JP3492951B2 - 医療用高分子ゲル - Google Patents

医療用高分子ゲル

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は医療用高分子ゲルに
関する。詳しくは、本発明は新規な薬剤放出特性を有す
る、医療用高分子ゲルに関する。本発明の医療用高分子
ゲルは、創傷被覆材、生体組織接着剤、癒着防止材、骨
補強材、薬剤放出基材の構成成分として有用である。
【0002】
【従来の技術】本明細書において水膨潤性高分子ゲルと
は、血液、血漿、細胞間液等の体液または生理食塩水等
の体液類似液に膨潤するものであって、生体親和性を有
するものを意味する。多糖類からなる水膨潤性高分子ゲ
ルとしては、寒天、アガロース、カラゲニンからなるゲ
ルが知られている。化学的に架橋したデキストランやセ
ルロースのゲル、カルシウムイオンで架橋されたアルギ
ン酸ゲル、キチンまたはキトサンからなるゲルも知られ
ている。
【0003】水膨潤性高分子ゲルが医療用途へ応用され
ている例としては、創傷被覆材、コンタクトレンズ、眼
内レンズ、生体組織接着剤、癒着防止材、血液浄化用吸
着剤、人工膵臓や人工肝臓等のハイブリッド人工臓器、
人工軟骨、薬剤徐放性基材等がある。水膨潤性高分子ゲ
ルはその組成と力学的性質が生体組織に近いので、今後
ますます広く応用されると考えられる。
【0004】従来、外傷や熱傷、潰瘍、褥瘡等の創傷の
治療にはガーゼや軟膏類が用いられてきた。これらは滲
出液を吸収し、かつ外部からの細菌等の侵入を防ぐ効果
がある。近年、創部の滲出液中に治癒を促進する種々の
増殖因子(bFGF、TGFβ等)が存在することが明
らかになり(Howell, J.M.,Current and Future Trends
in Wound Healing, Emerg. Med.Clin.North Amer., 1
0, 655-663 (1992). )、これらの増殖因子を創部に保
持して創治癒促進効果を示す閉鎖性被覆材が注目される
ようになった(Eaglstein, W.E., Experience with bio
synthetic dressings. J. Am. Acad. Dermatol., 12, 4
34-440 (1985).)。
【0005】閉鎖性被覆材としてはポリウレタンフィル
ム、ハイドロコロイド、アルギン酸塩繊維からなる不織
布、ポリビニルアルコールスポンジ、ポリエチレングリ
コールやポリアクリルアミドの水膨潤性高分子ゲル等が
用いられている。生体組織接着剤としてはシアノアクリ
レート系の重合性接着剤、フィブリン糊が使用されてい
る。癒着防止材としてはオキシセルロースメッシュから
なるものが知られている。
【0006】これらの水膨潤性高分子ゲルの製造方法と
しては、コハク酸またはグルタル酸で架橋したアミロー
ス、デキストランまたはプルラン等の固形物の製造方法
が知られている(特開昭51−34978号公報)。こ
れらは止血剤として好適である。また、キトサンとN−
ヒドロキシコハク酸イミドエステルとを反応させて得ら
れる架橋キトサンが知られている(特開平2−1809
03号公報)。これは人工皮膚等の医薬関連分野に有用
である。さらに、キチン誘導体を硫酸、アスパラギン
酸、グルタミン酸等で一時的にイオン架橋した粘弾性流
体も製造されており、癒着予防に使用されている(特開
平3−167201号公報)。
【0007】しかしながら、上記のような医療用材料に
は医療用途としての有用性のほかに生体親和性が必須の
性質として要求される。これまで多くの医療用材料が開
発されてきたが、生体親和性をもつ一種の材料で各種の
医療用途の全てを満足させるものはまだ知られていな
い。組成と力学的性質が生体に近い多糖類水膨潤性高分
子ゲルも医療用途へ応用が試みられているが、一般に安
定性と強度が低いので以下に示すような湿熱蒸気滅菌に
耐えるものが少なく、医療用具としては問題がある。医
療用具の製造上不可欠な滅菌は、ホルマリン滅菌、エチ
レンオキシドガス滅菌、湿熱蒸気滅菌または放射線滅菌
などにより行われる。ホルマリン滅菌、エチレンオキシ
ドガス滅菌は、水膨潤性高分子ゲルの場合特に残留薬物
を完全に除去することが困難であり、残留毒性の心配が
あった。湿熱蒸気滅菌は装置が安価で残留物がなく、安
全性の高い滅菌方法であるが、121℃、20分間とい
う苛酷な条件に耐えられる水膨潤性高分子ゲルはほとん
どなかった。放射線滅菌は残留物がなく安全性の高い方
法であるが、照射装置が高価であること、放射線により
水から生じるラジカルが化学結合を切断したり架橋反応
を起こしたりして、水膨潤性高分子ゲルの性質が変化す
るなどの問題があった。
【0008】また、寒天、アガロース、カラゲニン等か
らなるゲルは、機械的強度が弱く、また加熱すると溶解
するので医療用具の構成材料としては適していない。化
学的に架橋したデキストランやセルロースのゲルは加熱
により溶解することはないが、架橋処理により硬くな
り、含水率も低下して生体親和性が悪くなる。また、架
橋処理により着色したり不透明となる。カルシウムイオ
ンで架橋されたアルギン酸ゲルは架橋度が高いと半透明
となり、また体液や生理的塩類溶液中でイオン交換によ
り徐々に溶解するという問題点がある。また、機械的強
度が弱く、破砕され易い。キチンやキトサンは体液や細
菌感染により溶解するという問題がある。
【0009】創傷被覆材として用いられるポリウレタン
フィルムは透明性と閉鎖性は高いものの水吸収性が無い
ので滲出液が多い創傷には使用できない。ハイドロコロ
イド、アルギン酸塩繊維からなる不織布およびポリビニ
ルアルコールスポンジ等は、いずれも滲出液貯溜性はあ
るが不透明なので創部の観察ができない。さらにハイド
ロコロイド系被覆材では、生体分解性がないためその主
要成分が組織中に長期間残存して、慢性炎症を引き起こ
すという問題もある(Young, S.R. et al., J.Invest.
Comparison of the effect of semi-occlusive polyure
thane dressings and hydrocolloid dressings on derm
al repair: 1. Cellular changes.Dermatol., 97, 586
-592 (1991))。ポリエチレングリコールやポリアクリ
ルアミドの水膨潤性高分子ゲルは透明性が良好なものも
あるが、やはり合成高分子なので生体分解性がなく、ハ
イドロコロイド系被覆材の場合と同様に創部に残存して
慢性炎症反応を生じるという心配がある。さらに両者の
原料のモノマーは毒性が強く、モノマーの残存や分解成
分による毒性発現の心配がある。
【0010】また、ポリウレタンフィルムやハイドロコ
ロイドなどの閉鎖性被覆材は、治癒促進効果に優れてい
るものの、一度細菌感染を起こすと湿潤環境が細菌にと
っても好適な培地となるため、急激に増殖して重度の感
染をひきおこす危険性がある。これに対しては抗菌剤の
全身投与や、局所投与が行われるが、細菌感染創は一般
に血行が悪く全身投与では有効量の抗菌剤が創部に到達
せず、また局所投与では抗菌剤の細胞毒性による副作用
のおそれもある。
【0011】生体組織接着剤として用いられているシア
ノアクリレート系の重合性接着剤はモノマーの細胞毒性
が強いこと、フィブリン糊は生体由来であるので安定な
供給と性能の維持が難しいことおよびウイルス感染の心
配があることなどの問題がある。癒着防止材として用い
られているオキシセルロースメッシュは布状であるので
操作性が悪く、また生体親和性も良くないので、慢性炎
症反応を引き起こすなどの問題がある。特開昭51−3
4978号公報に開示されている製造方法により製造さ
れる、止血剤として好適なコハク酸またはグルタル酸で
架橋したアミロース、デキストランまたはプルランは、
固形物であって柔軟性がないので、該明細書に示される
ごとく粉砕した粉末、あるいはスポンジとせざるを得な
い。従って創傷被覆材や癒着防止材に要求されるような
透明性と閉鎖性を満足させることはできない。さらに、
架橋に用いられているエステル結合は水溶液中あるいは
体液中で容易に加水分解され、水膨潤性ゲルとしての性
質が時間とともに損なわれる。また、溶出物が多くな
り、安全性の点でも問題がある。実際に、これらは止血
材として短時間の使用を目的としたもので数日から数ヵ
月の連続使用に耐えうるものではない。
【0012】キトサンとN−ヒドロキシコハク酸イミド
エステル化合物とを反応させて得られる架橋キトサンが
知られており(特開平2−180903号公報)、人工
皮膚などの医薬関連分野に有用であると期待される。該
架橋キトサンは実施例によれば、破断伸び率が30%以
下と硬く脆いものであり、創傷被覆材や癒着防止材に要
求される伸縮性や柔軟性を満足することは困難である。
また、これらも架橋剤中にエステル結合が存在するの
で、水溶液中あるいは体液中で加水分解を受け、溶出物
を生じるとともに、水膨潤性高分子ゲルの性質が劣化す
る。また、キチン誘導体を硫酸またはアスパラギン酸、
グルタミン酸で一時的にイオン架橋した粘弾性流体を用
いる組織の癒着予防法が知られている(特開平3−16
7201号公報)が、これらは可逆的なイオン結合なの
で、体液等の高濃度の塩を含む溶液と接触すること等に
より、水膨潤性高分子ゲルの性質が劣化する。このよう
に、従来知られている水膨潤性高分子ゲルの中には、各
種の医療用途に必要な性質を全て具備し、しかも生体親
和性を有するものは見当たらないのが現状である。
【0013】一方、高分子ゲルは医療分野において上記
のような各種用途に用いられているばかりでなく、近年
では、高分子ゲルに薬剤を含有させたドラッグデリバリ
ーシステム(DDS)や薬物を含有させた創傷被覆材等
が提案されている。例えば、薬剤を封入した脂質微粒子
をOHラジカルにより分解する架橋ヒアルロン酸ゲルに
含有させたもの(由井他、Polymer Preprints, Japan
(1993) 42(8), p.3186-3188参照)や、セルロース粉末
に-Phe- 、-Tyr- 、-Ile-Tyr- 、-Gly-Ile-Tyr- を介し
てpholcodineを結合させたもの(F.Lapicque & E.Della
cherie, J Controlled Release (1986) 4, p.39-45参
照)等がその例として挙げられる。また、薬物を含有さ
せた創傷被覆材としては、傷手当て具を構成している不
溶性アルギン酸塩と可溶性アルギン酸塩との混合アルギ
ン酸塩からなる傷接触パッドに、抗微生物剤や局部麻酔
剤等の薬剤を含有させたものが知られている(特表平4
−501067号公報)。また、少なくとも表面に創傷
治癒を促進するペプチドを共有結合し、かつ殺菌剤を含
有させたヒドロゲルを構成材料とする創傷用被覆物も記
載されている(特表平6−500028号公報)。
【0014】しかし、薬剤を封入した脂質微粒子をOH
ラジカルにより分解される架橋ヒアルロン酸ゲルに含有
させたドラッグデリバリーシステムでは、OHラジカル
の発生する部位でヒアルロン酸ゲルが分解され、薬剤を
封入した脂質微粒子が放出されるが、OHラジカルが多
量に発生するのは、炎症の一時期および炎症部位のごく
一部に限定されるため、適用対象疾患がかなり限定され
る。また、脂溶性が高くない薬剤は脂質微粒子に封入さ
れないので、使用できる薬剤もかなり限定される。さら
に、脂質微粒子に封入された薬剤は、脂質微粒子から外
部の水相に徐々に放出されるので、病巣部位以外におい
ても薬剤が徐々に放出されてしまい、副作用のおそれが
ある。さらに、セルロース粉末に-Phe- 、-Tyr- 、-Ile
-Tyr- 、-Gly-Ile-Tyr- を介してpholcodineを結合させ
たドラッグデリバリーシステムでは、酵素の存在によ
り、セルロース粉末に固定化された薬剤は一応放出され
はするが、薬剤の放出量は固定化量の1/1000〜1
/20000と非常に少なく、実用的でない。
【0015】特表平4−501067号公報に記載され
ている創傷被覆材では、抗微生物剤や局部麻酔剤等の薬
剤をゲルのパッドに含有させ得ることが記載されている
が、この薬剤はゲルに固定化されていないので、常に放
出されており、副作用のおそれがある。特表平6−50
0028号公報の創傷用被覆物では、表面に創傷治癒促
進ペプチドが化学結合されており、この結合は切断され
ないので、創傷用被覆物に接触している部位でしか効果
が発現しない。また、殺菌剤を構成成分のヒドロゲルに
含有させた場合には、殺菌剤が常に放出されるため、副
作用が発現するおそれがある。このように、従来知られ
ている医療用高分子ゲルでは、目的の病巣部位において
のみ、治療に有効な量の薬剤が放出されるようなものは
得られておらず、より安全な治療システムが求められて
いる。
【0016】
【発明が解決しようとする課題】そこで、本発明の目的
は、酵素が産生される病巣部位においてのみ、治療に有
効な量の薬剤を放出させることが可能な医療用高分子ゲ
ルを提供することにある。
【0017】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記の課題
を解決すべく鋭意研究を続け、酵素反応で主鎖が切断さ
れ得る分解性基およびスペーサーを介して、薬剤が水膨
潤性高分子ゲルに固定化された医療用高分子ゲルを提供
することにより達成されることを発見した。本発明は、
かかる発見に基づきさらに研究を進めて完成するに至っ
たものである。
【0018】 即ち、本発明の要旨は、下記の一般式
(I) A−B−C−D (I) (式中、Aは水膨潤性高分子ゲルを表し、Bはスペーサ
ーを表し、Cは酵素反応で主鎖が切断され得る分解性基
を表し、Dは薬剤を表す。)により表される結合形態に
より、薬剤が、酵素反応で主鎖が切断され得る分解性基
およびスペーサーを介して、水膨潤性高分子ゲルに固定
化された医療用高分子ゲルであって、スペーサーが、炭
素原子、窒素原子および酸素原子のうち主鎖に含有され
ている原子の数の合計が4個以上の、ペプチドでない分
子鎖であり、酵素反応で主鎖が切断され得る分解性基
が、 -Ile-Glu-Gly-Arg- -Ala-Gly-Pro-Arg- -Arg-V
al-(Arg) 2 - -Val-Pro-Arg- -Gln-Ala-Arg- -Gln-G
ly-Arg- -Asp-Pro-Arg- -Gln-(Arg) 2 - -Phe-Arg-
-(Ala) 3 - -(Ala) 2 - -Ala-Ala(D)- -(Ala) 2 -Pro
-Val- -(Val) 2 - -(Ala) 2 -Leu- -Gly-Leu- -Phe-Le
u- -Val-Leu-Lys- -Gly-Pro-Leu-Gly-Pro- -(Al
a) 2 -Phe- -(Ala) 2 -Tyr- -(Ala) 2 -His- -(Ala) 2 -Pro-
Phe- -Ala-Gly-Phe- -Asp-Glu- -(Glu) 2 - -Ala-G
lu- -Ile-Glu- -Gly-Phe-Leu-Gly- 、および -(Arg)
2 - からなる群より選択されるものである、医療用高分子
ゲル、に関するものである。
【0019】
【発明の実施の形態】以下に本発明について詳細に説明
する。本発明の医療用高分子ゲルは、一般式(I)、A
−B−C−Dにより表される結合形態により、薬剤が、
酵素反応で主鎖が切断され得る分解性基およびスペーサ
ーを介して、水膨潤性高分子ゲルに固定化されたもので
ある。式中、Aは水膨潤性高分子ゲルを表し、Bはスペ
ーサーを表し、Cは酵素反応で主鎖が切断され得る分解
性基を表し、Dは薬剤を表す。Aの水膨潤性高分子ゲル
は、血液、血漿、細胞間液等の体液、または生理食塩水
等の体液類似液に膨潤するものであって、生体親和性を
有するものであれば特に限定されない。該高分子ゲルを
構成する高分子素材としては、例えば、アルギン酸、キ
チン、キトサン、ヒアルロン酸、セルロースおよびこれ
らの誘導体等の多糖類、ゼラチン、コラーゲン、カゼイ
ン、アルブミン等の蛋白質類、ポリアスパラギン酸、ポ
リグルタミン酸、ポリリジン等のポリペプチド類、ポリ
ビニルアルコール(PVA)、エチレンビニルアルコー
ル共重合体類、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリ
アクリル酸およびこれらの誘導体等の合成高分子類を挙
げることができる。これらの高分子素材の化合物単独ま
たは2種類以上の混合物を、共有結合、疎水結合、水素
結合、静電結合等で架橋することにより、水膨潤性高分
子ゲルが得られる。例えば、アルギン酸、ポリアクリル
酸、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン酸、およびこ
れらの誘導体等のカルボキシル基を有する高分子素材で
は、Ca++イオン等の多価金属イオンを添加することに
より、静電結合架橋ゲルが得られる。同様に、これらの
カルボキシル基を有する高分子素材と、キトサン、ポリ
リジン等のアミノ基を有する高分子素材を混合すること
によっても、静電結合架橋ゲルが得られる。ゼラチン、
PVAおよびこれらの誘導体等の高分子素材では、これ
らの水溶液またはこれらの有機溶媒の溶液を冷却するこ
とにより、水素結合架橋ゲルが得られる。エチレンビニ
ルアルコール共重合体、ポリアクリル酸およびこれらの
誘導体等の、水混和性有機溶媒に溶解する高分子素材の
場合は、水混和性有機溶媒に溶解して得られた溶液を水
中に投入することにより水素結合・疎水結合架橋ゲルが
得られる。アルギン酸、ヒアルロン酸、キトサン、蛋白
質、ポリリジン、ポリアスパラギン酸、ポリグルタミン
酸、ポリアクリル酸、PVAおよびこれらの誘導体等の
反応性基を有する高分子素材では、リジンのオリゴマ
ー、エチレンジアミン、ジアミノアルカン誘導体、グリ
セリン、コハク酸、シュウ酸等の多官能性化合物と共有
結合を形成させることにより、共有結合架橋ゲルが得ら
れる。さらに、これらの高分子素材では、アルキル化オ
リゴペプチド、脂肪酸、脂肪族アミン、脂肪族アルコー
ル、およびこれらの誘導体等の疎水性化合物を結合する
ことにより、疎水結合架橋ゲルが得られる。ポリアクリ
ル酸、PVA、PVP、およびこれらの誘導体等の合成
高分子素材では、これらの重合の際に、ビスアクリルア
ミド、エチレングリコールビスメタクリレート等の多官
能性モノマーを共重合させることにより、共有結合架橋
ゲルが得られる。なかでも、アルギン酸などの多糖類を
高分子素材とした疎水結合架橋ゲル、静電結合架橋ゲ
ル、共有結合架橋ゲル、PVAを高分子素材とした水素
結合架橋ゲル、疎水結合架橋ゲルが好ましい。特に、分
子内にカルボキシル基を有する多糖類を、下記の一般式
(II) R1 HN−(CH2)n −NHR2 (II) (式中、nは2から18の整数を表し、R1 およびR2
はそれぞれ水素原子または−COCH(NH2 )−(C
24 −NH2 で表される基を示す。)で表される架
橋性試薬またはその塩で共有結合架橋して得られる水膨
潤性高分子ゲル(以下、これを水膨潤性高分子ゲル(I
I)と略記することがある。)が好ましい。この水膨潤
性高分子ゲル(II)は、後記するように共有結合架橋ゲ
ルが主体であり、機械的強度が強く、安定性、耐熱水性
に優れているため滅菌処理等が容易であるばかりでな
く、含水性にも優れているため生体親和性が特によく、
また透明性にも優れているため創傷部位の観察が可能で
ある等のかずかずのメリットを有するからである。
【0020】高分子ゲルの構成素材としてPVAを用い
る場合には、平均重合度1500以上、ケン化度60〜
100%のものが好ましい。得られるゲルの強度の面か
ら、平均重合度が4000以上のものが好ましく、平均
重合度が10000以上のものがさらに好ましい。得ら
れるゲルの強度の面から、ダイアッド表示によるシンジ
オタクティシティーが50%以上のものが好ましく、5
3%以上のものがより好ましい。
【0021】細胞や組織の表面は、親水性の糖鎖の存在
により多量の水を含んだゲル様の構造を持つ。一方水膨
潤性高分子ゲルも多量の水を含み、生体と類似した構造
を持つので優れた生体親和性を示す。しかし、水膨潤率
が高すぎるとゲルの物理的な強度が低下する。従って、
Aの水膨潤性高分子ゲルの膨潤率は、ゲルを構成する高
分子素材の乾燥重量1に対して、平衡膨潤後の吸水重量
として1〜1000の範囲が好ましく、10〜200の
範囲がより好ましい。
【0022】Cの酵素反応で主鎖が切断され得る分解性
基としては、病巣部位に存在する酵素、例えば、エラス
ターゼ、カテプシンG、カテプシンE、カテプシンB、
カテプシンH、カテプシンL、トリプシン、ペプシン、
キモトリプシン、γ- グルタミルトランスフェラーゼ
(γ−GTP)等のペプチド加水分解酵素、ホスホリラ
ーゼ、ノイラミニダーゼ、デキストラナーゼ、アミラー
ゼ、リゾチーム、オリゴサッカラーゼ等の糖鎖加水分解
酵素、アルカリホスファターゼ、エンドリボヌクレアー
ゼ、エンドデオキシリボヌクレアーゼ等のオリゴヌクレ
オチド加水分解酵素等、またはこれら以外の病巣部位に
存在する酵素によって特異的に主鎖が切断されるもので
あれば、特に限定されるものではない。該分解性基とし
ては、例えば、-Arg- 、-Ala- 、-Ala(D)-、-Val- 、-L
eu- 、-Lys- 、-Pro- 、-Phe- 、-Tyr- 、-Glu- 等のア
ミノ酸残基、または-Ile-Glu-Gly-Arg- 、-Ala-Gly-Pro
-Arg- 、-Arg-Val-(Arg)2-、-Val-Pro-Arg- 、-Gln-Ala
-Arg- 、-Gln-Gly-Arg- 、-Asp-Pro-Arg- 、-Gln-(Arg)
2-、-Phe-Arg- 、 -(Ala)3- 、-(Ala)2-、-Ala-Ala(D)
-、-(Ala)2-Pro-Val-、-(Val)2-、-(Ala)2-Leu-、-Gly-
Leu- 、-Phe-Leu- 、-Val-Leu-Lys- 、-Gly-Pro-Leu-Gl
y-Pro- 、-(Ala)2-Phe-、-(Ala)2-Tyr-、-(Ala) 2-His
-、-(Ala)2-Pro-Phe-、-Ala-Gly-Phe- 、-Asp-Glu- 、-
(Glu)2-、-Ala-Glu- 、-Ile-Glu- 、-Gly-Phe-Leu-Gly-
、-(Arg)2-等の2〜6量体のオリゴペプチド類、D−
グルコース、N−アセチルガラクトサミン、N−アセチ
ルノイラミン酸、N−アセチルグルコサミン、N−アセ
チルマンノサミンまたはこれらのオリゴ糖類、オリゴデ
オキシアデニン、オリゴデオキシグアニン、オリゴデオ
キシシトシン、オリゴデオキシチミジンのオリゴデオキ
シリボ核酸類、オリゴアデニン、オリゴグアニン、オリ
ゴシトシン、オリゴウリジン等のオリゴリボ核酸類等を
挙げることができる。なかでも、酵素による切断のされ
易さや、体内に入った場合の安全性等の観点から、アミ
ノ酸または2〜6量体のオリゴペプチドを用いるのが好
ましく、-Val-Pro-Arg- 、-(Ala)2-Pro-Val-、-Ala-Gly
-Phe- 、-(Ala)3-、-Asp-Glu- 、-(Ala)2-Phe-、-(Ala)
2-Pro-Phe-、-Gly-Phe-Leu-Gly- 、-(Arg) 2-、-Phe-Arg
- のオリゴペプチドを用いるのがより好ましい。
【0023】Bのスペーサーは、酵素と前記の分解性基
との反応性を制御するものであり、本質的にスペーサー
自体は酵素によって分解されない。病巣部位に存在する
酵素が分解性基と適切に反応し得るように作用するもの
であれば、特にスペーサーの構造は限定されないが、ス
ペーサーの長さは分解性基と酵素との反応性に直接的な
影響を与えるので重要である。スペーサーを使用しない
場合には、分解性基の分解反応性が著しく低下し、治療
に有効な量の薬剤が本発明の医療用高分子ゲルから放出
され難くなる。即ち、炭素原子、窒素原子および酸素原
子のうち主鎖に含有されている原子の数の合計が少ない
分子鎖をスペーサーとして用いる場合には、水膨潤性高
分子ゲルの立体障害のため、酵素と分解性基との反応性
が低下し、薬剤の放出量が減少する。該原子の数の合計
が3個以下では、治療に有効な量の薬剤の放出は期待で
きない。該原子の数の合計が増大すると、酵素と分解性
基との反応性が増大するが、該原子の数の合計が20個
を越える場合には、スペーサーがターン構造やα- ヘリ
ックス等の高次構造をとる場合もあり、このような高次
構造をとった場合には酵素と分解性基との反応性が低下
することがある。さらに、該原子の数の合計が20個を
越えると、スペーサー内あるいはスペーサー間の疎水性
相互作用などによりスペーサーが凝集し、酵素と分解性
基との反応性が低下することがある。また、酵素と分解
性基との反応性が増大し過ぎて、不必要な量の薬剤が放
出されることもある。したがって、スペーサーが、炭素
原子、窒素原子および酸素原子のうち主鎖に含有されて
いる原子の数の合計が4個以上の分子鎖であるのが好ま
しく、4〜20個の分子鎖であるのがより好ましく、6
〜16個の分子鎖であるのがさらに好ましい。スペーサ
ーとして水酸基等の極性基を有するものは、酵素と分解
性基との反応性を高め、薬剤放出量を増大させる。スペ
ーサーが連続したメチレン鎖やエチレンオキシド鎖の場
合には、酵素と分解性基との反応性が増大する。一方、
アミド基や環状基が多く含まれると、スペーサーが特定
の構造に固定されるため、酵素と分解性基との反応性が
減少する傾向がある。
【0024】スペーサーとしては、例えば、置換基を有
していてもよいメチレン鎖、エーテル結合、ペプチド結
合、イミノ結合、C=C二重結合等を有していてもよい
線状分子鎖を挙げることができる。具体例としては、-C
O-(CH2)2-CO-、-CH2-CO-NH-(CH2)2-NH-CO-(CH2)2-CO-、
-CH2-CH(OH)-CH2-NH-CO-(CH2)2CO- 、-CH2-CH(OH)-CH 2-
NH-(CH2)2-NH-CO-(CH2)2CO- 、-NH-(CH2)2-NH-CO-CH2-N
H-CO-(CH2)2-CO- 、-CO-(CH2)2-NH-CO-CH2-NH-CO-(CH2)
2-CO- 、-NH-(CH2)2-NH-CO-CH2-NH-CO-(CH2)3-CO- 、-N
H-(CH2)2-NH-CO-(CH2)2-NH-CO-(CH2)2-CO-、-NH-(CH2)2
-NH-CO-CH(CH3)-NH-CO-(CH2)2-CO- 、-NH-(CH)2-NH-CO-
CH(CH2OH)-NH-CO-(CH2)-CO- 等を挙げることができる。
なかでも、-NH-(CH2)2-NH-CO-CH2-NH-CO-(CH2)2-CO- 、
-CH2-CH(OH)-CH2-NH-CO-(CH2)2CO- が好ましい。
【0025】スペーサーおよび酵素反応で主鎖が切断さ
れ得る分解性基は、通常の有機合成によって調製され
る。オリゴペプチドは、ペプチドの合成において通常用
いられる方法、例えば、固相合成法または液相合成法に
よって調製される〔例えば、日本生化学会編「続生化学
実験講座2 タンパク質の化学(下)」(昭和62年5
月20日、株式会社東京化学同人発行)第641〜69
4頁参照〕。オリゴ糖は糖鎖の合成ないし抽出において
通常用いられる方法によって調製される〔例えば、日本
生化学会編「新生化学実験講座3 糖質I」(1990
年、株式会社東京化学同人発行)第95〜140頁およ
び第421〜438頁参照〕。オリゴ核酸は核酸の合成
ないし抽出において通常用いられる方法によって調製さ
れる〔例えば、日本生化学会編「新生化学実験講座2
核酸III 」(1992年、株式会社東京化学同人発行)
第254〜269頁;日本生化学会編「新生化学実験講
座2核酸I」(1991年、株式会社東京化学同人発
行)第147〜168頁参照〕。
【0026】本発明に用いられるDの薬剤は、用途によ
って適宜選択できる。創傷被覆材、生体組織接着剤、癒
着防止材として用いる場合には、例えば、消毒剤、抗生
剤等の抗菌剤、アクトシン、プロスタグランジンE1
(PGE1 )等の血行改善薬、ステロイド、インドメタ
シン等の消炎鎮痛剤、形質転換成長因子(transforming
growth factor β:TGFβ)、血小板由来成長因子
(platelet-derived growth factor:PDGF)、繊維
芽細胞成長因子(fibroblast growth factor:FGF)
等の成長因子、ウリナスタチン、tissue inhibitor of
metalloproteinase (TIMP)等の酵素阻害剤等が用
いられる。骨補強材として用いる場合には、例えば、骨
誘導因子(bone morphogenetic protein:BMP)、T
GFβ、副甲状腺ホルモン(parathyroid hormone :P
TH)等の骨細胞成長因子、インターロイキン1(IL
−1)阻害剤、ビスホスホネート、カルシトニン等の骨
吸収抑制因子等が用いられる。薬剤放出基材として用い
る場合には、例えば、ネオカルチノスタチン、アドリア
マイシン等の抗癌剤、ステロイド、非ステロイド性抗炎
症剤等の抗炎症剤等が挙げられる。
【0027】本発明の医療用高分子ゲルからは、病巣部
位において産生される酵素の量に応じて薬剤が放出され
るため、薬剤の固定化量を厳密に制御する必要はない
が、病巣部位において治療効果が発現されるのに最低限
必要な量以上が固定化されている必要がある。薬剤固定
化量は水膨潤性高分子ゲルへのスペーサー導入率で制御
されうる。スペーサー導入率が低すぎると有効な量の薬
剤を固定化できないので好ましくない。一方、スペーサ
ー導入率が高すぎると水膨潤性高分子ゲルの性質が変化
するため好ましくない。したがって、水膨潤性高分子ゲ
ルへのスペーサー導入率は、水膨潤性高分子ゲル1ml
あたり0. 05μmol以上であることが好ましく、
0. 2μmol以上50μmol以下であることがさら
に好ましい。水膨潤性高分子ゲルへのスペーサー導入率
は、例えば中間生成物のアミノ基の量をニンヒドリン法
(Sarin, V.K.et al., Anal. Biochem., 117, 147-157
(1981)参照)で定量することによって測定しうる。
【0028】薬剤を、酵素反応で主鎖が切断され得る分
解性基およびスペーサーを介して、水膨潤性高分子ゲル
に固定化させる方法としては、共有結合による方法が好
ましく、固定化酵素、アフィニティクロマトグラフィー
等で通常用いられている公知の活性化方法および反応方
法を用いることができる。例えば、1−エチル−3−
(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸
塩、ジシクロヘキシルカルボジイミド等の縮合剤を用い
た脱水縮合反応、アルカリ触媒を用いた脱炭酸反応、エ
ポキシ基のアンモノリシス反応、酸無水物のアンモノリ
シス反応、エステル交換反応等を挙げることができる。
酵素で主鎖が切断され得る分解性基と薬剤とが、エステ
ル結合、エーテル結合またはペプチド結合により結合さ
れている場合には、酵素によりこの結合部位が特異的に
切断されて、本来の化学構造を有する薬剤が放出される
ので好ましい。
【0029】本発明の医療用高分子ゲルの適用形態は、
シート、フィルム、繊維、織布、不織布、液状、粉末
状、スポンジ状等の使用目的に適した形態をとりうる。
本発明の医療用高分子ゲルを、例えば平板状、微粒子状
などの形態に成形することにより創傷被覆材が得られ
る。また、上記のように成形した後、ポリウレタン樹脂
やシリコン樹脂製のフィルムと貼り合わせ、粘着剤を添
加または塗布することによっても創傷被覆材が得られ
る。本発明の医療用高分子ゲルから得られる創傷被覆材
は、含水率が高く柔軟であるので、創部に対する物理的
刺激が少なく患者に与える苦痛が少ない。さらに保水性
が良好なので、被覆材の交換回数が少なくなり、貼り替
えによる患者の苦痛、看護の手間、創のダメージが軽減
できること、滲出液中の治癒促進因子を良好に保持しそ
の作用を妨げないこと等の利点がある。また、添加物と
して、Ca++イオン等の金属イオン、グリセリン、ポリ
エチレングリコール(PEG)等のゲルの柔軟剤・安定
化剤等通常の薬理学的に許容されるものを目的に応じて
使用できる。本発明の医療用高分子ゲルは、あらかじめ
5%ブドウ糖液や生理食塩水等の生理学的に許容し得る
溶液で適宜膨潤させて用いてもよい。なお、該溶液は薬
理学的に許容される種々の添加剤を含んでいてもよい。
また、体液等の滲出液の量が多い場合には、乾燥状態で
適用してもよい。
【0030】投与方法としては、例えば、創面に被覆材
として、または接着剤、癒着防止剤として外用できる。
骨補強剤として用いる場合は骨腔内投与、骨折部位断面
に対する投与、薬剤徐放基材としては、皮下投与、腹腔
投与、関節内投与、経皮投与、経口投与、脈管内投与等
が挙げられる。
【0031】本発明の特徴は、前記の一般式(I)によ
り表される結合形態により、薬剤を、酵素反応で主鎖が
切断され得る分解性基およびスペーサーを介して、水膨
潤性高分子ゲルに固定化することにあり、酵素反応で主
鎖が切断され得る分解性基またはスペーサーのいずれか
一方のみでは満足な性能を発揮しない。即ち、酵素反応
で主鎖が切断され得る分解性基のみを用いて薬剤を固定
化した場合には、酵素による分解性基の分解反応速度が
著しく低く、治療に有効な量の薬剤が放出されない。ま
た、スペーサーのみを用いた場合には、酵素が存在する
部位での薬剤の放出は達成されない。
【0032】好中球が産生する酵素(エラスターゼ、カ
テプシンG)で切断される分解性基(例えば、-(Ala)
3-、-(Ala)2-Pro-Val-、-(Ala)2-Phe-等のオリゴペプチ
ド)を介して、薬剤(例えば、抗炎症剤、抗菌剤等)を
固定化した本発明の医療用高分子ゲルを用いれば、好中
球が浸潤し、活性化されている炎症部位でのみ、そこに
存在する酵素量に対応した薬剤が放出され、抗炎症作用
または抗菌作用が発現する。炎症部位以外では該薬剤は
放出されないので、該薬剤による副作用が発現する可能
性は著しく低い。また、細菌が産生する酵素(Staphylo
coccal serin proteinase 、Staphylococcal cysteine
proteinase)で切断される分解性基(例えば、-Asp-Glu
- 、-Ala-Gly-Phe- 等)を介して、抗菌剤を結合した本
発明の医療用高分子ゲルを用いれば、細菌感染発生時に
感染部位でのみ抗菌剤が放出され、抗菌作用が発現す
る。酸性条件下で活性化される酵素(カテプシンE、ペ
プシン)で切断される分解性基(例えば、-(Ala)2-Phe
-、-(Ala)2-Pro-Phe-、-Ala-Gly-Phe- 、-Phe- 、-Tyr-
等)を介して、アクトシン、PGE1 等の血行改善剤
を結合した本発明の医療用高分子ゲルを用いれば、血行
不良部位でのみ該薬剤が放出され、血行が改善する。癌
細胞が産生する酵素(アルカリホスファターゼ、γ- グ
ルタミルトランスフェラーゼ(γ−GTP)、カテプシ
ンB、カテプシンH、カテプシンL)で切断される分解
性基(例えば、-Gly-Phe-Leu-Gly- 、-(Arg) 2-、-Phe-A
rg- 、リン酸ジエステル結合等)を介して抗癌剤を結合
した本発明の医療用高分子ゲルを用いれば、癌細胞近辺
でのみ抗癌剤が放出され、抗癌作用が発現する。いずれ
の場合にも、それぞれ引き金となる酵素が産生されてい
ない正常部位、および産生されていない時期には、固定
化された薬剤は放出されないため、該薬剤の毒性に基づ
く副作用を最小限に抑制することが可能である。
【0033】本発明の医療用高分子ゲルは、毒性試験に
おいて低毒性であることが確認されている。また、保存
状態での安定性が高いことも確認されている。本発明の
医療用高分子ゲルは、創傷被覆材、生体組織接着剤、癒
着防止材、骨補強材、薬剤放出基材の構成成分として有
用であり、擦過創、切創、挫創等の一般創傷、採皮創、
削皮創等の人為的な皮膚欠損創、切開創等の手術創、熱
傷、潰瘍、褥瘡等の創傷部位における炎症の治療と治癒
促進、手術後の創面や臓器の接着、手術後の創面と他組
織の癒着防止、骨粗鬆症や骨折における骨の補強、悪性
新生物等の治療等に適用可能である。なお、前記の水膨
潤性高分子ゲル(II)は、共有結合架橋ゲルが主体であ
り、機械的強度が強く、安定性、耐熱水性に優れている
ため滅菌処理等が容易であるばかりでなく、含水性にも
優れているため生体親和性が特によく、また透明性にも
優れているため創傷部位の観察が可能である等のかずか
ずのメリットを有するため創傷被覆材として有用であ
る。また、湿熱蒸気滅菌(121℃、20分間)条件下
でも溶出物が少ないので安全性が高い。また、透明性に
優れているので、創傷被覆材として用いた場合、創部に
貼り付けたままで創の状態、即ち細菌感染の有無、真皮
または上皮細胞の増殖の様子等が観察可能であるため、
擦過創、切創、挫創等の一般創傷、採皮創、削皮創等の
手術創、熱傷、潰瘍、褥瘡等の創傷の治療と治癒促進に
有用である。さらに、生体親和性がよく細胞毒性が少な
いので、生体組織接着剤や癒着防止材として、手術後の
創面の接着や創面と組織の癒着防止に用いた場合、損傷
組織の回復が促進され大変有用である。安定性も高いの
で組織の接着や修復に必要な期間にわたって十分に目的
の機能を発揮することができる。
【0034】本発明において使用される多糖類は、分子
内にカルボキシル基を有し、かつ架橋反応を阻害する官
能基を有さない水溶性の多糖類であればよいが、アルギ
ン酸、ヒアルロン酸等の分子内にカルボキシル基を有す
る酸性多糖類の水溶性塩が好ましく用いられる。特にア
ルギン酸ナトリウム塩が、得られるゲルの性質が医療用
材料の構成成分として優れているので最も好ましい。こ
れらの多糖類は市販品から入手することができる。分子
内にカルボキシル基を有する多糖類の好ましい分子量
は、多糖類の性質により一概に決めることはできない
が、一般に10万〜1000万の範囲内である。多糖類
としてヒアルロン酸ナトリウムを用いる場合、その分子
量の下限は、得られるゲルの強度の観点から、100万
以上であるのが好ましく、200万以上であるのがより
好ましい。一方ヒアルロン酸ナトリウムの分子量の上限
は、製造上の操作性の観点から1000万以下であるの
が好ましい。また、アルギン酸の場合は、その分子量を
決定する方法に確立されたものはなく、一般にアルギン
酸ナトリウムの1重量%水溶液の20℃における粘度で
規定されている。したがって、本発明における多糖類と
してアルギン酸ナトリウムを用いる場合、その1重量%
水溶液の20℃における粘度は、100cp(センチポ
アズ)以上であるのが好ましく、得られるゲルの強度の
観点から、300cp以上であるのがより好ましい。し
かし、粘度が高すぎると溶解に時間を要するなど、製造
上の操作性が悪くなるので、アルギン酸ナトリウムの1
重量%水溶液の粘度は、1200cp以下であるのが好
ましい。
【0035】一般式(II)で表される架橋性試薬におい
て、nはメチレン鎖の数を表し、メチレン鎖の数が少な
いと分子間の架橋反応が有効に行われない。一方多すぎ
ると架橋性試薬自身または架橋性試薬間等で疎水性相互
作用による凝集が生じ、架橋反応が阻害される。従っ
て、nは2から18であることが好ましく、2から12
であることがさらに好ましい。一般式(II)で表される
架橋性試薬は、架橋反応促進作用と水溶性の向上、アミ
ノ基への安定性の付与などのためカルボン酸塩以外の水
溶性塩を形成していることが望ましい。カルボン酸塩は
架橋反応を阻害するので好ましくない。特に、N- ヒド
ロキシコハク酸イミド塩が架橋反応促進作用が優れてお
り最も好ましい。R1 およびR2 はそれぞれ水素原子ま
たは−COCH(NH2 )−(CH2 4 −NH2 で表
される基を示し、架橋性試薬の架橋に関与する反応性基
の数が選択される。R1 およびR2 がともに水素原子で
ある場合には架橋に関与する反応性基の数は2となり、
1 、R2 のいずれかが水素原子で、他方が−COCH
(NH2 )−(CH24 −NH2 である場合には架橋
に関与する反応性基の数は3となり、R1 およびR2
ともに−COCH(NH2 )−(CH24 −NH 2
ある場合には架橋に関与する反応性基の数は4となる。
架橋に関与する反応性基の数は2以上が必須であり、一
般には数が多いほど架橋は有効に行われるが、5以上に
なると架橋に関与しない反応性基の割合が無視できなく
なるとともに、酸性多糖類とイオン結合による凝集沈殿
を生じ易くなるので2〜4の範囲内が好ましい。
【0036】一般式(II)で表される架橋性試薬の塩と
しては、具体的にはジアミノエタン、ジアミノプロパ
ン、ジアミノブタン、ジアミノペンタン、ジアミノヘキ
サン、ジアミノヘプタン、ジアミノオクタン、ジアミノ
ノナン、ジアミノデカン、ジアミノドデカン、ジアミノ
オクタデカン等のジアミノアルカン類の塩、N−(リジ
ル)−ジアミノエタン、N, N’−ジ(リジル)−ジア
ミノエタン、N−(リジル)−ジアミノヘキサン、N,
N’−ジ(リジル)−ジアミノヘキサン等のモノまたは
ジ(リジル)ジアミノアルカン類の塩が例示される。な
かでも、ジアミノエタンの2N−ヒドロキシコハク酸イ
ミド塩、ジアミノヘキサンの2N−ヒドロキシコハク酸
イミド塩、N, N’−ジ(リジル)−ジアミノエタンの
4N−ヒドロキシコハク酸イミド塩、N−(リジル)−
ジアミノヘキサンの3N−ヒドロキシコハク酸イミド塩
などが好ましく用いられる。
【0037】一般式(II)で表される架橋性試薬のうち
ジアミノアルカン類は市販品として容易に入手できる。
モノまたはジリジルジアミノアルカン類は通常の有機合
成法により合成できる。例えば、α−アミノ基とε−ア
ミノ基を保護したリジンのカルボキシル基とジアミノア
ルカン類のアミノ基とをカルボジイミド等の脱水縮合剤
を用いて結合し、その後α−アミノ基とε−アミノ基の
保護基を除去する方法、α−アミノ基とε−アミノ基を
保護したリジンをN−ヒドロキシコハク酸イミドなどと
の活性エステルとした後、ジアミノアルカン類と反応さ
せ、その後α−アミノ基とε−アミノ基の保護基を除去
する方法等が挙げられる。α−アミノ基とε−アミノ基
の保護基の除去は、例えば保護基がt−ブチルオキシカ
ルボニル基の場合には、トリフルオロ酢酸や4規定の塩
化水素を溶解したジオキサンで処理することにより行わ
れる。保護基がフルオレニルメチルオキシカルボニル基
の場合には20%ピペリジンのジメチルホルムアミド溶
液で処理することで除去できる。α−アミノ基とε−ア
ミノ基を保護したリジンとジアミノアルカン類のモル比
を1:1で反応を行えばモノリジルジアミノアルカン
が、2:1で反応すればジリジルジアミノアルカンが、
それぞれ得られる。これらは遊離のアミノ基の形で得ら
れる場合には、酢酸エチルなどに溶解し、アミノ基と当
量のN−ヒドロキシコハク酸イミドを加えることで塩が
得られる。塩酸塩やトリフルオロ酢酸塩などの形で得ら
れる場合には、水溶液をN−ヒドロキシコハク酸イミド
で平衡化した陰イオン交換樹脂カラムに通じることによ
ってN−ヒドロキシコハク酸イミド塩が得られる。
【0038】一般式(II)で表される架橋性試薬によ
る、分子内にカルボキシル基を有する多糖類の架橋反応
は、水溶性カルボジイミド等の脱水縮合剤を用いて行う
ことができる。架橋性試薬は、アミノ基が塩を形成して
いないときは架橋反応が遅い。N−ヒドロキシコハク酸
イミドの塩は架橋反応が速やかで、水膨潤性高分子ゲル
(II)が速く得られるので本発明に特に好適である。塩
酸塩を用いると水膨潤性高分子ゲル(II)は得られるが
架橋反応によるゲル化が遅くなる。架橋率は、用いる架
橋性試薬の多糖類に対するモル比で制御できる。架橋率
を低くすると柔軟で含水率の高いゲルが得られる。架橋
率を高くすると強固で含水率の低いゲルが得られる。架
橋率は、得られる水膨潤性高分子ゲル(II)の用途によ
り適宜選択されうる。架橋率が低すぎると、実用的な機
械的強度・安定性を有するゲルが得られず好ましくな
い。また、多すぎると架橋性試薬のアミノ基が未反応の
ままゲル中に存在することになり好ましくない。従って
一般式(II)で表される架橋性試薬の多糖類に対する反
応率は、多糖類の有するカルボキシル基に対して1から
50モル%の割合であることが好ましく、10から40
モル%の範囲にあることがさらに好ましい。架橋率は、
用いる架橋性試薬の多糖類に対するモル比で制御可能で
あるが、元素分析法、NMR法等によって実測しうる。
例えばアルギン酸塩やヒアルロン酸塩などの窒素原子を
含まない多糖類を用いる場合には得られたゲル中の窒素
原子の元素分析により求められる。また、得られたゲル
のプロトンNMRにおける、多糖類のメチンプロトンと
架橋性試薬のメチレンプロトンのシグナル強度比からも
求められる。本発明の水膨潤性高分子ゲル(II)はそれ
自身でも実用的な強度と安定性を示すが、用途によりさ
らにイオン結合架橋、疎水結合架橋などの他のゲル化方
法と併用してもよい。
【0039】本発明の水膨潤性高分子ゲル(II)は、含
水率が高いこと、多糖類からなるので免疫原性が低いこ
と、架橋性試薬の原料は生体に投与可能な化合物である
ので仮に生体内に残存した場合でも吸収と排泄が容易に
行われること、などから、生体親和性と安全性に優れて
いる。
【0040】本発明の水膨潤性高分子ゲル(II)に、含
水率のコントロールや粘着性の付与などの目的で、Na
+ 、Ca++、Mg++等の無機イオン類、エチレングリコ
ール、プロピレングリコール、グリセリン、PEG等の
多価アルコール類、ポリビニルアルコール、ポリアクリ
ル酸等の高分子化合物等、薬理学的に許容される添加剤
を添加することもできる。また、消毒剤、抗生剤、抗菌
剤、アクトシン、PGE1などの血行改善薬、TGF β、PDG
F、FGF 等の増殖因子、ウリナスタチン、TIMP等の酵素
阻害剤、ステロイド、非ステロイド性抗炎症剤等の抗炎
症剤、フィブリン、コラーゲンなどの構造蛋白質、など
の薬剤や生理活性物質等を添加することもできる。
【0041】本発明の水膨潤性高分子ゲル(II)は、創
傷被覆材、生体組織接着剤、癒着防止材等の医療用材料
の構成成分として有用である。本発明の水膨潤性高分子
ゲル(II)を、例えば平板状、微粒子状などの形態に成
形することにより創傷被覆材が得られる。また、上記の
ように成形した後、ポリウレタン樹脂やシリコン樹脂製
のフィルムと貼り合わせ、粘着剤を添加または塗布する
ことによっても創傷被覆材が得られる。本発明の水膨潤
性高分子ゲル(II)から得られる創傷被覆材は、透明性
が高いので創部の観察に好都合である。また含水率が高
く柔軟であるので、創部に対する物理的刺激が少なく患
者に与える苦痛が少ない。さらに保水性が良好でかつ体
液等により溶解しないので、被覆材の交換回数が少なく
なり、貼り替えによる患者の苦痛、看護の手間、創のダ
メージが軽減できること、滲出液中の治癒促進因子を良
好に保持しその作用を妨げないこと等の利点がある。湿
熱蒸気滅菌ができるので安全性も高い。
【0042】本発明の水膨潤性高分子ゲル(II)を、例
えば平板状、織布状、不織布状、微粒子状、スポンジ状
等の形態に成形することにより癒着防止材が得られる。
また、上記のように成形した後、グリセリン、PEG等
と混合するか、またはこれらを分散することによっても
癒着防止材が得られる。
【0043】本発明の水膨潤性高分子ゲル(II)を、例
えば平板状、織布状、不織布状、微粒子状、スポンジ状
等の形態に成形することにより生体組織接着剤が得られ
る。また、上記のように成形した後、デキストラン、プ
ルラン、フィブリン、コラーゲンなどと混合するかまた
はこれらを分散することによっても生体組織接着剤が得
られる。
【0044】本発明の水膨潤性高分子ゲル(II)は耐熱
水性に優れているので溶出物が少ないこと、毒性試験に
おいて低毒性であることが確認されている。
【0045】
【実施例】以下、実施例、参考例、比較例および試験例
により本発明を具体的に説明する。なお、本発明はこれ
らの実施例等により限定されるものではない。
【0046】実施例1 2. 3g(20mmol)のN−ヒドロキシコハク酸イ
ミド(HOSu、(株)ペプチド研究所)を酢酸エチル
150mlに溶解し、10mlの酢酸エチルに溶解した
0. 6g(10mmol)のエチレンジアミン(ED
A、和光純薬工業株式会社)を室温で撹拌しながら滴下
した。滴下終了後さらに1時間撹拌を続けた。析出した
結晶を濾取し、減圧下に乾燥して2. 9g(収率約10
0%)のエチレンジアミン2N−ヒドロキシコハク酸イ
ミド塩(EDA・2HOSu)を得た。アルギン酸ナト
リウム(和光純薬工業株式会社、500〜600cp)
の1重量%水溶液30ml(カルボキシル基:1. 5m
mol)に、0. 20g(0.7mmol)のEDA・
2HOSuと0. 96g(5mmol)の1−エチル−
3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド
塩酸塩(EDC・HCl、(株)ペプチド研究所)を溶
解して、12cm×8cmのポリスチレン製トレイに流
延し室温で静置した。およそ15時間後に水膨潤性高分
子ゲルが得られた。
【0047】実施例2 アルギン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社、500
〜600cp)の1重量%水溶液30ml(カルボキシ
ル基:1. 5mmol)に、0. 05g(0.175m
mol)のEDA・2HOSuと0. 96g(5mmo
l)のEDC・HClを溶解して、12cm×8cmの
ポリスチレン製トレイに流延し室温で静置した。およそ
15時間後に水膨潤性高分子ゲルが得られた。
【0048】実施例3 アルギン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社、500
〜600cp)の1重量%水溶液30ml(カルボキシ
ル基:1. 5mmol)に、0. 80g(2.8mmo
l)のEDA・2HOSuと0. 96g(5mmol)
のEDC・HClを溶解して、12cm×8cmのポリ
スチレン製トレイに流延し室温で静置した。およそ15
時間後に水膨潤性高分子ゲルが得られた。
【0049】実施例4 2. 3g(20mmol)のHOSuを酢酸エチル15
0mlに溶解し、10mlの酢酸エチルに溶解した1.
2g(10mmol)のヘキサメチレンジアミン(HD
A、和光純薬工業株式会社)を室温で撹拌しながら滴下
した。滴下終了後さらに1時間撹拌を続けた。析出した
結晶を濾取し、減圧下に乾燥して3. 3g(収率約96
%)のヘキサメチレンジアミン2N−ヒドロキシコハク
酸イミド塩(HDA・2HOSu)を得た。アルギン酸
ナトリウム(和光純薬工業株式会社、500〜600c
p)の1重量%水溶液30ml(カルボキシル基:1.
5mmol)に、0. 24g(0.7mmol)のHD
A・2HOSuと0. 96g(5mmol)のEDC・
HClを溶解して、12cm×8cmのポリスチレン製
トレイに流延し室温で静置した。およそ15時間後に水
膨潤性高分子ゲルが得られた。
【0050】実施例5 アルギン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社、500
〜600cp)の1重量%水溶液30ml(カルボキシ
ル基:1. 5mmol)に、93mg(0. 7mmo
l)のEDA・2HCl(和光純薬工業株式会社)と
0. 96g(5mmol)のEDC・HClを溶解し
て、12cm×8cmのポリスチレン製トレイに流延し
室温で静置した。およそ4日後に水膨潤性高分子ゲルが
得られた。
【0051】実施例6 4. 7g(0. 01mol)のNα−フルオレニルメト
キシカルボニル−Nε−t−ブチルオキシカルボニル−
L−リジン(Fmoc−Lys(Boc)、(株)ペプ
チド研究所)と1. 15g(0. 01mol)のHOS
uを酢酸エチル50mlに溶解し、氷冷下に撹拌しなが
ら1. 7g(0. 011mol)のジシクロヘキシルカ
ルボジイミド(DCC、(株)ペプチド研究所)を加
え、氷冷下1時間、その後室温で一晩撹拌した。不溶物
を濾過して除き、濾液を減圧濃縮して得られた結晶をイ
ソプロピルアルコール−酢酸エチルから再結晶した。結
晶を減圧乾燥して4. 7g(収率80%)のNα−フル
オレニルメトキシカルボニル−Nε−t−ブチルオキシ
カルボニル−L−リジル−N −ヒドロキシコハク酸イミ
ドエステル(Fmoc−Lys(Boc)−OSu)を
得た。2. 82g(5mmol)のFmoc−Lys
(Boc)−OSuを酢酸エチル50mlに溶解して室
温で撹拌しながら、0. 15g(2. 5mmol)のエ
チレンジアミンを溶解した酢酸エチル溶液10mlを滴
下した。滴下終了後さらに一晩撹拌を続けた。析出した
結晶を濾取し、減圧下に乾燥して2. 4g(収率100
%)のN、N’−(Nα−フルオレニルメトキシカルボ
ニル−Nε−t−ブチルオキシカルボニル−L−リジ
ル)−エチレンジアミン((Fmoc−Lys(Bo
c))2 −EDA)を得た。
【0052】得られた(Fmoc−Lys(Boc))
2 −EDAの全量を200mlのジオキサンに懸濁し、
40mlのピペリジン(和光純薬工業株式会社)を加え
室温で1時間撹拌した。減圧濃縮して得られる結晶をジ
エチルエーテルで洗浄した後、減圧下に乾燥してN、
N’−ジ(Nε−t−ブチルオキシカルボニル−L−リ
ジル)−エチレンジアミン((Lys(Boc))2
EDA)を得た。得られた((Lys(Boc))2
EDA)の全量を10mlのトリフルオロ酢酸(TF
A、(株)ペプチド研究所)に溶解し、室温で2時間撹
拌した。減圧濃縮して得られる結晶をジエチルエーテル
で洗浄した後、減圧下に乾燥してN、N’−ジ(L−リ
ジル)−エチレンジアミントリフルオロ酢酸塩((Ly
s)2 −EDA・4TFA)を得た。得られた全量の
(Lys)2 −EDA・4TFAを50mlの精製水に
溶解し、1MのHOSu水溶液で平衡化した20gのジ
エチルアミノエチルセルロース(DE52、ワットマ
ン)を充填したカラムに通じ、通過液を減圧濃縮して
N、N’−ジ(L−リジル)−エチレンジアミンN −ヒ
ドロキシコハク酸イミド塩((Lys)2 −EDA・4
HOSu)0. 78g(収率40%)を得た。アルギン
酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社、500〜600
cp)の1重量%水溶液30ml(カルボキシル基:
1. 5mmol)に、0. 29g(0.375mmo
l)の(Lys)2 −EDA・4HOSuおよび0. 9
6g(5mmol)のEDC・HClを溶解して、12
cm×8cmのポリスチレン製トレイに流延し室温で静
置した。およそ15時間後に水膨潤性高分子ゲルが得ら
れた。
【0053】実施例7 ヒアルロン酸ナトリウムの1重量%水溶液(生化学工業
株式会社)60mlに、0. 29g(0. 375mmo
l)の(Lys)2 −EDA・4HOSuおよび0. 9
6g(5mmol)のEDC・HClを溶解して、12
cm×8cmのポリスチレン製トレイに流延し4℃で静
置した。およそ48時間後に水膨潤性高分子ゲルが得ら
れた。
【0054】参考例1 実施例1〜4、6で得られた水膨潤性高分子ゲルを、細
胞間質液と同じ濃度(Caイオン:5meq、Naイオ
ン:143meq)になるようにCaCl2 とNaCl
を溶解した水溶液(ECF)で十分に洗浄した後、50
%グリセリン-生食液を含浸して湿熱蒸気滅菌(121
℃、20分間)を施し透明なシート状創傷被覆材とし
た。
【0055】参考例2 実施例1〜4、6で得られた水膨潤性高分子ゲルを、E
CFで十分に洗浄した後、ポリメタクリル酸エステル系
の粘着剤が塗布されたポリウレタンシートとはり合わ
せ、湿熱蒸気滅菌(121℃、20分間)を施し、透明
なシート状創傷被覆材とした。
【0056】参考例3 実施例1〜4、6で得られた水膨潤性高分子ゲルを、E
CFで十分に洗浄した後、湿熱蒸気滅菌(121℃、2
0分間)を施した。該ゲルを濾過滅菌したゲンタマイシ
ンの1mg/ml水溶液に浸漬して、ゲンタマイシンを
含有する創傷被覆材とした。
【0057】参考例4 実施例7で得られた水膨潤性高分子ゲルを純水で十分に
洗浄後、凍結乾燥してスポンジ状のシートを得た。γ線
滅菌を施し癒着防止材とした。
【0058】参考例5 実施例7で得られた水膨潤性高分子ゲルを生理食塩液で
洗浄後、凍結乾燥してスポンジ状とし、γ線滅菌を施し
た。等量の滅菌された0. 5重量%コラーゲン酸性水溶
液(株式会社高研)とともに、ミキサーで無菌的に氷冷
下粉砕し、スラリー状の透明な生体組織接着剤とした。
【0059】比較例1 アルギン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社、500
〜600cp)の1重量%水溶液30ml(カルボキシ
ル基:1. 5mmol)に、42mg(0. 7mmo
l)のEDA(和光純薬工業株式会社)と0. 96g
(5mmol)のEDC・HClを溶解して、12cm
×8cmのポリスチレン製トレイに流延し室温で静置し
たが8日後にも水膨潤性高分子ゲルは得られなかった。
【0060】比較例2 アルギン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社、500
〜600cp)の1重量%水溶液30mlを12cm×
8cmのポリスチレン製トレイに流延し、1%塩化カル
シウム水溶液を重層後、1日静置して半透明のシート状
水膨潤性高分子ゲルを得た。
【0061】比較例3 1重量%のキトサン500(和光純薬工業株式会社)の
0. 01N塩酸水溶液30mlに47mg(0. 3mm
ol)のHOSuを溶解した後、74mg(0. 3mm
ol)のt- ブチルオキシカルボニル- L- グルタミン
酸((株)ペプチド研究所)と0. 96g(5mmo
l)のEDC・HClを加えて、12cm×8cmのポ
リスチレン製トレイに流延し室温で静置した。およそ2
4時間後に水膨潤性高分子ゲルが得られた。
【0062】比較例4 10重量%デキストラン(和光純薬工業株式会社、分子
量10万〜20万)の水溶液30mlに、氷冷撹拌下3
gの無水コハク酸(和光純薬工業株式会社)を、5NN
aOH水溶液でpHを8〜9に保ちながら加えて反応さ
せた。およそ6mlの5NNaOH水溶液が消費された
後、氷酢酸でpHを4に調整し、4℃で水に対して2日
間透析した。50℃以下の温度で20mlまで濃縮した
後、8cm×8cmのガラス板に流延し、60℃で2時
間、その後120℃で1時間加熱してフィルム状のコハ
ク酸架橋デキストランを得た。ECFに浸漬して水膨潤
性高分子ゲルを得たが、膨潤時に数センチ以下の大きさ
に細片化した。また得られたゲルは着色が認められ、ま
た脆弱でありピンセットなどでつかむとさらに細片化し
た。
【0063】試験例1 実施例2および比較例2〜4で得られた水膨潤性高分子
ゲルをECFで十分に洗浄した後、以下の各試験を行っ
た。結果はまとめて表1に示す。 (取り扱い性)各水膨潤性高分子ゲルを約2cm平方の
大きさに切断し、歯科用ピンセットで取り扱うことがで
きるかどうかを調べた。 (柔軟性)各水膨潤性高分子ゲルを約2cm平方の大き
さに切断し、歯科用ピンセットあるいはスパーテルで一
方の端を持ち上げて他方の端と接触するまで曲げること
ができるかどうかを調べた。 (耐熱性)各水膨潤性高分子ゲルを約2cm平方の大き
さに切断し、生理食塩液中で湿熱蒸気滅菌(121℃、
20分間)を施した。前後の外観および取り扱い性の変
化を調べた。 (圧縮挙動)各水膨潤性高分子ゲルを約3cm平方で厚
さ0. 3cmの大きさに切断してステンレス製の台にの
せ、下端が直径約1cmの平坦面を持つポリプロピレン
製の治具で上部から徐々に圧縮した。ゲルが破砕するま
での歪と応力の測定値から、初期応力/歪の値と破壊強
度を求めた。また両者が破壊点まで直線関係を保つ場合
を弾性体、非線形となるものを粘弾性体とした。
【0064】(透明度)各水膨潤性高分子ゲルを光路長
1cmの吸光度測定用セルに隙間なく充填し、ベックマ
ン社製DU- 65型分光光度計で400nmの透過度を
測定した。 (吸水率)各水膨潤性高分子ゲルのECF中の吸水率を
吸水重量と乾燥重量の比として求めた。 (溶解性)各水膨潤性高分子ゲル1gに10mlの注射
用水を加え、37℃で15時間静置した。各水膨潤性高
分子ゲルの溶解の程度を、上清液の0. 22μmの細孔
径を持つフィルター(ミリポア社製、マイレクスGV)
の通過性から調べた。 (耐久性)各水膨潤性高分子ゲルを約2cm平方の大き
さに切断し、PBS(0.15MのNaClを含む10
mMリン酸塩緩衝液、pH 7.4)中で、37℃に加
温し、毎分160回、24時間振盪して、振盪前後の外
観および強度の変化を調べた。
【0065】(細胞毒性試験)各水膨潤性高分子ゲル1
gに10mlの注射用水を加え、37℃で15時間静置
した。上清を濾過滅菌(ミリポア社製、マイレクスG
V)したもの5mlに1mlの牛胎児血清と4mlの
2. 25倍濃縮イーグルMEM培地(日水製薬株式会
社)を加えて、これにL929細胞株(ATCC CC
L1、NCTC clone929)を30000個/
mlになるように分散し、100μl/ウエルづつヌン
ク社製96穴U底プレートに分注した。プレートを5%
CO2 存在下、37℃で3日間培養した後、各ウエルの
生細胞数をヨウ化プロピジウムを用いる蛍光法(Brunin
g, J.W., Automated reading of HLA-A,B,C typing and
screening. The propidium iodide method. Hum Immun
ol, 5, 225-231 (1982) 参照)で測定して、水膨潤性高
分子ゲルを加えない注射用水を用いたコントロールと比
較した。
【0066】
【表1】
【0067】(結果)表1より明らかなように、実施例
2で得られた水膨潤性高分子ゲルは、医療用材料の構成
成分としての水膨潤性高分子ゲルに必要とされる全ての
条件を満足し、本目的に適していることが示された。
【0068】試験例2 実施例2、比較例2および比較例3で得られた水膨潤性
高分子ゲルを参考例2に示した方法と同様にしてシート
状創傷被覆材を得た。ブタの背部に5cm×5cmの分
創欠損創を計8個作製し、実施例2から得られたシート
状創傷被覆材と比較例2または比較例3から得られたシ
ート状創傷被覆材を、それぞれ隣接する創部に7日間貼
付する、いわゆるハーフサイド試験を各2組づつ行っ
た。
【0069】(結果)実施例2から得られたシート状創
傷被覆材と比較例2から得られたシート状創傷被覆材の
比較において、試験期間中実施例2から得られたシート
状創傷被覆材の方が2例とも透明性において優れてい
た。7日目の治癒傾向も実施例2から得られたシート状
創傷被覆材の方が優れていた。さらに比較例2から得ら
れたシート状創傷被覆材は創部に貼付中に溶解する傾向
があった。実施例2から得られたシート状創傷被覆材と
比較例3から得られたシート状創傷被覆材の比較におい
ては、7日目の治癒傾向と透明性において有意な差を認
めなかったが、比較例3から得られたシート状創傷被覆
材は創部で貼付後数分間で液状化することがわかった。
創傷被覆材が液状化することは以下の点で致命的な欠点
である。即ち、漏れから細菌感染を生じる可能性が大変
高く、一旦感染すると細菌の培地となり大変危険である
こと、衣服やベッドを汚染して周囲に細菌感染を拡げる
可能性が高いことである。これは臨床上大きな問題とな
っている。これを回避するためには頻繁に被覆材交換が
必要であるが、貼り替えによる患者の苦痛、看護の手間
の増大とともに、創にダメージが生じる。さらに保持さ
れていた滲出液中の治癒促進因子が交換の度に失われる
ので、閉鎖性被覆材の最大の利点が発揮できなくなる。
実施例2から得られたシート状創傷被覆材はいずれの試
験においても対照に劣らない治癒率と、透明性を示し、
液状化する傾向は全くなかった。
【0070】実施例8 水膨潤性高分子ゲルとしてアルギン酸ゲル、スペーサー
として-NH-(CH2)2-NH-CO-CH2-NH-CO-(CH2)2-CO- 、分解
性基として-(Ala)2-Pro-Val-、および薬剤としてマフェ
ニド(Mafenide)からなる医療用高分子ゲル〔次式(II
I )参照〕を、下記に示す方法で製造した。
【0071】
【化1】
【0072】2. 3g(20mmol)のN−ヒドロキ
シコハク酸イミド(HOSu、(株)ペプチド研究所)
を酢酸エチル150mlに溶解し、10mlの酢酸エチ
ルに溶解した0. 6g(10mmol)のエチレンジア
ミン(EDA、和光純薬工業株式会社)を室温で撹拌し
ながら滴下した。滴下終了後さらに1時間撹拌を続け
た。析出した結晶を濾取し、減圧下に乾燥して2. 9g
(収率約100%)のエチレンジアミン2N−ヒドロキ
シコハク酸イミド塩(EDA・2HOSu)を得た。ア
ルギン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社、100〜
150cp)の1重量%水溶液100mlに、0. 11
g(0. 33mmol)のN- (t- ブチルオキシカル
ボニルグリシル)エチレンジアミンのHOSu塩(Bo
c−Gly−EDA・HOSu、(株)ペプチド研究
所)と0. 19g(1mmol)の1−エチル−3−
(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸
塩(EDC・HCl、(株)ペプチド研究所)を加え、
4℃で終夜撹拌した。得られた水溶液をトリフルオロ酢
酸(TFA、(株)ペプチド研究所)200ml中に滴
下し、室温で1時間撹拌した。生じた沈殿物をメタノー
ルでよく洗浄し、減圧乾燥してAlgin−EDA−G
lyを得た。ニンヒドリン法で求めたアミノ基の導入量
は20μmol/g(1重量%のゲル換算で、0. 2μ
mol/ml)であった。また、得られたAlgin−
EDA−Glyの0. 05M NaHCO3 水溶液の2
20nm〜400nmの紫外吸収スペクトルを、光路長
1cmの吸光度測定用セルを用いてベックマン社製DU
- 65型分光光度計で測定した結果を第1図に示す。
【0073】液相合成法により得られた46mg(0.
1mmol)のBoc-(Ala)2-Pro-Valと22mg(0. 1
mmol)のマフェニド塩酸塩(Sigma)をジメチ
ルホルムアミド(DMF)に溶解し、14mg(0. 1
mmol)のヒドロキシベンズトリアゾ−ル(HOB
t、(株)ペプチド研究所)と95mg(0. 5mmo
l)のEDC・HClと14μl(0. 1mmol)の
トリエチルアミンを加えて氷冷下1時間、その後室温で
一晩撹拌した。水を加えて析出する不溶物を濾取し、水
洗後減圧下に乾燥して35mg(収率50%)のBoc-(A
la)2-Pro-Val-Mafenide を得た。得られたBoc-(Ala)2-P
ro-Val-Mafenide の全量を5%の水を含むTFA10m
lに溶解して室温で1時間静置し、その後ジエチルエ−
テルで沈殿させて(Ala)2-Pro-Val-Mafenide を得た。得
られた(Ala)2-Pro-Val-Mafenide の全量をDMFに溶解
し、15mg(0. 15mmol)の無水コハク酸を加
えて、室温で終夜撹拌することにより約20mgのSuc-
(Ala)2-Pro-Val-Mafenide を得た。1重量%のAlgi
n−EDA−Glyの 0.05M NaHCO3 水溶
液5mlに、7mg(10μmol)のSuc-(Ala)2-Pro
-Val-Mafenide と95mg(0. 5mmol)のEDC
・HClを加えて4℃で終夜撹拌した。さらに、11m
g(38μmol)のEDA・2HOSuと0. 19g
(1mmol)のEDC・HClを加えて溶解した後、
直径3cmのシャーレに流延し、室温で1日静置してゲ
ル化させた。得られたゲルを純水中でよく洗浄し、エタ
ノールに置換後、無菌的に減圧乾燥して乾燥シート状の
医療用高分子ゲルを得た。
【0074】実施例9 水膨潤性高分子ゲルとしてPVAゲル、スペーサーとし
て-CH2-CH(OH)-CH2-NH-CO-(CH2)2CO- 、分解性基として
-Ala-Gly-Phe- 、および薬剤としてアクリノール(AC
R)からなる医療用高分子ゲル〔次式(IV)参照〕を、
下記に示す方法で製造した。
【0075】
【化2】
【0076】2重量%のPVA(平均重合度1790
0、ケン化度99.9%、ダイアッド表示によるシンジ
オタクティシティー53%)水溶液を、−70℃に冷却
したn−ヘキサン中に撹拌しながら滴下した後、室温融
解と−70℃凍結を2回繰り返してPVAゲルビーズを
得た。得られたPVAゲルビーズをアセトンでよく洗浄
して減圧乾燥した。乾燥PVAゲルビーズ20gを0.
5N NaOH水溶液50mlとジオキサン50mlの
混合液に懸濁し、エピクロルヒドリン10mlと約40
℃で2時間反応させて、エポキシ化PVAゲルビーズを
得た。水洗後、100mlのアンモニア水に懸濁し、約
40℃で2時間反応させてアミノ化PVAゲルビーズを
得た。得られたアミノ化PVAゲルビーズをアセトンで
よく洗浄して減圧乾燥した。ニンヒドリン法で求めたア
ミノ基の導入量は50μmol/g(2重量%のゲル換
算で、1μmol/ml)であった。実施例8におけ
る、Boc-(Ala)2-Pro-Valの代わりにBoc-Ala-Gly-Phe
を、マフェニドの代わりにアクリノール(和光純薬工業
株式会社)を用いる以外は同様の方法によりSuc-Ala-Gl
y-Phe-ACR を得た。アミノ化PVAゲルビーズ100m
gを0.05M NaHCO3 水溶液10mlに懸濁
し、6mg(10μmol)のSuc-Ala-Gly-Phe-ACR と
96mg(0. 5mmol)のEDC・HClを加えて
4℃で終夜撹拌した。よく水洗した後、エタノールに置
換し、無菌的に減圧乾燥することにより、ビーズ状の医
療用高分子ゲルを得た。
【0077】実施例10 水膨潤性高分子ゲルとしてPVAゲル、スペーサーとし
て-CH2-CH(OH)-CH2-NH-CO-(CH2)2CO- 、分解性基として
-Ala-Ala-Phe- 、および薬剤としてゲンタマイシン(G
M)からなる医療用高分子ゲル〔次式(V)参照〕を、
下記に示す方法で製造した。
【0078】
【化3】
【0079】実施例9と同様の2重量%PVA水溶液3
0mlを10cm×10cmのガラス板上に流延し、−
20℃に一晩静置して凍結した。さらに、室温での融解
と−20℃の凍結を2回繰り返してPVAゲルシートを
得た。実施例9と同様の方法でPVAゲルシートにアミ
ノ基を導入した。水膨潤状態でニンヒドリン法により測
定したアミノ基導入量は20μmol/mlであった。
アミノ化されたPVAゲルシートを100mlのジオキ
サン中で1gの無水コハク酸と一晩振盪し、その後水洗
してカルボキシル基の導入されたPVAゲルシートを得
た。ニンヒドリン法ではアミノ基が検出されず、カルボ
キシル基の導入量は20μmol/mlと計算された。
さらにジオキサン100ml中でカルボキシル基の導入
されたPVAゲルシートと0. 23g(2mmol)の
HOSuと0. 4g(2mmol)のDCCとを室温で
一晩振盪した。メタノールで良く洗浄した後、固相法で
合成した74mg(0. 2mmol)の-Ala-Ala-Phe-
を溶解した10mMリン酸塩緩衝液(PB、pH7.
4)10mlを加え、4℃で一晩振盪した。よく水洗し
た後、ゲンタマイシン硫酸塩(GM、シグマ)0. 37
g(0. 5mmol)と0. 38g(2mmol)のE
DC・HClを加えて4℃で終夜撹拌した。よく水洗し
てシート状の医療用高分子ゲルを得た。
【0080】実施例11 水膨潤性高分子ゲルとしてアルギン酸ゲル、スペーサー
として-NH-(CH2)2-NH-CO-CH2-NH-CO-(CH2)2-CO- 、分解
性基として-Ala-Ala-Phe- 、および薬剤としてノルフロ
キサシン(NFLX)からなる医療用高分子ゲル〔次式
(VI)参照〕を、下記に示す方法で製造した。
【0081】
【化4】
【0082】アルギン酸ナトリウム(和光純薬工業株式
会社、500〜600cp)の1重量%水溶液100m
lに、0. 11g(0. 33mmol)のBoc−Gl
y−EDA・HOSuと0. 96g(5mmol)のE
DC・HClを加え、4℃で終夜撹拌した。得られた水
溶液をTFA200ml中に滴下し、室温で1時間撹拌
した。不溶物をメタノールでよく洗浄し、減圧乾燥して
Algin−EDA−Glyを得た。ニンヒドリン法で
求めたアミノ基の導入量は55μmol/g(1重量%
のゲル換算で、0. 55μmol/ml)であった。ま
た、得られたAlgin−EDA−Glyの0. 05M
NaHCO3 水溶液の220nm〜400nmの紫外
吸収スペクトルは第1図とほぼ同等であった。得られた
Algin−EDA−Glyを1重量%となるように
0. 05MNaHCO3 水溶液に溶解した溶液10ml
に、氷冷撹拌下5mg(50μmol)の無水コハク酸
を加え、5規定のNaOH水溶液を滴下することにより
pHを7前後に保った。およそ2時間でpHが低下しな
くなった。反応液を4℃で純水に対して2日間透析し
て、Algin−EDA−Gly−Sucを得た。ニン
ヒドリン法で求めた残存アミノ基量は4μmol/gで
あり、カルボキシル基の導入率は1重量%のゲル換算
で、0. 51μmol/mlと計算された。
【0083】10mlの1重量%のAlgin−EDA
−Gly−Suc水溶液に、5mg(40μmol)の
HOSuと40mg(200μmol)のEDC・HC
lを加え、4℃で終夜撹拌しAlgin−EDA−Gl
y−Suc−OSuを得た。この反応液に、固相合成法
で得られた13mg(40μmol)のAla-Ala-Pheを
PB1mlに溶解したものを加え、4℃で終夜撹拌し
た。反応液を純水に対して2日間透析して、Algin
−EDA−Gly−Suc−Ala-Ala-Phe を得た。得ら
れたAlgin−EDA−Gly−Suc−Ala-Ala-Ph
e を純水で10倍希釈して測定した紫外吸収スペクトル
を第2図に示す。258nmにフェニルアラニン(Phe
)のフェニル基に由来する吸収が認められた。得られ
たAlgin−EDA−Gly−Suc−Ala-Ala-Phe
の全量に、5mg(40μmol)のHOSuと40m
g(200μmol)のEDC・HClを加え、4℃で
終夜撹拌した。さらに、1mlのジメチルスルフォキシ
ド(DMSO)に溶解した13mg(36μmol)の
ノルフロキサシン(NFLX、Sigma)を加えて4
℃で終夜撹拌した。その後、22mg(76μmol)
のEDA・2HOSuと155mg(1mmol)のE
DCを加えて溶解した後、直径8cmのシャーレに流延
し、室温で1日静置してゲル化させた。得られたゲルを
生理食塩液で良く洗浄してシート状の医療用高分子ゲル
を得た。得られたゲルの紫外吸収スペクトルを第3図に
示す。280nmと330nmにノルフロキサシンに由
来する吸収が認められた。
【0084】実施例12 水膨潤性高分子ゲルとしてアルギン酸ゲル、スペーサー
として-NH-(CH2)2-NH-CO-CH2-NH-CO-(CH2)2-CO- 、分解
性基として-Ala-Ala-Phe- 、および薬剤としてゲンタマ
イシン(GM)からなる医療用高分子ゲル〔次式(VII)
参照〕を、下記に示す方法で製造した。
【0085】
【化5】
【0086】4. 7g(0. 01mol)のNα−フル
オレニルメトキシカルボニル−Nε−t−ブチルオキシ
カルボニル−L−リジン(Fmoc−Lys(Bo
c)、(株)ペプチド研究所)と1. 15g(0. 01
mol)のHOSuを酢酸エチル50mlに溶解し、氷
冷下に撹拌しながら1. 7g(0. 011mol)のD
CCを加え、氷冷下1時間、その後室温で一晩撹拌し
た。不溶物を濾過して除き、濾液を減圧濃縮して得られ
る結晶をイソプロピルアルコール−酢酸エチルから再結
晶した。結晶を減圧乾燥して4. 7g(収率80%)の
Nα−フルオレニルメトキシカルボニル−Nε−t−ブ
チルオキシカルボニル−L−リジル−N −ヒドロキシ無
水コハク酸イミドエステル(Fmoc−Lys(Bo
c)−OSu)を得た。2. 82g(5mmol)のF
moc−Lys(Boc)−OSuを酢酸エチル50m
lに溶解して室温で撹拌しながら、0. 15g(2. 5
mmol)のエチレンジアミンを溶解した酢酸エチル溶
液10mlを滴下した。滴下終了後さらに一晩撹拌を続
けた。析出する結晶を濾取して、減圧下に乾燥して2.
4g(収率100%)のN、N’−ジ(Nα−フルオレ
ニルメトキシカルボニル−Nε−t−ブチルオキシカル
ボニル−L−リジル)−エチレンジアミン((Fmoc
−Lys(Boc))2 −EDA)を得た。
【0087】得られた(Fmoc−Lys(Boc))
2 −EDAの全量を200mlのジオキサンに懸濁し、
40mlのピペリジン(和光純薬工業株式会社)を加え
室温で1時間撹拌した。減圧濃縮して得られる結晶をジ
エチルエーテルで洗浄した後、減圧下に乾燥してN、
N’−ジ(Nε−t−ブチルオキシカルボニル−L−リ
ジル)−エチレンジアミン((Lys(Boc))2
EDA)を得た。得られた((Lys(Boc))2
EDA)の全量を10mlのTFAに溶解し、室温で2
時間撹拌した。減圧濃縮して得られる結晶をジエチルエ
ーテルで洗浄した後、減圧下に乾燥してN、N’−ジ
(L−リジル)−エチレンジアミントリフルオロ酢酸塩
((Lys)2 −EDA・4TFA)を得た。得られた
全量の(Lys)2 −EDA・4TFAを50mlの精
製水に溶解し、1MのHOSu水溶液で平衡化した20
gのジエチルアミノエチルセルロース(DE52、ワッ
トマン)を充填したカラムに通じ、通過液を減圧濃縮し
てN、N’−ジ(L−リジル)−エチレンジアミンN −
ヒドロキシコハク酸イミド塩((Lys)2 −EDA・
4HOSu)0. 78g(収率40%)を得た。アルギ
ン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社、500〜60
0cp)の1重量%水溶液30mlに、0. 29g
(0. 375mmol)の(Lys)2 −EDA・4H
OSuおよび0. 96g(5mmol)のEDC・HC
lを溶解して、12cm×8cmのポリスチレン製トレ
イに流延し室温で静置した。およそ15時間後にゲルが
得られた。
【0088】得られたゲルをよく水洗した後、33mg
(0. 1mmol)のBoc−Gly−EDA・HOS
uと0. 38g(2mmol)のEDC・HClを加
え、4℃で終夜振盪した。さらに、ポリプロピレン製の
トレイ中で100mlのTFAと、室温で2時間振盪し
た。ニンヒドリン法で求めた、ゲル1mlあたりのアミ
ノ基量は0. 34μmolであった。得られたゲルに2
0mg(0. 1mmol)の無水コハク酸を加え、振盪
しながら5規定のNaOH水溶液を滴下してpHを7前
後に保った。およそ5時間でpHが低下しなくなった。
純水でよく洗浄した後のゲル中の残存アミノ基量はほと
んど検出されず、カルボキシル基の導入率は、0. 34
μmol/mlと計算された。さらに、20mg(0.
16mmol)のHOSuと160mg(0. 8mmo
l)のEDC・HClを加え、4℃で終夜振盪した。こ
れに、固相合成法で得られた13mg(40μmol)
の-Ala-Ala-Phe- をPB1mlに溶解したものを加え、
4℃で終夜撹拌した。得られたゲルをよく水洗した後、
20mg(0.16mmol)のHOSuと160mg
(0. 8mmol)のEDC・HClを加え、4℃で終
夜振盪した。これに、20mlの0.05M NaHC
3 水溶液に溶解した30mg(40μmol)のGM
と38mg(0. 2mmol)のEDC・HClを加え
て、4℃で終夜振盪した。得られたゲルを生理食塩液で
良く洗浄して透明なシート状の医療用高分子ゲルを得
た。
【0089】実施例13 水膨潤性高分子ゲルとしてアルギン酸ゲル、スペーサー
として-NH-(CH2)2-NH-CO-CH2-NH-CO-(CH2)2-CO- 、分解
性基として-Gly-Pro-Leu-Gly-Pro- 、および薬剤として
形質転換成長因子β(TGF- β)からなる医療用高分
子ゲル〔次式(VIII)参照〕を、下記に示す方法で製造
した。
【0090】
【化6】
【0091】アルギン酸ナトリウム(和光純薬工業株式
会社、500〜600cp)の1重量%水溶液30ml
に、33mg(0. 1mmol)のBoc−Gly−E
DA・HOSuと0. 29g(0. 375mmol)の
(Lys)2 −EDA・4HOSuおよび0. 96g
(5mmol)のEDC・HClを溶解して、12cm
×8cmのポリスチレン製トレイに流延し、4℃で1
日、その後室温で1日間静置してゲル化させた。実施例
12と同様の方法でTFA処理を行った。よく水洗した
後、水膨潤状態でニンヒドリン法により測定したところ
アミノ基導入量は30μmol/mlであった。さら
に、実施例12と同様の方法で無水コハク酸と反応させ
てカルボキシル基を導入した。得られたゲルをよく水洗
した後、20mg(0. 16mmol)のHOSuと1
60mg(0. 8mmol)のEDC・HClを加え、
4℃で終夜振盪した。これに、固相法で合成した22m
g(50μmol)のGly-Pro-Leu-Gly-Pro を溶解した
PB10mlを加え、4℃で一晩振盪した。得られたゲ
ルをよく水洗した後、20mg(0. 16mmol)の
HOSuと160mg(0. 8mmol)のEDC・H
Clを加え、4℃で終夜振盪した。さらに、PB10m
lに溶解したTGF- β(ヒト、コラボレイティブ社)
1μgを加え、4℃で終夜振盪した。得られたゲルを生
理食塩液で良く洗浄して透明なシート状の医療用高分子
ゲルを得た。
【0092】比較例5 水膨潤性高分子ゲルとしてアルギン酸ゲル、分解性基と
して-(Ala)2-Pro-Val-、および薬剤としてマフェニドか
らなる医療用高分子ゲル〔次式(IX)参照〕を、下記に
示す方法で製造した。
【0093】
【化7】
【0094】実施例8と同様の1重量% アルギン酸ナ
トリウムの0. 05M NaHCO 3 水溶液5mlに、
6mg(10μmol)の(Ala)2-Pro-Val-Mafenide と
96mg(0. 5mmol)のEDC・HClを加えて
4℃で終夜撹拌した。さらに、11mg(38μmo
l)のBoc−Gly−EDA・HOSuと0. 19g
(1mmol)のEDC・HClを加えて溶解した後、
直径3cmのシャーレに流延し、室温で1日静置してゲ
ル化させた。得られたゲルを純水中でよく洗浄し、エタ
ノールに置換後、無菌的に減圧乾燥して、乾燥シート状
の医療用高分子ゲルを得た。
【0095】比較例6 水膨潤性高分子ゲルとしてPVAゲル、スペーサーとし
て-CH2-CH(OH)-CH2-NH-CO-(CH2)2CO- 、および薬剤とし
てアクリノールからなる医療用高分子ゲル〔次式(X)
参照〕を、下記に示す方法で製造した。
【0096】
【化8】
【0097】アクリノール361mg(1mmol)と
トリエチルアミン101mg(1mmol)をDMF5
0mlに溶解し、300mg(3mmol)の無水コハ
ク酸を加えて、室温で終夜撹拌し、その後ジエチルエー
テルで沈殿させ、減圧下に乾燥してSuc-ACR 250mg
(収率70%)を得た。実施例9で得られたアミノ化P
VAゲルビーズ100mgを、0. 05M NaHCO
3 水溶液10mlに懸濁し、4mg(10μmol)の
Suc-ACR と96mg(0. 5mmol)のEDC・HC
lを加えて4℃で終夜撹拌した。よく水洗した後、エタ
ノールに置換し、無菌的に減圧乾燥して、ビーズ状の医
療用高分子ゲルを得た。
【0098】比較例7 結晶性セルロース粉末を担体として用い、スペーサーと
して-CH2-CH(OH)-CH2-、分解性基として-Ala-Ala-Phe-
、および薬剤としてゲンタマイシン(GM)からな
る、薬剤が固定化された結晶性セルロース粉末〔次式
(XI)参照〕を、下記に示す方法で製造した。
【0099】
【化9】
【0100】結晶性セルロース粉末(CF- 1、Wha
tman)5gを1NNaOH水溶液50mlとジオキ
サン50mlの混合液に分散し、エピクロルヒドリン1
0mlを加えて40℃で3時間撹拌した。よく水洗した
後、固相合成法で得られた31mg(0. 1mmol)
のAla-Ala-Phe を溶解した0. 05MNaHCO3 水溶
液を加え、室温で終夜撹拌した。よく水洗した後水分を
ジオキサンに置換し、115mg(1mmol)のHO
Suと210mg(1mmol)のDCCを加え室温で
終夜撹拌した。メタノールでよく洗浄した後、PB10
mlに溶解した75mg(0. 1mmol)のGMを加
えて4℃で終夜撹拌した。生理食塩液で良く洗浄して、
薬剤が固定化された結晶性セルロース粉末を得た。
【0101】試験例3 エラスターゼによる薬剤放出試験 実施例8または比較例5で得られた乾燥シート(直径3
cmの円盤状)を、50mlのPBS(0.15M N
aClを含む20mM リン酸塩緩衝液、pH7.4)
に浸漬し、室温でときどき撹拌しながら、所定時間後に
上清を少量ずつサンプリングした。さらに、エラスター
ゼ(pig pancreas、biozyme Lab. Ltd製)を最終濃度が
10,1,0.1U/mlになるように該PBS溶液に
添加し、所定時間後に上清を少量ずつサンプリングし
た。サンプリング液中のマフェニドの量はHPLCを用
いて定量した。エラスターゼ添加前後の上清中のマフェ
ニドの量を求めた。実施例8で得られた乾燥シートで
は、エラスターゼ添加前にはマフェニドの放出は全く認
められなかったが、エラスターゼ添加後にはエラスター
ゼ濃度に応じた速やかなマフェニドの放出が認められ
た。これに対して比較例5で得られた乾燥シートでは、
エラスターゼを添加してもわずかなマフェニドの放出が
認められたのみであった。
【0102】試験例4 緑膿菌培養液による薬剤放出試験 緑膿菌を乾燥ブイヨン培地(日水製薬株式会社)で終夜
培養し、遠心(12,000rpm,15min)して
上清を得た。この上清5mlと、実施例9または比較例
6で得られたビーズ100mgとを室温で2時間インキ
ュベートした。上清中に放出されるアクリノールの濃度
を410nmの吸光度で定量した。実施例9で得られた
ビーズではアクリノールの放出量は5μmolであった
が、比較例6で得られたビーズではアクリノールの放出
は認められなかった。
【0103】試験例5 酵素液による薬剤放出試験 実施例10〜12で得られた医療用高分子ゲルおよび比
較例7で得られた薬剤が固定化された結晶性セルロース
粉末の各0. 5g(水膨潤状態)に、0. 15MのNa
Clを含む10mMリン酸塩緩衝液(PBS、pH7.
4)500μlと1%トリプシン(DIFCO、1:2
50)PBS溶液100μlを加えて37℃で3時間イ
ンキュベートした。その後遠心して上清を採取し試験液
とした。 (黄色ブドウ球菌増殖阻止円形成試験)ブレイン- ハー
ト- インフュージョンブイヨン培地(日水製薬株式会
社)で終夜培養した黄色ブドウ球菌を、5×105 個ず
つブレイン- ハート- インフュージョン寒天培地プレー
ト(直径10cm)に均一に塗布した。上記試験液を7
5μlずつ含浸させた直径8mmの薬効検定用濾紙ディ
スクを、黄色ブドウ球菌を塗布したプレートにのせて3
7℃で終夜培養した。試験液を含浸させた濾紙ディスク
の周囲に生じた黄色ブドウ球菌増殖阻止円の直径を測定
したところ、実施例10、11および12で得られた医
療用高分子ゲルの試験液ではそれぞれ9mm、16mm
および10mmであった。比較例7で得られた結晶性セ
ルロース粉末の場合および実施例10〜12で得られた
医療用高分子ゲルを用い、1%トリプシン- PBS溶液
100μlのかわりにPBS100μlを加えたコント
ロールの場合は増殖阻止円は観測されなかった。
【0104】試験例6 2cm×2cmの大きさのラット背部全層欠損創に10
7 個の緑膿菌、あるいは109 個の黄色ブドウ球菌をそ
れぞれコラーゲンスポンジ(株式会社高研)とともに植
え付けた。緑膿菌は24時間後、黄色ブドウ球菌は48
時間後にコラーゲンスポンジを除去し、創部を生食液で
洗浄した。緑膿菌を植え付けた創には実施例11で得ら
れた医療用高分子ゲルを、黄色ブドウ球菌を植え付けた
創には実施例10で得られた医療用高分子ゲルをそれぞ
れ貼り付けた。24時間後に採取した創部の組織をホモ
ジェナイズして、その一部を一定割合で希釈したPBS
溶液をブレイン- ハート- インフュージョン寒天培地プ
レート(直径10cm)に均一に塗布した。37℃で終
夜培養して生じるコロニーの数から組織中の細菌数を計
算した。実施例11で得られた医療用高分子ゲルを貼付
した創部の細菌数が6. 7×104 ±8. 9×104
/g組織であり、貼付前の組織中の細菌数(1. 1×1
8 ±2. 0×107 個/g組織)と比較して明らかな
細菌数の減少が認められた。実施例10で得られた医療
用高分子ゲルを貼付した創部の細菌数が1. 2×106
±1. 1×106 個/g組織であり、貼付前の組織中の
細菌数(2. 2×107 ±4. 9×106 個/g組織)
と比較して明らかな細菌数の減少が認められた。
【0105】上記試験例より、本発明の医療用高分子ゲ
ルが、存在する酵素の量に応じた薬剤放出特性を示し、
動物の細菌感染創で明らかな細菌数減少効果を発揮する
ことが示された。
【0106】本明細書に用いられた各種アミノ酸残基の
略号は下記のとおりである。 Ala :L−アラニン残基 Arg :L−アルギニン残基 Asn :L−アスパラギン残基 Asp :L−アスパラギン酸残基 Cys :L−システイン残基 Gln :L−グルタミン残基 Glu :L−グルタミン酸残基 Gly :グリシン残基 His :L−ヒスチジン残基 Ile :L−イソロイシン残基 Leu :L−ロイシン残基 Lys :L−リシン残基 Phe :L−フェニルアラニン残基 Pro :L−プロリン残基 Ser :L−セリン残基 Thr :L−トレオニン残基 Trp :L−トリプトファン残基 Tyr :L−チロシン残基 Val :L−バリン残基 Nle :L−ノルロイシン残基 また、本明細書においては、常法に従ってペプチドのア
ミノ酸配列を、そのN末端のアミノ酸残基が左側に位置
し、C末端のアミノ酸残基が右側に位置するように記述
した。また、D体のアミノ酸の場合には略号の後に
(D)を付記して記述した。
【0107】
【発明の効果】本発明の医療用高分子ゲルは、酵素の量
に応じた薬剤放出特性を示すため、酵素が産生される病
巣においてのみ、治療に有効な量の薬剤を放出すること
が可能である。本発明の医療用高分子ゲルは、創傷被覆
材、生体組織接着剤、癒着防止材、骨補強材、薬剤放出
基材の構成成分として有用であり、擦過創、切創、挫創
等の一般創傷、採皮創、削皮創等の人為的な皮膚欠損
創、切開創等の手術創、熱傷、潰瘍、褥瘡等の創傷にお
ける炎症の治療と治癒促進、手術後の創面や臓器の接
着、手術後の創面と他組織の癒着防止、骨粗鬆症や骨折
における骨の補強、悪性新生物等の治療に適用可能であ
る。本発明により提供される水膨潤性高分子ゲル(II)
を構成材料とする創傷被覆材は、創傷、熱傷、褥瘡など
の患者に適用されることにより該患者の創の治癒を促進
することができる。また適用期間中、被覆材をはがすこ
となく創の状態を観察することができるので、創の管理
に大変有用であり、被覆材交換の回数を減少させること
ができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、実施例8で得られたAlgin−ED
A−Glyの0. 05M NaHCO3 水溶液の220
nm〜400nmの紫外吸収スペクトルを、光路長1c
mの吸光度測定用セルを用いてベックマン社製DU- 6
5型分光光度計で測定した結果を示す図である。
【図2】図2は、実施例11で得られたAlgin−E
DA−Gly−Suc−Ala−Ala−Pheを純水
で10倍希釈して測定した紫外吸収スペクトルである。
【図3】図3は、実施例11で得られた医療用高分子ゲ
ルの紫外吸収スペクトルである。
フロントページの続き (56)参考文献 特開 昭61−243026(JP,A) 特開 平1−248057(JP,A) 特開 平2−180903(JP,A) 特開 昭61−244369(JP,A) 特表 昭61−502729(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) A61L 24/00 A61K 9/00 A61K 47/30 A61L 15/16 A61L 27/00

Claims (6)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 下記の一般式(I) A−B−C−D (I) (式中、Aは水膨潤性高分子ゲルを表し、Bはスペーサ
    ーを表し、Cは酵素反応で主鎖が切断され得る分解性基
    を表し、Dは薬剤を表す。)により表される結合形態に
    より、薬剤が、酵素反応で主鎖が切断され得る分解性基
    およびスペーサーを介して、水膨潤性高分子ゲルに固定
    化された医療用高分子ゲルであって、スペーサーが、炭
    素原子、窒素原子および酸素原子のうち主鎖に含有され
    ている原子の数の合計が4個以上の、ペプチドでない分
    子鎖であり、酵素反応で主鎖が切断され得る分解性基
    が、 -Ile-Glu-Gly-Arg- -Ala-Gly-Pro-Arg- -Arg-V
    al-(Arg) 2 - -Val-Pro-Arg- -Gln-Ala-Arg- -Gln-G
    ly-Arg- -Asp-Pro-Arg- -Gln-(Arg) 2 - -Phe-Arg-
    -(Ala) 3 - -(Ala) 2 - -Ala-Ala(D)- -(Ala) 2 -Pro
    -Val- -(Val) 2 - -(Ala) 2 -Leu- -Gly-Leu- -Phe-Le
    u- -Val-Leu-Lys- -Gly-Pro-Leu-Gly-Pro- -(Al
    a) 2 -Phe- -(Ala) 2 -Tyr- -(Ala) 2 -His- -(Ala) 2 -Pro-
    Phe- -Ala-Gly-Phe- -Asp-Glu- -(Glu) 2 - -Ala-G
    lu- -Ile-Glu- -Gly-Phe-Leu-Gly- 、および -(Arg)
    2 - からなる群より選択されるものである、医療用高分子
    ゲル
  2. 【請求項2】 酵素反応で主鎖が切断され得る分解性基
    が、-Val-Pro-Arg- 、-(Ala)2-Pro-Val-、-Ala-Gly-Phe
    - 、-(Ala)3 - 、-Asp-Glu- 、-(Ala)2-Phe-、-(Ala)2-
    Pro-Phe-、-Gly-Phe-Leu-Gly- 、-(Arg)2-、および-Phe
    -Arg- からなる群より選択されるものである請求項1記
    載の医療用高分子ゲル。
  3. 【請求項3】 水膨潤性高分子ゲルが、分子内にカルボ
    キシル基を有する多糖類を下記の一般式(II) R1 HN−(CH2)n −NHR2 (II) (式中、nは2から18の整数を表し、R1 およびR2
    はそれぞれ水素原子または−COCH(NH2 )−(C
    24 −NH2 で表される基を示す。)で表される架
    橋性試薬またはその塩で共有結合架橋して得られる水膨
    潤性高分子ゲルである請求項1又は2記載の医療用高分
    子ゲル。
  4. 【請求項4】 分子内にカルボキシル基を有する多糖類
    がアルギン酸塩またはヒアルロン酸塩である請求項
    載の医療用高分子ゲル。
  5. 【請求項5】 架橋性試薬の塩が、N−ヒドロキシコハ
    ク酸イミド塩である請求項記載の医療用高分子ゲル。
  6. 【請求項6】 架橋性試薬のN−ヒドロキシコハク酸イ
    ミド塩が、ジアミノエタンの2N−ヒドロキシコハク酸
    イミド塩、ジアミノヘキサンの2N−ヒドロキシコハク
    酸イミド塩、N,N’−ジ(リジル)−ジアミノエタン
    の4N−ヒドロキシコハク酸イミド塩およびN−(リジ
    ル)−ジアミノヘキサンの3N−ヒドロキシコハク酸イ
    ミド塩よりなる群から選択されるものである請求項
    載の医療用高分子ゲル。
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