JP3048687B2 - 炭化珪素−炭素系複合材料の製造方法及び摺動部品 - Google Patents

炭化珪素−炭素系複合材料の製造方法及び摺動部品

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Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は摺動構造部材等に用いら
れる炭化珪素−炭素系複合材料の製造方法及びそれを用
いた摺動部品に関するものである。
【0002】
【従来の技術・発明が解決しようとする課題】セラミッ
クスは金属に比べ、耐熱性、強度、硬度、耐食性に優れ
るため、近年、構造部材としての応用が積極的に検討さ
れている。特に、その中でも炭化珪素セラミックスは、
強度、硬度、耐食性に優れることから、メカニカルシー
ル、軸受け等の摺動部材として一部実用化している。し
かしながら、ドライ雰囲気下での摺動特性が不良である
こと及び熱衝撃抵抗性が低いことからその使用範囲は限
られていた。
【0003】これらの問題の一つである摺動特性を解決
する手段として、炭素、黒鉛等の固体潤滑材を炭化珪素
中に複合する方法が、特開昭63−260861号公報
の「SiC−グラファイト系自己潤滑性セラミックス」
及び特開昭63−265850号公報の「自己潤滑性セ
ラミックス複合材及びその製造法」に造粒黒鉛粒を複合
する方法、また特開平3−33064号公報の「炭素−
炭化珪素複合材料製造用粉末組成物、炭素−炭化珪素複
合材料の製造方法および炭素−炭化珪素複合材料」に自
己焼結性球状炭素質微粒子を配合する方法等が開示され
ている。
【0004】しかしながら、いずれの場合も炭素、黒鉛
粒を配合することから摺動時の摩擦係数は低下するもの
の、高密度にならず、強度が低下してセラミックス本来
の特性が損なわれ耐久性に劣るという問題が指摘されて
いる。また、特開平1−320254号公報の「セラミ
ックス−炭素系複合材料及びその製造方法」にX線回折
により複合炭素の黒鉛化度を最適化する方法が開示され
ているが、摺動特性、強度に優れているものの、複合炭
素の存在状態及び炭素源を最適化したものでなく、熱衝
撃抵抗性が劣り、また加圧下焼成という煩雑な方法で製
造するため工業的生産の面から好ましくないという問題
が指摘されている。
【0005】本発明の目的は、強度、摺動特性、熱衝撃
抵抗性に優れた炭化珪素−炭素系複合材料の製造方法及
びそれを用いた摺動部品を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは前記課題を
解決するために鋭意研究を重ねた結果、炭化珪素−炭素
系複合材料において、炭素のドメイン径とドメイン面積
率を特定の範囲とすることによって優れた効果を奏する
ことを見い出し、本発明を完成するに至った。即ち、本
発明の要旨は、 ()炭化珪素粉末、H/Cが0.2〜2.0で、Nお
よびS含有量がそれぞれ2%以下の平均分子量が100
〜2000の縮合多環芳香族化合物及び/又は重縮合芳
香族化合物、および焼結助剤粉末を混合し、300〜6
00℃で仮焼し、次いで造粒成形後、焼成することを特
徴とする炭化珪素−炭素系複合材料の製造方法、並びに ()機械要素がその可動する部分を有し、一時的また
は常時接触し、かつ相対的に摺動する摺動部品におい
て、少なくとも、その摺動面が前記(1)記載の製造方
法で得られる炭化珪素−炭素系複合材料により構成され
ていることを特徴とする摺動部品に関する。
【0007】本発明の炭化珪素−炭素系複合材料におい
て、炭素のドメイン径とは、炭化珪素マトリックス中に
分布している炭素粒子あるいはそれらの集合体の大きさ
を意味し、鏡面仕上げした試料の走査型電子顕微鏡によ
り観察し、得られる100画像中の炭素ドメインを画像
解折装置により解析し、平均値として算出されたもので
ある。通常0.01〜30μmで好ましくは0.05〜
20μmである。ドメイン径が0.01μmよりも小さ
いと摺動特性が発現しなくなり、30μmよりも大きく
なると強度が低下するので好ましくない。
【0008】炭素のドメイン面積率も、同様に画像解析
により算出される炭化珪素マトリックス中に占める炭素
ドメインの割合の平均値であり、通常5〜70%、好ま
しくは7〜60%である。5%よりも小さいと摺動特性
が発現しなくなり、70%よりも大きいと強度が低下す
るので好ましくない。
【0009】全空隙率とは炭化珪素マトリックス及び炭
素ドメイン以外の部分を意味し、同様に画像解析により
算出される空隙割合の平均値であり、通常20%以下好
ましくは10%以下である。20%を越えると強度が低
下するので好ましくない。
【0010】本発明で使用する炭化珪素は、セラミック
スのマトリクッスとなるもので、α、βのいずれの結晶
型であってもよい。また純度は、密度の低下や強度及び
破壊靱性値の劣化等を防ぐために、またヤング率等の機
械的特性の面から、90wt%以上が好ましく、より好
ましくは95wt%以上である。炭化珪素の形態は焼結
性の面から、平均粒径は通常5μm以下、好ましくは3
μm以下の粉末が望ましい。平均粒径が5μmを越える
と焼結能が低下し、緻密化せず強度が低下するので好ま
しくない。
【0011】本発明の複合材料中の炭素の炭素源は、加
熱により炭素に変換するものであって、H/Cが0.2
〜2.0で、NおよびS含有量がそれぞれ2%以下の平
均分子量(Mw)100〜2000の縮合多環芳香族化
合物及び/又は重縮合芳香族化合物を使用するのが望ま
しい。例えば、コールタール、ピッチ、フェノールレジ
ン、フランレジン等及びそれらの誘導体が挙げられ、特
に限定されるものではないが、好ましくは易黒鉛化性の
ものが好ましい。H/Cや平均分子量がこの範囲からは
ずれると炭素の分散性が悪くなり、強度が低下する。ま
た、NおよびS含有量が2%を超えると、焼成中の複合
材料中に微亀裂が発生し、強度の低いものしか得られな
いので好ましくない。ここでいう炭素とは、X線回折に
より黒鉛のピークを呈するものをいい、黒鉛化度は特に
限定されないが、大きい方が望ましく、通常X線回折に
よる(002)面間隔が3.3〜3.5Åの範囲のもの
である。
【0012】本発明の炭化珪素−炭素系複合材料におい
て、上記の炭化珪素、炭素源以外に、本発明の効果を損
なわない範囲であれば、破壊靱性及び耐酸化性改善の目
的で必要によりTiC,ZrC等の炭化物、TiB2
ZrB2 等のホウ化物を適量複合したものであってもよ
い。この場合、これらの複合量は通常炭化珪素に対して
5〜50%である。
【0013】本発明の炭化珪素−炭素系複合材料は、上
記の炭化珪素の粉末、上記の炭素源及び焼結助剤粉末を
混合し、仮焼し、次いで造粒成形後、焼成することによ
り製造することができる。ここで用いられる焼結助剤
は、特に限定されるものではなく通常、焼結助剤として
使用されるものであればいずれのものであっても使用す
ることができる。例えば、公知のホウ素化合物、アルミ
ナ、イットリア等が挙げられ、これらの1種または2種
以上のものを併用して用いられる。本発明の炭化珪素−
炭素系複合材料を製造する際の焼結助剤の配合量は、通
常0.1〜10wt%であり、好ましくは0.2〜5w
t%である。
【0014】上記の混合は、ボールミル、振動ミル、遊
星ミル等を用いて通常、湿式混合で行われる。また、使
用する溶剤としては有機溶剤、例えばベンゼン、トルエ
ン、キシレン等の芳香族系、メタノール、エタノール等
のアルコール系、またメチルエチルケトン等のケトン系
などが好ましい。上記の仮焼工程は、混合した混合物を
好ましくは不活性雰囲気下(例えば窒素ガス、アルゴン
ガス等の雰囲気下)、通常300〜600℃で熱処理し
て行われる。300℃より低いと十分に炭素に変換され
ず、残留揮発分が多く緻密化しない。また600℃より
高いと配合粒子の自由焼結が起こり、スプレードライ時
の再分散が困難となるので好ましくない。上記の造粒成
形の工程において、造粒は公知の方法例えばスプレード
ライ等で行われる。また、成形は金型成形法、CIP
法、またはスリップキャスティング法等で行うこともで
きる。
【0015】上記の焼成工程は、通常、常圧で非酸化雰
囲気下、例えば不活性雰囲気下(窒素ガス、アルゴンガ
ス等の雰囲気下)もしくは真空下、1200〜2300
℃で行うのが望ましい。焼成温度がこの範囲外であると
焼結体の密度の低下や炭化珪素の粒子成長等による強
度、硬度等の機械的特性の劣化を招くこととなり好まし
くない。焼成時間は通常0.5〜8時間である。焼成法
としては、高密度化させるためにホットプレス、HIP
法等を用いても良い。
【0016】上記のようにして得られる本発明の複合材
料は、前記のような炭素のドメイン径、ドメイン面積率
および全空隙率を有するものであり、強度、摺動特性が
優れ、かつ熱衝撃抵抗性にも優れ、摺動部品として極め
て好適である。即ち、このようにして得られる本発明の
炭化珪素−炭素系複合材料は、室温における坑折強度が
300MPa以上、熱衝撃抵抗性が350℃以上、摩擦
係数が0.4以下、比摩耗量が10mm2 /kg以下と
いう優れた特性を有するのである。
【0017】本発明の摺動部品は機械要素がその可動す
る部分を有し、一時的または常時接触し、かつ相対的に
摺動する摺動部品において、少なくともその摺動面が本
発明の炭化珪素−炭素系複合材料により構成されている
ことを要する。摺動部品の具体例としては軸受けリテー
ナー、メカニカルシール、石炭スラリーの流量バルブ、
混合水栓用ディスクバルブ、線引きダイス等が挙げられ
る。
【0018】
【実施例】以下に、本発明を実施例および比較例によっ
て更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例になん
ら限定されるものではない。 実施例1〜10 表1に示す炭素源、粒径0.5μmのβ−炭化珪素(純
度98wt%)及び焼成助剤としてB4 C2wt%を、
振動ミルでエタノール湿式混合し、アルゴン雰囲気下、
表1に示す温度で仮焼した。スプレードライで造粒後、
金型成形法で成形し、アルゴン雰囲気中で2100℃1
時間焼成した。得られた複合材料中の炭素のドメイン
径、ドメイン面積率および全空隙率は鏡面仕上げした試
料の走査型電子顕微鏡により観察し、得られた100画
像を画像解折装置(LUZEX-III 、ニレコ社製)により、
それぞれの平均値として算出した。その結果を表1に示
す。また、実施例5で得られた本発明の複合材料の走査
電子顕微鏡写真の例を図1に示す。本発明で得られたも
のは、従来法である後述の比較例1で得られたものの走
査電子顕微鏡写真の例(図2)に比べ、炭素ドメイン径
が小さく、大きな空隙もなく、均一な組織を呈してい
た。
【0019】また、得られた複合材料を用いて坑折強
度、熱衝撃抵抗性、摩擦係数及び比摩耗量を測定し、そ
の結果を表1に併せて示した。尚、これらの測定方法は
次のとおりである。坑折強度は、JIS−R1601に
準じた3点曲げ試験法により行った。熱衝撃抵抗性は、
JIS−R1601に準じた試験片を用い、試験片を不
活性雰囲気下で、所定温度まで加熱した後、直ちに常温
の水中に投下急冷した試料をJIS−R1601に準じ
た3点曲げ試験を行ない、強度が急激に低下する温度差
により評価を行った。摩擦係数及び比摩耗量は、直径5
0mm、厚さ10mmのディスク状の試験片と直径10
mm、長さ15mmのタングステンカーバイト製のピン
を印加荷重10kg、摺動速度1m/秒の条件下で摺動
させ評価した。固定側に試験片、回転側には、タングス
テンカーバイトを用いた。摩擦係数は摺動中のトルクに
より算出し、摩耗量は摺動距離が104 mに達した時点
の試験片の重量変化により算出した。その結果、本発明
で得られた複合材料は、常圧焼結で、空隙率の小さい高
密度焼結体を呈し、強度が高く、熱衝撃抵抗性及び摩擦
係数、比摩耗量が小さく摺動特性に優れるものであっ
た。
【0020】
【表1】
【0021】比較例1〜3 表2に示す炭素源、粒径0.5μmのβ−炭化珪素(純
度98wt%)及び焼成助剤としてB4 C2wt%を用
いて実施例1〜10と同様に、振動ミルでエタノール湿
式混合し、アルゴン雰囲気下、表2に示す温度で仮焼し
た。スプレードライで造粒後、金型成形法で成形し、ア
ルゴン雰囲気中で2100℃1時間焼成した。得られた
複合材料中の炭素のドメイン径、ドメイン面積率及び全
空隙率を、また得られた複合材料の坑折強度、熱衝撃抵
抗性、摩擦係数及び比摩耗量を実施例1〜10と同様に
して測定し、結果を表2に併せて示した。その結果、比
較例で得られた複合材料は、空隙が多数存在し、炭素の
ドメイン径も大きく、強度、熱衝撃抵抗性が小さく、摩
擦係数および比摩耗量は大きく摺動特性に劣るものであ
った。
【0022】
【表2】
【0023】実施例11 実施例1により得られた複合材料を用いて軸受け加工
し、使用したところ無潤滑で長時間の耐久性を示した。
【0024】実施例12 実施例2により得られた複合材料を用いてメカニカルシ
ールに適用したところ、従来材料に比べ、シール性も良
好で長時間の耐久性を示した。
【0025】実施例13 実施例3により得られた複合材料を用いて石炭スラリー
の流量バルブとして使用したところ、スラリーのカット
オフがスムーズに行え、摺動特性が良好で、耐摩耗性も
良好であった。
【0026】実施例14 実施例4により得られた複合材料を用いて精密加工し、
磁気ヘッド基材として使用したところ、相手メディアを
傷つけることなく、耐久性も良好であった。
【0027】実施例15 実施例5により得られた複合材料を用いて撚糸リングと
して使用したところ、従来セラミックスに比べ、低摩耗
性、高耐久性を示した。
【0028】実施例16 実施例6により得られた複合材料を用いて混合水栓用デ
ィスクバルブとして使用したところ、従来セラミックス
に比べ低トルク摺動性、高耐久性を示した。
【0029】
【発明の効果】本発明により、従来の炭化珪素−炭素系
複合材料に比べ、強度、摺動特性、かつ熱衝撃抵抗性に
も優れ、摺動部品として極めて好適な炭化珪素−炭素系
複合材料が得られる
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は実施例5で得られた本発明の炭化珪素−
炭素系複合材料における炭素の分散状態およびその形状
を表す走査電子顕微鏡写真を示す。
【図2】図2は比較例1で得られた炭化珪素−炭素系複
合材料における炭素の分散状態およびその形状を表す走
査電子顕微鏡写真を示す。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (56)参考文献 特開 昭61−58862(JP,A) 特開 昭60−141676(JP,A) 特開 昭60−112670(JP,A) 特開 昭59−131577(JP,A) 特開 昭62−3071(JP,A) (58)調査した分野(Int.Cl.7,DB名) C04B 35/565 C04B 35/52

Claims (2)

    (57)【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 炭化珪素粉末、H/Cが0.2〜2.0
    で、NおよびS含有量がそれぞれ2%以下の平均分子量
    100〜2000の縮合多環芳香族化合物及び/又は重
    縮合芳香族化合物、および焼結助剤粉末を混合し、30
    0〜600℃で仮焼し、次いで造粒成形後、焼成するこ
    とを特徴とする、炭素のドメイン径が0.01〜30μ
    mで、炭素のドメイン面積率が5〜70%である炭化珪
    素−炭素系複合材料の製造方法。
  2. 【請求項2】 機械要素がその可動する部分を有し、一
    時的または常時接触し、かつ相対的に摺動する摺動部品
    において、少なくともその摺動面が請求項1記載の製造
    方法で得られる炭化珪素−炭素系複合材料により構成さ
    れていることを特徴とする摺動部品。
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