JP3242252B2 - 金属酸化物材料及びそれを用いた超伝導装置 - Google Patents

金属酸化物材料及びそれを用いた超伝導装置

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JP3242252B2 JP01130194A JP1130194A JP3242252B2 JP 3242252 B2 JP3242252 B2 JP 3242252B2 JP 01130194 A JP01130194 A JP 01130194A JP 1130194 A JP1130194 A JP 1130194A JP 3242252 B2 JP3242252 B2 JP 3242252B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、新規な金属酸化物材料
及びそれを用いた超伝導素子と超伝導成型体に関する。
特に、超伝導特性を示す金属酸化物材料及びそれを用い
た超伝導素子と超伝導成型体に関する。本発明の金属酸
化物材料を用いた超伝導素子と超伝導成型体は、各種セ
ンサー、電子素子、コンピューター、医療機器、マグネ
ット、送電線、エネルギー機器及び電圧標準等の各種分
野で利用可能である。
【0002】
【従来の技術】近年相次いで発見された銅を含む酸化物
超伝導体は、従来知られていたニオブ系等の超伝導臨界
温度(Tc)を大きく上回るTcを持つ為、多くの分野
で応用研究が進められている。この様な銅を含む酸化物
超伝導体の中では、特にTcの高い材料としてY系(Y
Ba2 Cu3y )材料が発見されており、それらの応
用研究が行われている。このY系材料は本質的に酸素を
欠損し易く、500〜700℃において結晶構造相転移
を伴って酸素の入出がある。その為、Tcを高める等、
超伝導特性を良くする目的で、この様な温度でアニール
処理し、酸素の多い相に変換する熱処理が極めて一般的
に行われている。
【0003】上記熱処理による結晶系及び格子定数の変
化は、材料自身に応力による歪みを招き、例えば、膜に
成形した場合には、クラックを生ずる原因となる。又、
他の材料との接合においても、やはりこの応力によって
特性に多大な影響を与え得る。更に、このY系(YBa
2 Cu3y )材料は水に対して極めて不安定であり、
通常の大気中に放置した場合、大気中の水分によりBa
CO3 やCuOに分解してしまい、超伝導体として利用
出来ないものとなってしまうことが知られている。この
不安定な要因は、例えば、ジョセフソン素子等を利用す
るエレクトロニクス分野における応用において、素子の
設計を困難にし、素子特性の信頼性が良く且つ優れた性
能を有する素子を得る為の大きな障壁となる。
【0004】又、後に詳述する本発明の金属酸化物材料
に類似する材料としては、J.Mater.Che
m.,1993,3,771〜772にM(MはCa及
びSrの元素群から選ばれた1種類以上の元素又は原子
団)を含まないGd2 Ba2 Ti2 Cu211の組成の
材料が開示されているが、この材料は半導体的な特性を
示し、4Kにおいても超伝導特性が観測されない。
【0005】又、上記Gd2 Ba2 Ti2 Cu211
同様の構造であるが、Tiの代わりにSnを用いた材料
が、Chem.Mater.,1992,4,1305
〜1313にBa2 Ln2 Cu2 Sn211の組成で開
示されている。この材料も半導体的な特性を示し、合成
条件等により約30Kで極めて弱い超伝導特性が観測さ
れる場合があるが、種々の点で、この超伝導特性は上記
材料の合成中に不純物として生成されたLa2-x Bax
CuO4 超伝導体によるものと解釈され得ることが述べ
られている。
【0006】又、具体的に云えば、室温での抵抗率の値
が、クエンチした試料(高温より急冷して得られる)に
おいて2000Ω・cmと高抵抗であることも示されて
いる。又、両者の折衷型と考えられるLn2 Ba2 Ti
x Sn2-x Cu211の組成の材料がJ.Mater.
Chem.,1993,3,949〜982に開示され
ているが、この材料には超伝導特性は観測されていな
い。つまり、本発明の金属酸化物材料に類似する従来の
金属酸化物材料には、超伝導材料は存在しない。尚、超
伝導材料の臨界温度Tcは、通常30K程度以上、好ま
しくは50K以上であることが望ましい。これはTcが
30Kの超伝導材料を用いた各種超伝導製品を安定に動
作させる為には、通常臨界温度よりも10K程度低い温
度に冷却することが必要になり、冷却方式に大きな制限
がでてしまうからである。
【0007】即ち、30K以下に冷却する為には冷媒に
液体ヘリウムを使用して、且つ液体窒素や真空を利用し
た断熱が必要となり、室温部分からの熱のシールドに大
きな設備が必要になる。又、クライオポンプを用いた場
合でも、真空や複数の断熱材を利用した多大な熱シール
ドが必要になる。しかし、約30K以上、特に50K以
上がより望ましいが、この温度領域になると熱シールド
が極めて容易になる為に、冷却システムも簡素化され、
更に超伝導状態も安定に保つことが出来る様になる。
【0008】
【発明が解決しようとしている問題点】先に述べた様
に、Tcの高い材料として知られるY系(YBa2 Cu
3y )材料は、その超伝導特性を良くする目的で行う
熱処理により構造相転移が生じ、所謂双晶構造を生成
し、微細なクラックを生じ易いと云う問題があった。
尚、この双晶構造は正方晶系から斜方晶系に転移するこ
とに対応している。又、構造中に極めて不安定な酸素の
占有する位置が存在する為に、均一な酸素量の材料を合
成することが困難であった。このことは均一な特性を持
つ超伝導材料の合成が困難であることを意味する。そし
て、このことと密接な関係があると思われるが、上記Y
計材料は水分に対して極めて不安定であり、水蒸気等に
よりBaCO3 やCuO等の原料に分解し易いことが広
く知られている。このことは超伝導材料を使用する場所
や耐久性を大きく制約するものであり、致命的な問題点
である。
【0009】又、J.Mater.Chem.,199
3,3,771〜772に開示されているGd2 Ba2
Ti2 Cu211の組成の材料、Chem.Mate
r.,1992,4,1305〜1313に開示されて
いるBa2 Ln2 Cu2 Sn211の組成の材料及び
J.Mater.Chem.,1993,3,949〜
982に開示されているLn2 Ba2 Tix Sn2-x
211の組成の材料は、全て超伝導特性を示さず、超
伝導体として応用することの出来ないものであった。
【0010】尚、超伝導材料は単一な構造、即ち単相で
あることが望ましい。それは、上記Y系(YBa2 Cu
3y )材料が水蒸気等によりBaCO3 やCuO等の
原料に分解し結晶粒間に析出する場合と同様に、単相で
ないと超伝導材料の真の特性を引き出せず、これらの材
料を超伝導素子に用いた場合には再現性が得られにくい
等、超伝導応用には好ましくない。又、臨界電流密度を
高くする目的で貴金属等のピニングを導入する場合に
は、結晶粒間ではなく、結晶内部に分散されており、上
記「単相」の意味するところではない。
【0011】従って本発明の目的は、水分に対して安定
であり、双晶構造の生成に関係する正方晶系から斜方晶
系への構造相転移を伴わないか、或いは構造相転移を引
き起こす熱処理を必要としない新規な金属酸化物材料を
提供することにある。又、本発明の目的は熱シールドを
比較的簡素化出来る30K以上、望ましくは50K以上
で超伝導転移を示す単相な金属酸化物材料を提供するこ
とにある。又、本発明の目的は、上記本発明の金属酸化
物材料を構成材料とする超伝導素子を提供することにあ
る。又、本発明の目的は、上記本発明の金属酸化物材料
を構成材料とする超伝導成型体を提供することにある。
【0012】
【問題点を解決する為の手段】上記の目的は以下の本発
明により達成される。即ち、本発明は、Ln、M、B
a、Ti、Cu及びO(LnはY及びLa、Pr、N
d、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb
及びLuの元素群から選ばれた1種類以上の元素又は原
子団であり、MはCa及びSrの元素群から選ばれた1
種類以上の元素又は原子団)を構成必須元素とし、Cu
とOが作る8面体又はピラミッド型5面体と、TiとO
が作る8面体の両方を同時に基本構造中に具備し、二次
元的に配列していることを特徴とする金属酸化物材料、
該材料を構成材料とすることを特徴とする超伝導素子及
び超伝導成型体である。
【0013】
【作用】以下に本発明の金属酸化物材料に関する特徴を
述べる。銅を含む酸化物超伝導体のうち、Y系123構
造(YBa2 Cu37 )では夫々結晶学的に異なる環
境にある2種類の銅の位置が存在する。一つは超伝導と
密接に関係し、且つ超伝導に大きな役割を担っている
「CuO2 面」内のCuであり、このCuO2 面は、銅
を含む酸化物超伝導体において必要不可欠な構成単位で
ある。一方、もう一つのCuの占める位置は、「Cu−
Oチェーン層」と呼ばれる一次元鎖状に銅と酸素が交互
に配列した構成単位中に存在する。このCu−Oチェー
ン層内のCuは、CuO2 面内のCuが酸素を介して2
次元ネットワークを形成しているのと対照的である。
【0014】さて、この2種類の銅の占める位置が、酸
素と共にほぼ同一面内に存在しており、一方が2次元ネ
ットワーク状に、もう一方が一次元鎖状に存在している
差異であるが、それは、夫々の層の上下に存在するY及
びBa元素により構成されるY層及びBa−O層との位
置関係により理解される。つまり、CuO2 面はY層と
Ba−O層に挾まれ、Cu−Oチェーン層はBa−O層
とBa−O層に挾まれている。ここで注意すべきこと
は、この構造において、Cu−Oチェーン層の酸素が欠
損し易いと云うことである。更に、123構造と類似材
料である124構造及び247構造と呼ばれるものが、
このCu−Oチェーン層が二重になったり、周期的に二
重になったものであると云うことである。つまり、この
Cu−Oチェーン層は、本質的に不安定性を持っている
と類推される。又、このCu−Oチェーン層の酸素の欠
損量は超伝導特性に密接な関係がある。つまり、酸素量
が、超伝導を担うキャリアの濃度と対応しているのであ
る。つまり、このCu−Oチェーン層も超伝導体として
必要な構成単位なのである。
【0015】本発明の金属酸化物材料に関して、この1
23構造と対応させて理解することは、結晶構造が大き
く異なる為に困難であるが、敢えて比較すると上述のC
u−Oチェーン層に相当して、Cuで部分的に置換され
たTiとOが作る8面体及びLnやBa或いはM(M:
Ca又はSr)等で構成される構成単位が存在し、不安
定なCu−Oチェーン層を含まないことが特徴である。
そして、本発明の材料は酸素の欠損のみをキャリアの起
源とはしておらず、Tiを価数の異なるCuで部分的に
置換し、且つLnやBa或いはM(M:Ca又はSr)
等の構成比率を変化させることによりキャリア濃度を制
御可能にした点も特徴である。つまり、必ずしもキャリ
ア量を最適化する目的で酸素濃度の高い(例えば、大気
圧中の酸素濃度以上)雰囲気中で合成、或いはアニール
等の熱処理を行う必要がなく、本発明の金属酸化物材料
に関しては、大気圧中の酸素濃度以下の雰囲気下で合成
しても優れた超伝導特性を示す。このことは超伝導素子
や超伝導成型体を作成するうえで極めて有利である。
【0016】
【好ましい実施態様】次に好ましい実施態様を挙げて本
発明を更に詳しく説明する。本発明の金属酸化物材料は
前記組成を有する限りいずれのものでもよいが、本発明
において好適な材料は、組成式がLn2-xx+y Ba
2-y Ti2-z Cu2+zd と表され、0.1≦x≦0.
4、−0.05≦y≦1.0、0.05≦z≦0.3及
び8.8≦d≦13.2であることを特徴とする30K
以上で超伝導転移を示す金属酸化物材料である。特に好
適な実施態様としては、上記組成式中のLnの平均イオ
ン半径がGdのイオン半径と同程度以上でDyのイオン
半径に比べて大きいLnにより特徴づけられる。この様
なLnはY及びLa、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、
Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuの元素群から選
ばれた1種類以上の元素を用いて構成され得る。この場
合には50K以上で超伝導転移を示す金属酸化物材料と
なる。
【0017】又、本発明において好適な材料は、組成式
がLn2-x1+x+y Ba2-y Ti2-z Cu2+zd と表
され、−0.1≦x≦0.3、−0.05≦y≦1.
0、0.05≦z≦0.3及び9.6≦d≦14.4で
あることを特徴とする30K以上で超伝導転移を示す金
属酸化物材料である。特に好適な実施態様としては、前
期組成式中のLnの平均イオン半径がGdのイオン半径
と同程度以上でDyのイオン半径に比べて大きいLnに
より特徴づけられる。この様なLnはY及びLa、P
r、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、T
m、Yb及びLuの元素群から選ばれた1種類以上の元
素を用いて構成され得る。この場合には70K以上で超
伝導転移を示す金属酸化物材料となる。
【0018】上記本発明の銅酸化物材料を作成する方法
としては、所謂セラミックス材料で一般に使われている
様な原料粉末からの加熱による反応及び焼結法がいずれ
も本発明において使用可能である。この様な方法の例
は、Material Research Bulle
tin第8巻777頁(1973年)、Solid S
tate Communication 第17巻27
頁(1995年)、Physical ReviewL
etters 第58巻第9号908頁(1987年)
等に示されており、これらの方法は現在では定性的には
極めて一般的な方法として知られている。
【0019】本発明の金属酸化物材料の製造方法におい
ても、各原料の比を本発明の金属酸化物材料を得るのに
相応の適切な混合比に混合し、これを上記一般的な加熱
による反応及び焼結法にて製造することが可能である。
又、特に本発明の金属酸化物材料を超伝導素子用の基板
として用いる場合には、原料粉末をフラックス等を用い
て高温で溶融してから単結晶成長させる方法も本発明に
おいて有用である。又、本発明の金属酸化物材料を薄膜
の電子素子やシールド材に利用する場合には、原料を含
むターゲットを用いた高周波スパッタリングやマグネト
ロンスパッタリング等のスパッタリング法、電子ビーム
蒸着法、MBE法、その他の真空蒸着法或いはクラスタ
ーイオンビーム法や原料にガスを使うCVD法又はプラ
ズマCVD法等を使って基板上若しくは超伝導薄膜上に
本発明の金属酸化物材料を薄膜状に形成することも出来
る。
【0020】以上述べた本発明の金属酸化物材料に関し
ては、熱処理等の合成条件や組成により、その超伝導転
移温度(Tc)が変化するが、最適組成では超伝導転移
温度(Tc)が100Kを超える。よって本発明の金属
酸化物材料は、超伝導体として、液体窒素温度での利用
や簡単な冷却器によって利用可能である。本発明の金属
酸化物材料を超伝導体として用いて超伝導素子を作成す
る場合において、本発明の金属酸化物材料と接合する基
板或いはバッファー層、或いはトンネルバリアー層等
は、本発明の金属酸化物材料と格子定数が近いことや、
構成元素が類似している金属酸化物材料を使用すること
が好適である。
【0021】この様な金属酸化物材料と接合することに
より、接合面での応力及び元素の拡散による特性劣化を
小さくすることが可能となる。上記本発明の金属酸化物
材料と好適に接合可能な材料としては、例えば、214
T’構造として知られるLn2 CuO4 (LnはPr、
Nd、Sm、Eu及びGdの元素群から選ばれた1種類
以上の元素又は原子団)がある。本発明の金属酸化物材
料の一例としてGd2 CaBa2 Ti1.8 Cu2.212
を用い、接合する金属酸化物材料としてGd2 CuO4
を用いた場合には、前者が正方晶系で格子定数(a)が
3.890オングストロームであるのに対し、後者は正
方晶系で格子定数(a)が3.889オングストローム
と極めて良い一致を示し、又、構成元素も共通する元素
が多く、良好な接合が得られる。尚、Gd2 CuO4
格子定数の値はJCPDS−Inorganic Ph
asesカードナンバー240422から引用した。
又、本発明の金属酸化物材料に類似するJ.Mate
r.Chem.,1993,3,771〜772に開示
されているGd2 Ba2 Ti2 Cu211の組成の材料
も本発明の金属酸化物材料に接合する材料として使用可
能である。本発明の金属酸化物材料を超伝導体として用
いて超伝導成型体を作成する場合において、成型体の密
度を増し、臨界電流密度を高める目的で広く行われてい
る部分溶融処理を適用することが出来る。
【0022】
【実施例】次に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に
具体的に説明する。 実施例1〜17及び比較例1〜12 原料としてY23 、La23 、Pr611、Nd2
3 、Sm23 、Eu23 、Gd23 、Dy2
3 、Ho23 、Er23 、Tm23 、Yb2
3 、Lu23 、CaCO3 、SrCO3 、BaCO
3 、TiO2 及びCuOを用い、これらを適切な組成比
になる様に秤量して乾式混合した。これらの混合物を夫
々φ10mm及び厚み1mmのペレット状に加圧成型
し、該形成物を夫々アルミナボートの上で950〜13
00℃で大気中若くは酸素濃度が0.1%以上になる様
な酸素と窒素の混合ガス雰囲気中で反応及び焼結させ、
本発明及び比較例の金属酸化物を調製した。尚、アニー
ル処理は施していない。これらのサンプルに関して室温
から液体ヘリウム温度の範囲で、四端子測定法による電
気抵抗率測定及びSQUIDによる磁化率測定を行っ
た。更に、X線回折測定及びEPMAによる平均的な組
成評価を行った。ここでEPMAの性能上酸素量に関し
ては2割程度の誤差が含まれる。
【0023】表1に実施例の組成式及びその超伝導転移
温度(Tc)を、表2に比較例の組成式又は仕込み組成
と、電気抵抗特性及びX線回折回析の結果を示す。以下
の表1から明らかである様に、本発明の金属酸化物材料
は全て、Tc=50K以上の温度で超伝導体となること
がわかる。尚、本実施例のLnの平均イオン半径は全
て、Gdのイオン半径と同程度以上でDyのイオン半径
に比べて大きいが、その他の本発明の組成比を満足する
金属酸化物材料についても同様に測定を行った結果、T
c=30K以上の超伝導体であった。又、本実施例の全
ての試料が、X線回折測定により単一の構造、即ち単相
であることが確認されている。
【0024】これらのことを示す一例として、図1に実
施例1の磁化率の温度変化のグラフを示し、図2に実施
例1のX線回折パターンと比較例1のX線回折パターン
を示す。図1より超伝導転移によるマイスナー効果を示
す反磁性磁化が約74K以下の温度で観測され、実施例
1がTc=74Kの超伝導体であることがわかる。尚、
磁化率の値は5Kにおける値で規格化している。
【0025】図2より、実施例1の材料が単相であるこ
とがわかる。尚、比較例1の材料はJ.Mater.C
hem.,1993,3,771〜772に開示されて
いるGd2 Ba2 Ti2 Cu211の組成と同一組成の
原料を用いて、本実施例と同様にして合成したものであ
り、上記文献に示される結晶構造と同じ結晶構造を有し
且つ単相である。尚、実施例1と比較例1とは、X線回
折パターンからは区別が困難な程類似するが、電気伝導
特性等の物性はLnとM或いはTiとCuの価数が夫々
異なる為に、大きな差がある。この差には、M元素の存
在及びTiのCuによる部分的置換に伴う局所的な構成
元素位置の変化が反映されているものと考えられる。こ
のことは表1と表2より理解され得る。
【0026】表1と表2を比較すると、本発明の金属酸
化物材料に関して、Tiの一部をCuで部分的に置換
し、且つ同時にLnやBa(LnはY及びLa、Pr、
Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Y
b及びLuの元素群から選ばれた1種類以上の元素又は
原子団)の一部をM(MはCa及びSrの元素群から選
ばれた1種類以上の元素又は原子団)で置換し、且つ各
々の置換量を適切にすることにより超伝導特性が発現す
ることがわかる。尚、Baに関しては、逆にM又はLn
を置換する場合もある。上記置換は一方のみを行って
も、単相な組成物を形成することが出来ないか、或いは
超伝導転移を示さない。即ち、上記置換が、本発明を特
徴付ける点であることがわかる。
【0026】即ち、本発明の金属酸化物材料のうち、組
成式がLn2-xx+y Ba2-y Ti2-z Cu2+zd
表され、0.1≦x≦0.4、−0.05≦y≦1.
0、0.05≦z≦0.3及び8.8≦d≦13.2で
あることを特徴とする金属酸化物材料は、30K以上で
超伝導転移を示す超伝導体である。尚、上記本発明の金
属酸化物材料の結晶構造は、CuとOが作る8面体又は
ピラミッド型5面体と、TiとOが作る8面体の両方を
同時に基本構造中に具備し、二次元的に配列しているこ
とを特徴としている。
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】
【0029】次に別の実施例及び比較例を挙げて本発明
を更に具体的に説明する。 実施例18〜34及び比較例13〜18 原料としてY23 、La23 、Pr611、Nd2
3 、Sm23 、Eu23 、Gd23 、Dy2
3 、Ho23 、Er23 、Tm23 、Yb2
3 、Lu23 、CaCO3 、SrCO3 、BaCO
3 、TiO2 及びCuOを用い、これらを適切な組成比
になる様に秤量して乾式混合した。これらの混合物を夫
々φ10mm及び厚み1mmのペレット状に加圧成型
し、該形成物を夫々アルミナボートの上で950〜13
00℃で大気中若くは酸素濃度が0.1%以上になる様
な酸素と窒素の混合ガス雰囲気中で反応及び焼結させ、
本発明及び比較例の金属酸化物を調製した。尚、アニー
ル処理は施していない。
【0030】これらのサンプルに関して室温から液体ヘ
リウム温度の範囲で、四端子測定法による電気抵抗率測
定及びSQUIDによる磁化率測定を行った。更に、X
線回折測定及びEPMAによる平均的な組成評価を行っ
た。ここでEPMAの性能上酸素量に関しては2割程度
の誤差が含まれる。又、本実施例に関してはTEMによ
る観察も行った。表3に実施例の組成式及びその超伝導
転移温度(Tc)を、表4に比較例の組成式又は仕込み
組成と、電気抵抗特性及びX線回折解析の結果を示す。
【0031】以下の表3から明らかである様に、本発明
の金属酸化物材料は全て、Tc=70K以上の温度で超
伝導体となることがわかる。又、本実施例の全ての試料
が、X線回折測定により単一の構造、即ち単相であるこ
とが確認されている。これらのことを示す一例として、
図3に実施例18の電気抵抗率の温度変化のグラフを示
し、図4に実施例18のX線回折パターンを示す。尚、
図3では280Kでの電気抵抗率の値で規格化してい
る。図3より、本発明の金属酸化物材料がTc=80K
の超伝導体であることがわかる。
【0032】図4より、本発明の金属酸化物材料が、新
既な構造を有し、単相であることがわかる。尚、本実施
例の材料の構造が新規構造を有していることをより明ら
かにする為に、図5に実施例18のTEMによる観察像
を示す。図5の観察面はac面である。又、図の上部右
側には、長方形に白く抜かれた図形を示したが、これは
結晶の単位構造をTEMによる観察像と対応させて示し
たものである。又、陽イオンのLn、M、Ba、Ti及
びCuは写真中の黒い部位に相当する。この図5と図4
より、本発明の金属酸化物材料が格子定数a=3.88
9オングストローム、c=35.46オングストローム
の正方晶系に属する結晶構造を有する新規構造であるこ
とがわかる。
【0033】表3と表4を比較すると、本発明の金属酸
化物材料に関して、Tiの一部をCuで部分的に置換
し、その置換量を適切にすることにより超伝導特性が発
現することがわかる。尚、本実施例の新規構造を有する
金属酸化物材料は、実施例1〜17に示される材料と比
較すると、構造を安定に保つ為には本質的にM元素の位
置が必要であり、このM元素と酸素で構成される二次元
層状構造単位が、c軸方向に新たに挿入されていること
を特徴としている。このM元素の位置にはLn元素又は
Ba元素が部分的に置換可能であり、逆に、Ln元素又
はBa元素の位置にはM元素が置換可能である。尚、M
元素の組成比は、前記特許請求の範囲の請求項3に記載
される範囲に限定され、この範囲内で単相になり、30
K以上の超伝導転移温度を有する超伝導体となる。即
ち、上記置換と、M元素と酸素で構成される二次元層状
構造単位をc軸方向に新たに挿入することにより新規構
造を構成し、30K以上の超伝導転移温度を有する超伝
導体とすることは、本発明を特徴付けるものであること
がわかる。
【0034】
【表3】
【0035】
【表4】
【0036】次に別の実施例及び比較例を挙げて本発明
を更に具体的に説明する。 実施例35及び比較例19 本発明の金属酸化物材料である実施例18のGd2 Ca
Ba2 Ti1.8 Cu2.212と、Y系(YBa2 Cu3
7 )超伝導体を用いて耐水性の試験を行った。試験方
法は、上記の夫々を40℃の飽和水蒸気圧下に40時間
放置し、X線回折測定により構造の変化の有無を調べ
た。Gd2 CaBa2 Ti1.8 Cu2.212についての
結果を実施例35、Y系(YBa2 Cu37 )超伝導
体についての結果を比較例19として、実施例35を図
6に、比較例19を図7に示す。
【0037】図6より、本発明の金属酸化物材料が本耐
水性試験により殆ど変化していないことがわかる。一
方、図7より比較例19のY系(YBa2 Cu37
超伝導体がBaCO3 やCuOに分解してしまい、YB
2 Cu37 のピークが殆ど消失してしまっているこ
とがわかる。尚、比較例19では試験後絶縁体に変化し
てしまうが、実施例35においては試験前後で超伝導臨
界温度は80Kと変化しないことを確認している。
【0038】以上の結果より、本発明の金属酸化物材料
が耐水性に優れた安定な材料であることがわかる。又、
実施例35以外にも、本発明の金属酸化物材料は耐水性
に優れていることを確認している。尚、本実施例におい
て飽和水蒸気を試験環境としたが、水に対しても、同様
に耐水性を示すことがわかっている。
【0039】次に別の実施例を挙げて本発明を更に具体
的に説明する。 実施例36 本発明の金属酸化物材料であるGd2 CaBa2 Ti
1.8 Cu2.212を第一及び第二の超伝導層として用
い、絶縁体であり既知の材料であるGd2 CuO4をバ
リア層として用いた。図8に本実施例の積層型ジョセフ
ソン素子の概略図を示す。図中1はSrTiO3 基板、
2は第一の超伝導層、3はバリア層、4は第二の超伝導
層である。先ず、マグネトロンスパッタ法で第一の超伝
導層2を4000オングストローム、バリア層3を25
オングストローム、第2の超伝導層4を3000オング
ストローム形成した。この様にして作成した第一の超伝
導層2/バリア層3/第2の超伝導層4の積層薄膜に対
して、通常のフォトリソグラフィー技術を用いて加工を
行い、図8に示す様な積層型ジョセフソン素子を作成し
た。
【0040】この様にして作成した素子は、50Kで図
9に示す様な電流−電圧特性を示し、ジョセフソン素子
として良好に動作した。このことからわかる様に、本発
明の金属酸化物材料は超伝導素子として利用可能であ
る。尚、上記Gd2 CaBa2 Ti1.8 Cu2.212
格子定数(a)は3.890オングストローム、Gd2
CuO4 の格子定数(a)は3.889オングストロー
ムであり、両者は殆ど等しく、又、構成元素も共通する
元素が多く、これらのことが良好な接合を得られる一つ
の要因になっているものと考えられる。このことは、本
発明の金属酸化物材料と接合する材料として、非超伝導
体であるGd2 Ba2 Ti2 Cu211を利用しても良
好な素子を作成可能であることからも理解される。上述
の組み合わせは一例であり、本発明の他の金属酸化物材
料を超伝導体として利用し、接合する材料を適切に選択
することにより、同様の結果が得られた。
【0041】次に別の実施例を挙げて発明を更に具体的
に説明する。 実施例37 本発明の金属酸化物材料であるGd2 CaBa2 Ti
1.8 Cu2.212を部分溶融法を用いてペレット状に成
形して、シールド特性を評価した。評価方法は、図10
に示す装置で行った。励起コイル5に交流電流を通電し
て交流磁場を発生させ、励起コイル5とピックアップコ
イル7との間に、本発明の金属酸化物材料の一例である
ペレット状に成形したGd2 CaBa2 Ti1.8 Cu
2.212を挿入して、ピックアップコイル7により検出
される交流電流の値を調べ、これによりシールド特性を
評価した。ピックアップコイル7により検出される交流
電流の値を、励起コイル5に通電する交流電流の値と比
較して信号減衰率(dB)として表わし、温度変化の様
子を示したのが図11である。尚、励起コイル5に通電
する交流電流の周波数は300Hzである。
【0042】図11より、本発明の超伝導成形体が超伝
導転移温度以下で信号を減衰し、シールド特性を示すこ
とがわかる。図11で、本発明の超伝導成形体が50K
において約−10dBの信号減衰率を示し、シールド体
として50Kで利用可能であることがわかる。尚、金属
であるCuをシールド体として用いても同一条件で測定
すると約−5dBの信号減衰率しか得られず、本発明の
超伝導成形体を用いた場合に比べて、シールド特性が悪
かった。尚、本発明の他の金属酸化物材料を用いること
によっても、同様の結果が得られた。
【0043】
【効果】以上説明した様に、本発明により以下の効果が
得られる。 (1)新規な組成比を有する金属酸化物材料が得られ
た。この材料は30K以上の温度で超伝導転移を示し、
故に、簡単な冷却機等により超伝導体として利用可能で
ある。 (2)本発明により耐水性に優れた金属酸化物材料が提
供可能となった。 (3)本発明により酸素濃度が必ずしも高い雰囲気下で
の合成を必要とせず、又、構造相転移を引き起こすアニ
ール処理を必要としない超伝導体として利用可能な金属
酸化物材料が提供可能となった。 (4)本発明により優れた特性を有するジョセフソン素
子等の超伝導素子が提供可能となった。 (5)本発明により優れたシールド特性を有する超伝導
成形体が提供可能となった。
【0044】
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1のLaY0.8 Sr0.2 Ba2 Ti1.8
Cu2.211の磁化率の温度依存性を示すグラフであ
る。
【図2】実施例1のLaY0.8 Sr0.2 Ba2 Ti1.8
Cu2.211のX線回折パターンと比較例1のGd2
2 Ti2 Cu211のX線回折パターンであり、この
ときのX線源はCuKα線である。
【図3】実施例18のGd2 CaBa2 Ti1.8 Cu
2.212の電気抵抗率の温度依存性を示すグラフであ
る。
【図4】実施例18のGd2 CaBa2 Ti1.8 Cu
2.212のX線回折パターンであり、このときのX線源
はCuKα線である。
【図5】実施例18のGd2 CaBa2 Ti1.8 Cu
2.212の結晶構造のTEMによる観察像及び単位構造
の大きさを示すものである。観察面はac面である。
【0045】
【図6】実施例35のGd2 CaBa2 Ti1.8 Cu
2.212の耐水試験前後のX線回折パターンであり、こ
のときのX線源はCuKα線である。
【図7】比較例19のY系(YBa2 Cu37 )超伝
導体の耐水試験前後のX線回折パターンであり、このと
きのX線源はCuKα線である。
【図8】実施例36の本発明の超伝導素子の一例を示す
積層型ジョセフソン素子を示す概略図である。
【図9】実施例36の本発明の超伝導素子の一例を示す
積層型ジョセフソン素子の電流−電圧特性の一例であ
る。
【図10】実施例37の本発明の超伝導成形体のシール
ド特性を評価する装置を示す概略図である。
【図11】実施例37の信号減衰率の温度依存性を示す
グラフである。
【0046】
【符号の説明】
1:基板 2:第一の超伝導層 3:バリア層 4:第二の超伝導層 5:励起コイル 6:本発明の金属酸化物材料 7:ピックアップコイル
フロントページの続き (72)発明者 金子 典夫 東京都大田区下丸子3丁目30番2号 キ ヤノン株式会社内 (56)参考文献 特開 平2−277275(JP,A) 特開 平2−98638(JP,A) 特開 平1−131049(JP,A) 特開 昭64−69557(JP,A) 特開 平3−109250(JP,A) 特開 昭64−65806(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C01G 1/00 CA(STN) REGISTRY(STN)

Claims (5)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 Ln、M、Ba、Ti、Cu及びO(L
    nはY及びLa、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、D
    y、Ho、Er、Tm、Yb及びLuの元素群から選ば
    れた1種類以上の元素又は原子団であり、MはCa及び
    Srの元素群から選ばれた1種類以上の元素又は原子
    団)を構成必須元素とし、CuとOが作る8面体又はピ
    ラミッド型5面体と、TiとOが作る8面体の両方を同
    時に基本構造中に具備し、二次元的に配列していること
    を特徴とする金属酸化物材料。
  2. 【請求項2】 組成式がLn2-xx+y Ba2-y Ti
    2-z Cu2+zd で表される金属酸化物材料において、
    0.1≦x≦0.4、−0.05≦y≦1.0、0.0
    5≦z≦0.3及び8.8≦d≦13.2であることを
    特徴とする30K以上で超伝導転移を示す請求項1に記
    載の金属酸化物材料。
  3. 【請求項3】 組成式がLn2-x1+x+y Ba2-y Ti
    2-z Cu2+zd で表される金属酸化物材料において、
    −0.1≦x≦0.3、−0.05≦y≦1.0、0.
    05≦z≦0.3及び9.6≦d≦14.4であること
    を特徴とする30K以上で超伝導転移を示す請求項1に
    記載の金属酸化物材料。
  4. 【請求項4】 請求項1〜3に記載の金属酸化物材料を
    構成材料とすることを特徴とする超伝導素子。
  5. 【請求項5】 請求項1〜3に記載の金属酸化物材料を
    構成材料とすることを特徴とする超伝導成型体。
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