JP3413488B2 - イリジウム基超合金 - Google Patents

イリジウム基超合金

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この出願の発明は、高融点超
合金に関するものである。さらに詳しくは、この出願の
発明は、優れた高温強度はそのままに、若しくはより高
い強度を実現するとともに、粒界が強化され、粒界割れ
の抑制されたイリジウム基超合金に関するものである。
【0002】
【従来の技術とその課題】発電用ガスタービン、ジェッ
トエンジン、ロケットエンジン等の高温機器に用いられ
るタービンブレード、タービンベーン等の部材は高温・
高応力下で使用される。従来、これらタービンブレー
ド、タービンベーン等の部材には、高い耐熱性を有し、
高温強度にも優れたニッケル基超合金が適用されてい
る。このニッケル基超合金は、ニッケルをベースに、コ
バルト、クロム、モリブデン、タングステン、アルミニ
ウム、チタン、タンタル、ニオブ、レニウム、ハフニウ
ム等を主要構成元素として含有する合金であり、その耐
用温度は約1100℃である。
【0003】一方、タービンブレード、タービンベーン
等の部材の使用温度は年々過酷になってきている。それ
と言うのも、燃焼ガス温度を高めることが、高温機器の
出力及び熱効率をさらに高めるのに最も効果的な対応だ
からである。したがって、タービンブレード、タービン
ベーン等の部材にはより高い高温強度が要求され、これ
はとりもなおさず、それら部材に適用される材料の高温
強度並びに高温腐食性の改善が必要不可欠であることを
意味する。
【0004】そこでこの出願の発明の発明者等は、ニッ
ケル基超合金を上回る特性を有する合金としてイリジウ
ム基超合金をこれまでに提案している。イリジウムは高
温で強度が高く、耐酸化性に優れた貴金属であり、これ
をベースとするイリジウム基超合金はfcc+Ll2の二相整
合組織を持つ。
【0005】だが、このイリジウム基超合金について
は、その後の研究により、粒界が必ずしも強くなく、粒
界割れを起こしやすいことが見出された。
【0006】この出願の発明は、以上の通りの事情に鑑
みてなされたものであり、優れた高温強度はそのまま
に、若しくはより高い強度を実現するとともに、粒界が
強化され、粒界割れの抑制されたイリジウム基超合金を
提供することを目的としている。
【0007】
【課題を解決するための手段】この出願の発明は、上記
の課題を解決するものとして、fcc構造を持つ母相中にL
l 2 構造を持つ析出物が整合して析出したIr−2〜22at%Nb
−C合金であり、Cの添加量が500〜4000wppmであること
を特徴としているイリジウム基超合金(請求項1)を提
供する。
【0008】またこの出願の発明は、fcc構造を持つ母
相中にLl 2 構造を持つ析出物が整合して析出したIr−2〜
22at%Nb−B若しくはIr−2〜22at%Hf−B合金であり、Bの
添加量が80〜200wppmであることを特徴としているイリ
ジウム基超合金(請求項2)を提供する。
【0009】さらにこの出願の発明は、以上のイリジウ
ム基超合金において、Ll2構造を持つ析出物の体積率が
20〜80%であること(請求項3)を好ましい態様と
して提供する。
【0010】
【発明の実施の形態】いわゆるイリジウム基超合金は、
イリジウム(Ir)をベースとし、これにバナジウム(V)、
チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、ハフニウム(H
f)、及びジルコニウム(Zr)からなる金属群から選択され
る1種以上の金属が2〜22原子%添加され、fcc構造
を持つ母相中にLl2構造を持つ析出物が整合して析出し
た合金である。Ll2構造を持つ析出物が母相に整合して
析出すると、母相と析出物の界面に歪みがたまり、合金
の強度が増大する。たとえLl2構造を持つ析出物が析出
しても、界面が整合しないと高強度は得られない。つま
り、合金の強度は整合界面の量によって決まると考えら
れる。そこで、この出願の発明のイリジウム基超合金で
は、強度を十分なものとするための好ましい条件とし
て、Ll2構造を持つ析出物の体積率が20%以上80%
以下であることが例示される。
【0011】そして、この出願の発明のイリジウム基超
合金では、Ir−Nb合金においてカーボン(C)が、また、I
r−Nb若しくはIr−Hf合金においてボロン(B)が、第三相
が出現しない量において微量添加される。前者において
カーボン(C)の添加量は500〜4000wppmであり、後者にお
いてボロン(B)の添加量は80〜200wppmである。このよう
なカーボン又はボロンの微量添加は、優れた高温強度を
そのままに、若しくはより高い強度を実現するととも
に、イリジウム基超合金の粒界を改善し、粒界割れを抑
制するのに有効となる。第三相が出現すると、合金の強
度は劇的に低下する。
【0012】以下に、この出願の発明のイリジウム基超
合金の実施例を示す。
【0013】
【実施例】[Ir−Nb−C合金] 真空炉中アルゴン雰囲気下にアーク溶融によりインゴッ
トとして作製したIr−15at%(8wt%)Nb合金に、アーク
溶融によりカーボン(C)を100, 500, 4000wppm添加し、I
r−15at%Nb−Cの三元合金のサンプルを作製した。そし
て、その金属組織と強度を調べた。
【0014】図1a〜cは、それぞれ、1300℃で100時
間熱処理した後のサンプルの金属組織を示した図面に代
わる走査電子顕微鏡(SEM)写真である。図1aはIr
−15at%Nb−100wppmCの金属組織を、図1bはIr−15at
%Nb−500wppmCの金属組織を、そして、図1c はIr−1
5at%Nb−4000wppmCの金属組織をそれぞれ示している。
【0015】これら図1a〜cから確認されるように、
Ir−15at%Nb−C合金の金属組織は樹枝状組織である
が、いずれの樹枝状組織内にもfcc+Ll2の微細な整合組
織が形成されている。
【0016】図2a、図2bは、それぞれ、上記Ir−15
at%Nb−500wppmC 合金サンプル、Ir−15at%Nb−4000w
ppmC 合金サンプルについて、1800℃で72時間熱処理
した後の金属組織を示した図面に代わる走査電子顕微鏡
(SEM)写真である。
【0017】図2a及び図2bに示されているように、
立方体状の整合析出した析出物が存在し、整合組織の安
定性が確認される。
【0018】図3は、Ir−15at%Nb−100wppmC合金、Ir
−15at%Nb−500wppmC合金、及びIr−15at%Nb−4000wp
pmC合金の1200℃までの強度を示したグラフである。図
3には、また、比較のために、カーボン未添加のIr−15
at%Nb合金の強度を合わせて示してもいる。
【0019】この図3から明らかなように、上記三元合
金はいずれも、測定したすべての温度にわたって二元合
金のIr−15at%Nb合金に比べ高い強度を示している。カ
ーボンの添加がより高い高温強度を実現することが確認
される。
【0020】図4a〜cは、それぞれ、図1a〜cに示
した合金サンプルの破断面の金属組織を示した図面に代
わる走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【0021】図4aから確認されるように、カーボンが
100wppm添加されたIr−15at%Nb−C合金では粒内割れが
発生している。しかしかながら、粒界割れも発生してお
り、破壊は粒界割れと流内割れの混合モードとなってい
る。一方、カーボンが500及び4000wppm添加されたIr−1
5at%Nb−C合金では完全に粒内割れとなっている。以上
から、イリジウム基超合金の粒界の性質がカーボンの添
加によって改善されることが確認される。[Ir−Nb−B
合金]イリジウムを99.99wt%、ニオブを99.98wt%、ボ
ロン(B)を99.5wt%含む原料を用い、まず、Ir−15at
%Nb合金を真空炉中アルゴン雰囲気下にアーク溶融によ
り50gのボタンインゴットとして作製した。次いでこのI
r−15at%Nbにアーク溶融によりボロンを80,200,50
0,2000wppm添加した。そして、それぞれのインゴット
から高さ6mm、直径3mmの供試片を電子放電切削加工に
より切り出した。これを1300℃で72時間焼き鈍しし、
次いで3×10-4Paの真空下に炉冷した後、表面を研磨
し、さらに5%HCl−エタノール溶液中で電解エッチン
グを行った。
【0022】このようにして作製した供試片に圧縮試験
を行った。圧縮試験は、空気中で20〜1200℃で行い、初
期ひずみ速度は3.0×10-4s-1とした。試験温度には炉中
で12〜20分間で上昇させ、温度分布を均一とするた
めに、荷重を加える前にその温度に5分間保持した。
【0023】また、供試片の室温延性を測定した。圧縮
試験中に得られた荷重−変形曲線から圧縮歪みを決定し
た。
【0024】さらに、供試片の微細組織、圧縮試験後の
破断面をそれぞれ走査電子顕微鏡(SEM)、走査電子
顕微鏡(SEM)を用いて観察した。組織を構成する相
の組成はエネルギー分散型X線分析(EDS)により同
定した。
【0025】図5a〜eは、それぞれ、1300℃72時間
の時効処理を行った合金の金属組織を示した図面に代わ
る走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【0026】図5aはボロン未添加のIr−15at%Nb合金
の金属組織であり、図5b〜図5eは、ボロンの添加量
がそれぞれ80,200,500,2000wppmのIr−15atNb−B合
金の金属組織である。
【0027】図5aから確認されるように、Ir−15at%
Nb合金の金属組織は樹枝状組織であり、樹枝状晶の芯部
には、およそ400nmのLl2相を含むfcc/Ll2(Ir/Ir3Nb)
の2相構造が見られる。ボロンが添加されたIr−15at%
Nb−B合金では、添加量が200wppm以下(ずなわち、図5
b及び図5c)において樹枝状組織が維持され、Ll2
の大きさもボロン未添加のIr−15at%Nb合金における大
きさとほぼ同じである。また、微細な棒状及び板状のラ
メラ構造が芯部に現れ、このラメラ構造は、ボロンの添
加量の増加につれて粗くなる。ところが、ボロンの添加
量が500wppmになると(すなわち、図5d)、Ll2相及び
ラメラ構造の大きさは増大する一方で、これらの相の領
域が減少する。ボロンの添加量が2000wppmの合金では
(すなわち、図5e)、fcc/Ll22相構造、ラメラ構造
のどちらも消失する。
【0028】図6は、室温及び1200℃における耐力及び
室温延性をボロン(B)の添加量との関係において示した
グラフである。
【0029】室温における耐力はボロンの添加にともな
って増大し、200wppmの時、耐力はボロン未添加の耐力
の2倍となり、2400MPaに達する。一方、ボロンの添加
量が200wppmを超えると、耐力は減少し、2000wppmでは
未添加の時よりも低くなる。1200℃における耐力もまた
ボロンの添加にともなって増大し、200wppmの時、ピー
クとなり、1410MPaを示す。添加量が500wppmとなると、
耐力は急激に低下し、未添加の耐力の半分の500MPaとな
る。
【0030】ボロンの添加は圧縮延性にはほとんど影響
を与えないが、添加量が80wppmの時、圧縮延性は8%と
なる。
【0031】図7a〜eは、それぞれ、室温での圧縮試
験において破壊した供試片の破断面を示した図面に代わ
る走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【0032】図7aはボロン未添加の供試片の破断面で
あり、図7b〜図7eは、ボロン添加量がそれぞれ80,
200,500,2000wppmの供試片の破断面である。
【0033】ボロン未添加のIr−15at%Nb合金は、主に
粒界割れにより破壊している(図7a)。これに対し、
ボロンが添加されたIr−15at%Nb−B合金は粒内破壊を
示している。粒内破壊は結晶学的な見地から特徴付けら
れ、へき開破壊と類似するリバー・パターンを示す。添
加量が2000wppmのIr−15at%Nb−2000wppmB合金(図7
e)には、図中に矢印で示したような明るい相がいくつ
か粒界に沿って観察される。エネルギー分散型X線分析
(EDS)によると、この相はボロン及びイリジウムを
より多く含んでいる。このことは、Ir−15at%Nb合金に
おいてボロンは粒界に偏析することを意味する。[Ir−
Hf−B合金]ニオブ(Nb)に代え、ハフニウム(Hf)を15at
%含むIr−15at%Hf合金に、上記Ir−15at%Nb合金と同
様にボロン(B)を添加し、合金の金属組織の観察、圧縮
試験及び破断面の観察を行った。
【0034】図8a〜cは、それぞれ、ボロン未添加、
ボロン添加量が200,500wppmのIr−15at%Hf合金の1300
℃で100時間熱処理した後の金属組織を示した図面に代
わる走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【0035】これら図8a〜cから確認されるように、
ボロンの添加によっても金属組織は樹枝状組織を示し、
樹枝状組織内にはfcc+Ll2の微細な整合組織が形成され
ている。
【0036】図9は、室温及び1200℃における耐力及び
室温延性をボロン(B)の添加量との関係において示し
たグラフである。
【0037】Ir−15at%Nb合金と同様に、室温における
耐力は、ボロンの添加にともなって増大し、200wppmの
時ピークとなり、2300MPaに達する。一方、ボロンの添
加量が200wppmを超えると、耐力は減少し、2000wppmで
は未添加の時より低くなる。1200℃における耐力もまた
ボロンの添加にともなって増大し、200wppmの時ピーク
となり、1420MPaを示す。添加量が500wppmとなると、耐
力は急激に低下し、500MPaとなる。
【0038】ボロンの添加は圧縮延性にはほとんど影響
を与えないが、添加量が200wppmの時、圧縮延性は8%
となる。
【0039】図10a〜は、それぞれ、室温での圧縮
試験において破壊した供試片の破断面を示した図面に代
わる走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【0040】図10aはボロン未添加の供試片の破断面
であり、図10b〜図10dは、ボロン添加量がそれぞ
れ200,500,2000wppmの供試片の破断面である。
【0041】Ir−15at%Nb合金と同様に、Ir−15at%Hf
合金においても、ボロン未添加の合金は主に粒界割れに
より破壊している(図10a)。これに対し、ボロンが
添加されたIr−15at%Nb−B合金では粒内割れが起きて
いる。
【0042】勿論、この出願の発明は、以上の実施例に
よって限定されるものではない。組成、製造方法等の細
部については様々な態様が可能であることは言うまでも
ない。
【0043】
【発明の効果】以上詳しく説明した通り、この出願の発
明によって、優れた高温強度はそのままに、若しくはよ
り高い強度を実現するとともに、粒界が強化され、粒界
割れの抑制されたイリジウム基超合金が提供される。ニ
ッケル基超合金に代わる高温・高応力下で使用される部
材用の材料としてその適用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【図1】a〜cは、それぞれ、1300℃で100時間熱処理
した後のIr−15at%Nb−C合金の金属組織を示した図面
に代わる走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図2】a、bは、それぞれ、Ir−15at%Nb−500wppmC
合金、Ir−15at%Nb−4000wppmC合金について1800℃で
72時間熱処理した後の金属組織を示した図面に代わる
走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図3】Ir−15at%Nb−100wppmC合金、Ir−15at%Nb−
500wppmC合金、及びIr−15at%Nb−4000wppmC合金の120
0℃までの強度を、Ir−15at%Nb合金の強度とともに示
したグラフである。
【図4】a〜cは、それぞれ、図1a〜cに示した合金
サンプルの破壊面の金属組織を示した図面に代わる走査
電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図5】a〜eは、それぞれ、1300℃72時間の時効処
理を行った後のIr−15at%Nb合金及びIr−15at%Nb− C
合金の金属組織を示した図面に代わる走査電子顕微鏡
(SEM)写真である。
【図6】室温及び1200℃におけるIr−15at%Nb合金の耐
力及び室温延性をボロンの添加量との関係において示し
たグラフである。
【図7】a〜eは、それぞれ、室温での圧縮試験におい
て破壊したIr−15at%Nb合金供試片及びIr−15at%Nb−
B合金供試片の破断面を示した図面に代わる走査電子顕
微鏡(SEM)写真である。
【図8】a〜cは、それぞれ、ボロン未添加、ボロン添
加量が200,500wppmのIr−15at%Hf合金の1300℃で100
時間熱処理した後の金属組織を示した図面に代わる走査
電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図9】室温及び1200℃におけるIr−15at%Hf合金の耐
力及び室温延性をボロンの添加量との関係において示し
たグラフである。
【図10】a〜dは、それぞれ、室温での圧縮試験にお
いて破壊したIr−15at%Hf合金供試片及びIr−15at%Hf
−B合金供試片の破断面を示した図面に代わる走査電子
顕微鏡(SEM)写真である。
フロントページの続き (56)参考文献 特開 平8−311584(JP,A) 特開 平11−264028(JP,A) 特開 昭62−280340(JP,A) 特開2001−203060(JP,A) 特開 平10−259435(JP,A) 特開2000−290741(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C22C 5/00 - 5/04

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 fcc構造を持つ母相中にLl 2 構造を持つ析
    出物が整合して析出したIr−2〜22at%Nb−C合金であ
    り、Cの添加量が500〜4000wppmであることを特徴として
    いるイリジウム基超合金。
  2. 【請求項2】 fcc構造を持つ母相中にLl 2 構造を持つ析
    出物が整合して析出したIr−2〜22at%Nb−B若しくはIr
    −2〜22at%Hf−B合金であり、Bの添加量が80〜200wppm
    であることを特徴としているイリジウム基超合金。
  3. 【請求項3】 Ll2構造を持つ析出物の体積率が20〜8
    0%である請求項1又は2記載のイリジウム基超合金。
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