JP3127214B2 - 酸化防止剤および酸化防止剤を含有する食品 - Google Patents

酸化防止剤および酸化防止剤を含有する食品

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、主として食品の酸化を
防止する酸化防止剤に関するものである。また本発明
は、素麺の酸化を防止し、いやなにおいの発生や、長期
保存時の品質劣化がない素麺の製造方法に関するもので
ある。
【0002】
【従来の技術】食品に添加して、食品に含まれる油脂の
酸化を防止する酸化防止剤としては、ブチルヒドロキシ
アニソ−ル、ブチルヒドロキシトルエン、天然トコフェ
ロ−ル類及び香辛料類などが知られている。これらの酸
化防止剤の多くは、油脂が自動酸化によって生じたラジ
カルを受容する作用によって食品の酸化を防止するもの
である。
【0003】また、食品の酸化を防止する菌類が、例え
ば学術文献の農化59,(9)901から907に開示
されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】公知のブチルヒドロキ
シアニソ−ルその他の酸化防止剤は、脂溶性である。そ
のため、例えば素麺やそば等の麺類や、米飯等のように
比較的油脂分が少なく、水分含有量の多い親水性の食品
には適用が困難である問題があった。
【0005】また、ブチルヒドロキシアニソ−ルその他
の酸化防止剤を水分含有量の多い食品に添加する場合
は、酸化防止剤を、油脂に溶解した状態で添加する必要
があった。そのため、酸化防止剤とともに混入された油
脂により、食品の風味が損なわれる問題点があった。
【0006】特に、素麺等の乾燥食品は、熟成期間を要
したり、長期に渡って保存されるため、内部に混入され
た油脂が熟成期間中や保存期間中に酸化し、嫌なにおい
を発生させることが多く、解決が望まれていた。また、
前記した学術文献の農化59に開示された菌類は、最も
性能の優れたものでも過酸化物価を25%までしか低下
させることができず、酸化防止剤としての効果が不充分
である問題があった。
【0007】本発明は従来技術の上記した欠点に着目
し、油脂を混入すること無く、容易に食品中に分散させ
る事ができ、また、充分な酸化防止効果を有する酸化防
止剤を提供することを目的とする。また本発明は長期に
わたって風味の良好さを維持することができる素麺の製
造方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記の目
的を達成するため、鋭意研究を重ねた。その結果、糸状
菌ユーロシアム・アムステロダミ(Eurotium Amstelodam
i)及び糸状菌ユーロシアム・アムステロダミの代謝物が
油脂及び油脂を含有する素材に対して酸化防止作用を有
することを発見した。
【0009】即ち、本発明者らは、播州手延素麺の酸
価、および過酸化物価が季節によって変化する現象を発
見し、この現象から、播州手延素麺に酸化防止作用を有
する微生物の存在を予想した。
【0010】そして、播州手延素麺に生息する多数の微
生物の内から、酸化防止作用を有する菌をスクリーニン
グ手段によって単離した。図1、図2は、本発明の酸化
防止剤で採用する単離した菌の生物の形態を示す写真で
ある。ここで図1は、単離した菌の40倍拡大写真であ
り、図2は、単離した菌の100倍拡大写真である。写
真のとおり単離した菌は、子のう果を形成する球体の黴
である。また図3,図4は、本発明の酸化防止剤で採用
する単離した菌の生物の形態を示す写真であり、図3
は、分生子の拡大写真であり、図4は、子のう胞子の拡
大写真である。
【0011】本発明者らが、「カビの分離・培養と同
定」(デビット マローチ著、宇田川俊一/室井哲夫共
訳 第1版第3刷 医歯薬出版株式会社 1986年6
月30日発行)を参照しつつ本黴を観察したところ、本
黴は、同書第68頁の次の記述の特徴を備えることが判
明した。
【0012】「 Eurotium Link ex Fries (クサイロコ
ウジカビ、ユーロシアム)白色から輝黄色、球体の子実
体(閉子のう殻)によって特徴づけられる子のう菌、子
実体中には球体の子のうが含まれ、次に子のう中には各
々8個、無色の子のう胞子を内生する。子のう胞子は、
偏円形(平たい球形)、赤道面に隆起があり、その結果
滑車に似る。Eurotiumの種は乾燥条件でもっともよく生
育し、ショ糖を高濃度に加えた培地上で通常培養され
る。家屋室内、貯蔵穀物、げっ歯動物の巣に普通に見ら
れる。無性時代:Aspergillus.」
【0013】従って、播州手延素麺から単離された菌
は、糸状菌ユーロシアム(Eurotium Ansteladomi)である
と考えられる。そしてさらに調査の結果、本黴は、文献
J.Antibact.Antifung.Agent 1992年 Vol.20.No.7 41
頁乃至47頁に記載された Eurotium 属の基本的な性質
を備え、且つ同書44頁の Eurotium Amstelodami Mang
inに関する下記の性状を有することが判明した。
【0014】「CA20S寒天平板培地・25°Cのも
とで成育は良く、平坦な基底菌糸層が次第に拡大して行
き14日後の集落は径6乃至10 cmに達する。緑色の
分生子形成は僅かで目立たず、鮮黄色の子のう果を菌層
上に密に形成する。この子のう果の色は培養日数を経過
しても殆ど変化しない。集落の裏面は黄色から淡く褐色
味を帯びていく。分生子柄は無色乃至淡い黄緑色で滑
面、長さ100乃至350×9乃至11μm 、先端(頂
のう)はほぼ球形(径15乃至23μm )で単列のフィ
アライド(5乃至6.5×2.5乃至3.5μm )を密
に形成する。このフィアライドから生ずる分生子は、球
形(3.5乃至5μm )乃至楕円形(4.5乃至5.0
×3.5乃至4/0μm )刺状突起がある。分生子頭の
連鎖する分生子頭は、放射状もしくは円柱状様で100
乃至250μm 。子のう果は、球形乃至亜球形(径11
0乃至150μm )、子のうは球形乃至亜球形で10乃
至12μm 。子のう胞子は、凸レンズ状、レンズ面には
乳頭状の小突起が数多くあり4.5乃至5.5×3.0
乃至4.0μm 、赤道面に2本の明らかな隆起があり、
その隆起間にはV字形の深い溝がある。隆起している縁
沿いに小さな穴がみられる。」 そして、同書の写真
3に表された形態は、図4のそれと極似する。
【0015】従って播州手延素麺から単離された菌は、
糸状菌ユーロシアム・アムステロダミ(Eurotium Amstel
odami)であると考えられる。尚この菌は、工業技術院微
生物工業技術研究所に寄託した(受託番号FERM P
−13874号)そして播州手延素麺から単離された菌
およびこの菌の代謝物は、優れた酸化防止作用を有する
ものであった。また播州手延素麺から単離された菌は、
相当の食塩濃度雰囲気中でも増殖することができる。
【0016】この知見に基づく本発明は、糸状菌ユーロ
シアム・アムステロダミ(EurotiumAmstelodami)又は糸
状菌ユーロシアム・アムステロダミの代謝物を有効成分
とすることを特徴とする酸化防止剤である。
【0017】また同様の目的を達成するためのもう一つ
の発明は、糸状菌ユーロシアム・アムステロダミの水懸
濁液又は糸状菌ユーロシアム・アムステロダミの代謝物
の水抽出物を有効成分とすることを特徴とする酸化防止
剤である。また同様の目的を達成するためのさらに一つ
の発明は、素麺から単離した糸状菌ユーロシアム・アム
ステロダミ又は素麺から単離した糸状菌ユーロシアム・
アムステロダミの代謝物を有効成分とすることを特徴と
する酸化防止剤である。
【0018】更に、上記した発明を食品に適用した発明
は、上記のうちいずれかの酸化防止剤を含有することを
特徴とする食品である。
【0019】また具体的に、素麺を製造するための発明
は、小麦粉を水で練って生地を調製し、該生地を細線化
して乾燥する素麺の製造方法において、糸状菌ユーロシ
アム・アムステロダミ(Eurotium Amstelodami)あるいは
糸状菌ユーロシアム・アムステロダミ(Eurotium Amstel
odami)の代謝物の少なくともいずれかを水と混合して懸
濁液あるいは水溶液を調製し、該懸濁液あるいは水溶液
を小麦粉に練り混む工程を有することを特徴とする素麺
の製造方法である。
【0020】
【作用】本発明の酸化防止剤は、有効成分の糸状菌ユー
ロシアム・アムステロダミが、食品内に生成した過酸化
脂質を栄養源として資化し、これを消失させる。
【0021】また糸状菌ユーロシアム・アムステロダミ
だけでなく、糸状菌ユーロシアム・アムステロダミの代
謝物には、過酸化物分解作用を有する成分が含まれてお
り、この成分によって食品内に生成した過酸化脂質が分
解消失される。
【0022】本発明で採用する糸状菌ユーロシアム・ア
ムステロダミは、水に懸濁して使用できる。また糸状菌
ユーロシアム・アムステロダミの代謝物は、水溶液とし
て使用できる。そのため両者はいずれも食品をはじめと
して油脂製品の酸化防止に使用できる。とりわけ、過酸
化物価の高い油脂に作用してその過酸化物価を低下させ
るとともに、持続性のある抗酸化性を示す。
【0023】本発明に使用した糸状菌ユーロシアム・ア
ムステロダミ、またはこの代謝物は、食品等に対して任
意の割合で添加することができる。しかし糸状菌ユーロ
シアム・アムステロダミそのものを食品に添加する場合
は、食品に対して糸状菌を0.001mg 〜1mg%配合するこ
とが好ましい。また、糸状菌代謝物を食品に添加する場
合は、食品に対して0.1mg 〜0.5g%添加することが好ま
しい。本発明が応用可能な食品には、例えば素麺、即席
ラーメン、乾うどん等の乾麺、マカロニ、スパゲッティ
等がある。
【0024】
【実施例】以下更に本発明の具体的実施例について説明
する。 (実施例1) 素麺の粉末に前記した播州手延素麺から単離された糸状
菌ユーロシアム・アムステロダミ(Eurotium Amsteloda
mi 微工研菌寄託 微工研受託番号FERMP−138
74)を混入し、この素麺の粉末と綿実油その他の素材
を用いて3%の綿実油を含有する固形培地を調製した。
そして固形培地の過酸化物価(以下POV)の経日変化
を、日本油化学協会の方法に準拠して測定した(図5実
施例2)。また比較実験として、糸状菌ユーロシアム・
アムステロダミを混入しない固形培地を調製し、POV
の経日変化を測定した。また参考までに、播州手延素麺
から、上記した糸状菌ユーロシアム・アムステロダミを
単離する途上の中間分離菌を素麺の粉末に混入し、この
素麺の粉末その他の素材を用いても固形培地を作成し、
POVの経日変化を測定してみた(図5実施例1)。
【0025】尚、POVは、数値が大きい程抽出油脂は
酸化が進行していると評価できる。
【0026】実験の結果は、図5のグラフに示す通りで
あった。即ち、糸状菌ユーロシアム・アムステロダミを
混入しない固形培地は、図5の比較例のグラフの様に、
時間の経過に比例してPOVが増加した。これに対して
糸状菌ユーロシアム・アムステロダミを混入した固形培
地は、図5の比較例の実施例2のグラフの様に、培養初
期にPOVが著しく増加の傾向を示すが、POVは培養
2日めから急激に減少した。そして5日め以降には、0
から3の間で変動した。即ち、本実施例の過酸化物分解
能を持つ糸状菌ユーロシアム・アムステロダミを有効成
分とする酸化防止剤は、POVをほぼ100%減少させ
ることができる。
【0027】この実施例により、本実施例の酸化防止剤
は、優れた酸化防止作用をもつことが理解できる。尚、
上記した実験期間中の固形培地の脂肪酸組成比率を分析
したところ、脂肪酸組成比率は、POVの量と相関がな
かった。言い換えれば、脂肪酸組成比率は、時間の経過
とともに変化した。これは、糸状菌ユーロシアム・アム
ステロダミが、ある特定の脂肪酸を優先的に資化し、消
失させているために起こる現象であると推測される。
【0028】また、培養時間の異なる複数の固形培地に
ついて、上記した脂肪酸組成比率とPOVの量と相関を
調べたが、いずれの場合にも両者の間に相関はなかっ
た。
【0029】次に上記と同様の固形培地であって、添加
する油脂を精製魚油に変更し、6%の精製魚油を含有す
る固形培地をもって、POVの経日変化を測定してみ
た。結果は、図6のグラフの通りであった。この実験に
より、糸状菌ユーロシアム・アムステロダミを有効成分
とする酸化防止剤は、精製魚油の過酸化資質も分解可能
であることが理解できる。同じく油脂をコーン油に変更
し、コーン油を6%含有する固形培地を調製してPOV
の経日変化を測定してみた。結果は、図7のグラフの通
りであった。この実験で明らかなように、糸状菌ユーロ
シアム・アムステロダミを有効成分とする酸化防止剤
は、コーン油にも有効である。
【0030】(実施例2) 素麺の粉末に前記した播州手延素麺から単離された糸状
菌ユーロシアム・アムステロダミを混入し、固形培地を
調製した。そして本固形培地で、糸状菌ユーロシアム・
アムステロダミを7日間増殖させた。本固形培地から糸
状菌ユーロシアムの代謝物を水を使用して抽出した後、
メンブランフィルタ−で濾過し、濾過液に硫安を加えて
沈澱物を得た。この沈澱物を再度水に溶解させて後、透
析膜を使用して低分子量物を除去し、濃縮後ゲル濾過を
おこなった。この水溶液を凍結乾燥して固形化し、糸状
菌ユーロシアム・アムステロダミの代謝物を精製した。
【0031】油脂モデルとしてPOVが48のオレイン
酸メチルエステルを選択し、この油脂モデルの中に前記
した糸状菌ユーロシアム・アムステロダミの代謝物を
0.2%濃度添加した。そして、この油脂モデルを非酸
化雰囲気内(窒素ガス雰囲気)で反応温度38°Cを維
持して反応させ、油脂モデルのPOVの経時変化を観察
した。
【0032】図8は、油脂モデルのPOVの減少量を示
したグラフである。反応開始時45分で、油脂モデルの
POVは35減少した。即ち、当初48あったPOV
は、45分で13.0まで低下した。また反応開始時1
20分で、油脂モデルのPOVは38.3減少した。即
ち、当初48あったPOVは、9.7まで低下した。言
い換えれば、実験を開始した後120分で、油脂モデル
のPOVは当初の20%まで低下した。
【0033】上記した実験は、非酸化雰囲気内で行った
が、同様の実験を大気中でも行った。他の条件は、前記
した実験と同一である。結果は図9の通りであった。大
気中では、比較例の油脂モデルは、時間の経過に伴っ
て、直線的に酸化が進行するのに対して、糸状菌ユーロ
シアム・アムステロダミの代謝物を加えた実験例では、
逆に過酸化物の減少が認められる。
【0034】これらの実験により、過酸化物分解能を持
つ糸状菌ユーロシアムの培養物の水溶物を主成分とする
酸化防止剤は、強い過酸化脂質分解能力を有することが
理解できる。また、糸状菌ユーロシアムの培養物の水溶
物は乾燥固形しても、過酸化脂質分解能力を失わないこ
とが理解できる。
【0035】(実施例3) 綿実油−ショ糖−播州手延素麺−食塩−ミネラル系水溶
液の液体培地を使用して、播州手延素麺から単離された
糸状菌ユーロシアム・アムステロダミを38°Cの温度
で培養した。上記の条件で糸状菌ユーロシアム・アムス
テロダミを10日間培養した後、液体培地の油脂を回収
した。そして、回収油脂のPOV,酸価(以下AV),
および脂肪組成物の主な成分の比率を調査した。
【0036】また比較実験として、糸状菌ユーロシアム
・アムステロダミを培養しない液体培地を上記と同一条
件に置き、10日後に油脂を回収してPOV,AV,お
よび脂肪組成物を調査した。
【0037】尚、ここで調査した抽出油脂の脂肪酸組成
は酸化の進行の指標として利用できるものである。即
ち、脂肪酸の酸化は、脂肪酸分子中の二重結合(不飽和
結合)の数を多く含有する脂肪酸ほどその進行は速い。
具体的には、オレイン酸の酸化速度は、パルミチン酸の
約10倍であり、リノ−ル酸は、オレイン酸のさらに1
0倍の速度で酸化される。脂肪酸の酸化が進行すれば酸
化した分子はヒドロペルキシド類に変換される。そのた
めガスクロマトグラフィ−では検出されなくなり、脂肪
酸の酸化が確認される。
【0038】実験の結果、各々の回収油脂のPOV,A
V,および脂肪組成物の主な成分の比率は、表1の通り
であった。
【0039】
【表1】
【0040】糸状菌ユーロシアム・アムステロダミを培
養していた液体培地の油脂は、POV,AV,および脂
肪組成物の主な成分の比率のいずれに付いても大きな変
化は見られなかった。これに対して、糸状菌ユーロシア
ム・アムステロダミを培養しない液体培地から回収され
た油脂は、POVが著しく増加していた。また糸状菌ユ
ーロシアム・アムステロダミを培養しない液体培地から
回収された油脂は、リノール酸成分の減少が認められ、
油脂の酸化が確認された。
【0041】以上の実験結果から、播州手延素麺から単
離された糸状菌ユーロシアム・アムステロダミは、油脂
の酸化を抑制する効果があることが確認された。
【0042】また、糸状菌ユーロシアムの培養物の水溶
物を用いて同様の実験をしたところ、糸状菌ユーロシア
ム・アムステロダミを用いた場合との間に良い一致が観
察された。
【0043】(実施例4) 素麺の生地を作る用水中に、播州手延素麺から単離され
た糸状菌ユーロシアム・アムステロダミを混入し、懸濁
状の用水を調製した。この時、糸状菌ユーロシアム・ア
ムステロダミの量は、小麦製粉20kg当たり0.3mg に
なるように配慮した。
【0044】また同様にユーロシアム・アムステロダミ
代謝物を用水中に溶解した。この時、糸状菌ユーロシア
ム・アムステロダミの代謝水溶濃縮物の量は、小麦製粉
20kg当たり100mg になるように配慮した。
【0045】以上の2種類の用水を使って、小麦粉を練
って生地を作り、この生地を細線化した後乾燥し、素麺
を作った。また比較実験として、通常の水を用いて、同
様の工程を経て素麺をつくった。
【0046】そして、以上3種の素麺から衛生試験方法
に基づいて油脂を抽出し、それぞれの含有油脂の過酸化
物価を日本油化学協会の方法に準拠して測定した。また
それぞれの油脂の主要な脂肪酸の組成を測定した。結果
は表2の通りであった。
【0047】
【表2】
【0048】実験結果から、糸状菌ユーロシアム・アム
ステロダミおよびこの代謝水溶濃縮物を添加して製造し
た素麺は、通常の用水を使用した場合に比べて、酸化が
抑制されていることが理解できる。
【0049】また以上3種の素麺のにおいを官能試験に
よって比較した。その結果、糸状菌ユーロシアム・アム
ステロダミおよびこの代謝水溶濃縮物を添加して製造し
た素麺は、通常の用水を使用した場合に比べて、不快な
においが明らかに少ないものであった。
【0050】更に、においの多少を化学的に確認するた
め、発生する酸化臭気を、ヘッドスペ−ス法によるガス
クロマトグラムのパタ−ンを比較して分析した。即ち、
ヘッドスペ−ス法ガスクロマトグラフィ−によるクロマ
トグラムのパタ−ン比較により、においの有無が科学的
に評価できる。つまり、保持時間8分以内に100℃以
下の揮発性成分は溶出する。臭いの成分の多くは低沸点
化合物であるため、保持時間5分以内のピ−ク成分がそ
の構成物質であると考えられる。従ってピ−ク高さまた
は面積の比較によってこれらの低沸点化合物の多少が把
握できる。
【0051】実験に使用した、ガスクロマトグラフは、
日立063型であり、検出器は、FIDを用いた。ま
た、キャリアガスには、高純度窒素を利用した。ガスク
ロマトグラムの感度は、X1、即ち、最高感度をもって
測定した。測定結果は、図10のグラフに示す通りであ
った。
【0052】この実験結果より、糸状菌ユーロシアム・
アムステロダミおよびこの代謝水溶濃縮物を添加して製
造した素麺は、通常の用水を使用した場合に比べて、不
快なにおいの少ないものであることが再確認された。
【0053】(実施例5) 素麺の生地を作る用水中に、播州手延素麺から単離され
た糸状菌ユーロシアム・アムステロダミを異なる量混入
し、4種類の懸濁状の用水を調製した。そしてこの4種
類の用水を使って、小麦粉を練って生地を作り、この生
地を細線化した後乾燥し、4種類の素麺を作った。各素
麺に含有する菌数(雑菌を含む)を培養実験によって測
定すると、素麺1g当たりそれぞれ590個、1750
個、3750個、7000個であった。
【0054】また比較実験として、通常の水を用いて、
同様の工程を経て素麺を作った。比較実験の素麺の菌数
は、培養実験によると10個であった。この菌は、素麺
を作る段階で混入した雑菌である。
【0055】そして、以上5種の素麺から衛生試験方法
に基づいて油脂を抽出し、それぞれの含有油脂の過酸化
物価を日本油化学協会の方法に準拠して測定した。また
それぞれの油脂の主要な脂肪酸の組成を測定した。結果
は表3の通りであった。
【0056】
【表3】
【0057】実験結果から、糸状菌ユーロシアム・アム
ステロダミを混入した素麺の全てに酸化抑制の効果が認
められる。過酸化物の分解能力をリノール酸の含有量に
よって評価すると、菌数が少ないほど高い効果を示して
おり、極微量の糸状菌ユーロシアム・アムステロダミを
混入することにより、優れた効果が発揮されることが判
る。具体的には、糸状菌ユーロシアム・アムステロダミ
を素麺1グラム当たり1750個以下の菌を混入した場
合に特に顕著な効果があると言える。素麺1グラム当た
り1750個の菌を混入する場合の、素麺と糸状菌ユー
ロシアム・アムステロダミの重量比は、素麺20Kg に
対して糸状菌ユーロシアム・アムステロダミ2mgに相
当する。
【0058】
【発明の効果】本発明の酸化防止剤は、極めて優れた酸
化防止効果を有し、かつその効果を長期間に渡って維持
することができる効果がある。
【0059】また本発明の酸化防止剤は、水に懸濁した
り、溶解して使用することができるため、水分含有量の
多い食品に対して有効に利用することができる効果があ
る。
【0060】本発明の食品は、内部の油脂の酸化が防止
され、長期に渡って風味が変化しない効果がある。
【0061】本発明の方法によって製造された素麺は、
小麦粉を練る用水に糸状菌ユーロシアムを配合すると言
う簡単な工程を付加するだけで、熟成時や保存時に油脂
の酸化を有効に防止することができる効果がある。
【0062】そのため、本発明の方法によって製造され
た素麺は、嫌なにおいの発生がなく、極めて風味の良い
ものとなる効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の酸化防止剤で採用する単離した菌の生
物の形態を示す写真である。
【図2】本発明の酸化防止剤で採用する単離した菌の生
物の形態を示す写真である。
【図3】本発明の酸化防止剤で採用する単離した菌の生
物の形態を示す写真である。
【図4】本発明の酸化防止剤で採用する単離した菌の生
物の形態を示す写真である。
【図5】本発明の酸化防止剤を添加した綿実油を含む固
形培地の過酸化物価の経日変化を示すグラフである。
【図6】本発明の酸化防止剤を添加した精製魚油を含む
固形培地の過酸化物価の経日変化を示すグラフである。
【図7】本発明の酸化防止剤を添加したコーン油を含む
固形培地の過酸化物価の経日変化を示すグラフである。
【図8】本発明の酸化防止剤を添加した油脂モデルの窒
素雰囲気中でのPOVの減少量を示したグラフである。
【図9】本発明の酸化防止剤を添加した油脂モデルの大
気雰囲気中でのPOVの減少量を示したグラフである。
【図10】本発明の素麺の製造方法によって製造された
素麺が発生するガスを分析したクロマトグラムのパター
ン図である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 Journal of Food S cience(1985),Vol.50,N o.6,p.1742−1744 Journal of the Am erican Oil Chemist s’Society(1984),Vol. 61,No.12,p.1864−1868 (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) A23L 3/3571 A23L 1/105 A23L 1/16 BIOSIS(DIALOG) CA(STN)

Claims (5)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 糸状菌ユーロシアム・アムステロダミ(E
    urotium Amstelodami)又は糸状菌ユーロシアム・アムス
    テロダミ(Eurotium Amstelodami)の代謝物を有効成分と
    することを特徴とする酸化防止剤。
  2. 【請求項2】 糸状菌ユーロシアム・アムステロダミ(E
    urotium Amstelodami)の水懸濁液又は糸状菌ユーロシア
    ・アムステロダミ(Eurotium Amstelodami)の代謝物
    水抽出物を有効成分とすることを特徴とする酸化防止
    剤。
  3. 【請求項3】 素麺から単離した糸状菌ユーロシアム・
    アムステロダミ(Eurotium Amstelodami)又は素麺から単
    離した糸状菌ユーロシアム・アムステロダミ(Eurotium
    Amstelodami)の代謝物を有効成分とすることを特徴とす
    る酸化防止剤。
  4. 【請求項4】 請求項1乃至3のうちいずれか一に記載
    の酸化防止剤を含有することを特徴とする食品。
  5. 【請求項5】 小麦粉を水で練って生地を調製し、該生
    地を細線化して乾燥する素麺の製造方法において、糸状
    菌ユーロシアム・アムステロダミ(Eurotium Amstelodam
    i)あるいは糸状菌ユーロシアム・アムステロダミ(Eurot
    ium Amstelodami)の代謝物の少なくともいずれかを水と
    混合して懸濁液あるいは水溶液を調製し、該懸濁液ある
    いは水溶液を小麦粉に練り混む工程を有することを特徴
    とする素麺の製造方法。
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