JP3094103B1 - ナシワインの醸造方法 - Google Patents

ナシワインの醸造方法

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Abstract

【要約】 【解決手段】 西洋ナシ、和ナシ、中国ナシ等各種ナシ
の果実全体、果肉のみ、又は果肉及び果芯を含む部位を
使用し、これを破砕の後、果実破砕物を得て、又はその
一部又は全部を固液分離することなく、ワイン酵母を添
加し発酵させ、ナシ果実の特徴香の優れた、又はナシ果
実の特徴香が優れ且つ色調が鮮やかな赤色を呈するナシ
ワインを製造する方法。 【効果】 ナシワインでは従来製造することができなか
ったナシ特有のフルーティな香りを保持し、きれいな赤
色を呈するナシワインの製造がはじめて可能となった。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、ナシワインの醸造
に関するものであり、更に詳細には、従来醸造すること
のできなかったナシ果実香気成分に富んだナシワイン、
赤色その他きれいな色に着色したナシワインといった全
く新しいタイプのナシワインの醸造に関するものであ
る。
【0002】
【従来の技術】ナシを原料とした醸造酒であるナシワイ
ンは従来より知られており、ナシ、例えば西洋ナシの果
汁を用い、場合によっては補糖した後、これを発酵させ
て製造している。しかしながら、得られたナシワイン
は、香りに格別の特徴が認められず、また色調にも格別
の特徴が認められず、ナシワインは原料の特徴が醸造酒
に反映され難いものという認識が強い。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明者らは、このよ
うな技術の現状にあって、ナシ、例えば西洋ナシの果実
自体は特徴的な果実香を有しており、この芳香がナシ果
実の魅力のひとつとなっているにもかかわらず、それを
搾汁して製造する従来の醸造法により醸造したナシワイ
ンにはナシ果実が有している特徴香が著しく低減してい
る点、及び、西洋ナシワインの色調は従来の醸造法によ
れば透明ないし黄色であって、色調にも格別の変化、バ
ラエティーが認められない点、に改めて着目した。
【0004】そして本発明者らは、新しいタイプの果実
酒が消費者及び醸造業者から要請されている点に鑑み、
再度ナシワインに着目し、従来解決し得なかったナシワ
イン特有の上記欠点、すなわち香り及び色調に関する欠
点の解決を技術課題として改めて設定した。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明は上記した課題を
解決する目的でなされたものであって、各方面から検討
の結果、ナシ果実を搾汁し、得られた果汁を原料として
用いるのではなく、発想を転換して、得られる醸造酒に
雑味が付与される等不利益が数多く予想されるにもかか
わらず、果実全体を破砕し、生成した果汁を分離するこ
となくその全体を原料として使用し、これにワイン酵母
を接種して発酵せしめたところ、全く予期せざること
に、雑味が付与されるどころか、それとは全く逆に、西
洋ナシ果実が有している好ましい特徴香がナシワインに
移行しているだけでなく、好ましい着色も付与されてい
ることを、機器分析のみならず官能試験のいずれにおい
ても科学的にはじめて確認した。
【0006】本発明は、上記した有用にして新規な知見
に基づき、更に研究の結果、遂に完成されたものであ
る。以下、本発明について詳述する。
【0007】本発明は、ナシを破砕し、生成した果汁の
みを分離してこれを原料として使用するのではなく、ナ
シを破砕し、生成した果汁を分離することなく、これを
そのまま原料の少なくとも一部として使用し、これに酵
母を加えて発酵させることによりナシワインを醸造する
ものであって、その実施態様としては、次のものが例示
される。
【0008】すなわち、本発明の実施態様としては、ナ
シの果実全体、又は果肉及び果芯を含む部位を使用し、
これを破砕の後、その一部又は全部を固液分離すること
なく、酵母を添加し発酵させ、ナシ果実の特徴香の優れ
た、又は西洋ナシ果実の特徴香が優れ且つ色調が鮮やか
な赤色を呈するナシワインを製造する方法が例示される
のである。
【0009】本発明を実施するには、ナシの果実全体、
果肉、果芯(を含む部分)、それらの2種以上の混合物
を使用し、これを破砕して果実破砕物を生成せしめた
後、固液分離することなくこれをそのまま原料として使
用するか、あるいは、果実破砕物を生成せしめた後、そ
の一部については固液分離して果汁を得、これを分離除
去した残りの部分(つまり、果汁を一部分離した残りの
部分)を原料として使用する。
【0010】破砕は、常法が適用可能であって、ミキサ
ー、ジューサー等を用いて行い、果汁を分離除去するこ
となく(又はプレス機、搾汁機を用いて果実破砕物の一
部を分離除去して)、固形分とともに原料として使用す
る。また、切断、細砕、磨砕等によって破砕処理を行
い、果汁と細かくされた固形分との混合物を調製し、こ
れを原料として使用してもよい。
【0011】また本発明においては、上記のように果汁
を一部分離除去する場合のほか、これとは全く逆に、果
汁を添加して原料とすることもできる。例えば、缶詰工
場、果汁工場その他ナシの加工処理工場から果芯、剥皮
処理による果皮、搾汁粕等が多量に排出されるが、これ
ら(破砕物)に果汁を添加し、必要に応じて破砕処理し
て、これを単独又は混合して原料とすることもできる。
【0012】ナシとしては、ラ・フランス種その他の西
洋ナシのほか、幸水、豊水、多摩、新高、長十郎等の赤
ナシ、二十世紀等の青ナシその他の和ナシや、各種中国
ナシその他各種のナシ類が1種又は2種以上使用可能で
ある。
【0013】本発明におけるナシワイン醸造法は、原料
として上記したナシ処理物を使用するほかは、従来より
ブドウ酒や果実酒の醸造に用いられている方法にしたが
って行えばよい。すなわち、ナシ原料に酵母を添加し、
酵母の発酵適温にて発酵せしめ、発酵終了後または所望
する時期に発酵を停止して(例えばアルコール濃度、香
気成分含量や色調等所望値にコントロールして)、濾過
またはおり引きを行って酵母(各種固形分)を分離し、
ナシワインを得る。
【0014】酵母としては、ブドウ酒酵母(協会ワイン
酵母第1号、同第3号、同第4号その他各種市販酵
母)、清酒酵母(協会7号酵母、協会9号酵母、その他
各種市販酵母)のほか、パン酵母、ビール酵母その他ア
ルコール発酵しうる酵母であればすべての酵母が使用可
能である。その際、酵母は、生酵母、半生酵母、乾燥酵
母、冷蔵酵母、冷凍酵母のいずれのタイプのものも使用
することができる。
【0015】以下、本発明を、実施例により、さらに具
体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定され
ない。
【0016】
【実施例1】以下により西洋ナシワインを製造した。な
お、対照として、ナシ果汁を用いる西洋ナシワインの製
造も行った。
【0017】1 材料はラ・フランス種の西洋ナシを用
いた。 2 材料の試験は西洋ナシの原料の(1)果実全体、
(2)果皮及び果肉、(3)果肉のみ、(4)果肉及び
果芯の4試験区とした。 3 発酵方法は、項2の4試験区について、破砕後、
(1)遠心分離によって得た果汁にワイン酵母添加して
発酵する方法(以下果汁発酵という。)と、(2)破砕
後そのまま固液分離せずワイン酵母を添加して発酵する
方法(以下醸し発酵という。)の2試験区とした。
【0018】果実は、家庭用ジューサーで破砕し、その
際、亜硫酸200ppmを添加した。果汁の分離は10
900g、20分の遠心分離によって行った。果汁の場
合は350g、果実の破砕物の場合は500gを一つの
仕込み単位とし、ガラス容器に仕込んだ。果汁区分は発
酵助成剤としてリン酸2アンモニウムを200ppm添
加した。
【0019】酵母は、市販のブドウ酒用酵母(カナダ、
ラルバン社製EC−1118)を使用し、発酵は15℃
で行った。13日目に炭酸ガスの生成が停止し、アルコ
ール発酵の終了が確認されたため、果汁発酵したものは
そのまま生成ワインとし、先に固液分離をしなかった区
分(醸し発酵)は10900g、20分の遠心分離によ
って生成ワインを得た。生成酒について成分分析と官能
評価を行った。その分析値を下記表1、表2に第1表及
び第2表として示す。仕込みは2連で実施し、成分分析
値は平均値を示す。
【0020】なお香気成分は次のようにして分析した。
ワイン100mLに、内部標準物質(3−ヘキサノン、
4−ノナノ−ル)と食塩10gを添加し、20mLのジ
クロルメタンで30分間振とう抽出を行い、遠心分離に
よりジクロルメタン層を集め、硫酸ナトリウムで脱水、
炭酸ナトリウム溶液で洗浄し、窒素気流下で濃縮してガ
スクロマトグラフィー(GC)分析試料を得た。
【0021】GC分析はGC−MS(質量検出器)を用
い、次の条件(カラム:DB−WAX 60m×0.2
5mm、キャリアガス:He 1.2mL/分、カラム
温度:50℃ →4℃/分で昇温 →240℃で20分保
持、注入条件:スプリットレス200℃)で行い、各分
析成分に固有のm/z値に由来するピーク面積値を使用
し、予め作成した検量線を用いて定量した。
【0022】 (表1) 第1表 香気成分の比較 ────────────────────────────────── 果汁発酵(ppm) 全 体 果 肉 果肉+果芯 果肉+果皮 ────────────────────────────────── 酢酸n−ブチル 8.7 8.9 6.4 9.6 酢酸n−ヘキシル 2.1 2.6 1.9 2.2 イソブチル 32 34 40 34 アルコール イソアミル 158 136 143 168 アルコール ────────────────────────────────── 値は2連の平均値 ────────────────────────────────── 醸し発酵(ppm) 全 体 果 肉 果肉+果芯 果肉+果皮 ────────────────────────────────── 酢酸n−ブチル 20.2 21.3 16.5 16.0 酢酸n−ヘキシル 6.6 8.0 6.2 5.7 イソブチル 35 33 44 48 アルコール イソアミル 182 164 190 224 アルコール ────────────────────────────────── 値は2連の平均値
【0023】 (表2) 第2表 一般成分の比較 ─────────────────────────────────── 果汁発酵 全 体 果 肉 果肉+果芯 果肉+果皮 ─────────────────────────────────── アルコール分(%) 6.8 6.8 6.0 6.6 比重 1.0055 1.0043 1.0054 1.0051 エキス分 4.09 3.80 3.80 3.91 pH 3.96 3.98 4.02 3.97 滴定酸度(mL) 6.1 5.4 5.5 5.8 吸光度 420 nm 0.106 0.088 0.109 0.245 〃 520 nm 0.068 0.046 0.062 0.141 総フェノール 368 171 192 491 (mg/Lガリック酸換算) ─────────────────────────────────── 値は2連の平均値 ─────────────────────────────────── 醸し発酵 全 体 果 肉 果肉+果芯 果肉+果皮 ─────────────────────────────────── アルコール分(%) 6.8 6.7 6.5 6.7 比重 1.0078 1.0060 1.0077 1.0088 エキス分 4.69 4.19 4.56 4.90 pH 4.12 4.09 4.11 4.06 滴定酸度(mL) 5.1 5.2 5.1 5.6 吸光度 420 nm 0.205 0.092 0.145 0.527 〃 520 nm 0.094 0.042 0.111 0.199 総フェノール 307 175 223 419 (mg/Lガリック酸換算) ─────────────────────────────────── 値は2連の平均値
【0024】第1表より明らかなごとく、果汁発酵した
ワインと比較して固液分離をせずに発酵したワインは、
西洋ナシ果実の特徴香の主要な成分である酢酸n−ブチ
ル及び酢酸n−ヘキシルの含有量が高く、西洋ナシ果実
の香気の特徴を良く保持している。また、果肉のみを用
い、固液分離をせずに発酵することによって最も高い酢
酸n−ブチル及び酢酸n−ヘキシルの含有量が得られ
る。
【0025】第2表より明らかなごとく、果肉及び果芯
を用いて発酵したワインは420nmの吸光度(黄色の
代表値)に対する520nmの吸光度(赤色の代表値)
の比率が最も高く鮮やかな赤色を有する。また、果肉及
び果芯を用いて発酵したワインのうちでも固液分離をせ
ずに発酵したワインが最も高い価を示す。果皮を含有し
たものは420nmの吸光度及び520nmの吸光度の
値は高いが、当該比率は低く、すなわち色調が褐色系の
ワインが得られる。
【0026】上記によって醸造したナシワインについ
て、熟練したパネラーにより、下記の評価条件にしたが
って官能評価を行った。すなわち、官能評価は、2連の
試験酒を等量に混合したものに対して、17名のパネラ
ーで総合品質及び西洋ナシ果実の特徴香の強さを順位付
けする方法(3点良い又は強い→1点悪い又は弱い)で
行った。その結果を下記表3に第3表として示した。
【0027】(官能評価条件) パネル:17名 評価方法:暗番、3点法による総合評価、西洋ナシの特
徴香の強度、及び短評を記入 総合評価の基準:3−良い、2−普通、1−悪い 特徴香評価の基準:3−強い、2−普通、1−弱い
【0028】 (表3) 第3表 試験醸造ワインの官能評価結果 ─────────────────────────────────── 試験 総合 短 評 区分 得点 特徴香 (3人以上の指摘) ─────────────────────────────────── (果汁発酵) 全 体 1.50 1.91 西洋ナシの特徴香(4) 味うすい(3) 酸味(10) 果 肉 1.65 1.97 西洋ナシの特徴香(5) 酸味(6) ぼやける(3) 果肉+果芯 1.74 1.96 西洋ナシの特徴香(7) 味うすい(3) 酸味(7) ぼやける(3) 果肉+果皮 1.47 1.50 青臭い(3) 渋味(3) ─────────────────────────────────── (醸し発酵) 全 体 1.90 2.26 西洋ナシの特徴香(7) 西洋ナシの味(3) 果 肉 2.15 2.56 西洋ナシの特徴香(6) 西洋ナシの味(3) 果肉+果芯 2.06 2.18 西洋ナシの特徴香(4) 味うすい(3) 西洋ナシの味(3) 果肉+果皮 1.88 2.05 酸化臭(3) 渋味(3) 苦み(3) ───────────────────────────────────
【0029】第3表に示すごとく、官能評価においても
固液分離をせずに発酵(醸し発酵)したワインは、総合
評価が優れており西洋ナシ果実の特徴香が強いという評
価結果を得た。また、果皮を含有した部位から作られた
ワインは、臭気に欠点があり、総合品質も低い結果とな
ったが、渋味や苦味のあるワインを嗜好する消費者には
好まれる風味であった。
【0030】
【発明の効果】以上詳述したように、ナシの果実全体、
果肉のみ、又は果肉及び果芯を含む部位を使用し、これ
を破砕の後、その一部又は全部を固液分離することな
く、ワイン酵母を添加し発酵させ、ナシ果実の特徴香の
優れた、又は西洋ナシ果実の特徴香が優れ且つ色調が鮮
やかな赤色を呈するナシワインを製造することができ
る。したがって、本発明はナシワイン酒醸造上極めて有
用な醸造法である。
【0031】また本発明によれば、果実全体、果肉のみ
ではなく、缶詰工場、果汁製造工場、加工工場等から排
出される果芯、果皮、搾汁粕に果汁を添加混合して得た
混合物も原料として使用できるので、本発明は、これら
廃棄物の有効利用に新しい途を拓くものであり、公害防
止技術としてもすぐれている。
【0032】更にまた本発明によれば、ナシ部位の選
択、その混合比、固液分離の比率、ナシ部位と果汁との
混合比、ナシ品種の選択、その混合比等をコントロール
することにより、香り、味、色調等を自由に変化させる
ことができ、従来ナシワインで製造し得なかった鮮紅色
ワインや芳香ワイン等の各種バラエティーに富んだナシ
ワインを自由に醸造することができる。なお、その詳細
なメカニズムは今後の研究にまたねばならないが、香気
成分の付与については、ナシ果実等固体部分に含まれて
いる香気成分がアルコール発酵時にアルコールによって
抽出されるものと推定される。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 岡崎 直人 広島県東広島市鏡山3丁目7番1号 国 税庁醸造研究所内 (72)発明者 石川 雄章 広島県東広島市鏡山3丁目7番1号 国 税庁醸造研究所内 (56)参考文献 富山県食品研究所研究報告,1,p. 17−24,1993 (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C12G 1/00 - 3/14 JICST/JAFIC(JOIS)

Claims (5)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 ナシワイン醸造を行う方法において、ナ
    シ果実を破砕し、その一部又は全部を固液分離すること
    なく発酵させる工程を包含することを特徴とするナシの
    果実特徴香の優れたナシワインの醸造方法。
  2. 【請求項2】 ナシワイン醸造を行う方法において、ナ
    シ果実の果肉部分を分離し、当該果肉を材料として発酵
    させる工程を包含することを特徴とするナシの果実特徴
    香の優れたナシワインの醸造方法。
  3. 【請求項3】 ナシワイン醸造を行う方法において、ナ
    シ果実の果肉及び果芯部分を分離し、当該果肉及び果芯
    を材料として発酵させる工程を包含することを特徴とす
    るナシの果実特徴香に優れ且つ鮮やかな赤色を呈するナ
    シワインの醸造方法。
  4. 【請求項4】 ナシとして、西洋ナシ、中国ナシ、和ナ
    シの少なくとも一つを使用することを特徴とする請求項
    1〜3のいずれか1項に記載の方法。
  5. 【請求項5】 請求項1〜4のいずれか1項の方法によ
    って醸造してなるナシワイン。
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