JP3468557B2 - ムチンの精製方法 - Google Patents

ムチンの精製方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明はたとえば食品、化粧料、
医薬品の構成成分として利用されるムチンの精製方法に
関し、特にムチンの生理活性を維持しながらその透明
度、水に対する溶解性、安定性を改善する方法に関す
る。
【0002】
【従来の技術】ムチンは、アミノ糖、中性糖、シアル酸
からなる糖鎖の末端アミノ酸がポリペプチド鎖のセリン
残基またはトレオニン残基に結合した糖タンパクであ
り、上皮性細胞、唾液線、顎下線、胃粘膜、胃液、腸管
粘膜等の動物組織に広く分布している。ムチンは、ゲル
形成能、水素イオン浸透遅延能、ペプシン阻害能等の生
理機能を有し、古くから胃腸の粘膜保護剤や食品乳化剤
として利用されてきた。また近年では、その天然保湿因
子としての機能を利用して皮膚や髪の健康を増進し老化
を遅延させる化粧料や衛生用品の素材として使用される
など、その用途は拡大している。
【0003】ところで、ムチンは動物組織中ではタンパ
クや脂質と共に複雑に結合して存在する、粘度の高い高
分子化合物であり、この状態では水や塩類溶液に溶解し
にくい。したがって、これを透明な飲料や化粧水へ配合
するには、酸やアルカリによる加水分解、あるいは酵素
分解を行って分画精製し、透明な性状の精製標品として
得ることが必要である。
【0004】このための技術として、たとえば特開平2
−78604号公報に、常法にしたがって得られた粗製
ムチンをプロテアーゼ(科研製薬社製;商品名アクチナ
ーゼAS)を用いて加水分解し、その反応液の上清から
水溶性ムチンを精製する方法が開示されている。ここ
で、上記上清になお濁りが認められる場合には、ポアサ
イズ0.45μmのメンブラン・フィルターを用いて濾
過を行い、清澄な溶液を得る旨が述べられている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記公
報に記載される技術では、プロテアーゼ処理時の温度が
50℃と、酵素反応条件としては比較的高温であり、反
応液の褐変が生じやすい。このことは、ムチンを構成す
るペプチド鎖や糖鎖の変性を意味し、ムチンの失活を招
く虞れが大きい。
【0006】また、上記の技術により得られたムチン
は、肌に対する塗布使用テストの欄に記載されているよ
うに、精製水中に4%の濃度で溶解した場合に白濁を呈
する。これは、上記ムチンが弱酸性領域において透明性
状を維持し得ないことを示している。特に、化粧水、透
明シャンプー等の化粧料や衛生用品は皮膚や髪のpHに
合わせて弱酸性に調製される場合が多いので、これらを
透明性状をもって調製したい場合には上記ムチンは不適
当である。また、クリーム、乳液、不透明シャンプー等
のように透明性の要求されない乳化系化粧料を調製する
場合にも、乳化の均一性や品質安定性が十分に達成され
るためには、これに配合されるムチンが経時的に白濁を
生ずることは望ましくない。
【0007】また、反応液の上清の濁りを除去するため
に濾過が行われているが、これは単に工程数の増加を招
くのみならず、粘稠な反応液の濾過に長時間を要するこ
と、あるいはメンブラン・フィルターの目詰まりを防止
するためのメンテナンスを要することによるスループッ
トの低下を招く。しかも、0.45μmのポアサイズで
は濁質の一部が透過する可能性があり、これを防止する
ためにより小さいポアサイズを選択すれば、上述のスル
ープットの低下は一層深刻化する。
【0008】さらに、前述の濾液にはムチンの低分子画
分が回収されるため、ペプシン阻害活性や抗潰瘍活性が
低下もしくは消失している可能性もある。そこで、これ
らの課題を解決し、本発明は生産性の高い方法で、生理
活性を保持した透明なムチンを調製する方法を提供する
ことを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】本発明者は、上述の目的
を達するため、プロテアーゼ処理条件の最適化を行うと
共に、濾過工程を不要とするプロセスについて鋭意検討
を行い、本発明を提案するに至った。すなわち、本発明
のムチンの精製方法は、プロテアーゼ処理を施した粗製
ムチン溶液を遠心加速度3,000G以上、遠心時間1
0分間以上と等価な条件で遠心分離し、得られた上清液
からムチンを回収するものである。上記の数値は実験的
に見出されたものであり、遠心加速度または遠心時間が
上記の値に満たない場合には、酸性領域で濁りを生じな
いムチンの分子量画分を得ることが困難となる。
【0010】ここで、前記プロテアーゼ処理の反応液の
pHの最適範囲は、pH7.0〜9.0である。pHが
この範囲を外れると、プロテアーゼの一部失活によりム
チンのタンパク部分の分解が進まず、遠心分離によって
も透明な上清を得ることができない。特に好ましい範囲
は、pH7.5〜8.5である。プロテアーゼ処理の最
適処理温度は、30〜50℃である。上記温度がこの範
囲よりも低い場合にはプロテアーゼが十分に活性化され
ず、所望の低分子化が進行しない。また上記温度がこの
範囲よりも高い場合には、プロテアーゼが失活し易く、
また反応液の褐変を生じて得られるムチン標品の失活を
招き易くなる。特に好ましい範囲は、35〜45℃であ
る。
【0011】プロテアーゼ処理の最適時間は、40〜6
0時間である。上記時間がこの範囲よりも短い場合に
は、粗製ムチンの消化が不十分となり、反応液の濁りを
除去することが困難となる。また、上記時間がこの範囲
よりも長い場合には、低分子化が進み過ぎ、所望の生理
活性が得られない虞れが大きい。
【0012】さらに、前記プロテアーゼ処理に用いるプ
ロテアーゼとしては、タンパクをそのペプチド鎖の中途
部にて切断し、効率良く低分子化させることが可能なエ
ンド型プロテアーゼを用いることができるが、特にトリ
プシンもしくはキモトリプシンが好適である。なお、基
質である粗製ムチンに対するプロテアーゼの添加量は、
ムチンの過度の低分子化を防止する観点から高すぎては
ならず、また処理時間の延長に伴う経済性の低下や細菌
汚染の発生を防止する意味から低すぎてもならない。好
ましい範囲は、おおよそ0.05〜0.4重量%であ
る。
【0013】
【作用】本発明で採用する上記遠心加速度の領域では、
従来、濾過により除去されていたムチンの高分子量画分
を沈澱除去することができるので、煩瑣な濾過工程が不
要となる。この条件で上清に残留するムチンは、分子量
がおおよそ100万〜1,000万であり、水に溶解し
て透明溶液を与える他、生理活性を維持している。
【0014】また、プロテアーゼ処理のpH、温度、時
間、プロテアーゼの種類の各条件を最適に選択すること
により、上記分子量範囲のムチンを最も効率良く調製す
ることができる。なお、本発明のプロテアーゼ処理によ
るムチンの低分子化とは、糖鎖を結合するタンパクを低
分子化することであり、このときの条件最適化によりペ
プチド鎖の長さ、および1本のペプチド鎖に結合してい
る糖鎖の本数が制御される。トリプシンは、リジンおよ
びアルギニンのカルボキシル末端側のペプチド結合を切
断することによりこれを達成し、これより特異性が若干
低いキモトリプシンは、フェニルアラニン、トリプトフ
ァン、チロシン等の芳香族アミノ酸のカルボキシル末端
側でペプチド結合を切断することによりこれを達成す
る。
【0015】
【実施例】以下、本発明を具体的な実験結果にもとづい
て説明する。
【0016】基本的なムチンの精製手順 ここでは、粗製ムチンのプロテアーゼ処理に関する種々
の条件検討を行う前に、基本的なムチンの精製手順につ
いて述べる。 (1)ブタ胃由来の粗製ムチン(オルタナ社製)10k
gを蒸留水490kgに懸濁し、クラリファイア処理を
行う。 (2)上清を加熱殺菌する(125℃,15秒間)。 (3)プロテアーゼ処理を行う。
【0017】このときのプロテアーゼの種類、基質に対
するその添加重量比、反応液のpH、反応温度、反応時
間の諸条件の検討については後述する。なお、プロテア
ーゼ溶液およびpHの調整に用いる5%水酸化ナトリウ
ム溶液は、予めポアサイズ0.2μmのメンブラン・フ
ィルターを用いて除菌したものを用いた。 (4)反応液を加熱し(80℃,15分間)、プロテア
ーゼを失活させる。 (5)反応液を遠心分離する。
【0018】この遠心分離には、パイロット菌体分離機
(ウェストファリア社製;バクトヒュージSB60
型)、あるいは連続超遠心分離機(日立工機社製;CP
40Y型)を使用した。このときの遠心分離条件の検討
については後述する。 (6)上清を固形分5%となるまで減圧濃縮する。 (7)濃縮液を凍結乾燥して本発明のムチン標品を得
る。
【0019】以上の手順により得られたムチン標品を、
上清由来標品とする。
【0020】なお、比較のために、上記(4)のプロテ
アーゼ失活後、(5)の遠心分離を行わずにプロテアー
ゼ処理の反応液について直接エタノール分画を行い、遠
心分離(3,000G×10分)を行った後、沈澱を乾
燥させたムチン標品を得た。これを、全懸濁液由来標品
とする。
【0021】実験例1 本実験では、上記プロテアーゼ処理に用いるプロテアー
ゼの種類を選択するために、数種類のプロテアーゼを用
いて上記の上清由来標品と全懸濁液由来標品をそれぞれ
調整し、660nmにおける吸光度にもとづく比濁分析
により両標品の透明度を比較した。
【0022】用いたプロテアーゼは、トリプシン、キモ
トリプシン、アクチニジン(最適pH4〜7)、パパイ
ン、麹菌プロテアーゼI(大和化成社製;商品名プロチ
ン。最適pH6,最適温度45〜60℃)、麹菌プロテ
アーゼII(天野製薬社製;商品名アマノA。最適pH6
〜10,最適温度50℃付近)、および麹菌プロテアー
ゼIII (天野製薬社製;商品名アマノM。最適pH3〜
6,最適温度50℃付近)である。ここで、アクチニジ
ンはキウィフルーツ由来のチオール・プロテアーゼであ
り、リジンおよびアルギニンのカルボキシル末端側を優
先的に切断する。麹菌プロテアーゼIIは、ペプチダーゼ
活性、α−アミラーゼ活性、セルラーゼ活性も有する。
また、麹菌プロテアーゼIII はペプチダーゼ活性も含
む。
【0023】プロテアーゼ処理の条件は、粗製ムチンに
対する添加量0.1〜0.2重量%、pH8.0、反応
温度40℃、反応時間50時間とした。また、遠心分離
条件は、3,000G×10分とした。このとき、プロ
テアーゼ溶液の代わりに同量の蒸留水を添加した対照実
験(プロテアーゼ無添加)も同時に行った。
【0024】比濁分析の結果を、図1に示す。いずれの
酵素を用いた場合、もしくは無添加の場合にも、全懸濁
液に対して遠心分離上清液の濁度が大幅に低下している
ことから、まず遠心分離の効果が顕著に現れていること
がわかる。この遠心分離による濁度の低下は、プロテア
ーゼ無添加の系においても観察された。しかし、遠心分
離上清液の濁度は経時的に上昇し、また粘度も高いため
に取り扱い性に劣っていた。
【0025】これに対し、プロテアーゼ処理を行った系
では経時的な濁度の上昇や取り扱い性の劣化はみられな
かった。ただし、遠心分離上清液に含まれるムチンの分
子量分布をゲル濾過により分析したところ、ムチンの分
子量変化の程度はプロテアーゼの種類により異なること
がわかった。すなわち、トリプシンおよびキモトリプシ
ンでは分子量の低下が比較的少なかったが、その他のプ
ロテアーゼではより低分子化が進行し、分子量分布も拡
大していた。低分子化はムチンの生理活性の低下につな
がるとの懸念から、本発明に用いるプロテアーゼとして
トリプシンおよびキモトリプシンが最適であると判断し
た。
【0026】実験例2 本実験例では、キモトリプシンおよびトリプシンによる
プロテアーゼ処理時の温度条件を検討した。すなわち、
クラリファイア処理後、加熱殺菌した粗製ムチン水溶液
(pH4.45)のpHを8.0に調整し、該粗製ムチ
ンに対して0.1〜0.4重量%のキモトリプシンまた
はトリプシンを添加し、20℃,30℃,40℃,50
℃の各温度にて24時間のプロテアーゼ処理を行った。
この反応液を3,000G×10分の条件で遠心分離
し、得られた上清の濁度(660nmにおける吸光度)
を測定した。
【0027】結果を表1に示す。
【0028】
【表1】
【0029】この表より、プロテアーゼ処理時の温度を
30〜50℃とした場合に濁度が低く、おおよそ40℃
以上の温度域にてほぼ下限値が達成されることがわかっ
た。ただし、50℃では反応液に褐変がみられることか
ら、特に35〜45℃の範囲を最適温度と判断した。
【0030】実験例3 本実験例では、キモトリプシンおよびトリプシンによる
プロテアーゼ処理時のpH条件が濁度およびペプシン阻
害活性に及ぼす影響について調べた。まず、濁度につい
ては、クラリファイア処理後、加熱殺菌した粗製ムチン
水溶液のpHをpH5.0,pH6.0,pH7.0,
pH8.0の各値に調整し、これに粗製ムチンに対して
0.1〜0.4重量%のキモトリプシンまたはトリプシ
ンを添加し、各pH条件を維持しながら40℃,24時
間のプロテアーゼ処理を行った。この反応液を3,00
0G×10分の条件で遠心分離し、得られた上清の濁度
(660nmにおける吸光度)を測定した。
【0031】また、比較のため、粗製ムチン水溶液のp
H値(=4.45)を調整せずに同様のプロテアーゼ処
理を行った場合の濁度を測定した。さらに、プロテアー
ゼ処理後のムチンの弱酸性領域における安定性を調べる
ため、上記pH8.0にてプロテアーゼ処理を行った
後、反応液のpH値を再び4.5に調整した場合の濁度
も測定した。
【0032】結果を表2に示す。
【0033】
【表2】
【0034】この表より、上清の濁度はpH値が5.0
から8.0へ上昇するにつれて低下していることが明ら
かである。これ以上のpH領域では、ほぼ一定値に落ち
着く。したがって、特に好適なpH値は8.0付近であ
ることがわかった。また、pH8.0にてプロテアーゼ
処理を行った後、pHを4.5に再調整した場合には、
濁度がやや上昇するものの、最初から未調整の場合に比
べて著しく低い濁度が達成され、得られたムチン標品が
弱酸性領域においても十分な透明度を維持していること
がわかった。
【0035】次に、pH未調整、pH8.0、およびp
H4.5(再調整)の各条件によるプロテアーゼ処理に
より得られた精製ムチンのペプシン阻害活性を測定し
た。ペプシン活性は、Biochimica et Biophysica Acta,
481, p.631-637 (1977)に記載される方法により測定し
た。この方法は、ペプシンを用いて基質のヘモグロビン
を一定時間消化した後、遊離したα−アミノ酸を2,
4,6−トリフェニルベンゼンスルホン酸でラベルし、
この溶液のイオン交換処理を施した後、該溶液の340
nmにおける吸光度を直接読み取るものである。
【0036】上記の消化をムチンの存在下で行えば、ペ
プシン阻害活性を知ることができる。すなわち、共存す
るムチンがペプシンに対して所定の阻害活性を発揮すれ
ば、その阻害の程度に応じてα−アミノ酸の生成量が減
少し、吸光度が低下するからである。結果を表3に示
す。なお、ムチンの添加量はヘモグロビンと同重量とし
た。また、表3の数値は、ムチンを無添加とした場合の
ペプシン活性を100%とし、数種類のムチンを共存さ
せた場合に残存するペプシン活性を無添加時に対する百
分率として表したものである。
【0037】
【表3】
【0038】この表より、大きなペプシン阻害活性(残
存ペプシン活性が低い)が得られているのはpH8.0
にてプロテアーゼ処理を行った場合であり、しかも、キ
モトリプシンよりも特異性の高いトリプシンを用いた場
合の方が、高いペプシン阻害活性を有するムチンが得ら
れることがわかった。
【0039】実験例4 本実験例では、トリプシン処理における処理時間につい
て検討した。すなわち、クラリファイア処理後、加熱殺
菌した2.0%粗製ムチン水溶液に、該粗製ムチンに対
して0.1重量%のトリプシンを添加し、pH8.0、
処理温度40℃にて所定時間のトリプシン処理を行っ
た。この反応液を3,000G×10分の条件で遠心分
離し、得られた上清の濁度(660nmにおける吸光
度)を測定した。
【0040】また、トリプシン処理後のムチンの酸性領
域における安定性を調べるため、処理後の反応液のpH
を3.0に再調整した場合の濁度も測定した。
【0041】トリプシン処理時間に応じた濁度の変化
を、図2に示す。この図より、pH8.0における濁度
は約20時間の処理時間でほぼ下限値に達するが、酸性
領域でも濁度を低く維持するためには、40時間近い処
理時間が必要であることがわかった。この処理時間は、
長すぎても濁度に一定以上の改善がみられず、かえって
経済性の劣化や細菌汚染を招く虞れがあることから、4
0〜60時間の範囲が好適であると判断した。
【0042】実験例5 本実験例では、トリプシン処理後の遠心分離条件につい
て検討した。すなわち、クラリファイア処理後、加熱殺
菌した2.0%粗製ムチン水溶液に、該粗製ムチンに対
して0.1重量%のトリプシンを添加し、pH8.0、
処理温度40℃、処理時間50時間のトリプシン処理を
行った。この反応液を種々の遠心分離条件にて遠心分離
し、得られた上清の濁度(660nmにおける吸光度)
を測定した(実験番号5−1〜5−9)。
【0043】比較のため、遠心分離を行わない反応液
(未分離液)についても同様に濁度を測定した(実験番
号5−0)。結果を表4に示す。なお、この表には、反
応液中のムチンの固形分率(%)、およびシアル酸含量
(mg%)も併記した。
【0044】
【表4】
【0045】なお、これらの遠心分離は実際には使用装
置、ロータの容積、回転数がそれぞれ異なる条件で行わ
れているため、表中に記載されている遠心分離条件は、
遠心加速度を3,000Gに統一し、これに応じた遠心
時間の差として比較できるように換算してある。ちなみ
に、各実験の使用装置は、実験番号5−1ではパイロッ
ト規模遠心分離機(アルファラバル社製;LAPX20
2型)、実験番号5−3ではパイロット菌体分離機(ウ
ェストファリア社製;バクトヒュージSB60型)、実
験番号5−2および実験番号5−4〜5−9では連続超
遠心分離機(日立工機社製;CP40Y型)である。
【0046】この結果より、遠心時間が長くなるにつれ
て濁度が低下する様子が明らかである。しかも、遠心分
離後の上清の固形分およびシアル酸含量は、未分離液と
比べてもほとんど変化しておらず、上清に大部分のムチ
ンが残存していることがわかった。換言すれば、遠心時
間の延長により観察される濁度の低下は、これら以外の
成分の沈澱によるものであることが示唆された。
【0047】図3に、遠心加速度を3,000Gに固定
した場合の遠心時間に対する濁度の変化をプロットした
結果を示す。許容される濁度を0.1未満に設定する
と、同図より、遠心時間は10分間以上とする必要があ
ることがわかった。
【0048】実験例6 本実験例では、前述の各実験例において明らかとなった
最適条件にもとづいて精製されたムチンについて、ペプ
シン阻害活性を調べた。本実験例で用いた精製ムチン
は、粗製ムチンに対して0.1重量%のトリプシンを用
いてpH8.0、40℃、50時間の処理を行い、3,
000G×45分の遠心分離にて得られた上清を濃縮
後、凍結乾燥を経て得られたものである。
【0049】ペプシン阻害活性の測定法は、実験例3で
述べたとおりである。なお、比較のために、市販精製ム
チン(和光純薬社製;商品名NNR)、および本発明の
精製ムチンの原料である市販粗製ムチン(オルタナ社
製)についても、同様の実験を行った。
【0050】結果を図4に示す。この図より、本発明の
精製ムチンは、原料である市販粗製ムチンのペプシン阻
害活性をほとんど損なわずに精製されていることが明ら
かである。ただし濁度は、市販粗製ムチンの0.186
に対して本発明の精製ムチンでは0.056と大幅に改
善されていた。また、市販精製ムチンは高いペプシン阻
害活性を維持しているものの、濁度は2.387と極め
て高く、透明性の要求される用途には不向きであった。
【0051】実験例7 本実験例では、本発明の精製ムチンの吸湿性と保湿性に
ついて調べた。吸湿性は、以下のようにして測定した。
すなわち、上述の精製ムチンをシリカゲル入りデシケー
タ中で乾燥・恒重量化し、その1gを直径3cmの秤量
ビンに秤取し、硫酸アンモニウム飽和水溶液を用いて相
対湿度(RH)約80%(20℃)に調整したデシケー
タ中に放置した。この試料の重量増加を経時的に測定
し、増加分を吸湿量として表した。
【0052】一方、保湿性の測定は、シリカゲル入りデ
シケータ中で乾燥・恒重量化した試料1gに水0.1g
を添加し、RH27%(22.8℃;塩化マグネシウム
六水塩飽和水溶液を使用)、RH48%(24.5℃;
炭酸カリウム二水塩飽和水溶液を使用)、およびRH8
2%(20.0℃;硫酸アンモニウム飽和水溶液を使
用)の各相対湿度値に調整されたデシケータ中に放置し
て、24時間後の重量の増減を測定することにより行っ
た。
【0053】なお、比較のために、自然保湿因子の主成
分である乳酸ナトリウム、および代表的な保湿剤として
化粧品に配合されている酸性ムコ多糖のヒアルロン酸に
ついても、同様の実験を行った。結果を表5に示す。
【0054】
【表5】
【0055】この表の数値は、ヒアルロン酸を1.00
とした場合の相対値である。まず吸湿性については、本
発明の精製ムチンはヒアルロン酸と同等であり、特に短
時間吸湿性に優れていることがわかる。一方の保湿性に
ついては、本発明の精製ムチンは低湿度領域においてヒ
アルロン酸と同等であり、また乳酸ナトリウムよりも優
れている。日本では冬季の湿度が低いため、RH48%
以下の低湿度領域における保湿性の高さは、潤い感を得
る上での重要なポイントとなる。一方、高湿度領域につ
いてみると、乳酸ナトリウムが最も高く、ヒアルロン酸
がこれに次ぎ、本発明の精製ムチンは最も低い。日本で
は夏季の湿度が高いため、RH82%以上の高湿度領域
における保湿性の高さは、不快なベトつき感の原因とな
る。
【0056】これらの結果から、本発明の精製ムチン
は、保湿効果を謳う美容液やシャンプー等の化粧料、衛
生用品へ配合された場合に、年間を通して快適な使用感
を約束するものと言える。
【0057】実験例8 本実験例では、本発明の精製ムチンのラットにおける潰
瘍抑制効果について検討した。すなわち、24時間絶食
させた体重250g前後のウィスター系雄ラットに経口
ゾンデを用いて精製ムチン水溶液(100mg/kg体
重または500mg/kg体重)、および比較用のスク
ラルフェート水溶液(100mg/kg体重または50
0mg/kg体重)のいずれかを各8匹ずつに投与し、
1時間後に50%エタノール(EtOH)1mlを経口
投与した。なお、濃度の異なる水溶液を投与する場合
も、体積は一定量とした。また、対照実験として、上記
精製ムチン水溶液またはスクラルフェート水溶液の代わ
りに同量の水を与えた後、50%エタノール1mlを経
口投与する実験(対照I)、および水のみを与える実験
(対照II) も同時に行った。
【0058】エタノール投与から30分後に胃を摘出
し、ホルマリン注入、大弯切開を経て胃の内容物を水洗
除去した。摘出した胃の内壁は35mmカメラを用いて
撮影し、この写真をカラーコピー機で手札サイズに拡大
してからイメージ・スキャナでパーソナル・コンピュー
タに取り込んだ。モニタ画面上に写真を再現して複数の
測定者により潰瘍長を測定し、潰瘍長の総和、標準偏
差、平均を算出してグラフ化した。なお、各測定者間で
測定結果が20%以上ばらついた場合には、再測定もし
くはデータ削除を行った。
【0059】結果を図5に示す。まず、ペプシンの阻害
物質を用いない対照Iにおいて顕著な潰瘍形成がみら
れ、水のみを用いた対照IIにおいてはみられず、また抗
潰瘍薬として知られる二糖類のスクラルフェートを用い
た実験において潰瘍がほぼ抑制されていることから、本
実験の妥当性が確認できた。本発明の精製ムチンは、対
照Iに比べて有意な潰瘍抑制効果を有していることが明
らかである。ここで、潰瘍抑制効果の大きさのみに着目
すれば、スクラルフェートの優位性が明らかであるが、
これはあくまでも医薬品であり、常用すれば何らかの副
作用が生ずることも懸念される。これに対し、本発明の
精製ムチンは天然物であるため、副作用が少なく、より
穏やかな形での潰瘍抑制効果が期待できる。
【0060】なお、本実験において、高濃度にて精製ム
チンを投与した場合にむしろ潰瘍抑制能が低下している
のは、精製ムチン水溶液の粘度が高すぎて胃の内壁面へ
速やかに均一に広がらず、効果を十分に発揮できなかっ
たためであると推定される。したがって、本発明の精製
ムチンに十分な効果を発揮させるためには、濃度の最適
化が必要である。
【0061】
【発明の効果】以上の説明からも明らかなように、本発
明によれば、煩雑なメンブラン・フィルターによる濾過
を行わなくとも、酸性領域における安定性に優れ、かつ
生理活性を保持した透明なムチンを容易に精製すること
ができる。これにより、食品、化粧料、医薬品等への配
合成分として好適なムチンを、優れた経済性と信頼性を
もって提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】種々のプロテアーゼを用いて粗製ムチンを消化
した場合の濁度の測定結果を表すグラフである。
【図2】トリプシン処理後の反応液の濁度、pH、およ
び処理時間の関係を示すグラフである。
【図3】トリプシン処理後の反応液の遠心時間と濁度と
の関係を示すグラフである。
【図4】本発明の精製ムチンのペプシン阻害活性を他の
標品と比較して示すグラフである。
【図5】本発明の精製ムチンの潰瘍抑制能を他の標品と
比較して示すグラフである。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 大津 俊広 東京都東村山市栄町1−21−3 明治乳 業株式会社 中央研究所内 (72)発明者 桑田 有 東京都東村山市栄町1−21−3 明治乳 業株式会社 中央研究所内 (56)参考文献 特開 平2−78604(JP,A) 特開 昭62−223104(JP,A) 特開 昭59−34851(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C07K 14/435 C07K 1/14 - 1/36 A23J 3/34 A61K 7/00

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 pH7.0〜9.0、処理温度30〜5
    0℃、処理時間40〜60時間の条件でプロテアーゼ処
    理を施した粗製ムチン溶液を遠心加速度3,000G以
    上、遠心時間10分間以上と等価な条件で遠心分離し、
    得られた上清液からムチンを回収することを特徴とする
    ムチンの精製方法。
  2. 【請求項2】 前記プロテアーゼ処理は、トリプシンも
    しくはキモトリプシンを用いて行うことを特徴とする
    求項1記載のムチンの精製方法。
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