JP3489589B2 - 騒音低減装置 - Google Patents

騒音低減装置

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JP3489589B2
JP3489589B2 JP05506093A JP5506093A JP3489589B2 JP 3489589 B2 JP3489589 B2 JP 3489589B2 JP 05506093 A JP05506093 A JP 05506093A JP 5506093 A JP5506093 A JP 5506093A JP 3489589 B2 JP3489589 B2 JP 3489589B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、適応型の騒音低減装
置に関し、特に音響的に騒音低減を行う装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来から適応型雑音低減装置として、図
13に示すような回路が知られている。図13におい
て、1は主要入力端子、2は参照入力端子であって、主
要入力端子1を通じて入力された信号は遅延回路3を介
して合成回路4に供給される。また、参照入力端子2を
通じて入力された信号は、適応フィルタ回路5を介して
合成回路4に供給され、遅延回路3からの信号から減算
される。この合成回路4の出力は、適応フィルタ回路5
に帰還されると共に、出力端子6に導出される。
【0003】この雑音低減装置においては、主要入力端
子1には、希望信号sと、これと無相関の雑音信号n0
とが加算されたものが入力される。一方、参照入力端子
2には、雑音信号n1 が入力される。この参照入力の雑
音信号n1 は、希望信号sとは無相関であるが、雑音信
号n0 とは相関があるようにされている。
【0004】適応フィルタ回路5は、参照入力雑音信号
n1 をフィルタリングして、雑音信号n0 に近似する信
号yを出力する。この適応フィルタ回路5の出力信号y
として、雑音信号n0 と逆相、等振幅の信号を得るよう
にすることもできる。遅延回路3は、適応フィルタ回路
5での処理時間を考慮して、減算処理する信号の時間合
わせをするためのものである。
【0005】適応フィルタ回路5における適応のアルゴ
リズムは、合成回路4の出力である減算出力(残差出
力)eを最小にするように働く。すなわち、今、s,n
0 ,n1 ,yが統計的に定常であり、平均値が0である
と仮定すると残差出力eは、 e=s+n0 −y となる。これを二乗したものの期待値は、sがn0 と、
また、yと無相関であるから、 E[e2 ]=E[s2 ]+E[(n0 −y)2 ]+2E[s(n0 −y)] =E[s2 ]+E[(n0 −y)2 ] となる。適応フィルタ回路5が収束するものとすれば、
適応フィルタ回路5は、E[e2 ]が最小になるように
調整されるものである。このとき、E[s2 ]は影響を
受けないので、 Emin [e2 ]=E[s2 ]+Emin [(n0 −y)2 ] となる。
【0006】すなわち、E[e2 ]が最小化されること
によってE[(n0 −y)2 ]が最小化され、適応フィ
ルタ回路5の出力yは、雑音信号n0 の推定量になる。
そして、合成回路4からの出力の期待値は、希望信号s
のみとなる。すなわち、適応フィルタ回路5を調整して
全出力パワーを最小化することは、減算出力eが、希望
音声信号sの最小二乗推定値になることに等しい。
【0007】なお、適応フィルタ回路5はアナログ信号
処理回路で実現する場合とデジタル信号処理回路で実現
する場合の、いずれでも可能である。適応フィルタ回路
5をデジタルFIRフィルタを用いて実現した場合の例
を図14に示す。この図14の例においては、適応のア
ルゴリズムとして、いわゆるLMS(最小平均自乗)法
を使用する。
【0008】図14において、300は、FIRフィル
タ型の適応線形結合器である。この適応線形結合器30
0は、それぞれ単位サンプリング時間の遅延時間Z-1
有する複数個の遅延回路DL1,DL2,……DLm
(mは正の整数)と、入力雑音n1 及び各遅延回路DL
1,DL2,……DLmの出力信号と加重係数との掛け
算を行う加重回路MX0,MX1,MX2,……MXm
と、加重回路MX0〜MXmの出力を加算する加算回路
310を備える。加算回路310の出力はyである。
【0009】加重回路MX0〜MXmに供給する加重係
数は、例えばマイクロコンピュータからなるLMS演算
回路320で、合成回路4からの残差信号eに基づいて
形成される。このLMS演算回路320で実行されるア
ルゴリズムは、次のようになる。
【0010】今、時刻k における入力ベクトルXk を、
図14にも示すように、 Xk =[x0k1k2k ・・・xmkT とし、出力をyk 、加重係数をwjk(j=0,1,2,…m )と
すると、入出力の関係は、次の数1に示すように、
【0011】
【数1】 となる。
【0012】そして、時刻k における加重ベクトルWk
を、 Wk =[w0k1k2k ・・・wmkT と定義すれば、入出力関係は、 yk =Xk T ・Wk で与えられる。ここで、希望の応答をdk とすれば、残
差ek は次のように表される。 ek =dk −yk =dk −Xk T ・Wk LMS法では、加重ベクトルの更新を、 Wk+1 =Wk +2μ・ek ・Xk … (1) なる式(1)により順次行っていく。ここで、μは適応
の速度と安定性を決める利得因子(ステップゲイン)で
ある。
【0013】以上説明したような適応雑音低減回路を利
用した騒音低減装置が考えられている。この騒音低減装
置は、上記の合成回路4が音響合成手段となる。すなわ
ち、適応フィルタ回路5で騒音と逆相、かつ、等振幅の
騒音打ち消し信号を形成し、これをスピーカなどに供給
して、騒音に対して音響的に加算して騒音低減する構成
とする。図15にこの騒音低減装置の構成の一例を示
す。
【0014】この場合の例は、希望音声は例えば無音
で、主要入力も騒音源10からの騒音となる。この騒音
源10からの騒音は、聴取者の耳の近傍の音場11に伝
播される。図15の例において、21は騒音収音用マイ
クロホンであって、騒音源10の近傍に配置される。こ
の騒音収音用マイクロホン21により収音され、電気信
号に変換されて得られた騒音信号は、アンプ22を介し
てA/Dコンバータ23に供給されて、デジタル信号に
変換され、適応フィルタ回路30に供給されて、騒音打
ち消し音声信号が形成される。
【0015】この適応フィルタ回路30の出力信号は、
D/Aコンバータ24によりアナログ音声信号に戻さ
れ、アンプ25を介してスピーカ26に供給される。そ
して、このスピーカ26により、騒音打ち消し音が前記
音場11に放音されて、騒音源10からの騒音音波と音
響的に合成され、耳の近傍において、騒音源10からの
騒音が低減される。
【0016】そして、耳の近傍の音場11には残差検出
用マイクロホン27が設置される。この残差検出用マイ
クロホン27により収音された残差は、アンプ28を介
してA/Dコンバータ29に供給されてデジタル信号と
され、適応フィルタ回路30に供給される。適応フィル
タ回路30は、FIRフィルタ31と、LMS演算回路
32と、FIRフィルタ33とを備える。この適用フィ
ルタ回路30では、前述したように残差が最小となるよ
うに、LMS演算回路32で前記(1)式によりFIR
フィルタ31の加重係数を演算して更新し、その出力信
号を調整する。適応フィルタ回路30は、DSP(デジ
タルシグナルプロセッサ)で構成することができる。
【0017】FIRフィルタ33は、A/Dコンバータ
29の出力としての残差ek と、A/Dコンバータ23
からの騒音信号Xk とを、同サンプル(同時刻k )のも
のとするためのものである。すなわち、前記(1)式に
示されるように、残差ek と入力信号Xk とは同サンプ
ルでなければならないが、残差ek にはD/Aコンバー
タ24→アンプ25→スピーカ26→残差検出用マイク
ロホン27→アンプ28→A/Dコンバータ29の経路
を経る分の遅延を伴うので、そのままでは同サンプルと
ならないからである。
【0018】FIRフィルタ33においては、目的のタ
イミング補正を行うために、その複数個の加重回路に供
給する加重係数が決定される。この加重係数を求めるた
めに、図15の騒音低減装置を実際に動作させるのに先
立って図16に示すような構成によって初期化が行わ
れ、FIRフィルタ33の加重係数の決定が行われる。
すなわち、D/Aコンバータ24→アンプ25→スピー
カ26→残差検出用マイクロホン27→アンプ28→A
/Dコンバータ29の経路と同じインパルスレスポンス
をFIRフィルタ33が有するようにして、その時の加
重係数を、図15の例におけるFIRフィルタ33の加
重係数とする。
【0019】図16の初期化のための回路を説明する。
すなわち、例えばランダムノイズ(例えばM系列のラン
ダムノイズを用いる)を発生するノイズジェネレータ4
1を用意する。そして、このノイズジェネレータ41か
らのランダムノイズをA/Dコンバータ23に入力す
る。そして、このA/Dコンバータ23の出力をFIR
フィルタ33及びLMS演算回路34に供給すると共
に、D/Aコンバータ24→アンプ25→スピーカ26
→残差検出用マイクロホン27→アンプ28→A/Dコ
ンバータ29の経路に入力する。
【0020】そして、A/Dコンバータ29の残差検出
出力からFIRフィルタ33の出力を合成回路35で減
算し、その減算出力信号をLMS演算回路34に入力す
る。LMS演算回路34では、前記減算出力信号のパワ
ーが最小になるように、FIRフィルタ33の加重係数
の更新が行われ、適応フィルタ回路30の特性が調整さ
れる。
【0021】以上の処理が、所定時間繰り返されると、
FIRフィルタ33の持つインパルスレスポンスは、D
/Aコンバータ24→アンプ25→スピーカ26→残差
検出用マイクロホン27→アンプ28→A/Dコンバー
タ29の経路の持つインパルスレスポンスと同等のもの
になり、FIRフィルタ33の加重係数は、そのときの
加重係数で固定される。
【0022】なお、図15及び図16においては、説明
が繁雑になることを避けるために省略したが、実際の回
路においては折り返し雑音の発生を防ぐために、A/D
コンバータ23及び29の前段及びD/Aコンバータ2
4の後段には、アンチエリアシングフィルタが挿入され
る。
【0023】すなわち、A/Dコンバータ23及び29
においては、図17及び図18に示すように、A/D変
換部43及び45の前段にローパスフィルタ42及び4
4が、それぞれ設けられる。また、D/Aコンバータ2
4においては、図19に示すように、D/A変換部46
の後段にローパスフィルタ47が挿入される。
【0024】以上のようなデジタル適応フィルタを用い
た騒音低減装置においては、対象とする騒音のスペクト
ルが低域に分布している場合が多いので、A/Dコンバ
ータ23、29及びD/Aコンバータ24におけるサン
プリング周波数は数kHz、例えば8kHz程度の低め
のものにするのが有利である。サンプリング周波数を低
くすることは、騒音低減装置の処理量を減ずることにも
通じ、また、処理速度が遅い素子を用いることができる
ので、適応フィルタ回路30を構成する素子を安価に構
成することができるからである。
【0025】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、以上説
明したように、従来の騒音低減装置では、騒音を打ち消
すための信号を発生させるためのFIRフィルタ31
と、このFIRフィルタ31の係数更新のための信号の
タイミング補正を行うFIRフィルタ33との、2個の
FIRフィルタを必要とするため、ハードウエアが複雑
になる。
【0026】また、適応フィルタ回路30は、DSP
(デジタルシグナルプロセッサ)で構成することができ
るが、その場合には、ソフトウエアが複雑となり、ま
た、ソフトウエアの負担も重くなり、処理能力に余裕が
ない欠点があった。
【0027】また、FIRフィルタ33の初期化のため
にノイズジェネレータ41を動作させ、耳障りなノイズ
を発生させなければならず、使用者はややもすると、初
期化を行わずに騒音低減装置を動作させてしまい、初期
のノイズ低減効果が得られないおそれがあった。
【0028】また、上述したように、従来の騒音低減装
置では、A/Dコンバータ23、29及びD/Aコンバ
ータ24におけるサンプリング周波数を低くとるため
に、A/Dコンバータ23、29及びD/Aコンバータ
24に挿入するアンチエリアシングフィルタを、それに
合わせた周波数帯域用のものを使用する必要がある。そ
の方法としては、次の(a)、(b)2つの方法が考え
られる。
【0029】(a)前述した図17〜図19のように、
A/DコンバータのA/D変換部の前段及びD/Aコン
バータのD/A変換の後段に、アナログフィルタを挿入
し、騒音低減装置のサンプリング周波数の1/2以下の
周波数に帯域制限する。
【0030】(b)A/D変換においては、比較的高い
サンプリング周波数でサンプリングした後、デジタルフ
ィルタで帯域制限を行い、その後、間引き処理によるダ
ウンサンプリングを行う。D/A変換においては、デジ
タル信号を補間によってサンプリング周波数を増加させ
て、デジタルフィルタで帯域制限を行うことによって高
いサンプリング周波数でサンプルしたのと同様の波形を
得る。この(b)の方法はいわゆるオーバーサンプリン
グと呼ばれる方法である。
【0031】(a)の場合の特徴を説明する。例とし
て、4次のチェビシェフ特性を持つフィルタの遅延特性
を図20に示す。この図20から明らかなように、
(a)のアナログフィルタを用いる方法では、アンチエ
リアシングフィルタのカットオフ周波数を低くすると遅
延量が増大してしまう欠点がある。
【0032】また、(b)の方法においては、一般的
に、デジタルフィルタに、位相特性が平坦であることか
ら直線位相フィルタを用いる。しかしながら、この直線
位相フィルタは、 (タップ数×1/2)×(サンプリング周期) に相当する遅延量を持つ。したがって、タップ数の大き
いデジタルフィルタを用いると遅延量が増大してしま
う。
【0033】ここで、騒音収音用マイクロホン21→ア
ンプ22→A/Dコンバータ23→FIRフィルタ31
→D/Aコンバータ24→アンプ25→スピーカ26→
聴取者の耳の近傍の音場11の経路が持つ遅延は、騒音
源10からの騒音が聴取者の耳の近傍の音場11に到達
するまでに要する時間より短いことが望ましく、上記経
路の持つ遅延が、騒音源10からの騒音が聴取者の耳の
近傍の音場11に到達するまでに要する時間より長くな
ると、適応フィルタ回路30が収束するための前提条件
を満たさなくなり、非周期性の騒音に対する騒音低減量
は著しく低下してしまう。
【0034】この発明は、以上の点にかんがみ、適応フ
ィルタ回路の構成を簡略化でき、しかも騒音低減能力を
高めることができる騒音低減装置を提供することを第1
の目的とする。
【0035】また、この発明は、適応フィルタを用いた
騒音低減装置のシステムが持つ遅延時間を短くすること
により、騒音低減能力を高めることができる騒音低減装
置を提供することを第2の目的とする。
【0036】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するた
め、この発明による騒音低減装置においては、騒音源よ
り発せられる騒音を収音するための騒音収音用マイクロ
ホンと、前記騒音収音用マイクロホンの出力信号から、
騒音低減対象となる音場での騒音を打ち消すための打ち
消し音を形成する打ち消し音形成手段と、前記打ち消し
音形成手段の出力の供給を受け、前記打ち消し音を放音
するための放音手段と、前記騒音低減対象となる音場で
の騒音残差を収音するための残差検出用マイクロホンと
を備え、前記打ち消し音形成手段は、適応フィルタを備
えると共に、前記残差検出用マイクロホンの出力信号が
供給され、前記残差騒音が最小になるように、前記適応
フィルタの特性が調整されるものであって、前記打ち消
し音形成手段の前記適応フィルタは、FIRフィルタで
構成され、前記騒音収音用マイクロホンの出力信号及び
前記残差検出用マイクロホンの出力信号はデジタル信号
に変換されて前記打ち消し音形成手段に供給され、前記
打ち消し音形成手段の出力信号は、デジタル信号からア
ナログ信号に変換されて前記放音手段に供給されると共
に、前記打ち消し音形成手段に供給される前記残差検出
用マイクロホンの出力信号及び前記騒音収音用マイクロ
ホンからの入力信号をデジタル信号に変換する際に用い
るデジタルフィルタと、前記打ち消し音形成手段から出
力されたデジタル信号をアナログ信号に変換する際に用
いるデジタルフィルタが、それぞれ最小位相推移フィル
タで構成されたことを特徴とする。
【0037】
【0038】
【作用】上述の構成のこの発明によれば、最小推移フィ
ルタを用いてアンチエリアシングフィルタを構成したの
で、騒音低減装置のシステムが持つ遅延時間を短くする
ことができ、騒音低減能力の高い騒音低減装置を得るこ
とができる。
【0039】
【0040】
【実施例】以下、この発明による騒音低減装置の一実施
例を、図1を参照しながら説明するに、前述した図15
の例と同一部分には同一符号を付して、その詳細な説明
は省略する。図1に示すように、この例においては、適
応フィルタ回路30は、騒音打ち消し用の信号を形成す
るためのFIRフィルタ31と、LMS演算回路32
と、図15のFIRフィルタ33に代わる遅延回路(デ
ジタル遅延回路)36とを備える。遅延回路36は、遅
延要素のみで構成され、FIRフィルタのような加重回
路や加算回路を含まない。
【0041】そして、適応フィルタ回路30とアンプ2
2との間には、騒音収音用マイクロホン21からの騒音
信号をデジタル信号に変換するためのA/Dコンバータ
50が設けられ、適応フィルタ回路30とアンプ28と
の間には、残差信号をデジタル信号に変換するためのA
/Dコンバータ60が設けられ、適応フィルタ回路30
とアンプ25との間には、打ち消し音声信号をアナログ
信号に変換してスピーカ26に供給するためのD/Aコ
ンバータ70が設けられる。
【0042】この場合、A/Dコンバータ50及びA/
Dコンバータ60は、それぞれ図2及び図3のように構
成され、また、D/Aコンバータ70は、図4に示すよ
うに構成され、これらは前述したオーバーサンプリング
方式の構成とされている。
【0043】騒音収音用マイクロホン21により収音さ
れ、アンプ22を経てA/Dコンバータ50に入力され
たアナログ音声信号は、図2に示すように、アナログロ
ーパスフィルタ51により、A/D変換部52のサンプ
リング周波数の1/2以下の周波数に帯域制限される。
このA/D変換部52のサンプリング周波数は、適応フ
ィルタ回路30のサンプリング周波数より高い周波数で
ある。
【0044】A/D変換部52から出力されたデジタル
信号は、適応フィルタ回路30のサンプリング周波数に
相当するように、間引き器54でデータの間引きが行わ
れる。その際、間引かれる前のデータは最小位相推移フ
ィルタ53によって適応フィルタ回路30でのサンプリ
ング周波数の1/2以下の周波数に帯域制限されてい
る。
【0045】A/Dコンバータ60における動作も同様
であり、残差収音用マイクロホン27で収音され、アン
プ28を経てA/Dコンバータ60に入力された残差音
声信号は、図3に示すように、アナログローパスフィル
タ61により、A/D変換部62のサンプリング周波数
の1/2以下の周波数に帯域制限される。
【0046】A/D変換部62から出力されたデジタル
信号は、適応フィルタ回路30のサンプリング周波数に
相当するように、間引き器64でデータの間引きが行わ
れる。その際、間引かれる前のデータは最小位相推移フ
ィルタ63によって適応フィルタ回路30でのサンプリ
ング周波数の1/2以下の周波数に帯域制限されてい
る。
【0047】また、図4に示すように、D/Aコンバー
タ70においては、FIRフィルタ31から出力された
デジタル信号が、補間器71によりD/A変換部73の
サンプリング周波数(適応フィルタ回路30のサンプリ
ング周波数より高い周波数)に相当するようにデータの
補間が行われる。補間器71の出力は最小位相推移フィ
ルタ72により適応フィルタ回路30のサンプリング周
波数の1/2以下の周波数に帯域制限された後、D/A
変換部73でアナログ信号に変換され、アナログローパ
スフィルタ74を介してアンプ25に入力される。
【0048】上記のような構成のA/Dコンバータ5
0、A/Dコンバータ60、D/Aコンバータ70は、
17〜19に示した構成をとるA/Dコンバータ2
3、A/Dコンバータ29、D/Aコンバータ24に比
べて遅延時間を短くすることが可能である。
【0049】すなわち、オーバーサンプリング方式によ
りサンプリング周波数が高いので、アナログローパスフ
ィルタ51、61、74の遅延量は小さく、また、最小
位相推移フィルタ53、63、72を適応フィルタ回路
30のサンプリング周波数に対するアンチエリアシング
フィルタとしているので、デジタルフィルタであって
も、遅延量は直線位相フィルタよりも小さい。
【0050】最小位相推移フィルタは、前述のFIRフ
ィルタとハードウエア的には、同様の構成を有するが、
位相特性が直線位相ではなく、位相推移が最小になるよ
うに加重係数が定められるので、遅延量は非常に小さい
ものである。
【0051】また、図1の構成において、遅延回路36
の遅延量は、D/Aコンバータ70→アンプ25→スピ
ーカ26→残差検出用マイクロホン27→アンプ28→
A/Dコンバータ60の経路に伴う主要な遅延に相当す
るサンプル数分とされる。その設定は、従来のようなラ
ンダムノイズでなく、例えば所定のトーン信号を、A/
Dコンバータ50に入力し、その出力信号をD/Aコン
バータ70→アンプ25→スピーカ26→残差検出用マ
イクロホン27→アンプ28→A/Dコンバータ60の
経路に入力し、A/Dコンバータ50の出力信号とD/
Aコンバータ70の出力信号との遅延時間(サンプル数
相当)を測定して設定するだけでよい。
【0052】また、遅延回路36を可変遅延回路の構成
にして、この遅延回路36の出力信号と、A/Dコンバ
ータ60からのデジタル信号とを減算し、その減算結果
が零または最小になるように遅延回路36の遅延量を自
動的にサーチして設定するようにすることもできる。
【0053】この場合、遅延回路36の遅延量の設定に
当たっては、トーン信号を用いることができ、従来のよ
うな耳障りなランダムノイズを用いる必要はない。
【0054】図1の構成において、遅延回路36は、単
純な遅延回路であるので、従来とは異なり、この遅延回
路36の持つインパルスレスポンスは、D/Aコンバー
タ70→アンプ25→スピーカ26→残差検出用マイク
ロホン27→アンプ28→A/Dコンバータ60の経路
の持つインパルスレスポンスとは異なるが、その騒音低
減効果は、ほとんど変わらないことを発明者等は確認し
た。
【0055】図5及び図6は、FIRフィルタ33の代
わりに遅延回路36を用いたことの効果を確認する実験
結果(シミュレーションによる実験結果)を示すもので
ある。
【0056】すなわち、図5は、図15に示したよう
に、FIRフィルタ33を用いると共に、そのインパル
スレスポンスを、D/Aコンバータ24→アンプ25→
スピーカ26→残差検出用マイクロホン27→アンプ2
8→A/Dコンバータ29の経路の持つインパルスレス
ポンスと同等のものにした場合の騒音低減のシミュレー
ション結果を示す。
【0057】また、図6は、FIRフィルタ33に代え
て遅延回路36を用い、その遅延時間を、図5の経路と
同じD/Aコンバータ24〜A/Dコンバータ29の経
路に伴う主要な遅延に相当するサンプル数分とした場合
のシミュレーション結果を示す。
【0058】以上のシミュレーションにおいては、FI
Rフィルタ31,33のタップ数は128とした。ま
た、D/Aコンバータ24→アンプ25→スピーカ26
→残差検出用マイクロホン27→アンプ28→A/Dコ
ンバータ29の経路の持つインパルスレスポンスの一例
として、図7に示すようなものを用いた。
【0059】図5及び図6から明らかなように、単純な
遅延回路36を用いても、FIRフィルタ33を用いた
場合と同様の騒音低減動作を行なうことが確認された。
以上のようにして、FIRフィルタ33の代わりに、遅
延回路36を用いるこの発明によれば、適応フィルタ回
路30のFIRフィルタを1個にすることができるの
で、構成を簡略化することができる。
【0060】そして、このため、適応フィルタ回路30
は、DSP(デジタルシグナルプロセッサ)で構成した
場合に、FIRフィルタが1個になる分だけ、FIRフ
ィルタ31のタップ数を増やしたり、データのサンプリ
ング周波数を高くすることができ、騒音低減能力を高め
ることができる。また、DSPのプログラムもFIRフ
ィルタ33を用いない分だけ簡単になるので、DSPで
の処理時間を短縮できるという効果がある。
【0061】次に、上述したように、図1の例の構成に
おいては、A/Dコンバータ50、A/Dコンバータ6
0、D/Aコンバータ70は、最小位相推移フィルタ5
3、63、72を使用しているので、図17〜19に示
した構成をとるA/Dコンバータ23、A/Dコンバー
タ29、D/Aコンバータ24に比べて遅延時間を短く
することが可能であり、騒音低減効果を向上させること
ができる。
【0062】図9及び図10は、A/Dコンバータ50
及び60、D/Aコンバータ70を用いたことによる効
果を確認する実験結果(シミュレーションによる実験結
果)を示すものである。図8は、このシミュレーション
において、騒音低減動作を行なっていないときに、音場
11で観測される騒音源10からの信号である。これら
の図において、縦軸は振幅を示し、横軸は時間を示して
いる。
【0063】図1の構成を持つ騒音低減装置において、
騒音低減装置の持つ遅延量を2通りに変え、騒音低減の
シミュレーションを行ったときの結果が図9及び図10
であり、図10の場合は、図9の場合の5倍の遅延量を
騒音低減装置に持たせている。
【0064】図8〜図10は、それぞれ5秒間分のデー
タであり、最後の1秒間分の波形の電圧の比較を行う
と、図8に示される騒音源に対し、遅延量が小さい図9
の場合では約18dBの騒音低減が見られ、遅延量が大
きい図10の場合では約5dBの騒音低減が見られる。
【0065】A/Dコンバータ50、60及びD/Aコ
ンバータ70を用いることによる効果は、遅延回路36
ではなく、FIRフィルタ33を用いる場合にも同様に
奏するので、以上のシミュレーションにおいては、遅延
回路36の代わりにFIRフィルタ33を用いている。
そして、騒音源は1kHzのローパスフィルタを通した
ランダムノイズとし、FIRフィルタ31,33のタッ
プ数は128とした。
【0066】また、騒音源10→残差検出用マイクロホ
ン27→アンプ28の経路の持つインパルスレスポンス
の一例として、図11に示すようなものを用い、騒音源
10→騒音収音用マイクロホン21→アンプ22の経路
の持つインパルスレスポンスの一例として、図12に示
すようなものを用いた。
【0067】図9及び図10から明らかなように、騒音
低減装置の持つ遅延量を小さく抑えることにより、騒音
低減量が向上されることが確認された。
【0068】なお、適応のアルゴリズムは、LMSアル
ゴリズムに限られるものではなく、その改良方法や学習
同定法、その他を使用することができる。
【0069】
【発明の効果】以上説明したように、この発明によれ
ば、適応フィルタを用いた騒音低減装置において、A/
D変換およびD/A変換を行なう際の、アンチエリアシ
ングフィルタとしての最小推移フィルタを使用するの
で、遅延時間を短くすることができ、騒音低減能力を高
めることができる。
【0070】
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明による騒音低減装置の一実施例のブロ
ック図である。
【図2】この発明による騒音低減装置に用いるA/Dコ
ンバータの一実施例のブロック図である。
【図3】この発明による騒音低減装置に用いるA/Dコ
ンバータの一実施例のブロック図である。
【図4】この発明による騒音低減装置に用いるD/Aコ
ンバータの一実施例のブロック図である。
【図5】従来の騒音低減装置の一例による騒音低減のシ
ミュレーション結果を示す図である。
【図6】この発明による騒音低減装置の一実施例の騒音
低減のシミュレーション結果を示す図である。
【図7】D/Aコンバータ24→アンプ25→スピーカ
26→残差検出用マイクロホン27→アンプ28→A/
Dコンバータ29の経路の持つインパルスレスポンスの
一例を示す図である。
【図8】この発明による騒音低減装置の一実施例の騒音
低減のシミュレーションに用いた騒音源を説明するため
の図である。
【図9】この発明による騒音低減装置の一実施例の騒音
低減のシミュレーション結果を示す図である。
【図10】図9の場合に対し、5倍の遅延量を騒音低減
装置内に持つ場合の騒音低減のシミュレーション結果を
示す図である。
【図11】図1の騒音源10→残差検出用マイクロホン
27→アンプ28の経路の持つインパルスレスポンスの
一例を示す図である。
【図12】図1の騒音源10→騒音収音用マイクロホン
21→アンプ22の経路の持つインパルスレスポンスの
一例を示す図である。
【図13】適応雑音低減回路の概要を示すブロック図で
ある。
【図14】適応フィルタ回路の一実施例を示す図であ
る。
【図15】従来の騒音低減装置の一例のブロック図であ
る。
【図16】図15の騒音低減装置の初期化回路の構成を
示すブロック図である。
【図17】アンチエリアシングフィルタを含むA/Dコ
ンバータの一例のブロック図である。
【図18】アンチエリアシングフィルタを含むA/Dコ
ンバータの一例のブロック図である。
【図19】アンチエリアシングフィルタを含むD/Aコ
ンバータの一例のブロック図である。
【図20】ナログフィルタの遅延特性の一例を示す図
である。
【符号の説明】
21 騒音収音用マイクロホン 26 スピーカ 27 残差検出用マイクロホン 30 適応フィルタ回路 31、33 FIRフィルタ 32 LMS演算回路 36 遅延回路 50、60 A/Dコンバータ 53、63、72 最小位相推移フィルタ 54、64 間引き器 71 補間器 70 D/Aコンバータ
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) G10K 11/178 H03H 21/00 H04R 3/00 310

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】騒音源より発せられる騒音を収音するため
    の騒音収音用マイクロホンと、 前記騒音収音用マイクロホンの出力信号から、騒音低減
    対象となる音場での騒音を打ち消すための打ち消し音を
    形成する打ち消し音形成手段と、 前記打ち消し音形成手段の出力の供給を受け、前記打ち
    消し音を放音するための放音手段と、 前記騒音低減対象となる音場での騒音残差を収音するた
    めの残差検出用マイクロホンとを備え、 前記打ち消し音形成手段は、適応フィルタを備えると共
    に、前記残差検出用マイクロホンの出力信号が供給さ
    れ、前記残差騒音が最小になるように、前記適応フィル
    タの特性が調整されるものであって、 前記打ち消し音形成手段の前記適応フィルタは、FIR
    フィルタで構成され、前記騒音収音用マイクロホンの出
    力信号及び前記残差検出用マイクロホンの出力信号はデ
    ジタル信号に変換されて前記打ち消し音形成手段に供給
    され、前記打ち消し音形成手段の出力信号は、デジタル
    信号からアナログ信号に変換されて前記放音手段に供給
    されると共に、 前記打ち消し音形成手段に供給される前記残差検出用マ
    イクロホンの出力信号及び前記騒音収音用マイクロホン
    からの入力信号をデジタル信号に変換する際に用いるデ
    ジタルフィルタと、前記打ち消し音形成手段から出力さ
    れたデジタル信号をアナログ信号に変換する際に用いる
    デジタルフィルタが、それぞれ最小位相推移フィルタで
    構成されたことを特徴とする騒音低減装置。
  2. 【請求項2】前記打ち消し音形成手段の前記適応フィル
    タはFIRフィルタで構成され、前記打ち消し音形成手
    段にデジタル信号を供給するA/Dコンバータが、間引
    き器を有するオーバーサンプリング型で構成されてなる
    と共に、前記打ち消し音形成手段からのデジタル出力を
    アナログ信号に変換するD/Aコンバータが、補間器を
    有するオーバーサンプリング型で構成されてなることを
    特徴とする請求項1に記載の騒音低減装置。
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