JP3477832B2 - 肝疾患の検出方法 - Google Patents

肝疾患の検出方法

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JP3477832B2 JP19210594A JP19210594A JP3477832B2 JP 3477832 B2 JP3477832 B2 JP 3477832B2 JP 19210594 A JP19210594 A JP 19210594A JP 19210594 A JP19210594 A JP 19210594A JP 3477832 B2 JP3477832 B2 JP 3477832B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は肝疾患の診断方法に関
し、詳細にはヒト肝実質細胞増殖因子(以下、「hHG
F」と略記する)に対する特定の抗体を用いることによ
る肝疾患の診断方法に関する。
【0002】
【従来の技術および発明が解決しようとする課題】肝炎
や肝硬変等に代表される肝疾患は、肝臓癌へと進行し、
死に至ることがある重篤な疾患である。ところが肝臓は
生体内の中でも極めて複雑な臓器であり、その機能が十
分に解明されていないため、肝疾患障害に対する有望な
薬剤はいまだに見出されていない。
【0003】近年、インターフェロンの肝疾患、特に肝
炎に対する効果が報告されている。しかしインターフェ
ロンは全ての肝炎患者に対して効果を有するわけではな
く、またその多用による副作用が問題視されている。肝
疾患の診断系においても、肝炎の原因と考えられている
ウイルスのゲノム構造が解明されたことに伴い、かかる
ウイルスの遺伝子がコードするポリペプチド等を使用し
たアッセイ系が開発されているが、ウイルスが極めて変
異しやすい等の理由により、十分な検出感度は得られて
いないのが現状である。
【0004】一方、ヒト肝実質細胞増殖因子(以下、
「hHGF」と略記する。また単に肝実質細胞増殖因子
を表す場合、「HGF」と略記する)は、生体内より取
り出した初代培養肝実質細胞の増殖を促進させうるヒト
由来の蛋白性因子で、劇症肝炎患者血漿より見出だされ
た(特開昭63−22526号公報)。さらにその後、
hHGF蛋白質をコ−ドするアミノ酸配列および遺伝子
(cDNA)配列(特開平3−72883号公報)、さ
らにこのcDNAを用いることによる組換えhHGF蛋
白質の生産方法(特開平3−285693号公報)につ
いても報告されている。かかる組換えヒトHGF(以
下、「rhHGF」と略記する)蛋白質は、生体外
(J.Clin.Invest.,87,1853−1
857(1991))、また生体内(Jpn.J.Ph
armacol.,59(suppl.1),137
(1992))において肝実質細胞の増殖および機能を
促進する働きが認められた。さらに、hHGFの標的細
胞・組織が広く検索され、肝細胞以外の種々の上皮細胞
(尿細管上皮・肺上皮・胆管上皮・胃上皮)や線維芽細
胞・リンパ球系細胞がHGFに反応してその増殖や運動
性を変化させることが判明した(Mitsubishi
Kasei R&D Review,,16−24
(1993))。また、これらHGF標的細胞上のレセ
プター分子として、癌原遺伝子c−met産物が機能し
ていることも明らかとなっている(Science,
51,802−804(1991))。
【0005】hHGFは、分子量約86,000のヘテ
ロダイマー構造を有する糖蛋白質であるが、もともとは
1本鎖の前駆体蛋白質としてmRNAより合成され、次
いでジスルフィド結合を介した活性型の2本鎖蛋白質に
プロセスされることが判明している(Biochem.
Biophys.Res.Commun.,163,9
67−973(1989))。また、このプロセスの過
程に着目し、1本鎖前駆体から2本鎖成熟体にプロセス
されて初めてHGFとしての活性が獲得されること
(J.Biol.Chem.,267,20114−2
0119(1992))、およびこのプロセス化に新規
なセリンプロテアーゼ(以下、「HGFアクチベータ
ー」と略記する)が関与することも知られている(J.
Biol.Chem.,268,10024−1002
8(1993))。また、実験動物を用いた解析から、
HGFは種々の肝障害及び肝切除に伴ってその合成が促
進されること(FEBS Lett.,270,81−
84(1990))、さらにHGFが正常肝中にも潜在
型として存在しており、肝障害に伴ってHGFアクチベ
ーターが活性化されてHGFを2本鎖型にプロセスする
こと(J.Biol.Chem.,269,8966−
8970(1994))が明らかとなっている。ラット
においては、HGFと各種臓器障害との関連において、
肝障害のみならず腎障害(Proc.Natl.Aca
d.Sci.USA,91,4357−4361(19
94))および肺障害(J.Biol.Chem.,
68,21212−21217(1993))の再生過
程へのHGF関与が示唆されている。ヒトにおいても、
HGF測定系が開発され(Hepatology,
,1−5(1991))、種々の肝疾患及びその他の
疾患における生体内HGF濃度が測定されている。それ
によると、血中HGF量は種々の肝疾患において上昇す
ることが認められ、HGFの診断意義として、劇症肝炎
早期診断、肝不全の早期予知、肝障害程度の推定などが
示唆された。さらに、最近、妊娠中毒症や腎疾患で血中
HGF高値が、リウマチで滑液・骨髄液中HGF高値
が、各種白血病で骨髄液中HGF高値が認められ、それ
ら疾患におけるHGF診断意義も議論されている(第1
回HGF/SF研究会、1994抄録)。しかしなが
ら、従来の技術においては、体内HGF値は抗HGF抗
体と反応するHGFの総和を見ているにすぎず、各種ヒ
ト疾患において増加する体内HGFが、2本鎖成熟体H
GFであるのか1本鎖前駆体HGFであるのかは明らか
ではなかった。また、ヒト体内においてもラット同様に
1本鎖HGF前駆体が存在しており、それがヒト疾患に
おいて変動するものであるかは不明であった。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、肝疾患の
新しい診断法を提供するべく検討を重ねてきた結果、1
本鎖HGF前駆体が健常人血漿中には存在せず、劇症肝
炎・慢性肝炎・肝硬変等の肝疾患患者血漿中にのみ存在
することを初めて見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】すなわち本発明の要旨は、ヒト体液中に含
まれる不活性型の1本鎖ヒト肝実質細胞増殖因子を検出
することを特徴とする肝疾患の診断方法に存する。以
下、本発明につき詳細に説明する。1本鎖のHGFは、
前述したように活性型である2本鎖HGFの前駆体であ
る。従って1本鎖のHGFを検出する手段としては、 1本鎖のHGFのみを特異的に検出する 1本鎖のHGFおよび2本鎖のHGFの総和を検出
し、そこから2本鎖のHGF量を差し引く 等が具体的な方法として挙げることができる。いずれに
しても、本発明においては1本鎖のHGFおよび/また
は2本鎖のHGFに対する抗体を使用することが望まし
い。抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体
のいずれもが使用できる。これらの抗体は、いずれも常
法に従って調製することができる。例えばモノクローナ
ル抗体は、特公平5−60359号公報に記載の方法に
従って、容易に作製することができる。
【0008】抗体は、例えば西洋ワサビペルオキシダー
ゼ、ガラクトシダーゼ等の酵素を用いて標識することに
より、エンザイム・イムノアッセイに供することができ
る。本発明においては、ヒト由来の体液、例えば血液、
血漿、血清、リンパ液、汗、尿等に含まれる1本鎖のH
GFを、上記抗体を用いて検出する。1本鎖のHGF
は、後述の実施例に示すように、健常人には存在せず、
急性肝炎、劇症肝炎、慢性肝炎、肝硬変等の肝疾患患者
内においてのみ存在する。従って1本鎖のHGFを検出
することは上記肝疾患の早期発見につながるものであ
り、臨床上の意義は極めて大きいものである。
【0009】
【実施例】以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に
説明するが、その要旨を越えない限り、以下の実施例に
限定されるものではない。 実施例1 劇症肝炎患者血漿中の1本鎖および2本鎖H
GFの検出 特開平5−208998号公報に記載の方法に従って、
組換えヒト1本鎖HGF前駆体を調製した。すなわちチ
ャイニーズハムスター卵巣由来細胞株CHOにヒトHG
FcDNA発現ベクターを導入し、安定してhHGFを
生産する産生株を作製した。hHGF産生株を無血清e
RDF培地(極東製薬社)中でローラーボトルで培養
し、0.2μmフィルター(アミコン社)通過後の培養
上清をSP−セファロース・ファースト・フロー(F
F)(ファルマシア社)カラムにアプライした。0.3
Mから1MのNaClにてグラジエント溶出し、組換え
hHGF標品を得た。本条件では10%程度の2本鎖H
GFを含み、1本鎖、2本鎖HGFとも約0.7MNa
Clにて溶出された。
【0010】一方、健常人5名、劇症肝炎患者2名(昏
睡グレードII)、慢性肝炎患者2名および肝硬変患者
2名より血清を採取した。劇症肝炎患者2名からは、血
漿交換時に血漿を採取した。血漿及び血清サンプルは使
用まで−70℃にて保存した。次に、健常人血清由来の
HGFアクチベーターを部分精製した。約50mlの健
常人血清を20mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.4)
にてSP−セファロースFFカラムにアプライし、次い
で素通り画分をヘパリン−セファロース(ファルマシア
社)カラムにアプライして、0.1−1M NaClに
てグラジエント溶出した。活性画分をさらにヒドロキシ
アパタイト(ファルマシア社)カラムに載せ、0.1M
リン酸緩衝液(pH7.4)にて溶出した。各画分の活
性は以下のように確認した。すなわち、各画分100μ
lと劇症肝炎患者由来血漿サンプル100μlを37
℃、2時間反応させ、サンプル中のHGF量をELIS
Aにて測定し、サンプル中HGF量を増大させる画分を
HGFアクチベーター画分とした。
【0011】上記劇症肝炎患者由来の血漿サンプル20
0μlを、ウサギ抗組換えhHGF(以下、「rhHG
F」と略記する)ポリクロ−ナル抗体10μgと4℃に
て20時間、次いで10μlのプロテインAセファロー
スを加えて4℃にて3時間インキュベートし、免疫複合
体を形成させた。これを0.5%NP−40を含む20
mMTris−HCl緩衝液(pH7.4)にて十分に
洗浄後、20μlのSDS−サンプル緩衝液(Natu
re,227,680−685(1970))中で5分
間ボイルした。サンプルを還元および非還元条件にてド
デシル硫酸ナトリウム(SDS)−5%ポリアクリルア
ミドゲル電気泳動(PAGE)法にて分離し(20mA
一定)、次いで泳動ゲルを水平型ブロッティング装置
(ザルトリウス社)にセットして150mA一定、1時
間にてナイロン膜(ミリポア社)上に泳動蛋白質をブロ
ットした。ナイロン膜上のHGF蛋白質は、アビジン/
ビオチン結合を利用したウエスタンブロッティング法に
より検出した。すなわち、膜を5%スキムミルクにてブ
ロッキング後、まずウサギ抗hHGFポリクローナル抗
体またはマウス抗hHGFモノクローナル抗体(10μ
g/ml)で37℃、2時間、次いで抗ウサギまたはマ
ウスIgGビオチン化抗体で37℃、1時間、さらにス
トレプトアビジン溶液で、室温、約15分反応させて、
膜上hHGF蛋白質を検出した(ベクター社、ELIT
Eキット)。
【0012】図1AおよびBに結果を示す。図1Aは、
CHOトランスフェクタント培養上清より精製したrh
HGF1本鎖前駆体(2μg/lane)を還元下でSD
S−PAGEで分離し、ウエスタンブロッティングの後
に、ナイロン膜上のrhHGF蛋白質をマウス抗hHG
Fモノクローナル抗体(lane1)、またはウサギ抗
rhHGFポリクロ−ナル抗体(lane2)と反応さ
せてELITEキットで発色させたものである。約90
KダルトンのHGF1本鎖前駆体は、lane2でのみ
検出されている。図1Bは、劇症肝炎患者由来血漿(l
ane1および4)、健常人血漿(lane2および
5)、または健常人由来HGFアクチベーター画分と前
処理した劇症肝炎患者由来血漿(lane3および6)
からHGF蛋白質を免疫沈降させ、非還元(lane1
−3)または還元(lane4−6)条件にてSDS−
PAGEで分離し、さらにマウス抗hHGFモノクロー
ナル抗体(lane1−3)またはウサギ抗rhHGF
ポリクロ−ナル抗体(lane4−6)を用いたウエス
タンブロッティングにてHGF蛋白質を検出したもので
ある。非還元下において、劇症肝炎由来血漿中には2本
鎖HGFが検出される(lane1)が、その量は血漿
サンプルをHGFアクチベーター画分と前処理すること
により2倍以上に増大した(lane3)。還元下で
は、1本鎖HGF前駆体が劇症肝炎由来血漿中に見出さ
れ(lane4)、その量はHGFアクチベーターとの
前処理により著名に減少した(lane6)。また、健
常人血漿中には1本鎖、2本鎖いずれの型のHGFも検
出できなかった。
【0013】以上の結果から、1本鎖HGF前駆体はこ
のウエスタンブロッティングの系においては、マウス抗
hHGFモノクローナル抗体で検出されず、ウサギ抗r
hHGFポリクロ−ナル抗体で検出されること、劇症肝
炎患者血漿中には、2本鎖HGFに加えて1本鎖HGF
前駆体が存在していること、そして1本鎖HGFも2本
鎖HGF同様健常人血漿中には認められないことが判明
した。
【0014】実施例2 劇症肝炎患者由来血漿サンプル
中HGF量の測定 劇症肝炎患者の血漿サンプル100μlに健常人血清等
量を添加して、37℃にて0−2時間インキュベート
し、反応液の50μlをELISAによるHGF定量に
供した。対照群として血清の代わりに0.5%ウシ血清
アルブミンを含むリン酸緩衝液/生理食塩水(PBS)
を同量添加した。また、血清中HGFアクチベーターを
不活化する目的で血清とともにロイペプチン50μMを
添加する検討も行った。
【0015】大塚製薬社製、hHGFアッセイキットに
より定量した。すなわち、96穴アッセイプレートの各
ウェルに希釈緩衝液50μl及びhHGF標準液または
検体50μlを加え、室温にて攪はんしながら1時間反
応させた。洗浄液にて3回洗浄後、第一抗体溶液(マウ
ス抗hHGFモノクローナル抗体)100μlを加え、
室温にて攪はんしながら1時間反応させた。次に洗浄液
にて3回洗浄後、第二抗体液(ウサギ抗hHGFポリク
ローナル抗体)100μlを加え、室温にて攪はんしな
がらさらに1時間反応させた。洗浄液にて3回洗浄後、
発色液を100μl/ウェル加えて室温で約10分間反
応させ、適度な発色が見られた段階で反応停止液を10
0μl/ウェル重層し、各ウェルの吸光度を492nm
で測定した。サンプル中HGF濃度は、hHGF標準曲
線より算出した。表1に結果を示す。
【0016】
【表1】 表1 ──────────────────────────────────── HGF濃度 (ng/ml) ──────────────────── プレインキュベーション時間 0 30分 120分 ──────────────────────────────────── 正常人血清+PBS <0.1 <0.1 <0.1 患者血漿 +PBS 6.38±0.16 7.12±0.20 8.72±0.35 患者血漿 +PBS +ロイペプチン − − 6.45±0.13 患者血漿 +正常人血清 <6.39 11.96±1.01 15.43±0.70 患者血漿 +正常人血清 +ロイペプチン − − 8.06±0.55 ────────────────────────────────────
【0017】表1において、劇症肝炎由来血漿中のEL
ISAにて測定されるHGF量は、血清とのプレインキ
ュベーションにより増大し、2時間後には約2.4倍に
なった。しかしながら、ロイペプチン添加サンプルで
は、この増加は認められず、健常人血漿中にもプレイン
キュベーション前後でHGFは認められなかった。次
に、正常人血清の代わりにHGFアクチベーターを用い
て同様の試験を行った。結果を表2に示す。
【0018】
【表2】 表2 ─────────────────────────────── 粗精製HGF HGF濃度 アクチベーター (ng/ml) ─────────────────────────────── 患者血漿 − 8.18±0.24 患者血漿 + 16.38±0.47 患者血漿+ロイペプチン + 8.57±0.33 組換え1本鎖HGF前駆体 − 2.40±0.23 組換え1本鎖HGF前駆体 + 7.96±0.30 組換え1本鎖HGF前駆体 +ロイペプチン + 3.22±0.42 ───────────────────────────────
【0019】正常人血清の代わりに粗精製HGFアクチ
ベーターを用いても、同様の結果が得られた。すなわ
ち、劇症肝炎患者血漿中HGF値はHGFアクチベータ
ーとのプレインキュベーションで約2倍に増加した。さ
らに、組換え1本鎖HGF前駆体のELISAによるH
GF値も、HGFアクチベーターとのプレインキュベー
ションで約3.3倍に増加した。以上の結果から、患者
血漿中には、2本鎖のみならず1本鎖HGF前駆体が存
在しており、健常人血清中のHGFアクチベーターによ
ってプロセスされること、およびプロセス化によって潜
在していた1本鎖HGFがELISAに反応するように
なってHGF測定値が数倍に上昇することが明かとなっ
た。
【0020】実施例3 肝疾患患者由来血漿サンプルと
各種血清との前処理によるサンプル中HGF量の変動 実施例1に示す如く採取した劇症肝炎、慢性肝炎、およ
び肝硬変由来血清を直接、または37℃で2時間プレイ
ンキュベートした後にHGF測定用ELISAに供し
た。その際、一部のサンプルには50μMロイペプチン
を添加して、血清中のHGFアクチベーターの作用を抑
える処置を施した。表3に結果を示す。
【0021】
【表3】 表3 ──────────────────────────────────── プレインキュベーション ロイペプチン HGF濃度 (ng/ml) ──────────────────────────────────── 劇症肝炎患者A − − 5.59±0.47 + − 9.01±0.34 劇症肝炎患者B − − 7.43±0.35 + − 9.62±0.31 + + 7.93±0.30 慢性肝炎患者A − − 0.51±0.03 + − 0.67±0.07 慢性肝炎患者B − − 0.45±0.04 + − 0.68±0.06 + + 0.51±0.02 肝硬変患者A − − 0.33±0.02 + − 0.46±0.03 肝硬変患者B − − 0.31±0.05 + − 0.47±0.06 + + 0.31±0.01 ────────────────────────────────────
【0022】血清サンプルのプレインキュベーションに
より、サンプル中HGF値は劇症肝炎、慢性肝炎、肝硬
変由来のいずれにおいても1.3−1.6倍上昇した。
実施例1および2で述べたように、この測定値の上昇
は、サンプル中に1本鎖HGF前駆体が存在しており、
それがHGFアクチベーターでプロセスされることによ
って初めてELISA抗原として認識されることに起因
する。実際、HGFアクチベーター活性を阻害するロイ
ペプチン存在下では、HGF値の上昇は認められなかっ
た。
【0023】以上の結果より、劇症肝炎のみならず、慢
性肝炎、肝硬変など種々の肝疾患においても1本鎖HG
F前駆体の存在すること、および患者自身の血清中にも
HGFアクチベーターが存在することが判明した。患者
血中においては、HGFアクチベーターは部分的にしか
活性化されていない為に、血中のHGFの一部は1本鎖
前駆体として存在すると解釈される。 実施例4 1本鎖HGF前駆体を測定可能なELISA
法 実施例1にて用いたhHGFアッセイキットは1本鎖H
GF前駆体を測定できず、それは一次抗体の反応性に起
因した。そこで、他の抗体、ウサギ抗rhHGFポリク
ローナル抗体およびマウス抗rhHGFモノクローナル
抗体を調製してELISAを確立し、1本鎖HGF前駆
体および2本鎖成熟型HGFに対する反応性を検討し
た。
【0024】まずウサギ抗HGFポリクローナル抗体を
調製した。ニュージーランドホワイトラビット雌10週
齢に、特開平3−285693号公報に記載の方法で精
製したrhHGF5mgをフロイント完全アジュバント
(1:1)とよく混合して背部皮内投与した(0週)。
次いで、10週後にrhHGF約1.5mgをフロイン
ト不完全アジュバント(1:1)とよく混合して脾臓内
に直接投与した。13週後にrhHGF150μgを3
00μlの0.5M NaCl−0.01%ツウィーン
20に溶解して耳静脈より投与した。16週目にはオク
タロニー法にて>128倍の力価が認められたため、耳
動脈より採血し血清を得た。
【0025】次に、マウス抗HGFモノクローナル抗体
を調製した。BALB/cマウス雄8週齢に、rhHG
F30μgをフロイント完全アジュバント(1:1)と
よく混合して腹腔内投与した(0週)。次いで、2およ
び4週後にrhHGF30μgをフロイント不完全アジ
ュバント(1:1)とよく混合して腹腔内投与した。さ
らに、6週後、rhHGF45μgをPBSに溶解して
尾静脈より投与した。最終免疫の2日後に脾臓を摘出し
て、マウスミエローマ細胞株P3U1と融合させ、目的
の抗体を安定して生産するハイブリドーマを樹立した。
この細胞株を培養し、培養上清を取得して抗体ソースと
した。
【0026】ウサギ抗rhHGFポリクローナル抗体を
含有する血清はPBSにて10倍に希釈し、またマウス
抗rhHGFモノクローナル抗体を産生するハイブリド
ーマの培養上清は40%硫安沈澱析出物を100mM
NaCl−10mM トリス(pH9)に溶解して、プ
ロテインA−セファロースカラムクロマトグラフィ−に
供した。サンプルを添加したカラムはPBS(血清サン
プル)または100mM NaCl−10mM トリス
(pH9)でよく洗浄後、10mMグリシン−HCl
(pH2.8)にて目的抗体を溶出した。得られた抗体
含有液はPBSにて透析、分注し、使用まで−80℃に
て保管した。
【0027】得られた抗体のうち、ウサギポリクローナ
ル抗体の一部は2ステップELISA法の二次抗体とし
て用いるため、過よう素酸法によって西洋ワサビペルオ
キシダーゼ(HRP、ベーリンガーマンハイム社)で標
識した。すなわち、HRP5mg含有0.3M重炭酸ソ
ーダ緩衝液(pH8.3)1mlに1% 1-フルオロ
2,4−ジニトロベンゼンエタノール液を0.1ml添
加し、室温にて1時間攪はん後、0.06M過よう素酸
ナトリウム水溶液1mlを徐々に添加して室温にて30
分間攪はん、さらに0.16Mエチレングリコール水溶
液1mlを急速に加えて1時間攪はんした。これを10
mM炭酸ソーダ緩衝液pH9.6に対して4℃、1昼夜
透析して酸化HRPを調製した。精製抗体5mgも同様
に10mM炭酸ソーダ緩衝液pH9.6に対して透析し
ておき、酸化HRP液と抗体液を混合し、室温にて2時
間攪はんした。混合液に水酸化ほう素ナトリウム5mg
を添加し、4℃で2時間放置後、PBSに対して透析
し、HRP標識抗体を得た。結合しなかった抗体および
HRPはセファクリルS−300を用いたゲルろ過によ
って除去された。すなわち、予めPBSにて平衡化した
底面積約3cm2 、ゲル高約1mのカラムに透析物をア
プライし、流速0.2−0.5ml/分程度でPBSに
て溶出させた。OD280 にてモニターしながら最初のピ
ークを分取し、標識抗体画分とした。標識抗体は、小分
けして−80℃にて保存した。
【0028】前述した方法で組換えヒト1本鎖HGF前
駆体および2本鎖成熟型HGFを取得した。それぞれの
蛋白量はOD280 の値から換算し、一定量を還元下にて
SDS−PAGE(12.5%ポリアクリルアミド)に
供した。図2にSDS−PAGEの結果を示す。レーン
2から4は1本鎖HGF前駆体の、レーン5から7は2
本鎖成熟型HGFの電気泳動パターンを示す。1本鎖H
GF前駆体画分は少量の2本鎖HGFを含むため、図2
のゲルをデンシトメーター(島津製作所社)で解析し
て、バンドの面積から1本鎖/2本鎖の割合を求めた。
図中、レーン1〜6はそれぞれ、分子量マーカー、1本
鎖HGF 2.5μg/レーン、1本鎖HGF 5.0
μg/レーン、1本鎖HGF 10.0μg/レーン、
2本鎖HGF 4.3μg/レーン、2本鎖HGF
8.6μg/レーン、2本鎖HGF 17.0μg/レ
ーンを表す。
【0029】図3に結果を示す。それによると、2本鎖
成熟型HGFサンプルは、ほぼ100%2本鎖で、1本
鎖HGF前駆体を含まなかった(図3A)。一方、1本
鎖HGF前駆体サンプルは、約72%の1本鎖型に28
%の2本鎖成熟型HGFを含んでいた(図3B)。次
に、これらのサンプルをELISAに供して、1本鎖H
GF前駆体および2本鎖成熟型HGFの反応性を検討し
た。
【0030】上記の如く調製した抗HGF抗体を用い
て、HGFに特異的なELISA法を確立した。すなわ
ち、ファルコン社96穴プレートに一次抗体としてマウ
ス抗rhHGFモノクローナル抗体またはウサギ抗rh
HGFポリクローナル抗体(10μg/mlとなるよう
0.05M炭酸緩衝液pH9.6に懸濁)を50μl/
ウェル添加して4℃、1昼夜静置、次いで液を捨て、1
%ウシ血清アルブミン含有PBSを250μl/ウェル
加えて4℃、1昼夜以上置いてウェル壁をブロッキング
した。試験時にプレートのブロッキング液を捨ててよく
水気を切り、被検液を50μl/ウェル加えた。被検液
は0.1%CHAPS、1M(ウサギポリクローナル抗
体)または0.4M(マウスモノクローナル抗体)Na
Cl、0.1%ウシ血清アルブミン、および0.05%
ツウィーン20を含む0.01Mリン酸緩衝液(pH
7.4)にて適当に希釈した。4℃、1昼夜反応後に液
を捨て、0.05%ツウィーン20含有PBS(以下、
「PBST」と略記する)にてよく洗浄後、二次抗体と
してHRP標識ウサギ抗rhHGF抗体液を50μl/
ウェル添加して室温にて2時間反応させた。二次抗体
は、上記方法にて調製したものを0.1%ウシ血清アル
ブミン含有PBSTにて100−200倍に希釈して使
用した。2時間後、プレートをPBSTにてよく洗浄し
て水気を切り、50μl/ウェルの発色液を添加した。
発色液は、0.4mg/mlオルソフェニレンジアミン
および0.01%過酸化水素水を含む0.05Mクエン
酸−リン酸緩衝液(pH5.0)から成る。室温で10
−20分程度反応させ、適度な発色が得られた時点で
4.5N硫酸50μl/ウェルを添加して反応を停止さ
せた。各ウェルの吸光度は二波長測定用イムノリーダー
(日本インターメッド社)にて測定(490/620n
m)した。
【0031】図4および5に結果を示す。図4は、一次
抗体としてウサギ抗rhHGFポリクローナル抗体をプ
レートに固相化した場合(図中□は2本鎖成熟型HGF
を、◆は1本鎖HGF前駆体を表す)、図5はマウス抗
rhHGFモノクローナル抗体3種を固相化した場合の
1本鎖(図中、◆で表す)および2本鎖HGF(図中●
で表す)の反応性を示している。横軸は添加HGF濃度
を、縦軸はELISA反応性を490nm吸光度で表し
ている。ポリクローナル抗体、3種のモノクローナル抗
体いずれの場合においても、2本鎖成熟型HGFとほぼ
同等に1本鎖HGF前駆体とも反応した。
【0032】以上の結果より、HGFのサンドイッチE
LISA法において、固相化する一次抗体の性質を吟味
することにより、2本鎖成熟型HGFと同等に1本鎖H
GF前駆体も測定し得るELISAが確立できることが
判明した。
【0033】
【発明の効果】本発明によれば、1本鎖HGF前駆体を
検出することにより、現在の診断系よりも病態をよく反
映した肝疾患の診断系を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1Aは、組換えヒトHGF前駆体蛋白質に対
するマウス抗ヒトHGFモノクローナル抗体およびウサ
ギ抗ヒトHGFポリクローナル抗体の反応性の相違を、
ウェスタンブロッティングにて比較した図面に代わる電
気泳動写真である。図1Bは、劇症肝炎由来血漿中に、
1本鎖HGF前駆体の存在を認めた図面に代わる電気泳
動写真である。
【図2】1本鎖HGF前駆体および2本鎖成熟型HGF
のSDS−PAGEの電気泳動パターンを示した図面に
代わる写真である。
【図3】図2の電気泳動ゲルをデンシトメーターにて解
析し、1本鎖HGFと2本鎖HGFの割合を定量化した
図面である。
【図4】HGF特異的サンドイッチELISA法におけ
る1本鎖HGF前駆体および2本鎖成熟型HGFの反応
性を示す図面である。
【図5】HGF特異的サンドイッチELISA法におけ
る1本鎖HGF前駆体および2本鎖成熟型HGFの反応
性を示す図面である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 平6−192297(JP,A) 特開 平8−27026(JP,A) 特開 平4−18028(JP,A) 特開 昭64−3199(JP,A) 特開 昭64−27491(JP,A) 特開 昭63−22526(JP,A) 特開 昭60−45534(JP,A) 特開 昭62−45530(JP,A) 特開 平5−208998(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) G01N 33/48 - 33/98

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 ヒト体液中に含まれる不活性型の1本鎖
    ヒト肝実質細胞増殖因子を免疫学的方法により検出する
    ことを特徴とする、肝疾患の検出方法。
  2. 【請求項2】 1本鎖ヒト肝実質細胞増殖因子の検出
    が、活性型の2本鎖ヒト肝実質細胞増殖因子と1本鎖ヒ
    ト肝実質細胞増殖因子の量の総和を検出し、該総和から
    2本鎖ヒト肝実質細胞増殖因子の量を差し引くことによ
    り行われることを特徴とする請求項1に記載の方法。
  3. 【請求項3】 2本鎖ヒト肝実質細胞増殖因子と1本鎖
    ヒト肝実質細胞増殖因子の量の総和が、2本鎖ヒト肝実
    質細胞増殖因子及び1本鎖ヒト肝実質細胞増殖因子に対
    して共に反応性を有する抗体を用いて検出され、2本鎖
    ヒト肝実質細胞増殖因子の量が、2本鎖ヒト肝実質細胞
    増殖因子のみに反応性を有する抗体を用いて検出される
    ことを特徴とする請求項2に記載の方法。
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