JP3544416B2 - 磁気記録媒体の信号再生装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は磁気記録再生装置、特に複数のトラックに記録された情報を再生する信号再生装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、磁気記録再生装置の記録密度は著しく向上している。記録密度の向上は線記録密度の向上と、トラック密度の向上とにより達成される。このうち、トラック密度に係る従来の技術について説明する。従来の磁気記録再生装置は、複数の記録トラックを有する磁気記録媒体と、その中の任意の1トラックに対して磁気信号を記録再生する磁気ヘッドとを有し、磁気ヘッドを所望のトラックに正確に追従させることにより情報の記録再生を行っていた。例えば円盤状の磁気記録媒体を用いる磁気ディスク装置は、位置情報となるサーボ信号を同心円状の記録トラックに予め記録した記録媒体と、磁気記録媒体の任意の1トラックに対して磁気信号を記録再生する磁気ヘッドと、磁気ヘッドを所望の記録トラックに位置決めするためのヘッド位置決め機構とを備えていた。そして、サーボ信号を再生することにより磁気ヘッドの位置を検出し、それを基にヘッド位置決め機構の位置制御を行うという動作により、所望の記録トラックに磁気ヘッドを追従させ、情報の記録再生を行っていた。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら従来の構成の磁気記録再生装置は、トラック密度が磁気ヘッドの磁極幅とトラック追従精度とにより制約されるといった問題点を有していた。すなわち、トラック密度を高めるためには磁気ヘッドの磁極幅は少なくとも記録トラックの幅より小さいことが要求される。なぜならば、磁極幅が記録トラックの幅より大きければ、記録トラックから生じる信号磁界がトラック間において干渉を起こし、正確な信号再生ができないからである。従ってトラック密度を向上するためには、より狭い幅の磁気ヘッドを製作することが必要である。しかしながら、狭幅の磁極を製作するためには製造プロセスの高精度化が必要であること、また磁極寸法の微小化に伴う磁気的特性の変化を制御する技術が必要であること等の課題があった。また、トラック密度は磁極幅による制約に加えて、トラック追従精度による制約をも受ける。すなわち、トラックの追従誤差に対して隣接トラックまでの距離を十分大きくとらなければ隣接トラックからの信号が混入し、信号対雑音比の劣化により所望のエラーレートが達成できないという問題点を有していた。従って、トラック密度を向上するためには、トラックの追従をより高精度にて行うことが要求される。そのためには、サーボ信号の高精度化とその検出の高品位化、ヘッド位置決め機構の高帯域化、外乱振動の低減等の課題を解決することが必要である。
【0004】
このように、従来の磁気記録再生装置においてトラック密度を著しく高めようとすれば種々の課題に直面し、これらの課題をすべて解決することは現実的には極めて困難であった。本発明はかかる従来技術の直面している現状に鑑みてなお、トラック密度を格段に向上できる磁気記録再生装置を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、本発明の請求項1に記載の発明は、複数のトラックに磁気的に信号が記録されている磁気記録媒体から信号を再生する信号再生装置であって、
互いに隣接した複数のトラックに対向して配置された軟磁性体内において前記複数のトラックからそれぞれ生じる複数の信号磁界を互いに重畳して重畳磁気信号を形成する信号重畳手段と、
光源から放射した光を光スポットにして前記軟磁性体の所定の位置に入射する入射光学系、及び、前記軟磁性体において反射した再生光を検出し、その光学的特性値に応じた電気信号を発生する光検出器、を含む信号検出変換手段と、
前記電気信号からトラックごとに信号を弁別する信号弁別手段とを備え、
前記入射光学系は少なくとも2つ以上の光スポットを形成するように構成され、前記光検出器は前記光スポットにそれぞれ対応して少なくとも2つ以上設けられ、そして隣接する光スポットの中心間距離が当該光スポットの直径より小さく構成されている。ここで重畳とはトラック間干渉をあえて排除せず、複数トラックからの信号磁界をそのまま捕捉した状態をいう。
【0006】
また、請求項2に記載の発明は、複数のトラックに磁気的に信号が記録されている磁気記録媒体から信号を再生する信号再生装置であって、
互いに隣接した複数のトラックに対向して配置された軟磁性体内において前記複数のトラックのからそれぞれ生じる複数の信号磁界を互いに重畳して重畳磁気信号を形成する信号重畳手段と、
光源から放射した光を光スポットにして前記軟磁性体の所定の位置に入射する入射光学系、及び、前記軟磁性体において反射した再生光を検出し、その光学的特性値に応じた電気信号を発生する光検出器、を含む信号検出変換手段と、
前記電気信号からトラックごとに信号を弁別する信号弁別手段とを備え、
前記入射光学系は少なくとも2つ以上の光スポットを形成するように構成され、前記光検出器は前記光スポットにそれぞれ対応して少なくとも2つ以上設けられ、光スポットの個数をm(整数)個としたとき、前記軟磁性体の、トラックに直交する方向の大きさが、互いに隣接する2つのトラックの中心間距離の(m−2)倍以上であって(m−1)倍以下であるよう構成されている。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明による磁気記録再生装置の第1の実施形態について図1から図6を参照しながら説明する。図1は磁気記録再生装置の要部縦断面図、図2は同装置の一部であるヘッドスライダの斜視図及び平面図、図3は同装置の磁極部の正面図、図4はその磁極部の縦断面図、図5は信号再生回路のブロック図、図6は記録フォーマットを示す概念図である。
【0008】
図1において磁気記録媒体1は、媒体基板2及びその表面に形成された記録層3により構成される。記録層3には同心円状の複数のトラックに分けて情報が記録されている。図1において信号再生器10は、ヘッドアーム40の先端部に設けられた光学ユニット30と、片もち板ばね状のサスペンション14に支持されたヘッドスライダ11とを備えている。ヘッドスライダ11は透明多面体12、集光レンズ13及び磁極部20を備えており、透明多面体12の底面12dは磁気記録媒体1と対向配置されている。
【0009】
透明多面体12はりん化ガリウム(屈折率3.31)からなり、図2の(a)に示すように、直方体を、斜面12cを切断面として切断した形状をしている。すなわち、側面12a、12b、12f及び12g、上面12e、底面12d、並びに、斜面12cの合計7平面を有する多面体である。斜面12cは、側面12a、12b、12f及び12g、並びに底面12dとそれぞれ稜線を挟んで隣接している。底面12dと稜線を挟んで隣接する側面12aの下部すなわち、磁気記録媒体1の記録層3(図1)に形成されるトラック5a、5b及び5c近傍には磁極部20が形成されている。また上面12eの中央部は凸状球面(但し、正確には非球面レンズ)に形成されており、集光レンズ13となっている。図2の(b)は(a)の平面図である。磁極部20は実際には厚さが2μm程度の薄膜であるが、図2の(b)においては便宜上、厚めに表示している。
【0010】
図1に戻って、光学ユニット30は、半導体レーザ31、ホログラム素子32及び光検出器33を備えている。半導体レーザ31から放射された再生光(再生のための光)がホログラム素子32を通過することにより±1次の回折光が生成され、かつ、再生光は同時にコリメートされ(並行にされ)、合計3つの光束が集光レンズ13に入射する。コリメートされた再生光の光軸は磁気記録媒体1に対する法線にほぼ一致するように設計されている。集光レンズ13により集光された再生光の光軸は斜面12cにより磁気記録媒体1の長手方向(図1の左右方向)に平行な平面(例えば、図2の(b)における紙面と平行な平面)内の光軸に変換され、磁極部20に入射する。従って、磁極部20への入射面(入射光と反射光を含む面、例えば図2の(b)における紙面に平行な平面)は磁極部20が設けられる面(すなわち側面12a)に垂直で且つ磁気記録媒体1に平行となっている。本実施形態では、磁気記録媒体1からの信号磁界を取り入れやすいように、磁極部20は磁気記録媒体1の表面に対して直角に設けられている。入射光Li(実際は3本)の磁極部20への入射角φは35.5度に設定されている。また、再生光は電界ベクトルが入射面内にあるP偏光に設定されている。磁極部20からの反射光Lo(実際は3本)は、図2の(a)に示すように、再び斜面12cにより光軸が変換された後、集光レンズ13及びホログラム素子32(図1)を介して光検出器33(図1)に入射する。
【0011】
図4において、記録層3は、トラックの接線方向における断面が示されている。図に示すように、磁極部20は多層膜構造となっており、りん化ガリウムの透明多面体12を基材として、その上に、アルミナからなる中間層21(厚さ100nm)、金からなる励起層22(厚さ40nm)、ニッケル−鉄合金からなる磁性層23(厚さ10nm)、アルミナからなるカバー層24(厚さ400nm)及びニッケル−鉄合金からなるシールド層25(厚さ2μm)を順次積層したものである。図の破線に示すように、磁束は磁性層23の端部からカバー層24を経てシールド層25の端部から抜け、記録層3との磁気的結合を成している。
【0012】
図3は、磁極部20を正面から見た状態を示す図である。図において、磁極部20の磁性層23の幅W1はトラック5a、5b及び5c(図2及び図3)のピッチW2の1倍以上2倍以下の大きさに設定されている。また磁性層23はバイアス磁界発生器(図示せず)から発生したバイアス磁界により、単磁区構造となっており、磁化の向きは磁気記録媒体1と磁気的に結合していない状態において再生光の入射面にほぼ平行に設定されている。磁極部20の磁気記録媒体1に対向する端部の近傍には再生光の光スポット50a、50b及び50cが形成されており、隣接する2つの光スポットの中心間距離は各スポットの直径より小さく、かつトラック5a、5b及び5cのピッチW2より小さく設定されている。また、本実施形態では光スポット50a、50b及び50cの直径は互いに同一であり、各中心は同一直線上にある。
【0013】
図5において、光検出器33は、フォトダイオード33a、33b及び33cを備えており、それぞれが光スポット50a、50b及び50c(図3)と1対1に対応している。フォトダイオード33a、33b及び33cの出力はそれぞれ増幅器60a、60b及び60cに入力される。増幅器60a、60b及び60cの各出力は時系列信号変換回路61に入力され、時系列信号に変換される。時系列信号は分岐回路62により信号分岐し、伝達係数検出回路63に入力される。伝達係数検出回路63の出力は逆係数算出回路64に入力され、逆係数算出回路64の出力はトラック弁別回路65に入力される。トラック弁別回路65の出力はデータ検出回路66に与えられ、データ検出回路66はデータを出力する。
【0014】
前記のように構成された磁気記録再生装置について以下その動作を説明する。本実施形態においては、次の動作によって、複数のトラックに分けて磁気記録媒体1に記録された信号から所望のトラックの信号を再生する。初めに全体動作の概略を説明する。まず、複数のトラック5a、5b及び5cに磁気的に記録された信号から発せられる信号磁界を磁性層23(図3)内に捕捉し、それらの重畳磁気信号を形成する。次に、半導体レーザ31(図1)から放射された再生光を磁性層23に照射することによって磁気光学効果を生じさせ、重畳磁気信号を再生光の光量変化に変換する。その光量変化を光検出器33(図1)により検出し、電気信号に変換する。次に信号再生回路(図5)により電気信号をトラック毎の信号に弁別し、情報を再生する。以上の動作により、磁気記録媒体1(図1)の複数のトラックから発生する信号磁界を重畳磁気信号として読みとり、それを基にして個々のトラックの信号を再生する。
【0015】
以下、より詳細に各動作について説明する。まず、重畳磁気信号を形成する動作について説明する。前述のように、磁性層23の端部は磁気記録媒体1と磁気的に結合しており(図4)、また磁性層23の幅W1はトラック5a、5b及び5cのピッチW2の1倍以上2倍以下の大きさに設定されている(図3)。従って、磁性層23とトラック5a〜5cとの相対的な位置関係に基づき、磁性層23の面内には2つないし3つのトラックからの磁束が通過し、それらの複数の信号磁界が重畳されることにより重畳磁気信号が形成される。前述のように磁性層23は単磁区動作するように構成されているので、重畳磁気信号は各トラック5a〜5cからの信号磁界の線形結合となる。すなわち、磁性層23の磁化パターンは各トラック5a〜5cがそれぞれ単独で存在する状態の重ね合わせとなる。
【0016】
次に、重畳磁気信号を電気信号に変換する動作について説明する。本実施形態においては前述した構成において、光スポット50a〜50c(図3)の位置における磁性層23の磁化の向きを横カー効果を用いて電気信号に変換する。横カー効果とは、磁気光学効果の1つであり、磁性体において光が反射する際に、反射面内にあり、かつ、入射面に垂直な磁化成分によって光のP偏光成分の光量が変化する現象である。前述のように本実施形態では、磁性層23の磁化の向きは磁気記録媒体1と磁気的に結合していない状態では再生光の入射面に平行に設定されている。そこで、磁気記録媒体1から信号磁界が与えられると、磁性層23の面内で磁化回転が生じ、入射面に垂直な磁化成分が現れる。再生光はP偏光に設定されているため、反射光は光量変化を生じ、それをフォトダイオード33a〜33cにより光量に比例した電気信号に変換する。光量変化の大きさは、磁化回転角の大きさにほぼ比例するため、フォトダイオード33a〜33cの出力信号の大きさは、各光スポット50a〜50cのそれぞれの位置において線形に重畳された信号磁界の大きさにほぼ比例する。こうして、重畳磁気信号が電気信号に変換される。
【0017】
次に、所望のトラックの信号を弁別する動作について説明する。上述したように、磁性層23内の磁化状態が、各トラック5a〜5cからの信号磁界の線形結合となっていること、及び、フォトダイオード33a〜33c(図5)の出力信号の大きさは、各光スポット50a〜50cのそれぞれの位置での磁化状態にほぼ比例することから、トラック5a、5b及び5cからそれぞれ発生する信号磁界をH1、H2及びH3とすると、フォトダイオード33a、33b及び33cの各出力信号I1、I2及びI3は
I1=A11・H1+A12・H2+A13・H3 ・・・(式1)
I2=A21・H1+A22・H2+A23・H3 ・・・(式2)
I3=A31・H1+A32・H2+A33・H3 ・・・(式3)
と表すことができる。ここで、Aij(i=1〜3,j=1〜3)は、信号磁界Hjが出力信号Iiに及ぼす影響の大きさを示す係数で、磁性層23の磁気的な伝達特性に依存することから伝達係数と称する。伝達係数はトラックと光スポットとの相対位置関係により決定される。式1〜式3をベクトル形式で表現すると、
I=A・H ・・・(式4)
と表すことができる。ここで、
I=[I1 I2 I3]T ・・・(式5)
H=[H1 H2 H3]T ・・・(式6)
である。また、
【0018】
【数1】
Figure 0003544416
【0019】
である。従って伝達係数Aを既知とすることができれば、
H=A−1・I ・・・(式8)
なる演算によって、各トラックの信号を求めることができる。なおA−1はAの逆行列であり、逆伝達係数と称する。
【0020】
図6に示すように、各トラック5a、5b及び5cの各々には、1つのセクタの先頭に単一周波数を記録したパイロット信号領域R1が設けられており、それに引き続きデータ領域R2が設けられている。パイロット信号領域R1の直前にはパイロット信号領域R1の開始を示すための信号領域R3が設けられ、データ領域R2の先頭にはパイロット信号領域R1の終了を示すための信号領域R4が設けられている。そこで本実施形態では、信号領域R3の信号を合図に、分岐回路62は、時系列信号変換回路61から受けた出力信号を、信号領域R4からの信号を受けるまで、伝達係数検出回路63に送る。伝達係数検出回路63はパイロット信号領域R1において伝達係数Aを検出し、逆係数算出回路64において逆伝達係数A−1を算出する。それを基に、続くデータ領域R2の信号をトラック弁別回路65において弁別し、再生する。
【0021】
すなわち、パイロット信号領域R1のIの部分(図6)はトラック5aのみの信号を有するため、
H=[1 0 0]T ・・・(式9)
である。従って、式4によって出力信号から直ちにA11、A21及びA31が決定される。同様に、領域IIでは
H=[0 1 0]T ・・・(式10)
であり、A12、A22及びA32が決定される。また同様に、領域IIIでは
H=[0 0 1]T ・・・(式11)
であり、A13、A23及びA33が決定される。以上の動作により伝達係数Aが既知となる。次に逆係数算出回路64により、逆伝達係数A−1を算出する。逆伝達係数A−1は伝達係数Aとの間に、
【0022】
【数2】
Figure 0003544416
【0023】
の関係を有するものであり、伝達係数Aがわかれば四則演算処理により一義的に求めることができる。従って、データ領域R2の信号を処理する前に、逆伝達係数A−1を求めることができるので、それを用いて、分岐回路62からトラック弁別回路65に送られてきたデータ領域R2における各トラックの信号、すなわちフォトダイオード33a、33b及び33cの各出力信号I1、I2及びI3に対して式8の演算を、トラック弁別回路65において行わしめる。こうして各トラックの信号を弁別する。以上の動作により各トラック毎の信号への弁別が行われ、データ検出回路66により所定形式のデータに変換される。
【0024】
本実施形態によると、従来の磁気記録再生装置に比べトラック密度を格段に向上させることができる。すなわち従来の磁気記録再生装置においては、トラック間干渉が高トラック密度化の障害となっており、磁気ヘッドの磁極幅及びトラック追従精度の2つの要因によりトラック密度は事実上制限されていた。それに対し本実施形態の信号再生装置は、トラック間干渉をあえて排除することなく、むしろ生じさせるように構成することで、互いに隣接する複数のトラックからの信号磁界を同時に検出し、信号処理によって各トラックの信号を弁別する。このような構成を備えることによって、磁極部の幅よりも狭いピッチで形成されたトラックの信号を再生することが可能になる。しかも所望のトラックが磁極部の幅の中に有りさえすればよく、トラック追従動作の精度を大幅に緩和することができる。従って、磁極部の幅及びトラック追従精度のいずれにも制約されることなく高トラック密度を実現することができる。
【0025】
さらに、本実施形態によれば、複数のトラックの情報を同時に再生できるので転送速度を大幅に向上することができるという効果を併せ持つ。また本実施形態では、磁性層幅W1(図3)をトラックのピッチW2の1倍以上2倍以下の大きさに設定しているため、磁性層23において信号磁界が重畳されるトラック数は多くとも3つとなる。そのため、スポット数を超える数のトラックから信号磁界を受けて信頼性のない信号再生を行うこともない。なお、本実施形態は光スポットを3つ設ける構成としたが、本発明は光スポットの個数を限定するものではなく、例えばより多くの光スポットを設け、磁極部20の幅W1を広くすることにより、さらに多くのトラックを同時に検出することができる。すなわち、光スポットの個数をm(整数)とすると、磁極部の幅W1はトラックピッチW2に対して以下の関係を有していれば良い。
(m−2)・W2 ≦ W1 ≦ (m−1)・W2 ...(式13)
【0026】
また、本実施形態では同一の大きさの光スポットを同一直線上に配置する構成としたが、光スポットの大きさが2種類以上存在しても良い。また磁性層23の磁気記録媒体1に結合している端部から各光スポット中心までの距離が2種類以上あっても良い。また光スポットの形が円形でなくても良い。また、本実施形態は、パイロット信号領域R1(図6)において伝達係数を求め、式8の演算を行うことによってトラック毎の信号を弁別する構成としたが、本発明はそれに限定されるものではなく、例えば磁性層面内の磁気信号の重畳パターンを検出し、それを基に各トラックの信号を推定する構成であっても良い。その場合は、パイロット信号領域R1を設ける必要がない。特に、磁性層の面内で重畳パターンの特徴が顕著に現れる点を選んで光スポットを設ける構成をとることによって本発明の効果を一層高めることができる。
【0027】
次に、光スポットの形成に関する説明をする。上記実施形態において、光源波長以下の微小な光スポットを形成するための構成を備えることによりトラックのピッチを小さくすることができるので、トラック密度をより一層向上することができる。以下に、微小な光スポットが形成される動作について説明する。一般に、スポット直径2wは次式のように、光源波長λと集光レンズの開口数NAにより決定される。
2w=k・λ/NA ・・・(式14)
ここで、kはレンズの形状や入射光の強度分布によって決まる定数であり、ここではk=0.8を採用する。式14より、光源波長が一定のとき、NAが大きいほど小さなスポットを形成することが可能である。開口数NAは、集光レンズの開口角の半角αと、集光レンズと物体の間の媒体の屈折率nとによって次式のように定義される。
NA=n・sinα ・・・(式15)
【0028】
集光レンズが空気中に存在する場合n=1であり、NAは空気中の開口角によって一義的に決定さる。そこでスポット径を小さくするためには、開口角2αを大きくするしかないが、幾何学的制約からNAは0.7が限界となる。またsinα≦1より、理論的にNAは決して1を超えることはない。しかしながら、本実施形態の構成においては、集光レンズ13(図1)から磁極部20までの間をn=3.31の高屈折率誘電体(リン化ガリウム)で満たしているため、式15より、開口角2αが70度程度であり、NA=1.90という従来技術では実現不可能であったところの大きな値の開口数が得られる。従って、式14より、2w=0.42λとなり、光源波長の半分以下の微細なスポット径が形成される。従って、トラックピッチもそれと同等な寸法に低減でき、いわゆるサブミクロン・オーダのトラックピッチを実現することができる。
【0029】
以上のように本実施形態によると、集光レンズ13から磁極部20までの間を空気より大きい屈折率を有する媒質で満たすという構成によって、1を超える大きな値の開口数NAを実現することか可能となり、トラック密度を飛躍的に増大することができる。すなわち本発明においては、開口数NAは開口角2αに制限されず、より屈折率の大きな材料を用いることによってさらに大きなNAを得ることができる。なお、本実施形態においては、集光作用を1つの非球面レンズ(13)によって実現しているが、本発明はそれに限定されるものでなく、複数の曲面を用いて集光する場合でも最終曲面から反射面までが空気より大きい屈折率の媒質で満たされていればよい。
【0030】
また本実施形態においては、屈折力を有する面と透明多面体とを一体に形成しているので、焦点と反射面とを正確に一致させることができる。従って信頼性が向上するとともに、光路調整、光軸調整等が不要となり組立時の工数を大幅に削減することができる。また本実施形態は、隣接する光スポットの中心間距離を光スポットの直径より小さくする構成によって、光スポットの大きさよりも小さな空間的分解能を得ることができ、トラック密度を一層高めることができる。
【0031】
また、前述のように、本実施形態の構成においては光学ユニット30(図1)をヘッドアーム40に設けているため、サスペンション14に支えられた部分の質量を大幅に軽減でき、磁気記録媒体1に対する追従性を向上することができる。 また集光レンズ13と透明多面体12とを一体的に形成する構成としており、かつ集光レンズ13への入射光を平行光としているため、ビームウエストは常に磁極部20の一定の位置に形成される。従って、磁気記録媒体1の面振れや外部からの機械的振動によって磁極部20と光学ユニット30との相対的な位置関係が変化したとしても、光スポットの位置ずれや、フォーカスずれによる径の変化が生じることなく常に安定して信号を再生することができる。
【0032】
なお本実施形態では、再生光を集光するために集光レンズ13を用いたが、本発明はそれに限定されるものではなく、例えばホログラム素子を透明多面体12の上面12e(図2)あるいは斜面12cに形成する構成であっても良い。その場合、サスペンション14に支えられる部分の質量を一層軽減することができる。
【0033】
次に、本実施形態において、信号磁界を高感度で検出するための構成について説明する。高密度記録を行うと、信号磁界が小さくなるので、そのような場合でも信号磁界を高感度に検出することが必要になってくる。そこで、本実施形態では、前述した構成によって、再生光をエバネッセント波の形態に変換し、磁性層23との相互作用を起こさせることによってカー効果を増強し、信号磁界の変化を大きな光量変化に変換し、検出するものである。図7は第1の実施形態における磁極部20の磁気光学特性を示した特性図である。図7において横軸は再生光の磁極部20への入射角φ(図2の(b))である。縦軸のRは反射率で、反射光Loの光量を入射光Liの光量で除したもである。dRは反射率変化で磁性層23の磁化が+90度から−90度まで回転したときの反射光Loの光量変化を入射光Liで除したものである。図中には100倍して示した。またMは変調率で反射光Loの光量変化の割合であり、dR/Rに等しい。図中には10倍して示した。
【0034】
図7において、反射率Rは入射角φが35度の近傍で全反射に近い値から急激に低下している。これは、表面プラズモン共鳴と呼ばれる現象である。表面プラズモン共鳴とは素励起共鳴の1つであり、エバネッセント波の波数と角周波数の関係(分散関係)が金属の表面に生ずる表面プラズモンの分散関係と一致したときに表面プラズモンが励起され、入射光のエネルギが共鳴的に吸収されることで説明される。本実施形態においては、高屈折率誘電体である透明多面体12(図1)及び低屈折率(例えば1.7程度)誘電体である中間層21(図4)の境界面(全反射面)に対して臨界角以上の入射角により再生光を入射することで中間層21側にエバネッセント波を発生させ、励起層22及び磁性層23からなる金属層の表面プラズモンを励起している。各層の膜厚及び入射角φは表面プラズモンを励起するのに最適となるよう選択されている。図7からわかるように、表面プラズモン共鳴の近傍で反射率変化dRが大きくなり、最大で0.8%以上となる。また反射光の変調率Mは入射角が35.5度のとき最大14%に達する。
【0035】
比較のため、表面プラズモン共鳴を用いない通常の横カー効果の特性を示す。図8は通常のカー効果の特性図で、構成はガラス基板上に磁性層を成膜し、空気側から再生光を入射したものである。磁性層の組成、膜厚は本実施形態のものと全く同様である。図8より、通常のカー効果では、反射率変化dRは最大で0.3%弱で、反射光の変調率Mも最大で2%程度である。しかもそれを実現するためには70度以上という極めて大きな角度で再生光を入射する必要がある。以上のように本実施形態は、35度程度という入射が容易な入射角でありながら、通常のカー効果に比べ数倍大きな変調率を得ることができる。以上のように、本実施形態の信号再生装置は、磁極部20の構成とそれに入射する再生光の入射角とを最適に設定して表面プラズモン共鳴を励起し、横カー効果を増強することによって、信号磁界の変化を大きな光量変化に変換することができる。従って、高密度記録のために信号磁界が小さくなった場合でも、そのような小さな信号磁界を高感度に検出することができるという効果を有する。
【0036】
なお、本実施形態においては、表面プラズモン共鳴をより効率的に励起するために前述の構成を用いたが、本発明は、各層の材質あるいは膜厚に限定されるものではなく、再生光をエバネッセント波の形態に変換し、磁性体と相互作用させることにより磁気光学効果を増強するものであれば他の構成であっても良い。例えば磁極部の膜構成として、中間層21、あるいは励起層22を設けない構成であっても良い。この場合、特性はやや劣るもののほぼ同様の効果を得ることができる。また再生光をエバネッセント波の形態に変換するために本実施形態は高屈折率誘電体と低屈折率誘電体とからなる全反射面を設けたが、その他、回折格子を用いた構成、再生光の波長以下の微小開口を用いた構成などであっても良い。
【0037】
なお、トラックを弁別する方法として、第1の実施形態で述べた信号再生回路の構成以外に、判定帰還回路を備えた構成、最尤(Maximum likelihood)回路を備えた構成などを用いることができる。特に、記録時に2次元的な符号化を行うことによって本発明の効果を一層高めることができる。また、第1の実施形態、第2の実施形態では円盤状の磁気記録媒体を用いたが、本発明は媒体の形状に限定されるものではなく、例えばテープ状の磁気記録媒体を用いた、いわゆるビデオテープレコーダなどにも適用されるものである。
【0038】
【発明の効果】
以上のように構成された本発明は以下の効果を奏する。本発明においては、複数のトラックから生じた重畳磁気信号を捉えて、この重畳磁気信号に所定の信号処理を施すことによりトラック毎の信号を弁別する構成としたので、磁極部の幅よりも狭いピッチで形成されたトラックの信号を再生することができる。しかも所望のトラックが磁極部の幅の中に有りさえすれば良いため、ヘッドに要求されるトラック追従動作の精度を大幅に緩和することができる。従って、磁極部の幅及びトラック追従精度のいずれにも制約されることなく高トラック密度を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施形態における磁気記録媒体の信号再生装置の要部縦断面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態におけるヘッドスライダの斜視図及びその平面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態における磁極部の正面図である。
【図4】本発明の第1の実施形態における磁極部の縦断面図である。
【図5】本発明の第1の実施形態における信号再生回路のブロック図である。
【図6】本発明の第1の実施形態における記録フォーマットを示す概念図である。
【図7】本発明の第1の実施形態における磁極部の磁気光学特性を示したグラフである。
【図8】通常のカー効果の特性を示すグラフである。
【符号の説明】
1 磁気記録媒体
2 媒体基板
3 記録層
5a、5b、5c トラック
10 信号再生装置
11 ヘッドスライダ
12 透明多面体
13 集光レンズ
14 サスペンション
20 磁極部
21 中間層
22 励起層
23 磁性層
24 カバー層
25 シールド層
30 光学ユニット
31 半導体レーザ
32 ホログラム素子
33 光検出器
40 ヘッドアーム
50a、50b、50c 光スポット
60a、60b、60c 増幅器
61 時系列信号変換回路
62 分岐回路
63 伝達係数検出回路
64 逆係数算出回路
65 トラック弁別回路
66 データ検出回路

Claims (2)

  1. 複数のトラックに磁気的に信号が記録されている磁気記録媒体から信号を再生する信号再生装置であって、
    互いに隣接した複数のトラックに対向して配置された軟磁性体内において前記複数のトラックからそれぞれ生じる複数の信号磁界を互いに重畳して重畳磁気信号を形成する信号重畳手段と、
    光源から放射した光を光スポットにして前記軟磁性体の所定の位置に入射する入射光学系、及び、前記軟磁性体において反射した再生光を検出し、その光学的特性値に応じた電気信号を発生する光検出器、を含む信号検出変換手段と、
    前記電気信号からトラックごとに信号を弁別する信号弁別手段とを備え、
    前記入射光学系は少なくとも2つ以上の光スポットを形成するように構成され、前記光検出器は前記光スポットにそれぞれ対応して少なくとも2つ以上設けられ、そして隣接する光スポットの中心間距離が当該光スポットの直径より小さく構成された磁気記録媒体の信号再生装置。
  2. 複数のトラックに磁気的に信号が記録されている磁気記録媒体から信号を再生する信号再生装置であって、
    互いに隣接した複数のトラックに対向して配置された軟磁性体内において前記複数のトラックのからそれぞれ生じる複数の信号磁界を互いに重畳して重畳磁気信号を形成する信号重畳手段と、
    光源から放射した光を光スポットにして前記軟磁性体の所定の位置に入射する入射光学系、及び、前記軟磁性体において反射した再生光を検出し、その光学的特性値に応じた電気信号を発生する光検出器、を含む信号検出変換手段と、
    前記電気信号からトラックごとに信号を弁別する信号弁別手段とを備え、
    前記入射光学系は少なくとも2つ以上の光スポットを形成するように構成され、前記光検出器は前記光スポットにそれぞれ対応して少なくとも2つ以上設けられ、光スポットの個数をm(整数)個としたとき、前記軟磁性体の、トラックに直交する方向の大きさが、互いに隣接する2つのトラックの中心間距離の(m− 2)倍以上であって(m−1)倍以下であるよう構成された磁気記録媒体の信号再生装置。
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