JP3365644B2 - α−D−グリコシルカスガマイシン、その製造法およびそれを含有する抗菌剤 - Google Patents

α−D−グリコシルカスガマイシン、その製造法およびそれを含有する抗菌剤

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、新規物質α−D−グリ
コシルカスガマイシン、その製造法およびそれを含有す
る抗菌剤に関する。
【0002】
【従来の技術】カスガマイシンは、特公昭42-6818 号公
報に示されるごとく、ストレプトミセス・カスガエンシ
スの産生する抗生物質であって一般式(I) :
【0003】
【化1】
【0004】で示される化学構造を有し、植物、魚類、
家畜などへの病害微生物の成長阻止作用を有しているこ
とから、たとえば特公昭63-56202号公報、特公平1-3344
7 号公報などで示されるごとく、農園芸用、水畜産用な
どの抗菌剤として広く利用されている。
【0005】一般に、抗生物質は耐性菌の出現に悩まさ
れ、安全性の高い新たな誘導体の確立が望まれている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明者らはカスガマ
イシンの本来の抗菌作用を有し、安全性の高いカスガマ
イシンの糖誘導体に着目し、鋭意研究した。
【0007】その結果、新規物質α−D−グリコシルカ
スガマイシンを見い出すとともにその製造法およびそれ
を含有する抗菌剤を確立して本発明を完成した。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明は、α−D−グリ
コシルカスガマイシン、カスガマイシンと澱粉質とを含
有する溶液に糖転移酵素を作用させ、α−D−グリコシ
ルカスガマイシンを生成せしめ、これを採取することを
特徴とするα−D−グリコシルカスガマイシンの製造
法、カスガマイシンと澱粉質とを含有する溶液に糖転移
酵素を作用させてα−D−グリコシルカスガマイシンを
生成せしめ、ついで、この溶液をH型強酸性カチオン交
換樹脂に接触させて精製し、α−D−グリコシルカスガ
マイシンを採取することを特徴とするα−D−グリコシ
ルカスガマイシンの製造法およびα−D−グリコシルカ
スガマイシンを含有する抗菌剤に関する。
【0009】本発明のα−D−グリコシルカスガマイシ
ンは、安全性が高く、その上、α−グルコシダーゼによ
って容易に加水分解されてカスガマイシン本来の生理効
果を発揮するという理想的な物質であることが判明し
た。
【0010】本発明のα−D−グリコシルカスガマイシ
ンの製造法は、カスガマイシンと澱粉質とを含有する溶
液に糖転移酵素を作用させ、α−D−グリコシルカスガ
マイシンを生成せしめ、これを採取すればよいことが判
明した。
【0011】以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】本発明に用いるカスガマイシン、α−D−
グリコシルカスガマイシンまたはα−D−グルコシルカ
スガマイシンは、不都合が生じない限り、それらの塩
類、たとえば塩酸塩をも意味するものとする。
【0013】本発明に用いるカスガマイシンは、一般に
精製されたカスガマイシンが望ましい。また、必要なら
ばカスガマイシンを産生せしめたストレプトミセス属に
属する微生物の培養物またはその部分精製物などが適宜
使用できる。
【0014】本発明に用いる澱粉質とは、澱粉または澱
粉を加工したものも含み、同時に用いる糖転移酵素によ
ってα−D−グルコシルカスガマイシン、α−マルトシ
ルカスガマイシン、α−マルトトリオシルカスガマイシ
ン、α−マルトテトラオシルカスガマイシンなどのグル
コース残基がカスガマイシンに等モル以上結合したα−
D−グリコシルカスガマイシンを生成することができる
ものであればよく、かかる澱粉質の具体例としては、た
とえばアミロース、デキストリン、シクロデキストリ
ン、マルトオリゴ糖などの澱粉部分分解物、さらには液
化澱粉、糊化澱粉などがあげられる。
【0015】さらに、α−D−グリコシルカスガマイシ
ンの生成を容易にするためには、糖転移酵素の作用に好
適な澱粉質が選ばれる。
【0016】たとえば、糖転移酵素としてα−グルコシ
ダーゼ(EC 3.2.1.20 )を用いる際には、マルトース、
マルトトリオース、マルトテトラオースなどのマルトオ
リゴ糖、またはDE(Dextrose Equivalent 、以下DE
と略す)約10〜70の澱粉部分分解物などが好適であり、
シクロマルトデキストリン グルカノトランスフェラー
ゼ(EC 2.4.1.19 )を用いる際には、シクロデキストリ
ンまたはDE1以下の澱粉糊化物からDE約60の澱粉部
分分解物などが好適である。α−アミラーゼ(EC 3.2.
1.1)を用いる際には、DE1以下の澱粉糊化物からD
E約30のデキストリン、澱粉部分分解物などが好まし
い。
【0017】本発明でいうカスガマイシンと澱粉質とを
含有する溶液とは、カスガマイシンをできるだけ高濃度
に含有するものが望ましく、かかる溶液の具体例として
は、たとえばpH7.0 未満の酸性側pHで溶解させた溶
液があげられ、その濃度は、カスガマイシンとして約1.
0 w/v%以上の濃度であり、好ましくは、約5.0 〜2
0.0w/v%含有している溶液が適している。
【0018】本発明に用いる糖転移酵素は、カスガマイ
シンとこの酵素に好適な性質の澱粉質とを含有する溶液
に作用させる時、カスガマイシンを分解せずにα−グリ
コシルカスガマイシンを生成するものであればいずれの
ものでもよい。かかる糖転移酵素の具体例としては、た
とえばブタの肝臓、ソバの種子もしくはイネの種子など
の動植物由来のα−グルコシダーゼまたはムコール(Mu
cor )属、ペニシリウム(Penicillium )属などに属す
るカビもしくはサッカロミセス(Saccharomyces )属な
どに属する酵母などを栄養培地で培養することによりえ
られる微生物の培養物由来のα−グルコシダーゼ、バチ
ルス(Bacillus)属またはクレブシーラ(Klebsiella)
属などに属する細菌の培養物由来のシクロマルトデキス
トリン グルカノトランスフェラーゼ、バチルス(Bacill
us)属などに属する細菌もしくはアスペルギルス(Aspe
rgillus )属などに属するカビの培養物由来のα−アミ
ラーゼなどがあげられる。
【0019】これらの糖転移酵素は、前記の条件を満足
しさえすればよく、必ずしも精製して使用する必要はな
く、通常は、粗酵素で用いても本発明の目的を達成する
ことができる。精製が必要なばあいには、公知の各種方
法で精製して使用してもよく、市販の糖転移酵素を利用
することもできる。
【0020】反応時のpHと温度は、カスガマイシンの
安定性がえられ、かつ、α−D−グリコシルカスガマイ
シンが生成すればよく、pH3.0 〜7.0 、温度10〜90
℃、好ましくはpH4.0 〜6.5 、温度40〜75℃である。
【0021】使用酵素量は反応時間と密接な関係があ
り、通常は、経済性の点から約5〜80時間で反応を終了
するように酵素量が選ばれる。
【0022】また、固定化された糖転移酵素をバッチ式
で反応に利用することも適宜選択できる。
【0023】さらに、必要ならば、糖転移酵素産生能を
有する微生物、動物または植物の組織を、澱粉質とカス
ガマイシンとを含有する培地に培養してα−D−グリコ
シルカスガマイシンを生成させることもできる。
【0024】本発明の反応方法は、糖転移酵素または糖
転移酵素とグルコアミラーゼ(EC 3.2.1.3)をカスガマ
イシンと澱粉質とを含有する溶液に加え、作用させれば
よい。
【0025】前記反応に用いるグルコアミラーゼとして
は、微生物、植物など各種起源のものが利用できる。か
かるグルコアミラーゼの具体例としては、たとえばアス
ペルギルス(Aspergillus )属またはリゾープス(Rhiz
opus)属に属する微生物起源の市販のグルコアミラーゼ
があげられる。
【0026】使用する糖転移酵素を有効に利用するため
に、あらかじめ、糖転移酵素を作用させてα−D−グリ
コシルカスガマイシンを生成せしめ、ついで、グルコア
ミラーゼを作用させてグルコース残基がカスガマイシン
に等モル結合したα−D−グルコシルカスガマイシンを
蓄積生成させるのが望ましい。また、グルコアミラーゼ
とともにβ−アミラーゼ(EC 3.2.1.2)を併用すること
も随意である。
【0027】このようにしてα−D−グリコシルカスガ
マイシンを生成せしめた反応溶液は、通常、α−D−グ
リコシルカスガマイシンとともに未反応カスガマイシン
およびグルコース、マルトオリゴ糖などを含有してお
り、そのままでα−D−グリコシルカスガマイシン製品
にすることもできる。
【0028】一般的には、反応溶液を濾過、濃縮してシ
ロップ状とし、そののちに乾燥、粉末化することにより
粉末状のα−D−グリコシルカスガマイシン製品とす
る。さらに、精製されたα−D−グリコシルカスガマイ
シン製品を製造するばあいには、たとえば、H型強酸性
カチオン交換樹脂による吸着性の差を利用してα−D−
グリコシルカスガマイシンとグルコース、オリゴ糖など
の夾雑物を分離、精製すればよい。かかるH型強酸性カ
チオン交換樹脂の具体例としては、たとえばスルホン基
を結合したスチレン- ジビニルベンゼン架橋共重合体樹
脂のH型が使用され、市販品としては、たとえばダウエ
ックス50W-X2、ダウエックス50W-X4またはダウエックス
50W-X8(商品名、ダウケミカル社製)、アンバーライト
IR-116、アンバーライトIR-118またはアンバーライトIR
-124(商品名、ローム アンド ハース社製)、ダイヤ
イオンSK 1B 、ダイヤイオンSK 102またはダイヤイオン
SK 104(商品名、三菱化成工業(株)製)などがあげら
れる。
【0029】本発明のα−D−グリコシルカスガマイシ
ンを生成せしめた反応液の精製法は、反応液を、たとえ
ばH型強酸性カチオン交換樹脂を充填したカラムに通液
すると、α−D−グリコシルカスガマイシンおよび比較
的少量の未反応カスガマイシンが、H型強酸性カチオン
交換樹脂に吸着するのに対し、多量に共存するグルコー
ス、マルトオリゴ糖などの水溶性糖類は吸着されること
なくそのまま流出する。
【0030】必要ならば、H型強酸性カチオン交換樹脂
に接触させるまでの間に、たとえば、反応液を加熱して
生じる不溶物を濾過して除去するなどの精製法を組み合
わせて利用することも随意である。
【0031】前述のようにして、H型強酸性カチオン交
換樹脂カラムに選択的に吸着した大量のα−D−グリコ
シルカスガマイシンと比較的少量の未反応カスガマイシ
ンとは、希酸などの酸性水溶液で洗浄したのち、たとえ
ば、苛性ソーダ水、アンモニア水などのアルカリ性水溶
液を通液すれば、α−D−グリコシルカスガマイシンお
よび未反応カスガマイシンが溶出してくるので、これを
採取すればよい。
【0032】ついで、適当な濃度にまで濃縮すれば、α
−D−グリコシルカスガマイシンを主成分とするシロッ
プ状製品がえられる。さらに、これを乾燥し粉末化する
ことによって、α−D−グリコシルカスガマイシンを主
成分とする粉末状製品がえられる。
【0033】また、糖転移酵素とグルコアミラーゼとを
作用させて、グルコース残基がカスガマイシンに等モル
結合したα−D−グリコシルカスガマイシンを蓄積生成
せしめた溶液を、H型強酸性カチオン交換樹脂を用いて
精製して、高純度のα−D−グリコシルカスガマイシン
を製造することもできる。
【0034】また、必要ならば、前述のH型強酸性カチ
オン交換樹脂を利用する方法とは別の方法、たとえば、
溶解度分別法、分子量分画法、膜濃縮法、高速液体クロ
マトグラフィー、カラムクロマトグラフィーなどの方法
を採用するか、または、これらの1種または2種以上の
方法をH型強酸性カチオン交換樹脂を利用する方法と併
用して、さらに高純度のα−D−グリコシルカスガマイ
シンを調製することも随意である。必要ならば、α−D
−グリコシルカスガマイシンを過飽和溶液から晶出さ
せ、この結晶を分離してさらに高純度のα−D−グリコ
シルカスガマイシンを製造することも随意である。
【0035】前述のようにしてえられたα−D−グリコ
シルカスガマイシンは、α−グルコシダーゼによって、
容易にカスガマイシンとD−グルコースとに加水分解さ
れ、カスガマイシン本来の生理活性を発揮することか
ら、農園芸用、水畜産用などの抗菌剤として有利に利用
される。
【0036】農園芸用抗菌剤としては、イネの病害微生
物ピリキュラリア・オリゼ(Piricularia oryzae)また
はシュードモナス・グルメ(Pseudomonas glumae)など
をはじめとして、メロン、トマト、ニンジンまたはキャ
ベツなどの病害微生物の防除に、葉面または圃場散布す
ることにより、水畜産用抗菌剤としては、養殖魚類、家
畜の病害微生物の生育阻止に、通常、飼餌料に配合して
投与することにより用いられる。
【0037】抗菌剤は、その目的に応じてその形状を自
由に選択できる。たとえば、噴霧剤などの液剤または散
剤、顆粒剤などの固形製剤である。製剤にあたっては、
必要に応じて、他の成分、たとえば、生理活性物質、抗
生物質、補助添加剤(賦形剤、結合剤、崩壊剤など)、
増量剤、安定剤、着色剤、香料などの1種または2種以
上と併用するこも随意である。
【0038】投与量は、通常、公知のカスガマイシンに
準じて用いればよく、必要に応じて、含量、投与方法、
投与頻度などによって適宜調節することができる。通
常、α−D−グリコシルカスガマイシンとして、1,000p
pm未満、望ましくは、5〜800ppmの濃度になるよう使用
され、圃場または苗床のばあい、1m2 り、約0.1 〜
20.0gの範囲が好適である。
【0039】α−D−グリコシルカスガマイシンを含有
せしめる方法としては、抗菌剤の製品が完成するまでの
工程で、たとえば、混和、混捏、溶解、浸漬、浸透、散
布、塗布、注入などの公知の方法が適宜選ばれる。
【0040】以下、本発明のα−D−グリコシルカスガ
マイシンの一例として、α−D−グルコシルカスガマイ
シンについて詳細に説明する。
【0041】実験例1 α−D−グルコシルカスガマイ
シンの調製 カスガマイシン(シグマ ケミカル カンパニー(Sigma
Chemical Company)製、米国)5g、デキストリン(パ
イン- デックス(PINE-DEX)#1、商品名、松谷化学工業
(株)製)50g、塩化カルシウム60mgおよびバチルス・
ステアロサーモフィラス(Bacillus stearothermophilu
s )由来のシクロマルトデキストリン グルカノトラン
スフェラーゼ((株)林原生物化学研究所製)7,000 単
位に、0.1M酢酸塩緩衝液(pH5.5 )を加えて100ml
とし、50℃で2日間反応させた。反応液を薄層クロマト
グラフィーで分析したところ、カスガマイシンのかなり
の部分がグルコース残基を等モル以上結合したα−D−
グリコシルカスガマイシンに変換していた。この反応液
にリゾプス・ニベウス(Rhizopus niveus )由来のグル
コアミラーゼ(生化学工業(株)製)を800 単位加え、
37℃で6時間反応させた。反応液を薄層クロマトグラフ
ィーで分析したところ、D−グルコース、α−D−グル
コシルカスガマイシンおよびカスガマイシンを含有して
いた。
【0042】反応液を沸騰水で10分間加熱して酵素を失
活させ、これにメタノールを等量加えて、濾過し、濾液
を減圧濃縮し、この濃縮液をH型強酸性カチオン交換樹
脂、ダウエックス(DOWEX )-X8 (H型)(商品名、ダ
ウケミカル社製)に接触させ、ついで、0.01N塩酸と水
で洗浄してグルコースなどの夾雑物を除去したのち、1
%アンモニア水で、α−D−グルコシルカスガマイシン
およびカスガマイシンを溶出、採取し、塩酸で中和し、
濾過した濾液を凍結乾燥し、粉末化した。本粉末を水で
溶解し、これをセファデックス(Sephadex)G-10(商品
名、ファルマシア エルケービー(Pharmacia LKB) 社
製、スウェーデン)5.6 ×62cmに充填したカラムを用い
てゲル濾過し、α−D−グルコシルカスガマイシン高含
有画分を採取し、濾過し、濾液を凍結乾燥し、粉末化し
て、高純度α−D−グルコシルカスガマイシン粉末をえ
た。
【0043】この粉末の理化学的性質を調べたところ、
従来全く知られていないα−D−グルコシルカスガマイ
シンであることが判明した。
【0044】以下、本発明物質α−D−グルコシルカス
ガマイシンの理化学的性質について述べる。
【0045】(1)薄層クロマトグラフィー 本発明のα−D−グルコシルカスガマイシンと対照のカ
スガマイシンの薄層クロマトグラフィーによる結果を表
1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】(2)赤外線吸収スペクトル KBr錠剤法で測定した。結果を図1に示す。
【0048】本発明のα−D−グルコシルカスガマイシ
ンの赤外線吸収スペクトルを実線で示し、対照のカスガ
マイシンのそれを点線で示す。
【0049】(3)薬剤に対する溶解性 水、酢酸、0.1 N- 水酸化ナトリウム、0.1 N- 塩酸に
易溶。メタノール、エタノールに難溶。クロロホルム、
酢酸エチルに不溶。室温下での水に対する溶解度が、カ
スガマイシンのばあいの5倍以上に向上した。
【0050】(4)物性、物質の色 無臭の白色粉末。水溶液は中性ないし酸性を示す。
【0051】(5)安定性 水溶液の安定性は、pH3.0 〜7.0 ですぐれている。
【0052】(6)呈色反応 アントロン- 硫酸反応で緑色を呈する。フェーリング氏
液還元反応は陰性。
【0053】(7)構造 (a) 加水分解 ブタの肝臓、イネ種子またはムコール属微生物由来のα
−グルコシダーゼで容易に加水分解され、カスガマイシ
ン1モルに対し、D−グルコース1モルを生成する。
【0054】(b) NMR 本発明物質とカスガマイシンとについて、NMR測定装
置(VXR装置-500ハ゛リアン(Varian)社製、米国)を用い
て測定した。測定溶媒は、重水(D2 O)を用いた。結
果を図2に示す。本発明の一例としてのα−D−グルコ
シルカスガマイシンの13C- NMRスペクトルを(A)
に、対照のカスガマイシンを(B)に示す。
【0055】図2の結果から、カスガマイシンのイノシ
トール残基部分に、大きなケミカルシフトが見出された
ことにより、糖転移したグルコースの結合は、カスガマ
イシンのイノシトール残基の水酸基にエーテル結合して
いるものと判断される。
【0056】以上の理化学的性質から、本発明物質は、
一般式(II):
【0057】
【化2】
【0058】で示される新規物質α−D−グルコシルカ
スガマイシンであることが判明した。
【0059】また、これらの結果から、カスガマイシン
と澱粉質とを含有する溶液にシクロデキストリン グル
カノトランスフェラーゼを作用させて生成されるカスガ
マイシンにグルコース残基が等モル以上結合したα−D
−グリコシルカスガマイシンは、一般式(III) :
【0060】
【化3】
【0061】(式中、nは1以上の整数を表わし、nが
1のばあいはα−D−グルコシルカスガマイシン、nが
2のばあいはα−マルトシルカスガマイシン、nが3の
ばあいはα−マルトトリオシルカスガマイシン、nが4
のばあいはα−マルトテトラオシルカスガマシインを表
わす)で示される構造を有しているものと判断される。
【0062】実験例2 急性毒性試験 7週齢のdd系マウスを使用して、α−D−グルコシル
カスガマイシンを腹腔内投与して、急性毒性試験をした
ところ、kg当り3,000mg まで死亡例は見られず、本物質
の毒性は極めて低い。
【0063】以下、本発明の実施例としてα−D−グリ
コシルカスガマイシンの製造例およびα−D−グリコシ
ルカスガマイシンの用途例を述べる。
【0064】実施例1 α−D−グリコシルカスガマイ
シン カスガマイシン(シグマ ケミカル カンパニー製)1
重量部およびデキストリン(DE8)8重量部を水40重
量部に加熱溶解し、これにバチルス・ステアロサーモフ
ィラス(Bacillus stearothermophilus )由来のシクロ
マルトデキストリン グルカノトランスフェラーゼ
((株)林原生物化学研究所製)をデキストリングラム
当り20単位加え、pH6.0 に調製して65℃で48時間反応
させた。反応液を薄層クロマトグラフィーで分析したと
ころ、大部分が、α−D−グルコシルカスガマイシン、
α−マルトシルカスガマイシン、α−マルトトリオシル
カスガマイシン、α−マルトテトラオシルカスガマイシ
ンなどのグルコース残基を等モル以上結合したα−D−
グリコシルカスガマイシンに変換していた。
【0065】この反応液を加熱して酵素を失活させ、濾
過し、濃縮し、固形物当り約20w/w%のα−D−グリ
コシルカスガマイシンとともに少量のカスガマイシンお
よび大量のデキストリンを含有するシロップ状製品を、
固形物当り原料重量に対して約95%の収率でえた。
【0066】本品は、安全性の高い抗菌剤として、農園
芸用、水畜産用などに有利に利用できる。
【0067】実施例2 α−D−グリコシルカスガマイ
シン (1)α−グルコシダーゼ標品の調製 マルトース4w/v%、リン酸1カリウム0.1 w/v
%、硝酸アンモニウム0.05w/v%、塩化カリウム0.05
w/v%、ポリペプトン0.2 w/v%、炭酸カルシウム
1w/v%(別に乾燥して植菌時に無菌的に添加)およ
び水からなる液体培地500 重量部にムコール ジャバニ
カス(Mucor javanicus )IFO 4570(財団法人 発酵研
究所(Institute for Fermentation, OSAKA(IFO)))を植
菌し、温度30℃で44時間振盪培養した。培養終了後、菌
糸体を採取し、その湿菌体48重量部に対し、0.5 M酢酸
緩衝液(pH5.3 )に溶解した4M尿素500 重量部を加
え、30℃で40時間保存したのち、遠心分離した。この上
清を流水中で一夜透析したのち、硫安0.9 飽和とし、4
℃で一夜放置して生成した塩析物を濾取し、0.01M酢酸
緩衝液(pH5.3 )50重量部に懸濁したのち、遠心分離
して上清を採取し、α−グコシダーゼ製品とした。
【0068】(2) α−D−グリコシルカスガマイシ
ンの調製 カスガマイシン(シグマ ケミカル カンパニー製)4
重量部およびデキストリン(DE30)20重量部を水30重
量部に加熱溶解し、これに(1)の方法で調製したα−
グルコシダーゼ標品10重量部を加え、pH6.5 に維持し
て撹拌しつつ55℃で40時間反応させた。
【0069】反応液を薄層クロマトグラフィーで分析し
たところ、大量のα−グルコシルカスガマイシン、α−
マルトシルカスガマイシン、α−マルトトリオシルカス
ガマイシンなどのα−D−グリコシルカスガマイシンを
生成していた。この反応液を加熱して酵素を失活させ、
濾過し、濾液をH型強酸性カチオン交換樹脂、ダイヤイ
オンSK-1B (商品名、三菱化成工業(株)製)のカラム
にSV2で通液した。その結果、溶液中の大量のα−D
−グリコシルカスガマイシンと少量のカスガマイシンと
が陽イオン交換樹脂に吸着し、グルコース、オリゴ糖な
どは吸着することなく流出した。ついで、カラムを酸性
水で通液、洗浄したのち、アンモニア水溶液を通液し、
α−D−グリコシルカスガマイシンおよびカスガマイシ
ンを溶出、採取し、減圧濃縮、乾燥し、粉末化してα−
D−グリコシルカスガマイシンとともにカスガマイシン
を含有する粉末状製品を原料のカスガマイシン重量に対
して約90%の収率でえた。
【0070】本品は、安全性の高い抗菌剤として農園芸
用、水畜産用なに有利に利用できる。
【0071】実施例3 α−D−グルコシルカスガマイ
シン カスガマイシン(シグマ ケミカル カンパニー製)1
重量部およびデキストリン(DE12)10重量部を水15重
量部に加熱溶解し、これにシクロマルトデキストリング
ルカノトランスフェラーゼ((株)林原生物化学研究所
製)をデキストリングラム当り20単位加え、pH6.0 、
温度70℃に維持し撹拌しつつ64時間反応させた。反応液
を薄層クロマトグラフィーで分析したところ、大部分
が、グルコース残基を等モル以上結合したα−D−グリ
コシルカスガマイシンに変換していた。反応液を実施例
1と同様に加熱して酵素を失活させ、pH5.0 に調製
し、これにグルコアミラーゼ(生化学工業(株)製)を
固形物グラム当り100 単位加え50℃で5時間反応させ
た。
【0072】反応液を加熱して酵素を失活させ、濾過
し、濾液をH型強酸性カチオン交換樹脂、アンバーライ
トIR-116(商品名、ローム アンド ハース社製)のカ
ラムにSV1.5 で通液した。その結果、溶液中のα−D
−グルコシルカスガマイシンと未反応のカスガマイシン
とがカチオン交換樹脂に吸着し、グルコースは吸着する
ことなく流出した。ついで、カラムを酸性水で通液、洗
浄したのち、アンモニア水溶液を通液し、α−D−グル
コシルカスガマイシンおよびカスガマイシンを溶出、採
取し、減圧濃縮し、乾燥し、粉末化して粉末状のα−D
−グルコシルカスガマイシン製品を固形物当り原料のカ
スガマイシン重量に対して約80%の収率でえた。
【0073】本品は、安全性の高い抗菌剤として農園芸
用、水畜産用などに有利に利用できる。
【0074】実施例4 水和剤 実施例1の方法でえたα−D−グリコシルカスガマイシ
ン含有シロップ状製品10重量部、ホワイトカーボン2重
量部、ドデシルベンゼンスルホン酸ソーダ3重量部、リ
グニンスルホン酸ソーダ2重量部およびクレー90重量部
を混合し粉砕して水和剤を製造した。
【0075】本品を水で約500 〜1,000 倍に希釈し、イ
ネ生育中の圃場1アールり100 〜150 Lの割合で散布
すれば、イネいもち病を防除することができる。
【0076】実施例5 粉剤 実施例2の方法でえたα−D−グリコシルカスガマイシ
ン含有粉末状製品0.3重量部、タルク90重量部およびホ
ワイトカーボン5重量部を均一に混合粉砕して粉剤を製
造した。
【0077】本品を、そのまま、イネ生育中の圃場1ア
ールり約2〜4kgの割合で散布すれば、イネいもち病
を防除することができる。
【0078】実施例6 粒剤 実施例3の方法でえたα−D−グルコシルカスガマイシ
ン含有粉末状製品2重量部、リグニンスルホン酸ソーダ
3重量部、ラウリル硫酸ソーダ2重量部およびクレー90
重量部に水を加えてよく混練し、ペレッターにて造粒
し、乾燥、篩別して粒剤を製造した。
【0079】本品は、そのまま、イネ生育中の圃場10ア
ール当り約2〜4kgの割合で施用すれば、イネいもち病
を防除することができる。
【0080】
【発明の効果】前述のごとく、本発明の新規物質α−D
−グリコシルカスガマイシンは、水溶性、安定性にすぐ
れ、しかもα−グルコシダーゼにより容易にカスガマイ
シンとD−グルコースとに加水分解され、カスガマイシ
ン本来の生理活性を発揮する。
【0081】また、このα−D−グリコシルカスガマイ
シンが、カスガマイシンと澱粉質とを含有する溶液に、
糖転移酵素を、または、糖転移酵素とグルコアミラーゼ
とを作用させる生化学的手法により容易に生成できるこ
とにより、経済性にすぐれ、その工業実施も容易であ
る。
【0082】また、このようにしてえられるα−D−グ
リコシルカスガマイシンは、安全性の高い抗菌剤として
農園芸用、水畜産用などに有利に利用される。
【0083】したがって、本発明によるα−D−グリコ
シルカスガマイシンの確立は、農薬産業における工業的
意義がきわめて大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一例としてのα−D−グルコシルカス
ガマイシンと対照のカスガマイシンの赤外線吸収スペク
トルを示す図である。
【図2】本発明の一例としてのα−D−グルコシルカス
ガマイシンと対照カスガマイシンの13C- NMRを示す
図である。
【符号の説明】
G−1 α−D−グルコースの1位の炭素 G−3 α−D−グルコースの3位の炭素 G−6 α−D−グルコースの6位の炭素
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 平3−7593(JP,A) 特開 平3−27293(JP,A) 特開 昭62−259594(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C07H 1/00 - 23/00 C12P 19/00 - 19/64 REGISTRY/CA(STN) JICSTファイル(JOIS)

Claims (7)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 カスガマイシンと澱粉質とを含有する溶
    液に、α−グルコシダーゼおよびシクロマルトデキスト
    リングルカノトランスフェラーゼから選ばれる糖転移酵
    素を作用させて得ることのできる、一般式(III): 【化1】 (式中、nは1以上の整数)で示される構造を有する、
    カスガマイシンにグルコース残基が等モル以上結合した
    α−D−グリコシルカスガマイシン。
  2. 【請求項2】 α−D−グリコシルカスガマイシンが、
    α−D−グルコシルカスガマイシンである請求項1記載
    のα−D−グリコシルカスガマイシン。
  3. 【請求項3】 カスガマイシンと澱粉質とを含有する溶
    液に、α−グルコシダーゼおよびシクロマルトデキスト
    リングルカノトランスフェラーゼから選ばれる糖転移酵
    素を作用させ請求項1または2記載のα−D−グリ
    コシルカスガマイシンを生成せしめ、これを採取するこ
    とを特徴とするα−D−グリコシルカスガマイシンの製
    造法。
  4. 【請求項4】 カスガマイシンと澱粉質とを含有する溶
    液に、α−グルコシダーゼおよびシクロマルトデキスト
    リングルカノトランスフェラーゼから選ばれる糖転移酵
    素を作用させて、請求項1または2記載のα−D−グリ
    コシルカスガマイシンを生成せしめ、ついで、この溶液
    をH型強酸性カチオン交換樹脂に接触させて精製し、α
    −D−グリコシルカスガマイシンを採取することを特徴
    とするα−D−グリコシルカスガマイシンの製造法。
  5. 【請求項5】 前記糖転移酵素とともにグルコアミラー
    ゼを用いることを特徴とする請求項3または4記載の製
    造法。
  6. 【請求項6】 α−D−グリコシルカスガマイシンがα
    −D−グルコシルカスガマイシンである請求項3、4ま
    たは5記載の製造法。
  7. 【請求項7】 請求項1または2記載のα−D−グリコ
    シルカスガマイシンを1種以上含有する抗菌剤。
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