JP3156525B2 - 十字溶接継手特性に優れた溶接構造用鋼板の製造方法 - Google Patents

十字溶接継手特性に優れた溶接構造用鋼板の製造方法

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JP3156525B2
JP3156525B2 JP24188694A JP24188694A JP3156525B2 JP 3156525 B2 JP3156525 B2 JP 3156525B2 JP 24188694 A JP24188694 A JP 24188694A JP 24188694 A JP24188694 A JP 24188694A JP 3156525 B2 JP3156525 B2 JP 3156525B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、鋼構造物の十字溶接継
手の貫通板等のように、溶接による板厚方向の引張応力
や拡散性水素による応力が作用する部位に用いても、板
厚中央部に割れなどの欠陥が発生しない60キロ級鋼板
の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】鋼構造物に使用される鋼は、大量に使用
されるので安価であると同時に、仮付け溶接のような小
入熱溶接時の低温割れ防止や溶接時の予熱作業低減が可
能である、所謂良好な溶接性を有することが求められて
いる。これらの要望を満たすため、少ない合金含有量で
強度や靱性等を確保することができる制御圧延や加速冷
却が開発され、圧延条件や冷却条件の組み合わせに基づ
く多様な技術が実用化されている。
【0003】上記技術の内の1つである2相域圧延法、
即ち、制御圧延において圧延温度をAr3 点以下まで低
下させ、強度を向上させる方法(例えば、特開平4−3
58019号公報など)は、靱性よりも強度を重視した
鋼材の製造方法であり、この方法により60キロ級鋼板
などが製造されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】鋼構造物には十字溶接
継手が多く使われている。図1は、実構造物における十
字溶接継手の貫通板に発生した割れを説明する概略縦断
面図である。同図において、1は貫通板、2は割れ、3
は拘束板、そして4は溶接金属(多層溶接)である。同
図に示すように、実構造物においては、貫通板1の板厚
中央に、板表面に平行な大きな割れ2が発生する場合が
あることは従来から知られている。ところが、最近で
は、強度60キロ級の2相域圧延鋼材で、このような板
表面に平行な割れが発生するのを防止するための対策と
して、S含有量が0.002 wt.% 、板厚方向引張試験
(以下、Z方向引張試験という)の絞り値が70%超と
いう、WES3008のZ35級の鋼材が有効であると
されている。しかしながら、WES3008のZ35級
鋼材においても、十字溶接継手の貫通板に上記割れが発
生している実態が明らかとなり、大きな問題となってい
る。一方、最近、鋼構造物の大型化に伴い、60キロ級
鋼の適用が増加している。
【0005】従って、本発明の目的は、上記問題点を解
決し、鋼構造物の十字溶接継手の貫通板に使用しても、
その板厚中央部に割れが発生しないような60キロ級の
溶接構造用鋼板の製造方法を提供することにあり、本発
明者らは、大型鋼構造物の十字溶接継手の貫通板に適用
することができる60キロ級鋼を開発するため、その製
造条件を2相域材を中心に種々検討した。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、先ず、実
構造物の十字溶接継手において、前記図1のような割れ
が発生した母材鋼板から、従来採用されている小型窓型
試験片を採取して試験したが、割れは発生しなかった。
母材は、WES3008Z35級の2相域圧延鋼板であ
り、小型窓型試験片は、例えば「溶接学会誌」第5巻第
3号p.239に記載されているものである。上記試験
片は、実構造物に比べ小型のため、連続鋳造に起因する
成分偏析帯が存在する板厚中央まで、大きな応力が作用
しなかったため、割れが発生しなかったものと考えられ
る。
【0007】そこで、先ず、実構造物における割れと同
じような、板厚中央の割れを再現するために、各種試験
法を試行し、次の試験方法を考案した。図2、3および
4は、本発明の試験で採用した切欠き付き窓型試験体の
平面図、正面図および側面図であり、図5は、図2のA
−A断面の詳細図である。これらの図において、1aは
差し込み試験板であって、実構造物における貫通板に相
当する鋼板である。3は拘束板、4は溶接金属(多層溶
接)、そして5は切欠きであって、形状は2mmVノッ
チである。図5に示すように、差し込み試験板1aの一
方の端面の板厚中心に切欠き5を設け、切欠き5を設け
た端面の突き出しが無いように差し込み試験板1aを拘
束板3に差し込み、両板を溶接した。
【0008】その溶接条件は、次の通りである。 溶接方法:CO2 多層溶接、 溶材 :60キロ級フラックスコア−ドワイヤ、1.
6mmφ、 条件 :1層目 150A−26V−18cm/mi
n、2層目 200A−29V−18cm/min、予
熱なしで、パス間温度は100°C、 溶接パススケジュ−ル:計38パス、 溶接順:図6に示すように、の部分について、1→2
→3→───→8の順番で溶接した後、→→の順
番で、同様に溶接する。
【0009】図2〜5で説明した切欠付き窓型試験体を
用い、上記溶接条件で試験を行なったところ、実構造物
の十字溶接継手に発生する割れと類似した割れが、差し
込み試験板に発生することを確認した。以下、この方法
を、切欠き付き窓型十字試験法と呼ぶ。
【0010】図7は、切欠き付き窓型十字試験法で発生
した割れの状態を示す溶接試験体の概略縦断面模式図で
あり、図2中のA−A断面図に相当するものである。割
れ2は、切欠き底の近傍から発生し、板厚中央部を脆性
的に伝播している。走査型電子顕微鏡(以下、SEMと
いう)で割れの起点部を観察すると、そこにはMnS介
在物が存在し、その周辺近傍は、水素性の擬へき開破面
を呈し、実構造物での割れが再現されていた。
【0011】上記試験結果より、切欠き付き窓型十字試
験法は、実構造物の十字溶接継手の割れを良く再現して
いることがわかる。
【0012】そこで、各種製造方法による鋼板を、切欠
き付き窓型十字試験法で評価した結果、割れの発生防止
には、下記3つの対策をとらなければならないことがわ
かった。 連続鋳造の工程において、軽圧下を行ない、中央偏析
を軽減すること、 Caを添加し、硫化物系介在物を球状化すること、お
よび、 圧延条件を制御し、(001)<110>集合組織を
軽減すること。 十字溶接部の割れの発生を防止し得る60キロ級鋼板の
製造方法について、具体的に示すと下記の通りである。
【0013】本発明による十字溶接継手特性に優れた
接構造用鋼板の製造方法の第1の発明は、 炭素(C) :0.06〜0.09 wt.% 、 珪素(Si) :0.5 wt.%以下、 マンガン(Mn) :1.0〜1.7 wt.% 、 燐(P) :0.02 wt.% 以下、 硫黄(S) :0.002 wt.% 以下、 カルシウム(Ca) :Ca/Sとして、0.5〜2.0、 ボロン(B) :0.0002 wt.% 以下、および、 可溶性アルミニウム(sol.Al):0.005〜0.060 wt.% 、 を含有し、更に、 ニオブ(Nb) :0.005〜0.04 wt.% 、 バナジウム(V) :0.02〜0.1 wt.% 、および、 チタン(Ti) :0.005〜0.10 wt.% 、 の析出硬化元素群の内より少なくとも1種を含有し、且
つ、下記(1)式: PCM=C+Mn/20+Si/30+Cu/20+Ni/60 +Cr/20+Mo/15+V/10+5B・・・(1) によって表わされるPCMが0.20 wt.% 以下を
満たし、残部が実質的に鉄(Fe)よりなる低炭素低合
金鋼の軽圧下連続鋳造スラブを調製し、前記スラブを1
050°C以上の温度に加熱し熱間圧延し、前記熱間圧
延において、Ar3 変態点以下の温度で累積圧下率3
0〜70%の範囲内の圧下を施し、650°C以上の温
度で前記熱間圧延を終了することに特徴を有するもので
ある。また、第2の発明は、前記低炭素低合金鋼は、 銅(Cu) :0.5 wt.%以下、 ニッケル(Ni) :0.5 wt.%以下、 クロム(Cr) :0.5 wt.%以下、および、 モリブデン(Mo) :0.3 wt.%以下、 の内より少なくとも1種を更に含有することに特徴を有
するものである。
【0014】本発明による十字溶接継手特性に優れた
接構造用鋼板の製造方法の第3の発明は、 炭素(C) :0.06〜0.09 wt.% 、 珪素(Si) :0.5 wt.% 以下、 マンガン(Mn) :1.0〜1.7 wt.% 、 燐(P) :0.02 wt.% 以下、 硫黄(S) :0.002 wt.% 以下、 カルシウム(Ca) :Ca/Sとして、0.5〜2.0、 ボロン(B) :0.0002 wt.% 以下、および、 可溶性アルミニウム(sol.Al):0.005〜0.060 wt.% 、 を含有し、更に、 ニオブ(Nb) :0.005〜0.04 wt.% 、 バナジウム(V) :0.02〜0.1 wt.% 、および、 チタン(Ti) :0.005〜0.10 wt.% 、 の析出硬化元素群の内より少なくとも1種を含有し、且
つ、下記(1)式: PCM=C+Mn/20+Si/30+Cu/20+Ni/60 +Cr/20+Mo/15+V/10+5B・・・(1) によって表わされるPCMが0.20 wt.% 以下を
満たし、残部が実質的に鉄(Fe)よりなる低炭素低合
金鋼の軽圧下連続鋳造スラブを調製し、前記スラブを1
050°C以上の温度に加熱し熱間圧延をし、前記熱間
圧延において、Ar3 変態点以上の温度で圧延を終了
し、前記圧延終了の直後から冷却速度3°C/S以上で
水冷し、400〜600°Cの範囲内の温度で前記水冷
を停止し、その後放冷することに特徴を有するものであ
る。また、第4の発明は、前記低炭素低合金鋼は、 銅(Cu) :0.5 wt.%以下、 ニッケル(Ni) :0.5 wt.%以下、 クロム(Cr) :0.5 wt.%以下、および、 モリブデン(Mo) :0.3 wt.%以下、 の内より少なくとも1種を更に含有することに特徴を有
するものである。
【0015】
【作用】以下、本発明を上述したように限定した理由に
ついて説明する。本発明者らは、表1および表2に示す
NO.A1〜A10の化学成分組成および製造条件を有す
る厚さ18mmの鋼板を調製した。化学成分組成は、C
a添加の有無およびS含有量(0.002wt.%および
0.0007wt.%の2水準がある)を除き、全鋼板につ
きほぼ同一である。なお、2相域温度は、Ar3 変態点
以下の温度に含まれ、また、オ−ステナイト(γ)域と
Ar3 変態点以上の温度とは同一内容を意味するもので
ある。
【0016】
【表1】
【0017】
【表2】
【0018】鋼板の製造条件について、同表を補足説明
する。以下、本明細書においては、例えば、鋼板NO.A
1を単に、A1で表記する。 A1:軽圧下連続鋳造スラブに、2相域で累積圧下率3
0%の圧延を施し、670°Cで圧延を終了した。 A2:軽圧下連続鋳造スラブを、オ−ステナイト(γ)
域で圧延し、670°Cで圧延を終了した。 A3:軽圧下連続鋳造スラブを、オ−ステナイト(γ)
域で圧延し、加速冷却した。 A4:Caを添加した軽圧下連続鋳造スラブに、2相域
で累積圧下率30%の圧延を施し、690°Cで圧延を
終了した。 A5:Caを添加した軽圧下連続鋳造スラブに、2相域
で累積圧下率70%の圧延を施し、670°Cで圧延を
終了した。 A6:Caを添加した軽圧下連続鋳造スラブに、2相域
で累積圧下率80%の圧延を施し、640°Cで圧延を
終了した。 A7:Caを添加したが、軽圧下を施していない連続鋳
造スラブに、2相域で累積圧下率70%の圧延を施し、
670°Cで圧延を終了した。 A8:Caを添加した軽圧下連続鋳造スラブを、γ域で
圧延し、加速冷却した。 A9:Caを添加したが、軽圧下を施していない連続鋳
造スラブを、γ域で圧延し、加速冷却した。 A10:S含有量を0.0007wt.%まで極低硫化した
軽圧下連続鋳造スラブに、2相域で累積圧下率70%の
圧延を施し、670°Cで圧延を終了した。
【0019】上記において、 ・スラブに軽圧下を施した鋼板は、板厚中央の成分偏析
の軽減を狙ったものであり、 ・通常の熱間圧延を施したもの(A2)は、上述した割
れ発生メカニズムの観点から、(001)<110>集
合組織の緩和およびMnS介在物の伸長化の軽減を狙っ
たものであり、 ・γ域で圧延を終了後、加速冷却を施した鋼板(A3)
は、(001)<110>集合組織の緩和およびMnS
介在物の伸長化の軽減、並びに強度の向上を狙ったもの
であり、 ・Caを添加したA4〜A9の鋼板は、MnS介在物の
球状化を狙ったものであり、 ・極低硫化を図ったA10の鋼板は、MnS含有量の低
減をねらったものである。
【0020】表3は、表1および2に示した各鋼板に対
し、通常の引張試験、Z方向引張試験および切欠き付き
窓型十字試験を実施した試験結果を示すものである。
【0021】
【表3】
【0022】同表から、下記事項がわかる。通常圧延鋼
板(NO.A2)を除く鋼板では、60キロ級鋼板として
必要な強度(TS≧570MPa)を満足している。ま
た、Z方向引張の絞り値は、全ての鋼板で70%以上
と、WES3008のZ35級を十分満足している。し
かし、切欠き付き窓型十字試験における割れ発生の有無
は、鋼板の製造方法によって異なる。
【0023】上記割れを防止するためには、Caを添加
し、軽圧下鋳造を施し、2相域圧延条件の制御またはγ
域からの加速冷却の実施が必要である。即ち、割れ発生
を防止するためには、鋼にCaを添加してMnS介在物
の球状化を図り、連続鋳造において軽圧下を施して中央
偏析の軽減を図り、更に、適正な圧延条件に制御して
(001)<110>集合組織の緩和を図る、という3
つの対策を全て講じる必要があることが判った。
【0024】次に、本願発明の化学成分組成の限定理由
について説明する。 (1)C:Cは、鋼材の強度を確保するために必要な元
素である。C含有量が0.06wt.%未満では、TS>5
70MPaを満足するために多量の合金元素の添加が必
要となり、コスト高を招く。一方、0.09wt.%超で
は、仮付け溶接性が劣化する。従って、C含有量は、
0.06〜0.09wt.%の範囲内に限定した。
【0025】(2)Si:Siは、鋼材の強度、溶鋼の
予備脱酸などに必要な元素であるが、その含有量が0.
5wt.%を超えると、鋼材の靱性、溶接HAZの靱性を劣
化させる。従って、Siの含有量は、0.5wt.%以下に
限定した。
【0026】(3)Mn:Mnは、母材の強度を確保す
るために必要な元素である。TS>570MPaを確保
するためには、その含有量は、1.0wt.%以上を必要と
する。一方、Mnは中央偏析し易い元素であるため、
1.7wt.%超添加すると、板厚中央が著しく硬化し、十
字溶接部の割れ発生を助長する。従って、Mn含有量
は、1.0〜1.7wt.%の範囲内に限定した。
【0027】(4)P:Pは、本発明鋼材中には不要の
元素であり、その含有量は低いほど望ましい。また、非
常に中央偏析し易い元素であり、その含有量が0.02
wt.%を超えると、板厚中央が著しく硬化し、十字溶接部
の割れ発生を助長する。従って、P含有量は、0.02
wt.%以下に限定する必要がある。
【0028】(5)S:Sは、固体の鋼中では、硫化物
として存在する。Caを適量添加すると、CaSとして
存在する。CaSは、圧延により伸長せず、鋼板中に球
状の介在物(C系介在物)として存在する。しかしなが
ら、S含有量が0.002wt.%を超えると、前記球状の
介在物が圧延方向に列状に連なり、所謂クラスタ−(B
系介在物)を形成し易くなる。B系介在物は、十字溶接
部の割れの起点となり得る。従って、S含有量は0.0
02 wt.% 以下に限定した。
【0029】(6)Ca:十字溶接部の割れの起点とな
る伸長した硫化物(MnS)介在物を球状化するために
添加する。硫化物介在物の球状化を図るには、鋼材の化
学成分組成において、Ca含有量がS含有量の0.5倍
以上となるように、Caを添加することが必要である。
一方、鋼材の化学成分組成において、Ca含有量がS含
有量の2倍を超えるCaを添加すると、CaSが列状に
連なり、所謂クラスタ−(B系介在物)を形成し易くな
る。従って、Ca含有量を、Ca(wt.%)/S(wt.%)(こ
の明細書中においては、Ca/Sと記す)が0.5〜2
の範囲内となるように限定した。
【0030】(7)Al:Alは、脱酸に必要な元素で
ある。sol.Al含有量が0.005wt.%以下では十分な
脱酸効果がない。一方、その含有量が0.06wt.%超で
は、鋼の清浄化を劣化させ、CaSと複合し、Al−C
a硫酸化物のクラスタ−(B系介在物)を形成し、十字
溶接部の割れの起点となり得る。従って、sol.Al含有
量は、0.005〜0.06wt.%の範囲内に限定した。
【0031】(8)B:Bは、本鋼材中には、不要な元
素である。Bは微量混入しても仮付溶接性を著しく劣化
させるので、B含有量は、0.0002wt.%以下に限定
した。
【0032】(9)Nb、VおよびTi:Nb、Vおよ
びTiは、微量の添加により炭窒化物を析出させ、大き
な強度上昇を図ることができる元素であり、合金元素含
有量の低い鋼で60キロ級の強度を確保する上で必要な
元素である。しかしながら、その含有量が微量過ぎては
その効果が明瞭でなく、一方、過度に含有されていては
HAZ靱性を著しく劣化させる。従って、上記観点か
ら、Nb含有量は、0.005〜0.04wt.%、V含有
量は、0.02〜0.1wt.%、そしてTi含有量は、
0.005〜0.1wt.%の各範囲内に限定した。
【0033】(10)Cu、Ni、CrおよびMo:C
u、Ni、CrおよびMoは、焼入れ性を増すことによ
り、強度上昇を図ることができる元素であり、60キロ
級の強度を確保するために有用な元素である。しかしな
がら、これらの元素を過度に添加すると、中央偏析部の
硬さを著しく上昇させ、十字溶接部の割れの発生を助長
する。上記観点から、Cu、NiおよびCrの含有量は
いずれも0.5wt.%以下(無添加の場合を含む)に、そ
してMo含有量は0.3wt.%以下(無添加の場合を含
む)に限定した。
【0034】(11)PCM:下記(1)式で表わされる
CM値は、仮付溶接性の指標である。 PCM=C+Mn/20+Si/30+Cu/20+Ni/60 +Cr/20+Mo/15+V/10+5B ────(1) PCM値が0.20wt.%を超えると、仮付溶接時の予熱な
しに溶接すると、ル−ト割れが発生するする危険性があ
る。従って、PCM値は、0.20 wt.% に限定した。な
お、PCM値は0.18wt.%以下であることが望ましい。
【0035】鋼板を熱間圧延する鋼片を、連続鋳造スラ
ブに限定した理由は、生産性およびコストの観点から有
利であるからである。更に、連続鋳造過程で軽圧下を施
すことが、本発明の特徴の1つである。凝固末期にスラ
ブに数%の圧下を施すことにより、合金元素が濃化した
溶鋼が、スラブのクレ−タ内でマクロ的に対流する現象
が抑制されて、スラブの厚さ中央部のC、Mn、Pおよ
びS等の合金元素の濃化が軽減する。所謂中央偏析軽減
効果がある。Caを添加した場合でも、軽圧下鋳造をし
ないため、Sの中央偏析が著しいと、巨大なCaS介在
物やクラスタ−状のCaS介在物が形成し易い。このよ
うな鋼板では、切欠き付き窓型十字試験において割れが
発生している(表3中、A7およびA9参照)。
【0036】次に、鋼板の圧延および冷却条件の限定理
由について説明する。鋼板の強度を確保するために、圧
延前にスラブ中の炭・窒化物を十分に固溶させることが
重要となる。そのため、圧延加熱温度を1050°C以
上に限定した。
【0037】本発明法による鋼材は、PCM≦0.20w
t.%と合金元素の含有量が低いため、60キロ級鋼とし
て十分な強度を確保するためには、2相域圧延によ
り、フェライトを加工硬化させるか、加速冷却によ
り、ベイナイト主体の組織にするかの何れかが必要とな
る。
【0038】先ず、2相域圧延の場合、累積圧下率が
30%未満では、上述の加工硬化が不十分で、PCM
0.20wt.%の範囲では、TS≧570MPaを満たす
ことが難しい。一方、累積圧下率が70%を超えると、
(001)<110>集合組織が著しく発達し、十字溶
接部の割れが発生する。
【0039】圧延仕上温度については、650°C未満
になると、(001)<110>集合組織が著しく発達
し、十字溶接部の割れが発生し易くなる。
【0040】以上より、2相域圧延の条件としては、累
積圧下率を30〜70%の範囲内に、熱間圧延仕上温度
を650°C以上に限定した。
【0041】次に、γ域圧延の場合、γ域で圧延を終
了すると、(001)<110>集合組織を形成せず、
十字溶接部の割れ発生の抑制に有効である。更に、その
後、加速冷却することにより強度向上を図ることができ
る。PCM≦0.20wt.%の低合金鋼では、冷却速度3°
C/s未満で加速冷却すると、フェライトの面積率が多
くなり、TS≧570MPaを満たすことが困難とな
る。ところが、冷却速度3°C/sで加速冷却しても、
加速冷却停止温度が600°C超では、フェライトの面
積率が多くなり、TS≧570MPaを満たすことが困
難となり、一方、加速冷却停止温度が400°C未満で
は、鋼板の中央偏析部が非常に硬化し、水素割れを助長
する。
【0042】以上より、γ域圧延の場合の加速冷却の条
件としては、γ域仕上げの圧延直後から、3°C/s以
上の冷却速度で加速冷却し、400〜600°Cの範囲
内の温度で冷却を停止するものと限定した。
【0043】なお、本発明により製造された鋼板は、十
字溶接部の貫通板だけでなく、これと同様な使用条件と
なる部位、即ち、鋼板の板厚方向に引張応力が働く溶接
継手部においても優れた効果を発揮することはいうまで
もない。
【0044】
【実施例】次に、この発明による溶接構造用鋼板の製造
方法およびこれにより得られた鋼板を、実施例により、
更に詳細に説明する。表4および表5に、本発明の範囲
内の条件で製造した鋼板(以下、本発明供試材とい
う)、および本発明の範囲外の条件で製造した鋼板(以
下、比較用供試材という)についての化学成分組成、ス
ラブの鋳造法、鋼板の圧延・冷却条件および板厚を示
す。
【0045】
【表4】
【0046】
【表5】
【0047】同表の各供試材から、所定の試験片を調製
し、引張強度(TS)、シャルピ−衝撃試験(0°Cの
吸収エネルギ−: V0 )、Z方向引張試験(絞り
値)、斜めy形溶接割れ試験(割れ防止予熱温度)、お
よび切欠き付き窓型十字試験を実施した。斜めy形溶接
割れ試験は、JISZ3158に準拠して実施した。表
6にその試験結果を示す。同表より、下記事項がわか
る。
【0048】
【表6】
【0049】本発明供試材については、60キロ級鋼と
しての十分な強度(TS≧570MPa)を有してい
る。靱性も良好である。但し、加速冷却材(C1,E
1,G1,H1,K1およびL1)の方が、2相域圧延
材(B1,D1,F1,I1,J1およびM1)より
も、僅かに優れた靱性値を示している。Z方向絞り値も
70%以上と良好である。y割れ防止予熱温度も25°
C以下であり、予熱せずに溶接することができることが
確認された。そして、本発明の課題である十字溶接部の
割れ発生防止に関しても、切欠き付き窓型十字試験で割
れの発生が皆無であり、非常に優れていることがわか
る。
【0050】これに対して、比較用供試材については、
下記の通り十字継手部の割れ等が認められ、溶接構造用
鋼板として劣っている。B2〜M2については、化学成
分組成は、本発明の範囲内にあるが、その他の条件が、
本発明の範囲外にあるものである。 ・B2およびC2は、連続鋳造工程において軽圧下を実
施していないため、切欠付き窓型十字試験で割れが発生
している。 ・D2は、2相域圧延条件が本発明の範囲外である(累
積圧下率が過剰で、圧延仕上温度が低過ぎ)ため、切欠
付き窓型十字試験で割れが発生している。 ・E2は、軽圧下鋳造を実施していないため、切欠付き
窓型十字試験で割れが発生している。また、加速冷却速
度が遅すぎるため、強度が不足している。 ・G2は、2相域圧延後、100°Cまで加速冷却を行
っているため、中央偏析部が著しく硬化し、切欠付き窓
型十字試験で割れが発生している。また、靱性値も劣っ
ている。 ・G3は、軽圧下鋳造を実施していないため、切欠付き
窓型十字試験で割れが発生している。また、2相域での
累積圧下率が不足しているため、60キロ級鋼としては
強度が不十分である。 ・L2も、200°Cまで加速冷却を行っており、中央
偏析部が著しく硬化し、切欠付き窓型十字試験で割れが
発生しており、靱性が劣っている。・NO.M2は、軽圧
下鋳造を実施していないため、切欠付き窓型十字試験で
割れが発生している。また、1000°Cという低温加
熱のため、炭・窒化物が十分に溶解していない状態で圧
延したため、圧延後の析出強化の効果が減少し、強度が
不足している。
【0051】下記N2〜Q2については、圧延条件およ
び冷却条件は、本発明の範囲内にあるが、化学成分組成
が本発明の範囲外にあり、更に、鋳造条件も本発明の範
囲外にあるものを含むものである。 ・N2は、Caを添加し硫化物の球状化を図っている
が、Ca/Sが大き過ぎるため、CaSのクラスタ−を
形成している。そのため、切欠付き窓型十字試験で割れ
が発生している。 ・O2は、軽圧下鋳造を施していないので、切欠付き窓
型十字試験で割れが発生している。更に、PCM値が高過
ぎるため、斜めy割れ防止予熱温度が50°Cと高く劣
っている。 ・P2は、S含有量が、0.0006wt.%と非常に低い
にもかかわらずCaを添加していないため、圧延方向に
伸長したMnS介在物が存在し、切欠付き窓型十字試験
で割れが発生している。 ・Q2は、軽圧下鋳造を施していず、C含有量が高過ぎ
るため、中央偏析部が硬化し、切欠付き窓型十字試験で
割れが発生している。また、PCM値が高過ぎるため、斜
めy割れ防止予熱温度が50°Cと高く劣っている。
【0052】上述したように、本発明の範囲内の条件下
で製造された鋼板は、いずれも切欠付き窓型十字試験で
割れは発生せず、しかも60キロ級鋼の溶接構造用鋼板
として優れたものであった。これに対して、1つでも本
発明の範囲外の条件を含んで製造された鋼板は、切欠付
き窓型十字試験で割れが発生した。また、これらの中に
は60キロ級鋼として強度が不足するもの、靱性が劣る
もの、あるいはy割れ防止予熱温度が劣るものもあっ
た。
【0053】
【発明の効果】以上述べたように、この発明によれば、
CM≦0.20wt.%という合金成分含有量の低い化学成
分組成を前提にした60キロ級鋼板の製造方法に関し、
Ca含有量を適正範囲内に限定して硫化物介在物を球状
化し、連続鋳造において軽圧下を施して中央偏析を軽減
し、2相域圧延条件あるいは加速冷却条件を適正化して
強度を確保しつつ過度の(001)<110>集合組織
の形成を抑制した。その結果、十字溶接部の貫通板、T
字溶接部あるいはヘリ溶接部等に使用されても、割れの
発生を抑制し得る溶接構造用鋼板を製造する方法を提供
することができる、工業上有用な効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実構造物における十字溶接継手の貫通板に発生
した割れを説明する概略縦断面図である。
【図2】本発明の試験で採用した切欠き付き窓型試験体
の概略平面図である。
【図3】本発明の試験で採用した切欠き付き窓型試験体
の概略正面図である。
【図4】本発明の試験で採用した切欠き付き窓型試験体
の概略側面図である。
【図5】図2のA−A断面の詳細図であって、拘束板に
差し込み試験板を差し込んだ状態を示す詳細図である。
【図6】本発明の試験で採用した切欠き付き窓型十字試
験法における溶接パススケジュ−ルを説明する概略縦断
面図である。
【図7】本発明の試験で採用した切欠き付き窓型十字試
験で発生した割れの状態を説明する、溶接試験体の概略
縦断面模式図である。
【符号の説明】
1 貫通板、 1a 差し込み試験板、 2 割れ、 3 拘束板、 4 溶接金属、 5 切欠き、 6 ギャップ。
フロントページの続き (56)参考文献 特開 昭61−270333(JP,A) 特開 昭63−317624(JP,A) 特開 平2−254119(JP,A) 特開 平3−44417(JP,A) 特開 平5−239594(JP,A) 特開 平5−212439(JP,A) 善、大野、関野、岩崎”未溶着欠陥を 有する十字溶接継手の疲労強度”,溶接 学会全国大会講演概要,No.31,P. 272−273(1982) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C21D 8/00 - 8/02

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 炭素(C) :0.06〜0.09 wt.% 、 珪素(Si) :0.5 wt.%以下、 マンガン(Mn) :1.0〜1.7 wt.% 、 燐(P) :0.02 wt.% 以下、 硫黄(S) :0.002 wt.% 以下、 カルシウム(Ca) :Ca/Sとして、0.5〜2.0、 ボロン(B) :0.0002 wt.% 以下、および、 可溶性アルミニウム(sol.Al):0.005〜0.060 wt.% 、 を含有し、更に、 ニオブ(Nb) :0.005〜0.04 wt.% 、 バナジウム(V) :0.02〜0.1 wt.% 、および、 チタン(Ti) :0.005〜0.10 wt.% 、 の析出硬化元素群の内より少なくとも1種を含有し、 且つ、下記(1)式: PCM=C+Mn/20+Si/30+Cu/20+Ni/60 +Cr/20+Mo/15+V/10+5B・・・(1) によって表わされるPCMが0.20 wt.% 以下を
    満たし、残部が実質的に鉄(Fe)よりなる低炭素低合
    金鋼の軽圧下連続鋳造スラブを調製し、前記スラブを1
    050°C以上の温度に加熱し熱間圧延し、前記熱間圧
    延において、Ar3 変態点以下の温度で累積圧下率3
    0〜70%の範囲内の圧下を施し、650°C以上の温
    度で前記熱間圧延を終了することを特徴とする、十字溶
    接継手特性に優れた溶接構造用鋼板の製造方法。
  2. 【請求項2】前記低炭素低合金鋼は、 銅(Cu) :0.5 wt.%以下、 ニッケル(Ni) :0.5 wt.%以下、 クロム(Cr) :0.5 wt.%以下、および、 モリブデン(Mo) :0.3 wt.%以下、 の内より少なくとも1種を更に含有する請求項1記載の
    十字溶接継手特性に優れた溶接構造用鋼板の製造方法。
  3. 【請求項3】 炭素(C) :0.06〜0.09 wt.% 、 珪素(Si) :0.5 wt.% 以下、 マンガン(Mn) :1.0〜1.7 wt.% 、 燐(P) :0.02 wt.% 以下、 硫黄(S) :0.002 wt.% 以下、 カルシウム(Ca) :Ca/Sとして、0.5〜2.0、 ボロン(B) :0.0002 wt.% 以下、および、 可溶性アルミニウム(sol.Al):0.005〜0.060 wt.% 、 を含有し、更に、 ニオブ(Nb) :0.005〜0.04 wt.% 、 バナジウム(V) :0.02〜0.1 wt.% 、および、 チタン(Ti) :0.005〜0.10 wt.% 、 の析出硬化元素群の内より少なくとも1種を含有し、 且つ、下記(1)式: PCM=C+Mn/20+Si/30+Cu/20+Ni/60 +Cr/20+Mo/15+V/10+5B・・・(1) によって表わされるPCMが0.20 wt.% 以下を
    満たし、残部が実質的に鉄(Fe)よりなる低炭素低合
    金鋼の軽圧下連続鋳造スラブを調製し、前記スラブを1
    050°C以上の温度に加熱し熱間圧延をし、前記熱間
    圧延において、Ar3 変態点以上の温度で圧延を終了
    し、前記圧延終了の直後から冷却速度3°C/S以上で
    水冷し、400〜600°Cの範囲内の温度で前記水冷
    を停止し、その後放冷することを特徴とする、十字溶接
    継手特性に優れた溶接構造用鋼板の製造方法。
  4. 【請求項4】前記低炭素低合金鋼は、 銅(Cu) :0.5 wt.%以下、 ニッケル(Ni) :0.5 wt.%以下、 クロム(Cr) :0.5 wt.%以下、および、 モリブデン(Mo) :0.3 wt.%以下、 の内より少なくとも1種を更に含有する請求項3記載の
    十字溶接継手特性に優れた溶接構造用鋼板の製造方法。
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