JP5867262B2 - 耐遅れ破壊特性に優れたレール - Google Patents

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Description

本発明は、海外の貨物鉄道で使用される高強度レールにおいて、耐遅れ破壊特性を向上させることを目的としたレールに関するものである。
経済発展に伴い石炭などの天然資源の新たな開発が進められている。具体的にはこれまで未開であった自然環境の厳しい地域での採掘が進められている。これに伴い、資源を輸送する海外の貨物鉄道では軌道環境が著しく厳しくなっている。レールに対しては、これまで以上の耐摩耗性が求められるようになってきた。このような背景から、現用の高強度レール以上の耐摩耗性を有したレールの開発が求められるようになってきた。
レール鋼の耐摩耗性や耐表面損傷性を改善するため、下記に示すようなレールが開発された。これらのレールの主な特徴は、耐摩耗性を向上させるため、鋼の炭素量を増加し、パーライトラメラ中のセメタイト相の体積比率を増加させ、同時に高強度化している(例えば、特許文献1、2参照)。または、耐摩耗性に加えて耐表面損傷性を向上させるため、金属組織をベイナイトとし、強度を増加させている(例えば、特許文献3参照)。
特許文献1の開示技術では、過共析鋼(C:0.85超〜1.20%)を用いて、パーライト組織中のラメラ中のセメンタイト体積比率を増加させ、耐摩耗性に優れたレールを提供することができる。
特許文献2の公開技術では、過共析鋼(C:0.85超〜1.20%)を用いて、パーライト組織中のラメラ中のセメンタイト体積比率を増加させ、同時に、硬さを制御し、耐摩耗性に優れたレールを提供することができる。
特許文献3の開示技術では、炭素量を0.2〜0.5%とし、Mn、Crを添加することにより金属組織をベイナイトとし、強度を向上させることにより耐摩耗性と耐表面損傷性に優れたレールを提供することができる。
しかし、特許文献1〜3の開示技術では、パーライト組織中のセメタイト相の体積比率を増加させ、同時に、高強度化する。または、金属組織をベイナイトとしてさらに高強度化することにより、耐摩耗性の向上が図れる。しかし、高強度化すると鋼中の残留水素による遅れ破壊の発生の危険性が高まり、レールの折損が発生しやすくなるいという問題点があった。
そこで、残留水素による遅れ破壊の発生を抑制する高強度レールの開発が求められるようになってきた。この問題を解決するため、下記に示すような高強度レールが開発された。これらのレールの主な特徴は、鋼中の水素のトラップサイトを増加させ、水素の集積場所を分散させる。または、組織を微細化、炭化物の粒界への析出を抑制することにより、遅れ破壊を抑制している(例えば、特許文献4〜6参照)。
特許文献4、5の開示技術では、パーライト組織中に水素のトラップサイトであるA系(MnS)やC系(SiO、CaO)の介在物を分散させ、さらに、鋼中の水素量を制御することにより、耐遅れ破壊特性に優れたレールを提供することができる。
特許文献6の開示技術では、Nbを添加し、ベイナイト組織の微細化、粒界への炭化物の析出を防止し、耐遅れ破壊特性に優れたレールを提供することができる。
しかし、特許文献4、5の開示技術では、成分系によっては残留水素のトラップサイトである介在物が粗大化し、パーライト鋼の耐遅れ破壊特性が十分に向上しない、介在物の種類によっては疲労や破壊の起点となり、レール折損が発生しやすくなるといった問題がある。また、特許文献6の開示技術では、合金添加による組織の微細化や粒界への炭化物の析出の抑制が十分ではなく、効果が安定しない、合金添加によりコストが増加するといった問題がある。
特開平08−144016号公報 特開平08−246100号公報 特開平09−296254号公報 特開2007−277716号公報 特開2008−050684号公報 特開平08−158014号公報 特開平08−246100号公報 特開平09−111352号公報 特開平08−092645号公報
本発明の一態様は、上述した問題点に鑑み案出されたものであり、特に、海外の貨物鉄道のレールで要求される、耐遅れ破壊特性を向上させることを目的としたレールを提供することを目的とする。
(1)質量%で、C:0.70〜1.20%、Si:0.05〜2.00%、Mn:0.10〜2.00%、Ti:0.0010超〜0.0050未満%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼レールにおいて、前記鋼レールの頭部コーナー部および頭頂部の表面を基点として深さ20mmまでの範囲である頭表部の95%以上がパーライトもしくはベイナイト組織であり、かつ、前記組織中の任意の横断面において、粒径が20〜100nmのTi系炭窒化物が被検面積0.01mmあたり250〜5000個存在することを特徴とすることを特徴とする耐遅れ破壊特性に優れたレール。
(2)また、上記(1)のレールには、質量%で、さらに、N:0.0010〜0.0035%を含有させることができる。
(3)また、上記(2)のレールには、質量%で、さらに、H≦2.0ppmを含有させることができる。
(4)また、上記(1)または(3)のレールには、質量%でさらに、下記(a)〜(n)の成分の1種または2種以上選択的に含有させることができる。
(a)Cr:0.01〜2.00%、
(b)Mo:0.01〜0.50%、
(c)Co:0.01〜1.00%、
(d)B:0.0001〜0.0050%、
(e)Cu:0.01〜1.00%、
(f)Ni:0.01〜1.00%、
(g)V:0.005〜0.50%、
(h)Nb:0.001〜0.020%、
(j)Mg:0.0005〜0.0200%、
(k)Ca:0.0005〜0.0200%、
(l)REM:0.0005〜0.0500%、
(m)Al:0.0100超〜1.00%、
(n)Zr:0.0001〜0.0200%
(5)また、上記(2)のレールには、質量%でさらに、下記(a)〜(f)及び(j)〜(n)の成分の1種または2種以上選択的に含有させることができる。
(a)Cr:0.01〜2.00%、
(b)Mo:0.01〜0.50%、
(c)Co:0.01〜1.00%、
(d)B:0.0001〜0.0050%、
(e)Cu:0.01〜1.00%、
(f)Ni:0.01〜1.00%、
(j)Mg:0.0005〜0.0200%、
(k)Ca:0.0005〜0.0200%、
(l)REM:0.0005〜0.0500%、
(m)Al:0.0100超〜1.00%、
(n)Zr:0.0001〜0.0200%
本発明の一態様によれば、レール鋼の成分、組織を制御し、鋼中のTi系炭窒化物の形態や数を制御することにより、海外の貨物鉄道で使用されるレールの耐遅れ破壊特性を向上させ、使用寿命を大きく向上させることが可能となる。
鋼中の微細な(粒径20〜100nm)のTi系炭窒化物の数と遅れ破壊の限界応力値の関係を示した図。 本発明の耐遅れ破壊特性に優れたレールの頭部断面表面位置での呼称、および、パーライト組織もしくはベイナイト組織が必要な領域を示した図。 微細な(粒径20〜100nm)のTi系炭窒化物を測定する位置を示した図。 表1〜2に示す本発明レール鋼(符号A1〜A49)と比較レール鋼(符号a7〜a21)の微細な(粒径20〜100nm)のTi系炭窒化物の数と遅れ破壊の限界応力値の関係を示した図。 表1に示す本発明レール鋼(符号A10〜A15、A18〜A23、A27〜A29、A31〜A44、A46〜A48)の微細な(粒径20〜100nm)のTi系炭窒化物の数と遅れ破壊の限界応力値をS添加量制御、S、H添加量制御の関係で示した図。 遅れ破壊試験方法を示した模式図。
以下では、本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の説明に限定されず、本発明の趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは、当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は以下に示す実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
本実施形態として、耐遅れ破壊特性に優れたレールにつき、詳細に説明する。以下、組成における質量%は、単に%と記載する。
まず、本発明者らは、レールの遅れ破壊特性を水素のトラップサイトである介在物を利用することで改善する方法を検討した。トラップサイトとして微細に分散する介在物を検討した結果、微細に生成する炭窒化物が有望であることが判明した。
次に、炭窒化物を水素のトラップサイトとして活用するため、炭窒化物形成元素であるV、Nb、Tiの適用をラボ試験により検討した。V、Nb、Tiを添加した炭素量1.0%の鋼を試験溶解し、炭窒化物の生成挙動を調査した結果、Vについてはレール圧延温度付近で微細に生成することが確認された。しかし、その生成は比較的冷却速度の遅い(1℃/sec)領域で顕著になることが判明し、冷却速度の速い(3〜8℃/sec)熱処理を行うレール製造では適用が困難であることが明らかとなった。また、Nbについては凝固前の液相から多量に生成し、レール圧延前の鋼片段階で粗大化することが確認された。さらに詳細な評価を行った結果、この粗大な炭窒化物が最終的なレールの特性を劣化させることが判明し、レール製造では適用が困難であることが明らかとなった。さらに、Tiについては、凝固直後の固相に生成し、微細に生成することが確認された。さらに詳細な評価を行った結果、この微細な炭窒化物が最終的なレールの特性に影響を与えないことが判明し、レール製造での適用に最も適していることが明らかとなった。
そこで、本発明者らはTiの炭窒化物を安定的に微細化する方法を検討した。レール鋼のような高炭素鋼では、Ti等の炭窒化物は比較的高い温度で生成する。生成温度が上昇すると炭窒化物は粗大化し易く、水素のトラップサイトとしての活用が困難となる。そこで、Ti添加量と炭窒化物の生成挙動に着目した。Ti添加量を変化させた炭素量1.0%の鋼を溶解し、Ti添加量と炭窒化物の生成挙動を調査した。その結果、Ti添加量を制御することにより、Ti系炭窒化物の生成温度が低下し、微細(粒径10〜100nm)なTi系炭窒化物が安定的に生成することを見出した。
これらの知見に基づき、本発明者らは遅れ破壊特性を調査した。炭素量1.0%(0.2%Si−1.0%Mn−0.0040%N)をベース成分として、水素量2.0ppm、Ti添加量を0.0008%と0.0030%に変化させた鋼を溶解し、レール圧延・熱処理を行い、頭表部(頭部外郭表面を起点として深さ20mmまでの範囲)をパーライトもしくはベイナイト組織としたレールを用いて、頭部に引張応力を負荷する3点曲げ試験により遅れ破壊特性を評価した。遅れ破壊特性は、頭部に引張応力が作用するように3点曲げ(スパン長:1.5m)方式で行った。応力条件は200〜500MPa、応力負荷時間は500時間とし、500時間負荷した場合に未破断であった場合の応力の最大値を限界応力値とした。
遅れ破壊試験の結果、遅れ破壊の限界応力値が、一般のレール精錬においてTiを添加しない場合のTi含有量0.0008%では220MPa、Ti含有量0.0030%では290MPaとなり、Ti添加量を制御すると、微細なTi系炭窒化物が生成し、耐遅れ破壊特性が向上することを確認した。
さらに、本発明者らは遅れ破壊特性をより一層向上させる方法を検討した。炭素量1.0%(0.2%Si−1.0%Mn−0.0030%Ti)をベース成分として、水素量2.0ppm、N添加量を0.0045%と0.0020%に変化させた鋼を溶解し、レール圧延・熱処理を行い、頭表部(頭部外郭表面を起点として深さ20mmまでの範囲)をパーライトもしくはベイナイト組織としたレールを用いて、頭部に引張応力を負荷する3点曲げ試験により遅れ破壊特性を評価した。その結果、遅れ破壊の限界応力値が、一般の二次精錬(脱ガス)でのN添加量0.0045%では290MPa、二次精錬(脱ガス)を強化したN添加量0.0020%では340MPaとなり、N添加量を制御すると、水素のトラップサイトであるTi系炭窒化物の生成温度がさらに低下し、微細なTi系炭窒化物の数がさらに増加し、耐遅れ破壊特性が向上することを確認した。
これらのTi系炭窒化物に加えて、本発明者らは遅れ破壊特性がさらに向上する方法を検討した。溶鋼の二次精錬(脱ガス)強化や鋼片での脱水素処理を適用し、鋼中の水素量を2.0ppm以下に制御することにより、遅れ破壊の限界応力値が430MPaまで向上し、耐遅れ破壊特性がより一層向上することを確認した。
図1は鋼中のTi系炭窒化物の数と遅れ破壊の限界応力値の関係をまとめて示したものである。Ti系炭窒化物の測定は、レール頭表面から深さ10〜20mmの位置からサンプルを採取し、薄膜を作製し、透過型電子顕微鏡を用いて倍率5万〜50万で実施した。微細(粒径10〜100nm)なTi系炭窒化物の数は測定後に0.01mm2当たりの数に換算した。
図1に示すように、Tiの添加量を制御すると、微細なTi系炭窒化物の数が増加し、限界応力値が増加する。これに加えて、Nの添加量を制御すると、微細なTi系炭窒化物の数がさらに増加し、限界応力値が増加する。また、鋼中の水素量を2.0ppm以下に制御することにより、限界応力値がより一層増加する。
すなわち、本発明は、レール鋼の成分、組織を制御し、鋼中のTi系炭窒化物の形態や数を制御し、さらに、N添加量を増加し、水素量を低減することにより、海外の貨物鉄道で使用されるレールの耐遅れ破壊特性を向上させ、使用寿命を大きく向上させることを目的としたレールに関するものである。
次に、本発明の限定理由について詳細に説明する。以下、鋼組成における質量%は、単に%と記載する。
(1)鋼の化学成分の限定理由
本発明のレールにおいて、鋼の化学成分を前述した数値範囲に限定する理由について詳細に説明する。
Cは、パーライト変態を促進させて、かつ、耐摩耗性を確保する有効な元素である。また、ベイナイト組織の強度を維持するのに必要な元素である。C量が0.70%未満になると、本成分系では、レールに要求される最低限の強度や耐摩耗性が維持できない。さらに、軟質で歪を蓄積し易い初析フェライト組織が生成し、遅れ破壊を発生し易くする。また、C量が1.20%を超えると、靭性の低い初析セメンタイト組織が多量に生成し、遅れ破壊を発生し易くする。このため、C添加量を0.70〜1.20%に限定した。なお、パーライトやベイナイト組織の生成を安定化し、耐遅れ破壊特性を向上させるには、C添加量を0.80〜1.10%とすることが望ましい。
Siは、パーライト組織のフェライト相やベイナイト組織のフェライト基地に固溶し、レール頭部の硬度(強度)を上昇させ、耐摩耗性を向上させる元素である。さらに、過共析鋼において、靭性の低い初析セメンタイト組織の生成を抑制し、遅れ破壊の発生を抑制する元素である。しかし、Si量が0.05%未満では、これらの効果が十分に期待できない。また、Si量が2.00%を超えると、熱間圧延時に表面疵が多く生成する。さらに、焼入性が著しく増加し、頭表部に靭性の低いマルテンサイト組織が生成し、遅れ破壊が発生しやすくなる。このため、Si添加量を0.05〜2.00%に限定した。なお、パーライトやベイナイト組織の生成を安定化し、耐遅れ破壊特性を向上させるには、Si添加量を0.10〜1.50%とすることが望ましい。
Mnは、焼き入れ性を高め、パーライト変態を安定化すると同時に、パーライト組織のラメラ間隔を微細化し、さらに、ベイナイト変態を安定化すると同時に、変態温度を低下させ、パーライト組織やベイナイト組織の硬度を確保し、耐摩耗性を向上させる元素である。しかし、Mn量が0.10%未満では、その効果が小さく、軟質で歪を蓄積し易い初析フェライト組織の生成を誘発し、耐摩耗性や耐遅れ破壊特性の確保が困難となる。また、Mn量が2.00%を超えると、焼入性が著しく増加し、頭表部に靭性に有害なマルテンサイト組織が生成し、遅れ破壊を発生し易くする。このため、Mn添加量を0.10〜2.00%に限定した。なお、パーライトやベイナイト組織の生成を安定化し、耐遅れ破壊特性を向上させるには、Mn添加量を0.20〜1.50%とすることが望ましい。
Tiは、水素のトラップサイトとして微細に分散させる必要がある。Ti量が0.0010%以下では、Ti系炭窒化物の生成量が少なく、水素のトラップサイトとしての作用が弱く、遅れ破壊を防止することが困難となる。また、Ti量が0.0050%以上では、Ti系炭窒化物の生成温度が上昇し、Ti系炭窒化物が粗大化すると同時に、Ti系炭窒化物の生成量が過剰となり、金属組織が脆化し、レール折損が発生しやすくなる。さらに、耐遅れ破壊特性の確保も困難となる。このため、Ti添加量を0.0010%超〜0.0050未満%に限定した。なお、微細なTi系炭窒化物を生成させ、粗大化を防止するには、Ti添加量を0.0020〜0.0040%とすることが望ましい。なお、一般のレール精錬では0.0010%以下のTiが原料等から混入する。したがって、Ti添加量が0.0010%超の範囲は精錬工程でのTi合金添加を意味する。
Nは、鋼中に不可避的に含有される元素である。精錬工程での二次精錬(脱ガス)を行うと、N量は0.0040〜0.0060%まで低減する。N量とTi系炭窒化物の生成には相関があり、N量が増加すると、Ti系炭窒化物の生成量が増加すると同時に粗大化する。このため、本発明の一態様において、N添加量を0.0010〜0.0035%にすることが好ましい。N量が0.0035%超では微細なTi系炭窒化物の生成量の増加と比較して粗大化が顕著となり、応力集中によりレール折損が発生しやすくなる。また、N量が0.0010%未満では、微細なTi系炭窒化物の生成量が低下し、水素のトラップサイトとしての作用が弱く、遅れ破壊を防止することが困難となる。このため、N添加量を0.0010〜0.0035%に限定した。なお、微細なTi系炭窒化物の生成量を確保し、Ti系炭窒化物の粗大化を防止するには、N添加量を0.0015〜0.0030%とすることが望ましい。
Hは、遅れ破壊の原因となる元素である。レール圧延前の鋼片(ブルーム)のH量が2.0ppmを超えると、Ti系炭窒化物の界面に集積するH量が増加し、遅れ破壊の発生が促進される。このため、本発明の一態様において、H含有量を2.0ppm以下にすることが好ましい。なお、H含有量の下限値については限定していないが、精錬工程での二次精錬(脱ガス)能力や鋼片の脱水素処理能力を考慮すると、H含有量1.0ppm程度が実製造での限界になると考えられる。
また、上記の成分組成で製造されるレールは、パーライト組織やベイナイト組織の硬度(強度)の増加による耐摩耗性の向上、靭性の向上、溶接熱影響部の軟化の防止、レール頭部内部の断面硬度分布の制御を図る目的で、Cr、Mo、Co、B、Cu、Ni、V、Nb、Mg、Ca、REM、Al、Zrの元素を必要に応じて添加する。
ここで、Cr、Moは、平衡変態点を上昇させ、パーライト組織のラメラ間隔やベイナイト組織を微細化し、硬度を向上させる。Coは、摩耗面の基地フェライト組織を微細化し、摩耗面の硬度を高める。Bは、パーライト変態温度の冷却速度依存性を低減させ、レール頭部の硬度分布を均一にする。また、ベイナイト組織の焼入れ性を増加させ、硬度を向上させる。Cuは、パーライト組織やベイナイト組織中のフェライトに固溶し、硬度を高める。Niは、パーライト組織やベイナイト組織の靭性と硬度を向上させ、同時に、溶接継ぎ手熱影響部の軟化を防止する。V、Nbは、熱間圧延やその後の冷却課程で生成した炭化物や窒化物により、オーステナイト粒の成長を抑制し、さらに、析出硬化により、パーライト組織やベイナイト組織の靭性と硬度を向上させる。また、再加熱時に炭化物や窒化物を安定的に生成させ、溶接継ぎ手熱影響部の軟化を防止する。Ca、Mgは、レール圧延時においてオーステナイト粒の微細化を図り、同時に、パーライト変態を促進し、パーライト組織の靭性を向上させる。Zrは、凝固組織の等軸晶化率を高めることにより、鋳片中心部の偏析帯の形成を抑制し、初析セメンタイト組織やマルテンサイト組織の生成を抑制する。Alは、共析変態温度を高温側へ移動させ、パーライト組織やベイナイト組織の硬度を高めることが主な添加目的である。
Crは、平衡変態温度を上昇させ、過冷度の増加により、パーライト組織のラメラ間隔を微細化し、さらに、ベイナイト変態温度を低下させ、パーライト組織やベイナイト組織の硬度(強度)を向上させる元素であるが、Cr量が0.01%未満ではその効果は小さく、レール鋼の硬度を向上させる効果が全く見られなくなる。また、Cr量2.00%を超える過剰な添加を行うと、焼入れ性が著しく増加し、レール頭表部等に靭性に有害なマルテンサイト組織が生成し、遅れ破壊を発生し易くする。このため、Cr添加量を0.01〜2.00%に限定した。
Moは、Crと同様に平衡変態温度を上昇させ、過冷度の増加により、パーライト組織のラメラ間隔を微細化し、さらに、ベイナイト変態を安定化させ、パーライト組織やベイナイト組織の硬度(強度)を向上させる元素であるが、Mo量が0.01%未満ではその効果が小さく、レール鋼の硬度を向上させる効果が全く見られなくなる。また、Mo量が0.50%を超える過剰な添加を行うと、変態速度が著しく低下し、レール頭表部等に靭性に有害なマルテンサイト組織が生成し、遅れ破壊を発生し易くする。このため、Mo添加量を0.01〜0.50%に限定した。
Coは、パーライト組織のフェライト相やベイナイト組織の基地フェライト組織に固溶し、レール頭表部の摩耗面において、車輪との接触により形成させる微細なフェライト組織をより一層微細化し、硬さを高めることにより耐摩耗性を向上させる元素である。Co量が0.01%未満では、フェライト組織の微細化が促進せず、耐摩耗性の向上効果が期待できない。また、Co量が1.00%を超えると、上記の効果が飽和し、添加量に応じたフェライト組織の微細化が図れない。また、合金添加コストの増大により経済性が低下する。このため、Co添加量を0.01〜1.00%に限定した。
Bは、オーステナイト粒界に鉄炭ほう化物(Fe23(CB))を形成し、パーライト変態の促進効果により、パーライト変態温度の冷却速度依存性を低減させ、頭表面から内部までより均一な硬度分布をレールに付与し、レールを高寿命化する元素である。また、ベイナイト組織の焼入れ性を増加させ、ベイナイト組織の硬度を向上させる元素である。B量が0.0001%未満では、その効果が十分でなく、レール頭部の硬度分布には改善が認められない。また、B量が0.0050%を超えると、粗大な鉄炭ほう化物が生成し、応力集中により、脆性破壊、すなわち、レール損傷が発生しやすくなる。このため、B添加量を0.0001〜0.0050%に限定した。
Cuは、パーライト組織のフェライト相やベイナイト組織の基地フェライト組織に固溶し、固溶強化により硬度(強度)を向上させ、耐摩耗性を向上させる元素であるが、0.01%未満ではその効果が期待できない。また、Cu量が1.00%を超えると、著しい焼入れ性向上により、レール頭表部等に靭性に有害なマルテンサイト組織が生成し、遅れ破壊を発生し易くする。このため、Cu量を0.01〜1.00%に限定した。
Niは、パーライト組織やベイナイト組織の靭性を向上させ、同時に、固溶強化により硬度(強度)を向上させ、耐摩耗性を向上させる元素である。さらに、溶接熱影響部においては、Tiと複合でNi3Tiの金属間化合物が微細に析出し、析出強化により軟化を抑制する元素である。また、Cu添加鋼において粒界の脆化を抑制する元素である。しかし、Ni量が0.01%未満では、これらの効果が著しく小さく、また、Ni量が1.00%を超えると、著しい焼入れ性向上により、レール頭表部等に靭性に有害なマルテンサイト組織が生成し、遅れ破壊を発生し易くする。このため、Ni添加量を0.01〜1.00%に限定した。
Vは、通常の熱間圧延や高温度に加熱する熱処理が行われる場合に、V炭化物やV窒化物が析出し、ピンニング効果によりオーステナイト粒を微細化し、パーライト組織やベイナイト組織の靭性を向上させるのに有効な元素である。さらに、熱間圧延後の冷却課程で生成したV炭化物、V窒化物による析出硬化により、パーライト組織やベイナイト組織の硬度(強度)を高め、耐摩耗性を向上させる元素である。また、Ac1点以下の温度域に再加熱された熱影響部において、比較的高温度域でV炭化物やV窒化物を生成させ、溶接継ぎ手熱影響部の軟化を防止するのに有効な元素である。しかし、V量が0.005%未満ではこれらの効果が十分に期待できず、靭性や硬度(強度)の向上は認められない。また、V量が0.50%を超えると、Vの炭化物や窒化物の析出硬化が過剰となり、パーライト組織やベイナイト組織が脆化し、レールの靭性が低下する。このため、V添加量を0.005〜0.50%に限定した。
Nbは、Vと同様に、通常の熱間圧延や高温度に加熱する熱処理が行われる場合に、Nb炭化物やNb窒化物のピンニング効果によりオーステナイト粒を微細化し、パーライト組織やベイナイト組織の靭性を向上させるのに有効な元素である。さらに、熱間圧延後の冷却課程で生成したNb炭化物、Nb窒化物による析出硬化により、パーライト組織やベイナイト組織の硬度(強度)を高め、耐摩耗性を向上させる元素である。また、Ac1点以下の温度域に再加熱された熱影響部において、低温度域から高温度域までNbの炭化物やNb窒化物を安定的に生成させ、溶接継ぎ手熱影響部の軟化を防止するのに有効な元素である。しかし、その効果は、Nb量が0.001%未満では、これらの効果が期待できず、パーライト組織の靭性や硬度(強度)の向上は認められない。また、Nb量が0.020%を超えると、凝固前の液相からNbの炭窒化物が多量に生成し、レール圧延前の鋼片段階で粗大化し、応力集中によりレール折損が発生しやすくなる。このため、Nb添加量を0.001〜0.020%に限定した。
Mgは、最も強力な脱酸元素であり、添加によりTiOの生成を抑制し、微細なTi系炭窒化物の生成を促進させる元素である。また、OまたはS等と結合して微細な酸化物や硫化物を形成し、レール圧延時の再加熱において、結晶粒の粒成長を抑制し、オーステナイト粒の微細化を図り、パーライト組織やベイナイト組織の靭性を向上させるのに有効な元素である。さらに、MgSがMnSを微細に分散させ、MnSの周囲にフェライトやセメンタイトの核を形成し、パーライト変態の生成に寄与し、その結果、パーライトブロックサイズを微細化することにより、パーライト組織の靭性を向上させるのに有効な元素である。しかし、0.0005%未満ではその効果は弱く、0.0200%を超えて添加すると、Mgの粗大酸化物が生成し、応力集中によりレール折損が発生しやすくなる。このため、Mg量を0.0005〜0.0200%に限定した。
Caは、Sとの結合力が強く、CaSとして硫化物を形成し、さらに、CaSがMnSを微細に分散させ、MnSの周囲にMnの希薄帯を形成し、パーライト変態の生成に寄与し、その結果、パーライトブロックサイズを微細化することにより、パーライト組織の靭性を向上させるのに有効な元素である。しかし、0.0005%未満ではその効果は弱く、0.0200%を超えて添加すると、Caの粗大酸化物が生成し、応力集中によりレール損傷が発生しやすくなる。このため、Ca量を0.0005〜0.0200%に限定した。
REMは、最も強力な脱酸元素であり、添加によりTiOの生成を抑制し、微細なTi系炭窒化物の生成を促進させる元素である。また、脱硫元素であり、添加によりREMのオキシサルファイド(REMS)を生成し、Mn硫化物系介在物の生成核となる。また、この核であるオキシサルファイド(REMS)の融点が高いため、圧延後のMn硫化物系介在物の延伸を抑制する元素である。しかし、REM量が0.0005%未満では、その効果が小さく、Mn硫化物系介在物の生成核としては不十分となる。また、REM量が0.0500%を超えると、REMのオキシサルファイド(REMS)の数が過剰となり、Mn硫化物系介在物の核とならない単独のREMのオキシサルファイド(REMS)が増加する。この硬質なオキシサルファイド(REMS)がレール鋼の靭性を大きく低下させる。このため、REM添加量を0.0005〜0.0500%に限定した。
なお、REMとはCe、La、PrまたはNd等の希土類金属である。上記添加量はこれらの全REMの添加量を限定したものである。全添加量の総和が上記範囲内であれば、単独、複合(2種類以上)のいずれの形態であっても同様な効果が得られる。
Alは、最も強力な脱酸元素であり、添加によりTiOの生成を抑制し、微細なTi系炭窒化物の生成を促進させる元素である。また、共析変態温度を高温側へ移動させる元素であり、パーライト組織やベイナイト組織の高硬度(強度)化に寄与し、パーライト組織の硬度を向上させる元素である。しかし、Al量が0.0100%以下では、その効果が弱い。また、Al量が1.00%を超えると、鋼中に固溶させることが困難となり、粗大なAl系酸化物介在物が生成し、応力集中によりレール損傷が発生しやすくなる。さらに、溶接時に酸化物が生成し、溶接性が著しく低下する。このため、Al添加量を0.0100〜1.00%に限定した。
Zrは、ZrO介在物がγ−Feとの格子整合性が良いため、高炭素レール鋼の凝固核となり、凝固組織の等軸晶化率を高めることにより、鋳片中心部の偏析帯の形成を抑制し、レール偏析部に生成するマルテンサイト組織や初析セメンタイト組織の生成を抑制する元素である。しかし、Zr量が0.0001%未満では、ZrO系介在物の数が少なく、凝固核として十分な作用を示さない。その結果、偏析部にマルテンサイト組織や初析セメンタイト組織が生成し、レールの靭性が低下する。また、Zr量が0.2000%を超えると、粗大なZr系介在物が多量に生成し、応力集中によりレール折損が発生しやすくなる。このため、Zr量を0.0001〜0.2000%に限定した。
上記のような成分組成で構成されるレール鋼は、転炉、電気炉などの通常使用される溶解炉で溶製を行い、この溶鋼を造塊・分塊法あるいは連続鋳造法、次に、熱間圧延を経てレールとして製造される。さらに必要に応じてレール頭頂部の金属組織を制御する目的から熱処理を行う。
(2)金属組織の限定理由
本発明のレールにおいて、レールの頭表部の少なくとも一部がパーライト組織もしくはベイナイト組織に限定する理由について詳細に説明する。
まず、パーライト組織もしくはベイナイト組織に限定した理由について説明する。
車輪と接触するレール頭表部では耐摩耗性と耐ころがり疲労損傷性の確保が最も重要である。金属組織とこれらの特性の関係を調査した結果、パーライト組織とベイナイト組織がこれらの特性が最もよいことが確認された。さらに、耐遅れ破壊特性についても、パーライト組織とベイナイト組織を用いることにより、その低下がないことが実験により確認された。そこで、耐摩耗性、耐ころがり疲労損傷性の確保および耐遅れ破壊特性を向上させる目的からパーライト組織もしくはベイナイト組織に限定した。
なお、パーライト組織とベイナイト組織の使い分けは特に限定していないが、耐摩耗性が重視される軌道ではパーライト組織、耐ころがり疲労損傷性が重視される軌道ではベイナイト組織とすることが望ましい。また、これらの組織の混合組織を用いてもよい。
ここで、図2に本発明の耐遅れ破壊特性に優れたレールの頭部断面表面位置での呼称、および、パーライト組織もしくはベイナイト組織が必要な領域を示す。レール頭部3は、頭頂部1と、前記頭頂部1の両端に位置する頭部コーナー部2を有する。頭部コーナー部2の一方は、車輪と主に接触するゲージコーナー(G.C.)部である。
前記頭部コーナー部2および前記頭頂部1の表面を起点として深さ20mmまでの範囲を頭表部(3a、斜線部)と呼ぶ。図2に示すように、頭部コーナー部2及び頭頂部1の表面を起点として深さ20mmまでの頭表部にパーライト組織やベイナイト組織が配置されていれば、レール頭表部において、耐摩耗性、耐ころがり疲労損傷性の確保および耐遅れ破壊特性の向上が図れる。
したがって、パーライト組織やベイナイト組織は、車輪とレールが主に接し、耐遅れ破壊特性が要求される頭表部に配置することが望ましく、これらの特性が必要とされないそれ以外の部分はパーライト組織やベイナイト組織以外の金属組織であってもよい。
なお、これらの金属組織の硬さについては特に限定しない。敷設される軌道条件に応じて硬さを調整することが望ましい。なお、耐摩耗性や耐ころがり疲労損傷性を十分に確保するには、硬さはHv300〜500程度に制御することが望ましい。硬さHv300〜500のパーライト組織やベイナイト組織を得る方法としては、適切な合金選択を行い、圧延後、または、再加熱後のオーステナイト領域のある高温のレール頭部に加速冷却を行うことが望ましい。加速冷却の方法としては、引用文献7、引用文献8、引用文献9等に記載されているような方法で熱処理を行うことにより、所定の組織と硬さを得ることができる。
また、本発明レールの頭表部の金属組織は、上記限定のようなパーライト組織もしくはベイナイト組織であることが望ましい。しかし、レールの成分系や熱処理製造方法によっては、これらの組織中に面積率で5%以下の微量な初析フェライト組織、初析セメンタイト組織やマルテンサイト組織が混入することがある。しかし、これらの組織が混入しても、レールの耐遅れ破壊特性や頭表部の耐摩耗性および耐ころがり疲労損傷性には大きな悪影響を及ぼさないため、耐遅れ破壊特性に優れたレールの組織としては、5%以下の微量な初析フェライト組織、初析セメンタイト組織、マルテンサイト組織の混在も含んでいる。言い換えれば、本発明レールの頭表部の金属組織は、95%以上がパーライト組織もしくはベイナイト組織であれば良く、耐遅れ破壊特性を確保し、耐摩耗性や耐ころがり疲労損傷性を十分に向上させるには、頭表部金属組織の98%以上をパーライト組織もしくはベイナイト組織とすることが望ましい。なお、表1及び表2におけるミクロ組織の欄でパーライト組織やベイナイト組織以外の組織が記載されているものは全て面積率で5%超の量を意味する。
(3)粒径が20〜100nmのTi系炭窒化物の単位面積当たりの数の限定理由
本発明の一態様において、評価対象とした任意の横断面のTi系炭窒化物の粒径を20〜100nmの範囲に限定した理由について詳細に説明する。
様々な溶解実験の結果、Ti系炭窒化物の粒径が100nmを超えると、単位体積当たりの表面積の減少により、水素のトラップサイトの効果が低下する。また、Ti系炭窒化物の粒径が20nm未満では、水素のトラップサイトの効果は向上するが、炭窒化物の量が過剰となり、金属組織が脆化する。したがって、Ti系炭窒化物の粒径が20〜100nmの範囲であれば、地鉄と介在物の界面での表面積を確保することにより、十分な水素のトラップサイトとなり、さらに、炭窒化物が微細に分散することにより、個々の炭窒化物にトラップされる水素量を低減し、耐遅れ破壊特性が向上する。このため、Ti系炭窒化物の数を制御する粒径を20〜100nmの範囲に限定した。
なお、Ti系炭窒化物の粒径は、断面積を測定し、円相当断面に置き換えて、その粒径
を算定し、上記の限定に適用した。
次に、本発明の一態様において、任意の横断面において、粒径20〜100nmのTi系炭窒化物が被検面積0.01mm当たり250〜5000個の範囲に限定した理由について詳細に説明する。
粒径20〜100nmのTi系炭窒化物が被検面積0.01mm当たり250個未満になると、地鉄と介在物の界面での表面積を確保することが困難となり、十分な水素のトラップサイトとして機能せず、遅れ破壊が発生し易くなす。また、粒径20〜100nmのTi系炭窒化物が被検面積0.01mm当たり5000個を超えると、炭窒化物の量が過剰となり、金属組織が脆化し、レール折損が発生しやすくなる。そこで、粒径20〜100nmのTi系炭窒化物が被検面積0.01mm2当たり250〜5000個に限定した。
Ti系炭窒化物についてはTi系炭窒化物のみの含有を限定するものではない。部分的に他の元素が混入してもよい。Ti系炭窒化物ではTi(C・N)が面積率で80%以上存在することが望ましい。
Ti系炭窒化物の数については、図3に示すように、レール頭部の横断面からサンプルを切り出し、薄膜を作製し、透過型電子顕微鏡を用いて、倍率5万〜50万で観察を行った。
析出物の粒径は、観察により個々の析出物の分析を行い、Ti系炭窒化物のみ選択し、面積を求め、その面積に相当する円の直径を用いた。析出物は20視野の観察を行い、所定の直径に該当する析出物の数をカウントし、これを単位面積当たりの数に換算し、20視野の平均値を各レール鋼の代表値とした。
なお、Ti系炭窒化物の測定部位は特に限定しないが、図3に示すように、レール頭表部から深さ10〜20mmの範囲で測定することが望ましい。
(4)Ti系炭窒化物の制御方法
Ti系炭窒化物のサイズや数を制御するTi量の制御について望ましい製造方法を説明する。
Tiは二次精錬後の溶鋼にフェロTiとして添加する。Tiは溶鋼中のフリー酸素と反応しTiOを形成し易い。このTiOは硬質であり、応力集中によりレール折損が発生しやすくなる。このため、TiOの生成抑制はレール特性を確保する上で重要である。Ti系炭窒化物の生成を促進させ、TiOの生成を防止するには、基本的には、溶鋼を事前にAl、MgやREM等を用いて予備脱酸し、酸素量を出来る限り低下させて、フェロTiを添加することが望ましい。
これらの脱酸制御に加えて、生成したTi系炭窒化物の粗大化を抑制するため、精錬後のレードルでのAr吹き込み、鋳造前のターンディシュでの微細気泡吹込み等の適用が望ましい。さらに、鋳造時でのTi系炭窒化物の粗大化を抑制するためターンディシュでの電磁撹拌等を適用することが望ましい。
(5)N量の制御方法
Ti系炭窒化物のサイズや数を制御するN量の制御について望ましい製造方法を説明する。
溶銑段階ではNは不純物として多量に含まれている。N量の制御は二次精錬(脱ガス)で行われるのが一般的である。二次精錬ではレードルを真空状態にし、鋼中のNを排出する。二次精錬を行うとN量は0.0005〜0.0080%まで低減する。この二次精錬での処理時間を制御することにより、N量を0.0010〜0.0035%に制御し、微細(粒径20〜100nm)なTi系炭窒化物の数を増加させ、耐遅れ破壊特性を向上させることが望ましい。
(6)H量の制御方法
遅れ破壊特性をさらに改善するH量の制御について望ましい製造方法を説明する。
溶銑段階ではHは不純物して含まれている。H量の制御は転炉の後の二次精錬(脱ガス)で行われるのが一般的である。二次精錬ではレードルを真空状態にし、鋼中のHを排出する。この二次精錬での処理時間を制御することにより、H量を2.0ppm以下に制御し、さらに耐遅れ破壊特性を向上させることが望ましい。
また、水素は上記の精錬後に大気から侵入し、鋳造後の鋼片の水素量を増加させる場合もある。このような場合は、鋼片を除冷または鋼片を再加熱することにより鋼片内部の水素を外部へ拡散させる方法を適用することが望ましい。
次に、本発明の実施例について説明する。
表1に本発明レールの化学成分と諸特性を示す。表1には、化学成分値、頭表部のミクロ組織、頭表部の硬さ、粒径20〜100nmのTi系炭窒化物の数を示す。さらに、図6に示す方法で行った遅れ破壊試験の結果(限界応力値)も併記した。尚、頭表部のミクロ組織は、面積率で5%以下の微量な初析フェライト組織、初析セメンタイト組織やマルテンサイト組織が混入しているものも含んでいる。
表2に比較レールの化学成分と諸特性を示す。表2には、化学成分値、頭表部のミクロ組織、頭表部の硬さ、粒径20〜100nmのTi系炭窒化物の数を示す。さらに、図6に示す方法で行った遅れ破壊試験の結果(限界応力値)も併記した。尚、頭表部のミクロ組織において、面積率で5%超の初析フェライト組織、初析セメンタイト組織、マルテンサイト組織が混入している比較例については、頭表部ミクロ組織の欄に初析フェライト組織、初析セメンタイト組織、マルテンサイト組織も記載した。
なお、表1、表2に示した本発明レールおよび比較レールの製造条件は下記に示すとおりである。
溶鋼⇒成分調整(転炉および二次精錬:脱ガス)⇒鋳造(ブルーム)⇒再加熱(1250℃)⇒熱間圧延(仕上げ温度950℃)⇒熱処理(開始温度800℃、加速冷却)⇒放冷
Figure 0005867262
Figure 0005867262
Figure 0005867262
<水素量分析の方法>
表1、表2に示した本発明レールおよび比較レールの水素量分析の方法は下記のとおりである。
(1)分析工程:鋼片鋳造時のモールド内より溶鋼をサンプリング
(2)サンプル保持方法:サンプリング後、急速冷却⇒液体窒素に浸漬
(3)分析方法 熱伝導度法
サンプルサイズ:直径6mm、厚さ1mmの円筒
加熱温度:1900℃(黒鉛るつぼ上でサンプルをインダクションヒーティング)
雰囲気:不活性ガス(Ar)
キャリアガス:N
分析装置:熱伝導度検出器
<硬度の測定方法>
表1、表2に示した本発明レールおよび比較レールの頭表部のミクロ組織、頭表部の硬さは、レール頭表部表面から3mm深さの位置で行った。また、硬さはビッカース硬度計で測定した。測定方法は下記に示すとおりである。
(1)事前処理:レール切断⇒横断面研摩。
(2)測定方法:JIS Z 2244に準じて測定。
(3)測定機:ビッカース硬度計(荷重98N)。
(4)測定箇所:レール頭表部表面から3mm深さの位置。
(5)測定数:5点以上測定し、平均値を鋼レールの代表値とすることが望ましい。
<粒径20〜100nmのTi系炭窒化物の測定方法>
表1、表2に示した本発明レールおよび比較レールの粒径20〜100nmのTi系炭窒化物の測定は、図3に示すようにレール頭表部表面から10〜20mm深さの位置で行った。測定方法は下記に示すとおりである。
(1)事前処理:レール切断⇒横断面から薄膜作製
(2)測定方法
装置:透過型電子顕微鏡
倍率:5万〜50万
粒径測定:観察により個々の析出物の分析を行い、Ti系炭窒化物のみ選択し、その面積を求め、面積に相当する円の直径で粒径を算定。
個数の算定:20視野の観察を行い、所定の直径に該当するTi系炭窒化物数をカウントし、これを単位面積当たりの数に換算し、その平均値を求めた。
<遅れ破壊試験の条件>
表1、表2に示した本発明レールおよび比較レールの遅れ破壊試験の条件は下記に示すとおりである。
(1)レール形状:136ポンドレール(67kg/m)
(2)遅れ破壊試験
試験方法:3点曲げ(スパン長:1.5m、図6参照)
試験姿勢:レール底部に荷重負荷(頭部に引張応力作用)。
応力条件:200〜500MPa(レール頭部表面)
応力負荷時間:500時間
(3)限界応力値:所定の応力で500時間負荷した場合に未破断であった場合の応力の最大値
表1、表2に示した本発明レールおよび比較レールの詳細は下記に示すとおりである。
(1)本発明レール(47本)
符号 A1〜A47:化学成分値、頭表部のミクロ組織、頭表部の硬さ、頭表部の硬さ、粒径20〜100nmのTi系炭窒化物の数が本願発明範囲内のレール。
(2)比較レール(21本)
符号 a1〜a6(6本):C、Si、Mnの添加量、頭表部のミクロ組織が本願発明範囲外のレール。
符号 a7〜a21:Nの添加量、粒径20〜100nmのTi系炭窒化物の数が本願発明範囲外のレール。
表1、表2に示すように、本発明レール(符号A1〜A49)は、比較レール(符号a1〜a6)と比べて、鋼のC、Si、Mnの添加量を限定範囲内に収めることにより、初析フェライト組織、初析セメンタイト組織、マルテンサイト組織の生成を抑制し、頭表部をパーライト組織とベイナイト組織に制御することにより、遅れ破壊特性を向上させることができる。
また、表1、表2、さらに、図4に示すように、本発明レール鋼(符号A1〜A49)は、比較レール鋼(符号a7〜a21)と比べて、C、Si、Mnの添加量に加えて、鋼のTiの添加量を限定範囲内に収めることにより、粒径20〜100nmのTi系炭窒化物の数を抑制し、遅れ破壊特性を向上させることができる。
また、表1、表2、さらに、図5に示すように、本発明レール鋼(符号A10〜A15、A18〜A23、A27〜A29、A31、A33〜A37、A39〜A44、A46〜A48)は、N添加量を制御することにより、粒径20〜100nmのTi系炭窒化物の数を抑制し、さらに、H添加量を制御することにより、同一Ti系炭窒化物の数において、遅れ破壊特性をより一層向上させることができる。
1:頭頂部
2:頭部コーナー部
3:レール頭部
3a:頭表部(頭部コーナー部および頭頂部の表面を起点として深さ20mmまでの範囲、斜線部)

Claims (5)

  1. 質量%で、C:0.70〜1.20%、Si:0.05〜2.00%、Mn:0.10〜2.00%、Ti:0.0010超〜0.0050未満%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼レールにおいて、前記鋼レールの頭部コーナー部および頭頂部の表面を起点として深さ20mmまでの範囲である頭表部の95%以上がパーライトもしくはベイナイト組織であり、かつ、前記組織中の任意の横断面において、粒径が20〜100nmのTi系炭窒化物が被検面積0.01mmあたり250〜5000個存在することを特徴とするレール。
  2. 質量で、さらに、N:0.0010〜0.0035%を含有することを特徴とする請求項1に記載のレール。
  3. 質量%で、さらに、H:2.0ppm以下であることを特徴とする請求項2に記載のレール。
  4. 質量%で、さらに、
    Cr:0.01〜2.00%、
    Mo:0.01〜0.50%、
    Co:0.01〜1.00%、
    B:0.0001〜0.0050%、
    Cu:0.01〜1.00%、
    Ni:0.01〜1.00%、
    V:0.005〜0.50%、
    Nb:0.001〜0.020%、
    Mg:0.0005〜0.0200%、
    Ca:0.0005〜0.0200%、
    REM:0.0005〜0.0500%、
    Al:0.0100超〜1.00%、
    Zr:0.0001〜0.0200%
    の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または3記載のレール。
  5. 質量%で、さらに、
    Cr:0.01〜2.00%、
    Mo:0.01〜0.50%、
    Co:0.01〜1.00%、
    B:0.0001〜0.0050%、
    Cu:0.01〜1.00%、
    Ni:0.01〜1.00%、
    Mg:0.0005〜0.0200%、
    Ca:0.0005〜0.0200%、
    REM:0.0005〜0.0500%、
    Al:0.0100超〜1.00%、
    Zr:0.0001〜0.0200%
    の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項2記載のレール。
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