JP3541160B2 - 農作業機の操向装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、左右一対のクローラ型の走行装置を備えた農作業機の操向装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
上記操向装置としては、例えば、特開平7−47973号公報に開示されているように、左右一対のクローラ型の走行装置のそれぞれにサイドクラッチを装備するとともに、サイドクラッチが切られた一方の走行装置を、サイドクラッチが切られていない他方の走行装置の作動方向と同方向で、その作動速度より低速で駆動する緩旋回駆動手段と、サイドクラッチが切られた一方の走行装置を制動する急旋回駆動手段としての制動機構とを備え、ステアリング操作具が、中立位置から左右一方へ外れた第1操作域に操作されると、一方の走行装置のサイドクラッチを切り、引き続く第2操作域に操作されると、サイドクラッチの切られた走行装置を緩旋回駆動手段によって減速駆動し、更に、引き続く第3操作域に操作されると、サイドクラッチの切られた走行装置を制動機構によって制動するように、ステアリング操作具とサイドクラッチ、緩旋回駆動手段、および、制動手段とを連係したものが提案されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上記操向装置は、ステアリング操作具の操作量が大きくなるに連れて、その旋回機能が次第に高くなり、ステアリング操作量に対応した機体旋回を行うことができ、操作性に優れたものであるが、第1操作域の旋回モードから第2操作域の旋回モードに移行する際に、サイドクラッチを構成するサイドクラッチギヤがクラッチ切り位置から更にシフトされてサイドギヤに軸心方向から咬合して、一気に減速駆動状態に切り換わるようになっているので、サイドクラッチギヤがサイドギヤに咬合する衝撃や咬合音が発生するとともに、機体旋回に軽いショックを伴うがことがあった。
【0004】
本発明は、このような点に着目してなされたものであって、ステアリング操作量に対応した機体旋回を行うことができるとともに、微妙で円滑な機体操向を行うことのできる農作業機の操向装置を提供することを主たる目的としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】
〔請求項1に係る発明の構成、作用および効果〕
【0006】
(構成) 請求項1に係る発明の農作業機の操向装置は、左右一対のクローラ型の走行装置のそれぞれにサイドクラッチが装備されるとともに、サイドクラッチが切られた一方の走行装置を逆転駆動する旋回用伝動手段が備えられ、ステアリング操作具が、中立位置から左右一方へ操作されると、先ず、一方の走行装置のサイドクラッチが切られ、引き続きステアリング操作具が同方向への操作されると、サイドクラッチの切られた走行装置と前記旋回用伝動手段とを旋回用クラッチを介して連動連結するよう構成し、前記旋回用クラッチを摩擦式クラッチに構成するとともに、旋回用クラッチに、常に低トルクを常時伝達するスリップ可能な低トルク伝達手段を装備してあることを特徴とする。
【0007】
(作用) 上記構成によると、例えば、ステアリング操作具を中立位置から右方へ操作することで、先ず、右側のサイドクラッチが切られるのであるが、この場合、サイドクラッチが切られていない左側の旋回用クラッチにおいては左側の低トルク伝達手段が機能し、左側の走行装置への動力の一部が左側の旋回用クラッチに左側の低トルク伝達手段を介して逆伝達される。ここで、左右の旋回用クラッチの駆動側は左右いずれの走行装置に対して並列関係にあって互いに連動連結されているので、上記のように左側の旋回用クラッチに左側の低トルク伝達手段を介して逆伝達された動力は、右側の旋回用クラッチにまで回り込み伝達され、この回り込み伝達された動力が、右側の旋回用クラッチに装備された低トルク伝達手段を介してクラッチ切られる右側の走行装置に伝達される。
【0008】
従って、一方の走行装置がサイドクラッチが切られたとたんに走行負荷によって急に停止してしまうようなことはなく、低トルク駆動力を受ける一方の走行装置の低トルク駆動力と、サイドクラッチが切られない他方の走行装置との駆動力との差によって機体は旋回する。この場合、サイドクラッチが切られた旋回内側の走行装置は多少進行するので、機体は緩やかに旋回移動することになる。
【0009】
また、引き続きステアリング操作具を同方向に操作すると、サイドクラッチの切られた旋回内側の走行装置が、逆転伝動を行う旋回用伝動手段に摩擦式の旋回用クラッチを介して滑らかに連動連結される。この場合、初期はクラッチ操作圧が低いので逆転動力が小さいトルクで旋回内側の走行装置に伝達されることになり、旋回外側の走行装置の移動に伴って旋回内側の走行装置に働く引きずり移動力と、旋回用クラッチを介して伝達される逆転移動力とがバランスすると、旋回内側の走行装置はその場に停止され、旋回外側の走行装置のみの片駆動による旋回、いわゆる、信地旋回が実行される。そして、ステアリング操作具を同方向の限度近くまで大きく操作するとクラッチ操作圧は高くなり、サイドクラッチの切られた旋回内側の走行装置は強く逆転駆動され、駆動方向の異なる左右の走行装置による急旋回、いわゆる、信地旋回が実行される。
【0010】
また、ステアリング操作具を中立に戻して直進に復帰する時も、サイドクラッチの切られた走行装置には低トルクが伝達されているので、サイドクラッチが咬合式のものであっても、駆動側と従動側との速度差の少ない状態での咬合が行われる。
【0011】
(効果) 従って、請求項1に係る発明によると、ステアリング操作量に対応して片駆動による緩旋回、片制動による信地旋回、駆動方向が相違した両駆動による超信地旋回を順次行うことができるとともに、サイドクラッチの切られた走行装置に途切れのないトルク伝達を行って、衝撃のない微妙で円滑な機体操向を行うことのでき、一層操作性の優れたものにすることができた。また、機体旋回後、直進に復帰する際も、滑らかなサイドクラッチ入りが期待できる。
【0012】
〔請求項2に係る発明の構成、作用および効果〕
【0013】
(構成) 請求項2に係る発明の農作業機の操向装置は、左右一対のクローラ型の走行装置のそれぞれにサイドクラッチが装備されるとともに、サイドクラッチが切られた一方の走行装置を減速駆動する旋回用伝動手段、および、サイドクラッチが切られた一方の走行装置を逆転駆動する旋回用伝動手段が備えられ、ステアリング操作具が、中立位置から左右一方へ操作されると、先ず、一方の走行装置のサイドクラッチが切られ、引き続きステアリング操作具が同方向への操作されると、サイドクラッチの切られた走行装置と前記旋回用伝動手段とを旋回用クラッチを介して連動連結するよう構成し、前記旋回用クラッチを摩擦式クラッチに構成するとともに、旋回用クラッチに、低トルクを常時伝達するスリップ可能な低トルク伝達手段を装備してあることを特徴とする。
【0014】
(作用) 上記構成によると、例えば、ステアリング操作具を中立位置から右方へ操作することで、先ず、右側のサイドクラッチが切られるのであるが、この場合、サイドクラッチが切られていない左側の旋回用クラッチにおいては左側の低トルク伝達手段が機能し、左側の走行装置への動力の一部が左側の旋回用クラッチに左側の低トルク伝達手段を介して逆伝達される。ここで、左右の旋回用クラッチの駆動側は左右いずれの走行装置に対して並列関係にあって互いに連動連結されているので、上記のように左側の旋回用クラッチに左側の低トルク伝達手段を介して逆伝達された動力は、右側の旋回用クラッチにまで回り込み伝達され、この回り込み伝達された動力が、右側の旋回用クラッチに装備された低トルク伝達手段を介してクラッチ切られる右側の走行装置に伝達される。
【0015】
従って、一方の走行装置がサイドクラッチが切られたとたんに走行負荷によって急に停止してしまうようなことはなく、低トルク駆動力を受ける一方の走行装置の低トルク駆動力と、サイドクラッチが切られない他方の走行装置との駆動力との差によって機体は旋回する。この場合、サイドクラッチが切られた旋回内側の走行装置は多少進行するので、機体は緩やかに旋回移動することになる。
【0016】
また、引き続きステアリング操作具を同方向に操作すると、サイドクラッチの切られた旋回内側の走行装置が、減速伝動を行う旋回用伝動手段に旋回用クラッチを介して連動連結され、旋回内側の走行装置は旋回外側の走行装置の駆動方向と同方向に減速駆動され、機体は上記したように一方のサイドクラッチを切っただけの片駆動による緩旋回より一層確実な両駆動による緩旋回で旋回移動する。
【0017】
引き続きステアリング操作具を同方向に操作すると、サイドクラッチの切られた旋回内側の走行装置が、逆転伝動を行う旋回用伝動手段に旋回用クラッチを介して連動連結される。この場合、初期はクラッチ操作圧が低いので逆転動力が小さいトルクで旋回内側の走行装置に伝達されることになり、旋回外側の走行装置の移動に伴って旋回内側の走行装置に働く引きずり移動力と、旋回用クラッチを介して伝達される逆転移動力とがバランスすると、旋回内側の走行装置はその場に停止され、旋回外側の走行装置のみの片駆動による旋回、いわゆる、信地旋回が実行される。そして、ステアリング操作具を同方向の限度近くまで大きく操作するとクラッチ操作圧は高くなり、サイドクラッチの切られた旋回内側の走行装置は強く逆転駆動され、駆動方向の異なる左右の走行装置による急旋回、いわゆる、信地旋回が実行される。
【0018】
また、ステアリング操作具を中立に戻して直進に復帰する時も、サイドクラッチの切られた走行装置には低トルクが伝達されているので、サイドクラッチが咬合式のものであっても、駆動側と従動側との速度差の少ない状態での咬合が行われる。
【0019】
(効果) 従って、請求項2に係る発明によると、ステアリング操作量に対応して、片駆動による緩旋回、両駆動による確実な緩旋回、片制動による信地旋回、駆動方向が相違した両駆動による超信地旋回を順次行うことができるとともに、サイドクラッチの切られた走行装置に途切れのないトルク伝達を行って、衝撃のない微妙で円滑な機体操向を行うことのでき、一層操作性の優れたものにすることができた。また、機体旋回後、直進に復帰する際も、滑らかなサイドクラッチ入りが期待できる。
【0020】
【発明の実施の形態】
図1に、本発明を適用した農作業機の一例であるコンバインの右側面図が示されている。このコンバインは、左右一対のクローラ型の走行装置1L,1Rを備えた走行機体2の前部に、刈取り前処理部3を昇降自在に連結するとともに、機体上に、脱穀装置4、穀粒タンク5、エンジン6、操縦部7、などを搭載した構造となっている。
【0021】
以下、前記走行装置1L,1Rの伝動構造を図2、図3に基づいて説明するが、説明における左右方向の記述は機体の左右方向に基づいており、正面から見たこれらの図における左右方向とは逆の関係となっている。
【0022】
前記エンジン6の動力は、前後進の切換えが可能な主変速装置としての静油圧式無段変速装置(HST)8に伝達され、その変速出力がミッションケース9に伝達される。ミッションケース9に入力された動力は、ギヤG1 ,G2 を介して第1軸10に伝達された後、ギヤG3 ,G4 を介して副変速機構11に伝達される。また、第1軸10からケース外に取り出された動力のうち、正転動力のみがワンウエイクラッチOCを介して前記刈取り前処理部3に伝達される。なお、前記静油圧式無段変速装置8は、操縦部7に備えた主変速レバー29によって操作される。
【0023】
前記副変速機構11は、コンスタントメッシュ式に3段のギヤ変速を行うものであり、第2軸12に遊嵌装着した小径ギヤG5 ,中径ギヤG6 ,大径ギヤG7 を、第3軸13に固着したギヤG8 ,G9 ,G10にそれぞれ常時咬合させ、前記第2軸12上に配備した2つのシフトスリーブS1 ,S2 を同時に同方向にシフトすることで、3組の常噛みギヤ対のいずれか一組を用いて、第2軸12から第3軸13への3段の変速伝動を行うよう構成されている。
【0024】
前記第3軸13に伝達された動力は、中央のギヤG9 を介して第4軸19のセンターギヤG11に伝達された後、左右のサイドクラッチ20L,20R、車軸ギヤ21L,21R、および、車軸22L,22Rを介して左右の走行装置1L,1Rに伝達される。
【0025】
なお、図2中の83は、第3軸13の端部に作用するよう配備された、停止および駐車用のブレーキであり、操縦部7の足元に備えられたペダル84の踏み込み操作によって、エンジン6から静油圧式無段変速装置8への伝動系に配備された図示しない主クラッチが切り操作されるとともに、ブレーキ83が制動操作される。また、ペダル84を踏み込み位置に係止保持しておくことで、駐車ブレーキをかけることができるようになっている。
【0026】
図3に示すように、前記サイドクラッチ20L,20Rは、第4軸19に遊嵌されるとともに車軸ギヤ21L,21Rに常時咬合されたサイドクラッチギヤ23L,23Rをシフトして、前記センターギヤG11の中心内歯に側方から咬合離脱させることで、センターギヤG11から車軸22L,22Rへの動力伝達を断続するよう構成されたものであり、前記サイドクラッチギヤ23L,23Rをシフトする手段が以下のように構成されている。
【0027】
前記第4軸19は、中央部位が大径の段付き軸に構成されるとともに、サイドクラッチギヤ23L,23Rは、この第4軸19の大径部と小径部とに亘って外嵌する段付きの内径を備えており、互いの段差部の間が油室g,hとなっている。そして、常時は、バネ24L,24RによってセンターギヤG11側にスライド付勢されてクラッチ入り位置に保持され、第4軸19の内部に穿設された油路a,bを介して油室g,hに圧油が供給されて各サイドクラッチギヤ23L,23Rがバネ24L,24Rに抗して限界までシフトされると、センターギヤG11から外れてクラッチ切り状態がもたらされるようになっている。また、サイドクラッチギヤ23L,23Rがクラッチ切り位置までシフトされると、圧油供給用の前記油路a,bが、第4軸19の内部に穿設された油路dに連通されるようになっている。
【0028】
また、前記サイドクラッチギヤ23L,23Rは、センターギヤG11との咬合が外れたクラッチ切り位置に到達した後、第4軸19の両端部位に遊嵌装着された操向用サイドギヤ25L,25Rに、多板式の旋回用クラッチ90L,90Rを介して連結可能となっている。
【0029】
図3に示すように、前記旋回用クラッチ90L,90Rは、サイドクラッチギヤ23L,23Rに一体回転可能に連設された大径のクラッチケース91L,91Rにピストン92L,92Rを内嵌装着するとともに、操向用サイドギヤ25L,25Rから延出されたスプラインボス部93L,93Rと前記クラッチケース91L,91Rとの間に摩擦板94L,94R群を積層して介在した構造となっており、通常はバネ95L,95Rによってピストン92L,92Rをクラッチ切り側に付勢し、クラッチケース91L,91R内の油室i,jに圧油を供給してピストン92L,92Rをバネ95L,95Rに抗して変位させ、摩擦板94L,94R群を圧接することで、操向用サイドギヤ25L,25Rからサイドクラッチギヤ23L,23Rへの動力伝達を行うように構成されている。
【0030】
ここで、旋回用クラッチ90L,90Rのピストン92L,92Rを作動させる油室i,jは、サイドクラッチギヤ23L,23Rを作動させる油室g,hに、ギヤ内に穿設した連通油路k,mを介して連通接続されるとともに、この連通油路k,mには絞り流路部分p,qが備えられている。
【0031】
さらに、旋回用クラッチ90L,90Rの内部には、ピストン92L,92Rをクラッチ入り側に押圧するバネ100が周方向複数箇所に組み込まれており、ピストン92L,92Rを適度に軽く摩擦伝動部位に押し付けて、操向用サイドギヤ25L,25Rからクラッチケース91L,91Rに低トルクの回転動力が常に伝達されるよう構成されている。
【0032】
また、操向用サイドギヤ25L,25Rは、第5軸26の両端部位に固着されたギヤ27L,27Rに咬合されている。第5軸26には、ギヤG10に咬合されて減速連動されたギヤG14が遊嵌装着されるとともに、このギヤG14と第5軸26とに亘って、超信地旋回を司る多板油圧駆動式のクラッチSCが装備されている。このクラッチSCは、常時は内装したバネによってピストン101が後退復帰されて、クラッチ切り状態に維持され、第5軸26の内部に穿設された油路e(図4参照)を介して圧油が供給されることで、ピストン101がバネに抗して変位されてクラッチ入り状態に切換えられるようになっている。
【0033】
図4に、サイドクラッチ20L,20R、旋回用クラッチ90L,90R、クラッチSCを操作する操向用の油圧回路図および制御系統図が示されている。図において、V1 は、サイドクラッチ20L,20Rのサイドクラッチギヤ23L,23Rを択一的にシフト操作するための操向切換え弁であって、ソレノイドSL1 によって中立、および、正逆の3位置が選択される。また、図中のV3 は、第4軸19の内部に形成された油路dに接続されたシーケンス弁であり、その作動圧は、サイドクラッチ20L,20Rのサイドクラッチギヤ23L,23Rをクラッチ切り位置までシフトしてバネ24とバランスさせる圧に設定されている。そして、このシーケンス弁V3 の下手側に可変リリーフ弁V4 が接続されて、作動油タンクを兼用するミッションケース9に連通されるとともに、シーケンス弁V3 と可変リリーフ弁V4 との間から分岐した油路eがクラッチSC接続されている。
【0034】
前記操向切換え弁V1 を操作するソレノイドSL1 は、操縦部7のハンドル塔41に備えたステアリング操作具としてのステアリングレバー42に、制御装置43を介して電気的に連係されるとともに、前記可変リリーフ弁V4 は、ステアリングレバー42に機械的に連係されている。
【0035】
図1,図4に示すように、ハンドル塔41の上部右側(運転者から見て)に、ステアリングレバー42が支点x周りに左右揺動自在に装着されるとともに、ステアリングレバー42の基端から下方に延出した第1操作アーム47がポテンショメータ49に連係されており、ステアリングレバー42の左右揺動操作位置が電気的に検出されて制御装置43に入力されるようになっている。また、支点xには、一対の作動アーム51,52がそれぞれ上下揺動可能に装着されるとともに、両作動アーム51,52は図示しないねじりバネによって互いに接近する方向に揺動付勢されて、ハンドル塔41側に設けた固定ピン54を挟むように接当支持されている。そして、一方の作動アーム51の遊端部には、レリーズワイヤ50におけるアウタワイヤ端部が連結支持されるとともに、他方の作動アームの52遊端部には、レリーズワイヤ50におけるインナワイヤ端部が連結支持されている。また、ステアリングレバー42によって支点x周りに揺動される第2操作アーム48の遊端部に設けた操作ピン48aが、両作動アーム51,52の間に設置されている。
【0036】
上記構成によると、例えばステアリングレバー42を中立nから右旋回方向に揺動操作すると、第2操作アーム48が下方に揺動され、その操作ピン48aが一方の作動アーム51を下方に接当揺動させる。この時、他方の作動アーム52は固定ピン54との接当によって下方への揺動が阻止されているので、レリーズワイヤ50のインナワイヤが相対的にアウタワイヤから引き出される。また、逆に、ステアリングレバー42を中立nから左旋回方向に揺動操作すると、第2操作アーム48が上方に揺動され、操作ピン48aが他方の作動アーム52を上方に接当揺動させる。この時、一方の作動アーム51は固定ピン54との接当によって上方への揺動が阻止されているので、レリーズワイヤのインナワイヤがアウタワイヤから引き出される。つまり、ステアリングレバー42を中立nから右旋回方向あるいは左旋回方向のいずれに揺動操作しても、その操作量に応じてレリーズワイヤ50のインナワイヤが引き出し操作され、そのワイヤ引き出し量が大きくなるほど可変リリーフ弁V4 の作動圧が高くなるように連係されている。
【0037】
本発明に係る操向装置は以上のように構成されており、以下、その操向作動について説明する。
【0038】
ステアリングレバー42が中立nにある時には、サイドクラッチ20L,20Rは共にクラッチ入り状態にあり、左右のクローラ走行装置1L,1Rは同速で駆動され、機体は直進走行する。
【0039】
ステアリングレバー42が中立nから左右方向の一方、例えば右方に少し揺動操作されると、これがポテンショメータ49で検出されてソレノイドSL1 が通電駆動されて、操向切換え弁V1 が右旋回位置に切換えられ、圧油が油路bを介して油室hに供給されてサイドクラッチギヤ23Rがクラッチ切り位置までシフトされ、図3に示すように、右側のサイドクラッチ20Rが切られる。このため機体は左側のクローラ走行装置1Lの駆動により右方向に緩やかに旋回してゆく。
【0040】
この場合、サイドクラッチ20Lが切られていない左側の旋回用クラッチ90Lにおいてはバネ100Lを介した低トルク伝達が行われて、サイドクラッチギヤ23Lの動力の一部が操向用サイドギヤ25Lに伝達され、これがギヤ27L、第5軸26、ギヤ27R、および、操向用サイドギヤ25Rを経て右側の旋回用クラッチ90Rにまで回り込み伝達されてる。そして、この回り込み動力がバネ100Rを介した軽い摩擦伝動によって、クラッチ切り位置にあるサイドクラッチギヤ23Rに伝達され、右側のクローラ走行装置1Rは低トルクの動力伝達を受けることになる。従って、右側のクローラ走行装置1Rは、左側走行装置1Lの動力から取出した低トルクの動力伝達を受けながらサイドクラッチ20Rが切り操作されることになり、サイドクラッチ20Rが切られて主動力の伝達が遮断されたとたんにクローラ走行装置1Rが走行負荷によって完全に停止してしまうようなことはなく、サイドクラッチ20Rの切り作動に伴うショックが緩和される。
【0041】
なお、右側のサイドクラッチ20Rが切られると、その後、油室hの圧油が連通油路mを介して右側の旋回用クラッチ90Rの油室jにも供給されて、旋回用クラッチ90Rが入れられることになるが、ステアリングレバー42の操作量が少ない間は、可変リリーフ弁V4 の作動圧が未だ低いために、クラッチSCはクラッチ入り作動することはなく、操向用サイドギヤ25Rは逆転駆動されていない。従ってこの状態では、旋回用クラッチ90Rは入り操作されるが機体操向には関与しないことになる。
【0042】
ステアリングレバー42が更に右方に操作されると、可変リーフ弁V4 のリリーフ圧がシーケンス弁V3 の作動圧を超えた大きさとなり、圧油が油路eを介してクラッチSCに供給され、クラッチSCが入り操作されて操向用サイドギヤ25Rが逆転駆動されはじめる。この場合、ステアリングレバー42の操作量、換言すれば可変リーフ弁V4 のリリーフ圧によってクラッチSCにおける伝達トルクが変化し、その大きさによって異なった旋回が実行される。
【0043】
つまり、リリーフ圧が低くクラッチ操作圧が低い間はクラッチSCを介して右側の走行装置1Rに伝達される逆転トルクが小さく、サイドクラッチ20Lが切られていない左側の走行装置1Lの移動に伴って右側の走行装置1Rに働く引きずり移動力と、クラッチSCを介して走行装置1Rに伝達される逆転移動力とがバランスすると、右側の走行装置1Rはその場に停止され、左側の走行装置1Lのみの片駆動による旋回、いわゆる、信地旋回が実行される。そして、ステアリングレバー42を操作限度近くまで大きく操作すると、可変リーフ弁V4 のリリーフ圧が十分高くなってクラッチ操作圧は高くなり、クラッチSCは完全に繋がり、サイドクラッチ20Rの切られた右側の走行装置1Rは強く逆転駆動される。従って、駆動方向の異なる左右の走行装置1R,1Lによる急旋回、いわゆる、超信地旋回が実行される。
【0044】
また、機体操向が終了した後、ステアリングレバー42を中立nに戻すと上記操向状態が順次逆に行われ、サイドクラッチ20Rが入り操作されて直進に復帰するのであるが、クラッチ切り操作されたサイドクラッチギヤ23Rには、旋回用クラッチ90L,90Rを介して回り込み伝達された低トルクが伝達されているので、サイドクラッチギヤ23RがセンターギヤG11に咬合する際の駆動側と従動側との速度差の少ない状態での咬合が行われる。
【0045】
なお、言うまでもないが、ステアリングレバー42が左旋回方向に操作される場合も上記と同様な特性で左旋回作動が行われる。
【0046】
図5〜図7に、本発明の別の実施形態が示されている。図5に示すように、この例の伝動構造のうち、センターギヤG11までの伝動系は先の例と同一で、旋回用伝動構造が一部変更されており、以下、その変更構造について説明する。
【0047】
つまり、前記超信地旋回を司るクラッチSCを備えた第5伝動軸26には、センターギヤG11に一体化したギヤG12に咬合するギヤG13が遊嵌装着されるとともに、このギヤG13と第5伝動軸26とに亘って緩旋回を司る多板油圧駆動式のクラッチCが装備されている。このクラッチCは、常時は内装したバネによってピストン102が後退復帰されて、クラッチ切り状態に維持され、第5軸26の内部に穿設された油路c(図7参照)を介して圧油が供給されることで、ピストン102がバネに抗して変位されてクラッチ入り状態に切換えられるようになっている。
【0048】
そして、図7の油圧回路図および制御系統図に示すように、シーケンス弁V3 と可変リリーフ弁V4 との間から分岐した油路eの圧油を、クラッチCあるいはクラッチSCのいずれかに選択供給して旋回モードを切換えるモード切換え弁V2 が備えられている。このモード切換え弁V2 は、通常はクラッチCへの圧油供給位置に付勢され、ソレノイドSL2 によってクラッチSCへの圧油供給位置に切換えられるようになっている。そして、ソレノイドSL2 は、操向切換え弁V1 を操作するソレノイドSL1 と共に制御装置43に接続されており、ステアリングレバー42の操作位置を検出するポテンショメータ49からの検出情報に基づいて作動制御されるとともに、可変リリーフ弁V4 は、先の例と同様にステアリングレバー42に機械的に連係されている。
【0049】
上記構成によると、ステアリングレバー42が直進操作位置である中立nから左右方向の一方、例えば右方に少し揺動操作されると、これがポテンショメータ49で検出されてソレノイドSL1 が通電駆動され、操向切換え弁V1 が右旋回位置に切換えられ、圧油が油路bを介して油室hに供給されてサイドクラッチギヤ23Rがクラッチ切り位置までシフトされ、図6に示すように、右側のサイドクラッチ20Rが切られる。このため機体は左側のクローラ走行装置1Lの駆動により右方向に緩やかに旋回してゆく。
【0050】
この場合、前例と同様に、サイドクラッチ20Lが切られていない左側の旋回用クラッチ90Lにおいてはバネ100Lを介した低トルク伝達が行われて、サイドクラッチギヤ23Lの動力の一部が操向用サイドギヤ25Lに伝達され、これがギヤ27L、第5軸26、ギヤ27R、および、操向用サイドギヤ25Rを経て右側の旋回用クラッチ90Rにまで回り込み伝達されてる。そして、この回り込み動力がバネ100Rを介した軽い摩擦伝動によって、クラッチ切り位置にあるサイドクラッチギヤ23Rに伝達され、右側のクローラ走行装置1Rは低トルクの動力伝達を受けることになる。従って、右側のクローラ走行装置1Rは、左側走行装置1Lの動力から取出した低トルクの動力伝達を受けながらサイドクラッチ23Rが切り操作されることになり、サイドクラッチ20Rが切られて主動力の伝達が遮断されたとたんにクローラ走行装置1Rが走行負荷によって完全に停止してしまうようなことはなく、サイドクラッチ20Rの切り作動に伴うショックが緩和される。
【0051】
なお、右側のサイドクラッチ20Rが切られると、その後、油室hの圧油が連通油路mを介して右側の旋回用クラッチ90Rの油室jにも供給されて、旋回用クラッチ90Rが入れられることになるが、ステアリングレバー42の操作量が少ない間は、可変リリーフ弁V4 の作動圧が未だ低いために、クラッチCはクラッチ入り作動することはなく、操向用サイドギヤ25Rは減速駆動されていない。従ってこの状態では、旋回用クラッチ90Rは入り操作されるが機体操向には関与しないことになる。
【0052】
ステアリングレバー42が更に右方に操作されると、可変リーフ弁V4 のリリーフ圧がシーケンス弁V3 の作動圧を超えた大きさとなり、圧油が油路cを介してクラッチCに供給され、クラッチCが入り操作されて操向用サイドギヤ25Rが減速駆動される。この場合、ステアリングレバー42が大きく操作されるほど可変リーフ弁V4 のリリーフ圧が高まって、クラッチCにおける伝達トルクが増加し、右側の走行装置1Rは次第に左側の走行装置1Lと同方向に所定の減速比で駆動され、その左右の速度差に基づいて機体が右方に旋回される。
【0053】
ステアリングレバー42が更に右方に操作されてると、これがポテンショメータ49からの情報に基づいて判別され、ソレノイドSL2 が通電されてモード切換え弁V2 が切換えられ、圧油は油路eを介してクラッチSCに供給され、クラッチSCが入り操作されて操向用サイドギヤ25Rが逆転駆動される。この場合、ステアリングレバー42の操作量、換言すれば可変リーフ弁V4 のリリーフ圧によってクラッチSCにおける伝達トルクが変化し、その大きさによって異なった旋回が実行される。
【0054】
つまり、リリーフ圧が低くクラッチ操作圧が低い間はクラッチSCを介して右側の走行装置1Rに伝達される逆転トルクが小さく、サイドクラッチ20Lが切られていない左側の走行装置1Lの移動に伴って右側の走行装置1Rに働く引きずり移動力と、クラッチSCを介して走行装置1Rに伝達される逆転移動力とがバランスすると、右側の走行装置1Rはその場に停止され、左側の走行装置1Lのみの片駆動による旋回、いわゆる、信地旋回が実行される。そして、ステアリングレバー42を操作限度近くまで大きく操作すると、可変リーフ弁V4 のリリーフ圧が十分高くなってクラッチ操作圧は高くなり、クラッチSCは完全に繋がり、サイドクラッチ20Rの切られた右側の走行装置1Rは強く逆転駆動される。従って、駆動方向の異なる左右の走行装置1R,1Lによる急旋回、いわゆる、超信地旋回が実行される。
【0055】
また、この例においても、ステアリングレバー42を中立nに戻して直進に復帰する時も、サイドクラッチの切られた走行装置には低トルクが伝達されているので、サイドクラッチが咬合式のものであっても、駆動側と従動側との速度差の少ない状態での咬合が行われる。
【0056】
なお、図7中の符号Swは、ソレノイドSL2 の作動を阻止する信号を出して、旋回モードの切換えを牽制阻止する切換えスイッチであって、これが緩旋回モードに切換え操作されると、ステアリングレバー42を大きく操作してもクラッチCのみが機能する状態が維持され、ステアリングレバー42が大きく操作されてもクラッチCを利用した緩旋回のみが実行される。
【0057】
本発明は、以下のような形態で実施することもできる。
【0058】
(1)上記実施形態では、左右揺動自在なステアリングレバー42をステアリング操作具としているが、回転操作するステアリングハンドルをステアリング操作具として利用することもできる。
【0059】
(2)前記サイドクラッチ20L,20Rのサイドクラッチギヤ23L,23Rを一対のシフトフォークで外部からシフト操作するように構成してもよい。この場合、そのシフトフォークをそれぞれ外装した油圧シリンダで操作するように構成することもできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】コンバイン全体の右側面図
【図2】走行用ミッションケースの伝動構造をしめす正面図
【図3】サイドクラッチ周辺の拡大した縦断正面図
【図4】操向用の油圧回路と制御系の構成図
【図5】別の実施形態における走行用ミッションケースの伝動構造をしめす正面図
【図6】別の実施形態におけるサイドクラッチ周辺の拡大した縦断正面図
【図7】別の実施形態における操向用の油圧回路と制御系の構成図
【符号の説明】
1L,1R 走行装置
20L,20R サイドクラッチ
42 ステアリング操作具
90L,90R 旋回用クラッチ

Claims (2)

  1. 左右一対のクローラ型の走行装置のそれぞれにサイドクラッチが装備されるとともに、サイドクラッチが切られた一方の走行装置を逆転駆動する旋回用伝動手段が備えられ、ステアリング操作具が、中立位置から左右一方へ操作されると、先ず、一方の走行装置のサイドクラッチが切られ、引き続きステアリング操作具が同方向への操作されると、サイドクラッチの切られた走行装置と前記旋回用伝動手段とを旋回用クラッチを介して連動連結するよう構成し、前記旋回用クラッチを摩擦式クラッチに構成するとともに、旋回用クラッチに、常に低トルクを常時伝達するスリップ可能な低トルク伝達手段を装備してあることを特徴とする農作業機の操向装置。
  2. 左右一対のクローラ型の走行装置のそれぞれにサイドクラッチが装備されるとともに、サイドクラッチが切られた一方の走行装置を減速駆動する旋回用伝動手段、および、サイドクラッチが切られた一方の走行装置を逆転駆動する旋回用伝動手段が備えられ、ステアリング操作具が、中立位置から左右一方へ操作されると、先ず、一方の走行装置のサイドクラッチが切られ、引き続きステアリング操作具が同方向への操作されると、サイドクラッチの切られた走行装置と前記旋回用伝動手段とを旋回用クラッチを介して連動連結するよう構成し、
    前記旋回用クラッチを摩擦式クラッチに構成するとともに、旋回用クラッチに、常に低トルクを常時伝達するスリップ可能な低トルク伝達手段を装備してあることを特徴とする農作業機の操向装置。
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