JP3447468B2 - 磁気抵抗効果素子及びその製造方法並びにそれを用いた磁気ヘッド - Google Patents

磁気抵抗効果素子及びその製造方法並びにそれを用いた磁気ヘッド

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、磁気抵抗効果を利
用した磁気記録用再生へッド、あるいは磁気センサに使
用され、非磁性層を強磁性層で挟み込んだ構造の多層膜
において非常に大きな磁気抵抗効果(いわゆる巨大磁気
抵抗効果)を示すもののうち、特に3層構造のサンドイ
ッチ膜からなる磁気抵抗効果素子及びその製造方法並び
にそれを用いた磁気ヘッドに関するものである。
【0002】
【従来の技術】磁気ディスクや磁気テープ装置などの磁
気記録装置においては、記録密度の増加に伴い、記録ヘ
ッドや再生ヘッドなどの磁気へッドの高性能化が求めら
れている。即ち、記録ヘッドでは磁気記録媒体の高保磁
力化に伴い、飽和磁束密度の大きな材料が要求されてい
る。また、再生ヘッドでは、磁気記録媒体の小型化に伴
う相対速度の低下に対して、従来の誘導型ヘッドから、
磁気抵抗効果を利用したいわゆるMR(magnetoresisti
ve effect)ヘッドを用いることで再生出力の増加が図ら
れている。
【0003】このような磁気抵抗効果を示す材料として
は、従来より、NiFeやNiCoからなる磁性薄膜が
知られている。これらの薄膜の抵抗変化率は、NiFe
では2〜3%程度、NiCoでは最大6%程度である。
上記磁性薄膜の磁気抵抗効果は、スピン軌道相互作用に
よるものであり、測定電流の方向と磁性薄膜の磁化方向
とのなす角度に依存しており、通常、異方性磁気抵抗効
果(AMR)と呼ばれている。
【0004】これに対して近年、上記AMRとは異なる
原理で磁気抵抗効果を示す巨大磁気抵抗効果(GMR)
と呼ばれる現象が見い出され、注目されている。このよ
うなGMRを示す構造として、例えば、磁性層と非磁性
層とを交互に数十層積層した人工格子多層膜がある。
【0005】この人工格子多層膜は、非磁性層を介して
上下に配置された磁性層の磁化が反平行と平行の場合で
伝導電子の散乱が大きく異なるために抵抗変化が現れる
ものである。つまり、磁性層間の磁化が反平行の場合に
は、伝導電子の散乱が大きく抵抗値が高くなる一方、磁
性層間の磁化が平行の場合には、散乱が減少し抵抗値が
小さくなる。このときの抵抗変化率は、AMRに比較し
て一桁以上大きいものとなっている。現在最大の抵抗変
化を示す材料系であるCo/Cu多層膜では、常温にお
いても60%以上の抵抗変化率が得られている。
【0006】しかしながら、このような人工格子多層膜
では抵抗変化率は非常に大きいものの、数百Oeから数
KOeの外部磁界が必要となる。これは、無磁場で磁化
の反平行状態を実現するために磁性層間の交換相互作用
を用いているので磁性層間の結合が非常に強く、この交
換相互作用を断ち切って磁化の平行状態を実現しなけれ
ばならないからである。このため上記のような人工格子
多層膜では微弱な外部磁界に対する磁界感度が小さく、
磁気記録用のヘッドとして用いるのは非実用的である。
【0007】そこで、人工格子多層膜の他に、磁界感度
を向上させるために反強磁性層/磁性層/非磁性層/磁
性層の構造を有するスピンバルブ構造が提案されてい
る。スピンバルブ構造は、反強磁性層との交換結合を利
用して一方の磁性層の磁化を一方向に固定し、他方の磁
性層の磁化が外部磁界に対して自由に回転するように他
方の磁性層としてNiFeなどのソフト性の高い薄膜を
用いることで感度の向上を図っており、最も実用的な構
造と言える。なお、以下、磁化方向を固定する磁性層を
固定磁化層、磁化方向が自由に回転する磁性層を自由磁
化層と呼ぶことにする。
【0008】このように、磁性層にCoやNiFe薄膜
を用い、磁性層間の反強磁性結合を利用せずに、二つの
磁性層の保磁力の違いを利用した非結合型と呼ばれる構
造などにおいてもGMRを示すことが報告されている。
【0009】以下に、非結合型のスピンバルブ構造の先
行技術について説明する。
【0010】 文献(1)「MAGNETIZATI
ON AND MAGNETORESISTANCE
OF Co/Cu LAYERD FILMS」 IE
EETRANSACTIONS ON MAGNETI
CS,VOL.28,NO.5,1992には、Co/
Cu/Coの非常に簡単な層構造を有するいわゆるサン
ドイッチ膜の構成が開示されている。ここでは、一方の
Co表面は自然酸化によるCo酸化膜が形成されてい
る。
【0011】 文献(2)「Effectivene
ss of Antiferromagnetic O
xide Exchange for Sandwic
hLayers」 IEEE TRANSACTION
S ON MAGNETICS,VOL.29,NO.
6 1993には、Co/Cu/Coのサンドイッチ膜
上に、10%酸素ガスを用いた反応性スパッタ法でCo
酸化膜が形成された構成が開示されている。このCo酸
化膜はネール点が室温付近(290K)の反強磁性体で
あるCoOと考えられている。
【0012】上記の文献(1)や文献(2)のサンドイ
ッチ膜では、極低温で磁気抵抗効果が得られることが報
告されている。このようなサンドイッチ膜においてGM
Rが得られる理由としては、上部のCo層の表面酸化、
あるいは反応性スパッタ法によるCoOの形成により、
CoOとCo間の交換相互作用による反強磁性的配列が
生じ、CoOと接したCo層の保磁力が増加するからと
考えられている。つまり、非磁性層を挟んだ両磁性層間
に保磁力の差ができ、GMRが得られるのである。
【0013】 文献(3)「Co/Cu/Coサンド
イッチ膜の磁気抵抗効果」日本応用磁気学会誌 vo
1.18,No.2 1994には、FeあるいはNi
Feからなる下地の上にCo/Cu/Coサンドイッチ
膜を形成し、さらに自然酸化によってCo層表面にCo
酸化膜が形成される構成が開示されている。上記構成に
よれば、Co酸化膜が形成されることで反転磁界の差が
生じ、磁化の反平行状態が実現されることで磁気抵抗効
果を得ている。この文献ではFeあるいはNiFeの下
地層を用いることにより室温においても6〜15%と高
いGMRが得られることが報告されている。
【0014】 文献(4)「Co/Cu/Coサンド
イッチ膜の磁気抵抗効果におけるバッファ層の効果」日
本応用磁気学会誌 vo1.19,No.2 1995
には、文献(3)と同様に、FeあるいはNiFeから
なる下地の上にCo/Cu/Coサンドイッチ膜を形成
する構成が開示されている。
【0015】 特開平7−66033号公報には、基
板/バッファ層/Co/Cu/Co、あるいは基板/バ
ッファ層/Co/Cu/Co/キャップ層の構成が開示
されている。ここで、上記バッファ層あるいはキャップ
層には反強磁性体のCoOを用いており、それによって
隣接するCo層の磁化を固定している。
【0016】
【発明が解決しようとする課題】上記、の先行技術
では、反応性スパッタ法にて固定磁化層であるCo層に
CoOを積層することによってCo層の磁化を固定して
いる。しかしながら、このような反強磁性体であるCo
Oの場合、ネール点が低いために、室温においてCo層
の磁化を固定するための交換結合磁界が弱く、磁化の反
平行状態が実現できない。つまり、低温においてしか磁
気抵抗効果が得られないという問題を有している。
【0017】また、上記、、の先行技術では、固
定磁化層であるCo層の表面を自然酸化する構成であ
る。しかしながら、自然酸化膜を用いているために、固
定磁化層の磁気特性の制御が容易ではなく、固定磁化層
の反転磁界の大きさが小さくなり、外部磁界に対して安
定でないという問題を有している。特に、磁界感度を向
上させるためにNiFeを自由磁化層に用いた構造のも
のでは、固定磁化層の反転磁界が最大でも200Oeと
非常に小さく、実用的ではない。
【0018】また、ないしの先行技術では、Co/
Cu/Coサンドイッチ膜の下地層に関する報告がなさ
れている。しかしながら、の文献(4)には、下地層
のないCo/Cu/Coサンドイッチ構造ではGMRは
得られないことが記載されている。つまり、抵抗変化率
は下地材料およびその膜厚に対する依存性が大きく、F
eでは70Å程度、NiFeではさらに厚い100Å程
度の下地層を形成しなければ高い抵抗変化率が得られな
いという問題を有している。
【0019】さらに、高い再生出力を得るためには、膜
の抵抗値を低下させることなく高い抵抗変化率を得るこ
とが必要である。しかしながら、FeやNiFeは比抵
抗が20〜30μΩcmと小さく、膜の抵抗値を低下さ
せるという問題もある。また、下地層が不可欠であるた
めに膜構成が制約されることから、磁気抵抗効果素子の
構造設計の自由度が少ないという問題もある。
【0020】なお、反強磁性層の代わりに高保磁力膜を
用いたサンドイッチ構造が、特開平7−65329号公
報に開示されており、この構成では、高保磁力膜とし
て、Co−Pt、あるいはその他のCoを主成分とする
Co−Cr、Co−Taなどの合金を用いることによっ
て、低い磁界で抵抗変化を得ている。
【0021】しかしながら、上記公報の構成による抵抗
変化率は3%台と非常に小さい。この理由としては、C
o合金は通常比抵抗が数十μΩcmと低いために電流が
Co合金層に分流すること、また、Co−Pt膜では非
磁性のPtが20at%含有されているために非磁性導
電層と接する界面での散乱が減少することが挙げられ
る。抵抗変化率を上げるために、Co−Pt膜をできる
だけ薄い膜にしたり、Ptの組成を低くしたりすること
が考えられるが、いずれの場合にも保磁力の低下を引き
起こしてしまう。
【0022】本発明は、上記従来の問題点を解決するた
めになされたもので、その目的は、非磁性酸化物層を固
定磁化層に隣接して設けることによって、室温において
も高い抵抗変化率、高い反転磁界、および高い磁界感度
が得られる磁気抵抗効果素子及びその製造方法並びにそ
れを用いた磁気ヘッドを提供することにある。
【0023】
【課題を解決するための手段】上記の目的を達成するた
めに、本発明の請求項1に記載の磁気抵抗効果素子は、
外部磁界に応じて磁化方向が回転する第1の磁性層と、
非磁性層と、磁化方向が一方向に固定される第2の磁性
層とがこの順に配置され、第1の磁性層と第2の磁性層
との磁化の向きのなす角によって磁気抵抗効果をもつ磁
気抵抗効果薄膜を備えた磁気抵抗効果素子において、上
記磁気抵抗効果薄膜における第2の磁性層に接して非磁
性酸化物層が設けられており、この非磁性酸化物層は、
上記第2の磁性層と同じ材料を酸化させることによって
形成されることを特徴としている。
【0024】上記の構成によれば、第2の磁性層の磁化
方向は一方向に固定された状態となっており、第1の磁
性層の磁化方向は自由に回転するようになっている。こ
こに磁界が与えられると、第1の磁性層の磁化方向が決
定される。2つの磁性層の磁化方向が180°逆の反平
行状態のときには膜の抵抗値は最大となる一方、磁化方
向が平行状態のときには抵抗値は最小となって、磁気抵
抗効果が得られる。
【0025】このとき、磁化方向を固定する第2の磁性
層に接して非磁性酸化物層を設けることによって、第2
の磁性層の保磁力が大きくなり、第1の磁性層の保磁力
との間に差が生じ、高い抵抗変化率を得ることができ
る。
【0026】また、非磁性酸化物層を設けることによっ
て非磁性酸化物層と第2の磁性層との積層膜の保磁力を
大きくすることができるので、磁気抵抗効果の反転磁界
を高くして外部磁界に安定な磁気抵抗効果素子を作成す
ることができる。
【0027】さらに、非磁性酸化物層は非磁性であるの
で、第2の磁性層の飽和磁化が小さくなって2つの磁性
層間の静磁的な結合が弱くなり第1の磁性層の磁化反転
が起こりやすくなり、この結果、抵抗変化の磁界感度を
向上させることが可能となる。
【0028】また、この磁気抵抗効果素子は、上記非磁
性酸化物層が上記第2の磁性層と同じ材料を酸化させる
ことによって形成されることを特徴としている。
【0029】上記の構成によれば、非磁性酸化物層を形
成する場合に、第2の磁性層を形成するために用いる材
料を共有することができる。例えば、反応性スパッタ法
で非磁性酸化物層を成膜する場合には、第2の磁性層の
ためのスパッタターゲットをそのまま用いて成膜装置内
に酸素を導入するだけで、材料の特性を変えて容易に非
磁性酸化物層を形成することができる。この結果、膜形
成過程が容易になり、非磁性酸化物層を設けることによ
るコストアップを防ぐとともに膜形成時間の増加を防止
することが可能となる。
【0030】請求項2に記載の磁気抵抗効果素子は、請
求項1に記載の構成に加えて、上記非磁性酸化物層、第
2の磁性層、非磁性層、および第1の磁性層が基板上に
この順で積層されることを特徴としている。
【0031】上記の構成によれば、FeやNiFeなど
の比抵抗の低い材料を用いて下地層を形成する必要がな
いので、抵抗変化率の高い磁気抵抗効果素子を提供する
ことが可能となる。
【0032】請求項3に記載の磁気抵抗効果素子は、請
求項2に記載の構成に加えて、上記第1の磁性層上に、
第1の磁性層の酸化を防止するための酸化防止膜が設け
られることを特徴としている。
【0033】上記の構成によれば、酸化防止膜が設けら
れているので、第1の磁性層が酸化されて高保磁力化さ
れるのを防ぐことができる。これにより、2つの磁性層
間の保磁力の差が小さくなるのが防止され、安定した特
性の磁気抵抗効果素子を作成することが可能となる。
【0034】請求項4に記載の磁気抵抗効果素子は、請
求項1ないし3のいずれかに記載の構成に加えて、上記
第2の磁性層がCoからなることを特徴としている。
求項5に記載の磁気抵抗効果素子は、請求項1ないし4
のいずれかに記載の構成に加えて、上記第1の磁性層が
CoあるいはNiFeからなることを特徴としている。
【0035】請求項4あるいは5の構成によれば、Co
やNiFeは入手しやすいので、低コストで磁気抵抗効
果素子を作成することが可能となる。特に、第1の磁性
層にNiFeを用いると、NiFeの方がCoよりも軟
磁気特性が高いので抵抗変化の磁界感度が良好となる。
【0036】請求項6に記載の磁気抵抗効果素子は、請
求項1ないし5のいずれかに記載の構成に加えて、上記
非磁性酸化物層が非磁性のCoの酸化物からなることを
特徴としている。上記の構成によれば、Co酸化物はそ
の比抵抗が高いので、膜全体の抵抗値を下げることなく
大きな抵抗変化量を得ることができる。
【0037】請求項7に記載の磁気抵抗効果素子は、請
求項1ないし6のいずれかに記載の構成に加えて、上記
非磁性酸化物層と上記第2の磁性層とを積層したときの
積層膜の保磁力が250Oe以上であることを特徴とし
ている。
【0038】上記の構成によれば、積層膜の保磁力が2
50Oe以上であるので第2の磁性層の反転磁界が高く
なり、磁気抵抗効果素子を磁気ヘッドや磁気センサなど
に適用した場合でも実用的なデバイスを作成することが
できる。
【0039】請求項8に記載の磁気ヘッドは、請求項1
ないし7のいずれかに記載の磁気抵抗効果素子と、磁気
抵抗効果素子に電流を流す通電手段と、磁気記録媒体に
記録された磁気的な情報に応じた磁場の大きさに対応し
て変化する該磁気抵抗効果素子の電気抵抗を検出する検
出手段とを備えることを特徴としている。
【0040】上記の構成によれば、請求項1ないし7
いずれか1つの磁気抵抗効果素子を磁気ヘッドに適用
し、当該素子に電流を流して磁気記録媒体の情報(その
磁束変化)を電気抵抗の変化として検出すれば、情報読
み出し性能の向上を図ることができ、高密度記録が行わ
れた磁気記録媒体の再生が可能となる。
【0041】請求項9に記載の磁気抵抗効果素子の製造
方法は、外部磁界に応じて磁化方向が回転する第1の磁
性層と、非磁性層と、磁化方向が一方向に固定される第
2の磁性層とがこの順に配置され、第1の磁性層と第2
の磁性層との磁化の向きのなす角によって磁気抵抗効果
をもつ磁気抵抗効果薄膜を備え、磁気抵抗効果薄膜にお
ける第2の磁性層に接して、強磁性体を酸化してなる
磁性酸化物層が設けられる磁気抵抗効果素子の製造方法
において、非磁性酸化物層を、酸化物が非磁性になる酸
素分圧以上の酸素分圧を用いて、反応性スパッタ法にて
形成することを特徴としている。
【0042】上記の方法によれば、スパッタ条件をコン
トロールして非磁性酸化物層を形成するので、その磁気
特性を容易に制御することができる。したがって、請求
項1に記載の磁気抵抗効果素子を容易に作成することが
できる。
【0043】また、従来の自然酸化膜では膜の最上層に
しか形成できないので第2の磁性層は必然的に膜の上部
にしか配置できなかったが、本願発明では反応性スパッ
タ法にて形成するので非磁性酸化物層を最下層に配置す
ることもできる。したがって、磁気抵抗効果素子の設計
の自由度を広くすることが可能となり、磁気ヘッドや磁
気センサに応用する際に構造上の制約が緩和される。
【0044】さらに、非磁性酸化物層の作成を反応性ス
パッタ法を用いて行うので、第2の磁性層と同じ材料で
非磁性酸化物を形成する場合、ターゲットを共用するこ
とができ、コストダウンを図ることが可能となる。
【0045】請求項10に記載の磁気抵抗効果素子の製
造方法は、請求項9に記載の方法に加えて、上記非磁性
酸化物層および第2の磁性層を、上記非磁性酸化物層と
第2の磁性層とを積層したときの積層膜の保磁力が25
0Oe以上となるスパッタ条件を用いて形成することを
特徴としている。
【0046】上記の方法によれば、磁気抵抗効果素子を
反応性スパッタ法で作成する際、積層膜の保磁力が25
0Oe以上となるようにすることで、簡単に非磁性酸化
物層を得ることができる。
【0047】
【発明の実施の形態】〔実施の形態1〕 本発明の実施の形態1について図1、図3ないし図1
3、および図16に基づいて説明すれば、以下の通りで
ある。
【0048】図1に示すように、本実施の形態にかかる
磁気抵抗効果素子は、基板1上に、非磁性酸化物層5
と、固定磁化層4と、非磁性層3と、自由磁化層2とが
順次積層された構成である。
【0049】非磁性酸化物層5は、室温において非磁性
を示す酸化物からなり、隣接する固定磁化層4の磁化を
固定するためのものである。非磁性酸化物としては、C
o、Fe、Niなどの強磁性材料の酸化物を用いること
ができる。このような非磁性酸化物の比抵抗は数Ωcm
である。
【0050】固定磁化層(第2の磁性層)4は強磁性体
の薄膜からなり、保磁力が大きく磁化を一方向に固定す
るためのものである。固定磁化層4としては、Coなど
の強磁性体を用いることができる。
【0051】非磁性層3は非磁性の金属からなり、Cu
などの非磁性金属を用いることができる。自由磁化層
(第1の磁性層)2は強磁性体の薄膜からなり、NiF
e層、Co層、Fe層、あるいはCoとNiFeとの複
合層などを用いることができる。
【0052】上記自由磁化層2及び固定磁化層4はアル
ゴンガスを用いたRF(高周波)マグネトロンスパッタ
法を用いて成膜でき、非磁性層3はアルゴンガスを用い
たDC(直流)マグネトロンスパッタ法を用いて成膜で
きる。
【0053】上記の非磁性酸化物層5は、スパッタター
ゲットとしてCo、Ni、あるいはFeなどの強磁性材
料を用い、スパッタガスとしてArとO2 の混合ガスを
用いた反応性RFマグネトロンスパッタ法を用いて成膜
できる。
【0054】次に、上記非磁性酸化物層5を作成するた
めのスパッタ条件について説明する。ここでは、非磁性
酸化物層5としてCoの酸化物を用いて測定を行った。
図3および図4に、酸素分圧に対するCo酸化膜の保磁
力(Hc)と磁化(Ms)の変化を測定した結果を示
す。
【0055】図3はArとO2 との混合ガスの総ガス圧
が3mTorrの場合であり、この場合には、酸素分圧
が約2.5〜3.0×10-5Torrの範囲において4
00Oe以上の高い保磁力が得られ、2.8×10-5
orr付近で極大値が得られた。さらに、酸素分圧を上
げると保磁力は減少し約3.5×10-5Torrでゼロ
になった。一方、磁化は酸素分圧の増加に対して単調に
減少し保磁力と同様に約3.5×10-5Torrでゼロ
になった。
【0056】図4は混合ガスの総ガス圧が5mTorr
の場合であり、この場合には、酸素分圧が約2.0×1
-5Torrのときに保磁力が極大値を示し、2.4×
10-5Torrでゼロになった。一方、磁化は酸素分圧
の増加と共に単調に減少し2.8×10-5Torrでゼ
ロになった。
【0057】これにより、総ガス圧が3mTorrの場
合には約3.5×10-5Torrで強磁性材料から非磁
性材料となり、総ガス圧が5mTorrの場合には2.
8×10-5Torrで非磁性材料になることがわかる。
【0058】図8に、3mTorrの総ガス圧で成膜し
たCo酸化膜と、Coとの積層膜の保磁力およびMs・
tの酸素分圧依存性を示す。ここで、Ms・tは、積層
膜の飽和磁化と厚さとの積である。
【0059】上記積層膜の保磁力は酸素分圧の増加とと
もに急峻に大きくなり、図3で示したCo酸化膜の磁化
がゼロになる酸素分圧(約3.5×10-5Torr)よ
りも高い酸素分圧である約4.0×10-5Torrのと
き極大値を示した。さらに酸素分圧を高くすると保磁力
は緩やかに減少し約300Oeあたりの一定値に収束し
た。
【0060】一方、積層膜のMs・tも図3に示すCo
酸化膜の飽和磁化と同様の傾向を示すが、保磁力の場合
と同様に酸素分圧が高い方にシフトしている。即ち、酸
素分圧が約3.0×10-5Torrのときに急激にMs
・tが減少し、約4.0×10-5TorrでMs・tは
ほぼゼロとなった。
【0061】以上のように、Coと酸素の組成比が、C
oが非磁性になる第1の酸素濃度と、Co酸化膜とCo
との積層膜の保磁力がほぼ一定値に収束する前の第2の
酸素濃度との間の酸素濃度になるように酸素分圧をコン
トロールして反応性スパッタ法にて作成することによっ
て、非磁性のCo酸化物を作成することができる。
【0062】次に、3mTorrの総ガス圧で成膜した
Co酸化膜を用いて作成した磁気抵抗効果素子の特性を
測定した結果を図5ないし図7に示す。このとき、磁気
抵抗効果特性は4端子法にて測定した。なお、上記磁気
抵抗効果素子は、基板1上に、膜厚200ÅのCo酸化
物からなる非磁性酸化物層5と、膜厚20ÅのCoから
なる固定磁化層4と、膜厚26ÅのCuからなる非磁性
層3と、膜厚70ÅのNiFeからなる自由磁化層2と
を積層して作成した。
【0063】図6に、上記磁気抵抗効果素子の磁気抵抗
効果の反転磁界の酸素分圧依存性を示す。磁気抵抗効果
の反転磁界は、酸素分圧の増加に対して、約4.2×1
-5Torr付近で極大値を持ち、さらに酸素分圧が増
加すると反転磁界は約500Oeに安定するような傾向
を示した。このとき、Co酸化膜が非磁性となる酸素分
圧以上(ここでは、3.5×10-5Torr以上)にお
いては、反転磁界は最大で1250Oe、最小でも約4
00Oeであった。この値は、磁気抵抗効果素子を磁気
デバイスに応用するのに十分な値である。
【0064】図5に、上記磁気抵抗効果素子の磁界感度
の酸素分圧依存性を示す。同図では、それぞれの酸素分
圧における磁界感度を、酸素分圧2.85×10-5To
rrのときの磁界感度で規格化している。
【0065】図5に示すように、磁界感度は酸素分圧の
増加に伴って単調に増加し、約4.2×10-5Torr
以上の酸素分圧でほぼ飽和していることがわかる。この
傾向は、図3で示した磁化の減少の傾向とほぼ一致して
いる。即ち、Coの酸化が進むにしたがってCo酸化膜
の磁化がなくなり、これに連れて磁気抵抗効果素子の磁
界感度が向上する。さらに酸化が進んでCo酸化膜の磁
化が完全になくなるのとほぼ一致して、磁界感度の増加
も飽和する。
【0066】また、反応性スパッタ法でCo酸化膜を作
成し、Coを積層した積層膜のMs・tは酸素分圧の増
加とともに減少し、図7に示すようにMs・tの減少と
磁界感度の増加によい相関が見られる。
【0067】これにより、酸素分圧の増加によって磁界
感度が増加するのは、Co酸化膜に接する固定磁化層4
の磁化が小さくなるために固定磁化層4と自由磁化層2
の静磁的な結合が弱くなり、自由磁化層2の磁化反転に
及ぼす固定磁化層4の影響が小さくなるからと考えられ
る。
【0068】以上のように、例えば総ガス圧が3mTo
rrであれば3.5×10-5Torr以上、5mTor
rであれば2.8×10-5Torr以上の酸素分圧とい
ったように、Co酸化膜の磁化が消失するように、総ガ
ス圧、酸素分圧、あるいは投入電力を適切に選んで、非
磁性のCo酸化膜が形成されるようなスパッタ条件を用
いることで、反転磁界が高く、かつ抵抗変化の磁界感度
が高い磁気抵抗効果素子を得ることができる。
【0069】また、反転磁界の大きい磁気抵抗効果素子
を得るためには、保磁力の高い固定磁化層4を用いる必
要があるが、図8に示すように保磁力が一定値に収束し
た酸素分圧7.5×10-5Torrの条件でも、図5・
図6に示すように、高い反転磁界および高い磁界感度の
磁気抵抗効果素子が得られている。即ち、Co酸化膜と
Coの積層膜の保磁力が250Oe以上あれば保磁力に
差ができ反転磁界の大きな磁気抵抗効果素子を作成する
ことができることがわかる。このため、本実施の形態で
は非磁性のCo酸化膜とCoの積層膜の保磁力の下限値
を250Oeとした。
【0070】なお、最適なスパッタ条件は装置間の差が
あるため、必ずしも上記の条件が全てではないが、全体
的な傾向は同じであると考えられ、本実施の形態で使用
した条件は一例として述べたものである。
【0071】以下に、上記磁気抵抗効果素子のサンプル
を示す。サンプル#1は、ガラス基板、またはSi(1
00)基板からなる基板1上に、膜厚200ÅのCo酸
化物からなる非磁性酸化物層5と、膜厚20ÅのCoか
らなる固定磁化層4と、膜厚26ÅのCuからなる非磁
性層3と、膜厚70ÅのNiFeからなる自由磁化層2
とを積層して作成した。
【0072】各層のスパッタ条件は次の通りである。C
o酸化膜はRFマグネトロンスパッタ法で、Ar+1.
4%O2 ガスを用いて3mTorr、成膜速度が24Å
/minの条件を用い、Co層はRFマグネトロンスパ
ッタ法で、Ar圧が5mTorr、成膜速度が40Å/
minの条件を用い、Cu層はDCマグネトロンスパッ
タ法で、Ar圧が5mTorr、成膜速度が32Å/m
inの条件を用い、NiFe層はRFコンベンショナル
スパッタ法で、Ar圧が5mTorr、成膜速度が19
Å/minの条件を用いた。このときのCo酸化膜は、
図3に示すように、磁化と保磁力がともにゼロで非磁性
となっている。
【0073】図9に、サンプル#1の抵抗変化曲線を示
す。ここで、抵抗変化曲線は、磁界がゼロ近傍での立ち
上がりが急峻で、最大の抵抗値をできるだけ高い磁界ま
で維持するような特性が好ましい。これは、磁界感度が
良好で、反転磁界が高く外部磁界に対して非常に安定な
特性であることを意味している。
【0074】また、表1に、図9に基づくサンプル#1
の抵抗変化率(%)、抵抗変化の磁界感度(相対値)、
および反転磁界(Oe)の測定結果を示す。なお、表1
には、比較のために同様の材料を用いて層構造を変えて
作成した比較サンプル#1〜#4の特性も示している。
また、同表では抵抗変化の磁界感度を比較サンプル#4
の感度を1として相対値で示している。また、上記比較
サンプル#1〜#4の抵抗変化曲線を図10ないし図1
3に示す。
【0075】上記比較サンプル#1は、Co/Cu/C
oのサンドイッチ膜における自由磁化層としてのCoの
下地としてFeを用い、固定磁化層としてのCoを自然
酸化させて高保磁力化させた構成である。
【0076】比較サンプル#2は、磁界感度を上げるた
めに、比較サンプル#1のFeの代わりに軟磁気特性の
優れたNiFeを用いた構成である。
【0077】比較サンプル#3は、反転磁界を大きくす
るために、比較サンプル#2の自然酸化膜の代わりに保
磁力の大きな強磁性体のCo酸化膜を用いて固定磁化層
の磁化を固定する構成である。ここで、強磁性体のCo
酸化膜は、図3に示すCo酸化膜の保磁力が最大となる
ような酸素分圧で形成されたものである。
【0078】比較サンプル#4は、サンプル#1の非磁
性のCo酸化膜の代わりに、比較サンプル#3と同じ強
磁性体のCo酸化膜を用いた構成である。
【0079】
【表1】 図9ないし図13、および表1の結果をもとにして以下
に考察を述べる。比較サンプル#1は、Feによって下
のCo(自由磁化層)が軟磁性化して低保磁力化され、
自然酸化膜によって上のCo(固定磁化層)が高保磁力
化されるため、10%程度の高い抵抗変化率を得ること
ができるが、反転磁界は300Oe程度で外部磁界に対
して不安定であり、また、磁界感度もあまり良くない。
【0080】比較サンプル#2は下のCo(自由磁化
層)の保磁力を下げるためにNiFeを用いているが、
この構成では磁界感度は大きくなっているが、固定磁化
層の反転磁界は非常に小さくなっている。このように反
転磁界が低いと、磁気抵抗効果素子としての特性が不安
定となり、磁気ヘッドや磁気センサなどの磁気デバイス
に応用することが困難になる。
【0081】比較サンプル#3・#4は、反応性スパッ
タ法でCoを積極的に酸化させて固定磁化層としてのC
oを高保磁力化させている。このような構成では、自然
酸化膜を用いた比較サンプル#2と比べると、高い抵抗
変化率および高い反転磁界が得られる。また、強磁性C
o酸化膜の代わりにCo−Ptからなる高保磁力膜を用
いたものと比べても高い抵抗変化率および高い反転磁界
を得ることができる。
【0082】しかしながら、この構成では反転磁界は大
きくなるものの磁界感度が低下してしまい、実用的には
不十分な値となる。これは、自由磁化層と固定磁化層と
が静磁的に結合し自由磁化層の磁化の回転が軟磁気的に
起こらない、即ち固定磁化層の磁化に引きずられて自由
磁化層の磁化が反転しにくくなるからと思われる。
【0083】これに対して、サンプル#1は、抵抗変化
率が4.7%と若干低いものの、磁界感度が比較サンプ
ル#4の2倍以上、反転磁界も1.5倍以上の955O
eと大きい。図9および図13の曲線を比較しても、固
定磁化層4の磁化の固定に非磁性のCo酸化膜を用いる
ことによって反転磁界が大きくなり、また、ゼロ磁場付
近の曲線の傾きから、非磁性のCo酸化膜を用いたもの
の方が磁界感度が高くなっていることがわかる。即ち、
固定磁化層4の磁化の固定に非磁性のCo酸化膜を用い
ることによって、サンドイッチ膜の抵抗変化の磁界感度
と固定磁化層4の反転磁界の両方を増加させることがで
きた。
【0084】以上のように、本実施の形態の磁気抵抗効
果素子は、基板1上に、非磁性酸化物層5と、固定磁化
層4、非磁性層3、および自由磁化層2がこの順に積層
された構成である。
【0085】上記の構成によれば、外部磁界が与えられ
ると、自由磁化層2の磁化方向が決まる。そして、自由
磁化層2と固定磁化層4との磁化方向が180°逆の反
平行状態のときには膜の抵抗値が最大になり、2層の磁
化方向が同一の平行状態のときには膜の抵抗値が最小に
なる。
【0086】このとき、固定磁化層4の保磁力が高くな
って2つの磁性層間の保磁力の差が大きくなり、安定し
た特性の磁気抵抗効果素子を作成することが可能とな
る。また、非磁性酸化物層5を設けることによって非磁
性酸化物層5と固定磁化層4との積層膜の保磁力を25
0Oe以上にすることができるので、固定磁化層4の反
転磁界を高くして、外部磁界に安定な磁気抵抗効果素子
を得ることが可能となる。さらに、非磁性酸化物層5は
非磁性であるので固定磁化層4のMs・tが低下し静磁
的な結合が弱くなり自由磁化層2の磁化の反転が起こり
やすくなり、抵抗変化の磁界感度が良好になる。
【0087】また、FeやNiFeなどの下地層を設け
なくとも室温において巨大磁気抵抗効果が現れるので、
膜構成を簡単にすることができる。さらに、非磁性酸化
物層5はΩcmのオーダーと比抵抗が高いことから膜全
体の抵抗値を下げることなく大きな抵抗変化量が得られ
るため、磁気ヘッドや磁気センサに適用した場合にその
再生出力が高いものを作成することが可能となる。
【0088】なお、非磁性酸化物層を下地層として自由
磁化層に隣接させた場合、即ち基板/非磁性酸化物層/
自由磁化層/非磁性層/固定磁化層と積層した場合、抵
抗変化率は向上するが、磁界感度については実用的な値
が得られない。したがって、本実施の形態のように、非
磁性酸化物層5と固定磁化層4とを隣接させて形成する
必要がある。
【0089】また、本実施の形態の磁気抵抗効果素子
を、例えば図16に示すように、磁気ディスク装置や磁
気テープ装置などの磁気記録再生装置の再生用の磁気ヘ
ッド14に適用すれば、高密度記録が行われた磁気記録
媒体に対する情報読み出し性能の向上を図ることができ
る。
【0090】この磁気ヘッド14は、磁気的に情報を記
録している磁気記録媒体に対して相対的に移動し、磁気
記録媒体から受ける磁場の大きさを上述の磁気抵抗効果
によって検出するものであり、本実施の形態の磁気抵抗
効果薄膜からなる磁気抵抗効果素子をヘッドの先端部に
有すると共に、当該磁気抵抗効果素子に電流を流す通電
手段を構成するシグナルリード11・11及び導電ライ
ン(図示せず)と、磁気記録媒体の磁場の大きさに対応
して変化する素子の電気抵抗を検出する検出手段(図示
せず)とを備えている。また、上記磁気抵抗効果素子は
絶縁層(図示せず)を介して、上部シールド層12と下
部シールド層13に挟まれた構造となっている。
【0091】〔実施の形態2〕 本発明の実施の形態2について図2、図14、および図
15に基づいて説明すれば、以下の通りである。なお、
説明の便宜上、前記の実施の形態の図面に示した部材と
同一の部材には同一の符号を付記し、その説明を省略す
る。
【0092】本実施の形態にかかる磁気抵抗効果素子
は、実施の形態1の構成に加えて最上層に酸化防止膜6
を設けた構成である。即ち、図2に示すように、基板1
上に、非磁性酸化物層5と、固定磁化層4と、非磁性層
3と、自由磁化層2と、酸化防止膜6とが順次積層され
た構成である。
【0093】酸化防止膜6は非磁性の金属からなり、自
由磁化層2の表面酸化を防止するためのものである。酸
化防止膜6としては、Cuなどの非磁性金属を用いるこ
とができる。
【0094】以下に、上記磁気抵抗効果素子のサンプル
を示す。サンプル#2は、基板1上に、非磁性のCo酸
化物からなる膜厚200Åの非磁性酸化物層5と、膜厚
20ÅのCoからなる固定磁化層4と、膜厚26ÅのC
uからなる非磁性層3と、膜厚20ÅのCoからなる自
由磁化層2と、膜厚20ÅのCuからなる酸化防止膜6
とを積層して作成した。各層の薄膜の形成条件はサンプ
ル#1の場合と同じである。
【0095】図14に、サンプル#2の抵抗変化曲線を
示す。また、表2に、図14に基づくサンプル#2の抵
抗変化率(%)、抵抗変化の磁界感度(相対値)、およ
び反転磁界(Oe)の測定結果を示す。なお、表2に
は、比較のために同様の材料を用いて層構造を変えて作
成した比較サンプル#5の特性も示している。また、同
表では抵抗変化の磁界感度を比較サンプル#5の感度を
1として相対値で示している。また、上記比較サンプル
#5の抵抗変化曲線を図15に示す。
【0096】上記比較サンプル#5は、サンプル#2の
非磁性のCo酸化膜の代わりに、保磁力の大きな強磁性
体のCo酸化膜(比較サンプル#3・#4に用いたもの
と同じ)を用いて固定磁化層の磁化を固定する構成であ
る。
【0097】
【表2】 表2に示すように、サンプル#2は、抵抗変化率、磁界
感度、および反転磁界のすべてについて比較サンプル#
5よりも良好な結果が得られた。また、実施の形態1の
サンプル#1と比較して、抵抗変化率が大きく増加し
た。なお、磁界感度については、NiFeの方がCoよ
りも軟磁気特性が高いのでサンプル#1の方が感度が良
い。
【0098】以上のように、本実施の形態の磁気抵抗効
果素子は、実施の形態1と同様に、固定磁化層4に接し
て非磁性酸化物層5が設けられているので、実施の形態
1と同様に、高い抵抗変化率を得ることが可能となる。
【0099】また、非磁性酸化物層5によって固定磁化
層4の磁化が固定され、固定磁化層4が高保磁力となる
一方、酸化防止膜6によって酸化が防止された自由磁化
層2は保磁力が大きくならないので、固定磁化層4と自
由磁化層2との保磁力の差を大きくすることができる。
したがって、より安定した特性の磁気抵抗効果素子を得
ることができる。
【0100】ここで、酸化防止膜6を形成しない場合、
自由磁化層2上に自然酸化膜が形成され、自由磁化層2
が高保磁力膜となってしまう。例えば、ガラス基板上に
Cu(24.6Å)/Co(43.5Å)膜を積層し、
Coを自然酸化させたときの保磁力は31.3Oeであ
った。一方、ガラス基板上にCu(24.6Å)/Co
(43.5Å)/Cu(20Å)膜を積層したときの保
磁力は11.5Oeであった。このように自由磁化層2
が高保磁力化されると、固定磁化層4と自由磁化層2と
の保磁力の差が小さくなるため、安定した特性の磁気抵
抗効果素子を得ることができない。
【0101】なお、実施の形態1および2では、非磁性
酸化物層5としてCo酸化物を用いたが、これに限られ
ることはない。即ち、NiやFeもCoと同じ強磁性体
であるので、これらの酸化物を作成した場合にもCo酸
化物と同様の特性を示すものと考えられる。
【0102】また、実施の形態1および2では、Co酸
化膜/Co/Cu/NiFe構造やCo酸化膜/Co/
Cu/Co/Cu構造のサンドイッチ膜を用いたが、固
定磁化層4と自由磁化層2の静磁的な結合の減少によっ
て磁界感度が高くなり、固定磁化層4の保磁力は非磁性
酸化物層5と固定磁化層4の積層膜の構造と成膜条件で
決定されるため、他の構造のサンドイッチ膜においても
同様の効果が得られる。即ち、固定磁化層4の磁化を固
定するために固定磁化層4と同じ材料を非磁性になるま
で酸化し固定磁化層4との積層膜の保磁力が250Oe
以上になるように固定磁化層4に隣接して積層すること
によって、磁界感度と反転磁界の高いサンドイッチ膜を
得ることができる。
【0103】このとき、非磁性酸化物層5と固定磁化層
4とは同じ材料でなくともよいが、両者を異なる材料と
した場合には成膜装置内に各々のスパッタターゲットを
入れる必要があるため、同じ材料の方が好ましい。
【0104】また、上記実施の形態では非磁性酸化物層
5を基板側に設ける構成としたが、基板/自由磁化層/
非磁性層/固定磁化層/非磁性酸化物層と積層して磁気
抵抗効果素子を形成してもよい。
【0105】また、上記実施の形態における基板1はガ
ラス基板あるいはSi基板を用いているが、アルミナ基
板、セラミック基板、あるいはフェライト基板などの基
板を用いても上記と同様の効果が得られることは言うま
でもない。
【0106】
【発明の効果】以上のように、本発明の請求項1に記載
の磁気抵抗効果素子は、磁気抵抗効果薄膜における第2
の磁性層に接して非磁性酸化物層が設けられており、こ
の非磁性酸化物層は、上記第2の磁性層と同じ材料を酸
化させることによって形成される構成である。
【0107】これにより、非磁性酸化物層と第2の磁性
層との積層膜の保磁力を大きくすることができるので、
磁気抵抗効果の反転磁界を高くして外部磁界に安定な磁
気抵抗効果素子を得ることができる。さらに、第1の磁
性層の磁化反転が起こりやすくなるので、抵抗変化の磁
界感度を向上させることが可能となるという効果を奏す
る。
【0108】また、非磁性酸化物層を形成する場合に、
第2の磁性層を形成するために用いる材料を共有するこ
とができるので、非磁性酸化物層を設けることによるコ
ストアップを防ぐとともに膜形成時間の増加を防止する
ことが可能となるという効果を奏する。
【0109】請求項2に記載の磁気抵抗効果素子は、請
求項1に記載の構成に加えて、上記非磁性酸化物層、第
2の磁性層、非磁性層、および第1の磁性層が基板上に
この順で積層される構成である。
【0110】これにより、FeやNiFeなどの比抵抗
の低い材料を用いて下地層を形成する必要がないので、
抵抗変化率の高い磁気抵抗効果素子を提供することが可
能となるという効果を奏する。
【0111】請求項3に記載の磁気抵抗効果素子は、請
求項2に記載の構成に加えて、上記第1の磁性層上に、
第1の磁性層の酸化を防止するための酸化防止膜が設け
られる構成である。
【0112】これにより、2つの磁性間の保磁力の差が
小さくなるのが防止されるので、安定した特性の磁気抵
抗効果素子を提供することが可能となるという効果を奏
する。
【0113】請求項4に記載の磁気抵抗効果素子は、請
求項1ないし3のいずれかに記載の構成に加えて、上記
第2の磁性層がCoからなる構成である。請求項5に記
載の磁気抵抗効果素子は、請求項1ないし4のいずれか
に記載の構成に加えて、上記第1の磁性層がCoあるい
はNiFeからなることを特徴としている。これによ
り、CoやNiFeは入手しやすいので、低コストで磁
気抵抗効果素子を作成することが可能となるという効果
を奏する。
【0114】請求項6に記載の磁気抵抗効果素子は、請
求項1ないし5のいずれかに記載の構成に加えて、上記
非磁性酸化物層が非磁性のCoの酸化物からなる構成で
ある。これにより、Coの酸化物はその比抵抗が高いの
で、膜全体の抵抗値を下げることなく大きな抵抗変化量
を得ることができるという効果を奏する。
【0115】請求項7に記載の磁気抵抗効果素子は、請
求項1ないし6のいずれかに記載の構成に加えて、上記
非磁性酸化物層と上記第2の磁性層とを積層したときの
積層膜の保磁力が250Oe以上である構成である。
【0116】これにより、積層膜の保磁力が250Oe
以上であるので第2の磁性層の反転磁界が高くなり、磁
気抵抗効果素子を磁気ヘッドや磁気センサなどに適用し
た場合でも実用的なデバイスを作成することができると
いう効果を奏する。
【0117】請求項8に記載の磁気ヘッドは、請求項1
ないし7のいずれかに記載の磁気抵抗効果素子と、磁気
抵抗効果素子に電流を流す通電手段と、磁気記録媒体に
記録された磁気的な情報に応じた磁場の大きさに対応し
て変化する該磁気抵抗効果素子の電気抵抗を検出する検
出手段とを備えている構成である。これにより、情報読
み出し性能の向上を図ることができ、高密度記録が行わ
れた磁気記録媒体の再生が可能となるという効果を奏す
る。
【0118】請求項9に記載の磁気抵抗効果素子の製造
方法は、非磁性酸化物層を、酸化物が非磁性になる酸素
分圧以上の酸素分圧を用いて、反応性スパッタ法にて形
成する方法である。
【0119】これにより、スパッタ条件をコントロール
して非磁性酸化物層を形成するので、その磁気特性を容
易に制御することができる。したがって、請求項1に記
載の磁気抵抗効果素子を容易に作成することができると
いう効果を奏する。
【0120】請求項10に記載の磁気抵抗効果素子の製
造方法は、請求項9に記載の方法に加えて、上記非磁性
酸化物層および第2の磁性層を、上記非磁性酸化物層と
第2の磁性層とを積層したときの積層膜の保磁力が25
0Oe以上となるスパッタ条件を用いて形成する方法で
ある。
【0121】これにより、磁気抵抗効果素子を反応性ス
パッタ法で作成する際、積層膜の保磁力が250Oe以
上となるようにすることで、簡単に非磁性酸化物層を得
ることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態1にかかる磁気抵抗効果素
子の膜構造を示す構成図である。
【図2】本発明の実施の形態2にかかる磁気抵抗効果素
子の膜構造を示す構成図である。
【図3】総ガス圧が3mTorrの場合の、酸素分圧に
対するCo酸化膜の保磁力および磁化の変化を示すグラ
フである。
【図4】総ガス圧が5mTorrの場合の、酸素分圧に
対するCo酸化膜の保磁力および磁化の変化を示すグラ
フである。
【図5】実施の形態1にかかる磁気抵抗効果素子の磁界
感度の酸素分圧依存性を示すグラフである。
【図6】上記磁気抵抗効果素子の反転磁界の酸素分圧依
存性を示すグラフである。
【図7】Co酸化膜/Co積層膜のCoのMs・tと磁
界感度の相関関係を示すグラフである。
【図8】Co酸化膜/Co積層膜の保磁力の酸素分圧依
存性を示すグラフである。
【図9】サンプル#1の磁気抵抗効果素子の抵抗変化曲
線を示すグラフである。
【図10】比較サンプル#1の磁気抵抗効果素子の抵抗
変化曲線を示すグラフである。
【図11】比較サンプル#2の磁気抵抗効果素子の抵抗
変化曲線を示すグラフである。
【図12】比較サンプル#3の磁気抵抗効果素子の抵抗
変化曲線を示すグラフである。
【図13】比較サンプル#4の磁気抵抗効果素子の抵抗
変化曲線を示すグラフである。
【図14】サンプル#2の磁気抵抗効果素子の抵抗変化
曲線を示すグラフである。
【図15】比較サンプル#5の磁気抵抗効果素子の抵抗
変化曲線を示すグラフである。
【図16】実施の形態1の磁気抵抗効果素子が適用され
た磁気ヘッドの構成を示す斜視図である。
【符号の説明】
1 基板 2 自由磁化層(第1の磁性層) 3 非磁性層 4 固定磁化層(第2の磁性層) 5 非磁性酸化物層 6 酸化防止膜 11 シグナルリード(通電手段) 14 磁気ヘッド
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 藤田 昇 大阪府大阪市阿倍野区長池町22番22号 シャープ株式会社内 (72)発明者 吉良 徹 大阪府大阪市阿倍野区長池町22番22号 シャープ株式会社内 (72)発明者 釆山 和弘 大阪府大阪市阿倍野区長池町22番22号 シャープ株式会社内 (56)参考文献 特開 平7−74022(JP,A) 特開 平8−87722(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) H01F 10/00 - 10/32 H01F 41/14 - 41/34 G11B 5/31 - 5/325 H01L 43/00 - 43/14

Claims (10)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】外部磁界に応じて磁化方向が回転する第1
    の磁性層と、非磁性層と、磁化方向が一方向に固定され
    る第2の磁性層とがこの順に配置され、第1の磁性層と
    第2の磁性層との磁化の向きのなす角によって磁気抵抗
    効果をもつ磁気抵抗効果薄膜を備えた磁気抵抗効果素子
    において、 上記磁気抵抗効果薄膜における第2の磁性層に接して非
    磁性酸化物層が設けられており、 この非磁性酸化物層は、上記第2の磁性層と同じ材料を
    酸化させることによって形成される ことを特徴とする磁
    気抵抗効果素子。
  2. 【請求項2】上記非磁性酸化物層、第2の磁性層、非磁
    性層、および第1の磁性層は、基板上にこの順で積層さ
    れることを特徴とする請求項1に記載の磁気抵抗効果素
    子。
  3. 【請求項3】上記第1の磁性層上に、第1の磁性層の酸
    化を防止するための酸化防止膜が設けられることを特徴
    とする請求項2に記載の磁気抵抗効果素子。
  4. 【請求項4】上記第2の磁性層は、Coからなることを
    特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の磁気抵
    抗効果素子。
  5. 【請求項5】上記第1の磁性層は、CoあるいはNiF
    eからなることを特徴とする請求項1ないし4のいずれ
    かに記載の磁気抵抗効果素子。
  6. 【請求項6】上記非磁性酸化物層は、非磁性のCoの酸
    化物からなることを特徴とする請求項1ないし5のいず
    れかに記載の磁気抵抗効果素子。
  7. 【請求項7】上記非磁性酸化物層と上記第2の磁性層と
    を積層したときの積層膜の保磁力が250Oe以上であ
    ることを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載
    の磁気抵抗効果素子。
  8. 【請求項8】請求項1ないし7のいずれかに記載の磁気
    抵抗効果素子と、 磁気抵抗効果素子に電流を流す通電手段と、 磁気記録媒体に記録された磁気的な情報に応じた磁場の
    大きさに対応して変化する該磁気抵抗効果素子の電気抵
    抗を検出する検出手段とを備えることを特徴とする磁気
    ヘッド。
  9. 【請求項9】外部磁界に応じて磁化方向が回転する第1
    の磁性層と、非磁性層と、磁化方向が一方向に固定され
    る第2の磁性層とがこの順に配置され、第1の磁性層と
    第2の磁性層との磁化の向きのなす角によって磁気抵抗
    効果をもつ磁気抵抗効果薄膜を備え、磁気抵抗効果薄膜
    における第2の磁性層に接して、強磁性体を酸化してな
    非磁性酸化物層が設けられる磁気抵抗効果素子の製造
    方法において、 非磁性酸化物層を、酸化物が非磁性になる酸素分圧以上
    の酸素分圧を用いて、反応性スパッタ法にて形成するこ
    とを特徴とする磁気抵抗効果素子の製造方法。
  10. 【請求項10】上記非磁性酸化物層および第2の磁性層
    を、上記非磁性酸化物層と第2の磁性層とを積層したと
    きの積層膜の保磁力が250Oe以上となるスパッタ条
    件を用いて形成することを特徴とする請求項9に記載の
    磁気抵抗効果素子の製造方法。
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