JP3069694B1 - 針葉樹不定胚の培養方法 - Google Patents

針葉樹不定胚の培養方法

Info

Publication number
JP3069694B1
JP3069694B1 JP11068750A JP6875099A JP3069694B1 JP 3069694 B1 JP3069694 B1 JP 3069694B1 JP 11068750 A JP11068750 A JP 11068750A JP 6875099 A JP6875099 A JP 6875099A JP 3069694 B1 JP3069694 B1 JP 3069694B1
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
cell mass
cell
cells
spherical
adventitious
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Expired - Lifetime
Application number
JP11068750A
Other languages
English (en)
Other versions
JP2000262279A (ja
Inventor
浜子 笹本
信二郎 荻田
Original Assignee
林野庁森林総合研究所長
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by 林野庁森林総合研究所長 filed Critical 林野庁森林総合研究所長
Priority to JP11068750A priority Critical patent/JP3069694B1/ja
Priority to NZ501621A priority patent/NZ501621A/en
Priority to CA002293945A priority patent/CA2293945A1/en
Priority to SE0000020A priority patent/SE523524C2/sv
Application granted granted Critical
Publication of JP3069694B1 publication Critical patent/JP3069694B1/ja
Publication of JP2000262279A publication Critical patent/JP2000262279A/ja
Anticipated expiration legal-status Critical
Expired - Lifetime legal-status Critical Current

Links

Classifications

    • AHUMAN NECESSITIES
    • A01AGRICULTURE; FORESTRY; ANIMAL HUSBANDRY; HUNTING; TRAPPING; FISHING
    • A01HNEW PLANTS OR NON-TRANSGENIC PROCESSES FOR OBTAINING THEM; PLANT REPRODUCTION BY TISSUE CULTURE TECHNIQUES
    • A01H7/00Gymnosperms, e.g. conifers
    • AHUMAN NECESSITIES
    • A01AGRICULTURE; FORESTRY; ANIMAL HUSBANDRY; HUNTING; TRAPPING; FISHING
    • A01HNEW PLANTS OR NON-TRANSGENIC PROCESSES FOR OBTAINING THEM; PLANT REPRODUCTION BY TISSUE CULTURE TECHNIQUES
    • A01H4/00Plant reproduction by tissue culture techniques ; Tissue culture techniques therefor
    • A01H4/005Methods for micropropagation; Vegetative plant propagation using cell or tissue culture techniques
    • CCHEMISTRY; METALLURGY
    • C12BIOCHEMISTRY; BEER; SPIRITS; WINE; VINEGAR; MICROBIOLOGY; ENZYMOLOGY; MUTATION OR GENETIC ENGINEERING
    • C12NMICROORGANISMS OR ENZYMES; COMPOSITIONS THEREOF; PROPAGATING, PRESERVING, OR MAINTAINING MICROORGANISMS; MUTATION OR GENETIC ENGINEERING; CULTURE MEDIA
    • C12N5/00Undifferentiated human, animal or plant cells, e.g. cell lines; Tissues; Cultivation or maintenance thereof; Culture media therefor
    • C12N5/04Plant cells or tissues

Abstract

【要約】 【課題】本発明は、針葉樹の不定胚形成細胞を効率的に
培養し、さらに針葉樹において大量の不定胚を形成させ
る技術を提供することを課題とする。 【解決手段】 液体培地で、不定胚形成細胞が球状細胞
塊の組織形態となる傾向を示す細胞密度で培養して球状
細胞塊を増殖させ、さらに不定胚形成細胞が胚柄部伸長
細胞塊の組織形態となる傾向を示す細胞密度で培養して
胚柄部伸長細胞塊への成熟化を行う。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、針葉樹の不定胚を
培養する方法に関し、詳しくは、不定胚形成細胞を効率
的に増殖、成熟化させて、針葉樹の不定胚を大量に培養
する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】植物組織培養技術を用いて植物体を得る
方法は、不定芽や不定根を形成させる方法と不定胚を形
成させる方法に大別される。これらの方法のうち、カル
スや不定胚形成細胞(Embryogenic cell(s))などの培
養細胞を経由する植物体再生技術は、植物体の大量増殖
に役立つのみならず、近年重要視されているバイテク育
種技術、すなわち細胞融合法や遺伝子導入法による有用
新形質を付与した植物体の作出および増殖に必要不可欠
な技術として位置づけられている。
【0003】植物には、裸子植物(針葉樹)と被子植物
(草本性植物、広葉樹)とがある。針葉樹においては、
特に林業上重要な樹種であるマツ科マツ属、トウヒ属、
カラマツ属等で培養細胞(カルス)からの不定芽形成が
報告されている(マツ科マツ属:Washer et al(1997)
N. Z. J. For. Sci. 7:321-328、Minocha(1980)Ca
n. J. Bot 58:366-370、トウヒ属:Simola and Honkan
en(1983) Physiol.Plant. 59:551-561、Lu and Thorp
e(1988)In Vitro Cell Dev. Biol 24:239-245、カラ
マツ属:Laliberte and Lalonde(1990) Can. J. Bot.
68:979-989)。LaliberteとLalondeは、雑種欧州カラ
マツ(Larix×eurolepis)のカルス培養において、カル
スに生じる色調と組織形態の差に着目し、不定芽形成能
力とカルスの色調、組織形態には密接な関連性があるこ
とを見いだした。本発明者らもこれまでに、日本産カラ
マツ(Larix leptolepis)、エゾマツにおいてカルスの
組織形態的特徴と不定芽形成能力の関連性について研究
を行っている。(Ogita. et al.(1996)Mokuzai Gakka
ishi Vol.42, 11:1042-1048, Ogita et al.(1997) Jo
urnal of Forest Research Vol.2, 3:141-145)。
【0004】しかし、カルス由来の不定芽は、その伸長
が緩慢な場合があること、あるいは発根が困難な場合が
あることも指摘されている。すなわち、現在のところ針
葉樹におけるカルス経由の不定芽形成法については十分
な成果が得られているとはいいがたい。
【0005】また、従来、針葉樹の組織培養(または細
胞培養)は寒天等の固体培地を用いて行われてきたが、
固体培地で成長している細胞塊は様々な性質を持った細
胞の不均一な集合体となる傾向にある(Laliberte and
Lalonde(1990) Can. J. Bot. 68:979-989)。
【0006】他方、1985年にはトウヒ属やカラマツ属の
針葉樹で最初の不定胚形成が報告された(トウヒ属:Ha
kman and Bonga(1985) J. Plant Physiol 121:149-15
8、カラマツ属:Nagamani and Bonga(1985) Can. J.
For. Res. 15:1088-1091)。以来多くの針葉樹種で不定
胚形成に関する成果が報告されている(例えば、Dunsta
n et al.(1995) In:Thorpe(ed)In vitro embryogen
esis in plants, Kluwer Academic Publishers, Dordr
echt, pp 471-538など)。
【0007】一般に、不定胚形成細胞とは、不定胚へと
分化する能力を有する細胞のことをいい、組織形態的に
は、針葉樹の不定胚形成細胞では頂端部(Embryonal re
gion)と胚柄部(Suspensor region)とが結合した構造
を有することを特徴とする典型的な初期不定胚(early
somatic embryo)を含む細胞塊と定義されている。頂端
部は細胞質に富む小さな細胞部分であり、胚柄部は伸長
して液胞に富む細胞部分である。一方、一般に被子植物
(草本生殖物および広葉樹)の場合は異なり、不定胚形
成能力を持った細胞質に富む小さな細胞塊とされている
(例えば、ニンジン Halperin(1995) In:Thorpe(e
d) In vitro embryogenesis in plants,Kluwer Academ
ic Publisher, Dordrecht, ppl-16)。
【0008】針葉樹の不定胚形成細胞の組織形態的特徴
と不定胚への成熟化能力、さらに植物体再生能力との関
連性については、近年外国産トウヒ属で報告されている
(Jalonen and von Arnold(1991) Plant Cell Report
s 10 384-387, Egertsdotterand von Arnold(1993)
J. Plant Physiol. 141 222-229)。さらに液体懸濁培
養法による不定胚形成に関しても研究がなされている
(例えば、Krogstrup(1990) Plant Sci. 72 115-123,
Egertsdotter and von Arnold(1998) J. Experiment
al Botany 49(319)155-162)。このように針葉樹の不
定胚形成細胞に関しては、いくつかの知見が得られてい
るが、未知の点も多い。実際、固体培地でカラマツ不定
胚形成細胞を培養した場合、大量の不定胚を形成させる
ことは困難であり、また、植物体再生に至る効率は低か
った。
【0009】本発明者らは、既に日本産カラマツ不定胚
形成細胞を誘導し、その発達段階のごく初期における組
織形態的特徴を観察、特定した(Ogita et al.(1997)
Forest Resources Environ. 35 45-51)。さらに、固
体培地での培養に比べて、特定の細胞を効率よく培養す
るために有利である液体懸濁培養の手法を用いることに
よって、その組織形態的特徴と不定胚の成熟化・植物再
生能力の間には密接な関連性があることを見いだした
(荻田(1997)東京農工大学大学院連合農学研究科、学
位論文)。
【0010】なお、植物の不定胚を液体培地で増殖する
方法としては、液体培地で植物体を懸濁培養する際に、
溶存酸素、pHを調節して植物培養細胞の高密度培養を
行うことなどの報告がある(特開平9−220036号
公報)。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】針葉樹の細胞(カル
ス、不定胚形成細胞を含む)培養に関し、組織形態学的
視点から細胞の分化能力を評価した研究はまだ十分では
なく、このような手法は、細胞からの植物体再生に関す
る研究を推進するために重要であるといえる。
【0012】また、固体培地で培養した場合、細胞塊の
性質は不均一なものとなる傾向にあり、このことは培養
細胞からの植物体再生を困難にさせる原因の一つとな
る。もし、分化能力を持つ細胞を特定し、それらを選択
的に効率よく培養することができれば、困難である針葉
樹培養細胞から高頻度な植物体再生が可能になると考え
られる。
【0013】さらに、不定胚からの植物体再生法が安定
した培養技術として確立されれば、不定芽形成で指摘さ
れるような伸長の緩慢さや発根処理に関する問題は解消
し、針葉樹の育種、栽培に関する研究が一層推進される
ことが期待できる。不定胚は、通常の種子と同じく、頂
端分裂組織すなわち芽として分化する部位と根端分裂組
織すなわち根として分化する部位とを併せ持つ構造を持
つので通常の種子のように扱うことができる点でも都合
がよい。
【0014】本発明は、上記の観点からなされたもので
あり、針葉樹の不定胚形成細胞を効率的に培養し、さら
に針葉樹において大量の不定胚を形成させる技術を提供
することを課題とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、以上の見
地から鋭意研究を重ねた結果、液体培地において培養細
胞の細胞密度を適宜調節して培養を行うことによって、
針葉樹の不定胚形成細胞を組織形態的に均一にかつ大量
に増殖することができ、ひいては液体培地中で効率よく
大量に、発芽する能力をもった針葉樹の不定胚を得るこ
とができることを見出し、本発明を完成させた。
【0016】すなわち、本発明は、液体培地中で不定胚
形成細胞から不定胚を培養する方法であって、液体培地
中の初期不定胚形成細胞の細胞密度を調節して球状細胞
塊を増殖させる工程と、液体培地中の球状細胞塊の細胞
密度を調節して球状細胞塊から胚柄部伸長細胞塊へと成
熟化させる工程とを含み、前記球状細胞塊を増殖させる
工程で調節する細胞密度が2.1〜10%であり、前記胚柄
部伸長細胞塊へと成熟化させる工程で調節する球状細胞
塊の細胞密度が0.1〜1.9%であることを特徴とする針葉
樹不定胚の培養方法である。なお、上記数値は、当該工
程の開始時の条件である(以下の細胞密度の数値範囲に
ついても同様である)。
【0017】また、本発明は、液体培地中で不定胚形成
細胞から不定胚を培養する方法であって、液体培地中の
球状細胞塊の細胞密度を調節して球状細胞塊を増殖させ
る工程と、液体培地中の球状細胞塊の細胞密度を調節し
て球状細胞塊から胚柄部伸長細胞塊へと成熟化させる工
程とを含み、前記球状細胞塊を増殖させる工程で調節す
る細胞密度が2.1〜10%であり、前記胚柄部伸長細胞塊
へと成熟化させる工程で調節する細胞密度が0.1〜1.9%
であることを特徴とする針葉樹不定胚の培養方法であ
る。
【0018】また、本発明は、胚柄部伸長細胞塊へと成
熟化させる工程の後、胚柄部伸長細胞塊を、胚柄部伸長
細胞塊から不定胚への成熟化を促進する細胞成長促進剤
を含む液体培地で培養することが好ましい。
【0019】また、本発明は、針葉樹の不定胚形成細胞
の一形態である球状細胞塊を液体培地で増殖させる方法
であって、初期不定胚形成細胞または球状細胞塊の細胞
密度を2.1〜10%に調節して液体培地中で球状細胞塊を
増殖させる方法である。
【0020】また、本発明は、針葉樹の不定胚形成細胞
の一形態である球状細胞塊を胚柄部伸長細胞塊へと液体
培地で成熟化させる方法であって、球状細胞塊の細胞密
度を0.1〜1.9%に調節して液体培地中で球状細胞塊を胚
柄部伸長細胞塊へと成熟化させる方法である。
【0021】
【0022】
【発明の実施の形態】本発明の針葉樹不定胚の培養方法
では、液体培地中の不定胚形成細胞の細胞密度を調節す
ることにより、不定胚形成細胞の増殖、成熟化を制御
し、針葉樹の不定胚を得るものである。
【0023】本明細書中では、不定胚形成細胞が不定胚
へと至る過程における不定胚形成細胞の組織形態的な違
いを区別する用語として、「初期不定胚形成細胞」、
「球状細胞塊」、「胚柄部伸長細胞塊」の語を用いる。
【0024】「初期不定胚形成細胞」は、初期段階の不
定胚形成細胞(単数、あるいは複数が一塊になった細胞
塊のいずれの場合も含む)のことをいい、いわゆるカル
スからの発達の度合いが異なる均一ではない細胞をい
う。
【0025】「球状細胞塊」は、一塊り(およそ数〜十
数個程度の細胞)が球状の小細胞塊の形態を呈する状態
のもののことをいう。より詳しく説明すると、(i)直
径20〜50μm程度の細胞質に富む小さな細胞と、(i
i)直径50〜100μm程度(100〜150μmのものを含む
場合もある)の大きな液胞を含む細胞とからなる細胞塊
である。用いる針葉樹種や培養する際の細胞密度によっ
て、その直径、細胞塊を構成する(i)の細胞と(i
i)の細胞の割合は変化し得る。すなわち、(i)また
は(ii)の細胞のいずれか一方が大部分を占める場合
もある。カラマツを例にとると、通常、細胞塊の直径が
70〜150μmであり、数個から十数個の(i)の細胞と
数個の(ii)の細胞とから構成される。
【0026】「胚柄部伸長細胞塊」は、胚柄部分が伸長
した状態を呈するものをいう。
【0027】なお、「初期不定胚形成細胞塊」を実際に
培養した際の培養細胞中には、結果的には不定胚を形成
するに至らない細胞も混在していることもあり得るが、
本発明において「細胞密度」の調節とは、初期不定胚形
成細胞塊のみからなる集団(細胞塊群)の細胞密度を調
節する場合はもちろん、結果としては不定胚形成能力の
ない又は非常に低い細胞が混在した状態の細胞密度を調
節する場合も含む。また、「球状細胞塊」、「胚柄部伸
長細胞塊」などという場合も同様である。
【0028】本発明の不定胚の培養方法では、不定胚形
成細胞の増殖を制御し、成熟化を制御するために、不定
胚形成細胞が球状細胞塊の組織形態となる傾向を示す細
胞密度で、不定胚形成細胞を培養する工程と、不定胚形
成細胞が胚柄部伸長細胞塊の組織形態となる傾向を示す
細胞密度で、不定胚形成細胞を培養する工程とを有す
る。不定胚形成細胞の多くが球状細胞塊の組織形態をと
るような細胞密度に調節すると、球状細胞塊の増殖が促
進され、均一な球状細胞塊を多数得られる。
【0029】さらに、得られた球状細胞塊を、胚柄部
細胞塊に高頻度で成熟化させることができる細胞密度
に調節して培養することにより、最終的には、効率よく
大量の不定胚を得ることができる。
【0030】細胞密度の調節は、液体培地中の細胞の量
を調節できればよく、例えば、圧縮細胞量(PCV)を
測定し、PCVを調節することにより行うことができ
る。本明細書において示した細胞密度の数値は、細胞を
含む液体培地すなわち培養液中の圧縮細胞量(PCV)
として求めたものである。PCVは、細胞を含む液体培
地(以下、「培養液」ということもある)を一定量、遠
心管に取り、一定の条件(一定の遠心力と時間など)で
細胞を沈降させたときの細胞容量である。例えば、10ml
の培養液中に圧縮された細胞1mlが含まれていたとする
と、10%の細胞密度となる。本明細書中の細胞密度測定
に当たっては、500rpm、3分間の条件でPCVの測定を
行った。
【0031】上記の条件以外は、一般に行われる不定胚
の培養方法に準拠し、適宜条件を調節して培養を行うこ
とができるが、以下に本発明の方法のより具体的な態様
について説明する。
【0032】以下、本発明の方法のより具体的な態様を
説明する。
【0033】まず本発明の第1の具体的態様(以下、単
に「第1の態様」という)として、液体培地中で不定胚
形成細胞から不定胚を培養する方法であって、(A)初
期不定胚形成細胞の細胞密度を調節した液体培地中で球
状細胞塊を増殖させる工程と、(B)球状細胞塊の細胞
密度を調節した液体培地中で球状細胞塊から胚柄部伸長
細胞塊へと成熟化させる工程と、を含む針葉樹不定胚の
培養方法について説明する。
【0034】この第1の態様では、初期不定胚形成細胞
を出発材料とし、球状細胞塊、胚柄部伸長細胞塊を経て
不定胚を得る。
【0035】出発材料として用いる針葉樹種の初期不定
胚形成細胞としては、初期不定胚形成細胞が含まれる細
胞群を用いることができるが、初期不定胚形成細胞を高
い割合で含む培養細胞を用いることが好ましい。樹種な
どにより程度の差が生じ得るが、例えば、荻田らの手法
に従って初期不定胚形成細胞を得ることができる。すな
わち、針葉樹種の初期不定胚形成細胞は、例えば、荻田
らの手法に従って(Ogita et al(1997) Forest Resou
rces Environ. 35 45-51)、植物ホルモンとしてオーキ
シンである2,4−Dを7μMおよびサイトカイニンであ
るBAPを3μM含む固体の改変CD培地(modified C
ampbell and Durzan medium。なお、特に断らない限
り、mCD培地などの培地は液体のものである。)で誘
導し、同一の固体mCD培地で増殖して、初期不定胚形
成細胞を培養細胞として得られる。適宜植物ホルモンな
どの組成を調節したmCD培地は、カラマツのみなら
ず、他の針葉樹種の不定胚形成細胞誘導にも有効である
(例えばスギ:荻田ら(1998)第109回日本林学会大会
講演要旨集p189)。なお、本発明者はモデル培養系とし
て既に日本産カラマツの初期不定胚形成細胞を得てい
る。なお、本明細書でいう「初期不定胚形成細胞」は、
「Ogita et al(1997) Forest Resources Environ. 35
45-51」中では「エンブリオジェニックカルス」に相当
する。
【0036】(A)の工程で用いる初期不定胚形成細胞
は、固体培地上で培養、保存することができ、これを液
体培地に移して懸濁培養できる。なお、最初に持ってい
る初期不定形成細胞の量が少なければ、球状細胞塊の増
殖工程の前に初期不定胚形成細胞の懸濁培養を行い、細
胞密度を調節するのに適当な量を得るようにしてもよ
く、懸濁培養を増殖工程の前処理として行うことは、細
胞密度の調節操作も容易になる点でも好ましい。この初
期不定胚形成細胞の懸濁培養に用いることのできる培地
としては、CD培地、MS(Murashige and Skoog medi
um)培地、GD培地(Gresshoff and Doy medium)など
が挙げられる。また、これらの培地をベースとして成分
を適宜調整して改変した、mCD培地、mMS培地、m
GD培地などを用いることもできる。懸濁は、振とうな
ど通常の方法で行うことができ、また液体培地に懸濁し
た後、静置培養することも可能である。用いる針葉樹種
によって、振とうの程度、培養期間、明暗の条件などの
培養条件は適宜調整することができる。
【0037】上述したように(A)の工程は、初期不定
胚形成細胞の細胞密度を調節した液体培地で球状細胞塊
を増殖させる意義がある。なお、当該(A)の工程を開
始する際には、液体培地中で初期不定胚形成細胞の細胞
密度を調節する必要がある。より具体的には、細胞密度
は、好ましくは2.1〜10%であり、特に好ましくは3〜
5%である。
【0038】この範囲であれば、初期不定胚形成細胞塊
から球状細胞塊を効率よく大量に増殖することがき、ま
た培養液がさほどゲル状にならず取扱いが容易である。
他方、下限を下回るのでは球状細胞塊の均一性、増殖の
程度が低下する傾向になる。なお、増殖工程における培
養を継続しているうちに上記上限以上の細胞密度となっ
ても、増殖の傾向に支障がなければ再度細胞密度の調節
を行うことなく培養を継続してもよい。ただし、培養液
がゲル状になり、後の操作を行いにくくなる場合があ
る。
【0039】(A)の工程で用いる液体培地としては、
CD培地、MS(Murashige and Skoog medium)培地、
GD培地(Gresshoff and Doy medium)などが挙げられ
る。また、これらの培地をベースとして成分を適宜調整
して改変した、mCD培地、mMS培地、mGD培地な
どを用いることもできる。
【0040】また、球状細胞塊の増殖工程における培養
の温度条件は、針葉樹種にもよるが20〜27℃が好まし
く、25℃程度が特に好ましい。
【0041】培養は、旋回振とう器などを用いた振とう
培養、または静置培養などにより行うことができる。振
とう(懸濁)の程度、培養期間、明暗の条件などは、針
葉樹種により適宜調節することができる。
【0042】また、(A)の工程により培養液中の球状
細胞塊は増加するので、適宜、球状細胞塊の細胞密度の
調節を繰り返すことで、球状細胞塊の増殖を継続的に行
うことができる。針葉樹の樹種などにもよるが、およそ
3〜4週間程度ごとに調節を繰り返すことが好ましい。
【0043】上記(A)の工程により、一般に組織形態
的には不均一な状態にある初期不定胚形成細胞から、組
織形態的に均一な多数の球状細胞塊を効率よく得ること
ができる。
【0044】次に(B)の工程について述べると、この
工程は、(A)の工程で球状細胞塊を多量に得た後、球
状細胞塊の細胞密度を調節し、球状細胞塊から胚柄部伸
長細胞塊へと成熟化させる工程である。
【0045】この(B)の工程おいては、液体培地中の
球状細胞塊の細胞密度を、好ましくは0.1〜1.9%、特に
好ましくは0.1〜0.5%に調節する。この範囲内であれ
ば、高頻度で球状細胞塊を胚柄部伸長細胞塊へと成熟化
させ、最終的には、多量の不定胚を得ることができる。
他方、上記下限を下回っては、不定胚を大量に生産する
上での効率は低く、また上限を越えては、成熟化が十分
に行われにくい。なお、成熟化が進行してPCVが上昇
し、成熟化が抑制されてしまうような場合には、適宜培
地を新鮮なものに交換し、また細胞密度の調節を繰り返
すことが好ましいが、成熟化が抑制されなければ、再度
細胞密度を調節することなく、培養を継続してもよい。
【0046】(B)の工程で用いる液体培地としては、
CD培地、MS培地、GD培地などが挙げられる。ま
た、これらの培地をベースとして成分を適宜調整して改
変した、mCD培地、mMS培地、mGD培地などを用
いることもできる。
【0047】また、(B)の工程における培養の温度条
件は、針葉樹種にもよるが、好ましくは20〜27℃、特に
好ましくは25℃程度である。
【0048】培養の手法としては、旋回振とう器などを
用いた振とう培養が好ましい。また、暗条件、明条件の
いずれでも成熟化は進行するが、好ましくは暗条件とす
る。
【0049】さらに、(B)の工程で得られた胚柄部伸
長細胞塊を、上記の条件でさらに継続して培養し、成熟
化を進行させることで、不定胚を得ることができる。な
お、胚柄部伸長細胞を得た後さらに成熟化を進行させる
ための好ましい態様については下記にて別途説明する。
【0050】上記のように、また、(A)工程により球
状細胞塊を増殖し、(B)の工程により球状細胞塊から
胚柄部伸長細胞を高頻度に成熟化させることができるの
で、本発明の方法により、極めて効率的に大量の不定胚
を得ることが可能である。従来、不定胚形成細胞の発達
過程においては、球状細胞塊の状態となると、単に固体
培地での培養や液体培地での懸濁培養等を継続しても、
その発達が抑制されてしまう場合が多くみられ、球状細
胞塊から成熟化して不定胚に至る割合は高くないことか
ら、球状細胞塊から胚柄部伸長細胞塊を形成することは
困難と考えられていたが、本発明は、このような技術的
な困難性を克服し、上記のような効果を達成した。
【0051】また、(A)または(B)の工程でそれぞ
れ得られる球状細胞塊、胚柄部伸長細胞塊は、それぞれ
組織形態的に均一であり、従来ニンジンなどの他の植物
の培養で行われるような、細胞メッシュろ過などによる
特定の組織形態を有する細胞の選抜などの操作の必要性
は低いものと考えられ、本発明は、作業効率の点でも優
れている。
【0052】次に、第2の態様について第1の態様と異
なる部分を中心に説明する。
【0053】第1の態様では、初期不定胚形成細胞の細
胞密度を調節して培養を行うことにより、球状細胞塊を
増殖するが、第2の態様では、球状細胞塊の細胞密度を
調節して球状細胞塊を増殖する。すなわち、一旦、球状
細胞塊を得た後は、必ずしも初期不定胚形成細胞から培
養を開始する必要はなく、球状細胞塊の細胞密度の調節
を繰り返すことにより、大量に球状細胞塊を得ることが
できる。得られた球状細胞塊は、随時、第1の態様で説
明した(B)の工程を経て大量の不定胚へと誘導するこ
とができる。球状細胞塊を増殖させる工程における、液
体培地中の球状細胞塊の細胞密度は、初期不定胚形成細
胞塊の場合と同様に、好ましくは2.1〜10%であり、特
に好ましくは3〜5%である。また、球状細胞塊から胚
柄部伸長細胞塊へと成熟化させる工程における、液体培
地中の球状細胞塊の細胞密度は、好ましくは0.1〜1.9%
であり、特に好ましくは0.1〜0.5%である。
【0054】また、十分に発達した不定胚をさらに高頻
度に得るためには、第1または第2の態様の方法におい
て、(B)の工程を経て球状細胞塊から成熟化した胚柄
部伸長細胞塊を、胚柄部伸長細胞塊から不定胚への成熟
化を促進することができる細胞成長促進剤を含む液体培
地で培養することが好ましい。
【0055】細胞成長促進剤は針葉樹種などにより適宜
選択することができるが、具体的には、細胞成長促進剤
として好ましくは、アブシジン酸(ABA)、サイトカ
イニン(BAP等)、オーキシン(2,4−D、NAAな
ど)などの植物ホルモンの他、マンニトール、ポリエチ
レングリコールなどを例示することができ、特に好まし
くは、ABAおよび/またはマンニトールを添加するこ
とが挙げられる。
【0056】カラマツについてさらに詳説すると、AB
Aを添加する場合は、液体培地中の濃度が、好ましくは
0.1〜100μM、特に好ましくは50〜100μMとなるよう
に添加し、また、マンニトールを加える場合、液体培地
中の濃度が好ましくは0.1〜0.6M、特に好ましくは0.1
〜0.3Mとなるように添加する。ABAを含む培地で培
養する場合、胚柄部伸長細胞塊を、オーキシン、サイト
カイニン類を含有しないmCD培地で洗浄した後、オー
キシン、サイトカイニン類を含有しないmCD培地にA
BAなどを添加した液体培地を成熟化培地として、培養
を行うことが望ましい。また、ABAを含む成熟化培地
に胚柄部伸長細胞塊を移す場合、細胞密度を再調節する
ことが好ましい。
【0057】上記のような細胞成長促進剤を含む培地で
培養することにより、胚柄部伸長細胞塊から不定胚への
成熟化を促進することができる。
【0058】さらに、本発明では、針葉樹の不定胚形成
細胞の一形態である球状細胞塊を液体培地で増殖させる
方法であって、初期不定胚形成細胞または球状細胞塊の
細胞密度を調節した液体培地中で球状細胞塊を増殖させ
る方法を提供する。液体培地中の初期不定胚形成細胞ま
たは球状細胞塊の細胞密度として好ましくは、2.1〜10
%であり、特に好ましくは3〜5%である。本発明の球
状細胞塊の増殖する方法は、上記針葉樹不定胚の培養方
法における球状細胞塊を増殖する工程に相当するもので
あり、当該工程と同様にして行うことができる。
【0059】細胞密度の調節を適宜繰り返すことによ
り、球状細胞塊を継続的に増殖させることができる。当
該球状細胞塊を増殖させる方法により得られる球状細胞
塊は、針葉樹の樹種にもよるが、3〜4週間毎に新鮮な
培地に再度細胞密度を調節して植え次いでいくことによ
り、1年間以上の維持が可能と考えられる。
【0060】また、本発明は、針葉樹の不定胚形成細胞
の一形態である球状細胞塊を胚柄部伸長細胞塊へと液体
培地で成熟化させる方法であって、球状細胞塊の細胞密
度を調節した液体培地中で球状細胞塊を胚柄部伸長細胞
塊へと成熟化させる方法を提供する。液体培地中の球状
細胞塊の細胞密度は、好ましくは、0.1〜1.9%であり、
特に好ましくは0.1〜0.5%である。初期不定胚形成細胞
または球状細胞塊を胚柄部伸長細胞塊へと成熟化させる
方法は、上記第1または第2の態様における胚柄部伸長
細胞塊へと成熟化させる工程に相当し、当該工程と同様
にして行うことができる。
【0061】本発明の、胚柄部伸長細胞へと成熟化させ
る方法によれば、従来困難と考えられていた、球状細胞
塊などから不定胚への成熟化を高頻度に行うことができ
る。
【0062】本発明は、針葉樹種に好適であり、具体的
なものとして、好ましくはマツ科(マツ属、カラマツ
属、トウヒ属)、スギ科、ヒノキ科などの針葉樹が例示
され、より好ましくは、カラマツ、エゾマツ、スギなど
が例示され、特に好ましくは日本産カラマツなどが例示
される。
【0063】本発明の培養方法では、不定胚形成細胞の
培養過程における不定胚形成細胞の組織形態変化を、倒
立顕微鏡などを使って、液体培地中で非破壊的に且つ連
続して明瞭に観察できる。したがって、本発明の方法
は、不定胚の培養に最適な条件を簡便に検索することが
できる。
【0064】
【実施例】<実験例>不定胚形成細胞の細胞密度と組織
形態の関係などを明らかにすべく、以下の実験を行っ
た。 <実験例1>不定胚形成細胞の細胞密度と組織形態の関
係 (実験例1−1)初期不定胚形成細胞の懸濁培養による
調製 本発明者らは、モデル培養系として既に日本産カラマツ
の初期不定胚形成細胞を得ており(Ogita et al(199
7) Forest Resources Environ. 35 45-51)、これを出
発材料として用いた。
【0065】初期不定胚形成細胞を、生重量で100mgほ
ど10mlの液体mCD培地を注いだ100ml容のコニカルフ
ラスコ中に入れ、透明のポリエステル性フィルム(商品
名「ルミラー」、東レ社製)でふたをして、培養温度を
25℃に設定し、明期(4000〜5000lux)を16時間、暗
期を8時間として、約3週間振とう培養を行い、液体培
地中に初期不定胚形成細胞を含む懸濁培養液を調製した
(図1)。振とう培養は、旋回振とう培養器を用い、回
転数は100rpmに設定した。
【0066】なお、本実施例(実験例を含む)において
は、特に断らない限り、「mCD培地」として、表1に
示す組成のものを用いた。
【0067】
【表1】
【0068】(実験例1−2)初期不定胚形成細胞の懸
濁培養液の細胞密度調節 実験例1−1で得られた初期不定胚形成細胞の懸濁培養
液中の細胞密度を0.1〜10%に調節した。すなわち、懸
濁培養液10ml中にPCVで0.01〜1mlの初期不定胚形
成細胞を含むように細胞密度を調節した。懸濁培養液中
の細胞密度を調節するためのPCVの測定は、500rpm、
3分間の条件で行った。細胞密度を調節後、さらに4週
間懸濁培養を行い、再度、細胞密度を測定した。以下に
細胞密度の変化の結果を示す。また、倒立顕微鏡により
観察した、細胞密度設定前の初期不定胚形成細胞の様子
を図1に、細胞密度を0.1%として4週間培養した後の
様子を図2に、また細胞密度5%として4週間培養した
後の様子を図3に示した。なお、倒立顕微鏡によるフラ
スコ類の観察は、倒立顕微鏡のコンデンサー部分を取り
外すことにより容易に行うことができる。
【0069】
【表2】
【0070】(実験例1−3)実験例1の結果について 実験例1−1および1−2の結果(図1〜3)と、表2
に示すように、4週間の培養により、不定胚形成細胞は
PCVで約1〜5.3ml(約10〜53%の細胞密度)に増殖
した。この場合、PCVとしては約100倍から5.3倍に増
加したことになる。
【0071】ただし、培養の結果については、本発明に
関しては、組織形態的な見地から不定胚形成細胞の増殖
または成熟化を検討することが必要である。
【0072】すなわち、0.1〜1.9%の細胞密度における
顕著なPCVの増加(特に0.1%で顕著)は、図2に示
すように多くの胚柄部伸長細胞塊が成長したことによる
ものであることが倒立顕微鏡による観察で確認された。
【0073】一方、2%の細胞密度では密度設定前の初
期不定胚形成細胞(図1。図1の組織形態は、固体培地
による培養で増殖している不定胚形成細胞の組織形態に
酷似している)に酷似した組織形態で増殖する傾向を示
した。
【0074】また、5あるいは10%の細胞密度において
は、図3に示すような「球状細胞塊」として活発に増殖
し、球状細胞塊の数量が増えた。
【0075】カラマツの不定胚形成細胞を用いた実験例
1により、本発明者らは、不定胚形成細胞には、その組
織形態変化に基づく「増殖と成熟化のボーダーライン」
が存在することを見出した。初期不定胚形成細胞は、あ
る特定の細胞密度であると組織形態を維持するか、ある
いはむしろ小型化して増殖する傾向を示し、ある特定の
細胞密度であると組織形態的に成熟化する傾向を示し、
その特定の細胞密度は約2%程度と考える。
【0076】したがって、最終的に、不定胚形成細胞の
固体数量を増やすためには、細胞密度を2%より高く設
定することが好ましいと考えられる。 <実験例2>不定胚形成細胞の成熟化の組織形態観察 実験例1で増殖または成熟化させたそれぞれの不定胚形
成細胞(球状細胞塊、胚柄部伸長細胞塊)を、所定の成
熟化培地を用いて3週間培養を行い、発達の様子を倒立
顕微鏡下で観察した。その結果、ABAを高濃度で添加
した場合には図6に示すような成熟した不定胚に発達し
た。一方、ABA濃度が低い場合には、ABA濃度が高
い場合ほどの発達は認められなかった。以下、詳細に説
明する。 (実験例2−1)ABAを含む培地での成熟化 一般に、不定胚への成熟化を促す植物ホルモンとしては
アブシジン酸(ABA)が有効であるとされている。実
験例1の中で得られる不定胚形成細胞は組織形態に基づ
き、胚柄部伸長細胞塊(図2)と球状細胞塊と(図3参
照)に大別できる。
【0077】0、0.1、1、10、50または100μMのAB
Aを含み、オーキシン、サイトカイニン類は除いたmC
D培地をそれぞれ成熟化培地とし、球状細胞塊または
柄部伸長細胞塊を当該成熟化培地に移して3週間培養を
行い、その発達の様子を倒立顕微鏡で観察した。
【0078】細胞密度3%(PCVで0.3ml)の胚柄部
伸長細胞塊を、成熟化培地に移植したところ、各ABA
の濃度に対して明瞭な反応性の違いを示した。
【0079】すなわち、ABAを高濃度で(特に50、10
0μM)添加した場合には、図6(50μMの場合)に示
すような組織形態の不定胚に発達した。他方、ABAを
含まない場合(図4)、あるいはABAが1μM以下の
低濃度の場合(図5:例としてABA0.1μM添加培地
の場合を示す)、50または100μMほどには発達は認めら
れなかった。
【0080】さらに、球状細胞塊についても、上記胚柄
部伸長細胞塊の場合と同様の実験を行ったところ、球状
細胞塊状態であると、胚柄部伸長細胞塊と異なり、どの
ようなABA濃度においても不定胚への明瞭な発達、成
熟化傾向はあまり認められなかった。
【0081】この結果から、大量の不定胚を得るために
は、胚柄部伸長細胞塊にまで発達した不定胚形成細胞を
ABAなどを含む適切な成熟化培地で培養することが望
ましいことが確認された。 (実験例2−2)細胞密度の再調節 胚柄部伸長細胞塊を、PCV相当量で0.1、0.3または1
%の細胞密度に調節し、成熟化培地としてABAが50μ
Mのものを用いた以外は実験例2−1と同様にして培養
を行ったところ、0.1、0.3%の方が1%の場合よりは、
より十分な成熟化が認められた。 (実験例2−3)マンニトールの添加 ABA50μMを含む成熟化培地に、さらに0、0.1、0.
2、0.3、0.4、0.5または0.6Mのマンニトールをそれぞ
れ加えて、胚柄部伸長細胞塊の成熟化を調査したとこ
ろ、0.3Mのマンニトールを加えることによって、最も
不定胚の成熟化が促進され、十分に発達した不定胚が得
られたことが確認された(図7)。すなわち、ABAお
よびマンニトールを適切に含む培地で培養することによ
り、組織形態的に緻密で、白色または黄白色を呈した不
定胚が得られた。 <実施例>以下、本発明による不定胚の大量培養を実施
例に基づき説明する。なお、以下の実施例の概略を図10
に示す。 (1)初期不定胚形成細胞の懸濁培養 上記(実験例1−1)の方法に従って初期不定胚形成細
胞を懸濁培養し、初期不定胚形成細胞を含む懸濁培養液
を調製した。 (2)初期不定胚形成細胞からの球状細胞塊の増殖 初期不定胚形成細胞の懸濁培養液を5%の細胞密度に調
節した。すなわち、懸濁培養液10ml中に、先に調製し
て得られた初期不定胚形成細胞を、圧縮細胞量で0.5 ml
含むように調節した。初期不定胚形成細胞を含む懸濁培
養液中の細胞密度を調節するための圧縮細胞量(PC
V)の測定は、500rpm、3分間の条件で行った。
【0082】細胞密度を調節した後、mCD培地で4週
間培養を行い、球状細胞塊の増殖を行った。4週間後
に、球状細胞塊の細胞密度を測定したところ43.3%に増
加していた。組織形態的特徴を確認するため倒立顕微鏡
で観察したところ、培養液中に球状細胞塊が多数含まれ
ており、球状細胞塊以外の形態を有するものはほとんど
見られなかった(図8)。 (3)球状細胞塊から胚柄部伸長細胞塊への成熟化 実施例(2)の球状細胞塊の増殖工程により得られた球
状細胞塊を、mCD培地中の球状細胞塊の細胞密度を0.
1%に調節し、3週間培養して球状細胞塊を胚柄部伸長
細胞塊へと成熟化させた。 (4)胚柄部伸長細胞塊から不定胚への成熟化 胚柄部伸長細胞塊の胚柄部が十分伸長したこと(図2の
状態)を倒立顕微鏡で確認した。
【0083】胚柄部伸長細胞塊を、表1に示した組成の
mCD培地からオーキシン、サイトカイニンを除いたm
CD培地で洗浄した後、このオーキシン、サイトカイニ
ンを含有しないmCD培地に50、100μMのABAをそ
れぞれ添加した液体培地で、3週間培養した。3週間後
には不定胚が多量に得られていることが倒立顕微鏡によ
る観察で確認された。
【0084】また、50μM、100μMのABAをそれぞ
れ添加した液体培地に、さらに0.3Mマンニトールを添加
した培養も行った。3〜4週間培養を行い、その発達の
様子を倒立顕微鏡で観察したところ、組織形態的に緻密
で白色又は黄白色を呈し、十分に成熟した不定胚が多量
に(1.5〜2×105個)得られていることが確認された
(図9、表3)。
【0085】さらに、(2)の球状細胞塊の増殖、
(3)の球状細胞塊の胚柄部伸長細胞塊への成熟化、
(4)胚柄部伸長細胞塊の不定胚への成熟化を繰り返し
行い、液体培地で大量の日本産カラマツの不定胚を得
た。 (5)不定胚の発芽 得られた不定胚を、植物ホルモンを含まない固体のmC
D培地に移し、発芽をさせた。なお、mCD培地は0.2
%ゲランガムで固化した。 <比較例>本発明の培養方法と固体培地による従来法の
不定胚培養方法とを比較した。
【0086】生重量で100mgに相当する初期不定胚形成
細胞を、固体mCD培地で9週間培養を行い、次いで50
μMのABAを含み、オーキシン、サイトカイニン類は
含有しない固体のmCD培地を成熟化培地とし、3週間
培養して得られた培養細胞を成熟化培地に移植したとこ
ろ、数から数百個の成熟した不定胚が得られた。これら
の不定胚は発芽能力を有していた。
【0087】表3に、本発明の方法による場合と、比較
例の場合との比較を示す。
【0088】
【表3】
【0089】液体培地による不定胚の成熟促進に関する
報告は草本種(例えばニンジン)においてなされていた
が、木本種、特に針葉樹では困難とされてきた。しか
し、細胞密度を適正に調節して液体培地で培養を行うこ
とにより針葉樹において液体培地での不定胚大量培養が
可能であることが明らかとなった。
【0090】
【発明の効果】本発明によれば、液体培地において大量
の不定胚を効率的に培養することができる。不定胚は人
工種子としての利用が期待されており、本発明により、
種子の豊作、凶作の差が著しい有用な針葉樹において
も、安定した種子供給が可能となることが期待される。
(例えば、日本産針葉樹カラマツやヒノキは数年に1度
の豊作年しかなく、安定した種子供給が望まれてい
る。)また、本発明の方法によれば、ごく少量の不定胚
形成細胞があれば、それから大量の不定胚経由の植物体
を得ることが期待できる。
【0091】さらに、本発明の方法は、均一な形質を持
ったクローンを大量に増殖するために役立つだけでな
く、細胞融合や遺伝子導入等のバイテク育種技術によっ
て有用新形質を付与した不定胚形成細胞からの樹木作出
が容易になることが期待される。現在の細胞融合や遺伝
子導入技術による植物への新形質の付与は、樹木、特に
針葉樹では、その形質導入効率が低いこと、あるいは形
質を付与した培養細胞からの植物体再生が難しいことな
どから、依然として不安定な技術である。本発明の方法
を応用することは、これらの技術の安定化、効率化に役
立つものと期待される。
【0092】さらに、均一化した、不定胚形成細胞の一
組織形態と位置づけられる初期不定胚形成細胞または球
状細胞塊から、成熟した不定胚に至る発達過程を高頻度
に再現できる本発明の方法を応用することによって、現
在までに十分な成果が得られていない針葉樹の不定胚形
成に関する細胞学、植物生理学、あるいは分子生物学的
研究が飛躍的に向上すると期待できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 細胞密度設定前のカラマツの初期不定胚形成
細胞を表した写真を示した図。
【図2】 細胞密度0.1%の条件で培養して得た胚柄部
伸長細胞塊を表した写真を示した図。
【図3】 細胞密度5%の条件で増殖した球状細胞塊を
表した写真を示した図。
【図4】 胚柄部伸長細胞塊を植物ホルモン(ABA)
を含まない培地で培養した場合を表した写真を示した
図。
【図5】 胚柄部伸長細胞塊を0.1μMのABAを含む
成熟化培地で培養した場合を表した写真を示した図。
【図6】 胚柄部伸長細胞塊を50μMのABAを含む成
熟化培地で培養した場合を表した写真を示した図。
【図7】 胚柄部伸長細胞塊を50μMのABAと0.3M
のマンニトールを含む成熟化培地で培養した場合を表し
た写真を示した図。
【図8】 細胞密度5%の条件で組織形態的特徴および
高い不定胚形成能力を保ったまま増殖している球状細胞
塊を表した写真を示した図。
【図9】 球状細胞塊より発達した不定胚を表した写真
を示した図。
【図10】 本発明の培養方法の該略図。
フロントページの続き (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C12N 5/04 A01H 4/00 JICSTファイル(JOIS)

Claims (5)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 液体培地中で不定胚形成細胞から不定胚
    を培養する方法であって、液体培地中の初期不定胚形成
    細胞の細胞密度を調節して球状細胞塊を増殖させる工程
    と、液体培地中の球状細胞塊の細胞密度を調節して球状
    細胞塊から胚柄部伸長細胞塊へと成熟化させる工程とを
    含み、 前記球状細胞塊を増殖させる工程で調節する細胞密度が
    2.1〜10%であり、前記胚柄部伸長細胞塊へと成熟化さ
    せる工程で調節する球状細胞塊の細胞密度が0.1〜1.9%
    であることを特徴とする針葉樹不定胚の培養方法。
  2. 【請求項2】 液体培地中で不定胚形成細胞から不定胚
    を培養する方法であって、液体培地中の球状細胞塊の細
    胞密度を調節して球状細胞塊を増殖させる工程と、液体
    培地中の球状細胞塊の細胞密度を調節して球状細胞塊か
    ら胚柄部伸長細胞塊へと成熟化させる工程とを含み、 前記球状細胞塊を増殖させる工程で調節する細胞密度が
    2.1〜10%であり、前記胚柄部伸長細胞塊へと成熟化さ
    せる工程で調節する細胞密度が0.1〜1.9%であることを
    特徴とする針葉樹不定胚の培養方法。
  3. 【請求項3】 胚柄部伸長細胞塊へと成熟化させる工程
    の後、胚柄部伸長細胞塊を、胚柄部伸長細胞塊から不定
    胚への成熟化を促進する細胞成長促進剤を含む液体培地
    で培養することを特徴とする、請求項1または2に記載
    の針葉樹不定胚の培養方法。
  4. 【請求項4】 針葉樹の不定胚形成細胞の一形態である
    球状細胞塊を液体培地で増殖させる方法であって、初期
    不定胚形成細胞または球状細胞塊の細胞密度を2.1〜10
    %に調節し液体培地中で球状細胞塊を増殖させる方
    法。
  5. 【請求項5】 針葉樹の不定胚形成細胞の一形態である
    球状細胞塊を胚柄部伸長細胞塊へと液体培地で成熟化さ
    せる方法であって、球状細胞塊の細胞密度を0.1〜1.9%
    調節し液体培地中で球状細胞塊を胚柄部伸長細胞塊
    へと成熟化させる方法。
JP11068750A 1999-03-15 1999-03-15 針葉樹不定胚の培養方法 Expired - Lifetime JP3069694B1 (ja)

Priority Applications (4)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP11068750A JP3069694B1 (ja) 1999-03-15 1999-03-15 針葉樹不定胚の培養方法
NZ501621A NZ501621A (en) 1999-03-15 1999-12-07 Culturing method for somatic embryos of coniferous trees
CA002293945A CA2293945A1 (en) 1999-03-15 2000-01-05 Culturing method for somatic embryos of coniferous trees
SE0000020A SE523524C2 (sv) 1999-03-15 2000-01-05 Odlingsmetod for somatiska embryon från barrträd

Applications Claiming Priority (1)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP11068750A JP3069694B1 (ja) 1999-03-15 1999-03-15 針葉樹不定胚の培養方法

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP3069694B1 true JP3069694B1 (ja) 2000-07-24
JP2000262279A JP2000262279A (ja) 2000-09-26

Family

ID=13382768

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP11068750A Expired - Lifetime JP3069694B1 (ja) 1999-03-15 1999-03-15 針葉樹不定胚の培養方法

Country Status (4)

Country Link
JP (1) JP3069694B1 (ja)
CA (1) CA2293945A1 (ja)
NZ (1) NZ501621A (ja)
SE (1) SE523524C2 (ja)

Families Citing this family (2)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
CA2495650C (en) 2004-02-25 2011-05-24 Weyerhaeuser Company Continuous culture of conifer embryogenic tissue
KR100980666B1 (ko) 2010-07-08 2010-09-07 (주)유비프리시젼 Lcd 점등용 프로브 블록의 컨텍터 필름

Non-Patent Citations (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Title
Forest Resources Environ.,35,45−51(1997)

Also Published As

Publication number Publication date
NZ501621A (en) 2001-12-21
SE523524C2 (sv) 2004-04-27
JP2000262279A (ja) 2000-09-26
SE0000020D0 (sv) 2000-01-05
SE0000020L (sv) 2000-09-16
CA2293945A1 (en) 2000-09-15

Similar Documents

Publication Publication Date Title
AU778180B2 (en) Method for maturation of conifer somatic embryos
CN113115708B (zh) 一种牡丹离体植株再生的方法及其应用
Georges et al. Plant regeneration from aged-callus of the woody ornamental species Lonicera japonica cv.“Hall's Prolific”
Kim et al. Somatic embryogenesis and plant regeneration from in-vitro-grown leaf explants of rose
JP3069694B1 (ja) 針葉樹不定胚の培養方法
JPH0611209B2 (ja) 木本性植物の大量増殖法
Zhu et al. Rapid plant regeneration from cotton (Gossypium hirsutum L.)
JP2001511652A (ja) サトウキビの生産
Ruffoni et al. Organogenesis and embryogenesis in Lisianthus russellianus Hook
Uozumi et al. Artificial seed production through encapsulation of hairy root and shoot tips
US6897065B1 (en) Method for maturation of conifer somatic embryos
JPH07107871A (ja) ラン科植物の培養方法
JP2631765B2 (ja) 木本性植物の苗条原基の増殖方法
US7888099B2 (en) Methods for producing a synchronized population of conifer somatic embryos
JPH06303868A (ja) シラカンバの大量増殖法
JPH0937666A (ja) エンジュの組織培養法
JP2931675B2 (ja) シクラメンの不定芽の増殖用培地および増殖方法
JPS59132822A (ja) 苗条原基による一年生植物ハプロパツプスの多年生化大量増殖法
AU2003231584B2 (en) Methods for producing conifer somatic embryos
Denchev et al. Micropropagation through somatic embryos
Burza et al. A new way of achieving plant regeneration of Solanum lycopersicoides Dun. from root primordia culture
Bora et al. Direct organogenesis in Dianthus caryophyllus Linn
JP2623320B2 (ja) 木本性植物のプロトプラストから植物体を再生する方法
RU2333633C2 (ru) Способ получения высоких урожаев зиготоподобных семядольных зародышей сосны с использованием сред, содержащих дисахарид и глюкозу (варианты)
JP3752917B2 (ja) 低温処理によるユーカリ属に属する木本植物のシュート増殖方法

Legal Events

Date Code Title Description
EXPY Cancellation because of completion of term