JP3358977B2 - 耐食鏡およびその製造方法 - Google Patents

耐食鏡およびその製造方法

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【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ガラス板片面裏面
側の反射金属層の上に裏止め塗膜を施した鏡に関し、更
に前記裏面周縁部の傾斜面に縁塗り塗膜を施した耐食鏡
に関する。
【0002】
【従来技術および解決すべき課題】鏡は、縁塗り塗膜を
施さない場合、通常の環境下においても、鏡の端面の反
射金属層の露呈部が、大気中の水蒸気、その他の酸性ガ
ス等の微量有害成分により腐食され、いわゆる縁しけが
生ずる。それを防ぐためには、縁塗り塗膜を施すことが
不可欠である。
【0003】しかし、特に、浴室や温泉浴場等の壁面に
取付けられる鏡には、酸性あるいはアルカリ性のタイル
洗剤などの薬品を含む液体が付着する恐れがあり、また
温泉中の塩化物、硫化物、その他の有害成分により、前
記縁塗り塗膜を通じて金属層が侵される。
【0004】本出願人の先の出願にかかる特開昭49−11
5115号には、ガラス板面に、鍍銀し、更に保護層を設け
た鏡の裏面周縁を斜断し、該斜断面および鏡裏面にわた
り耐食合成樹脂膜(フィルム)を熱溶着させた防食鏡を
開示し、前記鏡裏面に対する傾斜角度を15°とし、耐食
合成樹脂フィルムの膜厚を20μm とすることを例示し
た。
【0005】また、本出願人の先の出願にかかる特開昭
48−95849 号には、鏡面裏面周縁を鏡面に対し30°以下
で銀膜が露出するごとくした斜断面にシランカップリン
グ剤塗布層を施し、該塗布層と鏡裏面にわたり耐食合成
樹脂塗膜を形成した耐食鏡を開示し、前記鏡裏面に対す
る傾斜角度を15°とし、耐食合成樹脂塗膜の膜厚を73μ
m (出願人注:この場合、裏止め塗膜部を含めた最大の
塗膜厚を示し、銀膜露出部からの膜厚は50μm 以下であ
る)とすることを例示した。しかし、近年使用者の鏡の
耐食性を更に改善することに関する要求が高まってお
り、従前の縁塗り技術では満足し得ないものとなってい
る。
【0006】本発明は、それら従来技術の不具合に鑑
み、より耐縁しけ性を改善した耐食鏡を提供するもので
ある。
【0007】
【問題点を解決するための手段】本発明は、ガラス板裏
面に反射金属層を、その上に裏止め塗膜を積層形成し、
ガラス板裏面周縁部から端面にかけて斜断した傾斜面を
形成した鏡の製造方法において、ガラス板裏面に対する
傾斜面の傾斜角度である裏面取り角度を5〜15°の範囲
とし、かつ該傾斜面に露呈した反射金属層をうべく、
裏止め塗膜周縁部から前記傾斜面にかけて縁塗り塗膜
形成され、前記露呈した反射金属層上の縁塗り塗膜Yの
厚みを60μm 以上、但し縁塗り塗膜の最大膜厚部Xの膜
厚を170μm以下とし、かつXに対するYの膜厚が60%
未満とならないようにした耐食鏡である。
【0008】
【0009】また本発明は、ガラス板裏面に反射金属層
を、その上に裏止め塗膜を積層形成し、ガラス板裏面周
縁部から端面にかけて斜断した傾斜面を形成した鏡の製
造方法において、ガラス板裏面に対する傾斜面の傾斜角
である裏面取り角度を5〜15°の範囲とし、かつ該傾
斜面に露呈した反射金属層をうべく、裏止め塗膜周縁
部から前記傾斜面にかけて縁塗り塗膜、前記露呈した
反射金属層上の縁塗り塗膜Yの厚みを60μm 以上、但し
縁塗り塗膜の最大膜厚部Xの膜厚を170μm 以下とし、
かつXに対するYの膜厚が60%未満とならないよう
に、縁塗り塗膜を塗装ローラーにより形成し、硬化させ
ることを特徴とする耐食鏡の製造方法である。
【0010】
【発明の実施の形態】図1は鏡(耐食鏡)1の部分側断
面図を示したもので、ガラス板2としては、ソーダ石灰
系ガラスをはじめとするアルカリ・苦土石灰・珪酸系ガ
ラス、アルミノ珪酸系ガラス、硼珪酸系ガラス等、各種
成分組成のガラスが適用され、その厚みは1mm前後から
十数mm程度まで多様であるが、室内、浴室(浴場)内に
据付けられる鏡は5mm前後のものが多い。
【0011】ガラス板2すなわち鏡1の裏面側には、通
常銀膜および該銀膜を保護する銅膜からなる反射金属膜
(図示において銀+銅)3が施され、その厚みは 100nm
前後である。なお、反射金属膜3は、反射映像を顕現す
るために、銀以外にアルミニウム、鉛その他の金属やそ
れら複合金属が採用でき、保護金属膜は、いわゆる低級
鏡においては施さないケースもあるが、前記銀等の金属
膜の腐食を抑制するうえで、銀等の金属膜上に施すもの
で、銅以外にクロム、ニッケルその他の金属やそれら複
合金属が採用できる。
【0012】裏止め塗膜4は、前記反射金属膜3の鏡裏
面側からの腐食を抑制するために、反射金属膜上に設け
る塗膜で、アルキッド系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタ
ン系樹脂等各種耐食性樹脂に、酸化鉄、酸化亜鉛、鉛化
合物その他の耐食顔料、および各種充填剤を混入した塗
料からなる塗膜を設けるものである。
【0013】鏡1の裏面周縁部は、該裏面から端面にか
けて、切削研磨し斜断して、傾斜面5を形成する。前記
斜断の最大の目的は、鏡端面に露出した反射金属膜3a
を保護被覆するうえで、被覆操作を容易にするためであ
る。
【0014】前記傾斜面5の鏡裏面に対する傾斜角度、
すなわち裏面取り角度αは、各製鏡、鏡加工企業とも、
従来より面取り加工の容易さ等を勘案して20°程度とし
たものを実施している。縁塗り用塗料としては、ウレタ
ン系、ポリエステル−ウレタン系、ポリエーテル−ウレ
タン系、エポキシ系、エポキシ−ウレタン系等が採用で
きる。縁塗り手段としては、塗装ローラーによる塗布が
一般的であるが、それに限らない。縁塗り後は 150℃以
下での加熱乾燥、または自然乾燥により塗膜形成する。
【0015】縁塗りは裏止め塗膜4の周縁部から傾斜面
5にかけて数mmから10mm以下の幅で行い、縁塗り塗膜6
を形成するもので、該縁塗り塗膜6は図示の如く裏止め
塗膜上の位置X(以下最大部という)において最大膜厚
を示す。従来、‘膜厚’とは前記最大部Xの膜厚をいう
が、先述の傾斜面に露呈した反射金属層3a の上の縁塗
り塗膜Y(以下肝要部という)の膜厚の厚いことが肝腎
である。すなわち、裏止め塗膜に限らず樹脂硬化膜は、
寡少とはいえ薄膜であるほど通気性が増大し、水蒸気や
有害ガスが塗膜を介して反射金属膜に影響を及ぼし、縁
しけを発生するので、厚膜である方がよく、肝要部Yの
膜厚を最低60μm 以上、より好ましくは80μm 以上とす
るものである。他方最大部Xの膜厚を必要以上に厚膜と
すると、縁塗り後の硬化における塗料中の溶剤の揮散に
際して、気泡が残留したり塗膜表面の破れ泡が発生し、
該部から水蒸気や有害ガスが侵入し、ひいては反射金属
膜に影響を及ぼし易くなるばかりでなく、外観を阻害す
るので、 170μm 以下とする。
【0016】前記膜厚範囲を得るうえで、裏面取り角度
αを20°とした場合は、塗装ローラーによる塗布によれ
ば最大部Xの膜厚に対し、肝要部Yの膜厚は40%未満で
あり、肝要部Yが効果的に塗布されていないことが分か
る。これに対し、例えば裏面取り角度を10°とした場
合、最大部Xに対する肝要部Yの膜厚は90%程度に達
し、良好に膜形成できる。
【0017】また前記裏面取り角度20°のケースにおい
て、例えば肝要部Yの膜厚 100μm程度を得ようとすれ
ば、最大部Xの膜厚は 300μm 以上を必要とし、それ
は、鏡のコバ面7への塗料の垂れを目立たさせ、また塗
料の硬化における塗料中の溶剤の揮散に際して、気泡が
残留したり塗膜表面の破れ泡が発生し、該部から水蒸気
や有害ガスが侵入し、反射金属膜に影響を及ぼし易くな
り、また外観を阻害することとなる。
【0018】すなわち、裏面取り角度αは5°ないし15
°とするのがよく、15°を越えると最大部Xに対する肝
要部Yの膜厚が60%未満となって、効率的な膜形成がで
きず、肝要部Yに充分な膜厚を得ようとすれば、最大部
Xの膜厚も増大して気泡が残留したり塗膜表面の破れ泡
が発生したりする。
【0019】裏面取り角度αを5°未満であると、湿式
研削、研磨による斜断面形成に際して、該斜断面とコバ
面7との角部8においてハマ欠けが生じ易くなる。好適
には裏面取り角度αは7°〜13°の範囲とするのがよ
い。
【0020】
【実施例】<<実施例1>> 〔試料作製〕5mm厚のソーダ石灰系ガラス素板に常法に
より銀層、銅層からなる反射金属層( 100nm厚)を形成
し、更にその上にアルキッド樹脂に耐食顔料、充填剤等
を混入した裏止め塗料を膜付けし加熱(最大 150℃)、
硬化させて裏止め塗膜(50μm 厚)を形成し、それをサ
イズ20cm×40cmに切断して多数の鏡試料を準備した。
【0021】試料裏面周縁部から端面にかけて湿式研削
し、研磨仕上げ(レジン中に#500のダイヤモンド粒を埋
入した‘レジンダイヤ’による)して、夫々裏面取り角
度αを、5°、 7.5°、10°、12.5°----20°にした。
【0022】更にエポキシ系樹脂原液(樹脂分 100重量
部に対し、カップリング剤1重量部、トルエンを主剤と
するシンナー25重量部)に、エーテル系、エステル系、
ケトン系等からなる混合溶媒、および皮膜形成剤、たれ
防止剤等その他の添加剤を加え、樹脂原液63〜70wt%、
混合溶媒35〜28wt%、その他添加剤2〜3wt%の範囲で
縁塗り塗料を調製し、それを塗装ローラーにより5mm
幅、各種膜厚で塗布した。膜厚は硬化後の最大部膜厚X
をベースとするもので、夫々 200μm 、 175μm、 150
μm ---- 100μm とした。
【0023】〔外観観察および膜厚測定〕肝要部Yの膜
厚は試料の一部を破断し、断面を鏡下観察し、測定し
た。ハマ欠けの有無については、鏡を面取り、研磨仕上
げ後、縁塗りする前の試料について角部8をルーペによ
り観察し、鏡の品質上問題となるハマ欠け(直径2mm以
上)が1カ所でも存在する場合を×、直径2mm未満では
あるがハマ欠けの存在が認められるものを△、明瞭なハ
マ欠けが観察されないものを○で評価した。
【0024】縁塗り塗膜形成後の試料について、該塗膜
のコバ面への垂れが明瞭(5mm以上)で、外観上問題と
なるものを×、垂れが5mm未満、 1.8mm以上のものを
△、垂れが 1.8mm未満で全く問題とならないものを○で
評価した。
【0025】更に縁塗り塗膜をルーペにより観察し、気
泡(内部気泡)において、直径 1.5mm以上の気泡が内在
するものを×、直径 1.5mm未満、 0.5mm以上の気泡が内
在するものを△、直径 0.5mm未満の気泡が内在し、また
は気泡の存在が認められないものを○に、表面破れ泡
(ワキと称する)において、直径 1.5mm以上のワキが存
在するものを×、直径 1.5mm未満のワキが存在するもの
を△、ワキの存在が認められないものを○として評価し
た。
【0026】〔耐縁しけ試験(1)−耐温水+耐塩酸浸
漬試験〕試料を温水槽内の60℃の上水に10日間浸漬後、
温水槽より取出し、更に塩酸槽内の30℃、1 vol%の塩
酸溶液に3日間浸漬した。その後試料を取出し、水洗浄
後、縁しけの発生状況を観察した。
【0027】縁しけは鏡端面から鏡中央部に向けての侵
食深さ(長さ)により評価し、侵食値が2mm以上のもの
を×、2mm未満のものを△、侵食が認められないものを
○として評価した。
【0028】〔耐縁しけ試験(2)−カビキラー原液浸
漬試験〕20cm×40cm試料の下辺(短辺)より20cm高さに
わたり、ジョンソン株式会社製、商品名‘カビキラー’
(塩素分含有アルカリ性液)の原液に20℃下 120日間浸
漬し、その後取出して縁しけの発生状況を観察した。縁
しけは鏡端面からの鏡中央部に向けての侵食深さ(長
さ)により評価し、侵食値が2mm以上のものを×、2mm
未満、1mm以上のものを△、1mm以下ないし侵食が認め
られないものを○として評価した。
【0029】〔総合評価〕上記各測定、試験において、
○のみの評価を○に、○に一部(1項目)△に評価され
たものを○△に、△のみ、または一部○に評価されたも
のを△に、一部でも×に評価されたものを×に評価し
た。なお、○は良好、△は良好ではないが容認できる範
囲、×は不可と判断される。各条件および結果を表1お
よび表2に示す。
【0030】<<実施例2>>実施例1同様の製法、手段で
鏡試料を作製した。但し縁塗り塗料としてウレタン系樹
脂原液(樹脂分 100重量部に対し、カップリング剤1重
量部、キシレン、トルエンを主剤とするシンナー25重量
部)に、エーテル系、エステル系、ケトン系等からなる
混合溶媒、および皮膜形成剤、たれ防止剤等その他の添
加剤を加え、樹脂原液60〜65wt%、混合溶媒38〜33wt
%、その他添加剤2〜3wt%の範囲で調製し、それを塗
装ローラーにより実施例1同様に塗布した。
【0031】更に実施例1同様に外観観察および膜厚測
定、耐縁しけ試験を行い、評価した。それら条件および
結果を表3に示す。
【0032】〔結果〕縁塗り塗膜成分によって若干の相
違はあるが、類似した結果を得た。裏面取り角度αが5
°の鏡試料は、肝要部Yの膜厚が、最大部Xの膜厚に近
似し、本発明の膜厚範囲において耐縁しけ性も極めて良
好である。但しいずれも面取り研削時に、角部8に微細
な欠けが生じ易い。また、傾斜面5の幅が長い分、縁塗
り塗膜の幅も広くなり、塗料使用量も多くなる。
【0033】裏面取り角度αが 7.5〜12.5°の鏡試料
は、肝要部Yの膜厚が、最大部Xの膜厚に対し80%付
近、またはそれ以上と良好であり、研削時の角部の欠け
もなく、本発明の範囲において耐縁しけ性も極めてよ
い。
【0034】裏面取り角度αが15°の鏡試料は、肝要部
Yの膜厚が、最大部Xの膜厚に対し約60%以上と満足し
得るものであり、本発明の範囲において耐縁しけ性もよ
い。本発明の裏面取り角度α、縁塗り塗膜の膜厚範囲X
およびYを外れるものは、概して外観、または耐縁しけ
性において劣っており、本発明範囲において良好な結果
を得たことが明瞭である。
【0035】なお、裏面取り角度17.5°以上のものは、
一部総合評価において○△ないし△に評価されるものも
あるが、肝要部Yの膜厚が、最大部Xの膜厚の50%前
後、ないしそれ以下であり、縁塗り効率が悪いことをあ
らわす。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
【表3】
【0039】
【発明の効果】本発明によれば、耐縁しけ性において良
好な結果を示し、耐食鏡として過酷な環境条件下におい
ても、長期に亘りしけ発生を抑制できるという効果を奏
する。
【図面の簡単な説明】
【図1】鏡の部分断面図である。
【符号の説明】
1 耐食鏡 2 ガラス板 3 反射金属膜 4 裏止め塗膜 5 斜断面 6 縁塗り塗膜 7 コバ面 8 角部

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】ガラス板裏面に反射金属層を、その上に裏
    止め塗膜を積層形成し、ガラス板裏面周縁部から端面に
    かけて斜断した傾斜面を形成した鏡において、ガラス板
    裏面に対する傾斜面の傾斜角度である裏面取り角度を5
    〜15°の範囲とし、かつ該傾斜面に露呈した反射金属層
    を覆うべく、裏止め塗膜周縁部から前記傾斜面にかけて
    縁塗り塗膜形成され、前記露呈した反射金属層上の縁
    塗り塗膜Yの厚みを60μm 以上、但し縁塗り塗膜の最大
    膜厚部Xの膜厚を170μm 以下とし、かつXに対するY
    の膜厚が60%未満とならないようにしたことを特徴と
    する耐食鏡。
  2. 【請求項2】ガラス板裏面に反射金属層を、その上に裏
    止め塗膜を積層形成し、ガラス板裏面周縁部から端面に
    かけて斜断した傾斜面を形成した鏡において、ガラス板
    裏面に対する傾斜面の傾斜角度である裏面取り角度を5
    〜15°の範囲とし、かつ該傾斜面に露呈した反射金属層
    覆う、裏止め塗膜周縁部から前記傾斜面にかけて縁塗
    り塗膜形成され、前記露呈した反射金属層上の縁塗り
    塗膜Yの厚みを60μm以上、但し縁塗り塗膜の最大膜厚
    部Xの膜厚を170μm 以下とし、かつXに対するYの膜
    厚が60%未満とならないように、縁塗り塗膜を塗装ロ
    ーラーにより形成し、硬化させることを特徴とする耐食
    鏡の製造方法。
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