JP3308197B2 - ケーブルの劣化診断方法 - Google Patents

ケーブルの劣化診断方法

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JP3308197B2 JP33335197A JP33335197A JP3308197B2 JP 3308197 B2 JP3308197 B2 JP 3308197B2 JP 33335197 A JP33335197 A JP 33335197A JP 33335197 A JP33335197 A JP 33335197A JP 3308197 B2 JP3308197 B2 JP 3308197B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ケーブルの絶縁劣
化、特に、水トリー劣化の診断方法に関する。
【0002】
【従来の技術】架橋ポリエチレン絶縁電力ケーブル(C
Vケーブル)などのゴム・プラスチック絶縁ケーブルの
耐電圧寿命特性を決定する主要な絶縁劣化現象の一つと
して、水トリー劣化がある。この水トリー劣化を診断す
る絶縁測定技術については、従来から多くの方法が提案
されてきている。
【0003】これらの水トリー劣化診断法を列挙する
と、古くは絶縁体に流れる交流充電電流の誘電正接を測
定するtanδ法や直流高電圧印加時の直流伝導電流を
測定する直流もれ電流法があり、また近年では、6.6
kV級のCVケーブルに対して対地使用電圧3.8kV
rms課電下の絶縁体に流れる電流中から直流電流成分
を検出する直流分法や、同じく6.6kV級のCVケー
ブルに対して交流対地使用電圧3.8kVrms課電状
態下で50Vの直流低電圧を重畳して印加した場合の直
流電流成分を検出する直流重畳法等が提案されている。
しかし、これら従来の方法では、6.6kV級以下のC
Vケーブルの劣化診断には有効であっても22kV級以
上のCVケーブルに対しては信頼性の高い劣化診断は困
難であった。即ち、一般に電圧階級が高くなるほどCV
ケーブルの使用電界が高くなるので、22kV級以上の
CVケーブルの絶縁破壊事故を未然に防止するためには
6.6kV級のCVケーブルに比較してより軽微な劣化
状態の微少な信号を検出する必要があり、これが22k
V級以上のCVケーブルの劣化診断を難しくする原因に
なっている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】上述の直流重畳法にお
いては、交流電圧に重畳して印加する直流電圧を大きく
すると劣化ケーブルの直流電流成分は増加する。しか
し、直流印加電圧を増大させると、劣化とは無関係な要
因による疑似劣化信号も増大するので、単純な直流印加
電圧の増大は必ずしも劣化診断の信頼性改善には結びつ
かない。つまり、水トリー劣化絶縁体には交流電圧の重
畳によって直流伝導電流が増大する非線形な特徴があ
り、直流重畳法はこの現象を利用することによって劣化
診断の信頼性を確保している。単純に直流印加電圧のみ
を増大させることは、結局のところ従来手法の直流高電
圧を印加する直流もれ電流測定手法と同じことになり、
直流もれ電流測定においても22kV級のCVケーブル
の劣化診断が不十分であることを考慮すると、単純な直
流印加電圧の増大のみでは直流重畳法による劣化診断の
信頼性改善は不可能といえる。
【0005】ところで、特公平6−19416号公報に
記載の絶縁劣化診断方法においては、水トリー劣化ケー
ブルの場合には、交流単独課電状態下で観測された直流
電流成分の極性と同方向の電流を流すように極性を選択
した直流電圧を交流電圧に重畳すると大きな直流電流成
分が得られることが報告されており、その極性選択方法
を採用した直流重畳時の直流電流成分の大きさと交流単
独課電時の直流電流成分の大きさを用いると22kV級
以上のCVケーブルの劣化診断が可能になるとしてい
る。しかし、本発明者らが実施した6.6kV級から2
2kV級の水トリー劣化CVケーブル試料の試験結果に
おいては、交流短時間破壊電界が6〜7kV/mm程度
まで低下した極度に劣化した試料においても22kV級
のCVケーブルの対地使用電界に相当する交流電圧の単
独印加では直流電流成分が観測されない場合があり
(0.05nA以下)、交流単独課電下での直流成分測
定による直流重畳電圧の極性決定が難しい可能性が示唆
された。また、これら試料に22kV級のCVケーブル
の対地使用電界に相当する交流電圧に直流電圧1kVを
重畳して印加した場合の直流電流成分の大きさは、直流
電圧の極性によっても著しく大きな差は認められなかっ
た。
【0006】しかし、これら破壊電界が著しく低下した
試料の中には直流電圧1kV重畳時に僅かではあるが
0.1〜1nA未満程度の直流電流成分が検出されるも
のがあり、従来の直流重畳法の高感度化による22kV
級のCVケーブルの劣化診断の可能性が示唆された。と
ころで、直流重畳法において実質的な直流電流成分の測
定感度を0.1nAとするには多くの困難が伴う。
【0007】まず第1の問題として、測定装置本体とし
ては十分な電流検出感度を有していても実際の現場適用
においては測定回路へ侵入する誤差電流を回避しにくい
問題がある。図1は現在一般的に採用されている直流重
畳法における測定回路の原理図を示したものであり、1
1は交流課電装置、12は直流課電装置、13は電流検
出部、14は測定対象のケーブル絶縁体である。図1
(A)は、6.6kV級のCVケーブルの活線診断とし
て用いられている直流重畳法に対応するものであり、交
流課電装置11は実際の線路電圧に相当する。直流課電
装置12は交流課電装置11の低圧側と接地との間に挿
入されており、交流課電装置11の高圧側は試料ケーブ
ルの導体(高圧電極)14aに接続され、電流検出部1
3は試料ケーブルの遮蔽電極(低圧電極)14bと接地
との間に接続されている。通常、ケーブル遮蔽層と接地
(大地)との間には測定誤差原因になる直流起電力16
が存在しており、ケーブルシースの絶縁抵抗15を介し
て誤差電流Ie1が電流検出部13に流入する。いま仮
に、この誤差起電力を10mV程度に見積もった場合に
は、誤差電流Ie1を0.1nA程度以下に抑えるために
はケーブルのシース絶縁抵抗15の大きさとして100
MΩ以上が必要になる。通常、実布設ケーブルのシース
絶縁抵抗はこの値よりも低く、このような測定回路構成
において誤差電流の影響なく0.1nAオーダの直流成
分を測定することは極めて難しい。図1(B)は、特公
平6−19416号公報にて提案されている測定回路構
成である。この場合には、交流課電装置11の低圧側と
接地との間に直流課電装置12と電流検出部13が直列
に挿入されており、交流課電装置11の高圧側は試料ケ
ーブルの導体14aに接続され、試料ケーブルの遮蔽電
極14bは接地されている。従って、図1(A)の場合
に問題となるケーブル遮蔽層14bと接地との間の誤差
起電力16による誤差電流Ie1は電流検出回路13に流
入せず、この誤差が完全に防止されている。しかし、こ
の回路構成においては、交流課電装置11の低圧側と大
地(接地)との間の絶縁が不十分であると、その絶縁抵
抗17を介して直流課電装置12による直流印加電圧を
源とする誤差電流Ie2が流れる。いま、直流課電装置1
2の直流発生電圧を1kVに設定した場合には、誤差電
流を0.1nA以下に抑えるためには交流課電装置1と
大地との間の絶縁抵抗17を1013Ω以上に保持する必
要がある。実際に交流課電装置11と接地との間に直流
課電装置12や電流検出部13を挿入するためには、試
験用変圧器を絶縁支持架台などを用いて大地から浮かす
必要があるが、これら支持架台の表面漏洩抵抗や試験用
変圧器の一次巻線と二次巻線との間の絶縁抵抗と端子間
の表面漏洩抵抗、ならびに直流課電装置12や電流検出
部13の付帯部品類の漏洩抵抗などを考慮すると、絶縁
抵抗17を1013Ω以上に保持することはかなり難し
い。
【0008】高感度測定を妨げる第2の問題としては、
直流電流成分測定における測定回路の応答遅れにある。
図2は試料に交流電圧と直流電圧とを重畳して印加した
場合の直流電流成分測定として一般的に採用されている
測定回路の原理図を示すものである。図において21は
交流課電装置、22は直流課電装置、23は直流成分検
出回路、24は試料である。ここでは直流信号の検出の
みを考えるので交流課電装置21のインピーダンスを無
視(零)し、また、直流課電装置22の直流印加電圧を
DC、試料24の静電容量をCX、試料24に直流電流
成分が流れる場合の等価絶縁抵抗をRX、さらに、電流
検出回路23の直流電流検出抵抗をRS、交流印加電圧
から測定回路を保護するためのコンデンサの静電容量を
Sとする。この測定回路において抵抗RSによる直流検
出電圧をVSとすると、従来の一般的な方法では、iS
S/RSから直流電流成分IDCを求める。しかし、この
電流検出回路23には交流課電時の交流分担電圧を数1
までに低減するための著しく大きな静電容量CSが存在
しており、測定の応答時定数τ=CSSが著しく大きく
なる問題がある。
【0009】
【数1】
【0010】ここで、簡単化のために図2における試料
24の静電容量CXを無視して試料24の漏洩抵抗RX
みが存在する場合を例に挙げると、抵抗RSによって検
出される直流電流成分iS=VS/RSは数2の通りにな
り、電流検出回路23の挿入によって電流の時間特性が
変歪し、測定回路の応答時定数τSに比して測定時間t
が十分に大きくないと真の電流値VDC/RXを正確に検
出できないことがわかる。
【0011】
【数2】
【0012】また、同じく図2において、試料24には
静電容量CXのみが存在して直流電流成分が全く流れな
い場合(試料24の漏洩抵抗RXを無限大とした場合)
を例にあげると、直流電圧VDCが印加された後の抵抗R
Sに検出される電流は数3の通りになり、時定数τS=C
SSが大きいと短時間の測定では静電容量CSに充電さ
れた電荷の放電が十分に行われず、静電容量を放電する
電流が直流電流成分として間違えて測定される可能性が
ある。
【0013】
【数3】
【0014】たとえば、試料ケーブル24の静電容量C
Xが1μFで、交流バイパス用コンデンサの静電容量CS
を500μFに選定していた場合に、最高検出感度が1
μVの電圧計を用いて10pAオーダの電流検出を行お
うとして検出抵抗RSを100kΩに選択したとする
と、測定の時定数τSは50秒にもなり、これを数2に
代入すると、測定開始から約3分以上待たないと検出電
流iSは真の直流電流成分VDC/RXに到達しない。ま
た、直流印加電圧VDCを1kVとして上記のCX、RS
τSの値を数3に代入すると、iSとしては測定時間tを
10分としても真の電流とは無関係な0.1nA程度の
電流を検出してしまう。
【0015】第3の問題としては、上述までに示した直
流電流成分測定回路上の問題を完全に解決した場合にお
いても、試料ケーブル自身から劣化とは別の要因による
疑似劣化信号が発生すると、真の劣化信号との区別が困
難になる問題がある。この疑似劣化信号の代表的な例と
しては、ケーブル終端接続部の表面漏洩電流がある。2
2kV級のCVケーブルの碍管型気中終端接続部を例に
挙げると、碍管B201の表面漏洩抵抗は、湿度が高い
と1011Ω程度の値まで容易に低下する。直流重畳電圧
を1kVとすると、交流電圧が印加されていない場合で
も10nAオーダの直流電流が流れてしまい、真の劣化
信号が0.1nA〜1nA程度であればこの疑似劣化信
号中に埋没してしまう。この他にも、長尺ケーブルの場
合には、軽微な絶縁劣化状態が多数存在していると1k
V程度の直流課電によっても微少な直流もれ電流が流れ
るので、この電流も劣化診断に対する誤差原因になる。
このような疑似劣化信号は、交流電圧に直流を重畳した
状態下でのみ直流電流成分を検出している現在の直流重
畳法では区別が困難であり、劣化の判定基準値を甘く設
定する原因になる。
【0016】
【発明の目的】本発明はこのような問題点を解決するた
めになされたものであり、現在提案されている直流重畳
法における電流測定上の誤差問題を軽減するとともに、
劣化信号と類似の疑似信号との区別を容易にして、高感
度かつ信頼性の高いケーブルの絶縁劣化診断手法を提供
することを目的としている。
【0017】
【課題を解決するための手段】請求項1のケーブルの絶
縁劣化診断方法は、まずケーブル絶縁体に直流電圧を単
独で印加した後に交流電圧を重畳して印加してこの時の
直流電流成分を測定し、次に交流重畳電圧を取り除いて
直流単独印加状態での直流もれ電流を測定して、これら
交流電圧重畳時と直流単独印加時の直流電流成分の大き
さの差を劣化判定信号としてケーブルの絶縁劣化状況を
診断する方法である。
【0018】請求項2のケーブルの絶縁劣化診断方法
は、交流電圧重畳時の直流電流成分の測定、及び直流単
独課電時の直流もれ電流の測定は、直流信号検出インピ
ーダンスとしてコンデンサを用い、その電極間の直流電
圧を高入力インピーダンス直流電圧計を用いて測定し、
コンデンサの静電容量と直流測定電圧との積から直流電
荷を求め、その直流電荷の時間変化割合から直流電流成
分、或いは直流もれ電流を算出する方法である。
【0019】
【作用】水トリー劣化絶縁体試料に直流電圧を印加する
と、試料を充電する瞬時充電電流が減衰した後にも時間
と共に減衰する吸収電流が流れ、電極間の伝導が可能な
状態下においては定常状態下において直流伝導電流が流
れる。この直流単独課電後に交流電圧を重畳して印加す
ると直流単独課電時と類似の現象が観測され、交流電圧
重畳時には吸収電流と類似の電流を与える直流電荷(吸
収電荷)が急増して飽和し、また、電極間の伝導が可能
な状態下においては元の直流単独課電時の直流伝導電流
(直流もれ電流)が増大する。このような直流に交流電
圧を重畳した下での現象は、直流単独電界のみでは移動
できない水トリー中の電荷が交流重畳電界によってトラ
ップから開放されて交流重畳電界1周期の平均として直
流電界成分の方向にドリフトすることに原因し、その結
果、測定回路に直流電荷ないし直流電流成分の変化が現
れる。
【0020】電極間橋絡水トリーや橋絡直前の水トリー
劣化状態などの場合には、電極間全体に亘って電荷が伝
導可能な状態にあり、従って、交流電圧重畳後の定常的
な直流電流成分が増大する。未橋絡水トリー劣化状態の
場合には、電極間全体に亘る電荷の伝導は極めて僅かで
あり、交流電界重畳によってトラップから開放された水
トリー中の電荷は平均的に直流電界方向に走行した後に
健全部絶縁体との界面で再びトラップされて移動を停止
し、その結果、定常的な直流電流成分の増加には寄与で
きないが、交流重畳時の吸収電荷を発生させる。
【0021】一方、前述の碍管表面漏洩などの水トリー
劣化とは無関係な要因による直流伝導現象においては、
直流単独課電時の直流もれ電流に比して、直流に交流電
圧を重畳した場合の直流電流成分の増加が小さい特徴が
あり、また、交流電圧重畳時の吸収電荷の発生はほとん
ど認められない。本発明のケーブルの絶縁劣化診断方法
はこの点に着目してなされたものであり、交流電圧重畳
時の吸収電荷とその後の定常状態下での直流電流成分、
ならびに直流単独課電時の直流もれ電流を連続して測定
して、これら電荷と電流とを相互に比較して疑似劣化信
号に基づく誤差電流の影響を低減しつつ劣化診断を行
う。
【0022】以上に示した一連の測定を実施するために
は、個々の電圧条件下における劣化信号を時間に対して
変歪させない応答の速い測定回路が必要になる。通常の
検出抵抗を用いる電流測定の場合には交流バイパス用コ
ンデンサの存在による応答遅れの問題が避けられないの
で、本発明では直流信号検出回路から検出抵抗を除去し
て、高入力インピーダンス直流電圧計を用いて交流バイ
パス用コンデンサに充電される直流電荷を測定して応答
の速い高感度測定を実現し、電荷の時間変化から直流電
流成分を算出する。また、直流電圧印加時の誤差電流対
策として、直流電圧印加装置(例えば、直流電源)を交
流発生装置(例えば、交流課電用変圧器の二次側)の高
圧側に配置し、直流信号検出回路(例えば、電荷検出回
路)への誤差電流の流入を防止する。
【0023】
【発明の実施の形態】以下、添付図面によってこの発明
の実施の態様を詳細に説明する。図3は本発明を実施す
るための測定回路の一実施態様のブロック図である。図
において、1は交流発生装置としての交流課電用の試験
用変圧器であり、零からケーブルの対地使用電圧までの
電圧を発生する。試験用変圧器1の一次巻線の低圧入力
端子vは接地に接続される。6は直流課電時に試験用変
圧器1の二次巻線側に電圧が印加されないようにする目
的の短絡用スイッチである。試験用変圧器1の金属ケー
ス1aは変圧器二次側巻線の低圧端子Vに接続され、こ
の低圧端子Vと接地との間に直流信号検出回路としての
電流測定回路2が接続される。電流測定回路2は、交流
電圧をバイパスするための大容量のコンデンサ2a(そ
の静電容量がCS)とインダクタンス2b(そのインダ
クタンスがLS)、並びに高入力インピーダンス直流電
圧計2cから構成されており、7は電流測定回路2の入
力を短絡するためのスイッチである。3は直流電圧印加
装置としての直流課電装置であり、交流電圧をバイパス
するための大容量コンデンサ3a(その静電容量が
D)とインダクタンス3b(そのインダクタンスが
D)、ならびに電池によって駆動する約1kV程度の
直流電源3c(その電圧がVDC)から構成されている。
直流課電装置3の金属ケース3dは直流電源3cの低圧
側に接続され、この直流電源3cの低圧側は試験用変圧
器1の二次巻線の高圧出力端子Uに接続される。直流課
電装置3の高圧側は切り換えスイッチ5の接点5aに接
続される。5は試料ケーブル4を接地と測定状態のいず
れかに切り換えるスイッチであり、その接点5bは接地
に、また接点5cは試料ケーブル4の導体(高圧電極)
4aに接続される。ケーブル4の遮蔽電極(低圧電極)
4bは接地に接続され、これらによって測定回路が形成
される。なお、試料ケーブル4の静電容量をCX、ま
た、その等価絶縁抵抗をRXとする。また、電流測定回
路2のコンデンサ2aと直流課電装置3のコンデンサ3
aとは試料ケーブル4の静電容量CXに比して著しく大
きな値を選定しておく。
【0024】図3にて、まず、試験用変圧器1の交流印
加電圧を零にした状態で、スイッチ6,7を短絡状態に
しておき、切り換えスイッチ5を接点5a側に切り換え
て、試料ケーブル4に直流電圧VDCのみを印加する。こ
の後にスイッチ6を開放して交流課電が可能な状態にし
て、さらに交流電圧重畳開始の2〜3分前にスイッチ7
を開放し、電流検出部2の高入力インピーダンス直流電
圧計2cを用いて直流電圧VS(t)の測定を開始す
る。検出電圧VS(t)の極性を図示の方向にしておく
と、スイッチ7の開放後には、検出電圧VS(t)とし
て直流印加電圧VDCと逆極性の電圧が時間経過とともに
徐々に増大してくる。詳細説明は後述するが、CS>>
Xの場合には、検出電圧VS(t)と交流バイパス用コ
ンデンサ2aの静電容量CSとの積で表される電荷Q
S(t)=CSS(t)の時間変化割合が試料ケーブル
4の直流電流成分に一致する。つまり、コンデンサ2a
は試料ケーブル4の絶縁体から流入してくる直流電荷数
4を蓄積しており、高入力インピーダンス直流電圧計2
cは電荷の漏洩を抑えつつこの電荷を直流電圧V
S(t)=QS(t)/CSとして検出している。従って
直流電圧VS(t)の時間変化割合から直流電流成分数
5が求まる。以後、スイッチ7は全ての測定が完了する
まで開放の状態{VS(t)の測定状態}としておく。
【0025】
【数4】
【0026】
【数5】
【0027】直流単独課電が数分経過した後に、試験用
変圧器1の二次側出力を零から試料ケーブル4の対地使
用電圧程度の値VACまで短時間で昇圧する。この時、試
料ケーブル4には直流電圧に交流電圧が重畳して印加さ
れた状態になる。この直流に交流が重畳された状態下で
直流電荷QS(t)=CSS(t)を数分間程度測定し
た後に、交流電圧をVACから零まで降下させて、再び直
流単独課電状態下でQ S(t)を2分間程度測定した後
に測定を完了する。
【0028】上記一連の電荷QS(t)の測定におい
て、最初の直流単独課電下には劣化とは無関係な類似現
象によって発生する直流吸収電荷成分が含まれている。
従って、この期間中の電荷測定結果は絶縁劣化診断に利
用しない。絶縁劣化診断には、直流に重畳して交流電圧
を零から所定の値VACまで昇圧を完了するまでの期間中
の直流電荷の増加分(交流重畳時の直流吸収電荷)と、
その後の直流に交流一定電圧VACを重畳している期間中
の電荷の時間変化割合(直流電流成分)、ならびに交流
重畳履歴後の直流単独課電時の電荷の時間変化割合(直
流もれ電流)を用いる。
【0029】図4は上記の本発明方法による直流電荷測
定結果の典型的な例を模式的に示した説明図である。測
定結果aは水トリー絶縁劣化が軽微かまたは全く劣化し
ていない試料ケーブルの場合であり、観測される直流電
荷QS(t)=CSS(t)の時間特性は直流単独課電
時とこれに交流電圧を重畳した場合とでほとんど変化が
なく、交流重畳の影響は認められない。一方、測定結果
bは試料ケーブルが著しく水トリー劣化している場合の
例であり、直流単独課電時に比して直流に交流電圧を重
畳した時点以後の電荷QS(t)の時間特性に変化が現
れる。
【0030】図4の測定結果bは電極間橋絡かあるいは
それに近い水トリー劣化状態が存在する試料ケーブルの
直流電荷測定結果例であり、交流重畳電圧昇圧完了後の
定常状態における直流電流成分ΔQ1/Δt1は直流単独
課電時の直流もれ電流ΔQ2/Δt2に比して明らかに増
大している。これら直流電流の中で水トリー劣化診断と
して利用できる信号は、直流に交流電圧を重畳したこと
によって増加した電流成分であるので、これら電流の差
ΔQ1/Δt1−ΔQ2/Δt2を劣化信号とする。基本的
にはこの差電流が観測されれば試料ケーブルは対地使用
電圧において絶縁破壊直前の極度劣化状況にあり、この
差電流が間違いなく観測されたと判断された場合にはケ
ーブルを不良として判断する。図示の測定結果bの例に
おいては、上記直流電流成分の増大のみならず、交流重
畳電圧昇圧時の吸収電荷ΔQaも観測されており、この
ような場合には誤差電流を測定した可能性は殆ど無いと
判断される。
【0031】以上にて本発明に関わるケーブルの絶縁劣
化診断の基本事項を説明した。次に、本発明が用いる直
流電流測定手法を図3の測定実施の説明図を参照しつつ
詳細に説明する。なお、簡単化のために、以下において
は検出される信号中の直流成分検出に関わる現象のみに
限定して説明し、試験用変圧器1の直流インピーダンス
と、電流測定回路2のインダクタンス2b、直流課電装
置3のコンデンサ3aとインダクタンス3bの存在を無
視する。また、試料ケーブル4の静電容量CXに比して
電流測定回路2の交流バイパスコンデンサ2aの静電容
量CSは著しく大きいものとする。さらに、直流単独課
電の場合の直流もれ電流測定と直流電圧に交流電圧を重
畳した場合の吸収電荷と直流電流成分測定には本質的に
全く差がないのでこれらの区別は不要であり、直流課電
時のもれ電流測定状態にて測定原理を説明する。
【0032】以上の前提条件に基づき、図3の測定回路
において、試料ケーブル4に対して直流課電装置3から
直流電圧VDCを印加した後にスイッチ7を開放して直流
電荷測定を開始した時刻をt=0とすると、その後に高
入力インピーダンス直流電圧計2cによって検出される
直流電圧VS(t)は数6に示す通りになる。すなわ
ち、交流バイパスコンデンサ2aの静電容量CSは直流
印加電圧VDCによって試料ケーブル4の漏洩抵抗RX
介して徐々に充電され、その電極間電圧に相当する検出
電圧VS(t)は数7なる時定数にて印加電圧VDCまで
徐々に増大する。ここに、CSは100μF以上の値で
あり、また、試料ケーブル4の漏洩抵抗RXはせいぜい
低く見積もっても1000MΩ以上はあるので、時定数
τは著しく大きく、数10分以内程度の測定においては
ほば直線的に上昇する。
【0033】
【数6】
【0034】
【数7】
【0035】検出電圧VS(t)と交流バイパスコンデ
ンサの静電容量CSの積を検出電荷数8とすると、時刻
1とt1+Δtにおける検出電荷QS(t1)とQS(t1
+Δt)の電荷の増加分ΔQSを時間差Δtで割った値
Sは数9の通りになる。
【0036】
【数8】
【0037】
【数9】
【0038】ここで測定時間に比して時定数τが著しく
大きい場合には、指数項は近似的に数10になるので、
Sは結局数11に示す通りになる。
【0039】
【数10】
【0040】
【数11】
【0041】即ち、検出された直流電圧VS(t)に静
電容量CSを掛けて、その時間変化割合を求めると、直
流電圧VDC印加による試料ケーブルの漏洩抵抗RXに流
れる直流電流を検出したことと全く等しくなり、測定の
応答遅れを完全に排除して直流電流成分を検出すること
ができる。上記測定方法を物理的に説明すれば、試料ケ
ーブル4から流出する直流電流をコンデンサ2aに直流
電荷として蓄積し、その電荷によるコンデンサ2aの直
流電圧上昇を電荷の漏洩なく検出している。この測定に
おいては数2、数3を用いて説明した従来の検出抵抗挿
入による電流測定手法のような測定回路の応答遅れを伴
わないので、直流単独課電時と交流重畳時の直流電流測
定を連続して短時間に実施できる。また、交流重畳時の
吸収電荷などの信号の急変や、外来ノイズによる測定値
の擾乱を的確に検出できる。さらに、本方法は電流測定
に比して電流の積分値である電荷を検出しているので検
出信号が大きく、微少な直流信号測定に適した方法とい
える。なお、本方法による測定においては、測定時間が
長くなるとコンデンサ2aからの電荷漏洩による測定誤
差が無視できなくなる。従って、本方法は短時間での測
定が好ましく、また、電荷の漏洩のない検出回路を必要
とする。この電荷漏洩防止の必要から、直流電圧計とし
ては例えば入力インピーダンスが1013Ω以上程度のエ
レクトロメータなどを使用する。
【0042】最後に、本発明による電流測定回路におけ
る誤差電流の防止対策について図3の測定実施の説明図
を参照しつつ以下に説明する。図3において、電流測定
回路2は試験用変圧器1の二次側巻線の低圧端子Vと接
地との間に接続されている。すでに説明したように、こ
の接続構成においてはケーブル遮蔽電極4bと接地との
間の直流起電力に基づく誤差電流は電流測定回路2に流
入しない。試験用変圧器1の一次側巻線の低圧入力端子
vは接地に接続されている。これは、試験用変圧器1の
一次側と接地との間に何等かの直流起電力が発生した場
合に試験用変圧器1の一次側巻線と二次側巻線との間あ
るいは一次側巻線と金属ケース1aとの間の絶縁抵抗を
経由して誤差電流が電流測定回路2に流入する問題を避
けるための処置であり、一次側巻線の低圧入力端子vを
接地に接続して誤差電流成分をバイパスさせる。試験用
変圧器1の金属ケース1aは変圧器二次側巻線の低圧端
子Vに接続されている。これは、試験用変圧器1の二次
側巻線高圧出力端子U側における気中コロナ放電などに
よる直流誤差電流が電流測定回路2へ流入しないための
処置である。
【0043】次に、直流課電装置3は接地から浮かされ
て、試験用変圧器1の二次側巻線の高圧出力端子Uと試
料ケーブルの導体4aとの間に接続されている。これ
は、直流課電装置3の発生電圧に原因する誤差電流が電
流測定回路2へ流入する問題を避けるための処置であ
る。試験用変圧器1に比較して直流課電装置3は軽量か
つ小型であることから、これを良好な絶縁を保持しつつ
大地から浮かすことは容易であり、このことによって直
流発生電圧に起因する誤差電流を大幅に低減することが
できる。さらに、直流課電装置3の金属ケース3aを試
験用変圧器1の二次側巻線の高圧出力端子Uに接続する
ことによって、大地から直流発生装置を支持する絶縁架
台に直流課電装置3の高圧発生電圧が印加されない構成
とし、直流誤差電流の電流測定回路2への流入を防止し
ている。
【0044】
【発明の効果】請求項1の発明は、疑似劣化信号の影響
による劣化判定誤差を低減して、高感度かつ信頼性の高
い絶縁劣化診断を達成することができるという特有の効
果を奏する。請求項2の発明は、測定の応答遅れに関わ
る本質的な測定誤差を著しく低減するとともに、交流重
畳時の吸収電荷を正確かつ高感度に検出してこれを絶縁
劣化診断に利用することができ、ひいては一層高感度か
つ信頼性の高い絶縁劣化診断を達成することができると
いう特有の効果を奏する。
【0045】
【図面の簡単な説明】
【図1】従来の直流重畳法の測定回路における誤差電流
発生の説明図である。
【図2】従来の直流電流成分測定に係わる測定回路の原
理図である。
【図3】本発明を実施するための測定回路のブロック図
である。
【図4】本発明の絶縁劣化診断方法による測定結果の説
明図であり、(a)は健全絶縁体、(b)は橋絡に近い
極度劣化水トリー劣化絶縁体の例である。
【符号の説明】
1 試験用変圧器 2 電流測定回路 2a コンデンサ 2c 高入力インピーダンス直流
電圧計 3 直流課電装置 4 試料ケーブル 4a 導体
フロントページの続き (72)発明者 坂本 中 埼玉県熊谷市大字新堀1008番地 三菱電 線工業株式会社 熊谷製作所内 (56)参考文献 特開 昭59−202077(JP,A) 特開 平8−62280(JP,A) 特開 平10−48284(JP,A) 特開 昭62−14072(JP,A) 特公 平6−19416(JP,B2) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) G01R 31/12

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 ケーブル絶縁体に直流電圧を印加した後
    に交流電圧を重畳して印加して、直流に交流電圧を重畳
    した時に観測される直流電圧成分を測定し、つぎに交流
    電圧を零にまで降下させた後の直流単独課電状態下での
    直流もれ電流を測定し、これら交流電圧重畳時の直流電
    流成分と直流単独課電下での直流もれ電流の大きさの差
    を用いて前記ケーブル絶縁体の劣化状態を診断すること
    を特徴とするケーブルの絶縁劣化診断方法。
  2. 【請求項2】 交流電圧重畳時の直流電流成分の測定、
    及び直流単独課電時の直流もれ電流の測定は、直流信号
    検出インピーダンスとしてコンデンサ(2a)を用い、
    その電極間の直流電圧を高入力インピーダンス直流電圧
    計(2c)を用いて測定し、コンデンサ(2a)の静電
    容量と直流測定電圧との積から直流電荷を求め、その直
    流電荷の時間変化割合から直流電流成分、或いは直流も
    れ電流を算出することを特徴とする請求項1に記載のケ
    ーブルの絶縁劣化診断方法。
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