0.5%である。
【0039】
P、Sについては特に制限しないものの、高強度鋼の耐遅れ破壊特性を向上させる観点から、それぞれ0.015%以下が好ましい範囲である。また、NはAl、V、Nb、Tiの窒化物を生成することによりオーステナイト粒の細粒化効果があるが、0.015%を超えると延性が低下するため、0.003〜0.015%が好ましい範囲である。
【0040】
次に疲労限界拡散性水素量と遅れ破壊限界拡散性水素量の限定理由について説明する。
【0041】
疲労限界拡散性水素量:疲労限界拡散性水素量が0.7ppm未満の高強度鋼では、腐食あるいは潤滑油などから鋼材中に侵入する水素によって疲労破壊する頻度が増加するため、下限を0.7ppmに限定した。本発明の鋼材組成であれば、疲労限界拡散性水素量は0.7ppm以上となる。なお、水素疲労破壊の頻度を極力低下させるという観点では、疲労限界拡散性水素量の好ましい下限は1.0ppmである。疲労限界拡散性水素量の上限は特に定めることなく本発明の効果を得ることができる。
【0042】
遅れ破壊限界拡散性水素量:遅れ破壊限界拡散性水素量が0.5ppm未満の高強度鋼では、腐食あるいは潤滑油などから鋼材中に侵入する水素によって遅れ破壊が発生する頻度が増加するため、下限を0.5ppmに限定した。鋼材中に水素が侵入しやすい環境、即ち、腐食が著しい環境などでは、遅れ破壊限界拡散性水素量の好ましい下限は0.7ppmである。遅れ破壊限界拡散性水素量の上限は特に定めることなく本発明の効果を得ることができる。
【0043】
拡散性水素量は、前述したようにガスクロマトグラフによる昇温水素分析法で測定することができる。本発明では、昇温速度が100℃/時間であり、室温から400℃までに試料から放出される水素量を拡散性水素量と定義している。
【0044】
本発明の高強度鋼は焼入れ・焼戻し処理によって所定の強度を得るものであり、焼戻しマルテンサイトが主体の組織である。その他の組織として、フェライト、ベイナイト、パーライトの1種または2種以上を面積率で10%以下を含有しても良い。フェライト、ベイナイト、パーライトの面積率は、試料の横断面のd/4部(dは高強度鋼の線径)2mm2以上を光学顕微鏡(500倍)で観察することによって、測定できる。また、疲労限界拡散性水素量と遅れ破壊限界拡散性水素量を高める好ましい製造条件は、下記の通りである。
加熱温度:900〜1000℃
焼入れ:水冷または油冷
焼戻し温度:550℃〜650℃
【0045】
【実施例】
以下、実施例により本発明の効果を更に具体的に説明する。
【0046】
表1に示す化学成分を有する供試材を1050〜1200℃に加熱し、通常の熱間圧延条件で圧延した。その後、水冷または油冷により焼入れ処理を行い、本発明の鋼は575〜630℃で、比較例の鋼は350℃〜630℃で焼戻し処理を施して、引張試験片、平滑の疲労試験片および図2に示す切欠き遅れ破壊試験片に機械加工した。ミクロ組織は、いずれも焼戻しマルテンサイトが面積率で96〜100%であり、残部はフェライト、ベイナイト、パーライトの1種または2種以上であった。
【0047】
上記の試料を用いて、機械的性質、疲労限界拡散性水素量および遅れ破壊限界拡散性水素量を評価した。結果を表1に併せて示す。表1の試験No.1、2、6、9〜11、13、14、17、19、20、22〜24が本発明例で、試験No.26〜37が比較例である。同表に見られるように本発明例は、いずれも疲労限界拡散性水素量が0.7ppm以上であるとともに遅れ破壊限界拡散性水素量が0.5ppm以上であり、耐水素疲労特性と耐遅れ破壊特性の優れた1300MPa以上の高強度鋼が実現されている。
【0048】
【表1】
【0049】
これに対して比較例であるNo.26〜30は、いずれも従来の代表的な鋼材を用いて高強度鋼を製造したものである。即ち、No.26はSCM435、No.27はSCM440であり、No.28はSCM440をベースにVを、No.29はSCM440をベースにNiを添加した鋼であり、また、No.30はSCM435をベースにCr量を増加させた鋼である。いずれもMn含有量が高くてMo添加量が少なく、更にCr含有量が1%を超えているため、疲労限界拡散性水素量と遅れ破壊限界拡散性水素量が低い例である。
【0050】
比較例であるNo.31〜33は、いずれもMn含有量が低いもののMo添加量が少ないためにMo/Mnの質量%比率が2未満であり、更にNo.31および33ではCr含有量が1%を超えているため、疲労および遅れ破壊限界拡散性水素量の向上が少なく、耐水素脆化特性の改善効果が少なかった例である。
【0051】
比較例であるNo.34〜36は、いずれもMo添加量が適正であるもののMn含有量が高いために、更にNo.36ではCr量が1%を超えているために、本発明で目的とする高い疲労限界拡散性水素量と遅れ破壊限界拡散性水素量に達しなかった例である。
【0052】
また、比較例のNo.37は、MnおよびMo含有量が適正でMo/Mnの質量%比率が2を超えており、疲労限界拡散性水素量と遅れ破壊限界拡散性水素量が良好であるものの、C量が0.2%未満であるために目的とする1300MPa以上の高強度鋼が製造できなかった例である。
【0053】
【発明の効果】
以上の実施例からも明かなごとく、本発明はMn量を所定量以下とし、Moを添加し、更に必要に応じてMo/Mnの質量%比率を最適にし、Vおよび/またはMgを添加することによって、高強度鋼の疲労限界拡散性水素量と遅れ破壊限界拡散性水素量を大幅に向上させることが可能となる。この結果、引張強さが1300MPa以上の高強度鋼の耐水素疲労特性および耐遅れ破壊特性を著しく向上させることができ、産業上の効果は極めて顕著なものがある。
【図面の簡単な説明】
【図1】水素疲労試験における拡散性水素量と疲労寿命(破断までの繰返し数)の関係について解析した一例を示す図である。
【図2】遅れ破壊試験片の寸法と形状を示す図である。
【図3】遅れ破壊試験における拡散性水素量と破断時間の関係について解析した一例を示す図である。
【図4】疲労限界拡散性水素量とMo/Mnの質量%比率の関係について解析した一例を示す図である。
【図5】遅れ破壊限界拡散性水素量とMo/Mnの質量%比率の関係について解析した一例を示す図である。
【図6】疲労限界拡散性水素量とMg添加量の関係について解析した一例を示す図である。
【図7】遅れ破壊限界拡散性水素量とMg添加量の関係について解析した一例を示す図である。
Claims (3)
- 質量%で、
C:0.2〜0.6%、
Si:0.01〜2%、
Mn:0.05〜0.6%、
Mo:0.8〜3%、
Al:0.005〜0.1%
を含有し、且つMoとMnの質量%比率(Mo/Mn)が2以上であり、更に
V:0.05〜0.5%、
Mg:0.0002〜0.005%
の1種または2種を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり且つ引張強さが1300MPa以上、疲労限界拡散性水素量が0.7ppm以上、遅れ破壊限界拡散性水素量が0.5ppm以上であることを特徴とする耐水素脆化特性の優れた高強度鋼。 - 質量%で、
Ni:0.05〜3%、
Cu:0.05〜1%、
Nb:0.005〜0.1%、
Ti:0.002〜0.05%、
B:0.0003〜0.005%
の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1記載の耐水素脆化特性の優れた高強度鋼。 - 質量%で、
Cr:1%以下
を含有することを特徴とする請求項1または2記載の耐水素脆化特性の優れた高強度鋼。
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