JP3050361B2 - 金属部材のイオン窒化方法 - Google Patents

金属部材のイオン窒化方法

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JP3050361B2 JP6188913A JP18891394A JP3050361B2 JP 3050361 B2 JP3050361 B2 JP 3050361B2 JP 6188913 A JP6188913 A JP 6188913A JP 18891394 A JP18891394 A JP 18891394A JP 3050361 B2 JP3050361 B2 JP 3050361B2
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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】この発明は、金属部材の表面をイ
オン窒化することによって金属の表面の耐摩耗性、耐食
性並びに硬度を向上させる金属部材のイオン窒化方法に
関する。
【0002】
【従来の技術】金属部材のイオン窒化方法は、金属の表
面をイオン窒化して表面にその金属の窒化物層を形成
し、金属の表面の耐摩耗性や耐食性を向上させる方法で
あり、減圧窒化雰囲気中でのグロー放電を用いるのが一
般的である。しかし、イオン窒化処理を行うと、処理が
行われた金属部材の表面粗度が悪化し、必要に応じて窒
化処理後当該金属部材の表面を再度研磨しなければなら
なかった。その場合、微細なスリットや孔、溝等を有す
る金属部材においては、研磨がほとんど不可能な部材も
あった。
【0003】そこで、本発明者らは、金属部材の表面粗
度を可及的に平滑に保持したままイオン窒化する方法を
先に提案した(特願平5−27248号)。この方法
は、金属部材を300〜650℃の温度に保持して、ア
ンモニアガスと水素ガスを用い、金属部材の表面に0.
001〜2.0 mA/cm2 の電流密度のグロー放電を行い
イオン窒化することを特徴とするものである。
【0004】この窒化法は、(1)金属部材のうち、複
雑形状で立体的なもの、表面が細密な溝構造を有するも
の、異種形状のものを複雑混載してこれらの全表面を均
一にイオン窒化処理できる、(2)グロー放電はほとん
どガスのプラズマ化のみに使用するので、低電流密度で
イオン窒化処理ができ、消費電力を少なくできるととも
に、低電流密度のためプラズマ化ガスが安定して溝の隅
々まで拡散しイオン窒化できる、(3)加熱は専用の加
熱装置によって金属部材のイオン窒化反応を合理的な速
度で行わせるためにのみ用いるので、完全に自動制御で
きる、(4)大電流密度に起因するアーク放電による金
属部材表面への放電痕が発生しないので製品化の収率が
高い、等の優れた特徴を有する。
【0005】また、上記のイオン窒化法は処理条件を選
択することにより金属部材の表面状態を変化させること
なく窒化処理を行わせたり、金属部材の表面に金属窒化
物の化合物層を形成することも可能である。しかし、処
理実験により化合物層を可及的に効率的な速度で形成す
るための最適処理条件を見いだすことは容易ではなく、
多くの時間と労力を要する。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】この発明は、上記のイ
オン窒化法において、効率的に化合物層が形成されるグ
ロー放電による処理条件をプラズマ発光分光分析法によ
り見いだすことにより、金属部材の表面に金属窒化物の
化合物層を効率的に形成するとともに、この化合物層と
窒素原子の拡散層との相乗効果により硬度を高めること
が可能なイオン窒化方法を提案しようとするものであ
る。
【0007】
【課題を解決するための手段】この発明は、金属部材を
300〜650℃の温度に保持し、アンモニアガスと水
素ガスを用い、金属部材の表面に0.001〜2.0 m
A/cm2 の電流密度のグロー放電を行いイオン窒化する金
属部材のイオン窒化方法において、該金属部材の表面近
傍のグロー放電の発光分光分析を行い、NHラジカルの
発光強度INHと窒素分子イオン(N )の発光強度I
N2 + の比(INH/I N2 + )が1/5以上で10/1
未満となるプラズマ状態でイオン窒化する方法を要旨と
するものである。
【0008】
【作用】この発明において、金属部材の反応温度を30
0〜650℃に限定しているのは、以下に示す理由によ
る。すなわち、金属部材を、窒素イオンと速やかに反応
させ、経済性が成り立つ収率で反応する反応温度まで加
熱するためには金属部材の温度を300〜650℃に加
熱する必要がある。その理由は、300℃未満ではイオ
ン窒化反応が極めて遅く、650℃を超えるといったん
形成された窒化物が分解し、イオン窒化が起こらないと
いう問題が生ずるからである。例えば、S45C構造用
鋼の場合では、550〜600℃が適している。加熱手
段としては、電気加熱、ガス加熱等があるが、電気加熱
が使い易い。加熱源としては、イオン窒化処理を行う真
空チャンバー内に配置するか、その外側に配置して加熱
すると、自動制御システムと組合わせてプログラムされ
た昇温や温度保持が容易にできる。
【0009】また、イオン窒化ガスとして、アンモニア
ガス(NH)と水素ガス(H)を用いるのは、アン
モニアガスはNとHに分解し、直ちにNとHになる
ためイオン窒化反応が十分に起こらないが、アンモニア
ガスはプラズマ化電流密度が低い範囲においてアンモニ
アラジカルとして安定であり、水素ガスは放電によるア
ンモニアガスのラジカル化を安定に行うための補助ガス
として作用するからである。NH/H体積比は1/
100〜1/0がよく、1/10〜5/1が好適であ
る。NH/H体積比が1/100未満ではイオン窒
化反応が十分に起こらない。
【0010】この発明において、プラズマ発光分光分析
法により最適なプラズマ状態を決定するのに用いるNH
ラジカルと窒素分子イオン(N )の発光強度比の測
定のために着目するNHラジカルと窒素分子イオン(N
)の各々の発光線は、用いるプラズマにおいて測定
されたプラズマ発光スペクトルの中に多数存在するが、
その中において、それぞれ最も強度の高いものを用い
る。窒素分子イオン(N )の代りに測定される窒素
分子(N)の発光線の中でも最も発光強度の高い発光
線の強度を測定に用いても差支えない。
【0011】この発明においては、金属部材の表面近傍
のグロー放電の発光分光分析を行い、NHラジカルの発
光強度INHと窒素分子イオン(N )の発光強度I N
2 +の比(INH/I N2 + )が1/5以上で10/1未
満となり、好ましくは強度比Iが1/3以上〜5/1以
下となるプラズマ状態を調査し、そのプラズマ状態範囲
内において金属部材の表面をイオン窒化することによ
り、効率的に速い形成速度において化合物層を形成する
ことが可能である。
【0012】一方、窒素分子イオン(N )あるいは
活性化された窒素分子(N)は、イオン窒化される金
属部材の表面を加熱、活性化し、場合によってはそのス
パッタリング作用により表面粗度を上昇させる。高濃度
のNHラジカルが形成され、かつ適度な窒素分子イオン
(N )が形成されたプラズマ状態が最も化合物層を
形成するのに好都合なプラズマ状態であり、その状態を
窒素分子イオン(N )に対するNHラジカルの発光
強度比により推察することが可能である。
【0013】ここで、NHラジカル/窒素分子イオン
(N )の発光強度比が10/1以上となるプラズマ
状態では、金属部材の表面状態を保持したまま拡散層を
形成することは可能であるが、化合物層の形成は容易で
はない。他方、10/1未満となると化合物層の形成が
可能となるが、1/5未満の範囲では、NHラジカルの
濃度が低くなり過ぎ、化合物層の形成には好ましくない
プラズマ状態となる。
【0014】また、この発明において、金属部材の表面
にかけるプラズマ化電流を0.001〜2.0 mA/cm2
とするのは、この電流密度の範囲においてのみグロー放
電はアンモニアガスおよび水素ガスをプラズマ化するこ
とのみに使用でき、余剰熱を発生させることがないから
である。なお、電流密度が0.001 mA/cm2 未満で
は、プラズマ化を十分に起こすことができず、2.0 m
A/cm2 を超えると金属部材の表面で局部的な過熱状態が
生じたり、スリット内や溝内部に有効なイオン窒化処理
が行われない。
【0015】プラズマ化のためのグロー放電を発生する
放電は、直流放電、高周波放電のいずれでもよい。イオ
ン窒化を行う真空チャンバーは基本的にグロー放電用電
極、プラズマ化ガス用配管とを備え、真空ポンプに接続
された排気管を備えたものであれば特に限定されない。
【0016】この発明において対象とする金属部材の材
料としては、主としてS15CK等の肌焼鋼、S45C
等の構造用鋼、SUP10等のばね鋼、SUJ2等の軸
受鋼、SACM645等の窒化鋼、SKD61等の熱間
加工用鋼、SKD11等の冷間加工用鋼、SKH51等
の高速度鋼、SUS301等の耐熱鋼、SCr20等の
機械部品鋼、SUS410等の耐熱耐酸鋼等、各種あ
る。
【0017】また、イオン窒化法によって、表面に化合
物層を形成することが求められる金属部材としては、例
えばSKD61等の熱間加工用鋼を用いたアルミニウム
押出用ダイス等、耐焼付摩耗性を要求される各種金属部
材やS45C等の構造用鋼を用いた各種部品がある。
【0018】
【実施例】図1はこの発明を実施するためのイオン窒化
装置を示す概略図で、1は真空チャンバー、2は加熱ヒ
ーター、3は直流電極、4は金属部材、5は直流電源、
6は排気管、7は真空ポンプ、8はバルブ、9はノズ
ル、10は導入管、11はバルブ、12はマスフローコ
ントローラー、13は窓、14はレンズ、15は光ファ
イバー、16は分光器である。
【0019】すなわち、真空チャンバー1には、外周壁
に加熱ヒーター2が埋設され、内部に直流電源5に接続
された直流電極3が配置され、下部に排気管6が圧力調
整用バルブ8を介して真空ポンプ7に接続されている。
ガス、NHガス、Arガス等の原料ガスはそれぞ
れマスフローコントローラー12、バルブ11、導入管
10を介してノズル9から真空チャンバー1内に供給さ
れる。窓13は金属部材4の表面近傍のプラズマ発光を
観測するために設けられたもので、石英ガラス製でその
外側には同じく石英ガラス製のレンズ14が設置され、
このレンズの焦点位置に石英ガラス製の光ファイバー1
5の端面が配置され、この光ファイバーの一方は分光器
16の入光スリット部に接続されている。金属部材4は
直流電極3の上面に設置される。
【0020】実施例1 上記図1に示すイオン窒化装置を用いてイオン窒化処理
を行った結果を以下に示す。本実施例では、金属部材と
して表面を鏡面研磨したSKD61鋼の押出成形機用ス
クリュウ4aとSKH51鋼のパンチ4bを使用した。
押出成形機用スクリュウ4aは、直径23mm、長さ5
50mmの棒状、パンチ4bは直径30mm、長さ20
0mmの棒状である。
【0021】まず、真空ポンプ7により真空チャンバー
1内を10−3トールまで排気し、排気を続けながら水
素ガスを1000ml/分で供給し、1トールに維持し
た。同時に加熱ヒーター2で直流電極3と金属部材4
a、4bの表面が530℃に均一化されるまで1時間加
熱した。
【0022】次に、直流電源5からー400Vの電圧を
金属部材に印加して水素ガスによる直流グロー放電プラ
ズマを起こし、真空チャンバー1の内壁と金属部材の表
面を30分間清浄化した。続いて、真空チャンバー1内
に水素ガスを2000ml/分、アナモニアガス500
ml/分導入し、圧力を1.5トールに維持し、印加電
圧ー500Vで水素ガスとアンモニアガスの直流グロー
放電プラズマを発生させた。この時、分光器16によ
り、金属部材表面近傍のプラズマ発光分光分析にてNH
ラジカル(発光波長:336nm)と窒素分子イオン
(N )(発光波長:391.4nm)の発光強度を
速やかに測定しながら、印加電圧を増加させた。この印
加電圧の増加により、NHラジカルと窒素分子イオン
(N )の発光強度比Iは急激に減少した。ー550
Vでの発光強度比Iは20/1となり、ー550Vでは
10/1、ー600Vでは5/1、ー650Vでは2/
1、ー700Vでは1/1、ー750Vでは1/3、ー
800Vでは1/5以下となった。
【0023】上記の測定終了後速やかに、NHラジカル
の発光強度INHと窒素分子イオン(N )の発光強度
I N2 + の比が1/1となる印加電圧(ー700V)に
戻し、その状態でイオン窒化処理を実施した。その結
果、金属部材4a、4bの表面温度はプラズマにより若
干上昇して3〜4℃だけ530℃よりも高くなった。こ
の間、プラズマが発生している直流電極と金属部材の前
表面を流れる電流は0.95Aであり、直流電極と金属
部材の全表面積(7600cm)でその値を割ると、
金属部材の表面に流れる電流密度が計算され、その値は
0.125mA/cmと非常に低い値であることが判
明した。また、処理条件ではその状態を一定に維持して
いた。さらに、金属部材の表面でプラズマは均一に発生
していた。また、それぞれの金属部材間の狭い空間部で
は強いプラズマの発生は認められなかった。
【0024】そして、イオン窒化処理を1時間継続した
後、プラズマを停止し、ガスの供給と加熱を停止して室
温まで冷却し、各金属部材を取出して切断研磨し、断面
組織観察および断面硬度分布測定を行った。その結果、
SKD61鋼の押出成形機用スクリュウには、約6μm
の化合物層と約290μmの拡散層が形成され、SKH
51鋼のパンチには、約5μmの鉄窒化物の化合物層と
約250μmの拡散層が形成されていることが確認され
た。また、図2に示すSKD61鋼の押出成形機用スク
リュウとSKH51鋼のパンチの硬度分布より明らかな
ごとく、いずれも高い硬度が得られている。
【0025】実施例2 実施例1では、NHラジカルとN イオンの発光強度
比の測定によるイオン窒化処理条件の調査を速やかに実
施した後、連続してイオン窒化処理を行ったが、NHラ
ジカルとN イオンの発光強度比の測定によるイオン
窒化処理条件の調査を実施し、それにより求められた条
件と同様の処理条件により別途、イオン窒化処理を実施
することによっても、全く同様のイオン窒化処理状態を
得ることが可能であった。
【0026】比較例1 実施例1と同じ装置により同じ金属部材を用い、同様の
条件によりNHラジカルとN イオンの発光強度比の
測定を実施した。その際、印加電圧をー500V以上に
すると、NHラジカルとN イオンの発光強度比は2
0/1となり、その状態で3時間処理を行った。処理後
の断面組織観察および断面硬度分布測定の結果、SKD
61鋼の押出成形機用スクリュウは化合物層の形成が確
認されず、約140μmの拡散層のみが形成されている
ことが確認され、またSKH51鋼のパンチにおいても
化合物層の形成が確認されず、約120μmの拡散層の
みが形成されていることが確認された。
【0027】
【発明の効果】以上説明したごとく、この発明方法によ
れば、窒化物の化合物層の形成に好ましいイオン窒化処
理を短時間で行うことができるとともに、化合物層と窒
素原子の拡散層との相乗効果により硬度を高めることが
できるという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明を実施するためのイオン窒化装置の全
体構成を示す概略図である。
【図2】この発明の実施例1におけるイオン窒化処理後
のSKD61鋼の押出成形機用スクリュウとSKH51
鋼のパンチの硬度分布測定結果を示す図である。
【符号の説明】
1 真空チャンバー 2 加熱ヒーター 3 直流電極 4 金属部材 5 直流電源 6 排気管 7 真空ポンプ 8 バルブ 9 ノズル 10 導入管 11 バルブ 12 マスフローコントローラー 13 窓 14 レンズ 15 光ファイバー 16 分光器
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 石井 芳朗 千葉県市川市中国分3−18−5 住友金 属鉱山株式会社 中央研究所内 (72)発明者 柳沼 良和 東京都府中市住吉町3−4−6 日本電 子工業株式会社 府中工場内 (56)参考文献 特開 平7−118826(JP,A) 特開 平8−13126(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C23C 8/36 - 8/38

Claims (1)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 金属部材を300〜650℃の温度に保
    持し、アンモニアガスと水素ガスを用い、金属部材の表
    面に0.001〜2.0 mA/cm2 の電流密度のグロー放
    電を行いイオン窒化する金属部材のイオン窒化方法にお
    いて、該金属部材の表面近傍のグロー放電の発光分光分
    析を行い、NHラジカルの発光強度INHと窒素分子イオ
    ン(N )の発光強度I N2 + の比(INH/I
    N2 + )が1/5以上で10/1未満となるプラズマ状
    態でイオン窒化することを特徴とする金属部材のイオン
    窒化方法。
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