JP3253068B2 - 強靭な高強度trip鋼 - Google Patents

強靭な高強度trip鋼

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JP3253068B2 JP16842290A JP16842290A JP3253068B2 JP 3253068 B2 JP3253068 B2 JP 3253068B2 JP 16842290 A JP16842290 A JP 16842290A JP 16842290 A JP16842290 A JP 16842290A JP 3253068 B2 JP3253068 B2 JP 3253068B2
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【発明の詳細な説明】 〔産業上の利用分野〕 本発明は,ベイナイトと残留オーステナイトを主相と
する複合組織を有した強靭な高強度鋼に関するものであ
る。
〔従来の技術〕
高い硬度が要求される機械構造用部品用の鋼板として
は,従来,高炭素鋼を用いた焼入鋼板やベイナイト鋼板
が多く使用されてきた。しかし,これらの鋼板は,概し
て靭性が乏しく,延性や耐衝撃性の要求される部材に適
用する場合には著しく条件が制約されたり,場合によっ
ては靭性の欠如を部材の寸法の増加で補うために重量の
増加を来していることが少なくなかった。
従来の熱処理鋼帯が靭性に乏しいのは,金属組織がマ
ルテンサイトやベイナイトを主体とする組織であること
が原因であった。これを解決すべく特公昭58−42246号
公報には,ベイナイトと残留オーステナイトの混合組織
とすることにより高強度を保ちながら著しく延性を改善
する方法が提案された。この方法によれば引張強さ(以
下TSと記す)が120kgf/mm2級の場合,従来のベイナイト
鋼の全伸びが約10%程度であるのに対し,約30%の全伸
びが得られるものであり,産業上非常に有用である。
〔発明が解決しようとする問題点〕
特公昭58−42246号公報に提案された発明によれば,
ベイナイト変態の速度がかなり速いために良好な延性を
得るためにはかなり厳密な時間管理が必要であった。例
えば,該公報が開示する化学成分の鋼を420℃で恒温保
持してベイナイト変態させた場合,保持時間3分ではT
S,伸び共に良好であるが,保持時間30分では伸びが1/3
程度に低下してしまう。したがって,大量の部品を熱処
理する場合や部材寸法が大きい場合には,該方法では安
定した特性を有するものを製造することは困難である。
また,該公報が開示する化学成分の鋼帯では,160kgf/
mm2以上のTSを得ようとすると炭素量を成分範囲のうち
上限近くまで高めなくてはならないが,その場合,熱延
板を軟化焼鈍する際に黒鉛化を来たしやすいという問題
があった。これは,この鋼の成分系の性質上Siを多量に
含むことも関係している。したがって,この黒鉛化の問
題から160kgf/mm2級のTSを得ることは著しく困難であっ
た。
本発明は以上のような問題点を解決することを目的と
したものである。
〔問題点を解決するための手段〕
本発明は,重量%において, C:0.4〜1.2%, Si:1.2〜3.0%, Mn:0.3〜1.0%, Cr:0.2〜1.5%, を含有し,場合によってはさらに, Mo:0.05〜0.5%, V:0.05〜0.5%, Nb:0.01〜0.5% の1種以上を含有し,残部がFeおよび不可避的不純物元
素からなる鋼であって,残留オーステナイト相が体積率
で20%から45%存在し残部が実質的に上部ベイナイトの
金属組織を有した強靭な高強度TRIP鋼を提供するもので
ある。
〔本発明の主たる作用〕
本発明は,前記特公昭58−42246号公報に記載されて
いる鋼成分系に比べて,CrさらにはMo,VまたはNbを適量
配合した点に大きな特徴があり,C量も多量に含有させる
ものである。これら合金元素の作用効果については後に
詳述するが,要するところ,該公報記載の方法では強度
向上の障害となっていた黒鉛化の問題がこれらCr,Mo,V,
Nb等を適量添加することによって払拭することができ,
かつベイナイト変態時に適切な残留オーステナイトを生
成するための時間領域を長くすることができ,TSが120kg
f/mm2から160kgf/mm2級でも延性と強度のバランスが非
常に良好な高強度鋼が安定して得られる。
〔発明の詳述〕
本発明による複合組織鋼は,熱延板の軟化焼鈍時に黒
鉛化を生ずる危険性が少なく,かつ恒温保持処理におい
て優れた強度−延性バランスが得られる保持時間範囲を
広くとれるように改善した点に特徴がある。すなわち,
高C−Si−Mn鋼にCr,Mo,V,Nb等を適量添加することによ
って黒鉛化抵抗を向上させ,さらにベイナイト変態の速
度を遅延させる点が骨子である。これによれば,熱延板
の軟化焼鈍時の黒鉛化も起こりにくく,安定してベイナ
イトと残留オーステナイトの混合組織を得ることがで
き,残留オーステナイトのTRIP現象(変態誘起塑性:Tra
nsformation Induced−Plasticity)によってTSが120〜
160kgf/mm2級の鋼でもEl(伸び)が25〜45%の著しく良
好な強度−延性バランスが得られる。
すなわち,本発明の高強度鋼が非常に優れた強靭性を
示すのは残留オーステナイトのTRIP現象によるものであ
る。ベイナイト変態を起こさせるさいに,残留オーステ
ナイトを得ることができる理由は次のように説明でき
る。Siを多量に含む炭素鋼を上部ベイナイト域で変態さ
せた場合,Siが炭化物の生成を抑制する作用を供し,こ
れによって未変態オーステナイト中にベイナイト中の炭
素原子が排出される結果,未変態オーステナイト中の炭
素濃度が上昇し,マルテンサイト変態点(Ms点)が室温
以下に低下する。したがって鋼を室温まで冷却してもマ
ルテンサイトは生成せず,ベイナイトと残留オーステナ
イトの混合組織が得られることになる。Siを含まない鋼
では,ベイナイト変態の進行と同時に炭化物の析出を伴
うので,未変態オーステナイト中への炭素原子の濃縮は
不充分で,残留オーステナイトとベイナイトの混合組織
を得ることができない。
また,特公昭58−42246号公報のようにC−Si−Mn系
の化学成分から成る鋼では,残留オーステナイトとベイ
ナイトの混合組織を得ることはできても,ベイナイト変
態の速度が速いために適切な残留オーステナイト量を制
御することが難しい。したがって,適切な残留オーステ
ナイト量を得るためにはベイナイト変態を抑制し,かつ
延性に対して有効な残留オーステナイトを生成するよう
な適切なその他の合金元素の選定が必要である。
一方,Siは黒鉛化を助長する元素であり,多量の炭素
を含有する鋼帯の場合には軟化焼鈍時などに黒鉛化を生
ずる危険性が大きいので,これを抑制するために黒鉛化
抑止力の大きい元素を添加しなくてはならない。ただ
し,黒鉛化抑止元素はベイナイト組織の靭性を阻害する
ものであってはならない。
さらに,生成するベイナイトが下部ベイナイトであっ
た場合,下部ベイナイト自体が上部ベイナイトに比べて
硬いために残留オーステナイトのTRIP現象が有効に働か
ないので,上部ベイナイトと残留オーステナイトとの混
合組織にすることが不可欠である。
本発明者等は,これらの点に関する基礎的かつ広範な
研究の結果,C−Si−Mnに加えてCr,Mo,V,Nb等を適量添加
した鋼帯を用いれば,黒鉛化抵抗を向上させることがで
き,かつ上部ベイナイト領域におけるベイナイト変態処
理時に,適切な残留オーステナイトを生成する時間領域
が非常に長くなることを見出し,強度−延性バランスが
非常に優れた熱処理特性の安定した高強度鋼帯が製造で
きることがわかった。
以下に,その合金元素の作用と添加量範囲について個
別に説明する。
Cはオーステナイト安定化元素であり,ベイナイト変
態に不可欠な元素である。その添加量は最終的に生成す
る残留オーステナイト量に大きく影響し,C添加量が0.4
%未満では強度−延性バランスの高い鋼帯を製造するに
は不充分である。また,C量が1.2%を超えると生成する
残留オーステナイト量が多すぎてかえって強度−延性バ
ランスに弊害をもたらす。従って,適切な残留オーステ
ナイト量を得るためには,C量は0.4〜1.2%の範囲にする
必要がある。なお,本発明では特公昭58−42246号公報
の場合よりもC量を高域まで含有させることができる。
Siは,炭化物の生成を抑制する元素であり,C濃度の高
い安定な残留オーステナイトを得るために不可欠な元素
である。Si量が1.2%未満では上記の効果は希薄であ
り,反対にSi量が3.0%を超えると,ベイナイト変態が
著しく抑制されるばかりでなく,熱間圧延−冷間圧延等
の製造性に著しい困難を伴うようになる。したがってSi
量は1.2〜3.0%の領域に限定する。
Mnはオーステナイト安定化元素であり,焼入性を向上
させることによってパーライト等の生成を抑止する。し
かし,Mn量が0.3%未満では焼入性が不充分で,鋼帯の板
厚が厚い場合には中心部の冷却速度が遅いためにパーラ
イトなどを生成して充分な残留オーステナイトが得られ
なくなる。他方,Mn量が1.0%を超えても,ベイナイト変
態を抑制して充分なオーステナイトを得られなくなるの
で,Mn量は0.3〜1.0%に限定する。
Crは,熱延板の軟化焼鈍中に起こる黒鉛化を抑制する
作用を供し,かつベイナイト変態による残留オーステナ
イトの生成に支障を及ぼさない。Cr量は黒鉛化を防止す
るためには最低0.2%は必要であるが,1.5%を超えて添
加しても黒鉛化の抑止にはそれ以上の効果は望めないば
かりか,軟化焼鈍時のセメンタイトの球状化を困難に
し,ベイナイト自体の靭性を劣化させる傾向があるため
にCr量は0.2〜1.5%に限定する。
MoおよびVは,ベイナイトの組織形態を変える元素で
あり,適量添加することによってベイナイト組織を微細
化し,TSと靭性を高める作用を供する。さらに,Vにはオ
ーステナイト域に加熱した場合のオーステナイト粒径を
微細化する効果もあり,Vを適量添加した場合,ベイナイ
ト変態を促進することができる。Moは,0.05%未満の添
加量ではベイナイトの微細化効果は少なく,また0.5%
を越えて添加してもそれ以上の微細化は望めず,かえっ
て健全なベイナイトの生成に障害をもたらすために0.05
〜0.5%に限定する必要がある。Vは0.05%未満の添加
ではベイナイトの微細化効果は少なく,また0.50%を越
えて添加してもそれ以上の効果は望めないばかりか,Mo
の場合と同じくかえって健全なベイナイトの生成に障害
となるために0.05〜0.5%に限定する必要がある。
Nbは,鋼をオーステナイト域に加熱した場合にオース
テナイト粒径を微細化する作用によりベイナイト変態を
促進し,かつ微細で靭性の高いベイナイトを生成させる
作用を供する元素である。しかし,添加量が0.01%未満
ではオーステナイト粒径を微細化する効果は少なくベイ
ナイトの微細化には充分な効果を発揮しないし,0.5%を
越えて添加してもそれ以上の効果は望めないので0.01〜
0.5%に限定する。
残留オーステナイトの体積率を20〜45%に限定するの
は以下の理由によるものである。本発明鋼では上部ベイ
ナイト変態時に未変態オーステナイト中にCが濃縮され
るので残留オーステナイトが生ずるが,この残留オース
テナイトの体積率はベイナイト変態の条件により大きく
変動する。本発明鋼は,残留オーステナイトのTRIP現象
によって延性を獲得するものであるから,引張性質も当
然残留オーステナイトの体積率によって大きく変動す
る。残留オーステナイトが20%未満ではTRIP現象が発揮
されず,高強度ではあっても延性,靭性の低いものにな
る。他方,残留オーステナイトの体積率が45%を超える
と,歪誘起変態によって生成したマルテンサイトがかえ
って脆化要因になり,高い靭性を得ることはできない
し,さらにベイナイト変態の進行が不十分で冷却時にマ
ルテンサイトを生じた場合,このようなマルテンサイト
は靭性に対して有害であり,高い靭性を得ることはでき
ない。
したがって,本発明鋼の金属組織比率は,残留オース
テナイトの体積率20〜45%で,かつ母相の大部分が上部
ベイナイトから構成されていることが重要である。
次に本発明の実施例について説明する。
〔実施例〕
第1表に供試材の化学成分を示した。A,B,C,D,E,F,G,
H,Iは本発明鋼と比較するために使用した炭素鋼であり,
J,K,L,M,Nは本発明で規定する成分範囲内の鋼である。
第2表に,これらの鋼に対して実施した熱処理の条件
を示した。
第3表に,第1表の鋼に第2表の処理No.1〜9のいず
れかの熱処理を施した場合の残留オーステナイト量(γ
)と機械的性質を示した。第3表中の例えば試料No.A
2とは,No.Aの鋼に第2表のNo.2の熱処理を施したことを
意味する。
第3表の結果から以下のことが明らかである。
A2はC,Si,Mn以外の元素を添加しない鋼であり,軟化
焼鈍時に黒鉛化を起こしてしまったために強度が低い。
B1とB2は炭素量が過少であるため強度が低く,他方,C
1,C2およびC3は炭素量が過多であるために残留オーステ
ナイト量が多すぎたり,C量が多いためにベイナイト変態
が抑制されてマルテンサイトが生じたりするために,強
度は高いが靭性が低い。
D2はSi量が過少であるためにベイナイト変態に伴って
残留オーステナイトが生成しないので靭性が低い。
E2はMn量が過多であるためにベイナイト変態が抑制さ
れるとともに,靭性に有害な不安定な残留オーステナイ
トが生成するために靭性が低い。
F2はCr量が過多であるためにベイナイト自体の靭性が
低下し靭性が低い。またG2はCr量が過少であり,黒鉛化
を来たしてしまったために強度が低い。
H2はV量が過多であるために健全なベイナイト組織が
生成せず靭性が低い。
I鋼はMoが過多であるために健全なベイナイト組織が
生成せず靭性が低い。
これに対し,本発明で規定する化学成分範囲のJ,K,L,
M,N,Oの鋼に,表示の熱処理したJ2〜J5,K1〜K3,L2,M2,N
2,O2,O3のものは,いずれも強度と靭性がともに高い。
またMo,V,Nbを添加した鋼であるK,L,M鋼は25%以上の伸
びを維持しながらJ鋼と比べてTSが高く,Mo,V,Nbの添加
によって伸びを犠牲にすることなくTSが向上することが
明らかである。また,同じK鋼に対しベイナイト処理時
間10分であるK1と,ベイナイト処理時間60分であるK3と
が,ともに良好な強度と靭性を示している。すなわち本
発明の鋼においては高い強度と靭性が得られるベイナイ
ト変態処理時間の領域が非常に長く,熱処理安定性が極
めて優れていることが明らかである。
しかし,本発明で規制する化学成分をもつJ,K,M,N,O
の場合でも,複合組織中の組織比率が本発明で規制する
範囲から外れると,J6,J8,J9,K6,L6,M6に見られるように
いずれも靭性が低くなる。組織比率(γ量=20〜45
%))が本発明の範囲から外れるに至った原因は,不適
切な熱処理を施したことにある。例えばJ6はベイナイト
変態時間が短く,ベイナイトの生成が不十分であったた
めに靭性が低い。J7はベイナイト変態の時間が長すぎた
ためにγが減少して靭性が低い。J8,J9は変態温度が
高すぎたり低すぎたりして靭性に有利な上部ベイナイト
とγの混合組織が生成しなかったために靭性が低い。
K6,L6,M6はベイナイト変態処理時間が短すぎたためにベ
イナイトの生成が不十分で,靭性が低い。
以上の実施例からも明らかなように,本発明によれば
TSが120〜160kgf/mm2の伸びで25%以上で靭性に優れた
鋼が提供される。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 田中 照夫 広島県呉市昭和町11番1号 日新製鋼株 式会社鉄鋼研究所内 (56)参考文献 特開 昭62−196357(JP,A) 特開 昭60−184664(JP,A) 特公 昭58−42246(JP,B2) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C22C 38/00 301 C22C 38/18

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】重量%において, C:0.4〜1.2%, Si:1.2〜3.0%, Mn:0.3〜1.0%, Cr:0.2〜1.5%, を含有し残部がFeおよび不可避的不純物元素からなる鋼
    であって,残留オーステナイト相が体積率で20%から45
    %存在し残部が実質的に上部ベイナイトの金属組織を有
    した強靭な高強度TRIP鋼。
  2. 【請求項2】重量%において, C:0.4〜1.2%, Si:1.2〜3.0%, Mn:0.3〜1.0%, Cr:0.2〜1.5%, を含有し,さらに, Mo:0.05〜0.5%, V:0.05〜0.5%, Nb:0.01〜0.5% の1種以上を含有し残部がFeおよび不可避的不純物元素
    からなる鋼であって,残留オーステナイト相が体積率で
    20%から45%存在し残部が実質的に上部ベイナイトの金
    属組織を有した強靭な高強度TRIP鋼。
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