JP3089402B2 - 魚介類の精巣及びその加工方法 - Google Patents

魚介類の精巣及びその加工方法

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、魚介類の精巣及び
魚介類の精巣の加工方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、魚介類の精巣は、高級な珍味とし
て食されているが、鮮度の低下が著しく早いし、また鮮
度保持のために凍結処理を行うと軟化等の品質低下が起
こるところから、殆どが生のままで低温状態で送る生送
り(チルド流通)が主体となっている。
【0003】しかしながら、この生送り(チルド流通)
は、鮮度劣化の問題、品質劣化の問題から、輸送や保管
ができる期間が限定されるので、遠隔地への供給となる
と空輸に頼らざるを得ず、流通にかかるコストが大きく
なり、流通末端での売価が高額になる。
【0004】また、鮮度劣化の問題から、原魚が水揚げ
されると、当日または遅くとも翌日には精巣を取り出し
て出荷しなければならず、計画的な出荷が困難であっ
た。更に、輸送中にも品質の劣化が起こることも多く、
需要に応じた安定的な供給が困難であった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記従来の
技術が有する問題点に鑑みてなされたものであって、そ
の目的とするところは、次のようなことができるものを
提供しようとするものである。 1.魚介類の精巣の軟化等に伴う経時的な品質の劣化を
防止すること。 2.魚介類の精巣の凍結、解凍に伴う品質の劣化を防止
すること。 3.魚介類の精巣の凍結変性を防止すること。 4.上記2、3によって魚介類の精巣の凍結保存を可能
にすること。 5.軟化等の品質劣化を起こした魚介類の精巣の復元を
図ること。
【0006】
【課題を解決するための手段】第1発明は、トランスグ
ルタミナーゼとベタインとトレハロースにて処理した魚
介類の精巣である。 第2発明は、魚介類の精巣をトラン
スグルタミナーゼとベタインとトレハロースを含有する
溶液若しくは粉末製剤で処理する魚介類の精巣の加工方
法である。
【0007】第2発明は、下記のように構成することが
できる。 1.上記処理に使用するトランスグルタミナー
ゼの濃度は、魚介類の精巣1gに対して0.01〜5単
位である。 2.上記処理に使用するトランスグルタミナ
ーゼと共存するベタイン及びトレハロースの濃度は、魚
介類の精巣の重量に対して、各々0.1〜20重量%で
ある。
【0008】
【発明の実施の形態】上記魚介類の精巣としては、真
鱈、助宗鱈の精巣があるが、あんこう、ふぐ、その他の
精巣も対象とすることができる。上記トランスグルタミ
ナーゼ(transglutaminase,γ- glutamyl transferase)
は、ペプチド鎖内にあるグルタミン残基のγ−カルボキ
シアミド基のアシル転移反応を触媒する酵素であって、
このトランスグルタミナーゼはアシル受容体としてタン
パク質中のリジン残基ε−アミノ基が作用すると、分子
内にε-(γ-Glu)-Lys架橋結合が形成される。このトラ
ンスグルタミナーゼは、動物由来のもの、植物由来のも
の、微生物由来のものなどが知られているが、いずれも
用いることができる。
【0009】このトランスグルタミナーゼの活性単位
は、ベンジルオキシカルボニル−L−グルタミニルグリ
シンとヒドロキシルアミンを基質として反応を行い、生
成したヒドロキサム酸をトリクロロ酢酸の存在下で鉄錯
体を形成させ、525nm の吸収を測定し、ヒドロキサム酸
の量を検量線より求め活性を算出する。そして、1分間
に1μモルのヒドロキサム酸を生成する酵素活性を1単
位とする。
【0010】この魚介類の精巣は、上記したようにトラ
ンスグルタミナーゼを含有する溶液に浸漬する以外に、
この溶液を魚介類の精巣に噴霧等によって散布し、一定
時間その状態を保持することによって処理することもで
きる。この溶液を噴霧等によって精巣に散布する場合に
は、処理溶液の使用量が少なくなるので、上記したトラ
ンスグルタミナーゼ及びベタイン、トレハロースの各濃
度を上記のとおりとするためには、溶液中の各成分の濃
度を高くして用いることが好ましい。
【0011】更に、上記魚介類の精巣に対しては、トラ
ンスグルタミナーゼとベタイン、トレハロースを含有す
る粉末製剤を散布し、同じく一定時間その状態を保持す
ることによって処理することもできる。 この粉末製剤を
作る際に増量剤を使用することがあるが、増量剤として
は、乳 糖、デキストリン等の甘味の低いものが好ましい
ことが多い。
【0012】こうした粉末製剤は魚介類の精巣に、上記
したトランスグルタミナーゼとベタイン、トレハロース
の濃度になるような分量を散布して軽く混ぜると、魚介
類の精巣が一時的に脱水されて少しのドリップが出てく
るので、このドリップによって粉末製剤は均一的に分散
溶解される。そして、時間の経過と共に、製剤が溶けた
ドリップは再び魚介類の精巣に浸透して行って、処理を
行うことができる。 この場合、トランスグルタミナーゼ
とベタイン、トレハロースを含有する溶液に浸漬する場
合に比較して処理時間を長くとって、徐々に浸透させる
ようにすると好ましいことが多い。
【0013】
【実施例】(実施例1) 以下の方法によって処理を行った。 1.真鱈から取り出した精巣(腹出し原料)を2%の塩
水で洗浄し、洗浄液を切る。 2.トランスグルタミナーゼを0.3単位/ml含有す
る水溶液を、上記1.の洗浄済み腹出し原料と同重量用
意し、この水溶液を5〜10℃とする。 3.上記2.の水溶液中に腹出し原料を、60分間浸漬
する。 4.上記3.の工程によって、腹出し原料1gについて
0.3単位の濃度のトランスグルタミナーゼによって処
理することになる。 5.上記浸漬後、腹出し原料をザルにとって、60分間
かけて処理水溶液を切る。 6.処理の終わった精巣は、雰囲気温度5℃で保管し
た。
【0014】(実施例2) 上記実施例1の2.の工程を、トランスグルタミナーゼ
を0.3単位/mlとベタイン5重量%とトレハロース
5重量%を含有する水溶液を使用する以外は、実施例1
と同様にして、処理済みの精巣を得た。 この場合、上記
ベタインとトレハロースは、腹出し原料の重量に対して
各々5重量%の濃度となっている。
【0015】(実施例3) 上記実施例1の 1.〜5.の工程は同様とし、6.の工
程の代わりに処理の終わった精巣を−30℃で凍結処理
し、これを−25℃で保管した。
【0016】(実施例4) 上記実施例2.と同様とし、6.の工程の代わりに処理
の終わった精巣を−30℃で凍結処理し、これを−25
℃で保管した。
【0017】(実施例原料として、助宗鱈から取り出した精巣(腹出し原料)
を使用した他は、上記実施例1と同様にして、処理済み
の精巣を得た。
【0018】(実施例原料として、助宗鱈から取り出した精巣(腹出し原料)
を使用し、 上記実施例1の2.の工程、トランスグル
タミナーゼを0.3単位/mlとベタイン5重量%とト
レハロース5重量%を含有する水溶液を使用する以外
は、実施例1と同様にして、処理済みの精巣を得た。
【0019】(実施例原料として、助宗鱈から取り出した精巣(腹出し原料)
を使用し、 上記実施例と同様とし、6.の工程の代わ
りに処理の終わった精巣を−30℃で凍結処理し、これ
を−25℃で保管した。
【0020】(実施例原料として、助宗鱈から取り出した精巣(腹出し原料)
を使用し、 上記実施例と同様とし、6.の工程の代わ
りに処理の終わった精巣を−30℃で凍結処理し、これ
を−25℃で保管した。
【0021】(試験1実施例1で得たものの保管状態における経時的変化を目
視で観察した。 実施例2で得たものの保管状態における
経時的変化を目視で観察した。 比較例1:トランスグル
タミナーゼの水溶液、又はトランスグルタミナーゼとベ
タインとトレハロースを含有する水溶液で処理しない以
外は実施例1と同様にし、経時的変化を目視で観察し
た。
【0022】
【表1】
【0023】(評価・考察真鱈の精巣は、冷蔵保管1日後では、大差は見られなか
ったが、2日目から比較例1では軟化が見られ、ドリッ
プも見られた。 3日目になると比較例1では軟化が進行
し、多量のドリップが見られた。 実施例1のトランスグ
ルタミナーゼで処理したものでは、5日目まで精巣に立
体感があり、ドリップも見られなかった。 実施例2のト
ランスグルタミナーゼにベタインとトレハロースを併用
し、処理したものでは、軟化防止効果が延長され、8日
目まで軟化が見られず、ドリップも見られなかった。
施例のものでは、品質劣化の防止効果が上がっているこ
とが判る。
【0024】(試験2実施例3で得たものを−25℃で保管し、1月後、2月
後、3月後に解凍して目視で観察した。 実施例4で得た
ものを−25℃で保管し、実施例3と同様に解凍して目
視で観察した。 比較例2:トランスグルタミナーゼの水
溶液、又はトランスグルタミナーゼとベタインとトレハ
ロースを含有する水溶液で処理しない以外は実施例3と
同様にし、経時的変化を目視で観察した。
【0025】
【表2】
【0026】(評価・考察真鱈の精巣は、凍結解凍すると、比較例2では軟化し、
多量のドリップが流出 した。 実施例3のトランスグルタ
ミナーゼで処理したものでは、2月後まで凍結前の状態
と殆ど変わらず精巣に立体感があり、ドリップも見られ
なかった。 実施例4のトランスグルタミナーゼにベタイ
ンとトレハロースを併用し、処理したものでは、3月後
まで凍結前の状態と、殆ど変わらず精巣に立体感があ
り、ドリップも見られなかった。 この実施例4では、凍
結、解凍に伴う品質劣化の防止が図られている。これに
よって、従来不可能とされていた精巣の凍結による長期
の保存が可能となったことが判る。
【0027】(試験3実施例5で得たものの保管状態における経時的変化を目
視で観察した。 実施例6で得たものの保管状態における
経時的変化を目視で観察した。 比較例3:トランスグル
タミナーゼの水溶液、又はトランスグルタミナーゼとベ
タインとトレハロースを含有する水溶液で処理しない以
外は実施例5と同様にし、経時的変化を目視で観察し
た。
【0028】
【表3】
【0029】(評価・考察助宗鱈の精巣は、比較例3では冷蔵保管半日位から軟化
し始め、2日目では軟化が進行し、多量のドリップが見
られた。 実施例5のトランスグルタミナーゼで処理した
ものでは、4日目まで精巣に立体感があり、ドリップも
殆ど見られなかった。 実施例6のトランスグルタミナー
ゼにベタインとトレハロースを併用し、処理したもので
は、8日目まで軟化が見られず、ドリップも見られなか
った。 実施例6で判るように助宗鱈の精巣に対する処理
においても、軟化防止の効果が表れている。
【0030】(試験4実施例7で得たものを、実施例3と同様に−25℃で保
管し、1月後、2月後、3月後に解凍して目視で観察し
た。 実施例8で得たものを−25℃で保管し、実施例7
と同様に解凍して目視で観察した。 比較例4:トランス
グルタミナーゼの水溶液、又はトランスグルタミナーゼ
とベタインとトレハロースを含有する水溶液で処理しな
い以外は実施例7と同様にし、経時的変化を目視で観察
した。
【0031】
【表4】
【0032】(評価・考察助宗鱈の精巣は、凍結解凍すると、比較例4では軟化
し、多量のドリップが流出した。 実施例7のトランスグ
ルタミナーゼで処理したものでは、1月後まで凍結前の
状態と殆ど変わらず精巣に立体感があり、ドリップも見
られなかった。 実施例8のトランスグルタミナーゼにベ
タインとトレハロースを併用し、処理したものでは、3
月の冷凍保管で凍結前の状態と変わらず精巣に立体感が
あり、ドリップも見られなかった。 助宗鱈の精巣に対す
る実施例の処理によって、凍結、解凍による軟化の防止
効果が見られる。これによって、助宗鱈の精巣に対して
も、従来不可能とされていた凍結による長期の保存が可
能となったことが判る。
【0033】(実施例9トランスグルタミナーゼ 0.06重量% トレハロース 40.0重量% ベタイン 40.0重量% 乳糖 19.94重量% を混合して、1g当たりトランスグルタミナーゼ6単位
を含有する粉末製剤を得る。 真鱈の腹出し原料100g
に対して、この粉末製剤を5gの割合で散布する。これ
によって腹出し原料1gを処理するのに使用するトラン
スグルタミナーゼの濃度は0.3単位となっている。
記腹出し原料と粉末製剤を、容器内で軽く混ぜ合わせ、
5℃の冷蔵庫内に一晩保存して、処理済みの精巣を得
た。
【0034】(経過・考察腹出し原料に粉末製剤を添加して、容器内で軽く混ぜ合
わせることにより、一時的に脱水されてドリップが出て
くるが、そのドリップに粉末製剤が分散されて溶け、時
間の経過とともに製剤の溶けたドリップが、精巣に再浸
透されて行った。 処理済みの精巣は、上記実施例2とほ
ぼ同様の性質を有する良好なものであった。
【0035】(実施例10以下の方法によって軟化した真鱈の精巣の復元処理を行
った。 1.軟化の進行した真鱈の精巣を2%の塩水で洗浄し、
洗浄液を切る。 2.トランスグルタミナーゼを0.3単位/ml含有す
る水溶液を、上記1.の真鱈の精巣と同重量用意し、こ
の水溶液を5〜10℃とする。 3.上記2.の水溶液中に上記1.で得た真鱈の精巣を
60分間浸漬する。 4.上記3.の工程によって、腹出し原料に1gについ
て0.3単位の濃度のトランスグルタミナーゼによって
処理することになる。 5.上記浸漬後、腹出し原料をザルにとって、雰囲気温
度5℃の冷蔵庫に入れ、一晩かけて処理水溶液を切る。
【0036】(実施例11上記実施例10の2.の工程を、トランスグルタミナー
ゼを0.3単位/mlとベタイン5重量%とトレハロー
ス5重量%を含有する水溶液を使用する以外は、実施例
10と同様にして、処理済みの精巣を得た。 この場合、
上記ベタインとトレハロースは、腹出し原料の重量に対
して各々5重量%の濃度となっている。
【0037】(試験5実施例10の一晩かけて処理水溶液を切ったものを、目
視で観察した。 実施例11も実施例10と同様に目視で
観察した。 比較例5:トランスグルタミナーゼの水溶
液、又はトランスグルタミナーゼとベタインとトレハロ
ースを含有する水溶液で処理しない以外は実施例10と
同様にし、目視で観察した。
【0038】
【表5】
【0039】(評価・考察軟化した真鱈の精巣は、比較例5では変化が見られな
い。 実施例10のトランスグルタミナーゼで処理したも
のでは、真鱈の精巣に立体 感が見られ、復元効果が見ら
れる。 実施例11のトランスグルタミナーゼにベタイン
とトレハロースを併用し、処理したものでは、立体感が
あって、しっかりと固化しており、良好な復元効果が見
られる。 上記の実施例によって、軟化した精巣に対する
復元効果が表れていることが判る。
【0040】
【発明の効果】本発明によれば、上記したようにトラン
スグルタミナーゼ、またはトランスグルタミナーゼとベ
タイン、トレハロースを含有する処理液又は粉末製剤に
よって処理することによって、魚介類の精巣の軟化等を
伴う経時的な品質の劣化を防止することができる。ま
た、魚介類の精巣の凍結、解凍に伴う品質の劣化を防止
することができるし、凍結変性を防止することができ
る。これによって、従来不可能とされていた魚介類の精
巣の凍結による長期の保存が可能となった。更に、軟化
等の品質劣化を起こした魚介類の精巣の復元を効果的に
行うことができる。 魚介類の精巣としては、上記した真
鱈、助宗鱈の精巣のほか、ふぐの精巣、あんこうの精
巣、その他の精巣にも広く同様に適用することができ
る。
フロントページの続き (56)参考文献 特開 平6−261712(JP,A) 特開 平2−100654(JP,A) 特開 平6−153869(JP,A) 特開 平5−316937(JP,A) 特開 平8−116930(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) A23L 1/325 A23B 4/08

Claims (4)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 トランスグルタミナーゼとベタインとト
    レハロースにて処理したことを特徴とする魚介類の精
    巣。
  2. 【請求項2】 魚介類の精巣をトランスグルタミナーゼ
    とベタインとトレハロースを含有する溶液若しくは粉末
    製剤で処理することを特徴とする魚介類の精巣の加工方
    法。
  3. 【請求項3】 上記処理に使用するトランスグルタミナ
    ーゼの濃度は、魚介類の精巣1gに対して0.01〜5
    単位である請求項2記載の魚介類の精巣の加工方法。
  4. 【請求項4】 上記処理に使用するトランスグルタミナ
    ーゼと共存するベタイン及びトレハロースの濃度は、魚
    介類の精巣の重量に対して、各々0.1〜20重量%で
    ある請求項記載の魚介類の精巣の加工方法。
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