JP3413996B2 - ヨーイング運動量制御装置を備えた車両のアンチスキッド制御装置 - Google Patents

ヨーイング運動量制御装置を備えた車両のアンチスキッド制御装置

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JP3413996B2
JP3413996B2 JP26733294A JP26733294A JP3413996B2 JP 3413996 B2 JP3413996 B2 JP 3413996B2 JP 26733294 A JP26733294 A JP 26733294A JP 26733294 A JP26733294 A JP 26733294A JP 3413996 B2 JP3413996 B2 JP 3413996B2
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    • B60VEHICLES IN GENERAL
    • B60GVEHICLE SUSPENSION ARRANGEMENTS
    • B60G2800/00Indexing codes relating to the type of movement or to the condition of the vehicle and to the end result to be achieved by the control action
    • B60G2800/21Traction, slip, skid or slide control
    • BPERFORMING OPERATIONS; TRANSPORTING
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    • B60GVEHICLE SUSPENSION ARRANGEMENTS
    • B60G2800/00Indexing codes relating to the type of movement or to the condition of the vehicle and to the end result to be achieved by the control action
    • B60G2800/90System Controller type
    • B60G2800/93Skid or slide control [ASR]

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  • Regulating Braking Force (AREA)
  • Vehicle Body Suspensions (AREA)
  • Control Of Driving Devices And Active Controlling Of Vehicle (AREA)

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は,前後輪間又は左右輪間
の駆動力配分クラッチの締結力制御装置又は差動制限装
置や、左右輪間のロール剛性を可変としたスタビライザ
制御装置又は能動型サスペンション装置や、各輪の転舵
角を個別に制御可能な四輪操舵装置等のように,車両に
作用する入力や車両に発生する物理量等から目標ヨーイ
ング運動量を算出し、実際に車両に発生しているヨーイ
ング運動量を,この目標ヨーイング運動量に一致させる
ようにフィードバック制御を行うヨーイング運動量制御
装置を備えた車両の、制動時に各輪に配設された制動用
シリンダの流体圧を最適状態に制御して車輪のロックを
防止すると共に,特に旋回時の車両運動に改良を加えた
アンチスキッド制御装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】前述のような車両のヨーイング運動量制
御装置を,例えば前記前後輪間又は左右輪間の駆動力配
分を可変調整可能としたクラッチ締結力制御装置に展開
したものとしては、例えば本出願人が先に提案した特開
平3−31030号公報に記載されるものがある。
【0003】この駆動力配分クラッチの締結力制御装置
では、具体的に車両の前後輪間又は左右輪間に,締結力
を可変としたクラッチを介装し、このクラッチの締結力
を制御することによって機関から各輪へ伝達される駆動
力を可変制御可能とし、各輪の駆動力を制御することで
車両に発生するヨーイング運動量を制御することを可能
とする。
【0004】ここで、例えば車両の前後輪間で駆動力配
分制御を行う場合に、摩擦円の概念に基づいて,特に駆
動力についてのみ論ずれば、旋回又は転舵中に各車輪に
掛かる駆動力が増加すると当該車輪のコーナリングフォ
ースが減少する。従って、転舵旋回中の前輪への駆動力
を後輪へのそれに対して相対的に増加すれば,当該前輪
のコーナリングフォースが減少するから車両に発生して
いるヨーイング運動量,具体的にヨーレートやヨー角加
速度は減少し、これにより車両に作用するヨーモーメン
トが小さくなって車両のステアリング特性はアンダステ
ア方向に変化する。逆に、転舵旋回中の前輪への駆動力
を後輪へのそれに対して相対的に減少すれば,当該前輪
のコーナリングフォースが増加するから車両に発生して
いるヨーレートやヨー角加速度といったヨーイング運動
量は増加し、車両に作用するヨーモーメントが大きくな
って車両のステアリング特性はオーバステア方向に変化
する。
【0005】また、例えば車両の後左右輪間で駆動力配
分制御を行う場合に、旋回外輪となる後輪への駆動力を
旋回内輪となる後輪へのそれに対して相対的に増加すれ
ば,車両に作用するヨーモーメントが大きくなって車両
に発生しているヨーレートやヨー角加速度のヨーイング
運動量が増加し、車両のステアリング特性はオーバステ
ア方向に変化する。逆に、旋回外輪となる後輪への駆動
力を旋回内輪となる後輪へのそれに対して相対的に減少
すれば,車両に作用するヨーモーメントが小さくなって
車両に発生しているヨーレートやヨー角加速度のヨーイ
ング運動量が減少し、車両のステアリング特性はアンダ
ステア方向に変化する。なお、これらのステアリング特
性の変化は単に駆動力の大小によってヨーモーメントが
抑制されたり助長されたりするといった表面的な原理の
みならず、同時に転舵旋回中の左右輪間荷重移動や前記
摩擦円の概念に則った駆動力の大小に伴うコーナリング
フォースの変化等にも依存していることは言うまでもな
い。
【0006】このようにして、例えば各車輪への駆動力
配分を制御することによって車両のステアリング特性を
変化させるために,前記駆動力配分クラッチの締結力制
御装置では、前記したヨーレートやヨー角加速度といっ
たヨーイング運動量に着目しており、そのような意味合
いからはヨーイング運動量制御装置として取り扱うこと
ができる。即ち、車両に実際に発生しているヨーレート
やヨー角加速度といったヨーイング運動量(以下,実ヨ
ーイング運動量とも記す)は、例えば車両に搭載された
ヨーモーメントジャイロ等のセンサを介して検出するこ
とができる。一方、既知のように車両で達成されるべき
ヨーイング運動量(以下目標ヨーイング運動量とも記
す)は車速,操舵角又は転舵角を変数として求めること
ができる。具体的にこの目標ヨーイング運動量は、与え
られた車速の下に操舵角又は転舵角の増加に対して単純
に一次遅れで増加する。そして、このようにして得られ
た目標ヨーイング運動量に前記車両に実際に発生してい
る実ヨーイング運動量が一致するように前記クラッチ締
結力のフィードバック制御を行う。なおこの際、目標ヨ
ーイング運動量を実際の車両で実現させるために、例え
ば目標ヨーイング運動量と実ヨーイング運動量との偏差
に,例えば前記車両諸元やステアリング特性を考慮した
所定のフィードバック制御ゲインを乗じる等している。
また、実際に本駆動力配分クラッチの締結力制御装置で
は、車輪のスリップ状態を監視してそのスリップ率を最
適状態に保持する制御力をも合わせて算出制御してい
る。
【0007】このようなヨーイング運動量制御装置は、
例えば本出願人が先に提案した特開昭60−16125
5号公報に記載される四輪操舵制御装置を含む補助操舵
制御装置や、同じく本出願人が先に提案した特開平5−
193332号公報に記載されるロール剛性可変制御を
可能とした能動型サスペンション及びスタビライザ制御
装置等にも広く展開されつつある。
【0008】一方、車両の制動時における車輪のロック
を防止するアンチスキッド制御装置は、一般に,制御対
象車輪の車輪速を検出して,その車体速(誤差等の関係
から最大車輪速と等価であると判断される場合が多い)
との偏差の比からスリップ率を算出し、このスリップ率
が,舵取り効果や制動距離の確保に有効とされるスリッ
プ率の基準値である基準スリップ率を越えるような場合
には,制動用シリンダへの流体圧を減圧し、この減圧に
よって当該車輪のスリップ率が基準スリップ率以下とな
ると再び制動用シリンダへの流体圧を増圧し、所謂ポン
ピングブレーキ的な操作を自動制御することによって,
当該制御対象車輪のスリップ率が基準スリップ率に維持
されるように制動力を調整制御する。なお、前記基準ス
リップ率は,通常,想定される車両諸元やステアリング
特性等を考慮した一定値に設定されていることが多い。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】ところで、前記アンチ
スキッド制御装置とヨーイング運動量制御装置とを兼備
した車両において両者の相関について考察するにあた
り、例えば転舵旋回中の制動によるヨーイング運動の変
化を挙げてみる。制動時の車両慣性によって当該車両荷
重が前方に移動するのは既知であるから、当該制動中の
前輪のグリップ力(摩擦力と等価であると考える)は大
きくなり、後輪のグリップ力は小さくなる。そして、車
両は転舵旋回中であるから,前記制動中の前後輪のグリ
ップ力の変動に伴って、前輪のコーナリングフォースは
増加することになり,後輪のコーナリングフォースは減
少することになる。なお、これと同様に,転舵旋回中の
遠心力,具体的には車両に発生する横加速度によって、
旋回外輪に相当する車輪と旋回内輪に相当する車輪との
間でもコーナリングフォースの増減が発生していること
は周知である。
【0010】従って、転舵旋回中に制動力が発生する
と,車両に発生しているヨーモーメントが助長されてス
テアリング特性がオーバステア方向に変化する。また一
般に、或る車速以上の転舵旋回時において車両重心点の
横すべり角を基準にすると,前輪の横すべり角は旋回の
内側に向いており,後輪の横すべり角は旋回の外側に向
いており、前記制動による前後輪のグリップ力変動が,
各輪の回転に伴う推力を変化させると考えれば、前述と
同様に車両重心点回りに作用するヨーモーメントが助長
されてステアリング特性がオーバステア方向に変化す
る。このとき、車両で発生しているヨーレートやヨー角
加速度等の実ヨーイング運動量は,本来車両で達成すべ
き目標ヨーイング運動量よりも大きくなっていると考え
られ、従って前述のようなヨーイング運動量制御装置で
は,車両で発生する実ヨーイング運動量を小さくする方
向,即ちステアリング特性をアンダステア方向に変化さ
せる制御量が発生し、結果的に前記制動によるヨーモー
メントの助長が抑制されて車両の過渡的な旋回特性が安
定する。
【0011】しかしながら、前記従来のアンチスキッド
制御装置では、前記ヨーイング運動量制御装置の失陥
(以下,フェールとも記す)時、具体的には前記ヨーイ
ング運動量制御装置を構成する各検出手段であるセンサ
やハーネス,即ち結線の失陥,マイクロコンピュータ等
の演算処理装置の失陥,プログラムやデータ或いはそれ
らの通信バスの失陥,各ヨーイング運動量調整手段であ
るアクチュエータ類の失陥等に対する対応策(以下,フ
ェールセーフとも記す)が施されていないという実状が
ある。勿論、これらの所謂電子制御装置自体のフェール
セーフは、例えばヨーイング運動量制御装置にあっては
制御量が発現しない,即ちヨーイング運動量がフィード
バック制御されない状態が維持されるとか,或いはアン
チスキッド制御装置にあっては通常の制動力特性が発現
するといったように講じられているのであるが、前述の
ように少なくともヨーイング運動量制御装置が失陥した
ときには前記アンチスキッド制御装置では,単に制御対
象輪のスリップ率を前記一定の基準スリップ率に維持す
る制御が継続されるだけである。従って、当該ヨーイン
グ運動量制御装置のフェール時にあって転舵旋回中に制
動するとステアリング特性がオーバステア方向に変化し
て車両の過渡的な旋回特性が不安定となる。
【0012】本発明はこれらの諸問題に鑑みて開発され
たものであり、前記ヨーイング運動量制御装置のフェー
ル時にあっても車両の過渡的な旋回特性が不安定となる
のを抑制防止することができるヨーイング運動量制御装
置を備えた車両のアンチスキッド制御装置を提供するこ
とを目的とするものである。
【0013】而して、本発明のうち請求項1に係るヨー
イング運動量制御装置を備えた車両のアンチスキッド制
御装置は、図1aの基本構成図に示すように、発生する
ヨーイング運動量を目標とするヨーイング運動量に一致
するようにフィードバック制御可能なヨーイング運動量
制御装置を備えた車両の、各輪のスリップ率が当該各輪
の基準スリップ率に保たれるように、各輪に備えられた
制動用シリンダへの流体圧を増減圧制御して、当該制御
対象となる車輪のロックを防止するアンチスキッド制御
装置において、前記ヨーイング運動量制御装置の失陥を
検出する失陥検出手段と、車両の旋回状態を検出する旋
回状態検出手段と、少なくとも前記失陥検出手段がヨー
イング運動量制御装置の失陥を検出し且つ前記旋回状態
検出手段で検出された旋回状態検出値が所定の旋回状態
に相当する所定旋回状態値以上であるときに、前記後輪
の基準スリップ率を所定補正量だけ小さく補正する後輪
基準スリップ率補正手段とを備えたことを特徴とするも
のである。
【0014】また、本発明のうち請求項2に係るヨーイ
ング運動量制御装置を備えた車両のアンチスキッド制御
装置は、発生するヨーイング運動量を目標とするヨーイ
ング運動量に一致するようにフィードバック制御可能な
ヨーイング運動量制御装置を備えた車両の、各輪のスリ
ップ率が当該各輪の基準スリップ率に保たれるように、
各輪に備えられた制動用シリンダへの流体圧を増減圧制
御して、当該制御対象となる車輪のロックを防止するア
ンチスキッド制御装置において、前記ヨーイング運動量
制御装置の失陥を検出する失陥検出手段と、車両の旋回
状態を検出する旋回状態検出手段と、少なくとも前記失
陥検出手段がヨーイング運動量制御装置の失陥を検出し
且つ前記旋回状態検出手段で検出された旋回状態検出値
が所定の旋回状態に相当する所定旋回状態値以上である
ときに、前記前輪の基準スリップップ率を所定補正量だ
け大きく補正する旋回外輪基準スリップ率補正手段とを
備えたことを特徴とするものである。
【0015】また、本発明のうち請求項3に係るヨーイ
ング運動量制御装置を備えた車両のアンチスキッド制御
装置は、図1cの基本構成図に示すように、発生するヨ
ーイング運動量を目標とするヨーイング運動量に一致す
るようにフィードバック制御可能なヨーイング運動量制
御装置を備えた車両の、各輪のスリップ率が当該各輪の
基準スリップ率に保たれるように,各輪に備えられた制
動用シリンダへの流体圧を増減圧制御して、当該制御対
象となる車輪のロックを防止するアンチスキッド制御装
置において、前記ヨーイング運動量制御装置の失陥を検
出する失陥検出手段と、車両の旋回状態を検出する旋回
状態検出手段と、少なくとも前記失陥検出手段がヨーイ
ング運動量制御装置の失陥を検出し且つ前記旋回状態検
出手段で検出された旋回状態検出値が所定の旋回状態に
相当する所定旋回状態値以上であるときに,旋回外輪に
相当する各輪の基準スリップ率を所定補正量だけ大きく
補正する旋回外輪基準スリップ率補正手段とを備えたこ
とを特徴とするものである。
【0016】また、本発明のうち請求項4に係るヨーイ
ング運動量制御装置を備えた車両のアンチスキッド制御
装置は、図1dの基本構成図に示すように、発生するヨ
ーイング運動量を目標とするヨーイング運動量に一致す
るようにフィードバック制御可能なヨーイング運動量制
御装置を備えた車両の、各輪のスリップ率が当該各輪の
基準スリップ率に保たれるように,各輪に備えられた制
動用シリンダへの流体圧を増減圧制御して、当該制御対
象となる車輪のロックを防止するアンチスキッド制御装
置において、前記ヨーイング運動量制御装置の失陥を検
出する失陥検出手段と、車両の旋回状態を検出する旋回
状態検出手段と、少なくとも前記失陥検出手段がヨーイ
ング運動量制御装置の失陥を検出し且つ前記旋回状態検
出手段で検出された旋回状態検出値が所定の旋回状態に
相当する所定旋回状態値以上であるときに,旋回内輪に
相当する各輪の基準スリップ率を所定補正量だけ小さく
補正する旋回内輪基準スリップ率補正手段とを備えたこ
とを特徴とするものである。
【0017】また、本発明のうち請求項5に係るヨーイ
ング運動量制御装置を備えた車両のアンチスキッド制御
装置は、図1の基本構成図に示すように、前記旋回状態
検出手段で検出された旋回状態検出値の増加に伴って、
前記各輪の基準スリップ率の所定補正量の絶対値を大き
く設定する補正量設定手段を備えたことを特徴とするも
のである。
【0018】また、本発明のうち請求項6に係るヨーイ
ング運動量制御装置を備えた車両のアンチスキッド制御
装置は、前記旋回状態検出手段が、車両に発生する横加
速度を検出する横加速度検出手段で構成されていること
を特徴とするものである。
【0019】
【作用】本発明のうち請求項1に係るヨーイング運動量
制御装置を備えた車両のアンチスキッド制御装置では、
図1aの基本構成図に示すように、前記失陥検出手段が
ヨーイング運動量制御装置の失陥を検出すると、前記旋
回状態検出手段で検出された横加速度等の旋回状態検出
値が所定旋回状態値以上となって、車両が旋回している
と判定されるときに、前記後輪基準スリップ率補正手段
が当該後輪の基準スリップ率を所定補正量だけ小さく補
正するために、例えば制動開始時のホイルシリンダ等へ
の流体圧の増圧により当該後輪のスリップ率が当該補正
された基準スリップ率を上回るのは、補正されない基準
スリップ率に比して早くなるから、当該後輪のホイルシ
リンダ等への流体圧が減圧されるタイミングが早まり、
また例えば当該後輪のホイルシリンダ等への流体圧が減
圧されても当該後輪のスリップ率が前記補正された基準
スリップ率を下回るのは遅くなるから、当該後輪のホイ
ルシリンダ等への流体圧が増圧されるタイミングが遅く
なり、この繰り返しによって当該後輪への制動力は全体
的に減少することになる。これにより、当該後輪では制
駆動力による所謂トラクションロス分が小さくなるから
グリップ力の低下量が小さくなって走行安定性が向上す
ると共に、特に転舵旋回中の制動時には当該後輪のコー
ナリングフォースの低下量も小さくなるから、車両重心
点回りのヨーモーメントが抑制されて車両のステアリン
グ特性がアンダステア方向に変化するために、前記ヨー
イング運動量制御装置が失陥(フェール)している状態
で転舵旋回中の制動時に発生する車両前後方向への荷重
移動によるステアリング特性のオーバステア方向への変
化が抑制或いは相殺されて、車両の過渡的な旋回特性が
不安定になるのを抑制防止することができる。
【0020】本発明のうち請求項2に係るヨーイング運
動量制御装置を備えた車両のアンチスキッド制御装置で
は、図1aの基本構成図に示すように、前記失陥検出手
段がヨーイング運動量制御装置の失陥を検出すると、
記旋回状態検出手段で検出された横加速度等の旋回状態
検出値が所定旋回状態値以上となって、車両が旋回して
いると判定されるときに、前記前輪基準スリップ率補正
手段が当該前輪の基準スリップ率を所定補正量だけ大き
く補正するために、例えば制動開始時のホイルシリンダ
等への流体圧の増圧により当該前輪のスリップ率が当該
補正された基準スリップ率を上回るのは、補正されない
基準スリップ率に比して遅くなるから、当該前輪のホイ
ルシリンダ等への流体圧が減圧されるタイミングが遅く
なり、また例えば当該前輪のホイルシリンダ等への流体
圧が減圧されても当該前輪のスリップ率が前記補正され
た基準スリップ率を下回るのは早くなるから、当該前輪
のホイルシリンダ等への流体圧が増圧されるタイミング
が早くなり、この繰り返しによって当該前輪への制動力
は全体的に増加することになる。これにより、当該前輪
では制駆動力による所謂トラクションロス分が大きくな
るからグリップ力の低下量が大きくなり、特に転舵旋回
中の制動時には前記摩擦円の概念に従って当該前輪のコ
ーナリングフォースの低下量も大きくなるから、車両重
心点回りのヨーモーメントが抑制されて車両のステアリ
ング特性がアンダステア方向に変化するために、前記ヨ
ーイング運動量制御装置が失陥(フェール)している状
態で転舵旋回中の制動時に発生する車両前後方向への荷
重移動によるステアリング特性のオーバステア方向への
変化が抑制或いは相殺されて、車両の過渡的な旋回特性
が不安定になるのを抑制防止することができる。
【0021】本発明のうち請求項3に係るヨーイング運
動量制御装置を備えた車両のアンチスキッド制御装置で
は、図1cの基本構成図に示すように、前記失陥検出手
段がヨーイング運動量制御装置の失陥を検出すると、前
記旋回状態検出手段で検出された横加速度等の旋回状態
検出値が所定旋回状態値以上となって,車両が旋回して
いると判定されるときに、前記旋回外輪基準スリップ率
補正手段が当該旋回外輪に相当する車輪の基準スリップ
率を所定補正量だけ大きく補正するために、例えば制動
開始時のホイルシリンダ等への流体圧の増圧により当該
旋回外輪のスリップ率が当該補正された基準スリップ率
を上回るのは,補正されない基準スリップ率に比して遅
くなるから、当該旋回外輪のホイルシリンダ等への流体
圧が減圧されるタイミングが遅くなり、また例えば当該
旋回外輪のホイルシリンダ等への流体圧が減圧されても
当該旋回外輪のスリップ率が前記補正された基準スリッ
プ率を下回るのは早くなるから、当該旋回外輪のホイル
シリンダ等への流体圧が増圧されるタイミングが早くな
り、この繰り返しによって当該旋回外輪への制動力は全
体的に増加することになる。これにより、車両重心点回
りのヨーモーメントが抑制されて車両のステアリング特
性がアンダステア方向に変化するために、前記ヨーイン
グ運動量制御装置が失陥(フェール)している状態で転
舵旋回中の制動時に発生する車両前後方向への荷重移動
によるステアリング特性のオーバステア方向への変化が
抑制或いは相殺されて,車両の過渡的な旋回特性が不安
定になるのを抑制防止することができる。
【0022】本発明のうち請求項4に係るヨーイング運
動量制御装置を備えた車両のアンチスキッド制御装置で
は、図1dの基本構成図に示すように、前記失陥検出手
段がヨーイング運動量制御装置の失陥を検出すると、前
記旋回状態検出手段で検出された横加速度等の旋回状態
検出値が所定旋回状態値以上となって,車両が旋回して
いると判定されるときに、前記旋回内輪基準スリップ率
補正手段が当該旋回内輪に相当する車輪の基準スリップ
率を所定補正量だけ小さく補正するために、例えば制動
開始時のホイルシリンダ等への流体圧の増圧により当該
旋回内輪のスリップ率が当該補正された基準スリップ率
を上回るのは,補正されない基準スリップ率に比して早
くなるから、当該旋回内輪のホイルシリンダ等への流体
圧が減圧されるタイミングが早くなり、また例えば当該
旋回内輪のホイルシリンダ等への流体圧が減圧されても
当該旋回内輪のスリップ率が前記補正された基準スリッ
プ率を下回るのは遅くなるから、当該旋回内輪のホイル
シリンダ等への流体圧が増圧されるタイミングが遅くな
り、この繰り返しによって当該旋回内輪への制動力は全
体的に減少することになる。これにより、車両重心点回
りのヨーモーメントが抑制されて車両のステアリング特
性がアンダステア方向に変化するために、前記ヨーイン
グ運動量制御装置が失陥(フェール)している状態で転
舵旋回中の制動時に発生する車両前後方向への荷重移動
によるステアリング特性のオーバステア方向への変化が
抑制或いは相殺されて,車両の過渡的な旋回特性が不安
定になるのを抑制防止することができる。
【0023】本発明のうち請求項5に係るヨーイング運
動量制御装置を備えた車両のアンチスキッド制御装置で
は、図1の基本構成図に示すように、前記旋回状態検出
手段で検出された横加速度等の旋回状態検出値が増加す
るに伴って,前記補正量設定手段が前記所定補正量の絶
対値を大きく設定するため、車両旋回の速さや大きさ等
で表される旋回の深さ或いは強さに応じて前記所定補正
量の大きさが設定されることになり、従ってより深い或
いは強い旋回を伴うヨーモーメントが発生したとき,即
ちヨーイング運動量制御装置のフェールした状態で転舵
旋回中の制動時に発生する車両ステアリング特性のオー
バステア方向への変化が大きくなったときには、前記基
準スリップ率を補正したことによる車両ステアリング特
性をアンダステア方向に変化させるヨーモーメントの抑
制力が大きくなることになり、特にヨーイング運動量制
御装置の失陥(フェール)時であっても,転舵旋回中の
制動時における車両の過渡的な旋回特性を安定化させる
と共に走行安定性が向上する。
【0024】本発明のうち請求項6に係るヨーイング運
動量制御装置を備えた車両のアンチスキッド制御装置で
は、前記旋回状態検出手段が横加速度検出手段で構成さ
れているために、この横加速度検出手段で検出される車
両の横加速度検出値は,ヨーイング運動量に応じて移行
した旋回の深さ或いは強さに応じたものであることか
ら、この横加速度検出値の大きさに応じて前記所定補正
量を設定すれば,ヨーイング運動量制御装置の失陥(フ
ェール)時であっても転舵旋回中の制動時における車両
の過渡的な旋回特性を確実に安定化させると共に旋回の
浅い或いは弱い状態での走行安定性が向上する。
【0025】なお、前記本発明のうち請求項1乃至4に
係るヨーイング運動量制御装置を備えた車両のアンチス
キッド制御装置のうち、例えば請求項1と2,或いは請
求項3と4,或いは請求項1乃至4を相互に複合して併
用する際には、例えば前記各所定補正量うち,基準スリ
ップ率を小さく補正する所定補正量を負,基準スリップ
率を大きく補正する所定補正量を正で表したときに、そ
れらの総和が“0”になるようにするのが望ましく、逆
にそのようにしないと前述した制動力の総和が過渡的に
変化してしまうと共に、ホイルシリンダ等への流体圧の
総和が,ブレーキペダルの踏込み量と一意な関係にある
マスタシリンダ圧と異なるため、運転者の操作量と制動
力とが合致しなくなって違和感を生じる虞れがある。
【0026】
【実施例】以下、本発明のヨーイング運動量制御装置を
備えた車両のアンチスキッド制御装置の実施例を添付図
面に基づいて説明する。図2は本発明の前提であるヨー
イング運動量制御装置を,後左右輪間の駆動力配分制御
装置に展開した一実施例である。この実施例では、FR
(フロントエンジン・リアドライブ)方式をベースにし
た後輪駆動車両用駆動力左右配分制御装置の差動制限装
置に適用した場合について説明する。
【0027】図2において回転駆動源,即ち機関として
のエンジン1の回転駆動力は,図示されないクラッチを
介してトランスミッション2に伝達され、このトランス
ミッション2で選択された歯車比で変速され、その出力
がプロペラシャフト3からドライブギヤ4を介してリン
グギヤ5に伝達され、このリングギヤ5に固定されてい
るディファレンシャルケース11が回転される。このデ
ィファレンシャルケース11内には二つのディファレン
シャルピニオン12aと左右二つのサイドギヤ12bと
から構成されるディファレンシャルギヤ12が内装され
ており、前記ディファレンシャルケース11の回転によ
って各サイドギヤ12bが回転され、夫々のサイドギヤ
12bに自在継手等を介して連結された左右のドライブ
シャフト8L,8Rが回転されて後左右両輪6L,6R
に駆動力が伝達される。
【0028】一方、前左右輪9L,9Rは非駆動輪,所
謂従動輪であって、ステアリングホイール10の操作量
が既存のステアリング機構によって変換されて当該前左
右輪9L,9Rが操舵される。ここでは、ステアリング
ホイール10の操作量を操舵角θと定義し、この操舵角
θに対してステアリング機構のギヤ比Nを介した前左右
輪9L,9Rの転舵角が決定されるものとする。
【0029】ところで、前記ディファレンシャルケース
11と左右各ドライブシャフト8L,8Rとの間には多
板式クラッチ7L,7Rが介装されており、該クラッチ
7L,7Rのドライブ−ドリブンクラッチプレートを押
当させることにより各プレート間の摩擦力が該ディファ
レンシャルケース11と各ドライブシャフト8L,8R
との相対回転を規制する。つまり各クラッチ7L,7R
の押圧力が大きい程プレート間の摩擦力が増大するか
ら、ディファレンシャルケース11と各ドライブシャフ
ト8L,8Rとの相対回転が強く規制され、この相対回
転規制力が本実施例の場差動制限トルクに相応する。こ
の実施例では前記各多板式クラッチ7L,7Rのクラッ
チプレートのうち、ディファレンシャルケース11側の
ドライブクラッチプレートが固定され、ドライブシャフ
ト8L,8R側のドリブンクラッチプレートが、それら
を連結する連結体17L,17Rを介して前記サイドギ
ヤ12bの軸線方向に移動可能なるよう配設されてい
る。
【0030】そして、前記各多板式クラッチ7L,7R
の移動側ドリブンクラッチプレートの夫々は、初期設定
差動制限トルクT0 を付与するスプリング19L,19
Rにより、前記左右連結体17L,17R及び左右押圧
杆16L,16Rを介して内側に押圧されている。これ
らのスプリング19L,19Rの押圧力は、後述する差
動制限トルク制御手段によって差動制限トルクが制御さ
れる以前,或いは作動制御トルク制御手段のフェール時
に、前記初期設定差動制限トルクT0 の左右和(2×T
0 )が微速小回り時のブレーキング現象による違和感を
与えない程度に設定されている。
【0031】また、前記左右押圧杆16L,16Rの夫
々には、前記多板式クラッチ7L,7Rの押圧力を変化
して差動制限トルクを変化させる左右流体圧シリンダ1
5L,15Rが個別に連結されている。この流体圧シリ
ンダ15L,15R内のピストン13L,13Rは,後
述するアクチュエータユニット30からのシリンダスト
ローク制御流体圧(以下,単にシリンダ制御圧とも記
す)PC の増圧によって,前記多板式クラッチ7L,7
Rのドリブンクラッチプレートをドライブクラッチプレ
ート側に押圧する内側方向に移動され、当該シリンダ制
御圧PS が減圧すると,リターンスプリング14L,1
4Rによって両クラッチプレートを離間する方向に移動
される。但し、リターンスプリング14L,14Rの弾
性力,即ち弾性係数は、前記ピストン13L,13Rを
原位置に復帰する程度に設定してあり、前記各多板式ク
ラッチ7L,7Rによる差動制限トルクTは,単純に前
記シリンダ制御圧PS にのみ依存し、両者は,前記スプ
リング19L,19Rによる初期設定差動制限トルクT
0 を初期値として,図6aに示すように互いにリニアな
関係にあるものとし、シリンダ制御圧PS の最大所定値
S1で最大差動制限トルクTMAX に飽和して,即ち後左
右各ドライブシャフト8L,8Rとプロペラシャフト3
とがリジット状態になるものとする。
【0032】前記アクチュエータユニット30は、図3
に明示するように,リザーバ31の作動流体を加圧して
吐出するポンプ32と、前記ポンプ32からの吐出流体
圧を整流するチェック弁33と、この吐出流体圧を蓄圧
するアキュームレータ34と、この流体圧を用いて前記
左右流体圧シリンダ15L,15Rへの各シリンダ制御
圧PSL,PSRを個別に調整制御する二つの比例電磁弁3
5L,35Rとを備えてなる。この二つの比例電磁弁3
5L,35Rは共に、リターンスプリングによる図示の
ノーマル第1切換位置でポンプポートが遮断され且つ出
力ポートがリターンポートに連通され、比例電磁ソレノ
イド36L,36Rの励磁によって第2切換位置となる
と,ポンプポートと出力ポートとが連通され且つリター
ンポートが遮断される構成となっていて、当然のごと
く,ポンプポートは前記ポンプ32に接続され、リター
ンポートはリザーバに接続され、出力ポートは各比例電
磁弁35L,35Rに接続されている。従って、前記比
例電磁ソレノイド36L,36Rの励磁力が大きくな
る,即ち当該比例電磁ソレノイド36L,36Rへの駆
動電流信号CSL ,CSR の電流値が大きくなると、各
比例電磁弁35L,35Rの出力ポートからの出力圧,
即ち前記各流体圧シリンダ15L,15Rへのシリンダ
制御圧PS が大きくなる。そこで、本実施例では,両者
の相関を図6bのようなリニア特性に設定し、従って前
記図6aの差動制限トルクTとの相関から,駆動電流信
号CSL ,CSR の目標電流値SL ,SR を調整制御す
ることで、前記多板式クラッチ7L,7Rによる差動制
限トルクTを調整制御する。なお、前記ポンプ32は,
図示されない圧力スイッチの検出信号等にも基づいた図
示されない演算処理に従う前記コントロールユニット4
0からの駆動電流信号CSMにより、その回転出力が制
御される。また、本実施例では後述する各センサやコン
トロールユニット40及びアクチュエータユニット30
に失陥が生じた,所謂フェール時には、前記各比例電磁
弁35L,35Rの比例電磁ソレノイド36L,36R
への駆動電流信号CSL ,CSR の電流値を“0”とす
ることとし、これにより各比例電磁弁35L,35Rは
ノーマルの第1切換位置に戻るため、前記各流体圧シリ
ンダ15L,15Rの流体圧はリターンして大気圧と同
等又はほぼ同等となって,各多板式クラッチ7L,7R
による差動制限トルクTは前記初期設定差動制限トルク
0 となり、従って前記後輪ディファレンシャルは,こ
の初期設定差動制限トルクT0 だけを有するリミテッド
スリップディファレンシャルとして機能する。
【0033】ここで、後段に詳述する伝達駆動力比Nの
定義について簡潔に説明する。即ち図6bに示すよう
に、前記各比例電磁弁35L,35Rの比例電磁ソレノ
イド36L,36Rへの駆動電流信号CSL ,CSR
目標電流値SL ,SR が,最大所定値CSL1,CSR1
なると、各流体圧シリンダ15L,15Rへのシリンダ
制御圧PSL,PSRが,最大所定値PSL1 ,PSR1 となる
から、多板式クラッチ7L,7Rによる差動制限トルク
Tは図6aに示すように前記最大差動制限トルクTMAX
となり、後左右各ドライブシャフト8L,8Rとプロペ
ラシャフト3とがリジット状態になって共回りすること
になるから、両者の間で伝達される回転駆動力比は
“1”又はほぼ“1”となる。そして、この状態から前
記駆動電流信号CSL ,CSR の電流値SL ,SR が小
さくなるに従って,各流体圧シリンダ15L,15Rへ
のシリンダ制御圧PSL,PSRが小さくなり、従って多板
式クラッチ7L,7Rによる差動制限トルクTは次第に
小さくなってディファレンシャルケース11と各サイド
ギヤ12bとの相対回転を次第に許容する状態になるか
ら、後左右各ドライブシャフト8L,8Rとプロペラシ
ャフト3とは相対回転可能な状態となり、両者の間の伝
達回転駆動力比は次第に小さくなる。これを前記プロペ
ラシャフト3から各後左右輪6L,6Rへの伝達駆動力
比Nと捉えると、この伝達駆動力比Nを後左右輪6L,
6R間で適宜に設定することによって,車両に発生する
ヨーモーメントを助長したり抑制したりすることができ
るから、例えば操舵角と車速とに応じた目標ヨーレート
ψ'*に車両で実際に発生している実ヨーレートψ' を一
致させるための後述する演算処理のヨーレート追従制御
では,この伝達駆動力比Nを制御量として算出設定す
る。
【0034】一方、図2に戻ってこの車両には,制動時
の車輪のロックを防止するアンチスキッド制御装置も兼
備されている。前記前左右輪9L,9Rには,夫々前左
右ブレーキロータ24FL,24FRが各輪9L,9R
と一緒に回転するように設けられており、各ブレーキロ
ータ24FL,24FRに対して前左右ホイールシリン
ダ25FL,25FRが配設されている。また、後左右
輪6L,6Rについても同様に、後左右ブレーキロータ
24RL,24RRに対して後左右ホイールシリンダ2
5RL,25RRが配設されている。そして、各ホイー
ルシリンダ25FL〜25RRに供給される流体圧,具
体的にはブレーキ液圧がアクチュエータユニット23に
よって調整される。
【0035】このアクチュエータユニット23は図4に
示すように、前左右輪9L,9Rのホイールシリンダ2
5FL,25FRへのブレーキ液圧(単にホイールシリ
ンダ圧とも記す)を個別に制御する3ポート3位置電磁
方向切換弁(以下,単に前左右輪用電磁方向切換弁とも
記す)26FL,26FRと、後左右輪6L,6Rのホ
イールシリンダ25RL,25RRのホイールシリンダ
圧を同時に制御する3ポート3位置電磁方向切換弁(以
下,単に後輪用電磁方向切換弁とも記す)26Rとを備
えている。そして、前記前左右輪のホイールシリンダ圧
を個別に制御する前左右輪用各電磁方向切換弁26F
L,26FRのPポートがブレーキペダル21に連結さ
れた2系統マスターシリンダ22の一方の系統に接続さ
れ、当該各電磁方向切換弁26FL,26FRのAポー
トが,夫々個別に前記各前左右ホイールシリンダ25F
L,25FRに接続され、更にBポートが電動モータ
(図示せず)によって回転駆動され且つ前輪のブレーキ
液圧を加圧又は吸引するポンプ(以下,単に前輪用ポン
プとも記す)27Fを介して前記マスターシリンダ22
の一方の系統に接続されている。また、前記後輪のホイ
ールシリンダ圧を同時に制御する後輪用電磁方向切換え
弁26RのPポートが前記マスターシリンダ22の他方
の系統に接続され、当該電磁方向切換え弁26RのAポ
ートが前記後左右ホイールシリンダ25RL,25RR
の双方に接続され、更にBポートが電動モータ(図示せ
ず)によって回転駆動され且つ後輪のブレーキ液圧を加
圧又は吸引するポンプ(以下,単に後輪用ポンプとも記
す)27Fを介して前記マスターシリンダ22の一方の
系統に接続されている。
【0036】更に、前記前左右輪用電磁方向切換弁26
FL,26FRの両Pポートと前記前輪用ポンプ27F
との間の液路に前輪用アキュームレータ38Fが接続さ
れ、両電磁方向切換弁26FL,26FRの両Bポート
と前記前輪用ポンプ27Fとの間の液路に前輪用リザー
バタンク39Fが接続されている。同様に、前記後輪用
電磁方向切換弁26RのPポートと前記後輪用ポンプ2
7Rとの間の液路に後輪用アキュームレータ38Rが接
続され、電磁方向切換弁2RのBポートと前記後輪用ポ
ンプ27Rとの間の液路に後輪用リザーバタンク39R
が接続されている。
【0037】ここで、各電磁方向切換弁26FL〜26
Rの夫々は、リターンスプリング押圧力によるノーマル
の第1の切換位置でマスターシリンダ22とホイールシ
リンダ25FL〜25RRとを直接接続して当該ホイー
ルシリンダ25FL〜25RRのホイールシリンダ圧を
マスターシリンダ22のブレーキ液圧(以下,マスター
シリンダ圧とも記す)に応じた値とする増圧状態とし、
第2の切換位置でホイールシリンダ25FL〜25RR
とマスターシリンダ22及びポンプ27F,27Rとの
間を遮断して当該ホイールシリンダ25FL〜25RR
のホイールシリンダ圧を保持する保持状態とし、更に第
3の切換位置でホイールシリンダ25FL〜25RRと
マスターシリンダ22との間をポンプ27F,27Rを
介して接続することにより,当該ホイールシリンダ25
FL〜25RR内のブレーキ液をマスターシリンダ22
側に戻す減圧状態とし、これらの切換位置が後述するコ
ントロールユニット40から供給される3段階の電流値
を有する駆動信号PFL,P FR,PR によって切換制御さ
れる。なお、この駆動信号PFL,PFR,PR の添字は,
夫々前記電磁方向切換弁26FL,26FR,26Rに
合致しており、コントロールユニット40内で設定され
る各ブレーキ液圧モード(ホイールシリンダ圧モード)
が前記増圧状態,保持状態,減圧状態を意味するから、
各ホイールシリンダ圧モードが設定されて,それに応じ
た駆動信号PFL,PFR,PR が各電磁方向切換弁26F
L,26FR,26Rに出力されると、当該ホイールシ
リンダ圧が増圧状態,保持状態,減圧状態の何れかに選
択設定される。また、実質的な各電磁方向切換弁26F
L〜26Rの制御は所謂チョッピング制御によって行わ
れており、従って後述するホイールシリンダ圧緩増圧モ
ードは,前記増圧状態と保持状態とを所定時間毎に繰り
返して選択設定することで達成され、これにより当該ホ
イールシリンダ圧は見掛け上,比較的ゆっくりと増圧さ
れる。また、前記各ポンプ27F,27Rはホイールシ
リンダ圧減圧モード時にのみ回転駆動されればよく、従
って後述するコントロールユニット40内で減圧モード
が設定されると当該コントロールユニット40からポン
プ駆動信号DPF,DPRが出力され、この駆動信号DPF
PRによって各ポンプ27F,27Rが回転駆動され
る。
【0038】一方、図2に戻って車両には、ステアリン
グホイール10の操舵角を検出する操舵角センサ41
と、車両の前後方向車速を検出する車速センサ42と、
車両に実際に発生しているヨーレートをヨーイング運動
量として検出するヨーレートセンサ43と、車両に発生
する横加速度を検出する横加速度センサ44と、アクセ
ルペダル39の踏込み量,即ちアクセル開度を検出する
アクセル開度センサ45と、各輪の車輪速を検出する車
輪速センサ46FL〜46RRと、これらのセンサから
の検出信号に基づいて前記駆動電流信号CSL ,CSR
を出力して前記流体圧シリンダ15L,15Rへのシリ
ンダ制御圧PSL,PSRを制御すると共に前記駆動信号P
FL〜PR を出力して前記各電磁方向切換弁26FL〜2
6Rの切換位置を制御し並びに駆動信号DPF,DPRを出
力して前記各ポンプ27F,27Rを制御するコントロ
ールユニット40とを備えてなる。
【0039】前記操舵角センサ41は、ステアリングホ
イール10の操舵角に応じ且つ当該ステアリングホイー
ル10を右切りしたときに正値,左切りしたときに負値
となる電圧出力からなる操舵角検出値θをコントロール
ユニット40に出力する。また、前記車速センサ42
は、車両前方車速に応じて正方向に増加する電圧出力か
らなる車速検出値Vをコントロールユニット40に出力
する。また、ヨーレートセンサ43は、実際に車両に発
生している実ヨーレートに比例し且つ右旋回で正値,左
旋回で負値となる電圧出力からなる実ヨーレート検出値
ψ’をコントロールユニット40に出力する。また、前
記横加速度センサ44は、車両に発生している横加速度
に比例し且つ右旋回時等に発生する左方向への横加速度
に対しては正値,左旋回時等に発生する右方向への横加
速度に対しては負値となる電圧出力からなる横加速度検
出値YG をコントロールユニット40に出力する。ま
た、前記アクセル開度センサ45は、アクセルペダル3
9の踏込み量の大きさに応じたディジタル値で0/8〜
8/8で表記されるアクセル開度検出値Accをコント
ロールユニット40に出力する。また、前記車輪速セン
サのうち,前左右輪速センサに相当する車輪速センサ4
6FL,46FRは夫々前左右輪9L,9Rのアクスル
シャフトに取付けられ、これらの車輪回転数に応じた周
波数の正弦波電圧信号からなる前左右輪速検出値V
FL,VwFRをコントロールユニット40に出力し、前
記後輪速センサに相当する車輪速センサ46RL,46
RRは前記左右各ドライブシャフト8L,8Rに取付け
られ、後左右輪6RL,6RRの回転数に応じた周波数
の正弦波電圧信号からなる後輪速検出値VwRL,VwRR
をコントロールユニット40に出力する。また、車両に
は図示されない車両前後方向加速度を検出する前後加速
度センサも取付けられており、後述するコントロールユ
ニット40に前後加速度検出値Xgを出力するものとす
る。
【0040】前記コントロールユニット40は、図5に
明示するように、主として前記駆動力配分可能な差動制
限制御装置のヨーレート追従制御に必要な演算処理を実
行するためのマイクロコンピュータ(以下,A−LSD
マイクロコンピュータとも記す)51と,主としてアン
チスキッド制御装置の車輪速追従制御に必要な演算処理
を実行するためのマイクロコンピュータ(以下,ABS
マイクロコンピュータとも記す)52とを備え、更に前
記A−LSDマイクロコンピュータ51からの目標電流
値制御信号SL ,SR に応じた前記駆動電流信号C
L ,CSR を供給して各比例電磁弁35L,35Rを
駆動する駆動回路53L,53R及び前記駆動制御信号
M に応じた前記駆動電流信号CSM を供給して前記ポ
ンプ32を駆動する駆動回路55と、前記ABSマイク
ロコンピュータ52からの制御信号S FL〜SR に応じて
前記駆動信号PFL〜PR を供給して前記アクチュエータ
ユニット23の電磁方向切換弁26FL〜26Rのソレ
ノイドを励磁する駆動回路54a〜54c及び制御信号
F ,MR に応じて前記駆動信号DMF,DMRを供給して
前記ポンプ27F,27Rを回転駆動する駆動回路54
d,54eとを備えている。
【0041】そして、前記A−LSDマイクロコンピュ
ータ51は、前記各センサからの検出信号を各検出値と
して読込むためのF/V変換機能や波形整形機能やA/
D変換機能等を有する入力インタフェース回路44a
と、マイクロプロセサユニット(MPU)等からなる演
算処理装置44bと、ROM,RAM等の記憶装置44
cと、前記演算処理装置44bで得られた差動制限トル
クTに応じた目標電流値制御信号SL ,SR を出力する
ためのD/A変換機能を有する出力インタフェース回路
44dとを備えている。このA−LSDマイクロコンピ
ュータ51では、主として後段に詳述する図7の演算処
理に従って,そのマイナプログラムである図示されない
個別の演算処理により、前記駆動輪である後左右輪6
L,6Rのうちの旋回外輪に相当する滑り速度を,前記
アクセルペダル39のアクセル開度検出値Accに応じ
た目標滑り速度に一致させるための前記各多板式クラッ
チ7L,7RによるクラッチトルクT1j(j=LorR)
を算出設定すると共に、同じくマイナプログラムである
図示されない個別の演算処理により、アクセルオフで所
望されるタックインが発生するように,前記各多板式ク
ラッチ7L,7Rによる車両の横加速度検出値YG と当
該車速検出値Vとに応じたタックイントルクT2jを算出
設定し、一方、基本的には前記操舵角検出値θ及び車速
検出値Vに基づいて車両で達成すべき目標ヨーレートψ
'*を算出設定し、前記目標ヨーレートψ'*と実ヨーレー
ト検出値ψ' とのヨーレート差Δψ' 並びにこれらを微
分して得た目標ヨー角加速度ψ"*と実ヨー角加速度ψ"
とのヨー角加速度差Δψ" を算出し,このヨー角加速度
差Δψ" に予め設定された微分制御ゲインK3 を乗じた
値と前記ヨーレート差Δψ' とを加算して,更に前記図
7の演算処理で設定された比例制御ゲインでもあるフィ
ードバック制御ゲインK2 を乗じた値の逆数から“1”
より小さい旋回内輪への内輪伝達駆動力比Ni を算出
し、この内輪伝達駆動力比Ni 及び相対的に“1”に設
定された旋回外輪への外輪伝達駆動力比No を,前記ク
ラッチトルクT1jとタックイントルクT2jとに乗じて差
動制限トルクTjを算出し、この差動制限トルクTj
達成するに足る目標電流値制御信号Sj を,前記各比例
電磁弁35L,35Rの比例電磁ソレノイド36L,3
6Rに向けて出力する。また、このA−LSDマイクロ
コンピュータ51では、各センサ41〜43やハーネ
ス,即ち結線の失陥,当該マイクロコンピュータ51の
各機能や演算処理の失陥,プログラムやデータ或いはそ
れらの通信バスの失陥,各アクチュエータである比例電
磁弁35L,35Rの失陥等を、既存の失陥検出手段を
具現化した図示されない演算処理で検出し、何らかの失
陥が検出されたときには,前記比例電磁弁35L,35
Rの制御を実行しない状態,即ち前記初期設定差動制限
トルクT0 のみを有するリミテッドスリップディファレ
ンシャルとして機能する状態に移行すると共に,少なく
とも当該失陥を表す論理値“1”のフェール信号F
A-LSD を前記ABSマイクロコンピュータ52に向けて
出力する。
【0042】そして、前記駆動回路53L,53Rは、
前記マイクロコンピュータ44から出力される目標電流
値制御信号SL ,SR を前記各比例電磁弁35L,35
Rの比例電磁ソレノイド36L,36Rへの駆動電流信
号CSL ,CSR に変換出力するためのものであり、前
述の図6bに示すように前記目標電流値制御信号SL
R を,それとリニアな駆動電流信号CSL ,CSR
変換出力する。
【0043】一方、前記ABSマイクロコンピュータ5
2は、前記各センサ44,46FL〜46RRからの検
出信号を各検出値として読込むための波形整形機能やF
/V変換機能やA/D変換機能等を有する入力インタフ
ェース回路52aと、マイクロプロセサ等の演算処理装
置52bと、ROM,RAM等の記憶装置52cと、前
記演算処理装置52bで得られたホイールシリンダ圧モ
ード制御信号SFL〜S R 及びポンプモータ制御信号
F ,MR をアナログ信号として出力するためのD/A
変換機能を有する出力インタフェース回路52dとを備
えている。このABSマイクロコンピュータ52では、
主として後段に詳述する図10の演算処理に従って,前
記各車輪速検出値Vwj (j=FL〜RR)を用いて例
えば後述する図12の演算処理に従って疑似車速Vi
算出し、合わせて各車輪加減速度V'w j を算出すると共
に、前記疑似車速Vi を用いて各輪のスリップ率Sj
算出し、前記各車輪加減速度V'wj が所定の負の車輪加
減速度閾値α以下となると高圧保持モードを選択し、更
に前記スリップ率Sj が基準スリップ率Sj0以上となる
と減圧モードを選択し、その後,前記各車輪加減速度
V'wj が所定の正の車輪加減速度閾値β以上となると低
圧保持モードを選択し、然る後,前記スリップ率S j
基準スリップ率Sj0より大きくなり且つ各車輪加減速度
V'wj が所定の正の車輪加減速度閾値βより小さくなる
と緩増圧モードを選択し、少なくとも前記緩増圧モード
が選択される条件下で前記アンチスキッド制御フラグA
Sをセットし、このアンチスキッド制御フラグASがリ
セットされているか又はアンチスキッド制御を行う必要
のないときに急増圧モードを選択して、ホイールシリン
ダ圧制御を行うが、前記論理値“1”のフェール信号F
A-LSD が供給されているときには前述のようにホイール
シリンダ圧の増減圧タイミングに係る基準スリップ率S
j0(j=FL〜R)を補正する。そして、前記ホイール
シリンダ圧モードが選択されると夫々に応じたホイール
シリンダ圧モード制御信号SFL〜SR が,図示されない
個別な演算処理によって形成出力され、また前記ホイー
ルシリンダ圧の減圧モードが選択されるとそれに応じた
ポンプモータ制御信号MF ,MR が,図示されない個別
な演算処理によって形成出力される。
【0044】そして、前記駆動回路54a〜54cは、
前記ABSマイクロコンピュータ52から出力されるホ
イールシリンダ圧モード制御信号SFL〜SR を前記各電
磁方向切換弁26FL〜26Rへの駆動電流パルス信号
FL〜PR に変換出力するためのものである。また、前
記駆動回路54d,54eは、前記ABSマイクロコン
ピュータ52から出力されるポンプモータ制御信号
F ,MR を前記各ポンプ27F,27Rのポンプモー
タへの回転駆動信号DMF,DMRに変換出力するためのも
のである。
【0045】それでは次に、本実施例の差動制限制御装
置でヨーイング運動量の追従対象となる,目標ヨーレー
ト並びに目標ヨー角加速度の算出原理について簡潔に説
明する。まず、目標ヨーイング運動量としての目標ヨー
レートψ'* 0 の二つの算出方法について説明する。
【0046】まず一つは、この目標ヨーレートψ'* 0
前述したように, 既知の車両運動方程式に従って車速
V,操舵角θを変数とし、車両諸元を係数として下記1
式で与えられる。 ψ'*=V/R R=KS ・L/ tan(θ/N) ……… (1) 但し、R:旋回半径,L:ホイルベース,N:ステアリ
ングギヤ比である。またKS:スタビリティファクタで
あり、このスタビリティファクタKS は旋回特性等に現
れる車両挙動安定性を示す係数であって,一般にスタビ
リティファクタKS が大きくなるほどステアリング特性
はアンダステア傾向であるとされる。
【0047】また、この目標ヨーレートψ'* 0 は定常ヨ
ーレートH0 を用いても算出することができる。一般
に、この定常ヨーレートH0 は車速V,操舵角θを変数
とし且つ前記スタビリティファクタKS ,ステアリング
ギヤ比N及びホイルベースLを係数として用いて下記2
式で与えられる。 H0 =V/(L・(1+KS 2 ))・(θ/N) ……… (2) そして、目標ヨーレートψ'* 0 はこの定常ヨーレートH
0 に対して一次遅れ時定数τを用いた一次遅れ系演算を
下記3式に従って行うことで得られることも既知であ
る。
【0048】 ψ'* 0 =H0 /(1+τs) ……… (3) 但し、sはラプラス演算子(ラプラシアン)を示す。こ
こで、前記1式又は2式及び3式に従って目標ヨーレー
トψ'* 0 を算出することは勿論可能なのであるが、演算
に係る負荷が相当のものになることは回避し難い。そこ
で、本実施例では、これらの算出式に従った操舵入力で
ある操舵角検出値θと目標ヨーレートψ'* 0 との相関
を,車速検出値Vをパラメータとする制御マップに示
し、当該読込まれた車速検出値Vに応じてこの制御マッ
プを線形補間して目標ヨーレートψ'* 0 を算出設定する
こととした。これによれば、少なくとも各算出式の複雑
な演算に係る演算負荷を軽減して,その処理時間を短縮
することが可能となる。
【0049】次に、本実施例のコントロールユニットの
A−LSDマイクロコンピュータで実行される基本的な
ヨーレート(ヨーイング運動量)フィードバックPD
(比例微分)制御の演算処理を図7のフローチャートに
従って説明する。この演算処理は所定サンプリング時間
ΔT(例えば10msec. )毎のタイマ割込によって実行
される。なお、後述するステップS105での前記旋回
外輪滑り速度対策クラッチトルクT1jの算出設定は、本
出願人が先に提案した特開平3−31030号公報に記
載される演算処理をマイナプログラムとして実行するこ
とで行われ、その詳細な内容は当該公報を参照されるも
のとしてここでは詳述しない。また、後述するステップ
S106での前記タックイン対策トルクT2jの算出設定
は、本出願人が先に提案した特開平3−31030号公
報に記載される演算処理をマイナプログムとして実行す
ることで行われ、その詳細な内容は当該公報を参照され
るものとしてここでは詳述しない。また、後述するステ
ップS107で算出設定される目標ヨーレートの今回値
ψ'* (n) は,前述した図示されないマップ検索等のマイ
ナプログラムに従って操舵或いは旋回の方向に関わらず
常時正値として設定されるものとし、しかしながら前述
のように検出される実ヨーレートψ' は旋回方向に応じ
て正負値となるために,前記目標ヨーレートの今回値ψ
'* (n) を旋回方向に応じた正負値に設定し直すものとす
る。また、前記A−LSDマイクロコンピュータ51の
記憶装置51cに更新記憶されている情報は,本演算処
理では特別に情報交信のステップを設けていないが,図
示されないデータバス等の通信路を通じて演算処理装置
51bのバッファ等と随時交信されているものとする。
【0050】この演算処理では、まずステップS101
で前記操舵角センサ41で検出された操舵角検出値(以
下,単に操舵角とも記す)θを読込む。次にステップS
102に移行して、前記車速センサ42で検出された車
速検出値(以下,単に車速とも記す)V,ヨーレートセ
ンサ43で検出された実ヨーレートの今回値ψ' (n)
読込む。
【0051】次にステップS103に移行して、前記ア
クセル開度センサ45で検出されたアクセル開度検出値
(以下,単にアクセル開度とも記す)Acc,後左右輪
速センサ46RL,46RRで検出された後左右輪速検
出値(以下,単に後左右輪速とも記す)VwRj(j=L
orR)を読込む。次にステップS104に移行して、前
記横加速度センサ44で検出された横加速度検出値(以
下,単に横加速度とも記す)YG を読込む。
【0052】次にステップS105に移行して、前記ス
テップS103で読込まれたアクセル開度Acc及び後
左右輪速VwRjを用いて,例えば前記特開平3−310
30号公報に記載される演算処理をマイナプログラムと
して実行することにより、前記旋回外輪滑り速度対策ク
ラッチトルクT1jを算出設定する。次にステップS10
6に移行して、前記ステップS103で読込まれたアク
セル開度Acc及び前記ステップS102で読込まれた
車速V及びステップS104で読込まれた横加速度YG
を用いて,例えば前記特開平3−31030号公報に記
載される演算処理をマイナプログラムとして実行するこ
とにより、前記タックイン対策トルクT2jを算出設定す
る。
【0053】次にステップS107に移行して、前述し
たマップ検索等のマイナプログラムによる演算処理に従
って目標ヨーレートの今回値ψ'* (n) を算出設定する。
次にステップS108に移行して、前記ステップS10
1で読込まれた操舵角θが“0”以上である,即ち左旋
回でないか否かを判定し、当該操舵角θが“0”以上で
あって右旋回であると考えられる場合にはステップS1
09に移行し、そうでない場合,即ち左旋回であると考
えられる場合にはステップS110に移行する。
【0054】前記ステップS109では、旋回内輪を示
す添字iを後右輪を示す添字Rに設定し,旋回外輪を示
す添字oを後左輪を示す添字Lに設定してからステップ
S111に移行する。前記ステップS111では、右旋
回で設定される目標ヨーレートの今回値ψ'* (n) は,前
記ステップS107で算出設定された正値の目標ヨーレ
ートの今回値ψ'* (n) のままでよいからこれを目標ヨー
レートの今回値ψ'* (n) に設定してからステップS11
2に移行する。
【0055】一方、前記ステップS110では、旋回内
輪を示す添字iを後左輪を示す添字Lに設定し,旋回外
輪を示す添字oを後右輪を示す添字Rに設定してからス
テップS113に移行する。前記ステップS113で
は、左旋回で設定される目標ヨーレートの今回値ψ'*
(n) は,前記ステップS107で算出設定された正値の
目標ヨーレートの今回値ψ'* (n) を負値に変更設定する
必要があるから、この負値に変更された目標ヨーレート
の今回値ψ'* (n) を目標ヨーレートの今回値ψ'* (n)
設定してから前記ステップS112に移行する。
【0056】前記ステップS112では、前記ステップ
S102で読込まれた実ヨーレートの今回値ψ' (n)
び前記記憶装置44cに更新記憶されている実ヨーレー
トの前回値ψ' (n-1) 及び所定サンプリング時間ΔTを
用いて下記4式に従って実ヨー角加速度ψ”を算出設定
する。なお、この実ヨー角加速度ψ”の算出設定は,下
記4式等の演算によらずとも,例えば適正なカットオフ
周波数に設定されたハイパスフィルタ処理等による微分
演算処理によっても得ることができる。
【0057】 ψ”=(ψ' (n-1) −ψ' (n) )/ΔT ……… (4) 次にステップS114に移行して、前記ステップS11
1又はステップS113で設定された目標ヨーレートの
今回値ψ'* (n) 及び前記記憶装置44cに更新記憶され
ている目標ヨーレートの前回値ψ'* (n-1) 及び所定サン
プリング時間ΔTを用いて下記5式に従って目標ヨー角
加速度ψ"*を算出設定する。なお、この目標ヨー角加速
度ψ"*の算出設定は,下記5式等の演算によらずとも,
例えば適正なカットオフ周波数に設定されたハイパスフ
ィルタ処理等による微分演算によっても得ることができ
る。
【0058】 ψ"*=(ψ'* (n-1) −ψ'* (n) )/ΔT ……… (5) 次にステップS115に移行して、前記ステップS11
1又はステップS113で設定された目標ヨーレートの
今回値ψ'* (n) 及び前記ステップS102で読込まれた
実ヨーレートの今回値ψ' (n) を用いて下記6式に従っ
てヨーレート差Δψ' を算出設定する。
【0059】 Δψ' =|ψ'* (n) −ψ' (n) | ……… (6) 次にステップS116に移行して、前記ステップS11
2で算出設定された実ヨー角加速度ψ”及び前記ステッ
プS114で算出設定された目標ヨー角加速度ψ"*を用
いて下記7式に従ってヨー角加速度差Δψ”を算出設定
する。 Δψ”=|ψ"*−ψ”| ……… (7) 次にステップS117に移行して、前記ステップS11
5で算出設定されたヨーレート差Δψ' 並びに比例係数
を兼ねる所定のフィードバック制御ゲインK2及び前記
ステップS116で算出設定されたヨー角加速度差Δ
ψ”並びに微分係数K3 を用いて下記8式に従って内輪
伝達駆動力比Ni を算出設定する。
【0060】 Ni =1/(K2 (Δψ' +K3 ・Δψ”)) ……… (8) 次にステップS118に移行して、旋回内輪を示す添字
iが後右輪を示す添字Rであるか否かを判定し、当該旋
回内輪を示す添字iが後右輪を示す添字Rである場合に
はステップS119に移行し、そうでない場合,即ち旋
回内輪を示す添字iが後左輪を示す添字Lである場合に
はステップS120に移行する。
【0061】前記ステップS119では、左輪伝達駆動
力比NL を“1”に設定すると共に右輪伝達駆動力比N
R を前記ステップS117で算出された内輪伝達駆動力
比N i に設定してからステップS121に移行する。前
記ステップS120では、右輪伝達駆動力比NR
“1”に設定すると共に左輪伝達駆動力比NL を前記ス
テップS117で算出された内輪伝達駆動力比N i に設
定してから前記ステップS121に移行する。
【0062】前記ステップS121では、前記ステップ
S105で算出設定された滑り速度対策クラッチトルク
1j及びステップS106で算出設定されたタックイン
対策トルクT2j及び前記ステップS119又はステップ
S120で設定された各輪伝達駆動力比Nj (j=Lor
R)を用いて,下記9式に従って後左右輪6L,6Rへ
の差動制限トルクTj を算出設定する。
【0063】 Tj =Nj (T1j+T2j) ……… (9) 次にステップS122に移行して、前記ステップS12
1で算出設定された差動制限トルクTj を達成するに足
る各比例電磁弁35L,35Rの比例電磁ソレノイド3
6L,36Rへの目標電流値Sj を,例えば前記図6の
制御マップ等に従って設定する。
【0064】次にステップS123に移行して、前記ス
テップS122で設定された目標電流値Sj を,前記各
比例電磁弁35L,35Rの比例電磁ソレノイド36
L,36Rへの制御信号として出力する。次にステップ
S124に移行して、前記実ヨーレートの今回値ψ'
(n) を実ヨーレートの前回値ψ' (n-1) として,前記目
標ヨーレートの今回値ψ'* (n) を目標ヨーレートの前回
値ψ'* (n-1) として,夫々前記記憶装置44cの所定記
憶領域に更新記憶してからメインプログラムに復帰す
る。
【0065】この図7に示す演算処理によれば、例えば
前記ステップS106で算出設定されるタックイン対策
トルクT2jが“0”であり且つステップS117で算出
設定される内輪伝達駆動力比Ni が“1”であるとし
て、前記ステップS105で算出設定される滑り速度対
策クラッチトルクT1jは、旋回の内外輪速差を許容し且
つアクセル開度Accに相当する滑り速度,即ち伝達し
たい駆動力によるトラクションロスを許容する程度の値
となり、結果的に後左右各輪6L,6Rのスリップ率が
これらの許容スリップ率を越えない程度の差動制限トル
クTj が算出設定され、この差動制限トルクTj を達成
するに足る目標電流値制御信号Sj が出力される。従っ
て、この目標電流値制御信号Sj とリニアな駆動電流信
号CSj が駆動回路53jから比例電磁弁35jの比例
電磁ソレノイド36jに供給されるから、前記左右各多
板式クラッチ7L,7Rの流体圧シリンダ15L,15
Rへのシリンダ制御圧PSjは,当該左右各多板式クラッ
チ7L,7Rに前記滑り速度対策クラッチトルクT1j
生じせしめ、もって後左右各輪6L,6Rのスリップ率
が前述の許容スリップ率を越えない程度に制御される。
従って、路面摩擦係数状態(単に,路面μとも記す)の
変化によって駆動後左右輪6L,6Rに過大なスリップ
が発生しても,前記滑り速度対策クラッチトルクT1j
より最適なスリップが達成される,所謂トラクションコ
ントロールが実行される。
【0066】また、前記ステップS105で算出設定さ
れる滑り速度対策クラッチトルクT 1jが“0”であり且
つステップS117で算出設定される内輪伝達駆動力比
iが“1”であるとして、前記ステップS106で算
出設定されるタックイン対策トルクT2jは、旋回走行中
で横加速度YG が作用している状態でのアクセルオフ時
に,急激に回復する後輪のコーナリングフォースによっ
て、車両に強いアンダステア方向へのステアリング特性
変化が発生しない程度の値となり、結果的に後左右各輪
6L,6Rのコーナリングフォースが,急激に増大しな
い程度の差動制限トルクTj が算出設定され、この差動
制限トルクTj を達成するに足る目標電流値制御信号S
j が出力される。従って、この目標電流値制御信号Sj
とリニアな駆動電流信号CSj が駆動回路53jから比
例電磁弁35jの比例電磁ソレノイド36jに供給され
るから、前記左右各多板式クラッチ7L,7Rの流体圧
シリンダ15L,15Rへのシリンダ制御圧PSjは,当
該左右各多板式クラッチ7L,7Rに前記タックイン対
策トルクT2jを生じせしめ、もって後左右各輪6L,6
Rのコーナリングフォースが前述の強アンダステア方向
にならない程度に制御される。
【0067】一方、前記操舵角の絶対値|θ|が比較的
小さな値に設定された近似直進走行閾値以下である,即
ち目標ヨーレートの今回値の絶対値|ψ'* (n) |がほぼ
零であり、同時に操舵入力が小さい結果として実ヨーレ
ートの今回値の絶対値|ψ' (n) |が比較的小さな値に
設定されたヨーレート収束閾値以下であるような場合に
は、前記ステップS105で算出設定される滑り速度対
策クラッチトルクT1j及び前記ステップS106で算出
設定されるタックイン対策トルクT2jは一定値であると
して、前記ステップS117〜ステップS119で算出
設定される内外輪伝達駆動力比Ni ,No は“1”又は
ほぼ“1”となり、結果的に後左右両輪6L,6Rへの
差動制限トルクTj は同等又はほぼ同等の値となるか
ら、この差動制限トルクTj を達成するに足る目標電流
値制御信号Sj が出力される。従って、この目標電流値
制御信号Sj とリニアな駆動電流信号CSj が駆動回路
53jから比例電磁弁35jの比例電磁ソレノイド36
jに供給されるから、前記左右各多板式クラッチ7L,
7Rの流体圧シリンダ15L,15Rへのシリンダ制御
圧PSjは,当該左右各多板式クラッチ7L,7Rに同等
の差動制限トルクTjを生じせしめ、もって近似直進走
行における路面凹凸や横風等の外乱に対しては車両のス
テアリング特性がアンダステア方向となって走行安定性
が向上する。
【0068】一方、前記操舵角の絶対値|θ|が比較的
小さな値に設定された近似直進走行閾値より大きくなる
と、ステップS107で目標ヨーレートの今回値の絶対
値|ψ'* (n) |が発生し、ヨーレートフィードバック制
御が開始される。ここで、前記ステップS107で適正
な正値の目標ヨーレートの今回値ψ'* (n) が設定される
と、これをステップS108からステップS111又は
ステップS113で旋回の方向に合わせて符号を合致さ
せると共に,ステップS119又はステップS110で
旋回内輪と旋回外輪とが設定されることになる。次いで
ステップS112からステップS120では,旋回外輪
に相当する伝達駆動力比No は“1”に設定され,旋回
内輪に相当する伝達駆動力比Ni は前記8式に従ってヨ
ーレート差Δψ' 及びヨー角加速度差Δψ”に応じた
“1”より小さな値に設定され、ステップS121では
ヨーレートを追従するに足る旋回内外輪への各差動制限
トルクTj が算出設定される。
【0069】従って、続くステップS122でこの各差
動制限トルクTj に応じた目標電流値Sj を算出設定
し、この目標電流値Sj を各駆動回路46L,46Rに
制御信号として出力すれば、各駆動回路46L,46R
からはその目標電流値制御信号Sj に応じた駆動電流信
号CSL ,CSR が各比例電磁弁35L,35Rの比例
電磁ソレノイド36L,36Rに出力されて前記差動制
限トルクTj が達成されることになるから、結果的に前
記目標ヨーレートの今回値ψ'* (n) に対するフィードバ
ックPD制御が実行されることになる。ここで、既知の
ようにヨーレートを微分して得られたヨー角加速度は,
複素平面において位相が約90°進んでいる。逆に言え
ば,ヨーレートはヨー角加速度に対して位相が約90°
遅れていることになる。従って、前記内輪伝達駆動力比
i の算出に用いられるヨー角加速度差Δψ" は制御の
応答性を高め,ヨーレート差Δψ' は制御の応答性を低
くすることになるから、車両に所望される制御の応答性
に応じて,例えばヨーレート差Δψ' に掛かる比例係数
(ここでは後述するようにフィードバック制御ゲインと
しても用いる)K2 を適正に設定し、更にヨー角加速度
差Δψ" に対してこのフィードバック制御ゲインK2
相乗される微分係数(全体でフィードバック制御微分ゲ
インとなる)K3 を予め設定すればよい。
【0070】以上より、通常の転舵旋回中にあって,後
述するように操舵角θや車速Vに応じた適正な目標ヨー
レートの今回値ψ'* (n) が設定され、これを旋回の方向
に合致させた目標ヨーレートの今回値ψ'* (n) の絶対値
に対して車両で発生している実ヨーレートの今回値ψ'
(n) の絶対値が小さいような場合や,それらより更に位
相の進んだ目標ヨー角加速度ψ"*の絶対値に対して車両
で発生している実ヨー角加速度ψ”が小さいような場合
には、ヨーモーメントを助長するなどしてヨーイング運
動を加速する必要があるが、このような場合に前記ステ
ップS117の前記8式で算出設定される内輪伝達駆動
力比Ni はより小さな値となる。従って、前述のフィー
ドバック制御によって達成された差動制限トルクTj
よる旋回内輪の伝達駆動力比Ni は,旋回外輪の伝達駆
動力比No (=1である)に対して相応に小さくなるか
ら、旋回外輪に相当する何れかの駆動後左右輪6L又は
6Rの駆動力は,旋回内輪に相当する何れかの駆動後右
左輪6R又は6Lに対して相対的に大きくなり、前述の
ようにヨーモーメントが助長されて実ヨーレートや実ヨ
ー角加速度が大きくなり、ヨーイング運動が加速され
る。逆に、目標ヨーレートの今回値ψ'* (n) の絶対値に
対して車両で発生している実ヨーレートの今回値ψ'
(n) の絶対値が大きいような場合や,それらより更に位
相の進んだ目標ヨー角加速度ψ"*の絶対値に対して車両
で発生している実ヨー角加速度ψ”が大きいような場合
には、ヨーモーメントを抑制するなどしてヨーイング運
動を減速する必要があるが、このような場合に前記ステ
ップS117の前記5式で算出設定される内輪伝達駆動
力比Ni はより大きな値となる。従って、前述のフィー
ドバック制御によって達成された差動制限トルクTj
よる旋回内輪の伝達駆動力比Ni は,旋回外輪の伝達駆
動力比No (=1である)に対して相応に大きくなるか
ら、旋回外輪に相当する何れかの駆動後左右輪6L又は
6Rの駆動力は,旋回内輪に相当する何れかの駆動後右
左輪6R又は6Lに対して相対的に小さくなり、前述の
ようにヨーモーメントが抑制されて実ヨーレートや実ヨ
ー角加速度が小さくなり、ヨーイング運動が減速され
る。
【0071】更に本実施例では、一般に操舵入力に対し
て一次遅れで発生すると考えられる実ヨーレートの今回
値ψ' (n) と目標ヨーレートの今回値ψ'* (n) との偏
差,即ち前記ヨーレート差Δψ' の極性が変わるような
操舵方向の切り替え時にあっても、これより位相の進ん
だヨー角加速度差Δψ" を用いて切り替わった旋回内輪
の伝達駆動力比Ni を算出設定しているために、前述の
ように微分係数K3 を適切に設定することで発現すべき
ヨーイング運動の方向を旋回又は操舵の方向に比較的速
やかに合致させることができる。
【0072】このようなヨーイング運動量追従制御のう
ち,例えば転舵旋回中の制動によるヨーイング運動の変
化について考察してみると、制動時の車両慣性によって
当該車両荷重が前方に移動するのは既知であるから、当
該制動中の前輪の摩擦力と等価な総グリップ力は大きく
なり、後輪の総グリップ力は小さくなる。そして、車両
は転舵旋回中であるから,前記制動中の前後輪のグリッ
プ力の変動に伴って、前輪のコーナリングフォースは増
加することになり,後輪のコーナリングフォースは減少
することになる。なお、これと同様に,転舵旋回中の遠
心力,具体的には車両に発生する横加速度によって、旋
回外輪に相当する車輪と旋回内輪に相当する車輪との間
でもコーナリングフォースの増減が発生していることは
周知である。
【0073】従って、転舵旋回中に制動力が発生する
と,図8に示すように車両に発生しているヨーモーメン
トが助長されてステアリング特性がオーバステア方向に
変化する(図ではこれをオーバステアモーメントと表し
ている)。また一般に、或る車速以上の転舵旋回時にお
いて車両重心点の横すべり角を基準にすると,前輪の横
すべり角は旋回の内側に向いており,後輪の横すべり角
は旋回の外側に向いており、前記制動による前後輪のグ
リップ力変動が,各輪の回転に伴う推力を変化させると
考えれば、前述と同様に車両重心点回りに作用するヨー
モーメントが助長されてステアリング特性がオーバステ
ア方向に変化する。このとき、車両で発生しているヨー
レートやヨー角加速度等の実ヨーイング運動量は,本来
車両で達成すべき前記目標ヨーレートや目標ヨー角加速
度等の目標ヨーイング運動量よりも大きくなっているか
ら、前記差動制限制御装置等のヨーイング運動量制御装
置では図8に示すように旋回内外輪での駆動力配分に相
対偏差を設けることによって旋回外輪に制動力が作用す
るように制御量が発生し、その結果,車両で発生する実
ヨーイング運動量を小さくする方向,即ちステアリング
特性をアンダステア方向に変化させる力(図ではオーバ
ステアモーメントを打ち消す力と表している)が発生し
て,前記制動によるヨーモーメントの助長が抑制されて
車両の過渡的な旋回特性が安定する。
【0074】それでは、前記差動制限制御装置によるヨ
ーイング運動量制御装置がフェールしてしまったとき
に,本実施例で実行されるアンチスキッド制御の基本原
理について説明する。前述のように本実施例の前記差動
制限制御装置によるヨーイング運動量制御装置は、自己
のフェールセーフが通常の差動装置としてのみ作用する
ように設定されているため、このヨーイング運動量制御
装置がフェールすると,前述のような転舵旋回中の制動
時に、車両前方への荷重移動に伴って発生する車両ステ
アリング特性をオーバステア方向に変化させるヨーモー
メントの助長作用が抑制防止されないから、転舵旋回中
に制動するときとしないときとで車両の過渡的な旋回特
性が変化してしまう。
【0075】そこで、本発明のアンチスキッド制御装置
では、このようなヨーイング運動量制御装置のフェール
時に,各輪の制動力を意図的に変化させ、これにより前
記ヨーモーメントの助長を抑制防止するための車両ステ
アリング特性をアンダステア方向に変化させるモーメン
トを発生させる。ここで、車両のステアリング特性をア
ンダステア方向に変化させるための各輪の制動力を,車
両の走行安定性向上という作用効果も合わせて考察す
る。
【0076】まず、既知のように後輪のグリップ力は車
両の走行安定性に寄与しているし、また転舵旋回中に当
該後輪のコーナリングフォースを前輪のそれに比して相
対的に大きくすれば,ヨーモーメントは抑制方向に変化
して車両のステアリング特性もアンダステア方向になろ
う。しかし、この後輪では制動時に車両前方に荷重移動
が発生して当該輪荷重も小さくなっていると考えられる
から、摩擦円の概念にも通じる制動力によるトラクショ
ンロスを小さくしなければ,当該後輪のグリップ力の確
保もコーナリングフォースの相対的な増加も達成し得な
い。そこで、後輪への制動力を小さくすることにする。
この後輪への制動力を小さくすることによるグリップ力
の確保は,転舵旋回中でなくとも,車両の走行安定性を
向上することができるから、特に操舵入力がなく且つ路
面凹凸等によって車両のヨーレートやヨー角加速度等の
ヨーイング運動量が発生したときにも,アンダステア方
向への制御量を発生していた前記差動制限制御装置によ
るヨーイング運動量制御装置がフェールした場合には有
効であろう。
【0077】また、前輪コーナリングフォースを後輪の
それに比して相対的に小さくすれば,ヨーモーメントは
抑制方向に変化して車両のステアリング特性もアンダス
テア方向になるから、摩擦円の概念から当該前輪の制動
力は大きくする。このとき、当該前輪への制動力の増加
量の大きさは,前記後輪への制動力の減少量の大きさと
同等にする必要があり、そのようにしないと前後輪での
制動力の総和が変化して制動距離が確保できなくなる虞
れがあると共に,運転者によるブレーキペダルの踏込み
量とも相違が発生して運転者に違和感を与える虞れもあ
る。なお、この前後輪間の制動力差は,乗員数や積載重
量等により前後輪間で輪荷重の変化がない限り,旋回の
方向を考慮する必要はない。
【0078】一方、左右輪については旋回の内外輪とし
て捉える。即ち、制動力差が路面を介して車両重心点回
りのヨーモーメントの偶力になると考えれば、旋回外輪
の制動力を大きくすること,旋回内輪の制動力を小さく
することは、共にヨーモーメントを抑制する方向に作用
して車両のステアリング特性はアンダステア方向に変化
する。この旋回外輪への制動力の増加量の大きさと,旋
回内輪への制動力の減少量の大きさとも、前述と同様の
理由から同等にする必要がある。なお、本実施例のアン
チスキッド制御装置では,後左右輪の制動力を旋回方向
に応じて個別に制御することができないから、前記旋回
内外輪間の制動力差は前左右輪間だけで発生させる。ま
た、近似直進走行時にも発生している運転者による微妙
な操舵入力に対して、その操舵入力の方向から旋回を判
定して前記旋回内外輪間の制動力差を発生することは,
或る意味では走行安定性を向上することができるのだ
が、本実施例では後述する旋回初期の回頭性或いは操縦
性の確保も合わせて,この近似直進走行時の走行安定性
については前記前後輪間の制動力差で得るものとする。
また、本実施例では前述のように前後輪間の制動力差に
よって全体的な制動時の走行安定性が高くなっているた
めに,旋回初期には敢えて前記旋回内外輪間の制動力差
を与えずに回頭性或いは操縦性を確保するものとする。
【0079】さて、このように前記差動制限制御装置か
らなるヨーイング運動量制御装置のフェール時における
各輪への制動力が設定されると、これをアンチスキッド
制御装置で具体的に発現するための手段が必要になる。
前述のように、アンチスキッド制御装置によるホイール
シリンダ圧の増減圧制御は,基本的に当該制御対象輪の
スリップ率が基準スリップ率を越えると減圧し,これに
より当該車輪のスリップ率が基準スリップ率を越えてい
ないことを条件として増圧する。従って、この基準スリ
ップ率を大きくすることは減圧の開始タイミングを遅く
したり,或いは増圧の開始タイミングを早くしたりする
ことになるから、当該基準スリップ率を大きく設定され
た車輪への制動力は全体として大きくなる。一方、基準
スリップ率を小さくすることは減圧の開始タイミングを
早くしたり,或いは増圧の開始タイミングを遅くしたり
することになるから、当該基準スリップ率を小さく設定
された車輪への制動力は全体として小さくなる。そこ
で、本発明では前記ヨーイング運動量制御装置のフェー
ル時の各制御対象輪への制動力を達成するために,この
基準スリップ率を変化させる。具体的には、後輪の基準
スリップ率SR0を前後輪間基準スリップ率補正量ΔSfr
だけ小さくし、前左右輪の基準スリップ率SFL 0 ,S
FR0 は共に前後輪間基準スリップ率補正量ΔSfrだけ大
きくする。一方、前左右輪の基準スリップ率SFL0 ,S
FR0 のうち旋回内輪に相当する前旋回内輪SFi0 (i=
LorR)は前回内外輪間基準スリップ率補正量ΔSio
け小さくし、旋回外輪に相当する前旋回外輪SFo0 (o
=LorR)は前回内外輪間基準スリップ率補正量ΔSiO
だけ大きくする。これらを総括すると,各輪の基準スリ
ップ率SFL0 ,SFR0 ,SR0は下記11’式〜13’式
で与えられる。
【0080】 SFo0 =SFo00+ΔSfr+ΔSio ……… (11') SFi0 =SFi00+ΔSfr−ΔSio ……… (12') SR0 =SR00 −ΔSfr ……… (13') 但し、右辺の基準スリップ率基準値SFi00,SFo00,S
R00 (i=LorR,o=RorL)は,初期設定された値
であり、例えば通常の空気入りゴムタイヤで制動距離や
舵取り効果を確保できるスリップ率が10〜30%程度
とされているから,これらを例えば15%程度の所定値
としてもよい。
【0081】更に本実施例では、この補正された基準ス
リップ率Sj0(j=FL〜RR)によって前述のような
制動力特性を得なければならない。即ち、近似直進走行
時にあっては前後輪間の制動力差だけが発現するとか,
旋回初期には旋回内外輪間の制動力差が発生しないと
か、或いはヨーイング運動は車両の自転旋回であるから
この旋回の深さや強さが大きくなったときには,前記車
両ステアリング特性をアンダステア方向に変化させるヨ
ーモーメントの抑制力を大きくしなければならないか
ら、前記各制動力差はより大きくならなければならな
い。従って、これらは旋回の深さとか強さといった旋回
状態に応じて設定可能であることが分かるが、実質的な
制御ではこれらを旋回の速さとか大きさといった単位の
旋回状態検出値で制御しなければならない。そこで、本
実施例ではこの旋回状態検出値として前記横加速度セン
サ44で検出された横加速度検出値(以下,単に横加速
度とも記す)YG を用い、この横加速度YG の大きさに
応じて,前記各基準スリップ率補正量ΔSfr,ΔSiO
設定する。既知のように、横加速度は、ヨーイング運動
によって旋回に移行した結果,発生するものであり、深
い或いは強い旋回状態では大きくなり、浅い或いは弱い
旋回状態では小さくなる。また、この旋回の深さや強さ
にはタイヤと路面との摩擦係数状態も関与しているが、
横加速度を用いればこの摩擦係数状態も反映して旋回の
深さや強さを検出することができる。更に、横風や路面
凹凸等によって車両に横加速度が発生した場合にも,そ
れを打ち消す方向へのヨーモーメントを発生させること
が可能となろう。
【0082】そして、前記横加速度YG に応じた各基準
スリップ率補正量ΔSfr,ΔSiOの設定は,図9の横加
速度−基準スリップ率補正量相関からなる制御マップに
従って行う。このうち、前後輪間基準スリップ率補正量
ΔSfrは、旋回の方向,即ち横加速度YG の正負に基本
的に依存せず且つ前述のように近似直進走行状態を含む
旋回の浅い或いは弱い状態で前後輪間に制動力差を与え
て走行安定性を向上する必要があることから、横加速度
G が絶対値の比較的小さな負の横加速度所定値(−Y
G2)以上で正の横加速度所定値YG2以下の領域では,比
較的小さな正の補正量所定値ΔSfr0 に設定され、横加
速度YG が絶対値の比較的大きな負の横加速度所定値
(−YG3)以下或いは正の横加速度所定値YG3以上の領
域では,比較的大きな正の補正量所定値ΔSfr1 に設定
され、横加速度YG が前記所定値(−YG3)から所定値
(−YG2)までの間或いは前記所定値YG2から所定値Y
G3までの間では,前記所定値ΔSfr0 と所定値ΔSfr1
との間でリニアに増減する値に設定される。一方、前記
旋回内外輪間基準スリップ率補正量ΔSioは、旋回の方
向,即ち横加速度YG の正負に依存し且つ前述のように
近似直進走行状態を含む旋回初期状態で旋回内外輪間に
制動力差を発生させずに回頭性或いは操縦性を確保する
必要があることから、横加速度YG が絶対値の比較的小
さな負の横加速度所定値(−YG1)以上で正の横加速度
所定値YG1以下の領域では,“0”に設定され、横加速
度YG が絶対値の比較的大きな前記負の横加速度所定値
(−Y G3)以下の領域では,絶対値の比較的大きな負の
補正量所定値(−ΔSio1 )に設定され、絶対値の比較
的大きな前記正の横加速度所定値YG3以上の領域では,
絶対値の比較的大きな正の補正量所定値ΔSio1 に設定
され、横加速度YG が前記所定値(−YG3)から所定値
(−YG1)までの間では,前記所定値(−ΔSio 1 )と
“0”との間でリニアに増減する値に設定され、前記所
定値YG1から所定値YG3までの間では,“0”と所定値
ΔSio1 との間でリニアに増減する値に設定される。従
って、前記検出される横加速度YG の正負と旋回方向と
を一致させたこれらの各基準スリップ率補正量ΔSfr
ΔSioを用いれば、前記11’式〜13’式は夫々下記
11式〜13式に置換される。
【0083】 SFL0 =SFL00+ΔSfr+ΔSio ………(11) SFR0 =SFR00+ΔSfr−ΔSio ………(12) SR0 =SR00 −ΔSfr ………(13) なお、これらの各基準スリップ率補正量ΔSfr,ΔSio
の上下限値に相当する前記各補正量所定値ΔSfr1
(−ΔSio1 ),ΔSio1 は、特にこれらの基準スリッ
プ率補正量ΔSfr,ΔSioによって補正された基準スリ
ップ率SFL0 ,S FR0 ,SR0が大きくなって当該車輪へ
の制動力が増加したときでも,前述したような制動距離
や舵取り効果が悪化しない程度の値に設定してある。
【0084】次いで、このように設定された基準スリッ
プ率Sj0(j=FL〜R)を用いたアンチスキッド制御
の説明の前に、こうしたアンチスキッド制御に用いられ
る疑似車速の算出原理並びにその演算処理と作用を簡潔
に説明する。前述のように、車輪のスリップ率を算出す
るためには車体速を用いなければならないが、既知のよ
うにインストゥルメントパネル等に表示される車速は,
例えばトランスミッションの出力軸回転数(回転速度)
を車輪速に変換したものである。ところが、このような
トランスミッションの出力軸回転数(回転速度)から得
られる車輪速は,所謂駆動輪速であって、当該駆動輪に
は駆動力が付与されているからその駆動力に伴うトラク
ションロスによってスリップが発生する虞れがあり、そ
のような場合には検出される車体速(駆動輪速)と実際
の車体速とが異なる虞れがある。また、アンチスキッド
制御装置は制動中に作動するものであるから、単に従動
輪速を用いただけでは,当該従動輪への制動力に伴うト
ラクションロスによってスリップが発生する虞れがあ
り、そのような場合には検出される車体速(従動輪速)
と実際の車体速とが異なる虞れがある。車両の制動に係
る制御は,可及的に正確であることが望まれるから、こ
れらの車輪速を単一に車体速に置換することは誤差の面
から避けたほうがよい。
【0085】そこで、本実施例では図10に示す演算処
理を行って車体速の推定を行い、この推定された車体速
を疑似車速Vi として用いる。この演算処理は、前記コ
ントロールユニット40のABSマイクロコンピュータ
52で実行される後述の図11の演算処理のステップS
2で実行されるマイナプログラムであって,具体的には
本出願人が先に提案した特開平4−27650号公報等
にハード構成されたものをソフト化したものであると考
えればよい。なお、前記図11の演算処理は,当該AB
Sマイクロコンピュータ52で所定時間ΔT毎のタイマ
割込によって実行される。また、演算処理中,疑似車速
ホールドタイマカウンタCNTViのカウントアップ値で
ある所定カウント値CNTVi0 は,所定時間T3 が経過
したことを意味する。
【0086】この演算処理ではまず、ステップS201
で疑似車速ホールドタイマカウンタCNTViが所定カウ
ント値CNTVi0 以上であるか否かを判定し、当該タイ
マカウンタCNTViが所定カウント値CNTVi0 以上で
ある場合にはステップS202に移行し、そうでない場
合にはステップS203に移行する。前記ステップS2
03では、前記タイマカウンタCNTViをインクリメン
トしてからメインプログラムに復帰する。
【0087】前記ステップS202では、前記各車輪速
センサ46FL〜46Rで検出された車輪速検出値(以
下,単に車輪速とも記す)Vwj (j=FL〜R)のう
ちの最大車輪速をセレクトハイ車輪速VwH として選出
してからステップS204に移行する。前記ステップS
204では、前記記憶装置52cに更新記憶されている
疑似車速Vi を用いて,前記ステップS202で選出さ
れたセレクトハイ車輪速VwHが,不感帯閾値として設
定される当該疑似車速Vi の上下1km/hの範囲内にある
か否かを判定し、当該セレクトハイ車輪速VwH が疑似
車速Vi の上下1km/hの範囲内にある場合にはステップ
S205に移行し、そうでない場合にはステップS20
6に移行する。
【0088】前記ステップS205では、前記疑似車速
ホールドタイマカウンタCNTViをクリアしてからステ
ップS207に移行する。前記ステップS207では、
疑似車速補正加速度Xg0 を±0g(g:gravity ,重
力加速度)に設定してからステップS208に移行す
る。前記ステップS206では、前記ステップS202
で選出されたセレクトハイ車輪速VwH が,前記不感帯
閾値として設定される当該疑似車速Vi の上限値以上で
あるか否かを判定し、当該セレクトハイ車輪速VwH
疑似車速Vi の上限値以上である場合にはステップS2
09に移行し、そうでない場合にはステップS210に
移行する。
【0089】前記ステップS209では、前記疑似車速
補正加速度Xg0 を+ 0.4gに設定してから前記ステッ
プS208に移行する。前記ステップS210では、前
記図11の演算処理の前回演算時に選択されたホイール
シリンダ圧制御モードが減圧モードであるか否かを判定
し、当該減圧モードが選択されていた場合にはステップ
S211に移行し、そうでない場合にはステップS21
2に移行する。
【0090】前記ステップS211では、前記疑似車速
補正加速度Xg0 を+10gに設定してから前記ステップ
S208に移行する。前記ステップS212では、前記
図示されない前後加速度センサで検出された前後加速度
検出値(以下,単に前後加速度とも記す)Xgを用い
て,前記疑似車速補正加速度Xg0 を,(−Xg− 0.3
g)に設定してから前記ステップS208に移行する。
【0091】前記ステップS208では、下記14式に
従って疑似車速Vi を算出してからメインプログラムに
復帰する。なお、右辺の疑似車速Vi は前記記憶装置5
2cに更新記憶されている最新の疑似車速Vi である。
また、右辺の積分値∫Xg0は時間0〜ΔTまでの疑似
車速補正加速度Xg0 の時間積分値である。 Vi =Vi +∫Xg0 ………(14) 従って、この演算処理による疑似車速Vi の設定の詳細
については,前記特開平4−27650号公報を参照さ
れるとしてその作用を簡潔に説明すると、通常の増速時
にあっては,セレクトハイ車輪速VwH を初期値として
所定時間T3 毎に疑似車速Vi をオフセット量である
0.4gずつ増速し、この疑似車速Vi がほぼセレクトハ
イ車輪速VwH に一致したときから,再び疑似車速Vi
を当該セレクトハイ車輪速VwH に設定して所定時間T
3 維持する。一方、通常の減速時,即ち前記ホイールシ
リンダ圧増減圧制御によって当該ホイールシリンダ圧が
減圧されていないときには、セレクトハイ車輪速VwH
を初期値として所定時間T3毎に疑似車速Vi を,前後
加速度Xgにオフセット量である 0.3gを加えた分だけ
減速し、この疑似車速Vi がほぼセレクトハイ車輪速V
H に一致したときから,再び疑似車速Vi を当該セレ
クトハイ車輪速VwH に設定して所定時間T3維持す
る。また、前記ホイールシリンダ圧増減圧制御によって
当該ホイールシリンダ圧が減圧されているときには、セ
レクトハイ車輪速VwH を初期値として所定時間T3
に疑似車速Vi をオフセット量である10gずつ増速し、
この疑似車速Vi がほぼセレクトハイ車輪速VwH に一
致したときから,再び疑似車速Viを当該セレクトハイ
車輪速VwH に設定して所定時間T3 維持する。なお、
これらのオフセット量は,増減速される疑似車速Vi
セレクトハイ車輪速VwH に一致するために設定された
所定値である。
【0092】以上の発明原理に基づいて、前記コントロ
ールユニット40のABSマイクロコンピュータ52で
実行される制動圧制御の演算処理を,図11のフローチ
ャートに基づいて、また一般的なアンチスキッド制御の
作用を図12の制動圧制御特性曲線に基づいて説明す
る。この制動圧制御処理は、所定時間,例えば3.3m
sec.毎のタイマ割込処理として実行され、ASはアンチ
スキッド制御フラグ,Tは減圧タイマを示し、これらは
キースイッチのオンによる電源投入時及び前回のアンチ
スキッド制御の終了時にステップS14からステップS
19に移行して“0”にリセットされる。
【0093】即ち、図11の処理が開始されると,先ず
ステップS1で各車輪速センサ46j(j=FL〜R
R)で検出された現在の車輪速Vwj を読込む。なお、
後輪速VwR については,後左右輪速VwRL,VwRR
平均値から平均後輪速を算出設定するものとする。次に
ステップS2に移行して、前記図10の演算処理によっ
て疑似車速Vi を算出する。
【0094】次にステップS3に移行して、前記A−L
SDマイクロコンピュータ51からの差動制限制御フェ
ール信号FA-LSD を読込む。次にステップS4に移行し
て、前記ステップS3で読込まれたフェール信号F
A-LSD が“1”にセットされているか否かを判定し、当
該フェール信号FA-LSDが“1”にセットされている場
合にはステップS5に移行し、そうでない場合にはステ
ップS6に移行する。
【0095】前記ステップS5では、前記横加速度セン
サ44で検出された横加速度YG を読込んでからステッ
プS7に移行する。前記ステップS7では、前記ステッ
プS5で読込まれた横加速度YG を用い,図9の制御マ
ップに従って各基準スリップ率補正量ΔSfr,ΔSio
算出設定してからステップS8に移行する。
【0096】前記ステップS8では、前記ステップS7
で設定された各基準スリップ率補正量ΔSfr,ΔSio
用い,前記11式〜13式に従って各基準スリップ率S
j0を算出設定してからステップS9に移行する。一方、
前記ステップS6では、各基準スリップ率Sj0を基準ス
リップ率Sj00に設定してから前記ステップS9に移行
する。
【0097】前記ステップS9では、前記ステップS1
で読込まれた各車輪速VwjNを,前回の処理時に読込ん
だ車輪速検出値Vwj(N-1)から減算し,更に前記所定サ
ンプリング時間ΔTで除して,単位時間当たりの車輪速
変化量,即ち車輪加減速度V'wj を算出し、これを記憶
装置52cの所定記憶領域に記憶する。なお、この微分
処理は,既存のディジタルハイパスフィルタ等によって
構築されるようにしてもよい。
【0098】次にステップS10に移行して、下記15
式の演算を行ってスリップ率Sj を算出する。 Sj =(Vi −Vwj )/Vi ・100 ………(15) そして、以後,前記ステップS9で算出した車輪加速度
V'wj 及び前記ステップS10で算出したスリップ率S
j に基づいてアクチュエータユニット23を制御する制
御信号を出力する。
【0099】即ち、各車輪のスリップ率Sj が前記ステ
ップS6又はステップS8で設定された基準スリップ率
j0(ここでは前記基準スリップ率基準値Sj00 は通常
のタイヤの舵取り効果及び制動距離の確保可能な15%
程度であると考える)未満であり、且つ制御フラグAS
及び減圧タイマTが共に“0”であり、車輪加減速度
V'wj が予め設定された負の加減速度閾値α及び正の加
減速度閾値βの間,即ちα<V'wj <βである非制動時
及び制動初期時には、ステップS14,S19又はS1
8,S19,S21,S23を経て,ステップS26で
ホイールシリンダ圧をマスタシリンダ5の圧力に応じた
圧力とする急増圧モードに設定する。この急増圧モード
では、前述のように前記アクチュエータユニット23内
の各電磁方向切換弁26FL〜26Rをノーマルの切換
位置に保持する制御信号SFL〜SRが出力され、この制
御信号SFL〜SR が各駆動回路54a〜54cで駆動信
号P FL〜PR に変換出力され、これによって各電磁方向
切換弁26FL〜26Rはノーマルの切換位置に保持さ
れるから、マスターシリンダ圧がそのまま各ホイールシ
リンダ25FL〜25RRに供給される。なお、この急
増圧モードでは,各減圧ポンプ27F,27Rを回転駆
動する必要はないからポンプモータ制御信号M F ,MR
は出力されず、駆動回路54d,54eからも駆動信号
MF,DMRが出力されないから各ポンプ27F,27R
は回転駆動しない。
【0100】そして、制動状態となると車輪速検出値V
j が徐々に減少し、これに応じて車輪加減速度V'wj
が図12の曲線に示すように小さくなり(負の方向に減
少し)、この車輪加減速度V'wj が負の加減速度閾値α
を越える(下回る)と,前記ステップS21からステッ
プS24に移行し、ホイールシリンダ圧を一定値に保持
する高圧側の保持モードとなる。この高圧側の保持モー
ドでは、前記アクチュエータユニット23内の各電磁方
向切換弁26FL〜26Rを第1の切換位置に切換保持
する制御信号SFL〜SR が出力され、この制御信号SFL
〜SR が各駆動回路54a〜54cで駆動信号PFL〜P
R に変換出力され、これによって各電磁方向切換弁26
FL〜26Rは第1の切換位置に切換保持されるから、
ホイールシリンダ25FL〜25RRの内圧はマスター
シリンダ圧から遮断されて,その直前の状態に保持され
る。なお、この高圧側の保持モードでは,各減圧ポンプ
27F,27Rを回転駆動する必要はないからポンプモ
ータ制御信号MF ,MR は出力されず、駆動回路54
d,54eからも駆動信号DMF,DMRが出力されないか
ら各ポンプ27F,27Rは回転駆動しない。
【0101】しかしながら、この保持モードにおいて
も,車輪に対して制動力が作用しているので、図12の
曲線に示すように車輪加減速度V'wj が減少すると共
に、スリップ率Sj が増加する。そして、各輪のスリッ
プ率Sj が前記各輪の基準スリップ率Sj0を越え,且つ
車輪加減速度V'wj が正の加減速度閾値β未満を維持し
ているときには、ステップS11からステップS13を
経てステップS16に移行して,減圧タイマTを予め設
定された所定値T0 にセットすると共に制御フラグAS
を“1”にセットし、これに応じて論理値“1”のポン
プモータ制御信号MF ,MR を出力してアクチュエータ
ユニット23の各ポンプ27F,27Rを作動状態とす
る。更に、ステップS18からステップS20に移行し
てホイールシリンダ圧を徐々に減圧する減圧モードとな
る。この減圧モードでは、前記アクチュエータユニット
23内の各電磁方向切換弁26FL〜26Rを第2の切
換位置に切換保持する制御信号SFL〜SR が出力され、
この制御信号SFL〜SR が各駆動回路54a〜54cで
駆動信号PFL〜PR に変換出力され、これによって各電
磁方向切換弁26FL〜26Rは第2の切換位置に切換
保持され且つ各ポンプ27F,27Rが作動しているか
ら、ホイールシリンダ25FL〜25RRの内圧はマス
ターシリンダ22側に帰還されて徐々に減圧する。な
お、この減圧モード以後,前記ステップS14からステ
ップS19に移行してアンチスキッド制御フラグASが
“0”にリセットされるまで、後段に説明する緩増圧モ
ードやこの減圧モードの繰り返しによるホイールシリン
ダ圧制御の応答性を確保するために、論理値“1”のポ
ンプモータ制御信号MF ,MR を出力し続けてアクチュ
エータユニット23の各ポンプ27F,27Rを作動状
態に維持する。
【0102】この減圧モードになると、車輪に対する制
動力が緩和されるものの,車輪速検出値Vwj は暫くは
減少状態を維持し、このため図12の曲線に示すように
車輪加減速度V'wj は更に負の方向に減少し且つスリッ
プ率Sj は増加傾向を継続するが、その後,車輪速検出
値Vwj の減少率が低下して加速状態に移行する。な
お、この減圧モードでは前記ポンプ27F,27Rによ
ってホイールシリンダ圧を抜圧するから車輪加減速度
V'wj の変化率は比較的大きく、これを反映するために
当該減圧モードでの前記疑似車速Vi の算出に用いられ
るオフセット量を+10gと比較的大きな値に設定してい
る。
【0103】これに応じて車輪加減速度V'wj が正方向
に増加し、車輪加減速度V'wj が正の加速度閾値β以上
となると、前記ステップS11からステップS13を経
てステップS17に移行する。このステップS17で
は、減圧タイマTを“0”にリセットしてから前記ステ
ップS14に移行する。従って、ステップS18の判定
でT=0であるのでステップS19に移行し、V'wj
βであるのでステップS22に移行し、制御フラグAS
=0であるのでステップS27に移行し、ホイールシリ
ンダ圧を低圧側で保持する低圧側の保持モードに移行す
る。この低圧側の保持モードでは、前記アクチュエータ
ユニット23内の各電磁方向切換弁26FL〜26Rを
第1の切換位置に切換保持する制御信号SFL〜SR が出
力され、この制御信号SFL〜SR が各駆動回路54a〜
54cで駆動信号PFL〜PR に変換出力され、これによ
って各電磁方向切換弁26FL〜26Rは第1の切換位
置に切換保持されるから、ホイールシリンダ25FL〜
25RRの内圧はマスターシリンダ圧から遮断されて,
その直前の状態に保持される。なお、前述のようにアン
チスキッド制御フラグASの“1”のセット状態に合わ
せて各ポンプ27F,27Rは回転駆動され続けてい
る。
【0104】この低圧側の保持モードにおいても,車輪
に対しては制動力が作用しているので、車輪速検出値V
j の増加率は徐々に減少し、車輪加速度V'wj が正の
加減速度閾値β未満となると、ステップS19からステ
ップS21に移行し、V'wj>αであるのでステップS
23に移行し、制御フラグASが未だ“1”であるので
ステップS25に移行する。このステップS25では、
マスタシリンダ5からの圧力作動油を間欠的にホイール
シリンダ25FL〜25RRに供給し,当該ホイルシリ
ンダ圧がステップ状に増圧されて緩増圧モードとなる。
この緩増圧モードでは、前記アクチュエータユニット2
3内の各電磁方向切換弁26FL〜26Rを前記ノーマ
ルの切換位置と第1の切換位置とに所定時間毎に切換保
持する制御信号SFL〜SR が出力され、この制御信号S
FL〜SR が各駆動回路54a〜54cで駆動信号PFL
R に変換出力され、これによって各電磁方向切換弁2
6FL〜26Rは所定時間毎にノーマルの切換位置と第
1の切換位置とに切換保持されるから、ホイールシリン
ダ25FL〜25RRの内圧は徐々にステップ状に増圧
する。
【0105】この緩増圧モードになると、ホイルシリン
ダ25FL〜25RRの圧力上昇が緩やかとなるので、
各輪に対する制動力が徐々に増加し、減速状態となって
車輪速検出値Vwj も減少する。その後、車輪加減速度
V'wj が負の加減速度閾値α未満となると,前記ステッ
プS21からステップS24に移行して高圧側の保持モ
ードとなり、その後、各輪のスリップ率Sj が基準スリ
ップ率Sj0以上となると,前記ステップS11からステ
ップS13を経てステップS16に移行し、次いでステ
ップS14,S18を経てステップS20に移行して減
圧モードとなり、然る後、低圧保持モード、緩増圧モー
ド、高圧保持モード、減圧モードが繰り返され、アンチ
スキッド効果を発揮することができる。なお、車両の速
度がある程度低下したときには、減圧モードにおいてス
リップ率Sj が基準スリップ率S j0未満に回復する場合
があり、このときには前記ステップS11からステップ
S12に移行し、前記したように減圧モードを設定する
ステップS24で減圧タイマTが所定値T0 にセットさ
れているので、ステップS15に移行して減圧タイマT
の所定設定値を“1”だけ減算してからステップS14
に移行することになる。従って、このステップS12か
らステップS15に移行する処理を繰り返して減圧タイ
マTが“0”となると,ステップS18〜S23を経て
ステップS15に移行して緩増圧モードに移行し、次い
で高圧側の保持モードに移行してから減圧モードに移行
する,即ち図12に破線で示すように制動圧制御が実行
されることになる。
【0106】そして、車両が停止近傍の速度になったと
き、緩増圧モードの選択回数が所定値以上となったとき
等の制御終了条件を満足する状態となったときには,ス
テップS18の判断によって制御終了と判断されるの
で、このステップS18からステップS19に移行して
減圧タイマT及び制御フラグASを夫々“0”にリセッ
トしてからステップS26に移行して、急増圧モードと
してからアンチスキッド制御を終了する。それでは次
に、前記差動制限制御装置のヨーイング運動量制御がフ
ェールして前記差動制限制御フェール信号FA-LSD
“1”にセットされたために,前記図11の演算処理の
ステップS4からステップS5を経てステップS7に移
行し、更にステップS8で実行される基準スリップ率S
j0が変更設定された場合について考察する。
【0107】本実施例では、前述のように,基本的にヨ
ーイング運動量制御のフェール時にはステアリング特性
がアンダステア方向に変化するように,制動力,即ちホ
イールシリンダ圧の制御を行う。ここで、例えば右旋回
中の前記図11の演算処理において,ヨーイング運動量
制御にフェールが発生した場合には、基本的に,後輪6
L,6Rの基準スリップ率SR0は基準スリップ率基準値
R00 に対して前後輪間基準スリップ率補正量ΔSfr
け減少され、両前輪2FL,2FRの基準スリップ率S
FL0 ,SFR0 は基準スリップ率基準値SFL00,SFR00
対して前後輪間基準スリップ率補正量ΔSfrだけ増加さ
れる。更に、前左右輪間の基準スリップ率のうち,旋回
外輪である前左輪9Lの基準スリップ率SFL0 は、更に
旋回内外輪間基準スリップ率補正量ΔSioだけ増加さ
れ、一方,旋回内輪である前右輪9Rの基準スリップ率
FR0 は、更に旋回内外輪間基準スリップ率補正量ΔS
ioだけ減少される。これを、前記図12の制動圧制御特
性曲線で見ると,基準スリップ率Sj0が増加されること
は同図のそれが下方に引き下げられることと等価である
から、前記図11の演算処理による減圧モードへの移行
のタイミングが遅くなる,即ち減圧タイミングが遅くな
り、図12の破線で示すような制動圧制御特性曲線で
は,図11の演算処理の増圧モードへの移行のタイミン
グが早くなる,即ち増圧タイミングが早くなることにな
り、結果的に当該車輪へのホイールシリンダ圧は増加傾
向となるから,制動力が増加すると共に車輪速が減速す
る。逆に、基準スリップ率Sj0が減少されることは同図
12のそれが上方に引き上げられることと等価であるか
ら、前記図11の演算処理による減圧モードへの移行の
タイミングが早くなる,即ち減圧タイミングが早くな
り、図12の破線で示すような制動圧制御特性曲線で
は,図11の演算処理の増圧モードへの移行のタイミン
グが遅くなる,即ち増圧タイミングが遅くなることにな
り、結果的に当該車輪へのホイールシリンダ圧は減少傾
向となるから制動力が減少すると共に車輪速が増速す
る。更に、前記各基準スリップ率補正量ΔSfr,ΔSio
の絶対値が大きくなると基準スリップ率Sj0の変化量が
大きくなるために、前記ホイールシリンダ圧の増減タイ
ミング制御による各輪への制動力の増減量は,この各基
準スリップ率補正量ΔSfr,ΔSioの絶対値の大きさに
依存して一意に設定される。
【0108】一方、この基準スリップ率補正量ΔSfr
ΔSioの絶対値の大きさは,図9の制御マップに従って
横加速度YG の絶対値の増加と共に大きくなるから、例
えばこの右旋回の前段階である近似直進走行時やこの右
旋回の初期における制動時には,未だ横加速度YG が小
さいために、前記前後輪間基準スリップ率補正量ΔS fr
は比較的小さな所定値ΔSfr0 となり,旋回内外輪間基
準スリップ率補正量ΔSioは“0”となろう。従って、
後輪6L,6Rへの制動力は両前左右輪9L,9Rへの
それよりもやや小さくなるが,前左右輪9L,9R間で
の制動力差はなく、近似直進走行状態等の制動時には後
輪6L,6Rのグリップ力が相対的に大きくなって走行
安定性が向上し、前記ヨーモーメントを抑制して車両ス
テアリング特性をアンダステア方向に変化させる作用
は,当該前後輪間の小さな制動力差だけとなるから、旋
回初期状態等の制動時には回頭性或いは操縦性が低下す
るのを抑制防止することができる。つまり、直進走行に
おけるしっかりとした感じと旋回初期におけるきびきび
した感じとが両立される。
【0109】しかし、転舵旋回が深くなる或いは強くな
るに従って横加速度YG が増加し、図9の制御マップに
よる旋回内外輪間基準スリップ率補正量ΔSioは相応に
大きな値となり,前後輪間基準スリップ率補正量ΔSfr
は更にこれよりも大きな値となろう。従って図13に示
すように、旋回の深まり或いは強まりに従って後輪6
L,6Rへの制動力は小さくなり、同時に旋回外輪であ
る前左輪9Lへの制動力は大きくなり、旋回内輪である
前右輪9Rへの制動力は小さくなるから、後輪6L,6
Rのグリップ力の低下が小さくなると共にコーナリング
フォースの低下も小さくなり、前左輪9Lのコーナリン
グフォースの低下は大きくなり、これらは何れもヨーモ
ーメントを抑制して車両ステアリング特性をアンダステ
ア方向に変化させる作用として大きくなるから、前記し
た転舵旋回中の制動時に発生する荷重の前方への移動に
より,車両ステアリング特性をオーバステア方向に変化
させるヨーモーメントの助長が抑制されて走行安定性が
向上し、もって運転者には旋回中期から旋回後期におけ
るしっかりとした感じが強まる。
【0110】また、このようなヨーモーメントの抑制効
果は,例えば路面凹凸や横風等の外乱によって車両に横
加速度が作用したときにも同様に発現するから、転舵旋
回,近似直進等の走行状態に関わらず,外乱に対する車
両挙動が収束方向に減速されて走行安定性が向上する。
また、転舵旋回方向が左旋回であっても,前記横加速度
G の正負符号が逆転し、制動力の増減が,前左右輪で
逆転するだけで、その他の作用効果は右旋回と全く同等
に現れる。
【0111】以上より、本実施例は本発明のうち請求項
1〜6のヨーイング運動量制御装置を備えた車両のアン
チスキッド制御装置を実施化したものであると考えら
れ、図2,図3に示す差動制限制御装置及び図4のA−
LSDマイクロコンピュータ51及び図7の演算処理全
体が,本発明のヨーイング運動量制御装置を備えた車両
のアンチスキッド制御装置のヨーイング運動量制御手段
に相当し、以下同様に,図4のA−LSDマイクロコン
ピュータ51から出力されるフェール信号FA-LS D 及び
図11の演算処理のステップS3及びステップS4が失
陥検出手段に相当し、横加速度センサ44及び図11の
演算処理のステップS5が旋回状態検出手段に相当し、
図11の演算処理のステップS7が補正量設定手段に相
当し、図11の演算処理のステップS8が前後輪及び旋
回内外輪基準スリップ率補正手段に相当する。
【0112】なお、前記実施例においては後輪側の車輪
速を共通の車輪速センサで検出する3チャンネルアンチ
スキッド制御装置の場合についてのみ詳述したが、これ
に限らず後輪側の左右輪についても個別に車輪速センサ
を設け、これに応じて左右のホイルシリンダに対して個
別のアクチュエータを設ける,所謂4チャンネルのアン
チスキッド制御装置にも展開可能である。
【0113】また、前記実施例においては車輪速選択値
としてセレクトハイ車輪速を選択する場合について説明
したが、アンチスキッド制御中はセレクトハイ車輪速を
選択し、非アンチスキッド制御中は最も低いセレクトロ
ー車輪速を選択するようにしてもよい。また、本発明の
アンチスキッド制御装置は,後輪駆動車,前輪駆動車,
四輪駆動車等のあらゆる車両に適用可能である。
【0114】また、前記実施例では直接操舵角を検出す
ることで操舵状態を検出するものについてのみ詳述した
が、本発明では例えば実際に車両に発生しているヨーレ
ートや横加速度から操舵角を算出或いは推定することに
よって操舵状態を検出するようにしてもよい。また、前
記実施例では後輪駆動車両の差動制限制御装置がヨーイ
ング運動量制御装置となっているものについて詳述した
が、前輪駆動車両の差動制限制御装置がヨーイング運動
量制御装置になっているものであってもよい。
【0115】また、前記実施例はコントロールユニット
40としてマイクロコンピュータを適用した場合につい
て説明したが、これに代えてカウンタ,比較器等の電子
回路を組み合わせて構成することもできる。また、前記
実施例では車両のヨーイング運動量制御装置を後左右輪
間の差動制限制御装置に展開したものについてのみ詳述
したが、本発明で前提とされるヨーイング運動量制御装
置は、目標ヨーイング運動量に,車両に発生する実ヨー
イング運動量を追従させるフィードバック制御を行うも
のについてはあらゆる制御装置が適用可能であり、例え
ば本出願人が先に提案した特開昭60−161255号
公報に記載される四輪操舵制御装置を含む補助操舵制御
装置や、同じく本出願人が先に提案した特開平5−19
3332号公報に記載されるロール剛性可変制御を可能
とした能動型サスペンション及びスタビライザ制御装
置、或いは本出願人が先に提案した特開平2−2907
22号公報に記載される前後輪に駆動力を配分伝達する
駆動力配分装置等にも広く展開可能である。
【0116】
【発明の効果】以上説明したように本発明のヨーイング
運動量制御装置を備えた車両のアンチスキッド制御装置
によれば、車両旋回中で且つヨーイング運動量制御装置
の失陥時に、各制動手段への流体圧の増減圧タイミング
に係る基準スリップ率を補正することで、少なくとも転
舵旋回中の制動時には車両のステアリング特性をアンダ
ステア方向に変化させるヨーモーメントの抑制がなされ
るために、このとき車両の荷重前方移動に伴って発生す
るヨーモーメントの助長並びにそれによる車両のステア
リング特性のオーバステア方向への変化が抑制されて、
走行安定性が向上すると共に車両挙動も収束安定する。
また、横加速度等の旋回状態検出値に応じて、前記基準
スリップ量の補正量を設定すれば、例えば旋回の深さや
強さに応じて、それに抗するヨーモーメントの抑制量を
達成することができ、これによりヨーイング運動量制御
装置が失陥していても、車両の走行安定性が向上して転
舵旋回中の過渡的な旋回特性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のヨーイング運動量制御装置を備えた車
両のアンチスキッド制御装置の基本構成図である。
【図2】ヨーイング運動量制御装置を後左右輪間の差動
制限制御装置に適用した車両の本発明のアンチスキッド
制御装置の一例を示す概略構成図である。
【図3】図2の後左右輪間の差動制限制御装置の一例を
示す概略構成図である。
【図4】図2のアンチスキッド制御装置の一例を示す概
略構成図である。
【図5】図2の差動制限制御装置やアンチスキッド制御
装置のコントロールユニットの一例を示す概略構成図で
ある。
【図6】図3の後左右輪間の差動制限制御装置の伝達駆
動力比とステップモータの目標ポジションとの相関関係
図である。
【図7】図3の後左右輪間の差動制限制御装置で行われ
る目標ヨーイング運動量追従フィードバック制御の演算
処理の一例を示すフローチャートである。
【図8】図7の演算処理による転舵旋回中の制動時のヨ
ーイング運動量追従制御の作用説明図である。
【図9】本発明のアンチスキッド制御装置の一実施例で
用いられる横加速度−スリップ率補正量特性の説明図で
ある。
【図10】本発明のアンチスキッド制御装置の一実施例
で用いられる疑似車速の演算処理を示すフローチャート
である。
【図11】本発明のアンチスキッド制御装置の一実施例
で実行される制動圧制御の演算処理を示すフローチャー
トである。
【図12】図11の演算処理による制動圧特性の一例を
示す説明図である。
【図13】図11の演算処理による車両旋回−制動特性
の説明図である。
【符号の説明】
1はエンジン 2はトランスミッション 3はプロペラシャフト 4はドライブギヤ 5はリングギヤ 6L,6Rは後左右輪 7L,7Rは多板式クラッチ 8L,8Rは左右ドライブシャフト 9L,9Rは前左右輪 10はステアリングホイール 11はディファレンシャルケース 12はディファレンシャルギヤ 15L,15Rは流体圧シリンダ 21はブレーキペダル 22はマスタシリンダ 23はアクチュエータユニット 25FL〜25RRはホイールシリンダ 26FL〜26Rは電磁方向切換弁 27F,27Rはポンプ 30はアクチュエータユニット 35L,35Rは比例電磁弁 40はコントロールユニット 41は操舵角センサ 42は車速センサ 43はヨーレートセンサ 44は横加速度センサ(旋回状態検出手段,横加速度検
出手段) 45L,45Rはポジションセンサ 46FL〜46Rは車輪速センサ 51はマイクロコンピュータ 52はマイクロコンピュータ
フロントページの続き (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) B60T 8/00 B60T 8/32 - 8/96

Claims (6)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 発生するヨーイング運動量を目標とする
    ヨーイング運動量に一致するようにフィードバック制御
    可能なヨーイング運動量制御装置を備えた車両の、各輪
    のスリップ率が当該各輪の基準スリップ率に保たれるよ
    うに、各輪に備えられた制動用シリンダへの流体圧を増
    減圧制御して、当該制御対象となる車輪のロックを防止
    するアンチスキッド制御装置において、前記ヨーイング
    運動量制御装置の失陥を検出する失陥検出手段と、車両
    の旋回状態を検出する旋回状態検出手段と、少なくとも
    前記失陥検出手段がヨーイング運動量制御装置の失陥を
    検出し且つ前記旋回状態検出手段で検出された旋回状態
    検出値が所定の旋回状態に相当する所定旋回状態値以上
    であるときに、前記後輪の基準スリップ率を所定補正量
    だけ小さく補正する後輪基準スリップ率補正手段とを備
    えたことを特徴とするヨーイング運動量制御装置を備え
    た車両のアンチスキッド制御装置。
  2. 【請求項2】 発生するヨーイング運動量を目標とする
    ヨーイング運動量に一致するようにフィードバック制御
    可能なヨーイング運動量制御装置を備えた車両の、各輪
    のスリップ率が当該各輪の基準スリップ率に保たれるよ
    うに、各輪に備えられた制動用シリンダへの流体圧を増
    減圧制御して、当該制御対象となる車輪のロックを防止
    するアンチスキッド制御装置において、前記ヨーイング
    運動量制御装置の失陥を検出する失陥検出手段と、車両
    の旋回状態を検出する旋回状態検出手段と、少なくとも
    前記失陥検出手段がヨーイング運動量制御装置の失陥を
    検出し且つ前記旋回状態検出手段で検出された旋回状態
    検出値が所定の旋回状態に相当する所定旋回状態値以上
    であるときに、前記前輪の基準スリップ率を所定補正量
    だけ大きく補正する後輪基準スリップ率補正手段とを備
    えたことを特徴とするヨーイング運動量制御装置を備え
    た車両のアンチスキッド制御装置。
  3. 【請求項3】 発生するヨーイング運動量を目標とする
    ヨーイング運動量に一致するようにフィードバック制御
    可能なヨーイング運動量制御装置を備えた車両の、各輪
    のスリップ率が当該各輪の基準スリップ率に保たれるよ
    うに、各輪に備えられた制動用シリンダへの流体圧を増
    減圧制御して、当該制御対象となる車輪のロックを防止
    するアンチスキッド制御装置において、前記ヨーイング
    運動量制御装置の失陥を検出する失陥検出手段と、車両
    の旋回状態を検出する旋回状態検出手段と、少なくとも
    前記失陥検出手段がヨーイング運動量制御装置の失陥を
    検出し且つ前記旋回状態検出手段で検出された旋回状態
    検出値が所定の旋回状態に相当する所定旋回状態値以上
    であるときに、旋回外輪に相当する各輪の基準スリップ
    率を所定補正量だけ大きく補正する旋回外輪基準スリッ
    プ率補正手段とを備えたことを特徴とするヨーイング運
    動量制御装置を備えた車両のアンチスキッド制御装置。
  4. 【請求項4】 発生するヨーイング運動量を目標とする
    ヨーイング運動量に一致するようにフィードバック制御
    可能なヨーイング運動量制御装置を備えた車両の、各輪
    のスリップ率が当該各輪の基準スリップ率に保たれるよ
    うに、各輪に備えられた制動用シリンダへの流体圧を増
    減圧制御して、当該制御対象となる車輪のロックを防止
    するアンチスキッド制御装置において、前記ヨーイング
    運動量制御装置の失陥を検出する失陥検出手段と、車両
    の旋回状態を検出する旋回状態検出手段と、少なくとも
    前記失陥検出手段がヨーイング運動量制御装置の失陥を
    検出し且つ前記旋回状態検出手段で検出された旋回状態
    検出値が所定の旋回状態に相当する所定旋回状態値以上
    であるときに、旋回内輪に相当する各輪の基準スリップ
    率を所定補正量だけ大きく補正する旋回内輪基準スリッ
    プ率補正手段とを備えたことを特徴とするヨーイング運
    動量制御装置を備えた車両のアンチスキッド制御装置。
  5. 【請求項5】記旋回状態検出手段で検出された旋回
    状態検出値の増加に伴って、前記各輪の基準スリップ率
    の所定補正量の絶対値を大きく設定する補正量設定手段
    を備えたことを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記
    載のヨーイング運動量制御装置を備えた車両のアンチス
    キッド制御装置。
  6. 【請求項6】 前記旋回状態検出手段が、車両に発生す
    る横加速度を検出する横加速度検出手段で構成されてい
    ることを特徴とする請求項乃至5の何れかに記載のヨ
    ーイング運動量制御装置。
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