JP6519015B2 - 高強度低合金鋼材 - Google Patents

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Description

本発明は、高強度低合金鋼材、特に、引張強さが1300MPa以上で伸びが大きく、耐水素脆化特性に優れ、自動車、産業機械、建築構造物等に用いるのに好適な、高強度低合金鋼材に関する。
近年、軽量化、機能等の観点から引張強さが1000MPaを超えるような高強度鋼材が使用される傾向にある。しかし、鉄鋼材料は引張強さが1000MPaを超えると、水素脆化が深刻な問題となる。水素脆化とは、鉄鋼材料中に水素が侵入することにより機械特性が元の値よりも劣化する現象である。なお、水素はその原子半径が全元素中最小であることから鉄鋼材料中への侵入は不可避である。
そこで、ベイニティックフェライト、残留オーステナイト等を含む金属組織からなる、耐水素脆化特性に優れた鉄鋼材料およびその製造方法に関して様々な技術が開示されている。
例えば、特許文献1に、特定量のC、Si、MnおよびAlを含有する化学組成であって、母相がベイニティックフェライトとマルテンサイトの2相組織であるとともに微細な残留オーステナイトが存在する金属組織である、耐水素脆化特性に優れた高強度ばね用鋼に関する技術が開示されている。なお、特許文献1には、該金属組織は、上述の化学組成を有する鋼を熱間圧延して得た線材を伸線し、その後、該伸線材をAc点以上に加熱した後、Ms点付近の温度まで急冷し、等温保持することによって得られることが示されている。
特許文献2に、特定量のC、Si、MnおよびAlを含有する化学組成であって、母相のベイナイト中に残留オーステナイトを含む金属組織である、耐水素脆化特性に優れた超高強度鋼板に関する技術が開示されている。なお、上記の鋼板は、変態誘起塑性(Transformation Induced Plasticity(以下、「TRIP」という。)型ベイナイト鋼板であり、特許文献2には、該金属組織は、上述の化学組成を有する鋼をAc点以上に加熱した後、Ms点以上Bs点以下の温度まで急冷し、等温保持することによって得られることが示されている。
特許文献3に、特定量のC、Si、Mn、P、S、AlおよびNを必須元素、Mo、Nb、Ni等を任意元素として含有し、室温から溶融までの温度範囲にオーステナイト相の存在比率が体積率で70%以上となる温度域が存在し、主としてフェライト相からなる結晶粒径が平均で3.0μm以下である微細組織を有する鋼材に関する技術が開示されている。そして、その実施例において、任意元素であるNiおよびMoを、質量%で、それぞれ1.5〜1.7%および0.30〜0.46%含む鋼材を用いて、水素脆化特性の1形態である遅れ破壊特性が調査されている。
特開2007−100209号公報 特開2005−220440号公報 特開2005−213628号公報
矢澤武男ら:鉄と鋼、Vol.83(1997)No.1、pp.60−65
特許文献1で開示された高強度ばね用鋼は、所定の組織とするために耐水素脆化特性を劣化させるMnを1.0〜3.0%含有させる必要があり、残留オーステナイトによって向上させた耐水素脆化特性の幾分かを劣化させてしまっている。
特許文献2で開示された超高強度鋼板は、C含有量が0.06〜0.6%と低く、耐水素脆化特性という観点から改善の余地がある。
特許文献3で開示された微細組織を有する鋼材は、任意元素であるNiおよびMoを含む場合、実施例に記載されているように、確かに耐遅れ破壊特性に優れている。しかし、MoおよびNiはいずれも高価な元素である。このため、上記の鋼材はコストの低減という観点から、改善すべき余地がある。
本発明は、高価な合金元素の含有量が低く、しかも引張強さが1300MPa以上、かつ伸びが大きく、耐水素脆化特性に優れる、自動車、産業機械、建築構造物等に用いるのに好適な、高強度低合金鋼材を提供することを目的とする。
本発明者らは、前記の課題を解決するために低合金設計で鋼材の耐水素脆化特性を向上させる手法について鋭意研究を重ねた結果、下記の重要な知見を得た。
化学組成が、質量%で、Cの含有量が0.60%を超えるとともにSiの含有量が1.2%以上、かつMnの含有量が1.0%未満で、金属組織が、ベイニティックフェライトと残留オーステナイトの2相からなり、該残留オーステナイトの体積率が10〜30%で、旧オーステナイト結晶粒がJIS G 0551(2013)に規定の粒度番号6.0以上である鋼材は、Mo、Ni等の高価な元素の含有量が低い場合にも、十分な耐水素脆化特性と良好な伸びを有するので、引張強さが1300MPa以上の高強度部品として好適に用いることができる。
本発明は、上記の知見に基づいてなされたものであり、その要旨は、下記に示す高強度低合金鋼材にある。
(1)化学組成が、質量%で、
C:0.60%を超えて1.0%以下、
Si:1.2〜2.0%、
Mn:0.30%以上1.0%未満、
Cr:0.5〜1.5%、
Al:0.005〜0.10%、
Mo:0〜0.30%未満、
Ti:0〜0.10%、
Nb:0〜0.10%、
V:0〜0.10%、
Zr:0〜0.20%、
残部がFeおよび不純物であり、
不純物としてのP、S、NおよびOが、P:0.030%以下、S:0.030%以下、N:0.030%以下およびO:0.010%以下であり、
金属組織が、ベイニティックフェライトと残留オーステナイトの2相からなり、該残留オーステナイトの体積率が10〜30%で、旧オーステナイト結晶粒がJIS粒度番号6.0以上である、
引張強さが1300MPa以上の、
高強度低合金鋼材。
(2)質量%で、Mo:0.05%以上で0.30%未満を含有する、上記(1)に記載の高強度低合金鋼材。
(3)質量%で、Ti:0.005〜0.10%、Nb:0.005〜0.10%、V:0.005〜0.10%およびZr:0.010〜0.20%から選択される1種以上を含有する、上記(1)または(2)に記載の高強度低合金鋼材。
本発明の高強度低合金鋼材は、高価な合金元素の含有量が低く、引張強さが1300MPa以上で伸びが大きく、耐水素脆化特性に優れるため、自動車、産業機械、建築構造物等に好適に用いることができる。
実施例において、倍率1000倍の光学顕微鏡で観察した金属組織の一例を模式的に示す図である。図において旧オーステナイト結晶粒界を覆うように白く現出しているものがフェライトで、それ以外はラス状のベイニティックフェライトと残留オーステナイトである。なお、図中の「BF」および「γ」はそれぞれ、ベイニティックフェライトおよびオーステナイトを指す。 実施例で耐水素脆化特性の評価のために用いた切欠き付引張試験片の形状を示す図である。図中の数値は寸法(単位:mm)を示す。
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。なお、各元素の含有量の「%」は「質量%」を意味する。
(A)化学組成について:
C:0.60%を超えて1.0%以下、
Cは、本発明において最も重要な元素である。Cは、同じ強度でも吸蔵水素濃度を低減する作用があるので、Mo、Ni等の高価な元素の含有量を低くしても、耐水素脆化特性を向上させることができる。Cは、オーステナイト安定化元素であり、Mnと同様、残留オーステナイトの確保に有効な元素であるが、Mnとは異なって耐水素脆化特性を劣化させにくい。鋼材のC含有量が高くなると、オーステナイト中に濃化するC量が多くなり、安定な残留オーステナイトが得られるため、耐水素脆化特性が向上すると推定される。このため、Cは0.60%を超えて含有させなくてはならない。また、Cは、強度を向上させるとともに金属組織をベイニティックフェライトと残留オーステナイトの2相にする効果もある。さらに、Cは、Ac点を低下させるため、比較的低い温度での加熱で、鋼が完全オーステナイト化しやすいので、旧オーステナイト結晶粒径が小さくなって、この点でも耐水素脆化特性と伸びが向上する。一方、Cの含有量が増えて1.0%を超えるとセメンタイトが析出しやすくなりベイニティックフェライトと残留オーステナイトの2相組織とするのが難しくなるし、靱性の劣化も著しくなる。したがって、Cの含有量を0.60%を超えて1.0%以下とする。C含有量の望ましい下限は0.65%、また望ましい上限は0.80%である。
Si:1.2〜2.0%
Siは、脱酸作用を有し、強度および焼入れ性の向上作用もある。強度の向上は1300MPa以上の引張強さの確保に有効であり、また、焼入れ性の向上は、所望の金属組織が得やすくなるため製造の観点から有利である。また、Siは、炭化物の生成を抑制して残留オーステナイトを確保しやすくするので、安定して多量の残留オーステナイトを得るために重要な元素である。これらの効果を得るには、Siの含有量は1.2%以上とする必要がある。一方、2.0%を超えてSiを含有させてもその効果は飽和することに加え、靱性の劣化が生じる。したがって、Siの含有量を1.2〜2.0%とする。Si含有量の望ましい下限は1.3%、また、望ましい上限は1.5%である。
Mn:0.30%以上1.0%未満
Mnは、焼入れ性と強度を向上させる作用を有する。強度の向上は1300MPa以上の引張強さの確保に有効であり、また、焼入れ性の向上は、所望の金属組織が得やすくなるため製造の観点から有利である。また、Mnには、Sと結合して硫化物を形成し、Sの粒界偏析を抑制して耐水素脆化特性を向上する効果もある。加えて、オーステナイト安定化元素であるMnには、残留オーステナイトを確保しやすくする効果もある。これらの効果を得るには、Mnの含有量は0.30%以上とする必要がある。一方で、Mnを過剰に含有させると粒界に偏析し、粒界割れ型の水素脆性破壊を促進する。したがって、Mnの含有量を0.30%以上1.0%未満とする。Mn含有量の望ましい下限は0.40%、また、望ましい上限は0.60%である。
Cr:0.5〜1.5%
Crは、強度を向上させるのに有効な元素である。また、炭化物の生成を抑制して残留オーステナイトを確保しやすくする。加えて、Crには、焼入れ性を向上させる作用もあり、焼入れ性の向上は、所望の金属組織が得やすくなるため製造の観点から有利である。これらの効果を得るためには、Crを0.5%以上含有させる必要がある。一方で、Crを過剰に含有させると靱性の劣化が生じる。したがって、Crの含有量を0.5〜1.5%とする。Cr含有量の望ましい下限は0.8%、また、望ましい上限は1.2%である。
Al:0.005〜0.10%
Alは、脱酸作用を有する元素である。この効果を十分に確保するためにはAlを0.005%以上含有させる必要がある。一方、Alを0.10%を超えて含有させてもその効果は飽和する。したがって、Alの含有量を0.005〜0.10%とする。なお、本発明のAl含有量とは酸可溶Al(所謂「sol.Al」)での含有量を指す。
Mo:0〜0.30%未満、
Moは、Fe炭化物の安定性を高めて、耐水素脆化特性を向上させる元素である。このため、必要に応じてMoを含有させてもよい。しかしながら、本発明では、C等の他の元素の含有量および金属組織を適正化することで良好な耐水素脆化特性を確保することができるし、Moが非常に高価な元素であるため、Moの多量の含有は経済性を大きく損なうことになる。したがって、含有させる場合のMo含有量を0.30%未満とする。Mo含有量の上限は、0.20%であることが望ましい。なお、前記の効果を安定して得るためには、Mo含有量の下限は、0.05%であることが望ましく、0.10%であることが一層望ましい。
Ti:0〜0.10%、
Tiは、Cまたは/およびNと結合し、微細な析出物を形成し、旧オーステナイト結晶粒を微細化して耐水素脆化特性を向上させる元素である。このため、必要に応じてTiを含有させてもよい。しかしながら、0.10%を超える量のTiを含有させると、析出物の量が増大し、靱性を劣化させる。したがって、含有させる場合のTi含有量の上限を0.10%とする。Ti含有量の上限は、0.06%であることが望ましい。なお、前記の効果を安定して得るためには、Ti含有量の下限は、0.005%であることが望ましく、0.03%であることが一層望ましい。
Nb:0〜0.10%、
Nbは、Cまたは/およびNと結合し、微細な析出物を形成し、旧オーステナイト結晶粒を微細化して耐水素脆化特性を向上させる元素である。このため、必要に応じてNbを含有させてもよい。しかしながら、0.10%を超える量のNbを含有させると、析出物の量が増大し、靱性を劣化させる。したがって、含有させる場合のNb含有量の上限を0.10%とする。Nb含有量の上限は、0.06%であることが望ましい。なお、前記の効果を安定して得るためには、Nb含有量の下限は、0.005%であることが望ましく、0.03%であることが一層望ましい。
V:0〜0.10%、
Vは、Cまたは/およびNと結合し、微細な析出物を形成し、旧オーステナイト結晶粒を微細化して耐水素脆化特性を向上させる元素である。このため、必要に応じてVを含有させてもよい。しかしながら、0.10%を超える量のVを含有させても、旧オーステナイト結晶粒を微細にする効果は飽和し、コストが嵩むだけである。したがって、含有させる場合のV含有量の上限を0.10%とする。V含有量の上限は、0.06%であることが望ましい。なお、前記の効果を安定して得るためには、V含有量の下限は、0.005%であることが望ましく、0.03%であることが一層望ましい。
Zr:0〜0.20%、
Zrは、Cまたは/およびNと結合し、微細な析出物を形成し、旧オーステナイト結晶粒を微細化して耐水素脆化特性を向上させる元素である。このため、必要に応じてZrを含有させてもよい。しかしながら、0.20%を超える量のZrを含有させると、析出物の量が増大し、靱性を劣化させる。したがって、含有させる場合のZr含有量の上限を0.20%とする。Zr含有量の上限は、0.12%であることが望ましい。なお、前記の効果を安定して得るためには、Zr含有量の下限は、0.010%であることが望ましく、0.06%であることが一層望ましい。
上記のTi、Nb、VおよびZrを複合して含有させる場合の合計量は、0.08%以下であることが望ましい。
本発明の高強度低合金鋼材は、上述の各元素と、残部がFeおよび不純物とからなり、不純物としてのP、S、NおよびOが、P:0.030%以下、S:0.030%以下、N:0.030%以下およびO:0.010%以下である化学組成を有する。
ここで「不純物」とは、鉄鋼材料を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
P:0.030%以下
Pは、不純物として含有され、粒界に偏析して靱性および/または耐水素脆化特性を低下させる。Pの含有量が0.030%を超えると上記の悪影響が顕著になる。このため、Pの含有量を0.030%以下とする。Pの含有量は極力低いことが望ましい。
S:0.030%以下
Sは、不純物として含有され、Pと同様に粒界に偏析して耐水素脆化特性を低下させる。Sの含有量が0.030%を超えると上記の悪影響が顕著になる。このため、Sの含有量を0.030%以下とする。Sの含有量は極力低いことが望ましい。
N:0.030%以下
Nは、不純物として含有され、その含有量が過剰になって0.030%を超えると靱性の劣化が顕著になる。したがって、Nの含有量を0.030%以下とする。Nの含有量は極力低いことが望ましい。
O:0.010%以下
O(酸素)は、不純物として含有され、Alと結びついて酸化物を形成する。その含有量が多くなって0.010%を超えると、酸化物が過剰に形成されて靱性が低下する等の問題が生じる。したがって、Oの含有量を0.010%以下とする。Oの含有量は極力低いことが望ましい。
(B)金属組織について:
上記(A)項で述べた化学組成を有する高強度低合金鋼材は、金属組織が、ベイニティックフェライトと残留オーステナイトの2相からなり、該残留オーステナイトの体積率が10〜30%で、旧オーステナイト結晶粒がJIS粒度番号6.0以上である。
ベイニティックフェライトは、セメンタイトを析出しないベイナイトであり、安定して残留オーステナイトを存在させるのに必要な組織である。また、ベイニティックフェライトは、転位密度が高いため高強度を確保しやすく、マルテンサイトに比べて伸びも良好であり、C濃度が高く耐水素脆化特性にも優れるため、高強度材に求められる良好な、強度、伸びおよび耐水素脆化特性という三つの重要な特性を得るためにも必要な組織である。
残留オーステナイトは、TRIP作用によって伸びを大きく向上させる効果を有するとともに、水素トラップ作用を有して耐水素脆化特性の向上に寄与するため、良好な、伸びおよび耐水素脆化特性を得るために必要な組織である。
ただし、金属組織がベイニティックフェライトと残留オーステナイトの2相であっても、該残留オーステナイトの体積率が10〜30%でなければ、十分な耐水素脆化特性と引張強さが1300MPa以上という高強度を、安定して同時に得ることができない。
すなわち、残留オーステナイトのTRIP作用による伸びを大きく向上させる効果および水素トラップ作用による耐水素脆化特性の向上効果を得るには、残留オーステナイトの体積率は10%以上とする必要がある。一方、残留オーステナイトの体積率が30%を超えると、上記(A)項で述べた化学組成では、引張強さで1300MPa以上という高強度を得るのが難しくなる。したがって、上述したベイニティックフェライトと残留オーステナイトの2相における残留オーステナイトの体積率を10〜30%とする。
金属組織が、上述のベイニティックフェライトと残留オーステナイトの2相からなり、該残留オーステナイトの体積率が10〜30%であっても、旧オーステナイト結晶粒がJIS粒度番号6.0未満の場合には、粒界強度の低下が著しく、引張強さが1300MPa以上の高強度では十分な耐水素脆化特性が得られない。
旧オーステナイト結晶粒は、その粒度番号が大きければ大きいほど(つまり、旧オーステナイト結晶粒径が小さければ小さいほど)望ましいが、工業的な製造ではJIS粒度番号12.5程度がその上限になる。
なお、フェライトは、容易に良好な伸びを確保できる組織であるが、強度を極端に低下させる。さらに、フェライトは、旧オーステナイト結晶粒界に生成する(後述の図1参照)柔らかい組織であり、優先的に変形してひずみの局所化を助長させるので、耐水素脆化特性を低下させる。このため、本発明に係る鋼材の金属組織には、フェライトを存在させるべきではない。
(C)鋼材の強度について:
本発明に係る高強度低合金鋼材は、前記(B)項で述べた金属組織を有し、引張強さが1300MPa以上である部品に用いる。なお、引張強さの上限は2500MPaであることが望ましく、2000MPaであればより望ましい。
上記の鋼材は、(A)項で述べた化学組成を有する鋼を用いて所定の形状に加工したものに、例えば、下記のように特定の温度域で等温保持して等温変態させることによって製造することができる。
すなわち、鋼材の化学組成に応じた条件でオーステナイト化し、フェライトとパーライトの析出を阻止して、オーステナイト組織のまま、400℃以下で300℃以上に保った塩浴または鉛浴の中に急冷し、そのまま上記の浴中に保持して、この温度で等温変態を終了させ、その後室温まで冷却することによって、先に述べた金属組織と引張強さを付与させることができる。上記のようにして製造された鋼材は、20%以上という大きな伸びも併せて具備する。なお、該鋼材の伸びの上限は35%程度である。
オーステナイト化温度が1000℃を超えると、JIS粒度番号6.0以上の旧オーステナイト結晶粒が得難くなることがあるので、オーステナイト化温度は1000℃以下とすることが望ましく、950℃以下とすればさらに望ましい。一方、オーステナイト化処理時に完全にオーステナイト化するために、オーステナイト化温度は850℃以上とすることが望ましい。
前記の浴温が400℃を超えると、1300MPa以上の強度を得るのが難しくなるうえに、残留オーステナイトが分解してセメンタイトに変化しやすくなるので、体積率で10%以上の残留オーステナイトを得ることも難しくなる。また、前記の温度が300℃未満になると、オーステナイトからベイニティックフェライトへの変態時間が非常に長くなって、工業的な生産において支障をきたす。
上記(A)項で述べた化学組成の場合、通常、完全オーステナイト化させた後、前記した温度範囲の浴中で10分程度保持することにより、体積率で70〜90%のオーステナイトはベイニティックフェライトに変態し、一方、10〜30%のオーステナイトは変態せずに残る。しかし、鋼材のサイズまたは/および含有元素の影響から、一部組織のベイニティックフェライト変態が遅れたり、残留オーステナイト中へのCの濃化が間に合わないと等温変態後の残留オーステナイトの一部がマルテンサイトに変態してしまうことがある。このため、浴中での保持時間は30分以上とするのが望ましく、60分以上とするのがより望ましい。また、上限は80分程度とするのが望ましい。なお、浴中に保持して等温変態を終了させた後に室温まで冷却する際の冷却速度については、特に制限がない。
フェライトとパーライトの析出が阻止でき、しかも、400℃以下で300℃以上の温度域でオーステナイトからの変態を完了させることができる連続冷却処理によっても、先に述べた金属組織、引張強さおよび伸びを有する鋼材を製造することができることは勿論である。
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
表1に示す化学組成を有する鋼A〜Nを溶製し、鋳型に鋳込んで得たインゴットを1250℃に加熱した後、熱間鍛造により直径25mmの丸棒とした。
表1中の鋼A〜Iは、化学組成が本発明で規定する範囲内にある鋼であり、一方、鋼J〜Nは、化学組成が本発明で規定する条件から外れた鋼である。
Figure 0006519015
上記のようにして得た直径25mmの丸棒を表2に示す温度で45分保持してオーステナイト化してから、試験番号1〜10および試験番号12〜17については5秒以内に鉛浴中に浸漬し、試験番号11については大気中で冷却し30秒経過したところで鉛浴中に浸漬した。そして、表2に示す条件にて鉛浴中で保持して等温変態熱処理を行った。試験番号10を除いて、等温変態熱処理後は大気中で放冷した。一方、試験番号10は、等温変態熱処理後、30℃/秒の冷却速度で室温まで冷却した。
さらに、旧オーステナイト結晶粒の粒度番号を調査するため、上記直径25mmの丸棒を表2に示す温度で45分保持してオーステナイト化してから油焼入れすることも行った。
各鋼について、油焼入れした丸棒および等温変態熱処理した丸棒を用いて、以下に示す各種の調査を行った。
〈1〉金属組織:
油焼入れした直径25mmの丸棒を長手方向にその中心線をとおって切断(以下、「縦断」という。)して試験片を採取し、JIS G 0551(2013)に則って旧オーステナイト結晶粒の粒度番号を調査した。具体的には、上記試験片の縦断面が被検面となるように樹脂に埋め込んで鏡面研磨した後、上記JISの附属書JAに記載の、界面活性剤を添加したピクリン酸飽和水溶液によってエッチングして旧オーステナイト結晶粒界を現出し、倍率200倍で10視野光学顕微鏡観察して、上記JISの附属書Cに記載の切断法により粒度番号を測定した。
また、等温変態熱処理した直径25mmの丸棒を縦断して試験片を採取し、金属組織について、光学顕微鏡観察による判定および残留オーステナイトの体積率を求めるためのX線回折測定を実施した。
先ず、等温変態熱処理した直径25mmの丸棒を縦断して試験片を採取し、上記試験片の縦断面が被検面となるように樹脂に埋め込んで鏡面研磨した後、2%ナイタールでエッチングした。次いで、エッチングした各試験片を、倍率1000倍の光学顕微鏡で10視野観察して、金属組織を調査した。上記のようにして調査した金属組織の一例として、図1に、ラス状のベイニティックフェライトおよび残留オーステナイト、ならびにフェライトからなる場合を模式的に示すように、フェライトは旧オーステナイト結晶粒界を覆うように白く現出していたため、明確に判定できた。しかし、ラス状の残留オーステナイトは細かすぎるため、上記倍率の光学顕微鏡観察では明瞭ではなかった。
そこで次に、等温変態熱処理した直径25mmの丸棒の径方向中心部から、長手方向に厚さが2mm、幅が10mmで長さが10mmの寸法の試験片を採取し、1200番エメリー紙まで研磨後、室温のフッ酸と過塩素酸の混合溶液に浸漬して化学研磨し、表面の加工層100μmを除去した。次いで、上記の加工層を除去した試験片に非特許文献1に準拠した方法でX線回折測定(Cu対陰極、管電圧30kV、管電流100mA)を実施し、fcc構造相である残留オーステナイトに関しては(111)、(200)および(220)のピーク強度、bcc構造相またはbct構造相であるベイニティックフェライト、フェライトおよびマルテンサイトに関しては(110)、(200)および(211)のピーク強度を求め、これに基づいて残留オーステナイトの体積率を算出した。
〈2〉機械的特性:
等温変態熱処理した直径25mmの丸棒のR/2部(「R」は丸棒の半径を表す。)から、長手方向に平行部の直径が6mmで標点距離が40mmの丸棒引張試験片を切り出し、室温で引張試験して、引張強さおよび伸びを求めた。なお、伸びが20%以上の場合に、大きい伸びを有するとしてこれを目標とした。
〈3〉耐水素脆化特性:
上記〈2〉の調査で1300MPa以上の引張強さと20%以上の伸びが得られた直径25mmの各丸棒のR/2部から、長手方向に図2に示す形状の切欠き付引張試験片を切り出し、引張強さの50%の応力を負荷した陰極チャージ下での定荷重試験を200時間行った際の破断の有無で、耐水素脆化特性を調査した。その際、厳しい環境を想定して試験片内部に2ppmの濃度で水素が吸蔵されるように陰極水素チャージの電流密度と水素添加の触媒となるチオシアン酸アンモニウムの濃度を調整した。なお、試験片内部に吸蔵される水素量は、3%NaCl溶液に0〜5g/lのチオシアン酸アンモニウムを加えた溶液を用いて0.8〜1.5mA/cm2の電流密度で陰極水素チャージを96時間行った時に、昇温脱離装置により10℃/分で昇温した際に500℃までに放出される水素量を用いた。
表2に、上記の各調査結果をまとめて示す。なお、耐水素脆化特性の欄は、上記試験を200時間行って破断しなかったものを「○」、破断したものを「×」とした。
Figure 0006519015
表2から、本発明で規定する化学組成と金属組織の条件を満たす本発明例の試験番号1〜9は、1300MPa以上という高い引張強さを有するにもかかわらず、いずれも伸びは20%を超え、しかも陰極チャージ下での定荷重試験で破断が起こらず、良好な、伸びと耐水素脆化特性とを備えていることが明らかである。
これに対して、比較例の試験番号10〜17の場合は、1300MPa以上という引張強さ、20%以上の伸びおよび良好な耐水素脆化特性という三つの重要な特性の同時確保ができていない。
試験番号10は、用いた鋼Aの化学組成は本発明で規定する範囲内にあるものの、金属組織中にマルテンサイトを含み、しかも残留オーステナイトの体積率が9.2%であって本発明で規定する条件から外れるので、伸びが20%に満たなかった。
試験番号11は、用いた鋼Cの化学組成は本発明で規定する範囲内にあるものの、金属組織中にフェライトを含み、しかも残留オーステナイトの体積率が7.2%であって本発明で規定する条件から外れるので、耐水素脆化特性に劣っている。
試験番号12は、用いた鋼Fの化学組成は本発明で規定する範囲内にあり、金属組織はベイニティックフェライトと残留オーステナイトの2相からなり、該残留オーステナイトの体積率も19.1%であるものの、旧オーステナイト結晶粒がJIS粒度番号5.1であって本発明で規定する条件から外れる。このため、試験番号12は、耐水素脆化特性に劣っている。
試験番号13は、金属組織は本発明で規定する条件を満たすものの、用いた鋼JのC含有量が0.47%と少なく、本発明で規定する条件から外れるため、耐水素脆化特性に劣っている。
試験番号14は、用いた鋼KのSi含有量が0.89%と少なく、本発明で規定する条件から外れるので、金属組織における残留オーステナイトの体積率も3.2%と低くなって、本発明で規定する条件から外れる。このため、試験番号14は、伸びが20%に満たなかった。
試験番号15は、金属組織は本発明で規定する条件を満たすものの、用いた鋼LのMn含有量が1.22%と多く、本発明で規定する条件から外れるため、耐水素脆化特性に劣っている。
試験番号16は、用いた鋼MのCr含有量が0.36%と少なく、本発明で規定する条件から外れるため、焼入れ性に劣り、金属組織中にフェライトを含み本発明で規定する条件から外れるので、引張強さが1300MPaに満たなかった。
試験番号17は、金属組織は本発明で規定する条件を満たすものの、用いた鋼Nの不純物中のPとSの含有量がそれぞれ、0.042%および0.040%と多く、本発明で規定する条件から外れるため、耐水素脆化特性に劣っている。
本発明の高強度低合金鋼材は、高価な合金元素の含有量が低く、引張強さが1300MPa以上で伸びが大きく、耐水素脆化特性に優れるため、自動車、産業機械、建築構造物等に好適に用いることができる。

Claims (3)

  1. 化学組成が、質量%で、
    C:0.60%を超えて1.0%以下、
    Si:1.2〜2.0%、
    Mn:0.30%以上1.0%未満、
    Cr:0.5〜1.5%、
    Al:0.005〜0.10%、
    Mo:0〜0.30%未満、
    Ti:0〜0.10%、
    Nb:0〜0.10%、
    V:0〜0.10%、
    Zr:0〜0.20%、
    残部がFeおよび不純物であり、
    不純物としてのP、S、NおよびOが、P:0.030%以下、S:0.030%以下、N:0.030%以下およびO:0.010%以下であり、
    金属組織が、ベイニティックフェライトと残留オーステナイトの2相からなり、該残留オーステナイトの体積率が10〜30%で、旧オーステナイト結晶粒がJIS粒度番号6.0以上である、
    引張強さが1300MPa以上の、
    高強度低合金鋼材。
  2. 質量%で、Mo:0.05%以上で0.30%未満を含有する、請求項1に記載の高強度低合金鋼材。
  3. 質量%で、Ti:0.005〜0.10%、Nb:0.005〜0.10%、V:0.005〜0.10%およびZr:0.010〜0.20%から選択される1種以上を含有する、請求項1または2に記載の高強度低合金鋼材。

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