JP3381457B2 - 溶接性に優れた高温用オーステナイト系ステンレス鋼 - Google Patents

溶接性に優れた高温用オーステナイト系ステンレス鋼

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Description

【発明の詳細な説明】 【0001】 【産業上の利用分野】本発明は、高温環境下、特に800
℃以上の酸化性雰囲気の条件下での使用において優れた
特性を示す溶接性に優れたオーステナイト系ステンレス
鋼に関するものである。 【0002】 【従来の技術】特に近年に至り、地球環境保全の観点か
ら各種排出ガス中のNOx 、SOx 、CO2等の有害ガスの濃
度低減が強く要望されている。一方、従来より、化石エ
ネルギー資源の有効活用の面から効率的なエネルギー利
用の必要性が強調されてきている。 【0003】これら両者の要望を満足させるために、火
力発電、化学工業あるいは鉄鋼製造などの各産業分野で
はより高温での操業が必要となってきている。そして、
そのための高温装置用材料には耐酸化性、耐摩耗性およ
び耐クリープ特性等の高温特性および溶接性に優れるこ
とが要求される。 【0004】従来、このような高温用途には、オーステ
ナイト系ステンレス鋼が多く用いられている。例えば、
SUS304に代表される18Cr−8Ni系、SUS310S を代表とす
る25Cr−20Ni系、Alloy 800 として知られる20Cr−32Ni
鋼等の高Cr−高Ni鋼がある。また、高Si化により高温特
性の向上を図ったステンレス鋼としてAlSI302B、JISXM1
5J1 、AISI314 鋼等が知られている。 【0005】一般に、18Cr-8Ni系は溶接性および経済性
に優れるものの、耐酸化性、高温強度等の高温特性に劣
る。高Cr−高Ni鋼は高温強度を確保しているものの熱間
加工性および溶接性に問題がある。また、800 ℃を越え
1000℃近傍での使用を考えた場合、耐酸化性は必ずしも
十分とは言えない。さらに、コストの面からも高Ni含有
は問題となる。 【0006】高温特性を改善するために種々の試みが成
されており、特願昭52−4418号、特公昭53−43370 号、
同54−12890 号、同54−33207 号、同56−17424 号、同
56−25507 号、同57−16187 号、同57−42701 号、同57
−54543 号、同57−59299 号、同58−2268号、同58−42
264 号、特開昭59−185763号、同60−92454 号、同63−
69949 号、同63−213643号、同63−69950 号、同63−69
951 号、同63−157840号、同63−213643号、特公昭64−
8695号、特開平1−159351号等の各公報に開示されてい
るものがある。 【0007】これらの特許における高温特性の改善は、
Si含有量の増加により実現されるとするものが多く、そ
の他、Mo、Cu、N、Ti、Nb等の元素添加により達成され
るとしているものがある。 【0008】特に高Si化は耐酸化性を大幅に向上させる
ため優れた高温材料として有望である。しかしながら、
このように高Siを含有すると、今度は、熱間加工性およ
び溶接性が著しく低下する。また、さらにSiを含有する
ことで高温で使用中にσ相等の化合物の析出を促進させ
ることになり、長時間でのクリープ破断強度、靱性を低
下させる問題がある。 【0009】高Si含有鋼に見られる問題点の改善を図っ
たものとして、例えば特公昭54−33207 号公報ではSiと
Nがクリープ破断強度に有効な交互作用をもち、Si/N
に適正範囲が存在すること、ならびに、Ce、Mgの微量含
有と%Ni+30×(%C+%N) ≧20%とすることで熱間加工性の
向上を目指している。また、特開昭60−92454 号公報で
はCe、Mgの微量添加およびNi当量を規定し、これを−1
%以上とすることで熱間加工性の改善を行うことを開示
している。 【0010】しかしながら、これら元素の微量添加では
熱間加工性の向上は見られるものの、大量に安定して製
造する場合、根本的な解決には至らない。さらに、言う
ならば溶接性や高温長時間での高温特性の維持に対する
改善は見られない。 【0011】 【発明が解決しようとする課題】ここに、本発明の目的
は、例えばエネルギープラントでの高温部材や自動車排
気系用部材、さらには熱処理炉等の部材で使用されるも
のであり、特に800 ℃以上の酸化雰囲気の条件下で耐酸
化性、耐摩耗性およびクリープ特性等の高温特性に優
れ、かつ溶接性の優れたオーステナイト系ステンレス鋼
を提供することである。 【0012】 【課題を解決するための手段】本発明者らは、優れた高
温特性を損なうことなく、溶接性が良好であり、さらに
熱間加工性をも有するSi含有オーステナイト系ステンレ
ス鋼を完成させるために、鋼中化学成分を変えた種々の
ステンレス鋼を用い鋭意研究を重ねた結果、以下の知見
を得るに至った。 【0013】溶接性の向上に対し鋼中C、S、Pの影
響が大きいこと。鋼中SやPは粒界に偏析することによ
り溶接性を阻害する。そのため、極力低くすることが好
ましい。しかしながら、これらの低減により溶接性の向
上は見られるが、高Si含有鋼ではなお高温割れが認めら
れる。そのためさらに検討を重ねた結果、上記S、Pの
低減に加え、鋼中Cを制限することにより、従来ステン
レス鋼と同等の溶接性が得られた。 【0014】上記C量低下による高温強度低下は、N
量の添加で確保する。Cは高温強度の向上に有効な元素
であり、その低下は高温強度およびクリープ破断強度低
下につながる。そこで、Nを0.15%以上添加することに
より高温強度を確保する。 【0015】Niが多いと、溶接性の低下および粗大窒
化物析出促進による高温長時間でのクリープ破断強度低
下を招く。Ni低減分はCuで置換する。Niの溶接性への影
響を調べた結果、Niが多量添加されると溶接性が低下す
ることが分かった。また、クリープ破断試験後の試験片
の組織観察を行ったところ、Niが多い鋼においてはCr2N
の析出促進が見られた。この析出物は高温で粗大となり
クリープ特性の低下要因となる。Niの適正量を検討した
ところ、上限は15%であった。Niの低減はオーステナイ
トの安定度を低下させることになるので、一部をCuで置
換する。 【0016】このように各元素の範囲を限定すること
に加え、鋼中各元素で表されるNiバランスを−1%〜+
2%の範囲とすることで、溶接性を向上させる。高温で
の若干のδ−フェライト相の生成はP、S等の偏析を抑
制し、溶接性を向上させることはよく知られていること
であるが、高Si系オーステナイト鋼において、の成
分限定を行ったものにさらにNiバランスを+2%以下と
することが溶接性の点から非常に有効であることが判明
した。 【0017】一方、Niバランスが低い、すなわちフェラ
イト生成能が高くなると、クリープ特性が低下し、さら
に高Siを含有していると高温でのσ相の析出を促進する
ことから、クリープ強度、靱性の低下が著しくなり、Ni
バランスの下限値を厳しく限定する必要がある。検討の
結果、−1%以上とすることでクリープ特性および時効
靱性を満足することが可能である。 【0018】よって、本発明の要旨とするところは、質
量%で、C:0.100 %以下、Si:1.50〜4.00%、Mn:2.
00%以下、Cu:0.05〜2.00%、P:0.040 %以下、S:
0.010 %以下、Cr:15.0〜30.0%、Ni:8.0 〜15.0%、
N:0.15〜0.30%、B:0.001 〜0.010 %、Caおよび
Y、La、Ce等希土類の元素の1種もしくは2種以上を合
計で0.01〜0.10%、Al:0.01〜0.10%、残部実質的にFe
より成り、かつ下記式で示されるNiバランス値が−1.00
%〜+2.00%の範囲にあることを特徴とする溶接性に優
れた高温用オーステナイト系ステンレス鋼。 【0019】 Niバランス値 (質量%)= %Ni+0.5×(%Mn+%Cu)+30×(%C+%N)−1.1×(%Cr+1.5×%Si)+8.2 ・・・ (1) 【0020】 【作用】以下に本発明における成分およびNiバランス値
の限定理由について述べる。 C:オーステナイト組織の安定化を促進するとともにク
リープ破断強度を高めるのに有効な元素である。しかし
ながら、本発明鋼のようにSi含有量の高い鋼においては
溶接性への悪影響が大きい。そのため、0.100 %以下に
低減する必要がある。好ましくは0.080 %以下である。 【0021】Si:耐酸化性の面から多い方が望ましい
が、多量の添加は溶接性、クリープ特性および熱間加工
性の劣化を著しくするのでその範囲を1.50〜4.00%、好
ましくは2.00〜3.50%とする。 【0022】Mn:Siと同様、脱酸成分であるとともにオ
ーステナイト組織の安定化に有効であるが多量の添加は
耐酸化性を劣化させるので上限を2.00%とする。好まし
くは、1.80%以下である。 【0023】P:Pは鋼中において偏析し、溶接性およ
び熱間加工性を阻害する元素のひとつである。そのた
め、0.040 %以下に制限するのがよい。好ましくは0.02
0 %以下である。 【0024】S:Pと同様に鋼中において偏析し、溶接
性および熱間加工性を著しく阻害する。そのため、0.01
0 %とする。好ましくは0.008 %以下である。 【0025】Cr:耐酸化性、耐高温摩耗性およびクリー
プ強度の向上に有効な元素であるが、15%未満ではその
効果を発揮し得ず、30.0%を超える添加はオーステナイ
ト組織の安定化を阻害するとともに熱間加工性を劣化さ
せるのでその範囲を15%以上、30.0%以下とする。好ま
しくは、17.0〜25.0%である。 【0026】Ni:オーステナイト組織の安定化および耐
酸化性、クリープ強度の向上において重要な元素である
が、8.0 %未満ではその効果が小さく、他方15.0%を超
える添加は溶接性を阻害するとともに、高温での使用中
に粗大なCr2Nの析出を促進し、クリープ破断強度が低下
するのでその範囲を8.0 %以上、15.0%以下とする。好
ましくは、10.0〜15.0である。 【0027】N:オーステナイト組織の安定化およびク
リープ強度の向上に有効な元素であるが、1.50%以上の
Siかつ0.100 %以下のCとの共存においては0.15%未満
ではクリープ強度の向上に寄与せず、0.30%を超える添
加は顕著なクリープ強度向上が見られないばかりか、熱
間加工性を阻害するのでその範囲を0.10%以上、0.30%
以下とする。 【0028】B:クリープ強度および熱間加工性の向上
に有効な元素であり、0.001 %以上でその効果を発揮す
る。0.010 %を超える添加はかえって金属間化合物を形
成し熱間加工性を阻害するので、その範囲を0.001 %以
上、0.010 %以下とする。 【0029】CaおよびY、La、Ce等希土類元素:耐酸化
性および耐高温摩耗性向上に有効な元素であるが、これ
らが1種もしくは2種以上の合計で0.01%未満ではその
効果を発揮し得ず、0.10%を超える添加は熱間加工性お
よび溶接性を阻害するのでその範囲を0.01%以上、0.10
%以下とする。 【0030】Al:Caや希土類元素の添加効果を十分に発
揮させるための脱酸成分として0.01%以上の添加が必要
である。多量の添加は溶接性を悪化させるので上限を0.
10%とする。 【0031】Cu:オーステナイト組織の安定化およびク
リープ強度の向上に有効な元素であり、また本発明では
Niの一部を置換する形で添加される。添加する場合には
0.05%未満ではその効果を発揮し得ず、2.00%を超える
と溶接性および熱間加工性の阻害が著しくなるのでその
範囲を0.05%以上、2.0%以下とする。好ましくは、0.
10〜1.80%である。 【0032】Niバランス値:前述の式(1) で規定されるN
iバランス値は、冶金学的には凝固組織におけるオース
テナイト相の安定度を意味するが、Niバランス値が小さ
くなるとδ−フェライト相が生成し、また高温保持中に
σ相等の金属間化合物が析出し易くなる。これらはいず
れもクリープ強度を低下させる。他方、Niバランス値が
大きくなると溶接性を悪化させる。高温特性および溶接
性の両面から考慮して、Niバランス値の範囲を−1.00%
以上、+2.00%以下とする。 【0033】 【実施例】本発明の実施例を以下に示す。表1に本発明
鋼および比較鋼の化学組成 (重量%、残部はFe) を示
す。これらの試料は高周波電気炉 (真空溶解) で溶製し
た25kg鋼塊を鍛造、熱間圧延、焼鈍を施して得た。 【0034】表2の欄は表1に示した本発明鋼と比較
鋼についての酸化試験の結果を示す。試験は大気中、11
00℃で24時間加熱後室温冷却を5回繰り返す方法で行っ
た。酸化減量5mg/cm2までを合格とした。本発明鋼の酸
化減量あるいは酸化増量はいずれも5mg/cm2以下であり
優れた耐酸化性を示している。 【0035】表2の欄は表1に示した本発明鋼と比較
鋼についての高温摩耗試験結果を示す。試験は大気中、
700 ℃で人造硅砂を吹き付ける方法で行った。試験時間
は3時間とし、人造硅砂吹付け濃度 (アッシュ濃度) は
20mg/m3 とした。減肉深さ13μm 以下を合格とした。 【0036】試験後の本発明鋼の減肉深さは約7〜10μ
m程度であり、いずれも優れた耐高温摩耗性を示してい
る。表2の結果から分かるように、比較鋼においてはN
o.20 鋼およびNo.22 鋼が比較的良好な耐酸化性および
耐高温摩耗性を示しているものの、後述するようにNo.2
0 鋼は溶接割れ感受性が高く、No.22 鋼は耐クリープ性
に劣っている。 【0037】表2の欄は表1に示した本発明鋼と比較
鋼について900 ℃で3.5kgf/mm2の応力負荷を行ったクリ
ープ・ラプチャー試験結果を示す。破断時間 200時間以
上を合格とした。 【0038】本発明鋼のクリープ破断時間は 200時間以
上、好ましくは 250時間以上といずれも長く、高温長時
間での優れた耐クリープ特性を示している。比較鋼にお
いては、特にNo.22 鋼の破断時間が短く耐クリープ特性
が極端に劣ることが示される。 【0039】表2の欄は表1に示した本発明鋼と比較
鋼のトランスバレストレイン試験による溶接高温割れ感
受性調査の結果を示す。試験方法を図1に示す。歪量は
2%とした。最大割れ長さ0.25mm以下を合格とした。 【0040】本発明鋼の最大割れ長さは、いずれも小さ
く優れた耐溶接高温割れ感受性を示している。比較鋼に
おいてはNo.22 鋼を除きいずれも大きな割れ長さを示し
ており溶接高温割れ感受性の高いことが分かる。 【0041】次に、図2は、表2のおよび欄の結果
に基づいて900 ℃で3.5 kgf/mm2 の応力を負荷を行った
場合のクリープ・ラプチャー試験における破断時間およ
びトランスバレストレイン試験における最大割れ長さを
Niバランス値で整理したグラフである。クリープ破断時
間はNiバランス値が−1.0 %未満で急激に低下し、溶接
最大割れ長さはNiバランス値が+2.0 %を超えると急激
に増大する。すなわち、本発明における成分範囲内でク
リープ特性および溶接性の両者を満足するNiバランス値
の範囲は−1.0 〜+2.0 %にあることが示される。 【0042】 【表1】 【0043】 【表2】【0044】 【発明の効果】上述のように、本発明によれば、従来の
高温用部材として使用されている高Cr−高Ni鋼および高
Siオーステナイトステンレス鋼の欠点である溶接性を大
幅に改善し、かつ、高温での耐酸化性、耐摩耗性および
高温強度のいずれにおいても優れた特性を有するオース
テナイト系ステンレス鋼が得られる。さらに、本発明に
かかる鋼は、高価なNiの使用を極力抑えており経済性に
も優れているため高温用部材として広範囲の使用が期待
される。
【図面の簡単な説明】 【図1】トランスバレストレイン試験の試験方法を表し
たものである。 【図2】実施例1のクリープ・ラプチャー試験における
破断時間およびトランスバレストレイン試験での最大割
れ長さとNiバランス値との関係を示したグラフである。
フロントページの続き (72)発明者 大塚 伸夫 大阪市中央区北浜4丁目5番33号 住友 金属工業株式会社内 (72)発明者 小川 和博 大阪市中央区北浜4丁目5番33号 住友 金属工業株式会社内 (72)発明者 安楽 敏朗 大阪市中央区北浜4丁目5番33号 住友 金属工業株式会社内 (56)参考文献 特公 昭50−8967(JP,B1) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C22C 38/00 - 38/60

Claims (1)

  1. (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 質量%で、 C:0.100 %以下、Si:1.50〜4.00%、Mn:2.00%以
    下、 Cu:0.05〜2.00%、P:0.040 %以下、S:0.010 %以
    下、 Cr:15.0〜30.0%、Ni:8.0 〜15.0%、N:0.15〜0.30
    %、 B:0.001 〜0.010 %、 CaおよびY、La、Ce等希土類の元素の1種もしくは2種
    以上を合計で0.01〜0.10%、 Al:0.01〜0.10%、 残部実質的にFe より成り、かつ下記式で示されるNiバランス値が−1.00
    %〜+2.00%の範囲にあることを特徴とする溶接性に優
    れた高温用オーステナイト系ステンレス鋼。 Niバランス値 (質量%)=%Ni+0.5×(%Mn+%Cu)+30×(%C+%
    N)−1.1×(%Cr+1.5×%Si)+8.2
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