JP3365624B2 - 被削性および熱処理性に優れた工具鋼およびそれを用いた金型 - Google Patents

被削性および熱処理性に優れた工具鋼およびそれを用いた金型

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JP3365624B2 JP2000151440A JP2000151440A JP3365624B2 JP 3365624 B2 JP3365624 B2 JP 3365624B2 JP 2000151440 A JP2000151440 A JP 2000151440A JP 2000151440 A JP2000151440 A JP 2000151440A JP 3365624 B2 JP3365624 B2 JP 3365624B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、自動車、家庭電化
製品、農機具等に使用される鋼板の打抜、曲げ、絞りあ
るいはトリミング用の金型等に使用される工具鋼に関す
るものである。
【0002】
【従来の技術】自動車メーカー等では、価格競争に打ち
勝ち収益を確保するために、これまであらゆる分野での
コスト低減を実施してきた。その分野は金型関連までに
もおよび、コスト低減のため、プレス金型で成形される
製品の製作工程の短縮や金型製作数の削減、更には、金
型の加工方法や工具の開発等、種々の低減施策が実施さ
れてきた。
【0003】このような金型において、従来より使用さ
れる金型材、特に冷間加工用金型材には、耐摩耗性付与
のため炭化物を多量に含み、更に、焼入れ性に優れかつ
靭性を確保するためCr含有量が多い材料が求められて
おり、例えば、JIS G4404規定の合金工具鋼鋼
材であるSKD11等の高C−高Cr系鋼が使用されて
いる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかし、近年の傾向と
しては、切削加工工数を圧縮させる様々な動きが激しく
なってきている。もともと造形技術の中でも、高コスト
である切削加工は、塑性加工の進歩により更にその高コ
スト性が鮮明となり、それに対抗する形で、CBN、コ
ーティング工具の開発、高速切削機の出現、NCアルゴ
リズムの進歩等の新技術の開拓が進んできている。この
流れに呼応して、被削性を改善した工具鋼としては、S
KD11近似組成にSを添加する快削工具鋼が存在す
る。しかし、切削様式は多彩に存在し、単なるS添加だ
けではエンドミル、フライス、ドリル等の様々な切削様
式や切削条件に対応しない。
【0005】更に、高速切削機の出現で60HRCの焼
入れ焼戻し状態での加工が出来るという報告が相次いで
いる。しかし、まだまだ荒加工等で切削は困難な状態に
なっている。高硬度材の被削性は上記のようなSKD1
1にSを添加しただけのものでは向上せず、炭化物の存
在自体を減らす必要があるためである。
【0006】また、切削と同様、熱処理時の変寸も問題
となっている。この熱処理変寸が大きいと取りしろを多
くしなければならず、結果として仕上げ加工工数を引き
上げるからである。SKS3は低合金工具鋼でSKD1
1より格段に被削性が良好だが、焼入性が悪く油焼入れ
になるためそりが発生しやすくなる。また、1980年
代に開発された8%Cr系ダイス鋼は焼入性は良好であ
るが、熱処理変寸や経年変形が起きやすく、結果的に削
り難いSKD11の熱処理変寸が良好となっている。
【0007】つまりそれぞれ一長一短があり、熱処理特
性がSKD11並みで被削性はSKS3並みの工具鋼が
望まれているのが現状である。とくに熱処理性において
はSKD11と同一熱処理炉に混載が出来ることが熱処
理作業の合理化の点で強く望まれている。そこで、本発
明は、靭性等の機械的性質を低下させずに、被削性と熱
処理特性の両者が優れた工具鋼を提供するものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】発明者らは、靭性や耐摩
耗性といった基本的な機械的特性の維持を鑑みた上で、
被削性と熱処理性の改善に要求される基本条件を見直し
た。
【0009】まず、工具鋼を削る際の様々な切削様式を
検討し、チッピングタイプの損傷と熱的損傷の2つに分
別できることが判明した。そして、この両者が1つの工
具の別部位に同時に形成される方法として、特定の条件
下でのスクウェアーエンドミルで実現できることを掴ん
だ。具体的には刃先は機械的損傷、被削材とのあたりが
終了する境界部には熱的損傷が発生することを突きとめ
た。この方法で両者の損傷機構を低減化する快削化手法
を種々検討した。
【0010】その結果、工具鋼に存在する一次炭化物の
低減は機械的損傷を防ぎ、S添加が熱的損傷を防ぐこと
を見いだした。そして、この両者の効果を同時に発現さ
せることで幅広い切削様式、切削条件に対応させること
を考え、その効果の達成に最適な工具鋼を見いだすに至
った。
【0011】すなわち、本発明は、質量%で、(Cr+
5.9×C)の値が9.1以上12.5以下となり、か
つ(Cr−4.2×C)が5以下で(Cr−6.3×
C)が2.285以上となる関係式を満たし、Si:
0.1〜0.6%、MoまたはWの1種あるいは2種を
(Mo+1/2W):0.6〜1.25%、V:0〜
0.5%未満を含有した工具鋼である。好ましくはこれ
らに加え、Mn:0.1〜1.2%、更にはS:0.1
2%以下、Ca:100ppm以下を含有し、残部がF
eおよび不可避の不純物からなる工具鋼である。あるい
は更に、Ni:1%以下、Al:0.6%以下を含有す
る工具鋼である。
【0012】そして、焼入れ後のCrのマトリックス偏
析幅が質量で1%以下、または、500℃以上の焼戻し
によりその最高焼戻し硬さが57HRC以上である工具
鋼である。加えて、500℃以上の焼戻しにより発生す
る熱処理変寸が焼入れ前基準、線膨張率換算で0.1%
以下でかつ、490℃での焼戻しで熱処理変寸が0以下
である工具鋼であって、これら本発明の工具鋼を55H
RC以上の硬さに調質し、切削加工を行うことで作製し
た金型である。
【0013】
【発明の実施の形態】本発明の特徴は、SKD11と近
似された熱処理特性と、かつSKS3並みの被削性を同
時に有した工具鋼を達成したところにある。以下、本発
明の工具鋼を見いだすに至った詳細について説明する。
【0014】炭化物量を減少させる領域で、ディファク
トスタンダードの工具鋼であるSKD11とほぼ同じ熱
処理が出来る成分設計を行った。同一の熱処理特性を得
るには、焼入れ時に基地に固溶させる組成をSKD11
に近づけることを基本方針とした。図1はサーモカルク
によって決定した成分設計線図の全体、図2は本発明に
相当する領域を拡大した成分設計線図である。(A)線
は焼入れ時のSKD11と同一固溶C量が得られる添加
成分平面上の線を示す。同様に(B)線はSKD11と
の同一固溶Cr量線を示す。両者とも途中で折れ曲がっ
ているのは、(C)線以上から炭化物が残留するため合
金元素が炭化物に取られてしまい、添加成分を多くしな
いと基地の固溶元素を同一に維持できないためである。
【0015】(A)、(B)の2つの線は基本的には、
SKD11の組成でしか交わらないので、同一焼入れ温
度でマトリックス組成をSKD11と同一にすることは
不可能である。しかし、それでも(C)線以上では
(A)、(B)線が接近しているのでSKD11に近似
した基地組成となる。ただし、この線を更に接近させよ
うとして添加C、Cr量を上げてゆくと、残留炭化物量
が多くなり、チッピングタイプの工具摩耗が促進され被
削性が劣化する。また耐久性の面でも疲労破壊が起こり
やすくなるために、応力集中の起こりやすい金型への使
用も限定される。この相反関係を実験的に明らかにし、
被削性が優れ、熱処理特性がSKD11に近似した領域
こそが図2に図示されている本発明の工具鋼である。
【0016】また近年、熱処理特性の中で特に重要視さ
れてきたのが、熱処理変寸である。金型の品質は、耐久
性もさることながら、最近では形状精度が特に注目視さ
れてきており、SKD11はこの点でも評価が高い。こ
の熱処理変寸の制御に関する考え方を以下に示す。
【0017】この熱処理変寸挙動の原理図を図3に示
す。焼入れままでは、主体となっているマルテンサイト
組織中に固溶するCによって結晶格子が押し広げられ、
膨張する。焼戻し温度を上げてゆくと、低、中温領域
(図3(A)域)ではセメンタイトが析出して寸法変化
が収縮傾向となる。高温域では、2次硬化とほぼ同じ温
度で変寸率が最大になる。この最大値が発生するのは、
この最大値の低温側(図3(B)域)と高温側(図3
(C)域)で主に起こる2つの機構による。低温側では
残留オーステナイトの分解が温度を上げるとより多くな
り、膨張傾向が発生する。最大値よりも高温側ではM
、M23系の炭化物の析出・凝集によりマルテ
ンサイト中の固溶C量が低下してゆくため、収縮傾向が
発生する。
【0018】この(A)、(B)、(C)の機構を用い
てSKD11は硬さを維持しながら(B)、(C)間で
起こる変寸を押さえる組成となっており、マトリックス
組成をSKD11に近似化した本発明の発想の源泉はこ
こにある。そのため、SKD11の主要合金元素のC、
Crだけでなく、図3にも示されているような、セメン
タイト析出を制御するSi、M、M23系炭
化物の析出を制御するMo、Wの最適化も行っている。
【0019】また、本発明の成分系では平衡状態図上で
は一次炭化物が晶出し難い成分域であるため、急冷凝
固、あるいは1100〜1400℃程度の拡散焼鈍を行
い、一次炭化物を消失あるいは減少させる処置を行うと
更なる被削性向上につながる。
【0020】これに加えて、S添加による熱処理変寸の
作用を検討した。その結果、S添加が0.12%を超え
ると、熱処理変寸が大きくなることを見いだした。従来
はこのような報告がなかったが、その原因はS添加を多
用する快削鋼系では、熱処理変寸は問題視され難いこと
が考えられる。一方、工具鋼系では残留炭化物が多いた
め、変寸を拘束する作用が働いてSの変寸に対する効果
を検出できなかったものと推定される。これにより、変
寸の少ない0.12%以下の組成に調整する必要性があ
ることを見いだした。
【0021】次に、本発明の熱処理・表面処理性につい
て述べておく。本発明は、C含有量の抑制による耐摩耗
性の不足が生じた場合にも対処すべく、表面処理性をも
十分に確保するものである。表面処理には浸炭、窒化、
PVD、CVD処理があるが、この中で処理母材の性質
よっては処理が困難となるのはCVD処理である。この
処理は、1000℃程度の状態で気化された成膜元素を
化学的に材料表面に析出させる。そのため、実質的には
材料の熱処理と同様、焼入不足、熱処理変寸大きい等の
問題が浮上する。
【0022】つまり、熱処理性の代表的指標である焼入
れ性は、あらゆる表面処理装置への適用を可能にすべく
付与するものであるが、焼入れ性の良好なSKD11に
近似して組成を用いているため、十分満足いくものとな
っている。この他、焼入れ焼戻し時の熱処理変寸量をS
KD11と同等な特性とすることが工業上の利便性を高
めるとして、マトリックスのC,Cr組成をSKD11
に近づけるため、図2に示す領域を採用することが重要
である。SKD11は熱処理変寸の少ない鋼としてゲー
ジ鋼にも採用されている。
【0023】SKD11が低熱処理変寸特性を有するの
は、高温焼き戻し領域での硬さの維持をほぼ固溶Crの
みでセメンタイト析出を抑制させる方法を採用している
ことに起因している。つまり、高温焼き戻しができる高
速度工具鋼等のMo、W、Vを積極的に添加している2
次硬化鋼は、2次硬化時におこる残留オーステナイトの
分解によって生成されるフレッシュマルテンサイトがな
かなか焼戻し収縮を起こさないため、高い熱処理変寸が
発生してしまう。
【0024】しかし、Crで同様な効果を狙った場合、
フレッシュマルテンサイト中に速やかにM等のC
r系炭化物が析出し、焼き戻しマルテンサイト化が速や
かに起こるため、マルテンサイト中の固溶C量を減らし
極端な膨張を抑制でき、これがSKD11の低熱処理変
寸性の原因である。熱処理変寸は熱処理前の仕上げ加工
の取りしろの量を左右するため被削性と同様、加工能率
を左右する重要な因子となっている。
【0025】いずれにせよ、固溶C、Cr量をSKD1
1に近似させることにより、CVD等の熱処理変寸が問
題となる表面処理の変寸や、焼入れ性、硬さ、経年変寸
ともにSKD11と実用上同一とみなせる特性となる。
これによりSKD11と同一炉での混載が可能になるた
め、表面処理作業コストの大幅な合理化を行える。
【0026】CVD等の表面処理温度でのオーステナイ
ト組織中に固溶するC量は、十分な膜厚を有するMX型
化合物(TiC、VC等)の生成に重要である。つま
り、固溶Cは、特にCVD表面処理にてMX型化合物を
生成するために、その鋼材から供給すべく必要となり、
その最適量は表面処理温度に保持する前のマルテンサイ
ト組織中に固溶するC量による。本発明の工具鋼は、そ
の固溶C量が0.4%以上を達成しているので十分な成
膜が可能である。これらに基いて、本発明の工具鋼を構
成する元素およびその含有量の限定理由について述べ
る。
【0027】C,CrはSKD11との類似性、焼入れ
直後の残留炭化物量が5(mass%)以下という観点か
ら、図1、図2に示した領域を採用している。具体的に
は1000℃から1050℃の焼入れ直後の組織中に
て、例えばサーモカルクによる計算で未固溶の炭化物の
存在量が5(mass%)以下であることが被削性の向上に
好ましいとするものである。
【0028】SKD11の熱処理特性は、焼き戻し温度
が490℃以下の領域では圧延方向での熱処理変寸がマ
イナスとなり、それよりも高い焼戻し温度ではプラスに
転じる特徴をもつ。また、この490℃よりも高い焼戻
し温度での最大の熱処理変寸量が0.1%以下でプラス
の値となることが特徴であるが、更に、これらの焼戻し
領域で57〜60HRCの硬さを確保出来る熱処理条件
が存在するという特徴も合わせ持っている。
【0029】これらをすべての特徴を満足出来る成分域
が図1、2に示した成分域ということになる。490℃
以下で必ずマイナスの変寸を経験し、それよりも高い温
度でプラスに転じる特性は、焼戻し温度を少しずつ上げ
て処理すると、どこかの条件で必ず熱処理変寸がゼロに
なる条件が存在するということであるから、変寸をゼロ
に近づける処理を熱処理条件で見いだすことが可能にな
る。このこともSKD11が技術の高い熱処理業者に支
持され、ディファクトスタンダード化されてきた背景で
あり、ここで示したC、Crのバランスが特に重要とな
る。
【0030】Siも基本的にはSKD11(Si=0.
25(mass%))との類似性を基本に設定した。ただ、
Siは、元来、脱酸剤および鋳造性改善の目的で含有す
るが、これを低減化すると靭性が向上する。しかし被削
性も劣化するため0.1%以上が必要である。一方、過
多の含有はセメンタイト析出を抑制するため、結果的に
500〜550℃の焼戻し領域で熱処理変寸が大きくな
る原因となる。このため、Siの含有量は、0.1〜
0.6%とした。
【0031】Mnも基本的にはSKD11(Mn=0.
4(mass%))との類似性を基本に設定している。Mn
は、焼入性向上のために含有するが、0.1%未満では
焼入硬さを安定して得るためには不十分である。一方、
多すぎると溶接性を劣化させる原因となり、更にSiと
同様、マトリックスの成分偏析も激しくなるので、0.
1〜1.2%とした。ただし、Mnは高価なCrやMo
等と置換できる経済的な元素でもあるが、CrやMo等
の効果が十分発揮され、Sの添加のない場合にはMnを
無添加としても良い。
【0032】MoおよびWもSKD11(Mo=0.8
5(mass%))と同等であることを基本としている。M
oおよびWは焼入性を向上する。更に、焼戻しを高温側
で行っても軟化が急におこらなくなる。そのため、硬さ
の調整が簡単になる。Wの原子量はMoの約2倍である
ため、Mo1%の含有量はW2%の含有量と等しい効果
を有し、(Mo+1/2W)量でその効果を表すことが
可能である。本発明ではMo、Wの1種または2種を含
有させることができ、つまり、Moの全含有量を2倍の
W含有量で置き換え使用してもよく、Moの一部をそれ
に相当するW量に置き換え使用してもよい。(Mo+1
/2W)量でどちらの成分を優先して使うかは経済性を
考慮して判断すればよい。しかし、基本的にW置換はフ
レームハード性を劣化させるのでMoを加えるのが好ま
しい。
【0033】(Mo+1/2W)の添加量が0.6%未
満では高温焼戻しでの硬さの低下が急激になり、硬さの
コントロールが難しくなる。一方、過多の添加量では、
マルテンサイト中の炭化物の析出・凝集を遅滞させ50
0〜550℃での焼戻しで熱処理変寸が大きくなった
り、マルテンサイトの焼戻しの遅滞化に伴う、オーステ
ナイト分解の遅滞化のため十分焼戻ししたと思っていて
も不安定なオーステナイトが残留し、型作製後の使用中
に経年変寸が発生するため、0.6〜1.25%とし
た。好ましくは0.6〜1.10%である。
【0034】本発明の工具鋼は、その他求められる効果
に則して、上記の成分組成にVを含有してもよい。Vも
基本的にはSKD11(V=0.25(mass%))と同
等にすることを基本とした。Vは工具鋼に必要な軟化抵
抗を増大させる元素であり、好ましい含有量は0.05
%以上であるが、V系炭化物を形成し被削性を低下させ
る原因となるので、0.5%未満とした。
【0035】Sは、脆化元素の代表として溶接、高硬度
鋼の分野では忌み嫌われる元素であるが、快削効果があ
るため、炭化物量を減らし靭性を向上させている分添加
が可能になる。そのため熱処理変寸が大きくなることを
考慮して、0.12%までなら許容される。なお、上記
の効果を得るに好ましい含有量は0.005%以上であ
り、更に好ましくは0.02%以上である。
【0036】Caは、機械的性質の低下や組織の変質を
伴わない、理想的な快削元素である。その快削機構は、
鋼中に微量に分散している酸化物を低融点化させ、これ
が切削熱で溶けだし、刃先に保護膜を形成するためであ
る。しかし、蒸気圧が高いため溶鋼中から抜け出しやす
く、添加技術上100ppm程度までが現状の技術的レ
ベルである。なお、上記の効果を得るに好ましくは10
ppm以上である。
【0037】その他、希土類は、本発明の工具鋼におけ
る被削性を向上する目的のもとに0.2%以下の含有が
可能である。また不可避不純物の総量は0.5%以下が
好ましい。ただし、靭性・溶接性が必要ならNiは1%
以下、好ましくは0.01〜1%添加し、耐摩耗性付与
が更に必要な場合Alを0.6%以下、好ましくは0.
01〜0.6%添加して、窒化硬さを上げることも可能
である。加えて、その他求められる効果に則して、P
b、Se、Te、Bi、In、Be、Ce、Zr、Ti
のうちの1種または2種以上を0.2%以下なら含有し
ても基本特性を変えることはない。
【0038】なお、本発明では、本効果の更なる向上に
おいて、焼入後の状態を調整することが有効である。つ
まり、焼入れ後のマルテンサイト組織中に固溶するCお
よびCr含有量をSKD11と近似させること、そし
て、焼入れ直後の残留炭化物重量を5(mass%)以下と
することである。この焼入れ直後の残留炭化物量は、鋼
材製造工程によっても低減が可能である。粉末法、溶解
直後の鋼塊に1100℃以上で1〜10時間程度の熱処
理を行う、すなわちソーキング法、鋼塊の小型化や、急
冷凝固法を採用することでも焼入れ直後の残留炭化物量
を5(mass%)以下とすることができる。加えて、焼入
れ後のCrのマトリックス偏析幅を質量%で1%以下に
することも被削性の向上に好ましいものである。
【0039】以上に述べた本発明の工具鋼であれば、優
れた溶接性の付与に加えて、従来のSKD11と同等の
熱処理条件である1000〜1050℃からの焼入れ、
500℃以上の焼戻しによっても57HRC以上の硬さ
が確保できる。そして、その57HRC以上の硬さにて
優れた被削性の達成に加え、塩浴法やCVD処理といっ
た表面処理性にも優れるものである。
【0040】また、本発明の工具鋼を金型等に使用した
場合は、その求められる機能に応じて必要な部位のみに
フレームハード等を実施しても良く、製作工数あるいは
必要特性を考慮して硬さを得るための熱処理方法を選択
すればよい。例えば本発明の工具鋼を55HRC以上の
硬さに調質し、切削加工を行うことで作製した金型、い
わゆるプリハードン金型である。
【0041】
【実施例】次に、本発明の実施例について詳細に説明す
るが、本発明はこれらの実施例により何等限定されるも
のではない。 (実施例1)まず、100kg高周波炉を使用して材料
を溶解し、表1に示す化学組成を有したインゴットを作
製した。なお、比較材1はSKD11相当材である。次
に、鍛造比が5程度になるように熱間圧延をし、冷却
後、850℃で4時間保持の焼鈍を実施した。
【0042】
【表1】
【0043】次に、圧延方向と長手方向が一致するよう
に直径10mm長さ80mmの試験片を各21本作製
し、それぞれ長さ測定を行った。次にその内の各10本
を真空加熱炉を用いて1025℃に加熱保持後、不活性
ガスでガス冷却焼入れを実施した。更に530℃、1時
間で焼戻しを2回実施した。得られた試験片の硬さを測
定したところ、比較例2、3は57HRC以上は出なか
った。つぎに57HRC以上がでた材料の長さ方向の長
さを測定し、あらかじめ計っておいた焼入れ前の長さを
基準にして寸法変化率を算出し、0.1%を超えるもの
が何本発生したかを調べた。結果を表2に示す。
【0044】
【表2】
【0045】表2より、本発明はすべて変寸が0.1%
以下であった。比較例においては、4、5、6に0.1
%を超えるものが発生した。
【0046】次に530℃での変寸が0.1%以下だっ
たものに加え、比較例4、5について、残りの焼鈍状態
のものを用いて、各10本を真空加熱炉で1025℃に
加熱保持後、不活性ガスでガス冷却焼入れを実施した。
更に490℃、1時間で焼戻しを2回実施した。その
後、試験片の長さ方向の長さを測定し、あらかじめ計っ
ておいた焼入れ前の長さを基準にして寸法変化率を算出
した。それらの中で寸法変化がプラス側に膨張したもの
が何本発生したかを調べた。結果を表3に示す。
【0047】
【表3】
【0048】これより、比較例5はプラス側に膨張する
ため変寸調整が困難となってしまうが、全ての本発明
比較例1は上記表2の結果に加え、プラス側に膨張し
ていないため変寸が調整しやすく、SKD11と同等の
熱処理扱いが可能となることが分かる。
【0049】(実施例2) 次に、被削性の評価を行なった。まず、表1に示す素材
の中で実施例1で変寸挙動がSKD11と同等とみなせ
る材料(本発明例と参考材1〜14および比較例1)に
比較例4を加えたものを、硬さ24HRC以下の焼きな
まし状態にし、スクエアエンドミルでの被削性の評価を
行った。なお、切削試験は表4に示す条件で行なった。
表5に示す結果より、全ての本発明例は工具寿命(刃先
摩耗0.3mm)が10m以上の高い被削性を示す。し
かし、比較例1、4はクロム系炭化物が原因で被削性が
悪い。
【0050】
【表4】
【0051】
【表5】
【0052】次に、変寸挙動がSKD11と同等とみな
せる材料(本発明例と参考材1〜14および比較例1)
に比較例4を加えたものにて、1030℃の焼入れと5
00℃以上の焼戻しにより硬さ57〜60HRCに調質
した供試材を作製し、スクエアエンドミルでの被削性の
評価を行った。切削条件は表6に示す。表7に示す試験
結果より、全ての本発明例は工具寿命(刃先摩耗0.1
mm)が良く被削性も高いが、比較例1、4は被削性が
悪いことが分かる。
【0053】
【表6】
【0054】
【表7】
【0055】(実施例3)表1に示す材料のうち、本発
明材で被削性が比較的劣っていた本発明例1、2と熱処
理特性では良好である比較材1、そして比較材4につい
て、そのインゴット状態で1160℃で10時間のソー
キングを行い、焼きなまし後、1030℃の焼入れ、5
00℃以上の焼戻しにて57HRCに調整したものにつ
き、被削性試験を行った。条件は表8に示す条件で刃先
摩耗が0.1mmになる切削距離を寿命とした。また、
マトリックスの偏析状態を評価するために焼入れままの
材料でのEPMAで1mmの線上Crの特性X線を検出
し、炭化物でない場所のCr変化幅を2σとして統計解
析もおこなった。両者の結果を表9に示す。
【0056】
【表8】
【0057】
【表9】
【0058】表9より、焼入れままのCr偏析幅が1%
以下である本発明材は、先の実施例2よりも更に寿命が
向上しているが、比較材1、4はCr偏析幅が1%を超
えることもあって、工具の寿命向上が大きく望めない結
果となった。
【0059】
【発明の効果】以上、本発明によれば、SKD11に比
べ焼きなまし状態の被削性が優れ、焼き入れ焼戻し時の
材料性能上においても、靭性、溶接性が高い鋼材を提供
することができる。更に熱処理変寸や、焼入れ性、焼戻
し温度に対する硬さの変化がSKD11と近似された特
性を持つため、SKD11と同じ炉に混載ができ、生産
性、条件出しが不要となる。加えて、焼入れ焼戻し後の
被削性もSKD11に比べ格段に高く、CVDのような
鋼中の固溶C量に左右される表面処理でも膜特性の劣化
がないため、耐摩耗性に優れる金型基材としても高い製
造容易性があることから、本発明による工業的価値は大
きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の効果を説明する図である。
【図2】本発明の効果を説明する図1の詳細図である。
【図3】熱処理変寸の挙動を説明する図である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 平2−93043(JP,A) 特開 平9−78199(JP,A) 特開 平2−285050(JP,A) 特開 昭63−241144(JP,A) 特開 昭62−250154(JP,A) 特開 昭58−58254(JP,A) 特開 平11−181548(JP,A) 特開 平3−115545(JP,A) 特開 昭57−73171(JP,A) 特開 平8−120333(JP,A) 特開 平9−125204(JP,A) 特開 平11−131182(JP,A) 特開 平9−78198(JP,A) 特開 昭63−223144(JP,A) 特開 平11−279704(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C22C 38/00 - 38/60

Claims (10)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 質量%で、(Cr+5.9×C)の値が
    9.1以上12.5以下となり、かつ(Cr−4.2×
    C)が5以下で(Cr−6.3×C)が2.285以上
    となる関係式を満たし、Si:0.1〜0.6%、Mo
    またはWの1種あるいは2種を(Mo+1/2W):
    0.6〜1.25%、V:0〜0.5%未満を含有する
    ことを特徴とする被削性および熱処理性に優れた工具
    鋼。
  2. 【請求項2】 質量%で、(Cr+5.9×C)の値が
    9.1以上12.5以下となり、かつ(Cr−4.2×
    C)が5以下で(Cr−6.3×C)が2.285以上
    となる関係式を満たし、Si:0.1〜0.6%、M
    n:0.1〜1.2%、MoまたはWの1種あるいは2
    種を(Mo+1/2W):0.6〜1.25%、V:
    0.5%未満を含有し、残部がFeおよび不可避の不純
    物からなることを特徴とする被削性および熱処理性に優
    れた工具鋼。
  3. 【請求項3】 質量%で、(Cr+5.9×C)の値が
    9.1以上12.5以下となり、かつ(Cr−4.2×
    C)が5以下で(Cr−6.3×C)が2.285以上
    となる関係式を満たし、Si:0.1〜0.6%、M
    n:0.1〜1.2%、MoまたはWの1種あるいは2
    種を(Mo+1/2W):0.6〜1.25%、V:
    0.5%未満、S:0.12%以下を含有し、残部がF
    eおよび不可避の不純物からなることを特徴とする被削
    性および熱処理性に優れた工具鋼。
  4. 【請求項4】 質量%で、(Cr+5.9×C)の値が
    9.1以上12.5以下となり、かつ(Cr−4.2×
    C)が5以下で(Cr−6.3×C)が2.285以上
    となる関係式を満たし、Si:0.1〜0.6%、M
    n:0.1〜1.2%、MoまたはWの1種あるいは2
    種を(Mo+1/2W):0.6〜1.25%、V:
    0.5%未満、S:0.12%以下、Ca:100pp
    m以下を含有し、残部がFeおよび不可避の不純物から
    なることを特徴とする被削性および熱処理性に優れた工
    具鋼。
  5. 【請求項5】 質量%で、Ni:1%以下を含有するこ
    とを特徴とする請求項2ないし4のいずれかに記載の被
    削性および熱処理性に優れた工具鋼。
  6. 【請求項6】 質量%で、Al:0.6%以下を含有す
    ることを特徴とする請求項2ないし5のいずれかに記載
    の被削性および熱処理性に優れた工具鋼。
  7. 【請求項7】 焼入れ後のCrのマトリックス偏析幅が
    質量%で1%以下であることを特徴とする請求項1ない
    し6のいずれかに記載の被削性および熱処理性に優れた
    工具鋼。
  8. 【請求項8】 500℃以上の焼戻しにより、その最高
    焼戻し硬さが57HRC以上であることを特徴とする請
    求項1ないし7のいずれかに記載の被削性および熱処理
    性に優れた工具鋼。
  9. 【請求項9】 500℃以上の焼戻しにより発生する熱
    処理変寸が、焼入れ前基準、線膨張率換算で0.1%以
    下でかつ、490℃での焼戻しで熱処理変寸が0以下で
    あることを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記
    載の被削性および熱処理性に優れた工具鋼。
  10. 【請求項10】 請求項1ないし9のいずれかの工具鋼
    を55HRC以上の硬さに調質し、切削加工を行うこと
    で作製したことを特徴とする金型。
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