JP2949619B2 - 全身性エリテマトーデス病態診断剤 - Google Patents

全身性エリテマトーデス病態診断剤

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、全身性エリテマト
ーデス病態診断剤、さらに詳しくは、酵素抗体法(EL
ISA法)により血清中の抗リボソームP蛋白抗体(抗
P抗体)値を測定するための、全身性エリテマトーデス
の中枢神経系の病態診断剤に関する。
【0002】
【従来の技術】全身性エリテマトーデス(SLE)は、
多臓器を侵す自己免疫疾患で多種類の自己抗体の出現が
大きな特徴である。中枢神経(CNS)の障害は、SL
Eの合併症として比較的よく見られるものであり、脳器
質症候群や非器質性精神病(神経症、うつ病、分裂病な
ど)などの精神機能の異常(いわゆるCNSループス)
がSLEにおけるCNSの障害の1つの特徴である。そ
の頻度は軽症のものも含めると全患者の25〜60%に
及ぶと言われている。しかしながら、SLEにおけるC
NS障害の機序についてはよく判っておらず、従来、本
症の治療を困難にしていた大きな要因として、その診断
・疾患活動性の評価が困難であった点が挙げられる。
【0003】リボソームP蛋白に対する自己抗体(抗P
抗体)はSLE患者の12〜16%に認められる。抗P
抗体はループス精神病に対する特異性が非常に高いこと
が報告されているが(例えば、Bonfa E, et al "Associ
ation between lupus psychosis and anti-ribosomal P
protein antibodies." N Eng J Med 317:265-271,1987
など)、報告によってはこの抗体とSLEの精神神経病
変との関係についての不一致が見られ(例えば、Derkse
n RHWM, et al "A prospective study on antiribosoma
l P protein in two cases of familial lupus and rec
urrent psychosis." Ann Rheum Dis 49:779-782, 1990
など)、この抗体のSLEにおける意義については報告
により賛否両論入り混じっていた。
【0004】こうした中で、報告者による差異は、測定
法やループス精神病の診断基準や研究の進め方の差異、
あるいは人種による差異に起因するもので測定法の感度
とは関係ないと述べている報告もある(Teh L-S, Isenb
erg DA "Antiribosomal P protein antibodies in syst
emic lupus erythematosus." A reappraisal. Arthriti
s Rheum 37:307-315, 1994)。しかしこの報告では、結
果に重大な影響を及ぼす測定法の特異性については何も
触れていない。
【0005】また抗P抗体は、真核細胞のリボソームの
60Sサブユニットに存在するP0、P1、P2のリン
酸化蛋白(分子量は各々38kd、19kd、17k
d)を認識し、これらリボソームP蛋白はC末端の22
アミノ酸より成る共通の抗原決定基を有している(Elko
n KB, et al "Identification and chemical synthesis
of a ribosomal protein antigenic determinant in sy
stemic lupus erythematosus." Proc Natl Acad Sci US
A 83:7419-7423, 1986)。しかしながら、リコンビナン
トリボソームP蛋白を抗原とする方法を用いた測定系に
おいても、従来と異なる結果が報告されている(Yoshio
T, et al "Quantitation of antiribosomal P0 protei
n antibodies by ELISA with recombinant P0 fusion p
rotein andtheir association with central nervous s
ystem disease in systemic lupuserythematosus." J R
heumatol 22:1681-1687, 1995)。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】このように、抗P抗体
はループス精神病に非常に特異性の高いことが報告され
ているにもかかわらず、報告によってはこの抗体とSL
Eの臨床症状との関係について不一致が見られる。
【0007】本発明は、抗P抗体とループス精神病との
関係について再評価するとともに、有効な全身性エリテ
マトーデス病態診断剤を提供することを目的とするもの
である。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明の上記目的は、純
度99%以上のC末端22個のアミノ酸を含む合成リボ
ソームPペプチドをヒト血清アルブミンと結合させた合
成リボソームPペプチドーアルブミン結合物を含有する
ことを特徴とする全身性エリテマトーデス病態診断剤に
より解決されることが見出された。
【0009】本発明では、C末端22個のアミノ酸を含
む純度の高い合成リボソームPペプチドをヒト血清アル
ブミンとを結合させ、これを抗原として酵素抗体法(E
LISA)により、被験者より得た血清中の坑P抗体価
を測定することにより、ループス精神病(脳器質症候群
と非器質性精神病の両者を含む)の病態診断を的確に行
うことができるものである。
【0010】従来の殆どの研究がSLE患者血清中の抗
P抗体の測定にあたっては22アミノ酸より成る合成ペ
プチドを抗原として用いている。しかし、その合成ペプ
チドの純度は各研究により相違があるとともに、そのペ
プチドを結合するキャリアー蛋白も一定していない。ま
た、リコンビナトリボソーマルP蛋白を抗原とする方法
を用いた測定系では、抗原内に細菌由来の産物が混入し
ている可能性も考えられる。
【0011】従って、本発明者らは、こうした測定系に
用いる抗原の差異が、抗P抗体とループス精神病の相関
についての異なった結論を生み出している 可能性が高
いとの想定のもと、本発明においては、純度99%以上
の22アミノ酸より成る合成リボソームPペプチドを用
いた抗P抗体に特異性の高いELISA法を開発した。
【0012】この方法を用いて、ループス精神病と血清
抗P抗体との関係について再検討を行ったところ、血清
中の抗P抗体は、脳器質症候群と非器質性精神病を含む
ループス精神病において、ループス精神病以外のSLE
患者と比較して、有意の上昇を認めることが示され、こ
の両者の相関が裏付けられた。抗P抗体とループス精神
病との相関についてのこれまでの報告の不一致は、リボ
ソームPペプチドの純度の差が起因していた可能性が高
いと結論づけられる。
【0013】事実、過去の報告を見る限り、測定系に用
いられた合成リボソームPペプチドの純度には見過ごせ
ない差が存在する。例えば、血清坑P抗体とループス精
神病の有意な相関を報告したBonfaやSchnee
baumらは純度の高い精製リボソームPペプチドを用
いているのに対して、この両者に有意の相関がないと報
告している他の発明者は純度がたった50%のリボソー
ムPペプチドを用いていたり、こうした純度を全く報告
していない。
【0014】また、リボソームPペプチドの結合相手の
アルブミンとしては、ヒト血清アルブミン、ウシ血清ア
ルブミン、卵白アルブミン等を挙げることができる。こ
こで、卵白アルブミン、ウシ血清アルブミンは異種蛋白
であるために、正常人でもこれらに対する抗体を有して
いる場合があり、これは、抗リボソームP抗体を測定を
行う際、特に非特異反応を生じる原因となる。これに対
して、ヒト血清アルブミン(HSA)は元来ヒトの同種
蛋白であるので、こうした非特異的反応を生じにくいた
め、抗リボソームP抗体の測定を行う上で優れており、
本発明の病態診断剤に特に有効である。
【0015】尚、本発明では、ループス精神病患者の脳
脊髄液中には抗P抗体の異常な上昇は認められず、本抗
体が中枢神経内で産生されている可能性は薄いと考えら
れた。
【0016】
【発明の実施の形態】本発明に用いられるC末端22個
のアミノ酸を含む合成リボソームPペプチドは、市販の
ペプチド合成機を用いて容易に合成することができる。
得られたペプチドを99%以上の純度に精製する方法と
しては、従来公知の種々の方法を用いることができ、例
えば、高速液体クロマトグラフィー、アフィニティクロ
マトグラフィー、電気泳動法等を挙げることができる。
【0017】精製した合成リボソームPペプチドは、好
ましくは0.1〜100mg/mlの濃度、より好ましくは
5〜10mg/mlの濃度の溶液にすることが好ましい。溶
媒としては0.05〜0.25Mのリン酸バッファー
(PBS)などが挙げられ、PHは5.0〜8.0、特
に7.0〜7.4が好ましい。
【0018】一方、ヒト血清アルブミン(HSA)、ウ
シ血清アルブミン(BSA卵白アルブミン(OVA)は
市販のものを用いることができる。また、従来公知の方
法(例えば、セルロース・アセテート電気泳動法、セフ
ァデックスによるゲル濾過など)によって精製すること
が好ましい。精製したアルブミンも上記と同様の溶媒
に、1〜1000mg/mlの濃度、より好ましくは10〜
100mg/mlの濃度で溶解することが好ましい。
【0019】合成リボソームPペプチドとアルブミンと
の結合は、Avrameas S "Coupling of enzymes to prote
ins with glutaraldehyde: use of the conjugates for
thedetection of antigens and antibodies" Immunoch
emistry 6: 43-52,1969に記載される方法に基づき、グ
ルタールアルデヒド法にて行うことができる。具体的に
は、上記合成リボソームPペプチド溶液とアルブミン溶
液の混合物にグルタールアルデヒド溶液を加えて放置し
たのち、遠心分離機にかけ、その上清を透析することに
より、本発明の合成リボソームPペプチド−アルブミン
結合物を得ることができる。あるいは、Fujiwara K et
al, "Novel preparation method of immunogen for hyd
rophobic hapten, enzyme immunoassay for daunomycin
and adriamycin" J Immunol Method 45: 195-2-3, 198
1 に記載されるように、γ−マレイミド n−ブチル酸
N−ヒドロキシスクシンイミドエステル(GMBS)を
用いる方法によっても同等の結合物を得ることができ
る。
【0020】また本発明では、合成リボソームPペプチ
ドとアルブミンの重量組成 比が、10〜300対10
0〜500、特に40〜60対200〜400であるこ
とが好ましい。この範囲内において特に全身性エリテマ
トーデスの中枢神経系の病態と相関性のある有効な測定
結果を得ることができる。
【0021】また、本発明の合成リボソームPペプチド
−アルブミン結合物は、好ましくは0.6mg/ml以上の
濃度、より好ましくは1〜10mg/mlの濃度の溶液とす
ることが好ましく、更に、好ましくは−20℃以下、よ
り好ましくは−20〜−70℃の温度で凍結保存するこ
とにより、1年間以上経時しても、本発明で適用される
べきELISAによる測定系に用いた場合に同じ安定し
た測定結果を得ることができる。
【0022】本発明では、従来公知の酵素抗体法(EL
ISA)を用いて、即ち、合成リボソームPペプチド−
アルブミン結合物を抗原として固相(通常はプラスチッ
ク製のプレート)に結合させておき、被験者の血清を反
応させた後、ペルオキシダーゼ標識抗ヒトIgGを反応
させ、その後、o −フェニレンジアミン、H22を含
む基質液にて発色させ、OD492を測定して、プレー
ト中のウェルの酵素活性を測定することにより、血清中
の抗P抗体値を測定することができる。また、ペルオキ
シダーゼ標識抗ヒトIgGの代わりに、アルカリホスフ
ァターゼ標識抗ヒトIgG、ビオチン標識抗ヒトIgG
等を使用しても、同様に測定することができる。
【0023】本発明によれば、かかる抗P抗体と全身性
エリテマトーデスのループス精神病とが相関することを
見出し、合成リボソームPペプチド−アルブミン結合物
は、有効な全身性エリテマトーデス病態診断剤として機
能することが確認された。
【0024】
【実施例】以下、本発明を実施例により例証するが、本
発明はこれに限定されるものではない。
【0025】1)患者 本発明では、75例のSLE患者を用いた。これらの患
者はすべてアメリカリウマチ協会の1982年のSLE
の分類のための改定基準を満たしていた(14)。表1に示
す通り、75例のSLE患者のうち、26例は中枢神経
症状を欠いており、28例はループス精神病(指南力・
認知・記憶・その他の知的機能の障害を主徴とする脳器
質症候群9例、神経症・躁病・うつ状態・分裂病などの
非器質生精神病19例)を示し、21例は精神病以外の
中枢神経症状を示した(非精神病CNS)。なお、ルー
プス精神病及び非精神病CNSの診断は、CSF Ig Index
(15,16)とCSF IL-6活性(17)のいずれかあるいは両者
の上昇により確認されている。
【0026】
【表1】
【0027】2)検体 75例のSLE患者より、その活動期に血清を採取し
た。さらに、21例の患者については、血清採取日に同
時に腰椎穿刺によりCSF(脳脊髄液)を採取した。こ
れらの検体は抗P抗体測定までの間−20℃で保存し
た。抗P抗体の測定は診断・臨床症状について予備知識
を持たぬ者により行われた。
【0028】3)リボソームPペプチドの合成 リボソームP蛋白のC末端の22個のアミノ酸配列(Ar
temia SalinaのP2蛋白の90〜111残基) に一致したペプ
チドを自動ペプチド合成装置(パーキンエルマー社、千
葉県)を用いた固相法により合成した。このぺプチドは
高速液体クロマトグラフィーにより精製した。この純度
は、高速液体クロマトグラフィー・アミノ酸分析・ミク
ロシークエンス法により99%以上であることを確認し
ている。精製したリボソームPペプチドは、5mg/mlの
濃度でリン酸バッファー(PBS、pH7.2、0.1
5M)に溶解させた。
【0029】4)血清アルブミン結合物の作成 ヒト血清アルブミン(HSA;マイルス社、インディア
ナ州エルクハート)、ウシ血清アルブミン(BSA;マ
イルス社)、又は卵白アルブミン(OVA;マイルス
社)(それぞれ300mg/ml)0.1mlに、上記合成リボ
ソームPペプチド(5mg/ml)0.9mlを加える。これ
に、グルタールアルデヒド(PBSで1%に希釈したも
の)を0.2ml添加し、ゆっくりと振とう混和しながら
2時間置く。この産物を2×104 rpm で20分間遠心
する。この上清を透析膜中に入れ、0.15MのPBS
で透析する。これを600μg/ml以上の濃度で−20
℃で凍結保存する。
【0030】5)抗P抗体の測定 96穴マイクロタイタープレート(塩化ビニル製)の各
ウェルを、リン酸バッファー(pH7.2)(PBS)に
て15μg/mlに希釈したリボソームP−HSA化合物
でコートした。それぞれのウェルはPBSにて4倍に希
釈したブロックエース(大日本製薬(株)、大阪)にて
オーバーコートした。この抗原をコートしたウェルに入
れる前に、被検血清は予め1%BSAを含むPBSで2
00倍に希釈しておく。被検血清をウェルに入れ反応さ
せた後、ウェルに結合した抗P抗体をペルオキシダーゼ
標識F(ab′)2ヤギ抗ヒトIgG(カペル社、ペンシ
ルバニア州コクランビル)に反応させて検出した。10
0mlの0.05Mクエン酸リン酸バッファー中(pH
4.8)にo−フェニレンジアミン40mgと30%H
2210μlを含む基質液を各ウェルに加え、37℃で
30分反応させた後、5N H2SO2を加えて反応を停止
させ、2波長マイクロプレートリーダー(MTP−12
0、コロナ電機、茨城県)にてOD492を測定した。
抗P抗体標準血清(イムノビジョン社、アリゾナ州スプ
リングデール)を用いて標準曲線を作成し、OD492
の値より抗P抗体をユニット標示で定量化した。
【0031】ELISAプレートにて最大吸光度の1/
2の吸光度を示すのに必要な抗P抗体を1U/mlと便宜
的に設定した。同じ標準曲線を用いて、HSAのにみ対
する非特異的結合をユニット標示にて定量的に求めた。
特異的な抗P抗体値は、リボソーム−HSAに対する反
応によって求められた値から、HSAのみに対する反応
によって求めた値を差し引くことにより算出した。この
測定法の再現性は、プレート内変動が4.5%(CV
値)、プレート間変動が13.7%であった。
【0032】6)ウェスタンブロット法 いくつかのSLE患者血清は、HEp2細胞抽出液を用
いたウェスタンブロット法にて抗P抗体の存在について
検討されていた。これらの血清のリボソームPペプチド
に対する特異的結合、HSA・BSA・OVAに対する
非特異的結合をウェスタンブロット法により確認した。
リボソームPペプチド結合あるいは非結合のHSA・B
SA・OVAをSDSポリアクリルアミド電気泳動の
後、ニトロセルロース膜へ転写し、PBSにて4倍に希
釈したブロックエース中で室温で二時間オーバーコート
した。その後に、このメンブレンを0.05% Tween 20
を含むPBSで200倍に希釈したSLE患者血清と4
℃で一昼夜反応させた。その後にペルオキシダーゼ標識
F(ab′)2ヤギ抗ヒトIgG(カペル社)と室温で3
時間反応させ、ECLシステム(アマルシャム社、東
京)を用いて現像した。
【0033】7)統計的解析 各群における血清抗P抗体価の差異は、Mann-Whitney
Uテストを用いて検定した。各群の血清抗P抗体の陽
性率についてはカイ二乗検定により解析した。治療によ
る血清抗P抗体価の変動についてはWilcoxon signed r
ank testにより解析した。
【0034】8)抗P抗体測定ELISA法の特異性 抗P抗体のELISA法の特異性を検討するために、1
6例のSLE患者の血清と、リボソームPペプチドを結
合した又は結合していない各種のキャリアー蛋白との反
応性を解析した。結果を表2に示す。
【0035】
【表2】
【0036】HEp−2細胞の抽出物によるウェスタン
ブロット法にて予め抗P抗体存在の確認されている血清
8例は、すべてアルブミン−リボソームPペプチド複合
物と反応したが(図1A)、一部の血清はリボソームP
ペプチドを結合しないアルブミンそのものとも反応した
(図1B)。
【0037】図1では、リボソームPペプチド結合キャ
リアー蛋白(+)あるいはキャリアー蛋白のみ(−)を
用いて検討した(OVA=卵白アルブミン、BSA=ウ
シ血清アルブミン、HSA=ヒト血清アルブミン)。
【0036】一方、HEp−2細胞抽出物を用いたウェ
スタンブロット法で抗P抗体が陰性であった血清8例の
うちでは、3例のみがリボソームPペプチド結合及び非
結合のアルブミンと反応を示した。従って、これらの血
清中にはアルブミンに対する抗体は存在するが、抗P抗
体は存在しないことが判る。
【0038】注目すべき点は、HEp−2細胞抽出物を
用いたウェスタンブロット法で抗P抗体陽性を示した血
清8例はすべてELISAでも陽性値を示したが(12
1.6〜1413.6U/ml)、HEp−2によるウェス
タンブロット法で抗P抗体陰性を示した血清8例は抗ア
ルブミン抗体陽性の3例を含むすべてがELISAで抗
P抗体陰性値を示した(0〜17U/ml)。ELISA
の抗原としてリボソームP−HSA、リボソームP−B
SA、リボソームP−OVAのいずれを用いた場合も、
抗P抗体の測定に有意の変動は認められなかった。これ
らの結果はSLE患者の中には血清中に抗アルブミン抗
体を含むものが存在することを示している。しかし、本
発明により確立されたELISA法は、抗P抗体に特異
的であるととが確認された。
【0039】9)ELISAによる抗P抗体の定量 75例のSLE患者血清中の抗P抗体をELISAによ
り測定した。
【0040】図2Aに示すように、血清抗P抗体は、ル
ープス精神病(lupus psychosis)の患者において、非C
NSのSLE患者あるいは非精神病CNSを示すSLE
患者に比し有意に上昇していた。ループス精神病患者の
患者の中には、9例の脳器質症候群を示す患者と19例
の非器質精神病を示す患者が存在する。しかし、血清抗
P抗体は非器質性精神症状(non-organic psychosis)と
脳器質症候群(organicbrain syndrome)の間では有意差
がなかった。破線は血清抗Pの検出限界(4U/ml)を
示す。縦棒は平均±標準偏差を示す。統計学的解析はM
ann-Witney Uテストを用いて行った。
【0041】34名の健常人血清中の抗P抗体は5.5
2±8.39U/ml(平均±標準偏差)であった。表3
に示すように、非CNSのSLE患者26例のうち2例
のみ(19.2%)が、正常の上限の抗P抗体値を示し
た(健常人の抗P抗体平均値に標準偏差の3倍を加えた
値)。ループス精神病の患者では、非CNSのSLE患
者あるいは非精神病CNSを示すSLEに比して、血清
抗P抗体値の異常を示す割合が有意に上昇していた(p
=0.005、χ2=12.19、自由度=2)。これら
の結果は、リボソームP蛋白のC末端の部分に対する自
己抗体の上昇がループス精神病と有意に相関するとする
知見を裏付けるものである。さらに、脳器質症候群と非
器質精神病は抗P抗体の関与する共通の病態を有してい
ることが示唆された。
【0042】
【表3】
【0043】10) 治療による血清抗P抗体の変化 6例のループス精神病を示す患者において、中枢神経症
状の治療による改善と血清抗P抗体値の推移とを経時的
に検討した(主として治療後1〜3ヵ月の間)。
【0044】図3に示すように、治療により血清抗P抗
体値は有意に低下した(統計処理はWilcoxon signed r
ank testにより行った)。図4は、治療によって改善し
たループス精神病を示すSLEの1症例の臨床経過を示
す。中枢神経症状の改善と平行して抗P抗体値も低下し
ている。矢印はステロイドパルス療法を示す(1g/日
を3日間連続)。血清抗P抗体は、患者の症状増悪時に
高値を示し、症状軽快とともに低下している。従って、
血清抗P抗体値は中枢神経病変の活動性の指標としても
有効であることが判る。
【0045】11) CNSループス患者髄液中抗P抗体の
測定 髄液中の抗P抗体についてもその結果は報告者により一
定しない。我々もCNSループス患者の髄液中抗P抗体
の測定を試みた。髄液中抗P抗体はループス精神病12
例中の1例のみに認められたが、非精神病CNSを示す
SLE9例中には1例も認められなかった。従って、ル
ープス精神病の発症にあたっては、髄液中の抗P抗体で
はなく、血清中の抗P抗体が重要な役割を果たすものと
考えられる。
【0046】12) まとめ 本発明においては、高純度のリボソームPペプチドを用
いることにより特に抗P抗体のELISAの特異性に対
して配慮を行った。リボソームPペプチドを結合するキ
ャリアー蛋白の差異は結果的には測定結果に対しては影
響を及ぼさなかった。しかし、リボソームPペプチドの
結合の相手として、元来ヒトの同種蛋白であるヒト血清
アルブミン(HSA)とすることにより、非特異的反応
が生じにくく、抗リボソームP抗体の測定を行う上で優
れており、本発明の病態診断剤に有効である。
【0047】更に、我々の開発したELISAの結果
は、HEp−2細胞抽出物を用いたウェスタンブロット
の結果とよく相関したことから、抗P抗体に対する特異
性の高いことが確認されている。この特異性の高いEL
ISAを用いることにより、ループス精神病と抗P抗体
との有意な相関を裏付けることができた。さらに、我々
の結果は、ループス精神病と抗P抗体との関係について
のこれまでの賛否両論は測定系に用いたリソームPペプ
チドの純度の差に起因するという結論を支持するに至っ
た。
【0048】更に一方では、TehやIsenberg が指摘し
たように、ループス精神病と診断する方法と基準が従来
技術ではまちまちであるという点も無視できない。こう
した違いはSLEにおける多彩な精神神経症状の評価の
困難性を反映しているかもしれない。しかし、精神神経
症状を示すSLE患者では、CSF Ig IndexやCSF IL-6の
上昇で裏付けられる中枢神経内での免疫異常を有するこ
とを考えておく必要がある。本発明では、ループス精神
病及び非精神病CNSを示すSLE患者はCSFIg Index
の上昇やCSF IL-6の上昇を示したことから、これら患者
の中枢神経症状は活動性のSLEに起因することを確認
している。
【0049】また、上述の通り、SLEでは、高次脳機
能の異常に伴って多彩な症状が見られ、これら高次脳機
能の異常に伴う症状は、指南力・認知・記憶・そのたの
知的機能の障害を特徴とする「脳器質症候群」と、神経
症・躁病・うつ状態・分裂病などの症状を主徴とする
「非器質性精神病」の2つに大別される傾向にあるが、
これまでの報告は、脳器質症候群と抗P抗体との相関に
ついては全く言及されていない。本発明の結果は、脳器
質症候群と非器質性精神病の間では、血清抗P抗体の値
に有意差のないことをはっきりと証明した。従って、抗
P抗体は精神症状の症状特異性を決定するものではない
ことが判る。
【0050】抗P抗体の出現には、人種差の存在する可
能性が指摘されている。実際、日本からの2つの報告で
は抗P抗体の陽性率が高い(30%と42%)。しか
し、本発明においては、SLE患者全体での抗P抗体の
陽性率は28%であった。本発明においては、ループス
精神病の患者の割合が意図的に高くなっていることを考
慮に入れると、日本人のSLE患者全体での血清抗P抗
体の陽性率が他国に比して高いことは考えにくい。
【0051】本発明においては、患者の精神神経症状の
活動性が高いときに血清抗P抗体の上昇を認め、治療に
より症状が軽快すると、抗P抗体値は低下した。更に、
一人の患者で経時的に観察したところ、治療によって症
状が改善するのと平行してやはり血清抗P抗体は低下し
た。これらの結果より、これまでの報告と同様に、血清
中の抗P抗体は、精神症状を示す患者の中枢神経病変の
活動性のモニターを行う上で有用であることが示され
た。しかし、血清中の抗P抗体値の上昇の程度が中枢神
経病変の重症度を必ずしも反映していないことも本発明
が示している点に注意すべきである。例えば、活動性の
中枢神経病変を持つ患者が血清抗P抗体値で121.6
U/mlを示すこともあれば、治療により改善期にある患
者が血清抗P抗体値で800.0U/mlを示すこともあ
る点である。これらの結果は、血清中の抗P抗体値その
ものは中枢神経病変の程度を知るための有益なマーカー
ではなく、むしろ共通な病態生理を持つSLEの神経障
害の存在を示す1つの独特の指標と考えるべきであろ
う。異なる抗P抗体価でも同様の中枢神経症状を発症さ
せる個体の要因について今後明らかにしている必要があ
る。
【0052】本発明においては、ループス精神病の患者
の髄液中の抗P抗体の上昇を認めることはできなかっ
た。
【0053】むしろ、髄液ではなく、血清中の抗P抗体
がループス精神病の発症に重要な役割を果たしている可
能性が高い。しかし、現在のところそん機序が全く判っ
ておらず、また血清中の抗P抗体がループス精神病の病
態形成に関与するという実際の証拠もない。事実抗P抗
体の結合する抗原は細胞質中に存在し、通常IgG(抗
体)は細胞質中に入ることができない。しかし、最近の
研究によると、抗P抗体の認識するエピトープが神経細
胞や種々の非神経細胞の表面に存在するという。
【0054】従って、抗P抗体がそのような細胞と結合
することにより、その機能を障害する可能性が十分考え
られる。この点に関連して、中枢神経系の血管内皮細胞
がリボソームP抗原の発現に関して一般の血管内皮細胞
と異なっており、抗P抗体による障害を受けやすくなっ
ていることも十分推察される。
【0055】まとめると、本発明の結果は、リボソーム
Pペプチドの純度の差がこれまでの文献上の抗P抗体と
ループス精神病の相関についての賛否両論の原因になっ
ていたことが判る。特異性の高いELISAを用いるこ
とにより、我々は血清抗P抗体とループス精神病(脳器
質症候群と非器質性精神病の両者を含む)の相関を確認
することができた。今後の検討が必要なものの、髄液中
ではく血清中の抗P抗体がびまん性の中枢神経障害の発
症に関与するものである。なお、ループス精神病の発症
に関与する他の因子や精神神経症状の特異性を決定する
要因についても今後の検討を行ってゆく必要がある。最
後に抗P抗体がいかなる機序で産生されるかについての
検討も、ループス精神病の発症機序の全貌の解明のため
に重要である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 2例の代表的なSLE患者血清の抗P抗体
(AとB)のイムノブロットによる反応を示す図。
【図2】 CNSループスにおける血清中抗リボソーム
P抗体値を示す図。
【図3】 ループス精神病6例における治療後の血清抗
P値の変化を示す図。
【図4】 脳器質症候群を示すSLE患者の臨床経過を
示す図。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 平1−230591(JP,A) 特開 昭59−116229(JP,A) 今堀和友他監修「生化学辞典第1版」 株式会社東京化学同人発行(1984)「ペ プチド合成」の項 CLINICAL IMMUNOLO GY AND IMMUNOPATHO LOGY,45(1)(1987)P129−138 American Journal of Medicine,90(1991)p 54 (58)調査した分野(Int.Cl.6,DB名) G01N 33/564 G01N 33/53 G01N 33/544 CA(STN)

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】純度99%以上のC末端22個のアミノ酸
    を含む合成リボソームPペプチドをヒト血清アルブミン
    と結合させた合成リボソームPペプチドーアルブミン結
    合物を含有することを特徴とする全身性エリテマトーデ
    ス病態診断剤。
  2. 【請求項2】合成リボソームPペプチドとヒト血清アル
    ブミンの重量組成比が10〜300対100〜500で
    あることを特徴とする請求項1記載の全身性エリテマト
    ーデス病態診断剤。
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Non-Patent Citations (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Title
CLINICAL IMMUNOLOGY AND IMMUNOPATHOLOGY,45(1)(1987)P129−138 American Journal of Medicine,90(1991)p54
今堀和友他監修「生化学辞典第1版」株式会社東京化学同人発行(1984)「ペプチド合成」の項

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