JP3268494B2 - 全身性エリテマトーデス病態診断剤 - Google Patents

全身性エリテマトーデス病態診断剤

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JP3268494B2 JP31531298A JP31531298A JP3268494B2 JP 3268494 B2 JP3268494 B2 JP 3268494B2 JP 31531298 A JP31531298 A JP 31531298A JP 31531298 A JP31531298 A JP 31531298A JP 3268494 B2 JP3268494 B2 JP 3268494B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、全身性エリテマト
ーデス病態診断剤、さらに詳しくは、酵素抗体法(EL
ISA法)により血清中および脳脊髄液中の抗神経細胞
抗体(抗N抗体)値を測定することにより、全身性エリ
テマトーデスの中枢神経系の病態を診断するための診断
剤に関する。
【0002】
【従来の技術】全身性エリテマトーデス(SLE)は、
多臓器を侵す自己免疫疾患で、多種類の自己抗体の出現
が大きな特徴である。中枢神経(CNS)の障害(CN
Sループス)は、SLEの合併症として比較的よくみら
れるものであり、脳器質症候群や非器質性精神病(神経
症、うつ病、分裂病など)等の精神機能の異常(ループ
ス精神病)がSLEにおけるCNSの障害の1つの特徴
である。その頻度は軽症のものも含めると全患者の25
〜60%に及ぶといわれている。しかしながら、SLE
におけるCNS障害の機序についてはよく判っておら
ず、従来、本症の治療を困難にしていた大きな要因とし
て、その診断・疾患活動性の評価が困難であった点が挙
げられる。
【0003】ヒト神経芽細胞腫株細胞に結合する自己抗
体(抗N抗体)は、SLE患者の23〜32%の血清中
に認められるが、必ずしもCNS障害の存在とは平行し
ない。一方、脳脊髄液中の抗N抗体は、ループス精神病
に対する特異性が非常に高いことが報されているが(例
えばBluestein HG,et al ″Cer
ebrospinal fluid antibodi
es to neuronal cells: ass
ociation with neuropsychi
atric manifestations of s
ystemiclupus erythematosu
s.”Am J Med70,P240−246,19
81等)、別の報告ではこの抗体とSLEの精神神経病
変との関連が否定されており(例えばKelly M
C,et al ″Cerebrospinal fl
uid immunoglobulins and n
euronal antibodies in neu
ropsychiatric systemic lu
pus erythematosus and rel
ated conditions.”J Rheuma
tol 14,p740−744,1987 等)、脳
脊髄液中のこの抗体のSLEにおける意義については報
告により賛否両論入り混じっていた。
【0004】こうした中で、報告者による差異は、測定
法やループス精神病の診断基準や研究の進め方の差異、
あるいは測定系の感度や使用した神経芽細胞腫の株の差
異、あるいは神経芽細胞腫細胞株の固相化の方法の差異
に起因するものである可能性等が考えられるが、未だに
解決をみるに至っていない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】このように、抗N抗体
とループス精神病との関連については、報告によって不
一致がみられ、したがって、抗N抗体の診断上の有用性
は、未だ確立されていない。
【0006】本発明は、脳脊髄液中の抗N抗体とループ
ス精神病との相関関係を確立するとともに、有効な全身
性エリテマトーデス病態診断剤を提供することを目的と
するものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明は、ヒト神経芽細
胞腫株細胞がポリスチレン製の素材に細胞膜の本来の機
能を損うことなく結合され、安定に固相化されている結
合物を使用することにより、全身性エリテマトーデスの
病態を診断することができたものである。ここで、「全
身性エリテマトーデス病態診断剤」とは、全身性エリテ
マトーデス(SLE)の有無のみならず、その病態、特
にCNSループス、中でもループス精神病に該当するか
どうかを診断することができる診断剤を意味する。ヒト
神経芽細胞腫株細胞をポリスチレン製の素材に細胞膜の
本来の機能を損うことなく結合させる態様としては、パ
ラホルムアルデヒド等を結合剤として使用するのが好ま
しい。パラホルムアルデヒド以外に、グルタールアルデ
ヒド・ホルムアルデヒド・キシレン等も結合剤として使
用可能であるが、パラホルムアルデヒドが最も好まし
い。結合させるヒト神経芽細胞腫株細胞の密度は、ポリ
スチレンの表面積30mm 当たり(1〜100)×1
個が好ましく、また、使用する結合剤の濃度は、
0.1〜50重量%が好ましい。ヒト神経芽細胞腫株細
胞としては、SK−N−MC株、SK−N−SH株等が
適宜に使用される。
【0008】本発明では、SK−N−MC株等のヒト神
経芽細胞腫株細胞がプラスチックプレートのポリスチレ
ン表面に安定性をもって結合され固定された結合物を抗
原として使用し、酵素抗体法(ELISA)により、被
験者より得た脳脊髄液中の抗N抗体価を測定することに
より、ループス精神病(脳器質症候群と非器質性精神病
の両者を含む)の病態診断を的確に行うことができるも
のである。
【0009】従来の研究においては、SLE患者の脳脊
髄液中の抗N抗体の測定に当たって、固定化していない
生の神経芽細胞腫株細胞を抗原として用いている。その
場合には、被検検体との反応により細胞が死に陥る可能
性があり、その結果、抗細胞質抗体や抗核抗体が細胞内
に侵入して非特異反応を引き起こし、測定結果に重大な
誤差を生じることになる。また、生きた細胞を抗原とし
て用いる場合は、操作が非常に繁雑となり、また、条件
によっては操作中に細胞の脱落を来たし、測定毎に数値
の異なる不安定な結果しか得られない可能性もある。
【0010】従って、本発明者らは、こうした測定系に
生の細胞を用いてきたことが、抗N抗体とループス精神
病の相関についての異なった結論を生み出している可能
性が高いとの想定の下に、SK−N−MC株等のヒト神
経芽細胞腫株細胞がプラスチックプレートのポリスチレ
ン表面に安定性をもって結合され固定されている結合物
を使用することによって、抗N抗体に特異性の高いEL
ISA法を開発したのである。
【0011】この方法を用いて、ループス精神病と脳脊
髄液抗N抗体との関係について検討を行ったところ、脳
脊髄液中の抗N抗体は、脳器質症候群と非器質性精神病
を含むループス精神病において、ループス精神病以外の
SLE患者と比較して、有意の上昇を認めることが確認
され、この両者の相関が裏付けられた。従って、抗N抗
体とループス精神病との相関についてのこれまでの報告
の不一致は、用いる測定系の感度あるいは用いる生細胞
抗原の安定性の差、あるいは細胞の付着状態の安定性の
差が起因していた可能性が高いと結論づけられる。
【0012】事実、過去の報告を見る限り、測定系の感
度には見過ごせない差が存在する。例えば、脳脊髄液抗
N抗体とループス精神病の有意な相関を報告したBlu
esteinらは感度の高い酵素抗体法を用いているの
に対して、この両者に有意の相関がないと報告している
Kellyらは感度の低いhemo−adsorpti
on法を用ている。
【0013】また、過去の報告では、いずれも神経芽細
胞腫株細胞を生きた状態で使用している。ここで、SL
E患者由来の検体の中には、こうした神経芽細胞腫株細
胞に対して毒性に作用する物質が存在する場合があり、
これは、抗N抗体の測定を行う際、特に非特異反応を生
じる原因となる。すなわち、反応中に細胞死を来たすこ
とにより、細胞膜の透過性の選択性が失われ、被検検体
中に存在する細胞質成分や核成分と反応する抗体の結合
を可能にするためである。また、生きた細胞を用いた場
合、洗浄などの操作により、かなりの細胞がプレートよ
り剥脱していまい、重大な誤差を生じる原因となる。こ
れに対して、神経芽細胞腫株細胞をプラスチックプレー
トのポリスチレン表面に付着させた後に、パラホルムア
ルデヒド等により固定した場合、これらの細胞はポリス
チレン表面に強固に付着するとともに、細胞表面の抗原
性を損なうことなく細胞膜を固定し、細胞質や核成分と
反応する抗体の透過が阻止されるため、抗N抗体の測定
を行う上で優れており、本発明の病態診断剤に特に有効
である。
【0014】なお、本発明では、ループス精神病患者に
限ることなく全般にSLE患者の血清中には抗N抗体の
異常な上昇が認められるところから、これを利用してS
LE自体の診断が可能であり、そして、SLE患者の中
でもループス精神病患者の脳脊髄液中には抗N抗体の異
常な上昇が認められることを利用して、ループス精神病
という病態を診断することができるのである。すなわ
ち、SLEにおいて抗N抗体の産生が中枢神経内で起っ
た場合にループス精神病を発症する可能性が高いと考え
られる。
【0015】
【発明の実施の形態】本発明に用いられるヒト神経芽細
胞腫株は、市販されているものを用いることができる。
また、その種類もSK−N−MCに限らず、SK−N−
SH等他の種類の付着性細胞を用いることができる。
【0016】プレートに神経芽細胞腫細胞を付着させる
場合には、ポリスチレン表面積30mmあたり、好ま
しくは(1〜100)×10個、より好ましくは(3
〜10)×10個を付着させることが好ましい。溶媒
としてはEagleのMEM(Minimum Ess
ential Medium)に非必須アミノ酸を添加
したものにウシ胎児血清を添加したもの等が挙げられ
る。ウシ胎児血清は、2.0〜20.0%、特に8.0
〜12.0%の濃度で添加するのが好ましい。付着させ
るまでの培養時間は、16〜96時間、特に36〜72
時間が好ましい。培養は37℃、5%COの環境下で
行うことが好ましい。
【0017】一方、付着した神経芽細胞腫株細胞の固定
・固相化は、パラホルムアルデヒドを0.05〜0.2
5Mのリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に溶解したもの
を用いることによって行うことができる。
【0018】本発明において神経芽細胞腫株細胞を固定
・固相化するに当たって、PBS中に溶解したパラホル
ムアルデヒドを使用するのが好ましいが、パラホルムア
ルデヒドの代わりにホルムアルデヒド・グルタールアル
デヒド・キシレン等を用いることも可能である。これら
は、0.1〜50重量%、好ましくは0.5〜10重量
%、さらに好ましくは0.5〜4重量%の濃度で使用す
る。また、固定・固相化の条件としては、好ましくは2
0〜40℃、より好ましくは37℃近辺の温度で、好ま
しくは1〜20分間、より好ましくは3〜7分間行うの
が好ましい。また、固定・固相化の終了後、Tween
20を0.03〜0.07%、特に約0.05%の濃
度で添加したPBS溶液を用いて1〜3回洗浄すること
が好ましい。
【0019】また、本発明の神経芽細胞腫株細胞を固定
および固相化したポリスチレン結合物は、サランラップ
等により密封した状態で、好ましくは、10℃以下、よ
り好ましくは4〜6℃の温度で非凍結保存することによ
り、6ヶ月以上経時しても、本発明で適用されるべきE
LISAによる測定系に用いた場合に同じ安定した測定
結果を得ることができる。
【0020】本発明では、従来公知の酵素抗体法(EL
ISA)を用いて、すなわち、神経芽細胞腫株細胞を抗
原としてポリスチレンの固相(通常はプラスチック製の
プレート)に細胞膜を固定した状態(細胞膜の本来の機
能、特に膜の選択透過性を損うことなく)で結合させて
おき、被験者の血清あるいは脳脊髄液を反応させた後、
ペルオキシダーゼ標識抗ヒトIgGを反応させ、その
後、o−フェニレンジアミン、Hを含む基質液で
発色させ、波長492nmの吸光度(OD492)を測
定して、プレート中のウェルの酵素活性を測定すること
により、血清あるいは脳脊髄液中の抗N抗体値を測定す
ることができる。また、ペルオキシダーゼ標識抗ヒトI
gGの代わりに、アルカリホスファクターゼ標識抗ヒト
IgG,ビオチン標識抗ヒトIgG等を使用しても、基
質液と検出波長を適宜調節することにより、同様に測定
することができる。
【0021】本発明によれば、神経芽細胞腫株細胞をポ
リスチレン表面に非可逆的に結合させて固定した結合物
を使用することによって、脳脊髄液中の抗N抗体と全身
性エリテマトーデス(SLE)のループス精神病との相
関関係が明確になり、したがって、この結合物が有効な
全身性エリテマトーデス病態診断剤として機能すること
が確認された。
【0022】
【実施例】以下、本発明を実施例により例証するが、本
発明はこれに限定されるものではない。
【0023】1)患者 実施例では、87例のSLE患者の検体を用いた。これ
らの患者はすべてアメリカリウマチ協会の1982年の
SLEの分類のための改訂基準を満たしていた。表1に
示す通り、87例のSLE患者のうち、27例は中枢神
経症状を欠いており、34例はループス精神病(指南力
・認知・記憶・その他の知的機能の障害を主徴とする脳
器質症候群14例、神経症・繰病・うつ状態・分裂病な
どの非器質精神病20例)の症状を示し、26例は精神
病以外の中枢神経症状を示した(非精神病CNS)。な
お、ループス精神病及び非精神病CNSの診断は、CS
FIg Index(髄液Ig×血清アルブミン/血清
Ig×髄液アルブミン)と髄液(脳脊髄液)インターロ
イキン−6(IL−6)活性のいずれかあるいは両者の
上昇により確認されている(広畑俊成“CNSループ
ス”内科75 p502−508,1995参照)。ま
た、これ以外にも非SLE神経疾患患者20例を用い
た。
【0024】
【表1】
【0025】2)検体 87例のSLE患者より、その活動期に血清を採取し
た。さらに、41例の患者については、血清採取日に同
時に腰椎穿刺によりCSF(脳脊髄液)を採取した。ま
た20例の非SLE神経疾患患者からも血清・脳脊髄液
を採取した。これらの検体は抗N抗体測定までの間−2
0℃で保存した。抗N抗体の測定は診断・臨床症状につ
いて予備知識を持っていない者により行われた。
【0026】3)血清抗一本鎖DNA抗体、抗二本鎖D
NA抗体、抗核抗体の測定 87例のSLE患者より無作為に選んだ12例について
は、その血清中の抗一本鎖DNA抗体価・抗二本鎖DN
A抗体価を市販のキットにより測定した(MESACU
P DNA−IIテスト;MBL社、名古屋市)。さら
に、抗核抗体をHEp−2細胞を用いた蛍光抗体法(F
LUORO HEP ANAテスト;MBL社、名古屋
市)を用いて測定した。
【0027】4)ヒト神経芽細胞腫株細胞のプレートへ
の固相化と固定 EagleのMEMに非必須アミノ酸、ストレプトマイ
シン(100μg/ml)・ペニシリンG(100U/
ml)、L−グルタミン(0.3mg/ml)及び10
%ウシ胎児血清を添加した培養液中に、神経芽細胞腫株
SK−N−MCを2.5×10/mlの割合で浮遊さ
せる。この浮遊液をポリスチレン製96穴の平底のマイ
クロプレート(No.3596;コースター社)の各ウ
ェルに0.2mlずつ添加し、5%CO、37℃の環
境下に48時間置くことにより、SK−N−MCをプレ
ートの表面に5.0×10/30mmの密度で付着
させる。この上清を吸い出した後、各ウェルを0.15
MのPBSで1回洗浄する、その後、各ウェルに1%パ
ラホルムアルデヒド−PBS液を0.1mlずつ添加
し、37℃で5分間置く。その後、パラホルムアルデヒ
ド−PBS液を除去し、Tween20を0.05%含
む0.15MのPBS液で各ウェルを3回洗浄する。
【0028】5)抗N抗体の測定 ヒト神経芽細胞腫株細胞SK−N−MCを固定・固相化
した96穴マイクロプレート(ポリスチレン製)の各ウ
ェルに、予め1%ウシ血清アルブミン(BSA)を含む
PBSで200倍に希釈しておいた被検血清あるいは3
倍に希釈しておいた被検脳脊髄液を入れ37℃で1時間
反応させた後、ウェルに結合した抗N抗体をペルオキシ
ダーゼ標識F(ab′)ヤギ抗ヒトIgG(カペル
社、ペンシルバニア州コクランビル)に反応させて検出
した。100mlの0.05Mクエン酸リン酸バッファ
ー中(pH4.8)にo−フェニレンジアミン40mg
と30%H10μlを含む基質液を各ウェルに加
え、37℃で30分反応させた後、5N HSO
加えて反応を停止させ、2波長マイクロプレートリーダ
ー(MTP−120、コロナ電機、茨城県)にてOD4
92を測定した。抗N抗体を多量に含む患者より得た血
清を用いて標準曲線を作成し、OD492の値より抗N
抗体をユニット標示で定量化した。すなわち、ELIS
Aプレートにて最大吸光度の1/2の吸光度を示すのに
必要な抗N抗体を1U/mlと便宜的に設定した。
【0029】6)フローサイトメトリーによる抗N抗体
の特異性の検討 抗N抗体を含むSLE患者血清より抗N抗体を精製し、
その特異性をフローサイトメトリーで検討した。1%パ
ラホルムアルデヒド−PBSで処理したヒト神経芽細胞
腫株SK−N−MC(16×10個)に0.2mlの
患者血清を加え、4℃で24時間反応させ、抗N抗体を
細胞表面に結合させた。抗N抗体を結合させた後、細胞
をPBSおよび生理食塩水で洗浄し、0.17Mグリシ
ン塩酸バッファー(pH2.8)で抗N抗体を溶出し
た。溶出した抗N抗体は透析膜に入れ、PBSで透析し
た。ヒト神経芽細胞腫株SK−N−MCおよびヒト前骨
髄性白血病細胞株HL−60を1%パラホルムアルデヒ
ド−PBSで処理した後、精製抗N抗体あるいは対照ヒ
トIgGと、2%ヤギ血清を含むPBS液中で4℃で3
0分反応させた。その後にFITC標識F(ab′)
ヤギ抗ヒトIgG(カペル社)と4℃で30分間反応さ
せ、EPICS XLフローサイトメーター(コールタ
ー社)を用いて染色パターンを解析した。
【0030】結果は図1Aに示すように、精製された抗
N抗体はパラホルムアルデヒドで処理されたSK−N−
MC細胞に結合したが(実線で示す)、健常人由来対照
IgGは結合しなかった(点線で示す)。一方、抗N抗
体と対照IgGのいずれもHL−60細胞とは結合しな
かった。
【0031】次に、プレートに付着した神経芽細胞腫株
細胞を1%パラホルムアルデヒドによりポリスチレン製
のマイクロプレートに固相化した後にELISAを行っ
た場合と、そのまま無処理でELISAを行った場合の
比較を行った。図1Bに示すとおり、1%パラホルムア
ルデヒドで固定しなかった場合(Live SK−N−
MC)は、抗N抗体との結合は顕著に低下した。これ
は、主としてELISA操作中に神経芽細胞腫株細胞S
K−N−MCがプレートから脱落することに起因するも
のである。従って、神経芽細胞腫株細胞がパラホルムア
ルデヒドで固定・固相化されている本発明の診断剤を使
用するELISA法により、抗N抗体の特異的かつ安定
した測定系が得られることが確認された。
【0032】7)統計的解析 各群における血清および脳脊髄液抗N抗体価の差異は、
Mann−Whitney Uテストを用いて検定し
た。治療による血清および脳脊髄液抗N抗体価の変動に
ついては、Wilcoxon signed rank
testにより解析した。
【0033】8)抗N抗体測定ELISA法の特異性 抗N抗体のELISA法の特異性を検討するために、1
2例のSLE患者の血清について、その抗核抗体価・抗
一本鎖DNA抗体価・抗二本鎖DNA抗体価の値と抗N
抗体価を比較した。結果を表2に示す。
【0034】
【表2】
【0035】SLE患者血清中の抗N抗体価は、抗一本
鎖DNA抗体価・抗二本鎖DNA抗体価および抗核抗体
価のいずれとも有意の相関を示さなかった。すなわち、
抗N抗体価100U/ml以下を示す患者血清の中で
も、抗DNA抗体が高値を示したり(No.3及びN
o.11)、抗核抗体が高値を示したりするものが見ら
れた(No.8、及びNo.11及びNo.12)。一
方、抗N抗体価250U/ml以上の高値を示す患者血
清の中でも、抗DNA抗体が低値を示したり(No.
1、No.9及びNo.10)、抗核抗体が低値を示し
たりするものが見られた(No.1)。従って、SK−
N−MC細胞がパラホルムアルデヒドで固定されること
により、細胞質成分や核成分に対する抗体の非特異反応
を抑制していることが判る。
【0036】9)抗N抗体測定ELISA法に用いる神
経芽細胞腫株細胞固相化プレートの安定性 神経芽細胞腫株細胞を1%パラホルムアルデヒドにより
ポリスチレン製のマイクロプレートに固相化し、その後
PBSにTween20を0.05%の濃度で添加した
溶液で3回洗浄した後、1%ウシ血清アルブミンを含む
0.15MのPBS(pH7.2)で1回さらに洗浄
し、ウェルの中の液体成分を吸い出した状態で、サラン
ラップにより密封して4℃の温度で非凍結保存した。こ
のプレートを用いて、高濃度の抗N抗体を含む患者血清
の反応性の変化の有無を検討した。
【0037】図2に示すように1ヶ月間保存したプレー
ト(黒四角のグラフ)においても、6ヶ月間保存したプ
レート(白丸のグラフ)においても、保存前のプレート
(×印のグラフ)と同様に、800倍希釈から12,8
00倍希釈の間で、安定した用量反応曲線を得ることが
できた。従って、本発明の神経芽細胞腫株細胞を固相化
したプレートは、サランラップ等で密封した状態で4℃
の温度で非凍結保存することにより、少なくとも6ヶ月
間は安定した測定結果を得ることができることが実証さ
れた。
【0038】10)ELISAによる抗N抗体の定量 87例のSLE患者血清中および41例のSLE患者脳
脊髄液中の抗N抗体をELISAにより測定した。
【0039】図3Aに示すように、血清抗N抗体は、非
SLE神経疾患患者(Control)に比べて、非C
NSのSLE患者(NOn−CNS SLE)あるいは
ループス精神病(lupus psychosis )
の患者あるいは非精神病CNSを示すSLE患者(No
npsychotic CNS lupus)のいずれ
においても有意に上昇していた。しかし、SLE患者の
3群の中では有意な差を認めなかった。
【0040】図3Bに示すように、髄液抗N抗体は、ル
ープス精神病(lupus psychosis )の
患者において、非SLE神経疾患患者(Non−SLE
neurologic control)あるいは非
精神病CNSを示すSLE患者(Nonpsychot
ic CNS lupus)に比し有意に上昇してい
た。ループス精神病の患者の中には、10例の脳器質症
候群を示す患者と17例の非器質精神病を示す患者が存
在する。しかし、髄液あるいは血清中抗N抗体は非器質
性精神症状(non−organic psychos
is)と脳器質症候群(organic brain
syndrome)の間では有意差がなかった(図3
C)。統計学的解析はMann−Whitney Uテ
ストを用いて行った。
【0041】これらの結果は、本発明の診断剤を使用し
てELISA法により検出される血清抗N抗体価は、S
LE患者全般において上昇を示しており、CNSループ
スに特異的ではないが、SLEの診断においては有用で
ある可能性を示している。一方、同様に検出される脳脊
髄液中の抗N抗体価、すなわち神経細胞に対する自己抗
体の値は、ループス精神病患者において特異的に上昇し
ており、ループス精神病と有意に相関するという知見を
裏付けるものであって、ループス精神病というSLEの
病態の診断の可能性を示している。さらに脳器質症候群
と非器質精神病は抗N抗体の関与する共通の病態を有し
ていることが示唆された。
【0042】11)治療による血清および脳脊髄液中抗
N抗体の変化 8例のループス精神病を示す患者において、中枢神経症
状の治療による改善と血清および脳脊髄液抗N抗体価の
推移とを経時的に検討した(主として治療後1〜3ヶ月
の間)
【0043】図4に示すように、治療により血清および
脳脊髄液中の抗N抗体価は有意に低下した(統計処理は
Wilcoxon signed rank test
により行った)。図5は、治療によって改善したループ
ス精神病を示すSLEの1症例の臨床経過を示す。中枢
神経症状の改善と平行して血清抗リボソームP抗体価、
髄液抗N抗体価ともに低下している。矢印はステロイド
パルス療法を示す(メチルプレドニゾロン1g/日を3
日間連続)。血清抗リボソームP抗体は、患者の一過性
の症状増悪時には変動を示さなかったが、髄液抗N抗体
は、症状の増悪を的確に反映し上昇し、その後の症状の
軽快とともに低下している。従って、血清抗リボソーム
P抗体価に比し、脳脊髄液中の抗N抗体価は、中枢神経
病変の活動性の指標として、より有効であることが判
る。
【0044】12)まとめ 本発明においては、ヒト神経芽細胞腫株細胞を固定し、
プラスチックプレートに固相化した診断剤を使用するこ
とにより、抗N抗体の測定法を確立した。特に、細胞質
成分や核成分と反応する抗体による結合を阻止すること
により抗N抗体のELISAの特異性に対して配慮を行
った。本測定法では、非特異的反応が生じにくく、抗N
抗体の測定を行う上で優れており、血清中の抗N抗体で
はなく、脳脊髄液中の抗N抗体がループス精神病の病状
をよく反映することが明らかとなり、本発明の病態診断
剤としての有効性が裏付けられた。
【0045】Tehらが指摘したように(Teh L−
S,Isenberg DA ″Antiriboso
mal ProteinAntibodies in
Systemic Lupus Erytematos
us″a reappraisal.Arthriti
s Rheum 37 p307−315,199
4)、ループス精神病と診断する方法と基準が従来技術
ではまちまちであるという点は、SLEにおける多彩な
精神神経症状の評価の困難性を反映しているかもしれな
い。しかし、精神神経症状を示すSLE患者ではCSF
Ig Indexや脳脊髄液IL−6の上昇で裏付け
られる中枢神経内での免疫異常を有することを考えてお
く必要がある。本発明では、ループス精神病及び非精神
病CNSを示すSLE患者はCSF Ig Index
の上昇や脳脊髄液IL−6の上昇を示したことから、こ
れら患者の中枢神経症状は、活動性のSLEに起因する
ことを確認している。従って、脳脊髄液中の抗N抗体と
ループス精神病の因果関係が確実と考えられる。
【0046】また、上述の通り、SLEでは、高次脳機
能の異常に伴って多彩な症状がみられ、これら高次脳機
能の異常に伴う症状は、指南力・認知・記憶・その他の
知的機能の障害を特徴とする「脳器質症候群」と、神経
症・躁病・うつ状態・分裂病などの症状を主徴とする
「非器質性精神病」の2つに大別される傾向にあるが、
これまでの報告は、脳器質症候群と抗N抗体との相関に
ついては全く言及されていない。本発明の結果は、脳器
質症候群と非器質性精神病の間では脳脊髄液中抗N抗体
の値に有意差のないことをはっきりと証明した。従っ
て、抗N抗体は精神障害の特定の症状特異性を決定する
ものではないことが判る。
【0047】血清抗リボソームP抗体もループス精神病
と非常に強い相関を示すことが明らかにされている。し
かしながら、抗リボソームP抗体は、ループス精神病患
者の脳脊髄液中には全く検出されない。従って、抗N抗
体とは異なり、血清中に存在する抗リボソームP抗体が
ループス精神病の病態形成上重要な役割を果たしてお
り、一方、脳脊髄液中では抗N抗体がループス精神病の
発症に中心的意義を担っていることが考えられる。
【0048】本発明においては、患者の精神神経症状の
活動性が高いときに脳脊髄液抗N抗体価の上昇を認め、
治療により症状が軽快すると、脳脊髄液抗N抗体価は低
下した。さらに一人の患者で経時的に観察したところ、
治療によって症状が改善するのと平行してやはり脳脊髄
液抗N抗体価は低下した。これまでの報告で、血清中の
抗リボソームP抗体も、精神症状を示す患者の中枢神経
病変の活動性のモニターを行う上で有用であることが示
されている。しかし、患者の精神神経症状が増悪した
時、血清抗リボソームP抗体価の上昇が見られない時で
も、脳脊髄液抗N抗体価は上昇を示した。これらの結果
は、血清中の抗リボソームP抗体価そのものは中枢神経
病変の程度を知るための有益なマーカーではなく、むし
ろ共通な病態生理を持つSLEの神経障害を起こす基盤
を示す1つの独特の指標と考えるべきであろう。むし
ろ、抗N抗体が中枢神経内で産生されて直接神経細胞と
結合することが中枢神経病変の発症の直接のきっかけと
なることが考えられる。
【0049】従って、血清中ではなく、脳脊髄液中の抗
N抗体がループス精神病の発症に重要な役割を果たして
いる可能性が高い。しかし、現在のところその機序が全
く判っておらず、また、髄液中の抗N抗体がループス精
神病の病態形成に関与するという実際の直接的証拠もな
い。
【0050】しかし、これまでに中枢神経内でのIL−
6産生がループス精神病の病態形成に関与することが指
摘されている。一方、中枢神経内では、グリア細胞だけ
でなく、神経細胞もIL−6を産生することができると
いう。従って、抗N抗体が神経細胞と結合することによ
り、神経細胞によるIL−6の産生を促進したり、また
機能を障害する可能性が十分考えられる。この点に関し
ては、今後更に検討を加えてゆく必要があろう。
【0051】まとめると、本発明の結果より、パラホル
ムアルデヒド等で固定・固相化することにより特異性の
高い抗N抗体測定のためのELISAを樹立することが
できることが確認できた。さらに、我々は脳脊髄液中の
抗N抗体とループス精神病(脳器質症候群と非器質性精
神病の両者を含む)の相関を確認することができた。今
後の検討を要するが、血清中ではなく、脳脊髄液中の抗
N抗体がびまん性の中枢神経障害の発症に関与すること
を示唆するものである。なお、ループス精神病の発症に
関与する他の因子や精神神経症状の特異性を決定する要
因についても今後検討する必要がある。最後に抗N抗体
が中枢神経内で産生される機序についての検討も、ルー
プス精神病の発症機序の全貌解明のために重要である。
【図面の簡単な説明】
【図1A】 ヒト神経芽細胞腫株細胞SK−N−MCの
抗N抗体に対する結合の特異性を示す図。
【図1B】 ヒト神経芽細胞腫株細胞SK−N−MCを
ポリスチレン性のプレートにパラホルムアルデヒドによ
り固定・固相化した結合物の抗N抗体との反応性の安定
性を固定・固相化されていない場合と比較して示す図。
精製抗N抗体(Anti−N)の種々の濃度において、
プレート(SK−N−MC付着)との反応性に及ぼすパ
ラホルムアルデヒド固定の効果を示す。
【図2】 ヒト神経芽細胞腫株細胞SK−N−MCを
ポリスチレン性のプレートにパラホルムアルデヒドによ
り固定・固相化した結合物の抗N抗体との反応性の経時
安定性を示す図。
【図3】 固定・固相化されたヒト神経芽細胞腫株細
胞SK−N−MCを使用して測定したSLE患者の血清
中(図3A、図3C)および脳脊髄液中(図3B、図3
C)の抗N抗体価を示す図。グラフはBoxプロットを
用いて表示してある(Kaleida Graph I
Version2.1.1、アルベルックソフトウエ
ア社)。箱の上端、中間及び下端の線は、それぞれ75
パーセンタイル、50パーセンタイル及び25パーセン
タイルを示し、箱を貫く縦線の上端及び下端がそれぞれ
90パーセンタイル及び10パーセンタイルを示す。丸
印は外れた場合を示す。
【図4】 ループス精神病8例における治療後の血清
中および脳脊髄液中抗N抗体値の変化を示す図。
【図5】 非器質性精神病(ループス精神病)を示す
SLE患者の臨床経過を示す図。

Claims (3)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 ヒト神経芽細胞腫株細胞をポリスチレン
    製の素材に細胞膜の本来の機能を損うことなく結合さ
    れ、安定に固相化されている結合物を含有することを特
    徴とする全身性エリテマトーデス病態診断剤。
  2. 【請求項2】 ヒト神経芽細胞腫株細胞をポリスチレン
    製の素材にパラホルムアルデヒドにより結合され、安定
    に固相化されている結合物を含有することを特徴とする
    請求項1記載の全身性エリテマトーデス病態診断剤。
  3. 【請求項3】 ヒト神経芽細胞腫細胞がポリスチレン
    の表面積30mm当たり(1〜100)×10個の
    密度で0.1〜50重量%パラホルムアルデヒドにより
    非可逆的に結合され、固相化されている結合物を含有す
    ことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の全身性
    エリテマトーデス病態診断剤。
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